DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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・GW終了。Blue Wednesdayですね


Blue Monday 2

 話を一旦止め、バオとフローラの反応を見る。

 フローラは興味深そうな目付きでカクテルを飲み、バオは納得したような顔付きで頷いていた。

 

 

「あー……そんであんな、爆撃食らったみてぇだったんだな。ダッチの奴も珍しく不機嫌だったぜ」

 

「でもぉ……顔にスカーフでしょ? それでRPGにAKでしょ? 凄いわねぇン、めちゃイメージ通りの中東(ミドル・イースト)テロリストじゃないの!」

 

 

 そう言ってからフローラは、ハッとマクレーンの経歴を思い出す。

 

 

「テロリストと言ったらアナタの専門だったわねッ、そう言えばッ!!」

 

「別に専門って訳じゃねぇが……」

 

「そーれーでッ! ナカトミビルの時みたいに拳銃一本で戦ったの!?」

 

「拳銃一本って言っちゃあ、そうだがなぁ……んふふ」

 

 

 マクレーンは思い出し笑いをしながら、カクテルで唇を湿らせている。

 不気味に思ったバオは、引き気味に尋ねた。

 

 

「変な声あげんじゃねぇ。そっから……どうなったんだ?」

 

 

 舌舐めずりした後、言葉を頭の中で纏めてから再度語り始める。

 

 

 

 

「今思い出しても本当にとんでねぇよ。アフガンのど真ん中みてぇなトコで、『とんでもねぇ奴』にあっちまったんだ」

 

 

 カクテルグラスをテーブルに置く。

 青い酒面が揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場を支配した爆発音により、海と辺りが揺れた。

 

 噴き上がる黒煙と、撒き散らかった破片が宙に舞う。

 

 

 それらの隙間を縫うようにして響くは、断続的な銃声。

 全自動モードで放たれた無数の7.62×39mm弾が、マクレーンに襲いかかる。

 

 

 

 通常の刑事なら相手の躊躇を信じ込んでしまい、易々と撃たれてしまっていた。

 

 だがテロリストらが発砲したその男は、刑事は刑事でも「伝説の刑事」。

 マクレーンは咄嗟の判断で地面に倒れ、銃弾を回避した。

 

 

 

 回避だけではない。

 倒れた時には既に、ベレッタM92Fを構えていた。

 

 

「何しやがんだッ!?」

 

 

 相手がマクレーンの動きに反応するより先に、銃弾を撃ち込む。

 肩と胸、首にそれぞれ着弾し、AKを空へと撃ち続けながら男は倒れた。

 

 

 

 

 

「……おっと」

 

 

 だが一人倒したところで、終わりではない。

 仲間が殺された様を見た別のテロリストらが、マクレーンを危険な敵と判断。

 

 

「ヤバい」

 

 

 三人から一斉に、AK47とAKS-74Uを向けられる。

 

 

 

 

「クソッタ──うあああクソォーーーーッ!?!?」

 

 

 地を四足歩行で駆けながら、すぐ立ち上がって道路を横断するように走る。

 同時にテロリストらは一斉射撃を敢行した。

 

 

「病み上がりなんだぞ俺ぁーーーーッ!?!?」

 

 

 すぐ背後を、横殴りの弾雨(だんう)が降り頻る。

 辺りはラグーン商会に突撃するテロリストらの声と硝煙、そして銃声で埋め尽くされた。

 

 

 その真っ只中をマクレーンは全力疾走。

 

 銃弾に追い立てられるかのように駆けた。向かってしまった先は、ラグーン商会の事務所へ。

 

 

 

 

「うがぁーーッ!!」

 

 

 一階の窓から、屋内へと飛び込み廊下に伏す。

 壁を遮蔽物にし、銃弾から身を守った。

 

 

「……〜〜ッ! だぁーッ、クソゥッ!! なんで俺ぁいつも、こんなのに首突っ込んじまうんだぁッ!? えぇ、オイ!!」

 

