DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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Cortez the Killer 2

「ロベルタね、よろしく」

 

 

 奇妙な迷い人を引き連れ、マクレーンは夜の港町を歩く。

 表情もなく、どこか規律正しさを感じさせる歩き方も含めて、あまりに冷たい。

 背後のこの女は人形かロボットではないかと思い始めて来る。

 

 

 マクレーンから人に雑談を持ちかける事はあまりない。

 しかし底の知れない彼女に探りを入れようと、そのまま会話を続行した。

 

 

「……この街へは?」

 

「前の雇い主が経費削減で私を解雇してしまいまして。コロンビアの友人を頼って、今朝こちらに」

 

「そりゃ難儀なこった。よりによってこんな街とはね。おたくも災難だったなぁ」

 

「護身術は会得しております。何とかなるかとは思っておりましたが」

 

 

 傘を突いて転ばし、トランクケースで殴って気絶させていた。

 割と状況把握能力が高い。これも使用人としての技能なのだろうか。

 

 

「だとしても銃持ち相手は危ない。拳銃一つは持っていた方が良い、この街に住むんなら」

 

「前向きに検討いたします」

 

「そんで……仕事は見つかりそうか?」

 

「いえ。バーの店主なら街の事を知っていると聞きました。これからイエロー・フラッグに赴き教えていただこうかと思っております」

 

「あの店主にかぁ? 愛想の対義語みてぇな男だぞ? 別の奴が良い」

 

「知人と会う約束もございます」

 

「あぁ、そうかい……」

 

 

 波の音が聞こえ始め、湾岸が近いと気付かされる。

 そろそろイエロー・フラッグが近付いて来た。次の角を曲がれば、店が見えて来る。

 

 

「……変な事聞くかもだがぁ……」

 

「どういたしましたか」

 

「嬢ちゃん……元は軍人とか?」

 

 

 突飛な質問で呆気にでも取られているのか、ロベルタに少しの間が出来た。

 

 

「……どう言う経緯で、そのようにお思いで?」

 

「いや、完全に直感だ。あー、その……歩き方とか、話し方とかが、昔会った軍人たちに似ていたからよぉ」

 

「いえ。多少の護身術は心得ておりますが、クラなんとかとか、シスなんとかなどはとても」

 

「……イスラエル式(クラヴ・マガ)ロシア式(システマ)か?」

 

「よくご存知で」

 

「ロサンゼルス市警の……あー、昔馴染みの友人に聞いた。お前は色々巻き込まれんだから、そろそろ格闘術を習えと……余計なお世話だよなぁ」

 

「ともあれ、兵役に服していたと言う事実はございません」

 

 

 気のせいだったのかと、釈然としない様子でマクレーンは鼻を掻いた。

 

 

「なら良い。変な事を聞いた」

 

 

 犬の小便や嘔吐物でまみれた角を曲がると、真っ直ぐ行った道の向こうにイエロー・フラッグが望められる。

 一週間前は派手に破壊されていたが、今はほぼ元通りだ。

 

 

「ほら、見えて来た。あれがイエロー・フラッグだ」

 

「……こちらも、変な質問をしてよろしいでしょうか」

 

「あ? あぁ、構わないが」

 

「マクレーン様は警察の方ですね?」

 

 

 いきなり図星を突かれたせいで、マクレーンは三秒ほど固まった。

 

 

「銃の撃ち方がしっかりされていましたから」

 

「……おたく銃に縁のない格好してるが、銃の撃ち方なんざ分かるもんか?」

 

「マイアミ・バイスで」

 

「ドラマでか……」

 

「あと、質問が多いところですか」

 

 

 思わずマクレーンは苦々しく笑った。

 刑事の性が前に出過ぎていたかと、頭を掻いて反省する。

 

 

「その通り。俺ぁ刑事だ。訳あって休職中だが」

 

「ご旅行か何かで? どう見ても旅行に向かない場所ですが」

 

 

 まさか赴任して麻薬常習犯にされたなんて言えない。

 旅行と言う事で話を合わせた。

 

