DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

74 / 80
We Didn't Start the Fire 2

 片手間に懐中電灯で闇を照らし、死に物狂いでマクレーンは森の中を進む。

 木の生い茂った箇所を進んでいるので、車で追っては来れないハズだ。

 

 ロックが繰り返す浅い呼吸を耳元に聞きながら、道なき道をひたすら駆ける。

 

 

「ひぃい〜……どこだよぉここはよぉ〜?……基地はどこだ? どこに出りゃ良い……?」

 

 

 アブ・サヤフが仕掛けているかもしれないブービー・トラップに気を付けながらも、草を掻き分け枝を潜り、小石を蹴飛ばしながら道を行く。

 

 その内に森を出て、荒れた道路に出た。

 何か目印か標識はないか、政府軍の巡回はないかと辺りを見渡す。

 

 

 途端、彼の泥だらけの身体を激しい光が照らす。

 驚き、目元を手で隠しながら、そちらへ注意を向けた。

 

 

「うぉ……だ、誰だぁ……!?」

 

 

 懐中電灯を投げ捨て、即座にトカレフ TT-33を抜く。

 

 その激しい光とは、車のヘッドライトによるもののようだ。

 マクレーンを照らすその車から誰かが降車し、二挺の拳銃を向けて話しかけた。

 

 

 

 

「そいつを起きな、バナナマン。でねぇと皮だけにして捨てちまうぜ」

 

 

 聞き覚えのある声に、マクレーンは目元を覆った手を下げた。

 目映い光は途端に、ハイからロービームに変わる。少し緩んだ光の前には見覚えのあるジープ・チェロキーと、レヴィが立っていた。

 

 

「……おめぇか!? 助かった!」

 

「Oh, Oh, Oh……勘違いすんじゃねぇ、アタシが欲しいのはそのスイートパイだ」

 

「ンなこたぁ言ってる場合じゃねェ! 怪我してんだ!? すぐに手当てが必要なんだぞ!?」

 

「……チッ。ロックベイビー、仕方ねぇ奴だ……とりあえず車に乗せな」

 

 

 面白くなさそうに吐き捨てながら、レヴィは二挺の銃口を下ろす。

 その彼女の後ろ、運転席と後部座席の窓から顔を出すレガーチとシェンホア。

 

 

「よぉっ!? テメェ生きてたのかぁ!?」

 

「良く一人で出られるですね、あそこから。ここから爆発見えてたですだよ」

 

「しかも銃はこっちが没収してたのに、大したモンだぜ全くッ!!」

 

 

 レガーチの方は掛けているサングラスが割れ、顔面に青痣が出来ていた。

 

 

「……おたく、どうしたそりゃ?」

 

「アタシがぶん殴った」

 

 

 横でレヴィが、ベレッタの銃床で殴る仕草をする。

 禁断症状の末にクラクションを押し、危険な状況を作った(みそぎ)のようだ。

 

 

「とにかくとっととズラかるですだよ」

 

「あぁ、分かった分かった……ほれロック、無事に帰れそうだぞぉ」

 

 

 シェンホアに急かされ、早くロックを車に乗せようとした。

 

 

 味方との再会に安堵していたのも束の間、途端に騒ぎ立つ道の先。

 ハッと気付いた頃には遅い。道路の両端より、喧しいスキール音を響かせながら、テロリストたちの4WDが現れた。

 

 

「……クソッ。やっぱ向こうの指揮官とやら、かなり名軍師様だな。テメェの逃げた先見て、この道に出るって読んだみてぇだ」

 

「挟み込まれたぞ!?」

 

「んだけど、三、四……九台か。へっ、奴さんリストラでもしたのか、人手不足みてぇだな」

 

 

 焦りを見せるマクレーンに対し、レヴィは冷静沈着としている。

 ヘッドライトを背に、夜よりも暗い瞳を細め、二挺拳銃をまた持ち上げた。

 

 

「早くソレ、乗せる良いね。今からここ、バトルフィールドなるよ」

 

「……マジか。やんのかよまた……」

 

 

 後部座席のドアを開け、降車したシェンホアと入れ違いにロックを座席に寝かせる。

 

 

「まだ嵐は来るみてぇだ。待ってろよ」

 

 

 そう言い残してマクレーンはドアを閉めると、すぐにレガーチが全てのドアの鍵をかけた。それからチェアを倒して横になり、耳にイヤホンを挿す。

 

 

 

 

「ッたくよぉ……とんだ一日だぜ全く……どうなっても知らねぇぞぉ」

 

 

 悪態吐きながら手元にあったウォークマンで、中に入っているカセットテープを再生させた。

 テープはボブ・ディランのアルバム『血の轍(Blood On The Tracks)』。

 