 

 起き上がった際に、腕に鋭い痛みが走る。

 割れたガラスで切ってしまったようだ。流れる自分の血を見て、呆れたように首を振った。

 

 

「……ここに来てから怪我ばっかだなぁ……俺が何したってんだよぉ……!」

 

 

 身体を起こし、窓から外の様子を確認する。

 

 

 トラックが追加で、もう一台やって来た。勿論、荷台には武装したテロリストらを満載している。

 道路を横断し、自動小銃を乱射しながら突撃して来るアラビアンたちに、マクレーンは戦慄。

 

 

 その内、放たれた一発の銃弾がマクレーンの頭部を掠める。

 冷や汗をかきながら、また壁の裏に身を潜めた。

 

 

「ちくしょう……! ここはアジアだ……中東じゃねぇぞ……!」

 

 

 天井を見上げ、二階にいるであろう彼らに対してぼやく。

 

 

「……今度は何やらかしたんだよぉ、クソ海賊ども……」

 

 

 間違いなく火種はラグーン商会だろう。

 死と隣り合わせの状況下ではあるが、興味は湧く。

 

 

「今度はビン・ラディンでも攫ったかぁ?」

 

 

 巻き込まれたなら仕方ない、恩でも売っておくかと考え直す。

 銃弾に気をつけながら立ったと同時に、出入り口のドアを蹴破ってテロリストらが侵入して来た。

 

 

「うおヤベッ!?」

 

 

 数名は真っ直ぐと階段を駆け上がり、もう数名はマクレーンのいる方へ。

 彼を視認したと同時に、AKの引き金を引く。

 

 

「クソ……ッ!!」

 

 

 間一髪、壁から飛び出ていた柱に身を隠し、弾を避ける。

 しゃがんだまま上半身だけを出し、やって来るテロリストらへ発砲。

 

 

 相手側も攻撃されたと受け、即座に足を止め、廊下の両端にへばり付き銃弾を回避する。

 その間も小銃を撃ち続けた。

 

 

「あぁ、クソッ! このアホどもがぁ……ッ!!」

 

 

 廊下は銃痕だらけで、硝煙と粉末状の破片のせいで視界も悪い。

 

 蛍光灯が落下し、床の上で破裂した。

 

 銃声とマズルフラッシュが同時に襲いかかり、目と耳を壊してしまいそうだ。

 

 

「ああ良いぜクソッタレェッ!! 弾が切れるまでやってやるぅッ!! ほら撃って来やがれッ!!」

 

 

 向こうが英語を知っているのかは分からないが、とりあえず煽るマクレーン。

 

 

 

 

 だがその煽りは、すぐにやめた。

 硝煙の中からやって来た何かが、彼の真横に落っこちたからだ。

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 ピンの抜かれた、手榴弾が二個。

 廊下の上を三回ほどバウンドし、足元でクルクルと転がる。

 

 

 サーッと血の気が引く。

 次の瞬間には柱を離れ、廊下の奥へと駆けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「──やり過ぎだぁーーーーッ!?!?」

 

 

 閃光と爆音と、背後から襲い来た衝撃波、そして黒煙。

 

 窓は割れ、外に向かってガラス片を撒き散らす。

 

 爆風(ブラスト)に巻き込まれたマクレーンは前のめりに倒れ、廊下の上を転がった。

 

 破壊された壁の破片が、辺りを舞っている。

 

 

 

 廊下は白煙と硝煙で、一寸先も見えない。

 テロリストらは煙を払いつつ、発砲したまま突撃を開始。

 マクレーンが倒れたと思われる場所まで、一気に駆ける。

 

 

 

 

 銃口を向けた。

 煙が晴れる。廊下には誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

「ゲリラ戦は得意じゃなかったか?」

 

 

 横から声が聞こえた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 窓の外に、陽光を浴びたマクレーンが拳銃を構えて立っていた。

 応戦する前に、彼によってありったけの銃弾を撃ち込まれる。

 

