DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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Cortez the Killer 3

 防弾繊維の傘を盾に、SPASとベレッタが火を噴く。

 的確に間髪なく狙い撃つマクレーンと、遮蔽物さえ粉砕する一撃を放つロベルタによる攻撃は、たった二人でありながらもカルテルの構成員らを押していた。

 

 

「どうしたぁ!? 一発も当たってねぇぞぉ!! パブロ・エスコバルに会わしてやるぜラテンのチンピラどもぉーーッ!!」

 

「クソッタレ……! 調子に乗るなアメ公がぁぁあーッ!!」

 

「うおお撃って来た撃って来た!」

 

 

 挑発に乗って撃つも、その弾は彼女の傘に防がれる。

 身体を出した瞬間を見計らい、マクレーンは頭部を撃ち抜いてやった。

 

 

「麻薬カルテルは個人的に恨みがあんだ。バル・ベルデマフィアだったらもっと派手にぶっ殺してやれたがなぁ」

 

 

 戦闘中のロベルタは寡黙だった。

 

 傘が照門と照星とを大きく分断していると言うのに、命中率はかなり高い。

 使っているスラッグ弾にライフリングが刻まれているのか、真っ直ぐ長い射程を誇る。

 

 彼女のショットガンから銃声が鳴ると、何かがぶっ壊れて誰かが吹っ飛ぶ。

 死のラッパを吹き鳴らし回っているようだ。

 

 

「んで! その、若様ってのに──横から回り込んでんじゃねぇ縮毛野郎ッ!!」

 

 

 カウンターに乗って二人の背後に回ろうとした構成員を撃ち殺す。

 今ので撃ち尽くしたと察したマクレーンは、いそいそとマガジンを交換。

 持っている物では、このマガジンが最後だ。

 

 

「クソッ、弾切れだ……話戻すぞぉ! その、若様……ガルシアだっけか? その子の居場所を探るには!?」

 

 

 彼女も弾切れを迎えたようで、懐から取り出した弾をスルスルと装填する。

 代わりにマクレーンが撃ち、牽制を担当した。

 

 

「全滅させ、生き残りから聞き出します」

 

 

 マクレーンは呆れから、撃ちながらつい笑ってしまった。

 ロベルタは説明を続ける。

 

 

「この格好で彼らの事を聞き回ったのは、印象付けさせる為。そしてここを選んだのは、一番彼らが集まりそうだった為です」

 

「つまりハナから釣る気だった訳か!? イカれてるぜクソッタレ!」

 

「それはマクレーン様にも言えます」

 

「ハハハーッ! なぜか良く言われるぜ!」

 

 

 装填完了。

 再びロベルタは引き金を吹き、銃弾を発射した。

 

 

「この街では、これが一番効率的です。あのような小物集団を、ロシア人は助けるのか──否」

 

 

 一人を吹き飛ばす。

 

 

「イタリア人は──それも否」

 

 

 テーブルをぶっ倒す。

 

 

「警察は──これはマクレーン様に失礼でしょうか」

 

「いや。おおよそ合ってるぜチクショー」

 

「つまり彼らを助ける者は、カルテルしかおりません。他の勢力の心配もせず、彼らだけを吸い出せる極々単純で至極効果的な方法がこれです」

 

 

 銃声の合間を縫って、マクレーンは呟いた。

 

 

「まともじゃねぇよぉ……参戦したの、ちょっと後悔しちったぜ」

 

 

 とは言え向こうも、マクレーンを敵と見なしてしまった。

 スコッチを吹きかけたのが悪かった。ロベルタの射撃開始のお膳立てと捉えられても仕方ない。

 

 今更、手を上げて弁明しても遅い。

 誰にも聞こえないよう、ボソリと呟いた。

 

 

 

 

「……一応、二児の親だぞチクショー。子どもが巻き込まれただのはキレていいぜ、ジョン・マクレーン」

 

