DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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張さんが絡むと、ノーラン監督みたいな台詞劇にしたくなる。
お久しぶりです。


Blue Monday 3

 バオは「おいおいおい」と声を張り上げ、マクレーンの話を遮った。鬱陶しげにブルー・マンデーをちびりちびり啜りながら、バオの言葉を待つ。

 

 

「さすがにテメェ、そりゃ盛ってんだろ? 殺されかけて、それを助けたのが張なんざどう言う脚色だ!」

 

「確かにまぁ、俺ぁ映画が面白けりゃ脚色はアリだと思ってる。実際のソウルオリンピックじゃ転倒して終わりだったが、『クール・ランニング』じゃ選手らにソリ担がせてゴールさせてやってた」

 

「それはカルガリーの方だアホタレ、88(パルパル)は夏だったろが……するってェと、やっぱどっか盛ってやがんなぁ?」

 

 

 口を窄めてすっとぼけたような表情を見せながら、マクレーンはグラスを置く。

 

 

「嘘だと思うんならどうぞご勝手に。事実確認はあの、顔だけベーブ・ルースのスカしたアル・パチーノ気取りに聞きやがれ」

 

「おほほほほッ!!」

 

 

 隣で静聴していたフローラが愉快そうに笑う。酷い言い草で張を表した彼の剛胆さをいたく気に入ったようだ。

 

 

「あらン、失礼! つい!」

 

「構わんよ。ウケ狙いで言ったからなぁ」

 

「でも不思議ねっ! そこらの男が言っても虚勢にしか聞こえないのに、あなたが言ったらすんなり納得しちゃうわ! 刑事さんだからかしら!?」

 

「カッハッハ……思えば『本物の刑事』なんざこの街にいねぇからなぁ。そりゃどうも」

 

 

 置いていたグラスを手に取って掲げ、フローラに感謝を示してやる。一方でバオは相変わらず不機嫌な顔付きだ。

 

 

「この際盛ったか盛ってねぇかはもうどうでも良い。んで、三合会の犬になったワケは? 金かぁ? それとも刑事ってのはマフィアの幹部にも恩を返さなきゃならねぇのか?」

 

 

 じろりとバオを睨み付け、少し間を置いた後に口を開く。

 

 

「一つ言っておくが、俺は三合会の為じゃねぇ。麗しき、偉大なる我が祖国様の為にやった。あーあ、カメラマンかジャーナリストがいりゃあ、大統領自由勲章モノだったのになぁ」

 

「その顔で愛国者ってのはコメディだろが…………しかし三合会とアメリカか……」

 

 

 何か思い当たる節でもあるのか、バオは酒を飲みながら物思いに耽る。

 

 

「どうしちゃったのバオ? アタシのお店で女の子選んでる時の顔してるわよ?」

 

「てめぇそんな、裏ビデオ屋回るオヤジみてぇな顔で選ぶのか」

 

「なワケあるかッ!! フローラも余計な事言うんじゃねぇッ!!」

 

 

 茶化す二人へ怒声を飛ばしてから、彼はぐっとカウンターに伏せ、辺りを憚るような声で話し出す。

 

 

 

 

「前々から噂が立ってんだ。三合会は『中央情報局(CIA)』と取り引きしてんじゃねぇかってな」

 

「えッ!?!? そうなのッ!?!?」

 

「フローラ、俺が何の為に小声で喋ってんのか察してくれ……んで、噂は本当かカウボーイ?」

 

 

 バオとフローラの視線が、マクレーンへ注がれる。酔ってとろんとした、だらしない顔であったが、目だけは何とも真面目だった。彼はグラスを下唇に軽く触れさせてから、ぽつぽつと返答する。

 

 

「まぁ、確かにCIA絡みだった。と言ってもヒズボラとの取り引きが蹴られて、腹いせでCIAと組んだって感じだったがな」

 

「じゃあ元はヒズボラが持っていた『ナニか』なのね?? それはナニ? 武器? ヤク?」

 

「いいや。ほんの数枚の紙束だ」

 

「え?」

 

 

 唖然とするフローラ。対してバオは合点がいったのか、背筋をしゃんと伸ばして何度も頷いている。

 対極的な二人から目を逸らし、マクレーンは虚空をぼんやり眺めながら、再び黙々と語り始めた。

 

 

「くしゃくしゃのパルプ紙に書かれた汚ねェ字が、国をひっくり返す事だって出来る。だから一セントもない紙の為に国家が命を賭ける……それが『諜報』ってもんなんだろな」

 