 

 一気に数人が倒れ伏す。ベレッタの銃声が止む頃には、廊下にいた連中は全滅していた。

 

 

 

 

「……ふぃー! おまわりさん舐めんじゃねぇ!」

 

 

 銃口から漂う煙を吹いてから、空になった弾倉を捨て、別の弾倉と交換する。

 

 その時、真上で大爆発が起きた。

 瓦礫とガラス片がマクレーンに降り注ぐ。

 

 

「うわちち!?」

 

 

 堪らずマクレーンはまた、窓を飛び越え廊下に戻った。

 直後、一際大きな瓦礫が、さっきまで立っていた場所に落ちる。

 

 

 

 

 

 

「ヤァーーーーッ!!!!」

 

「おわっぷッ!?」

 

 

 隠れていた、生き残りのテロリストがコンバットナイフを構えて襲いかかった。

 完全に不意突かれ、マクレーンはその男に押し倒される。

 

 

「アァーーッ!!」

 

「おおおお……!?」

 

 

 ナイフの刃先が、眼前で止まっていた。

 何とかマクレーンは彼の手を掴み、刺されぬよう抵抗する。

 

 だがその際に、ベレッタを手放していた。

 じわりじわりと顔の方へ降りてくる銀刃を見て、緊張から呼吸が止まる。

 

 

「この……ッ!!」

 

「アァァァアァッ!!!!」

 

「おい待てふざけんな……ッ!!」

 

 

 さすがに万事休すかと思われた。

 

 

 

 刹那、二発の銃声が響き、テロリストは額から血を流して白目を剥く。

 

 

「ッ!? うぉ……!?」

 

 

 ナイフと共に死体を退けて、マクレーンはバッと距離を取る。

 テロリストはどうやら、何者かに撃たれて死んだようだ。

 

 

 

 その何者かは、すぐに現れた。

 

 優雅な靴音を鳴らし、コートを翻しながら近寄る。

 二挺のベレッタM76を構えた、黒服のアジア人だ。

 

 

「おい平気か……って、ウチの人間じゃないな?」

 

「死ぬかと思った……! 助かったぜちくしょー……あ?」

 

 

 不気味なほどにキッチリしたスーツ、襟から垂れる白いスカーフの、妙に洒落めかした男。

 サングラスで目を隠したそのアジア人を見て、マクレーンにはすぐに何者なのかを察せた。

 

 

「……てめぇ、『三合会(トライアド)』の奴か?」

 

「……こりゃ驚いた。ジョン・マクレーンか?」

 

 

 その三合会の男も、マクレーンの顔は知っているようだ。

 

 

「ここで何やっている──おっと」

 

「うぉ!?」

 

 

 話そうとした途端、廊下の向こうから銃声が響いた。

 敵はまだ潜んでいるようだ。発砲に気付いた二人は身を屈め、廊下の両端にそれぞれ移動する。

 

 

 敵に向かって発砲を繰り返す男。

 その間マクレーンは落とした自分の銃と、敵の持っていたAK47を手中に収めていた。

 

 

「お互い事情は後だッ!! 先にあの、腐れテロリストども追っ払うぞぉッ!!」

 

「おいおい、なんて汚ねぇ言葉だ。あんた刑事さんだろ? 規律正しく、真面目で指示に忠実が警官のあるべき姿じゃ──」

 

 

 マクレーンは近付いて来た敵に向かって、AKを乱射し蜂の巣にしてやった。

 

 

 

 

「悪いがそう言うのは、最初の一ヶ月でやめたッ! 俺はな!!」

 

 

 悪い笑みの彼を見た時、三合会の男も喉で笑ってみせた。

 

 

「……こりゃ、良いおまわりさんだ」

 

 

 男は廊下の先と、後方にそれぞれ拳銃を向け、同時に撃ち放つ。

 敵は彼らを挟み撃ちにするべく、どちら側からも迫っていた。

 

 