 

 今でも悪夢で、「燃え盛る旅客機と、頭だけ残った人形」が出て来る。

 マクレーンは感傷を思考の外に追いやって、目の前に集中した。

 

 

「だが、残念なお知らせだーッ! 俺にはあと五発しか──」

 

 

 また横回りをして来た輩に、三発撃ち込んでやった。

 

 

「──だあクソッ! 訂正、あと二発!」

 

「袖の下に拳銃がございます。『インベル・モデル911』。お渡しいたします」

 

「袖の下だあ!?……うぉっとと!?」

 

 

 彼女が右腕を振ると本当に拳銃が一挺、マガジンが二本、落っこちて来た。

 マガジンも貰ったが、ベレッタに使える9mm弾ではないので代用不可。

 

 

「どうなってんだその服。あいにくだがこりゃ右……いや待て」

 

 

 マクレーンは何かを見つけた。

 カウンターの向かいからショットガンで応戦する、バオの姿だ。

 

 

 良くない事を思い付いたマクレーンは、銃弾の間をすり抜けてカウンターを飛び越え、何とか彼の近くまで寄る。

 

 

「ひぃー怖ぇぇー!」

 

「クソッタレどもがぁーーッ!! 修繕費が無駄になったぞコンチクショーーッ!!」

 

「おいおい敗残兵!!」

 

「誰が敗残兵だ、あぁ!? この野郎がぁッ!! てめぇがあの女を連れて来たからこうなっちまったんだッ!!」

 

「俺が連れて来なくても勝手に来てたってのッ! それより貸せ、それッ!!」

 

 

 バオの愛銃、レミントンM870を強奪する。

 

 

「何しやんだ!? 返せボケッ!! 何で身を守りゃいいんだッ!?」

 

「代わりにこれをやる。ほら、マガジン二本もオマケだ!」

 

「てめぇコレ、M19……インベルかよッ!! ブラジル産のパチモンだろがぁ!?」

 

「実質M1911だ。ベトナムを思い出すかぁ? 釣りはいらねぇ!」

 

「まずてめぇからぶっ殺すぞッ!!」

 

 

 強情にレミントンを取り戻そうとするバオだったが、二人に気付いた構成員がこちらにサブマシンガンを乱射。

 割れた酒瓶が降りかかった事で気を取られ、マクレーンはレミントンを持って逃げる。

 

 

「はいはい、交渉成立」

 

「あ、てめぇ!? くたばれクソポリッ!!」

 

 

 ちゃっかり、カウンター下にあった弾倉箱も貰い受けた。

 弾を確認しながら、ロベルタの足元に舞い戻る。

 

 

「勝手に物々交換に使って悪いな」

 

「お気に召さなかったようですね」

 

「いやぁ、M1911は好きなんだが」

 

 

 ハンドグリップを引き、薬室に薬莢を送る。

 

 

「ありゃ『右利き用』だ。俺ぁ、『左』なんだ」

 

 

 立ち上がり、構成員らに向かって引き金を引く。

 チョークで絞られた銃口より放たれる散弾はあまり広がらずに飛び、集中的に人間一人を破損させる。

 

 マクレーンのレミントンの餌食となった男は、腹部に大きな穴を開けて倒れた。

 

 

「ポンプアクションなら関係ない」

 

「左用もございましたのに。気が回らずに申し訳ありませんわ」

 

「いいやもう、問題はない。しかもこっから本番だ」

 

 

 ロベルタは強度が限界を迎えた防弾繊維の傘を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 構成員らの眼前には、SPAS12構えたメイドと、レミントンM870を構えた刑事が並んでいた。

 

 

 

 

祝祭(フェスティバル)だガイコツどもッ!! 死者なら踊って笑えッ!!」

 

 

 

 

 同時に各々のショットガンを、祝砲のようにぶちかましてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十二人いた部下が、気付けば五人。