「ナニかってのは『計画書』だろ」

 

 

 バオの出した答えには、敢えて「正解」と言ってやらなかった。

 

 

 そのままグラスを大きく傾け、残ったカクテルを全て喉奥へと流し込む。事の顛末を語り切る為に、口を湿らせた訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発端は、三合会が捕らえた一人の武器商人だった。

 この街ではヨランダら「暴力教会」以外で、武器の商売を認められていない。故にその商人の男がやっていた行為は「掟破り」であり、あれよあれよで制裁を受けてしまったと言う訳だ。

 

 

 ここまでならば、ロアナプラでは珍しくない話だ。違ったのは、男の本職が「ブルガリアの諜報員」だった点だろう。

 

 

 

 ブルガリアは第二次世界大戦時、ナチス・ドイツと軍事同盟を結んでいた。ホロコーストには反対し、ユダヤ人の保護を行っていた側面こそあるものの、枢軸国側に変わりはない。終戦間際の1944年、連合国側であるソ連の侵攻を受け、以降は同国の「衛星国」として共産主義国家となった。それまで王政を貫いた「ブルガリア王国」の、実質的な終結だ。

 

 更にこの体制がひっくり返ったのが、冷戦終結の1989年。民主化の動きに押された共産党が共産主義を放棄した事により、民主主義へと動き出す事となった。

 

 

 とは言え、東側諸国の後ろ盾を無くしたブルガリアにとって、この選択は茨の道でもあった。

 それまで経済の中心だった東欧市場を失い、国内は恐慌とも言える不況に陥る。2000年までには一定まで回復したものの、何度か金融危機が発生しているほど、一国としては非常に貧しい状態となっていた。

 

 ここまで来れば、過去の政権での栄華を忘れられない者も現れる。表向きは友好的でも裏ではアメリカに対し憎悪を抱く者、転じてアメリカさえいなくなれば全て良くなると信じる者も現れる。

 

 

 ロアナプラに現れたこの男も、そう言った派閥の息がかかった諜報員だ。

「ある物」を「ある組織」にまで運ぶ、その旅の途中だった訳だ。

 

 

 

 

 

 

 車内のラジオは、ワールドニュースチャンネルとなっていた。英語でニュースを読み上げるキャスターの声が、ノイズ混じりにスピーカーから吐き出される。

 

 

『米国時間で昨晩────ザイールの米大使館で爆破──が発生────イスラム過激──による犯行だと見られ────』

 

 

 運転手がラジオを消す。マクレーンは呆然とした様子で、そのラジオから張の方へと視線を移した。

 彼はタバコの煙を吸い込み、溜め息混じりに吐いた。

 

 

「……その諜報員が運んでいた物は、ヒズボラ宛ての文書だ。奴は合衆国(アンクル・サム)が嫌いな卑屈屋とカタブツをお友達にしちまう、闇の親善大使だったって訳だ」

 

「………………」

 

「最初はキチンと奴さんに返してやろうとしたが、あえなく御破算。仕方なく、話が分かるアンクル・サムと取り引きしたってのが全ての始まりだ」

 

 

 マクレーンの表情からは、驚愕と疑念の半分ずつが見て取れる。完全に信用した様子ではないと、張はすぐに察した。

 

 

「構えないでくれハリウッド・スター。俺はあんたが、兎の穴の奥に踏み込む事を決めたからこそ、誠心誠意で教えてやっているんだ。嘘はない」

 

「ハッ……どうだか」

 

 

 張が座っている側の窓からは広い海が見渡せた。先ほどの喧騒と、車内を覆う張り詰めた空気とは相反し、清々しいほどに凪いでいる。

 

 

「信じないも信じるも自由だ。答えは半年以内に、ワールドニュースチャンネルから速報で言い渡される。死者の数を添えてな」

 

「信じる信じないじゃねぇ。解せねぇだけだ」

 

「ここはホイール・オブ・フォーチュンのスタジオじゃない。質問は隠さず答えるぜ」

 

 

 窓を少し開け、その隙間からタバコを捨てた。吹き込んだ風で髪を揺らす張の横顔は、妙に楽しげでもある。その表情が何より、マクレーンにとって不快に思えた。

 

 

「……なんで俺にそれを話す」

 

「あんたが聞きたがったからだろ?」

 