「応援がすぐに来る! 耐え忍べ!」

 

「すぐっていつだ!?」

 

「まぁ……火曜日までには来るだろ」

 

「どんなジョークだッ!?」

 

 

 迫り来るテロリストを、的確に合わせた照準で以て撃ち抜いて行く。

 互いの弾丸が飛び交う中、その隙間を這いながらマクレーンは撃つ。

 

 

「神のご加護をッ!! クソッタレッ!!」

 

 

 そう叫びながら、一人また一人を撃ち殺して行く。

 

 

 

 

 

 対して三合会の男は二挺拳銃を巧みに操り、まるでダンスをするかのようにくるくると回りながら、敵を一人一人処理。

 

 彼の目は頭部のあちこちにでも付いているのだろうか。

 全く逆の方を見ながら、死界に立っていた者も撃ち抜いていた。

 

 

 

 

 胸に十発ほど受けて死ぬ者。

 

 脳天に一撃食らって死ぬ者。

 

 様々な方法で以て、テロリストらに引導を渡してやる。

 その内三合会の男は、マクレーンに向かって叫ぶ。

 

 

「今だカウボーイッ! 窓から外に出ろッ!!」

 

「なにぃ!? 上の連中はどうすんだッ!?」

 

「とっくに逃げたよ!」

 

「それを先言っとけぇッ!!」

 

 

 敵の数が減り、猛攻を凌いだ。

 猛攻の穴を見定めた男が、マクレーンに指示を飛ばす。

 

 

 弾切れになったAKを捨て、再びベレッタを片手に窓へと駆け出した。

 

 

「クソ……そんなら俺、ここいる意味なかったじゃねぇか……ッ!!」

 

 

 二人が窓を飛び越えたのは、ほぼ同時だった。

 背後からの銃撃に応戦しながら、道路を駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 二人の前に数台の車が停まった。

 中から現れた三合会の構成員らが、テロリストらと応戦する。

 

 

「後はこいつらに任せる。乗るんだカウボーイ」

 

「俺もかぁ!?」

 

「なら部下たちの手伝いをしてくれるのか?」

 

 

 もうテロリストの相手はごめんだ。

 逡巡した末に、事のあらましを聞いてやろうと考えて渋々車に乗り込んだ。

 男も続いて乗り、ドアが閉められたと同時に発車。

 

 

 

 

 

 

 残りのテロリストらが処分されている様をミラーで確認しつつ、マクレーンは息を吐いた。

 次に汗を拭う。その最中、男がマクレーンに話しかけて来た。

 

 

「何があって巻き込まれたんだ? ここまで来たら、黒幕はあんたじゃないのかって疑っちまうよ」

 

「……スピード違反で補導した奴がテロリストだったなんざ、この街じゃ当たり前なのかぁ?」

 

「そっから良く生き延びたモンだ」

 

「折角助けてやろうと思った運び屋どもは、先にケツ巻いてやがったがな……それよりも、だ」

 

 

 

 

 血の滴る腕を押さえ、ぎろりと男を睨む。

 

 

「……どう言うこったぁ、ありゃ? 湾岸戦争(ニンテンドー・ウォー)の真似事がロアナプラのトレンドってか?」

 

 

 彼は、咥えたタバコに火を付けていた。

 膝の上に置かれたベレッタのグリップには、龍のレリーフ。

 

 

「……ふぅー。事務所も吹き飛ぶ、支払いも増える……日本でもゴタゴタ抱えている身だってのに、オーバーワークだなこりゃ」

 

「おい無視すんじゃねぇ。中国マフィアってのは、中東のテロリストらとも抗争してんのか? はっ……そりゃ良い。社会貢献じゃねぇか。このままカダフィ・ジャンジャラーニをやっつけてくれ」

 

「カダフィ・ジャン……フィリピンのか? ははは! 鋭いおまわりさんだ!」

 

「あ?」

 

 

 タバコの煙を吐きながら、彼はにやけ顔で話し始める。

 