 兄貴分はいよいよ顔を青くさせ、いつ破壊されるか分からないテーブルの後ろに隠れながら考えを巡らせていた。

 

 

「クソクソクソォぉッ!! イカれてんのかあいつらッ!?」

 

「言われた通り何とか一人出て行かせて、応援を呼ばせました」

 

「あぁそりゃでかしたが、来るまでに生き残れるのかどうかだッ!!」

 

「身を隠しながら撃てばなんとか──」

 

 

 散弾を左腕に受けて怯んだ隙に、スラッグ弾を腹に受けて一人が吹き飛んで来た。

 無惨な死体を前に、部下もまた顔を青くする。

 

 

「……正直、逃げた方が得策かもしれません」

 

「まぁいい……ガキは既にダッチの奴らが──」

 

 

 途端、部下は何かを見つけ、更に更に顔を青くする。

 青の街(シャウエン)もびっくりな青さだ。

 

 

「……おいマジかよ」

 

「あ? どした!?」

 

「その、アレ……」

 

 

 部下が何かを目撃し、そちらに彼を注目させる。

 

 その方向を見た時に、彼は気でも狂いそうなほどの驚愕と怒りで唇を噛んだ。

 

 

「……なんで…………」

 

 

 

 

 遮蔽物から顔を出す、レヴィとロック。

 先導して逃げようとするダッチとベニー。

 

 そして何より、テーブル下で涙目で頭を抱えるガルシアの姿。

 

 

 

「どうしてオメェぇら、そこにいんだぁぁあッ!?」

 

 

 誘拐した子どもが、運搬を引き受けた業者共々、自分たちと同じ空間にいる。

 

 途端、彼の隣をスラッグ弾が突き抜け、部下が死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、見つかった!」

 

「嘘だろおい……!?」

 

 

 兄貴分に怒鳴られ、とりあえずロックとレヴィは手をヒラヒラとさせる。

 彼らの存在を、マクレーンは確認した。

 

 

「イカれ女にオカジマ? なんだまだいたのか!」

 

「クソッタレがぁぁあッ!!」

 

「うぉっ!?」

 

 

 前方にいた構成員が拳銃を向け、引き金を引く。

 しかし弾切れ。興奮のあまり、残弾確認を怠った。

 

 

「あぁ、マジかッ!?」

 

「ふぃーっ! ヒヤヒヤさせやがって!!」

 

「うあー!?」

 

 

 マクレーンはショットガンを構え、引き金を引く。

 これも弾切れ。暴走のあまり、残弾確認を怠った。

 

 

「……ツイてねぇ」

 

「は、はは! 助かった!」

 

「そりゃ良かったな。ご褒美だッ!!」

 

「グェッ!?」

 

 

 銃身とストックをクルッと持ち替え、バットのように銃床で殴ってやった。

 折れた歯が勢い良く飛び、床に突き刺さる。金歯だ。

 

 

「俺のレミントンだぞッ!?」

 

「おめぇだってどうせ、ベトナム時代やっただろ!」

 

「……まぁ、やったが」

 

 

 バオを黙らせてから、スラッグ弾を撃ち続けるロベルタに中断を言い渡す。

 既に敵は沈黙している。それは彼らの視線が、一点に注がれているからだ。

 

 

「ロベルタ、ストップストップ! 知り合いがいる!! 子どもも巻き込まれてる!!」

 

「馬鹿ッ!? あいつを呼ぶなッ!!」

 

「あ?」

 

 

 レヴィの忠告虚しく、ロベルタは攻撃の手を止め、彼女らの方を向く。

 

 その目は、テーブル下にいた少年にまず向けられた。

 今、この場にいるカルテルのメンバーも、同様だった。

 

 

「……そういやその子、ラテン系か?」

 

「ま、マクレーンさん……! その……!」

 

 

 弁明を図ろうとするロックだが、もう遅い。

 兄貴分が指差し、怒りの形相で罵る。

 