 

「俺ぁのんびり、嵐が過ぎるのを待っとく……ぜっ!」

 

 

 耳奥へ流れるのは、柔らかいフォークギターと、暖かいベースの音だけ。

 曲名は『嵐からの隠れ場所(Shelter from the Stom)』。

 

 

 

 

'Twas in another lifetime, one of toil and blood

 

 

 イントロが終わり、現れたボブ・ディランの声と合わせて、レガーチは叫ぶように歌い始めた。

 

 

 

 

 

「IT'S SHOooooW TIiiiiME!!!!」

 

 

 始めたのはレヴィの二発。

 ベレッタM92Fとソード・カトラスから9mmパラベラムが発射。

 

 それが敵車両のフロントガラスを破り、運転手の両目を貫いた。

 先頭の一台がクラッシュし、横倒しに道路を滑って止まる。

 

 

 慌てて停車した後続車からぞろぞろと兵士が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 次にシェンホア。彼女はレヴィとは逆の方角に立つ。

 

 

嘻嘻(ふふ)……那我来喽(じゃあ 行くわよ)

 

 

 車から顔を出し、AK47を撃ち放つ兵士が一人。

 飛び込む銃弾の中、一切の驚きも動揺も見せず、据えた目のまま両腕を振るう。

 

 

 

「……飞起来吧(踊ってね)

 

 

 両手の指には、手投げ用の小さなナイフが挟まっていた。

 放たれたそれは小さな銃弾の雨を遡行し、顔を出した兵士の顔面に何本も突き刺さる。

 

 一人、二人……四人ほどが車の窓から零れ落ちた。

 驚いた車列が急遽停車し、またぞろぞろと兵士が飛び降りて突撃を開始。

 

 

 

 

 

 

「来やがれ馬鹿やろどもーーッ!!」

 

 

 マクレーンも負けていられない。

 両側から飛び交う7.62×39mm弾をやり過ごしながら、構えたトカレフで7.62×25mmトカレフ弾を撃ちかます。

 

 シェンホア側、突撃途中の兵士が二人倒れた。

 続け様にトカレフを撃つ。そのまま前方へ進み、手投げナイフを辞めて(ククリ)を片手に握る。

 

 

 

 マクレーンの背後に迫る兵士が二人。横から流れて来た銃弾が、彼らの側頭部に直撃した。

 

 

「女のケツより男の方が良いのか?」

 

 

 レヴィは両腕を精密機械のように動かし、前後左右縦横無尽に撃ちまくる。

 ベレッタとソード・カトラスの銃声が一つ聞こえる度に、誰かが倒れた。

 

 

 

 

 続々と押し寄せる兵士たちの列に、シェンホアは飛び込む。

 身体を地面スレスレにまで下げて銃弾を回避し、蜥蜴のように駆ける。

 

 途中、彼女へ照準を合わせた兵士がいたが、彼はマクレーンが撃ち殺した。

 

 

 颯爽と兵士の股下まで寄った彼女は、ククリで股間から顎下まで斬り上げる。

 斬られた男は引き金を引きながら倒れ、隣にいた仲間たちを道連れに撃ち抜く。

 

 

 回り込んだ兵士がシェンホアに銃口を向けた。

 即座に彼女は旋回し、手前にいた兵士諸共、その首を同時に掻っ切る。

 

 噴き出す鮮血を浴び、涼しげな瞳で微笑んだ。

 

 

 

 

「……中華は楽しんだかぁーーッ!? テメェらの好きなソ連の味を喰らえぇぇーーッ!!」

 

 

 トカレフを撃ち尽くすまで放ち、シェンホアへ注視していた兵士を二人倒す。

 銃弾を回避してマクレーンに近寄った兵士がいたが、即座に持っていたトカレフを投げ付けて視界を奪う。

 

 その隙に斜め掛けしていたウージーに持ち替え、乱射。蜂の巣にしてやった。

 後ろでシェンホアが不快そうにぼやく。

 

 

「失礼するね。中華じゃノーで、私、本省人よ」

 

「本省って中国のどこだーーッ!?」

 

「……もう良いよ」

 

 

 恨みがましくシェンホアは吐き捨てた。

 

 

 

 

 一方でレガーチ。

 

 

Suddenly, I turned around and she was standin' there

With silver bracelets on her wists and flowers in her hair

 

 

 相変わらず寝ながら歌っている。

 目線の先ではガラスを割って、銃弾が飛び交っている。その合間を縫いながら、彼はルームミラーの角度を少しずつ変えた。

 

 