 

「あの血気盛んな革命家さん御一行は、『ヒズボラ』だ」

 

「ヒズボラ?」

 

 

 マクレーンも聞いた事がある。

 

 

 

 

 

 ヒズボラとは、レバノンを中心に活動する、イスラム過激派の組織だ。

 

 その名の意味は、「神の党」。

 元はレバノン内戦中の1982年、国内での軍事作戦を敢行したイスラエル軍に対抗するべく、結成された民兵組織だった。

 

 現在は教義に応じない全ての物をレバノンから排除し、更にイスラム共和国のレバノンに建国する事を悲願として活動している。

 

 

 反米的な立場を取っている彼らは、イランとシリアの支援を受け、レバノン国内外の米大使館に爆破テロを実行していた。

 その他でも米仏海兵隊基地への自爆攻撃、CIA支局長の誘拐などの事件は、何度もニュースで見た。

 

 

 

 

 

 

 そんな彼らにとって、こんなタイの僻地は取るに足らない場所だ。

 なぜ現れ、ラグーン商会を襲ったのか。大きな疑問だろう。

 

 

「おいおい……奴ら、レバノンからRPG担いでスっ飛んで来たって訳かぁ? なにしでかしやがった?」

 

「違うな、しでかしたのは向こうだ。俺は紳士らしく、奴らの『落とし物』を届けようとしてやったんだ」

 

 

 マクレーンは鼻で笑う。

 

 

「あいつらは敵って思った奴に屈する真似はしない。奪われたなら、金じゃなく腕で取り返そうとする奴らだ。そんな事も知らずに取り引きしようとしたのか?」

 

「まさかここまでマジになるとはな。寛容なムハンマドなら許してくれたろうに」

 

「それで……その、『落とし物』ってのはなんだ? おたくらの不幸なんざどーでも良いが、訳だけでも聞いておきてぇ」

 

「悪いが、あんたにとって、聞いたら他人事じゃなくなる話題だ」

 

「は?」

 

 

 男はマクレーンの方へ目を向け、指を差す。

 

 

「注意事項だ。俺の話を聞いちまったら、後には引けなくなるぞ。このままウサギの穴の奥底までフォールだ」

 

「いきなり何だぁ?」

 

「無論、俺は聞いてくれる事を期待はしている。だが、自由意志ってのも尊重する。これ以上の関わり合いが嫌なら、そう言ってくれ」

 

「なに?」

 

「そうすりゃ、ちょっと走ったトコにある寂れたビーチで降ろしてやる。あんたは奴らに顔は知られていないから、追われる心配はないだろう。俺たちの事など忘れて、なんでもない日(ベリー・メリー・アンバースデイ)の火曜を過ごせる」

 

 

 嫌に含ませた物言いに、警戒心から眉間に皺を寄せるマクレーン。

 男の方は飄々とした様子で、ただタバコを燻らすだけ。国際的なテロリストに命を狙われていると言うのに、全く危機感がなさそうだ。

 

 

「恩着せがましいが、俺はあんたを助けてやった。借りを返すなら、このまま乗ってくれ。まぁ、そこら辺も考慮してくれよ」

 

 

 この街でこれほどの大物風を吹かせる人間は、二つに一つ。

 何も分かっていない勘違い野郎か、真のイカれか。

 

 

 

 

 目の表情をサングラスで隠した、軽薄な雰囲気の男。

 だが醸し出す雰囲気は、修羅場を幾多も超えた者のソレだ。

 

 

 まさかと思い、マクレーンは彼の名前を言ってやる。

 

 

 

 

「おたくがそうか?……三合会タイ支部のボス……『(チャン) 維新(ウァイサン)』ってェのは……」

 

 

 フロントガラスから射し込んだ陽光が、彼の愛銃を照らす。

 

 二挺のベレッタM76。

 そのグリップにそれぞれ彫られた、龍。

 

 

 龍の腰の辺りには、黒々と「天帝」の字があった。


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