 

「いやいや、ホントに旅行だ。誰も行きたがらない所に行くのが好きなんだ」

 

「てっきり、ドラマでやるような潜入調査かと」

 

「マイアミ・バイスの見過ぎだ嬢ちゃん。それに俺ぁ、潜入調査って柄じゃねぇ……変に有名になっちまったしなあ」

 

 

 酔った男二人が、道端で殴り合いの喧嘩をしていた。

 それを傍目に、イエロー・フラッグの前まで到着する。

 

 

 破壊された箇所は修繕していた。

 一週間前は弾痕と爆破跡だらけだったが、何とか二日前に営業再開までこぎつけていた。

 

 ただ材木がオークだったりラワンだったりをツギハギにしており、パッチワークのようだ。クオリティよりもスピードを重視したのだろう。

 相当安い建築屋に頼んだようだ。

 

 

「いいか。バーの中とは言え、ここの客はさっきみてぇな暴漢ばかりだ。犬や猿と相手するように、目は合わせるな」

 

「ありがとうございます。是非、助けていただいた分も含めてお礼をしたいのですが」

 

「いや、いいよ、気にしなさんな。悪漢退治も道案内も、おまわりさんの義務だっての」

 

「なら、一杯だけでも奢らせてください」

 

「……まぁ、それなら良いか。お言葉に甘えるよ。ほら、入った入った」

 

 

 相変わらず読み上げるように淡々とした口調でお礼をする。

 マクレーンは彼女を店内に促し、自身も扉をくぐって入店した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 罵倒、談笑、猥談、喧嘩。

 客たちの様々な話と声がタバコの煙と一緒に混ざる、イエロー・フラッグの店内。

 その中でも些か異様な声音が、パッと発せられた。

 

 

「喉乾いた。僕にも何か飲ませろ」

 

 

 大人たちの酒焼けした濁声に混ざった、子どもらしい高く澄んだ声。

 不機嫌そうな目で睨み付ける齢十二前後の少年は、飲み物をダッチらにねだる。

 

 

「こんのガキ……! オーケーオーケー、口開いてな。今からてめぇのデコに穴開けて、そこから血ぃ流させて飲ませてやる」

 

「落ち着けっての!!」

 

 

 拳銃を抜こうとするレヴィを、ロックは止める。

 呆れた様子でダッチとベニーは、酒を口に含んだ。

 

 

「こっちはここに来てから一滴も飲んでないんだぞ」

 

「それは君が、渡した食べ物とか水も全部投げたからで……」

 

「うるさい! 誰か待っているんだろ? 僕にも待たせている時ぐらい何か出せ! 自分たちだけお酒飲んでるくせに!」

 

 

 もう一度拳銃を抜こうとするレヴィを、ダッチは襟を掴んで彼女を無理やり引き、少年から離して阻止する。

 

 

「レヴィ。ペプシかジンジャーを」

 

「僕はペプシが良い」

 

「……オーケー。レヴィ、ペプシ持ってこい」

 

「あたしがかぁ!?」

 

 

 断固反対の姿勢をとるレヴィを、次はベニーが窘めた。

 

 

「どうやってもソリが合わないんだからさ……ちょっとぐらい離れて頭冷やしなよ」

 

「ガキの使いっ走りなんざごめんだぜボケ」

 

「こっちだって死体処理はごめんだよ。ほら、一杯奢ってあげるから」

 

「クソッ!! 物で釣りやがって……」

 

 

 とは言いつつも、彼女はバオの方へ行った。

 レヴィの後ろ姿を、ロックとダッチは呆れた目で見ている。

 

 

「悪態つきながらも行くのかよ……」

 

「やれやれ。あいつのガキの頃の方が絶対酷かったと思うぜ」

 

「おい。お手洗いはどこにある」

 

 

 また注文を飛ばす少年。

 レヴィに向いていた呆れた目を、今度は彼へ戻す。

 

 

「……今ぁ?」

 

「ずっと行ってないんだ! それとも漏らせなんて言うのか?」

 