She walked up to me so gracefully and took my crown of thorns

"Come in," she said, "I'll give you shelter from the storm"

 

 

 途端、車内が揺れる。

 

 

 

 

 

 レヴィがジープのボンネットに乗っていた。

 そこから跳躍し、彼女へ合わせていた兵士たちの照準を狂わせる。

 

 

「点で追うからそうなンだよ」

 

 

 間抜けに跳び上がったレヴィを見上げた彼らの顔を、レヴィは容赦なく撃ち抜く。

 銃創から噴き出した血で地面を染めながら、一人一人とバタバタ倒れ伏した。

 

 

 着地したレヴィを、持っていたナイフで斬りかかろうとする兵士が一人。

 だがナイフを振りかぶった時に、彼の胴体を9×19mmパラベラム弾が突っ切り、膝から崩れてしまった。

 

 

 

 

 ちらりと振り返るレヴィの目には、ウージー構えたマクレーンが立っている。

 

「どうだ」と言わんばかりに口角を上げた彼に向かって、右手のソード・カトラスを銃口を向けた。

 舌打ちと共に引き金を引き、砲身から飛び出た銃弾は、マクレーンを掠めて背後に立っていた兵士のひたいを抜く。

 

 

 

 

 シェンホアはククリの持ち手に垂れ下がっていた、紐飾りを引いた。

 それはテープのようにどこまでも伸びた。どうやら麻やポリエチレン製と言った普通の紐ではなく、丈夫なワイヤーのようだ。

 

 

 彼女の見据える先には、残りの兵士たちが一斉に突撃を開始していた。

 

 

「なんじゃそりゃ?」

 

「見てると良いよ」

 

 

 訝しむマクレーンの手前で、シェンホアはククリを投げる。

 投げられたククリの持ち手からは更にワイヤーが伸びて行く。ある程度飛ばした段階で、彼女はワイヤーを引いた。

 

 

 

 真っ直ぐに飛ぶだけだったククリは、兵士たちのど真ん中で軌道が変わる。

 シェンホアがワイヤーを巧みに操作し、それに合わせてククリは縦横無尽に暴れ回った。

 

 

 

 その刃は兵士たちの頭、腕を真っ二つにし、打ち上げ花火のような鮮血を空に舞わせた。

 最後にシェンホアがワイヤーを引くと、ククリはブーメランのようにこちらへ返り、彼女の手の中に収まる。

 

 

 同時に兵士たちはバタバタと倒れた。マクレーンはそれをドン引きした目で見ている。

 

 

「……おたくだけは敵に回したくねぇぜ」

 

「殊勝なる心掛けね」

 

 

 あらかた片付いたシェンホア側と対照的に、レヴィ側からはまだ幾多の銃声が響いている。

 マクレーンは即座にウージーを持ってそちらの方に行く。ジープ横を通った際に、車内からレガーチの下手な歌声が聞こえた。

 

 

I've head newborn babies wailin' like a mournin' dove

And old men with broken teeth stranded without love

 

 

 車の影からレヴィを狙う兵士を、横からマクレーンは不意撃ちで倒す。

 そこでとうとう、ウージーも弾切れだ。

 

 

 

 

「シェンホアーーッ!! そろそろ良いだろぉーーッ!!」

 

 

 彼女は何も言わず、背を向けたまま懐から出した物を、マクレーンの方へ投げ渡す。

 空中を舞うのは、没収していたマクレーンのベレッタM92F。

 

 

 大きく夜空で弧を描き、落ちるようにマクレーンの手の中へ。

 

 受け取ってすぐに彼は振り返り、引き金を引く。

 そこにはトカレフを握っていた兵士が立っていたが、発砲する前にマクレーンに撃ち抜かれてしまった。

 

 

 

 

「俺の方が賢くて早いんだよぉ、ボケェ」

 

 

 決め台詞のすぐ後に横切って来た銃弾を、寸前で屈んで回避する。

 

 

「危ねぇッ!? まだいんのかッ!?」

 

 

 マクレーンが回避した銃弾は、ジープの窓を割って車内へ。

 

 

In a little hilltop village, they gambled for my clothes

I bargained for salvation an' they gave me a lethal dose

 

 

 ルームミラーから垂れ下がっていたドリームキャッチャーの紐を切った。

 落っこちたそれを、レガーチは右手で受け止めた。

 

 

I offered up my innocence and got repaid with scom

"Come in," she said, "I'll give you shelter from the storm"

 

 

 チラリと割れたサングラス越しに、ルームミラーを見やる。

 

 

 

 

Well, I'm livin' in a foreign country, but I'm bound to cross the line

 

 