「おとぎ話が大好きなメルヘンギョーザ野郎にも伝わりやすいよう言い換えるか。穴の前でうろついてた犬を、なんで兎が巣穴に招待する?」

 

 

 運転席と助手席にいた構成員二人が殺意に満ちた眼光を飛ばす。助手席の方に関しては懐に手を入れ、拳銃へと指を伸ばしていた。

 さすがにマフィアのボスへ悪態吐く事はまずかったようだ。緊迫した雰囲気の中、マクレーンはただヘラヘラしながら彼らへ手を振るだけ。

 

 

 

 

「んで、そこんトコロどうなんだ? それとも『首を刎ねろ(オフ・ウィズ・ユアヘッド)』ってか?」

 

 

 そう言って股の間に挟んでいたベレッタに手を伸ばす。銃を持たされたままだった事が幸いだった。訪れるかもしれない最悪の事態に備え、身構える。

 

 全てはすぐ隣、たった数センチの距離にいる張の一言に委ねられた。皮肉を言うか、発砲命令を下すか。

 

 

 一呼吸置いた後、張は愉快そうに小さく笑った。

 

 

「ハハハ! さすが、修羅場を越えて来ただけある。俺に対しそんな口を利ける奴はそうそういない……打算があるのか、蛮勇なだけかは別としてな」

 

「試すか?」

 

「ヒズボラで手一杯なんだ、取り引き先にも恨まれたら敵わん。次は事務所に核を落とされるかもな」

 

 

 張は前席の二人に目配せし、臨戦態勢を解くよう促す。二人はおずおずと従い、拳銃から指を離した。

 

 

「……さて」

 

 

 気を取り直し、彼はリラックスした様子で訳を話し始める。

 

 

「あんたにこの話を持ち掛けた理由だが……それは簡単だ。あんたを試したい」

 

「また試されるのか俺は……ここに来てから色んな奴に試される。俺ぁコメディアンじゃねぇ、呼べば来る訳じゃねぇし頼まれれば何でもする訳でもねぇ。そろそろ別の理由が欲しいんだが?」

 

 

 呆れ返るマクレーンを見つめてから、張は喉で笑う。

 

 

「あぁ。あんたはいつも試されている。だがそれは俺やバラライカに、じゃない。この街があんたを試したがっている」

 

「なんだと?」

 

「眩し過ぎるんだ、あんたは。こんな暗黒の、湿り切った街の中ではな」

 

 

 コンクリート製の湾岸が続いていたが、とうとう白けた砂浜が現れる。マクレーンを降ろしてやると言うビーチに近付いているようだ。

 

 

「光と言うのは良い物じゃない。眺め続ければいずれ目を焼き、その者に二度と出られない闇を与える」

 

「………………」

 

「だのに光とやらは無責任で、何とも独善的だ。輝く事しか考えず、それが善行だと信じ込んでいる。誰かの目を焼いているなんざ気付きやしない。面倒で、迷妄で、迷惑だ」

 

 

 戯けるように肩を竦め、首を曲げながら得意げに口角を上げる張。感情が読み取り難い理由は、目を隠すサングラスのせいだろうか。

 

 

「だからこそ、興味がそそられる。輝く事しかできないソレが、パッと明かりを落とす瞬間に」

 

「話しがまどろっこい。手を汚さずに俺を殺してぇって事だろ?」

 

「違う違う、そうじゃない」

 

 

 わざとらしく大袈裟に首を振った。

 

 

「この街にいる連中の中には、『目を焼かれた奴』も大勢いる。あんたがそれを見つけちまっても、果たして今のままでいられるのかって事だ。俺の興味はそこにある」

 

「それは双子の件で証明してやった」

 

 

 サングラスの奥で微かに歪んだ張の瞳を、マクレーンは見逃してしまった。

 

 

「あれは他人によって作られた怪物だ。あんた自身はどうだ?」

 

「あ?」

 

「誰の目も焼いていないと、本当に言えるのか?」

 

 

 思わず押し黙るマクレーン。目付きからは、鋭い動揺が伺える。

 

 

「あんたは試されている。そしていずれ、また試される事になる。これは謂わば、前哨戦に過ぎん」

 

「……どう言う意味だ」

 

「その内分かるさ、伝説の刑事さん」

 

 

 ビーチが見えて来た。順当に行けばマクレーンはここで降ろされ、ベッドへと直行出来る。

 しかしこれまでの張との会話が、彼の心を強く惹きつけていた。不気味ながらも、謎の焦燥感が彼を駆り立てている。

 