「……はぁ。ダッチ、俺が連れてくよ」

 

「しっかりエスコートしてやりな、ロック」

 

 

 ロックは立ち上がり、少年をトイレまでの案内役兼見張りを引き受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、マクレーンとロベルタはカウンター席に着いた。

 店員の態度を一々気にする輩はいない店とは言え、バオは堂々と新聞を読んで暇潰しをしている。

 

 

「おい店主」

 

「あ?……あぁ!? こないだのチンピラ刑事じゃねぇか!」

 

「チンピラ店主の癖にチンピラ刑事はねぇだろよ」

 

「うっせぇ!…………てか、なんだこの姉ちゃん」

 

 

 彼の隣にいるロベルタを見た。

 ヨレヨレの格好をしているマクレーンと、ピシッとしているがあまりに時代錯誤な格好のロベルタとは、ギャップがあり過ぎる。

 現に二人は近くにいる客の注目を浴びている。

 

 

「……真昼の死闘か?」

 

「あれは尼さんとカウボーイだろが。飲みに来たんだ、客だぞ客」

 

「またウダウダ何も知らねぇ女みてぇに聞いてこねぇよなぁ?」

 

「ロアナプラには慣れたつもりだ。俺としてはこの店がサラ地になってくれりゃあ、全ての犯罪を赦してやっても良いぜ」

 

「言ってろバカ刑事」

 

「今日はスコッチだ。この嬢ちゃんが一杯だけ奢ってくれるんだと」

 

「なんだ。刑事かと思ったら乞食に成り下がってたのかぁ?」

 

「うるせぇ敗残兵。もう一度ベトナム行きやがれ」

 

「くたばれクソ野郎が。そんで、そっちの召使いさんは?」

 

 

 傘とトランクケースを傍らに置き、ロベルタも注文する。

 

 

「ミルクを」

 

「おいおいホーガンもどき。このサラの出来損ないは、ここが酒場だって事分かってねぇのか?」

 

「誰がホーガンもどきだ。カルーアミルク用のモンがあるだろ」

 

「酒場だぞ。酒を頼めアホタレ」

 

「スコッチ一杯頼んでんじゃねぇか」

 

「それはてめぇへの奢りだろうが!」

 

「頭のかてぇオヤジめ」

 

「融通利かねぇのはベトナム時代から有名だ。ざまーみやがれ」

 

 

 困った顔でマクレーンはロベルタに話しかけた。

 

 

「おたく、酒は飲めないのか?」

 

「訳あって絶っておりまして」

 

「あー……俺も四年前は禁酒会に参加してたから分かる」

 

「ぜってぇおめぇのソレとコレとは違うだろ」

 

 

 出してやれとマクレーンから目で訴え、折れたバオが大きな溜め息を吐いた後に、グラスに入れたミルクをロベルタに出す。

 ただ相当腹が立っていたのか、あからさまに強く叩きつけ、少し溢れてしまった。

 

 

「言ったろ、愛想の対義語だってな……おい。これはこの前みてぇに拭かねぇからな」

 

「勝手に言ってろボケ。そんで、あんたはスコッチだったな? まぁ、一週間前にクソどもをローストしてくれた件もある。もう追い出しはしねぇよ」

 

「ありがたいね……ああと、その前にトイレ借りるぞ。どこだ?」

 

「まともに感謝した瞬間、図々しい客だなぁオイ。この奥行った所だ」

 

 

 マクレーンは立ち上がり、ロベルタに手だけ動かして待たせてから、トイレへ走る。

 

 

 

「おい。ペプシを一本」

 

 

 入れ違いに現れたレヴィが、バオにペプシを頼んだ。

 ロベルタの肩にドカッと当たったが、当たり前だが謝罪は無し。

 

 

 レヴィを見やる。

 眼鏡越しに一瞬だけその目が、狂暴的な光を鈍らせたかのようにみえた。

 

 

 

 

 

 

 

 レヴィがペプシを注文した頃合いに、ロックと少年はトイレへと向かう。

 

 