 

「この前金泥棒どもがッ!! フィリピンまで連れてけって言ったよなぁ!?」

 

「……あ?」

 

「バッ!? てめぇッ!! 今それ言うなッ!!」

 

「……なに?」

 

「オーマイ……終わったかもな俺たち」

 

「……おい、おい。じゃあ、ダッチら、お前ら……!?」

 

「あぁ……僕らは生きて出られるんだろうか……」

 

「まさか、この子どもが……!?」

 

 

 マクレーンも少年の方を向く。

 縋るような目つきで怯え、震えるこの少年こそが、「もしや」と全てを理解した。

 

 

 

 

 暫しの静寂が訪れた店内。

 その静寂を破ったのは、ロベルタの愛おしげな声だった。

 

 

「…………若様」

 

 

 震えた声で応えた。

 

 

「ろ……ロベルタ……」

 

 

 ロベルタに気付かれたガルシアは、一歩だけ後退り。

 安心よりも、ずっと自分の側にいたメイドが殺しを厭わない存在だと言う事への恐怖が強い。

 

 

 感情の起伏が全く伺えないロベルタだが、その時ばかりは寂しげな表情になる。

 

 

 マクレーンはそれに気付き、代わりに自分がガルシアを回収しようと近寄った。

 

 

「あぁ、怯えるな! 俺は警察だ!」

 

 

 レミントンを下げ、駆け寄る。

 

 

「け、警察……? でも、白人……」

 

「現地人じゃない」

 

 

 彼の存在を狙う、一人の人物。

 

 

 

 

「休職中の、ニューヨーク市警のおまわりさ──」

 

 

 発砲。

 レヴィが、マクレーンの右肩を撃った。

 

 

「──ぐぉッ!?」

 

 

 肩を撃たれたマクレーンは床に倒れた。

 次に響いた声は、ロックの叫びだ。

 

 

「マクレーンさんッ!? れ、レヴィッ!? お前なにやってんだよッ!?」

 

「勝手に街で正義ヅラかましてる、勘違いアメポリ野郎を分からせてやったんだよ!」

 

 

 そのままレヴィは飛び出し、ガルシアを捕まえコメカミに銃口を突きつける。

 

 

「クソッタレが……二度とニューヨーク市警って掃き溜めの名前を言うんじゃねぇ。次は頭を吹っ飛ばすぞ」

 

「……いきなり、何しやがんだイカれ女ぁ」

 

「うるせぇ、動くんじゃねぇッ!! このガキの、てめぇより皺が多そうな脳を見せつけてやろうか?」

 

 

 ロックが彼女を引き止めようと飛び出す。

 

 

「お前、何もマクレーンさんを撃つ事はないだろ!?」

 

「黙ってろッ!!」

 

「黙れるかッ! それに今やっているのは、火に油だぞ!?」

 

 

 レヴィは彼を無視して、ガルシアを拘束しながらロベルタに銃口を向ける。

 

 

「どう言う事だこの野郎、レヴィッ!?」

 

 

 これ見よがしに姿を現した兄貴分もロベルタに照準を合わせる。

 

 

「………………」

 

 

 ロベルタも黙って、SPASをレヴィの方へと持ち上げた。

 

 

「最悪だクソッタレ……! てめぇら、運び屋(ミュール)かぁ!?」

 

 

 マクレーンは右肩から血を流しつつも、ロベルタの代わりに兄貴分へとベレッタを構えた。残弾は二発なのが心許ないが、構えないよりマシだ。

 

 

 レヴィ、カルテルの男、ロベルタとマクレーン。三竦みが出来上がってしまう。

 

 

「クソが……! 散々やってくれなぁ、ええ? メイドも、オヤジも、ラグーンの奴らもなぁ!!」

 

「あたしはさっさと売り飛ばせって言ったさ。そっちが荷物の明細に下手くそな嘘書いたせいでこうなっちまったんだよ」

 