 

 張はまたマクレーンに横顔を見せ、座席に深く凭れた。

 

 

 

 

「話を戻そうか……薄々お気付きとは思うが、ヒズボラはアメリカで『テロ』をおっ始めるつもりだ」

 

 

 マクレーンは一瞬だけ、呼吸を止めた。

 砂浜への案内看板が見え始め、車も停車準備の為スピードを落とし始める。

 

 

「奴らの文書と言うのは、その計画書だ。今はラグーン商会の手にあるが、取り返されれば数万人が死に、大統領が入れ替わる」

 

「やっぱりかクソッタレ、あの馬鹿どもが……てめぇ、そんなモンを最初ヒズボラに返そうとしたのかぁ?」

 

「結局はCIAと協力してやったんだ。それに本当なら米軍がやるような戦争を俺たちが請け負っている。水に流してくれ」

 

「図々しい奴め……」

 

 

 憎々しげにマクレーンは膝を叩く。パアンと車内に破裂音が響いた。

 

 

「既に撹乱の為、四つの隊がロアナプラを出発している。ラグーンらが当たりで、そのゴールはバシラン島だ」

 

「バシラン……『アブ・サヤフ』か。ハッハッ……カダフィ・ジャンジャラーニで正解じゃねぇか」

 

 

 アブ・サヤフとはフィリピンで活動するイスラム主義組織で、カダフィ・ジャンジャラーニとは組織の指導者の名前だ。

 バシラン島の事情を思い出したマクレーンは頷き、納得する。

 

 

「確かアブ・サヤフが暴れ出して、フィリピン軍が米軍と一緒に制圧に動いているとか……なるほどなぁ。この街から一番近い上、お高いエージェント様が快適な空の旅でアクセス出来る場所と言えば……って、寸法か?」

 

「詳しいな。ニュースを観て文句を言うだけな、典型的中年の習性による賜物って訳か?」

 

「刑事として当たり前の事をやってんだクソッタレ……一言が多いんだてめぇは……」

 

「プライベートぐらい仕事は忘れた方が良いぜ、刑事さん」

 

 

 にやりと、張は微かに笑った。そこから更に補足を挟む。

 

 

「まぁ、その通りだ。九年前にスービック・ベイから米軍が撤退して以降、フィリピンは米軍の侵出に過敏だ。理由はどうあれ諜報活動をしていると知られれば国際問題だ、マニラを堂々と歩く訳にもいかない……だが、バシランの特殊作戦キャンプならば文句は言われまい。そう言う事だ」

 

 

 

 

 ビーチが良く見渡せる場所まで近付いた。人は全くおらず、ゴミが散乱した汚いビーチだ。海も微かに濁っている。

 車も停まろうとしていた。停車する前にはと、張はやや早口気味で話す。

 

 

「ラグーン商会に託したが、実のところ不安でな。どうでもヒズボラの奴らには、『ジョーカー』が付いているようだ」

 

「ジョーカーだぁ? ゴッサムシティはこの街の方だろが……」

 

「奴らがただの自爆バカならこうはならなかった。兵の統率力は高く、情報の伝達も迅速で、対応も的確だ。バシランが本命ってのも読まれているかもしれん。ラグーンがヘマをしないよう策を練ってはいるが、保険はあるに越した事はない」

 

「オカジマも着いているだろ? なら平気だとは思うがね」

 

 

 マクレーンは張へ一瞥もせず、断ろうとする態度だけを見せ付けた。

 

 

「結局、俺を死地に送って殉職させようってのが魂胆なんだろ? 俺ぁもう関わらねぇ」

 

「失敗すれば、あんたの祖国が傷を引き受ける事になるぞ」

 

「俺の出る幕じゃねぇって言いてぇんだ。俺を助けた事に感謝はするが、てめぇに尽くそうって気にはならねぇ。まぁ、事が落ち着いたらシャンパン辺りなら送ってやる」

 

 

 看板はもう目の鼻の先だ。車のメーターはどんどんと下がり、停車する寸前だった。

 

 

「これはあんたにとっても、悪い話じゃないハズだがな」

 

「悪いかどうかは俺が決めんだ。兎の穴にしてはこれは、臭い過ぎる」

 

「愛国心ってのがないのか?」

 

「三合会は中国にいられねぇから香港に逃げてんだろ? んな奴らが愛国心語っても説得力ねぇぜマヌケ」

 