「ほら。ここだよ」

 

「……先客がいる」

 

 

 この店のトイレは男女兼用で、三つだけ。

 今は運悪く、その三つともが使用中だった。

 

 

「我慢出来るだろ? 無理なら外でしてくるか?」

 

「バッ……!? 僕がトイレ以外でする訳ないだろ! 下品な奴だな!」

 

「ちょっと言っただけだろ……まさかここまでお坊っちゃんとは」

 

 

 とは言え限界が近いのか、しきりに足をモジモジと動かしている。

 表情にも余裕が消えた。

 

 

「ま、まだなのか?」

 

「もう少し待ちなって。口は達者でも、膀胱のサイズは子どもだったね」

 

「当たり前の事を言うな」

 

「まぁ、我慢するしかないな。それにオシッコの我慢は身体にとって得だよ。我慢する事で膀胱が拡張して、もっと尿が溜め込められるようになるって聞いた事がある」

 

「それだって長い目で見た時のだろ!?」

 

「そうだよ、良く分かってるね。ヤバイなら見栄張らずに、外に行くかい?」

 

「この僕が外でしてたまるか!」

 

 

 ジャー、ガチャリ。

 限界を前にした人間にとって、何よりも待ち望んでいた音が聞こえる。

 

 トイレのドアが開いた瞬間、少年はバッと走り出す。

 

 

「どいてっ!!」

 

「うおっとと!?」

 

 

 先客を押し退け、トイレの鍵を閉めた。

 押し退けられた男は洗った手をピッピッと振って、水切りしている。

 

 

「なんだありゃ? こんな時間にバーに子どもか?」

 

「あぁ……いや、すいません。俺の連れなんで……」

 

 

 振り返り、目が合った瞬間にロックは「あっ!」と声をあげた。

 トイレから出て来た男こそ、マクレーンだったからだ。

 

 

「ま、ま、マクレーンさん!?」

 

「あぁ、オカジマだっけな……あ? 俺おたくに苗字を言ったっけ?」

 

「やっぱり、あのジョン・マクレーンさんなんですね!?」

 

「……あー。その様子じゃ俺の事思い出したんだな」

 

 

 ロックは興奮した様子でマクレーンに握手を求めた。

 少し戸惑ったものの、半乾きの手を差し出す。

 

 

「知ってますよ! ナカトミビルに人質と共に籠城したテロリストを、一人でやっつけた! 俺が十五の時凄い話題でしたし、今でもクリスマスになるとたまに特番組まれますよ!」

 

「『日本企業を救った英雄』とかだろ?」

 

「知ってたんですか?」

 

「この十二年間毎年毎年、絶対に日本のメディアから取材させろって連絡がくる。本国じゃ四年後にメディアも忘れていたがね」

 

 

 ロックは乾いた笑いしか出なかった。

 日本のテレビ業界は、やけにエネルギッシュな事で有名だ。

 

 

「それにダレス空港の事件も知っていますし、一週間のあの時もマクレーンさん──」

 

「あー、悪い。人を待たせてる。また今度で構わないか」

 

「あ……そ、それはホント、失礼しました」

 

「金に余裕が出来たら奢ってやる。そいよか、あの子どもは?」

 

 

 トイレに入った少年の事を示している。

 彼がそれを聞くと、ロックは一気にバツの悪そうな顔つきになった。

 

 

「えーーっと……し、仕事仲間の子です。お守りを引き受けちゃいまして……」

 

「そうか? それは結構だが、あんまりこんなバーへ連れて来ない方がいいぞ?」

 

「すいません、善処します」

 

「んじゃ。俺はこれで」

 

 

 マクレーンがロックに背を向けたと同時に、少年はトイレから出て来た。

 彼が立ち去ろうとした時に、思い出したかのようにロックはマクレーンを引き止める。

 

 

「あぁ、そうだマクレーンさん!」

 

「あ? どした?」

 

「レヴィは覚えてます? あの時、あなたの隣に座っていた、刺青の女……」

 

「あのイカれ女?」

 