 腕を交差させ、それぞれの指先にある引き金を引き、二挺拳銃を同時に放つ。

 兵士が二人、脳漿と血を噴き出して倒れた。

 

 

 

Beauty walks a razor's edge, someday I'll make it mine

 

 

 しっかりと構えられたベレッタを持ち、レヴィを横切って前へ前へと進みながらマクレーンは発砲を続ける。

 銃弾を受けた兵士たちが次々と崩れ落ちて行った。

 

 

 

If could only turn back the clock to when God and her were born

 

 

 投げナイフを指に挟むと即座に投げ付け、マクレーンの傍まで迫っていた兵士を殺す。

 一息の内にレヴィの隣まで寄ると、また再びククリを操り、兵士三人を一刀両断に散らせた。

 

 

 

 

"Come in," she said, "I'll give you shelter from the storm"

 

 

 レヴィ、撃つ。

 マクレーン、撃つ。

 シェンホア、斬る。

 

 彼らの挙動が一つ終わるごとに、兵士は薙ぎ倒されて行く。

 どんどんと数を減らして行く。

 

 

 レガーチのイヤホンから、ハーモニカの狂乱とした音が聞こえた頃には、もう敵兵は三人しかいなかった。

 

 

 

「くたばれ」

 

 

 レヴィが一人の心臓を撃ち抜いた。

 

 

 

再見(さよなら)

 

 

 シェンホアが一人の両腕を狩り取った。

 

 

 

「おまわりさんナメんな」

 

 

 そしてマクレーンが最後の一人の頭を発砲した。

 

 

 

 

 

 

 ジープの後ろ、倒れていた兵士がふらふらと上半身を起こした。まだ息があったようだ。

 何とか握れていた拳銃を持ち上げ、引き金を引こうとしている。

 

 

 

 車内のルームミラーに、その様子はバッチリ写っていた。

 イヤホンからハーモニカの音が止み、ギターとベースのアウトロが入る。

 

 演奏のテンポが緩やかになって行く。

 レガーチは合わせてバックギアを入れ、ペダルを踏んだ。

 

 

 ジープは後ろへ兵士目掛けて走り出す。

 負傷で回避もままならず、危機を察して悲鳴をあげるだけ。

 

 

 

 

「あああああああああぁぁーーーーッッ!!!!????」

 

 

 そのままあれよあれよで、バックランプ照るリアフロアーを顔面にぶつけられ、続いてジープの下敷きとなる。

 

 

 すぐさまレガーチはブレーキを踏み、演奏最後のギターの「ぽろん」と言う音と同時に車を停める。

 何事かと振り返るレヴィ、マクレーン、シェンホアの視線の先、リクライニングを上げたレガーチが歯を見せて笑っていた。

 

 

 

 

「これで最後かぁ?」

 

 

 ジープから伸びた血の轍を見て、三人は目配せし合った後に肩を竦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りはすっかり死体と血、そして排莢と硝煙だらけ。

 追手は何とか全滅させたようだが、まだ残りが来る可能性もある。早いところ離れた方が良いだろう。

 

 

「チキショー……とんだ火曜日だぜ今日はよぉ……あ。そういや、書類はどこだ?」

 

「もうとっくに水曜日だぜクソ野郎……てか書類? 知らねーな? 奴らのキャンプなんじゃねぇか?」

 

「あんな? 向こうにあるってんなら、こいつらは俺たちを追って来る必要はねぇだろが」

 

「チッ、嘘が通じねぇ奴は嫌いだ……わぁーったよ。ちゃんとあるっての」

 

「大方、胸ン中にでも入れてンだろが? トゥルーライズでハリー・タスカーの女房がやってたみてぇによぉ」

 

「…………変に鋭い奴は特に嫌いなんだよ」

 

 

 拳銃をホルスターに仕舞いながら、レヴィは恨み言を吐く。

 

 

 その間にシェンホアが助手席に乗り、続いてレヴィは後部座席のロックの隣に乗る。

 マクレーンもレヴィの後ろから乗り込もうとした。しかしステップに足をかけた時、グイッと彼女から肩へ足を突き付けられる。

 

 

「あ?」

 

「悪ィなオッサン、この車は四人乗りなんだ」

 

「なに……!?」

 

 

 そのまま蹴飛ばして、マクレーンを地面に落とす。

 即座にドアを閉め、鍵をかけてやった。

 

 

「イッテェ……! 何しやがんだクソアマぁ!?」

 

「こんままジョニーの凱旋ってのは味気ねぇだろぉ? もうちょいフィリピン旅行を楽しんでな」

 

「何だとテメェ!? おいおいおい乗せろオイッ!?」

 

 

 助手席を叩いてシェンホアに懇願する。

 