 

 車が停まろうとする。

 

 

 直前、張は最後の誘い文句を放ってやった。

 

 

 

 

 

 

「あんたの事は話している。あんた、CIAに好かれているんだな? キャンプまで来れば、米国まで送ってやるそうだ」

 

 

 マクレーンの視線が張へ向く。分かりやすいほどの反射行動に、内心でほくそ笑んだ。

 

 

「家族に会えるぞ……あぁ、『元』家族だったな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 停車する。

 そこはビーチではない。ロアナプラ郊外にある、寂れた海岸飛行場だ。

 

 車を降りたマクレーン。念願のロアナプラ脱出を果たしたものの、その表情には翳りがある。そんな彼へ張は、車の中から言葉を投げかけた。

 

 

「エリオット爺さんとやらに、さっき言った事を話せば良い。奴はアメリカ人のあんたなら喜んで乗せてくれるハズだ。金はこっちで受け持つから安心しろ」

 

「………………」

 

「フィリピン軍基地のレーダーの影響で、空路じゃ島の侵入に少し難儀するかもしれん。まぁ、そこはあんたのキャリアとやらに委ねるさ」

 

 

 振り返り、鬱陶しげな眼差しで睨む。視線から注がれる敵意と悔しさを浴び、尚も張は楽しげだ。笑顔を見せ、マクレーンへと更に続ける。

 

 

「愛国者じゃなかろうが、祖国には帰りたいもんだ。俺の話に乗った事、悔しがる理由はないだろ? 一応忠告だが、この飛行場より外に出れば警察に捕まってロアナプラへ強制送還だ」

 

 

 窓を閉め、退散しようとする。声が届かなくなる前に、マクレーンは声を張り上げた。

 

 

「俺を逃がすのはなんでだ!」

 

 

 閉まろうとしていた窓を止め、少し間を置いてから答える。

 

 

「バラライカと俺は違うってこった。あっちはあんたに街で死んで欲しいそうだが、俺はとっとと消えて欲しいと思っていたところなんだ。CIAが味方に付いているなんざ、絶好の機会だろ?」

 

「俺を試しているって話しの本音は!?」

 

「バシランはテロリスト共の巣窟だ。正直なところ、俺たちが雇った『逃がし屋(ゲッタウェイドライバー)』と合流し、明後日までに基地まで行けるかは奇跡に近い。帰還兵となるか戦没者となるか、賭けさせて貰うよ」

 

「……てめぇにとっちゃ、ヒズボラとの戦争もゲームの内ってか」

 

「楽しんだモン勝ちだ。快楽に理屈はいらない。そうだろ?」

 

 

 再び去ろうとする彼へ、マクレーンは最後の質問をした。

 

 

「あと一つ!『泰山府君(たいざんふくん)(それ)我也(われなり)』……どう言う意味だこりゃ!?」

 

「現地で聞け」

 

 

 そう言い残すと、張は車と一緒にロアナプラへと去って行ってしまった。

 残されたマクレーンの背後では、甲高いエンジン音とプロペラ音が響く。近場にある波音さえ掻き消す轟音に、顔を顰める。

 

 

 

 アメリカへ帰れる──家族に会えると言われ、思わず乗ってしまったマクレーン。

 言うのは彼自身、双子との一件以降、もう一度子どもらに会いたいと言う気持ちが強まっていた。そこを突かれたなと、マクレーンは自身の軽率さに呆れ返る。

 

 

 だが、張の真意が気になる事も確かだ。

 どうにもマクレーンを逃がす以外に、まだ狙いがあるようにも思える。

 

 

 

 

「……CIA以外にも、誰かと会わせたいのか?」

 

 

 考えても仕方ないし、乗ってしまった以上、ここからは一本道だ。

 忌々しげに顎を掻きながら、皺の寄った眉間のまま前を向く。

 

 

 

 平和な月曜日である事を願っていたが、結局はこれかと溜め息を吐く。

 重い足取りだが、それでも一歩一歩と進んで行く。

 

 

「最悪な月曜日だ……これは自分の為で、アメリカ国民の為ってか? タイに来てもやる事はやらされるんだなクソッタレ……」

 

 

 もう一言だけボヤいた。

 

 

 

 

 

 

「『公共の味方(パブリック・サーヴァント)』は辛いな」

 

 

 騒音に消されたボヤきを携え、飛行場へと入って行く。

 彼は今、特殊任務に就いている。

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