「あいつには出来るだけ、会わないように……」

 

 

 ロックの奇妙な忠告に、怪訝な表情で訳を聞く。

 

 

「そりゃなんで?」

 

「俺も良く知らないんですけど……なんか、アメリカの刑事嫌いだのとか」

 

「なんじゃそりゃ。どう言う、アレなんだ?」

 

「とにかくレヴィ、マクレーンさんを毛嫌いしている感じでしたから気をつけて。目も合わさないように!」

 

「犬か猿を相手すんのと同じようにか。分かった分かった」

 

 

 手をプラプラ振って、ロベルタの元へ戻る。

 二人のやり取りを見ていた少年はロックに聞く。

 

 

「今のもお前たちの仲間?」

 

「彼は違うよ……そう言えば君、南米だったね。ジョン・マクレーンは?」

 

「誰?」

 

「君の年代は分からないか……」

 

 

 マクレーンの姿が見えなくなった頃に、二人は席に戻った。

 

 

 

 

 

 

 既にスコッチが置いてある席に着く。

 チラリとロベルタの方を見ると、カウンターいっぱいにミルクが溢れていた。

 バラバラに砕けたグラスの破片もある。

 

 バオの表情も、些か青かった。

 

 

「…………何があったんだおい?」

 

「グラスにヒビが入っていました」

 

「…………そうなのか?」

 

 

 バオに目を合わせると、彼はマクレーンに耳打ちする。

 

 

「てめぇ、なに連れて来やがった……!?」

 

「なんだなんだ? ただのメイドさんだろ」

 

「ただのメイドはなぁ、片手でグラス握り潰さねぇだろ……ッ!?」

 

「は?」

 

 

 バオから真意を聞き出そうとした時だった。

 それは思わぬ来客によって止められる。

 

 

 

 

 

 

 

「女、てめぇに用がある」

 

 

 振り向かないロベルタの代わりに、マクレーンが振り返った。

 そして次には、仰天の表情に変わる。

 

 

 柄の悪い、ラテン系の男たちが十一人。

 そんな男たちが敵意に篭った目でロベルタを睨み付けていたからだ。

 

 マクレーンにはすぐに彼らが何者なのかが理解出来た。

 コロンビア・マフィアの、マニサレラ・カルテルの人間だ。

 

 

「……おいおっさん。怪我したくねぇなら、ちと席を外してくれ」

 

 

 マクレーンに移動を命じる、兄貴分の男。

 だがそれに応じるマクレーンではない。

 こっそりホルスターのベレッタに手をかけながら、話しかける。

 

 

「……待て待て待て。ラテンアメリカンの連中が揃いも揃ってなんだ? 今日はカーニバルか、死者の日(デイ・オブ・ザ・デッド)だったか?」

 

「なんだてめぇ? 席を外せと言ってんだ。てめぇが望むんなら、死者の日(ディア・デ・ムエルトス)をここで執り行ったっていいんだぜ?」

 

 

 兄貴分は拳銃をチラつかせ、威嚇をする。

 間違いなく筋金入りのギャングたちだ。

 この彼らがわざわざ取り囲む理由と、発端であろうロベルタは何をしたのかなど、疑問だらけだ。

 

 

「てめぇらマニサレラ・カルテルか?」

 

「俺らを知ってんのか? なんだ、女の連れだったか?」

 

「あぁ。このスコッチを奢ってもらった」

 

 

 余裕を見せつけるように、微笑みながらスコッチを飲む。

 横目でロベルタを見るが、彼女はまるで気付いていないかのように背後を一瞥もしない。

 カウンター越しに控えているバオは姿勢を低くし、これから起こるかもしれない戦争に備えているようだった。

 

 

「彼女が何をした?」

 

「出しゃばるんじゃねぇぞ。俺は女に話しかけてんだ」

 

「俺ぁお前に話しかけてんだ。人が気持ち良く酒を飲んでるってのに、ロマシング・ストーンに出て来たような奴らに囲まれてんだ。誰だって知りたがるだろ」

 