 

「本省人を中国人と言ったですよ。助けるノーね」

 

「ンな事ァ言ってる場合じゃねぇだろ!? おいレガーチッ!!」

 

 

 続いてレガーチに、車を出さないよう懇願。

 

 

「テメェに預けたヤクは?」

 

「あ?……あー……使っちまった」

 

「死んじまえ」

 

「オイオイオイ待て待て待てッ!?!?」

 

 

 必死に引き止めようとするマクレーンの努力も虚しく、シェンホアとレヴィの高笑いを残してジープは走り去ってしまった。

 残された彼は地団駄を踏み、罵声を吐く。

 

 

「このッ……クソどもぉーーーーッ!! テメェらロアナプラで会ったら覚えてやがれッ!!」

 

 

 その言葉は届いたのかは分からない。既にジープはアブ・サヤフの軍用車を抜けて、遥か遠くまで行ったからだ。

 すぐにマクレーンは近くにあったその軍用車の一つに飛び乗った。

 

 

「ケッ!……まぁ、車はあるんだ。すぐに追い付いてドタマに一発──」

 

 

 動かした瞬間からハンドルが効かず、大急ぎで車を停める。

 降車してタイヤを確認すると、見事に銃弾が撃ち込まれてパンクしていた。

 

 

 しかもこの一台ではなく、確認してみれば敵車両全てがパンクさせられていた。

 すぐに浮かんだのは、レヴィの顔。

 

 

「クソッタレーーッ!! あの女、俺を蹴落とすの前提だったなぁッ!?」

 

 

 怒りに包まれながらも、すぐにマクレーンは車両に積まれていたスペアのタイヤと、ジャッキとレンチを取り出した。

 

 

「クソッ……朝が来る前に何とかしなきゃ、フィリピンに置いてけぼりだぞ……!」

 

 

 アメリカ帰還の望みが絶たれた今、ここを出る方法はエリオット爺さんしかいない。彼は朝方、また国境を越えてやって来るハズだ。

 止まらない悪態を吐き続け、何とか全てのタイヤを交換する。

 

 遠くから聞こえるヘリコプターの音を聞きながら、溜め息と共に運転席に座った。

 

 

 書類はCIAに届いただろうが、マクレーンにとってはタイムオーバーだ。

 進路を基地のある方から逆を向き、最初に降り立った村の方へと走らせる。

 

 

 

 

「…………ロアナプラに囚われちまったぜ。すっかりな」

 

 

 アクセルを踏み続け、心底から疲れた顔を携えながら、心なしが青くなって行く夜空を見上げてニヒルに笑う。

 頭に浮かぶのはホリーと、子どもたちの顔。

 

 

「……どーだ。アメリカを救ったんだぞぉ、俺ぁ」

 

 

 凱旋は叶わなかったがと悔しがりつつ、何とか自尊心を保とうと努めた。

 マクレーンが運転する車はテールランプの明かりを残し、道路の先を目指して進み続ける。

 朝は段々と近付いて来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのマクレーンの車両を発見した、一台の車。

 運転席にはぎりぎりと歯を食い縛ったイブラハがいた。

 

 

「見つけたぞぉ……ッ!! 良くも同志たちを……ッ!!」

 

「………………」

 

 

 助手席には感心したような笑みを浮かべる、タケナカがいた。

 

 

「……全く。半分以上の兵力が持っていかれた……アブ・サヤフの本部に何言われるかァ、分かったもんじゃない」

 

「奴の首を取れば何とでも言える……あのアメリカ人だけはぁ……ッ!!」

 

「……イブラハ。いっそ見逃すってのは無理か?」

 

 

 ハンドルを殴り、イブラハは怒鳴る。

 

 

「死した同志に報いる為だ……ッ!! 書類も奴が持ってるハズだ……必ず……ッ!!」

 

 

 激昂すると他が見えなくなるのは知っていたが、ここまで盲目になるとはと、タケナカは首を振る。

 それ以上は何も言わず、マクレーンを追うイブラハの好きにさせた。

 

 

 

 

「……終わりにさせよう」

 

 

 タケナカの暗い目に写るのは、海岸沿いにある漁村。

 走行し続け、やっと辿り着いたそのゴースト・ヴィレッジの入り口には、マクレーンが乗り捨てた車があった。

 

 

「……尾行はバレていたかな?」

 

「上等だ。手ずから殺してやる」

 

 

 拳銃を掲げ、イブラハは車から降りる。

 溜め息と、数秒ばかりの黙祷を済ませた後、タケナカもまた拳銃を片手に降車した。




・ヒズボラ編は次回で終了の予定
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。