「若様を、解放してください」

 

「だぁ、イッテぇクソッタレ……! 覚えてやがれよクソ女……!」

 

 

 ロベルタからマクレーンに、レヴィの銃口が、

 

 兄貴分からレヴィに、マクレーンの銃口が、

 

 レヴィから兄貴分に、ロベルタの銃口が、それぞれ動く。

 

 兄貴分だけはそのままだ。

 

 ロックは固唾を飲んで、見届けるしかできない。

 

 

「てめぇら全員、ぶっ殺してやる……! 今、応援が来ている最中だ……!」

 

「ここで固まってたって、どの道デッド・エンドだ。その馬鹿デケェ銃を放って、お月さんに向かって走って行きな」

 

「……ご意向には添いかねます」

 

「血が止まんねぇよクソッタレ……! あぁ、低血圧でボーってしてきた……」

 

 

 マクレーンからガルシアへ、レヴィの銃口が、

 

 兄貴分からレヴィに、ロベルタの銃口が、

 

 レヴィから兄貴分に、マクレーンの銃口が、

 

 ロベルタからマクレーンに、兄貴分の銃口が、また移動した。

 

 

 

 

「ロベルタぁ……!」

 

 

 とうとう、ガルシアが震えた涙声で彼女の名を呼ぶ。

 

 

「──ッッ!!」

 

 

 ロベルタは口を閉じたまま、歯を食い縛った。

 ひとしきり噛んだ後に、彼女は唱えるように、何かを口ずさむ。

 

 

 

 

 

「……Una vendicion por los vivos,(生者の為に施しを、)

 

「……なんだぁ?」

 

una rama de flor por los muertos.(死者の為に花束を。)

 

「……おい。やる気かよ」

 

Con una espada por la justicia,(正義の為に剣を持ち、)

 

「スペイン語か?」

 

un castigo de muerte para los malvados.(悪漢共には死の制裁を。)

 

「やめて……ロベルタ……」

 

Asíllegaremos, en el altar de los santos.(しかして我ら、聖者の列に加わらん。)

 

 

 

 ゆっくりと、ロベルタの銃口が、レヴィの頭部へ持ち上がる。

 彼女はガルシアを避け、撃ち抜くつもりだ。

 

 

 

 

 

「──サンタ・マリアの名に誓い、全ての不義に鉄槌を」

 

 

 

 

 

 最後の一文を読み上げた時、とうとう引き金に力が篭る。

 

 

 途端、兄貴分が何かを思い出したかのように目を見開いた。

 

 

 

 

「……ッ!? てめぇ、さっきの科白……まさか、『猟犬(エル・プロエ・ガサ)──」

 

 

 銃口が兄貴分に向き直り、発砲。

 スラッグ弾が彼の胸を貫き、絶命させた。

 

 

「──ッ!!」

 

 

 レヴィがロベルタを撃とうとする。

 

 だが、早かったのは、マクレーンだ。

 

 

 伸びたその右腕の真ん中を、瞬時に撃ち抜いてやった。

 彼女の手から、拳銃が弾かれる。

 

 

「ウグッ……!?」

 

「これでチャラだ、クソッタレッ!!」

 

「こ、こんの……クソポリがあッ……!!」

 

 

 まだガルシアを掴んだままだが、もう一挺を抜く暇はない。

 再びレヴィへ銃口を向けるロベルタ。

 

 

 

 だがその引き金は、弾切れを迎えて引かれなかった。

 既に全員、タイムオーバーだ。

 

 男が呼んだカルテルの応援が、雇った殺し屋を交えて突撃して来る。

 その数は優々、二十は超えている大軍隊だ。

 銃を乱射し、イエロー・フラッグに突入。

 

 

「長居し過ぎたロベルタッ!! こりゃ、引くしかねぇッ!!」

 

 