「てめぇじゃ話にならねぇ。おい、この呑んだくれを夜風に当たらせてやれ」

 

 

 控えていた部下たちが一斉にマクレーンの方へ寄る。

 渋々だが、この人数では難しいと判断した彼は、のっそりと立ち上がった。

 せめてもの反抗をしてやろうと、口にスコッチを含む。

 

 

 

 同時、ロベルタも立ち上がる。

 

 

「お待ちしておりました。マニサレラ・カルテルの皆様」

 

 

 置いていた傘と、トランクケースを手に取る。

 

 

「私めは『ラブレス家』の使用人でございます」

 

 

 突如として名乗り始め、さすがのマクレーンもポカンとしていた。

 

 

「お聞きしたい事が幾つかございます……が、今しがたとても不愉快な出来事がございまして」

 

 

 無表情のまま、男たちを見据える。

 

 

 

 

「失礼ながら少々……いえ。かなり手荒な聞き方をいたしますので、一つ御容赦を」

 

 

 

 

 場が一瞬だけ静まり返る。

 その静寂の後に、ドッと笑いが起きた。

 当たり前だろう。およそ暴力とは縁のなさそうなメイドが、まるで自分が彼らを拷問にかけるかのような物言いをしたからだ。

 

 

「手荒な聞き方だぁ!? ハーッハッハッハ!!」

 

「お笑いだぜ! なぁ、どうするってんだ姉ちゃん!?」

 

 

 兄貴分が下卑た笑い顔を見せながら、ロベルタに話す。

 

 

「ラブレス家ってこたぁ、あの『ガキ』の事かぁ?」

 

「……?」

 

「どうやってロアナプラまで掴めたか知らねぇが、ちと遅かったなぁ? 今頃、フィリピンなんじゃねぇのかあ?」

 

 

 兄貴分が部下に目配せすると、一人がロベルタの前にやって来る。

 

 

「なんならてめぇも売っ払っちまうか? えぇ?」

 

 

 拳銃に手をかけながら、ロベルタへと手を伸ばす。

 

 

 

 マクレーンは我慢の限界だ。

 口に含んでいたスコッチを、男の顔面に吹きかけた。

 

 

「んぐぁ!?」

 

 

 直のアルコールを眼球に喰らい、悶えている隙にとうとうマクレーンは拳銃を抜く。

 男に詰め寄り、顎の下に銃口を突き付け、人質にしてやろうと飛び出した。

 

 

 

 

「良いタイミングでした……が、マクレーン様は席を外すべきでした」

 

 

 ロベルタは傘の先を、男に向ける。

 

 

 

 

「残念ながら、巻き込まざるを得ません」

 

 

 

 

 

 次の瞬間、まるで爆弾でも弾けたかのような銃声が響く。

 その場にいた、誰も彼もが目を疑った。

 

 

 

 

 

 メイドの傘先が、火を噴いたからだ。

 

 

 

 放たれた弾丸が、その男を三メートルも吹き飛ばしたからだ。

 

 

 

 後ろに立っていた他の者をも巻き込んだからだ。

 

 

 

 メイドがマフィアを、ぶっ殺したからだ。

 

 

 

 

 

 

「御容赦、願います」

 

 

 

 

 

 

 マクレーンは見た。

 傘の取っ手部分が上に折れ、銃のストックに様変わりしていた。

 これは傘ではない。

 

 

「SPAS12」

 イタリア製の軍用ショットガン。ポンプもセミオートも自由自在。

 別名、「小型の大砲」。

 放たれた一撃のスラッグ弾。

 

 

 

「…………俺が案内していたのはメイドじゃなくて」

 

 

 

 事態を把握した兄貴分が、拳銃を取り出し部下全員に命ずる。

 

 

 

「かまうこたぁねぇッ!! ()()()()をぶっ殺せッ!!!!」

 

 

 男たちの銃口がロベルタと、ついでに間抜け面のまま立つマクレーンへ向けられた。

 完全、彼女の仲間として認識されたようだ。

 

 

 

 

 