 撤退を促すマクレーン。

 ロックらはガルシアを連れて、この騒ぎに乗じ既に逃げていた。

 援軍はロベルタとマクレーンの事しか知らされていない。まんまと逃してしまった。

 

 

 ロベルタはSPASを捨て、両手でスカートの裾を掴む。

 

 

「マクレーン様」

 

「なにやってんだ!? これでショーは終わりってか!?」

 

「今すぐあそこの窓まで走ってください」

 

「な、なんて!?」

 

 

 裾を引いた。

 

 恭しくお辞儀をした。

 

 

 コロコロと、スカートの下から何かが多数転がり落ちる。

 

 

 ピンの抜けた手榴弾が、一つ、二つ、五つ六つ十、十一、十二…………

 

 

 

 

 

 

「……イカれ過ぎだぜ、このメイドさん」

 

「第一幕は終了。御機嫌よう」

 

「逃げろぉぉぉーーーーーッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 マクレーンの叫びと共に、大量の手榴弾を確認した全ての人間が、一目散に逃走。

 

 

 

 

 

 

 

 イエロー・フラッグの正面部が木っ端微塵に吹き飛び、全ての窓ガラスが割れ、地響きを伴う大爆音がロアナプラの夜空に響いた。

 

 外に逃げていたラグーン商会の面々は、車に乗り込んでいる。

 

 

「クソがぁあぁッ!! あのメイドもクソポリも殺すッ!! 特にあのクソポリは絶対に殺すッ!! この穴の百倍は返してやるチクショウッ!!」

 

「もうさすがに死んだろアレは! 今は逃げるのが先決だぜ!!」

 

 

 

 激昂し、興奮するレヴィを押さえ込み、車の中にダッチは放り込む。

 ベニーがエンジンを起動させると、とっとと走り出した。

 

 一人、ロックだけが不安げだ。

 

 

「あの人は生きてそうなもんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊された窓から飛び出す、マクレーンとロベルタ。

 

 信じがたい事だが、二人は生きていた。

 

 ラグーン商会を追って駐車場までひた走るが、既にバックナンバーを見せつけて走り去る頃。

 

 

「クソッタレが、逃したッ!!」

 

「追跡します」

 

 

 ロベルタは隠していたもう一挺のインベル・モデル911と、そう言えば持って来ていたトランクケースを握っていた。

 ボロボロのマクレーンに対し、彼女の姿は全然綺麗だった。

 

 

「車は!?」

 

「持って来てくださいましたわ」

 

 

 二人に気付かず、傍に停車したカルテルの改造車。

 確認するや否や、ロベルタとマクレーンは車に向かって撃ち込み、運転席と助手席、あと後部座席にいた三人を射殺する。

 

 

「よぉしッ!! 俺が運転してやるッ!!」

 

 

 運転席の死体を放り捨て、ハンドルを握る。

 ロベルタはトランクケースを後部座席に置いてから、同様に助手席の死体を降ろして隣に座る。

 

 

「乗ったか!? 早速行くぞぉ!!」

 

 

 アクセルを踏み込み、全速力で走る。

 まだ視界には、ラグーン商会の車が見えていた。

 

 

 だが邪魔をする存在は、まだまだいる。

 

 彼女らに気付いた、カルテルの生き残りが各々、車に乗って追跡を開始。

 

 

 

「カルテルの奴らだ!」

 

「排除しながら捕まえます」

 

「あぁ……冷静になって来ちまった……俺は何をしてんだ……」

 

 

 追って追われての、デッドヒートが巻き起こる。

 ロベルタは今一度、マクレーンに聞く。

 

 

「追い付けますか?」

 

 

 マクレーンはニンマリと笑って、シフトチェンジ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「通勤ラッシュのアッパー・ウェスト・サイドからウォール・ストリートまで、三十分で走り抜いた男だぞ」

 

 

 エンジンが雄叫びをあげ、二人を乗せた車は一気に加速した。


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