「……ターミネーターって訳か」

 

 

 

 ギャングたちは一斉に、引き金を引く。

 また彼は、戦争に巻き込まれてしまった。

 

 

 

「クソッた──うおおい!?」

 

 

 ロベルタはマクレーンを引き寄せ、自身の前に倒す。

 そのまま彼ごと守るかのように、傘を開いた。

 

 

 さっさとカウンター裏に逃げたかったマクレーン。

 しかし驚く事に、この傘の布が銃弾を全く通さない。

 

 

「なんだぁ!? 防弾繊維(ケブラー)かぁ!?」

 

「マクレーン様」

 

「おおお!? な、なんだぁ!?」

 

 

 引き金を引くと、また特大の銃声が響き、潰れた音と悲鳴が轟く。

 巨大なショットガン。恐ろしいほどの反動が来るハズだが、ロベルタはそれを片手一つで扱っている。

 恐ろしいのは銃よりも、彼女の怪力だろう。

 

 

「マジかよ!? おたく人間か!?」

 

「私のしている事は正当な行為だと、ご説明させていただきます」

 

「待て待て待て!? なんだ、どう言うこったぁ!?」

 

「単刀直入に言いますと、御当主様の御子息様、名前は『ガルシア・ラブレス』。若様は彼らに誘拐されております」

 

「……なに!?」

 

 

 ここで兄貴分が言っていた、ガキだの今頃フィリピンだのの意味が繋がった。

 

 

「彼らから若様を取り戻すのが、私の任務でございます」

 

「………………」

 

「私からあなたへのお願いと言うのは、どうか警察への説明、応援を行わないで欲しい事です」

 

「……おたく俺に、撹乱をしろってか? なあ、その話は信じて良いのか?」

 

「信じる信じない別に、あの方々はマフィア。つまりは警察の敵では?」

 

「そうだがなぁ」

 

「ともあれ、ここで私を逮捕するなり発砲するなりはご自由ですが」

 

 

 引き金を引き、重厚な銃声をまた響かせる。

 その銃声が、マクレーンがロベルタに刃向かった場合のアンサーだ。

 彼女は間違いなく、マクレーンを殺すだろう。

 

 

 

 

 彼は拳銃を取り出した。

 

 

 

「あいにくなぁ、頭脳プレイは苦手でよぉ」

 

 

 ロベルタがキッと彼を睨んだ瞬間、マクレーンは立ち上がって銃を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 撃ったのは、ギャングだ。

 彼は傘から少し身体を出し、マニサレラ・カルテルの構成員へ発砲する。

 

 

「こっちの方が性に合ってんだ! この外道どもめッ!! 子どもを巻き込むってのが何よりも嫌いなんだッ!!」

 

 

 ロベルタは少しだけ驚いたように口を開いた後に、またあの無表情に戻る。

 

 

「……ご協力に感謝いたします。さすがは()()、ジョン・マクレーン警部」

 

「残念だが警部補だッ!……ん? 嬢ちゃん、俺を知ってんのか!?」

 

「全ては神の思し召しやもしれません」

 

「……変に有名になっちまったもんなあ」

 

 

 もう一度傘から身体を出し、敵を撃つマクレーン。

 同時にロベルタも、弾丸を発射した。

 

 

 

 

 

「クロケット刑事とタブス刑事ってか。マイアミ・バイスは最高だぜクソッタレッ!!」

 

 

 

 

 二人の「狂犬」が、ロアナプラで手を組んでしまった瞬間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼らを見る、テーブル下に隠れていた少年。

 怯えた目で、店内の惨状を見る。

 

 誰かが倒れ、誰かが吹き飛び、誰かが血を流す。

 

 

 だがそれよりも、惨状の中心にいた彼女に、愕然とした視線を向け続けていた。

 

 

 

 

 

「……ロベルタだ」

 

 

 ガルシア・ラブレスはフィリピンではなく、テーブルの下にいた。




めちゃくちゃ長くなりました、申し訳ありません
VSはVSでも、ルパンVSコナンぐらいでしたね
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