ふと目が覚めた。顔に朝日が直撃したのかと言うほどの明るさに無理やり起こされたと言うべきだろうか?
目を開ければそれはアリッサさんが持っている懐中電灯の灯だった。
「あらごめんなさい起こしちゃったかしら」
外を見ればまだ炎が燃え盛っているのかほのかに赤い意外は暗闇のままだった。
「えっと……おはようございます?」
今は何時なのだろうか。腕時計は途中で自然にぶつけてしまったせいで止まってしまっていた。多分あのライオンのようなものと戦った時だろう。
「日はまだ上がってないから寝ていていいわ。私達で見張りをやっておくから」
そうか、そうだった。確か昨日…救助ヘリが墜落していてどうしようもなくて…運転士のおじさんが車両基地の事務所に行ってくるって行った後流石に眠いからってことで寝ていたんだっけ?
「運転士さん戻ってきたんですか?」
私の質問にアリッサさんは首を横に振った。当たり前のように誰かが死に、動く化け物になってしまうことに慣れてしまったのだろうか?私は完全に運転士さんを可愛そうだと同情することしか出来なかった。
どこか壊れている。そう自覚はしても感覚が麻痺して上手く直せない。
すぐ隣で寝ていたレナが寝返りを打った。
こんな状況でも幸せそうな寝顔をしている。私も…守られるだけじゃなくて誰かを……せめてレナを守れるようにならないと。
「……もう少し寝ていなさい。日の出にはまだ時間があるわ」
何かを察したのか急にアリッサさんが手を握った。他人の温もりを感じてささくれ立ち始めていた心が落ち着いた。
「そうします」
もう一度電車の床に体を横にすれば、微睡が襲ってきた。気づけば再び私は眠りに落ちていた。
珍しいことだけれどあんなことがあったのに私は悪夢を見なかった。
レナは途中から悪夢になっていたのかひどい夢だったと起きて早々私に愚痴を言ってきた。
「さて今日の予定だけれど……」
日は完全に上まで登っているのだろうけれど空はどんよりと曇っていた。
外で燃えていた炎は夜明けぐらいには消えてしまったのかもう煙を燻っているだけとなった。
「私は少し思い残す場所があるからそこに行ってみるわ。もしかしたらこの惨劇の真相に迫れるかもしれないわ」
「じゃあ俺はもう少し生存者を探す。ついでだから脱出できそうなところも探してみるさ」
脱出か。こんなことになってから2日も経っていないのにもう救助を待つ人がいなくなるなんてことはないはずだ。多分どこかで誰かが助けを待っているし行政だって避難を進めているはずだ。機能しているかどうかは別として……
「2人はどうする?できればジムについて行った方が懸命だと思うけど」
アリッサさんがそう聞いてきた。確かに普通に考えたらアリッサさんがどこへいくにしても危険が多そうな気がする。まあそれはどこに行っても同じなのだけれどね。
「そうだね。私はできればジムさんについて行きたいけれど、メグはどうする?」
レナはそう言った。だけれど生存者を探すというのはそれもそれでかなり動き回りそう。眠ったとはいえ昨日の疲労は足にまだ残っている。あまり無茶はできそうにない。
「私は……警察署に行こうかと」
確かこの車両基地からなら警察署が近かった筈だ。近いと言っても歩きでは結構かかるのだけれど。アップタウン側から回るにしても結構な距離がある。
「警察署か確かにそこならまだ安全かもしれねえな」
だけれど警察署が機能しているかどうかはわからない。街がこんな状態になってしまっていればそれこそ警察署だって壊滅しているかもしれない。でもあそこには優秀な警官がたくさんいる。もし防衛に成功していればそこから救助ヘリなどで避難できるかもしれない。どれも希望のようなものだけれどそれにすがらないと心が壊れてしまいそうだ。
「そうね…ついていってもいいけど……」
アリッサさんが警察署まで送ろうかと言ったけれどさすがにそこまでしてもらうわけにはいかない。
「いえ、これ以上は迷惑をかけられません。それにここからならまだ歩いて行けます」
これが郊外まで行くとなるとちょっと難しいけれど。
「でも……いいえ。貴女達がそれでいいと言うのならそうしなさい」
私の瞳を見たアリッサさんは少し悩んだものの、反対はしなかった。ジムさんも2人がそれで納得しているのなら構わないと言っていた。一言余計だったけれど。
「レナ、嫌ならジムさん達と一緒に行ってもいいんだよ?」
「平気だよ。それにメグを1人にするとなんだか危なそうだからね」
それはそれでちょっと困るかな?でも私そんなに危ないことはしていないよ。多分……
「気をつけて」
電車を降りると、そこは燃料が燃えた匂いが充満していた。焼け焦げたヘリのそばには、完全に黒くなった人間だったものがたくさん転がっていて、思わず吐き出しそうになった。でも昨日から何も食べていない体は何も吐き出すことはできない。
線路をいくつか渡って柵伝いに進んでいくと、車が突っ込んで柵が一部壊れているとこを見つけた。車によじ登りながら道路に出る。
「相変わらず…ひどいね」
事故車や放置車両、そして炎上したであろう車の燃えかすの合間にフラフラと蠢く化け物。
落下してきた看板や、ベランダの一部が歩道を塞いでいる。まさに地獄だった。
「いこう……」
1日で変わり果ててしまった街を駆け抜けようとレナの手を握った。
そんな中比較的きれいな車が目に止まった。放置車両の多くは壊れたかあるいは暴走車両に突っ込まれて壊れている。だけれどその車は幸運にもそんなことはなかったようだ。
「もしかしてこの車……」
「どうしたのかなメグ」
周囲には誰もいない。
私は思い切って扉に手をかけた。軽い音がして運転席の扉は開かれた。
「開いた……」
幸運にもその車は鍵がかかっていなかった。その上車のキーも差しっぱなしになっている。セルを回せばすぐにでも動かせそうだった。
「メグ運転できるの?」
私がやろうとしていることを察したのかレナ私と一緒に車に入り込んだ。
「運転したことないからできるかどうかは……」
「じゃあ私がやるよ。これでも車は何回か運転したことあるからさ」
「そうなの?意外…」
やっぱりアメリカの人は幼いころから運転を学ぶのだろうか?
「父に教えてもらったんだ」
運転席に滑り込んだレナ。少し上を失礼して助手席側に入り込む。
躊躇無くレナはエンジンのキーを回した。
「かかった!」
少し長くセルが回ったけれどエンジンは無事動いた。だけれどエンジンの音に化け物が引き寄せられ始めている。
シートベルトをした途端体が座席に押し付けられた。
急発進。道路真ん中はまだ比較的道になっている。そこを突っ走っていく。
だけれどすぐに事故車で道が塞がれていた。一度戻るしかない。そう思ったけれどレナは車の速度を落とさない。何を考えて……
「この車なら少しは進める……ちょっと突っ込むからしっかりつかまってね」
レナは少しだけ笑顔だった。いや、笑顔と言うか変なことを考えた悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。
「突っ込むって…まさか!」
車体が段差を乗り越えて跳ね上がった。
「喋ってると舌噛むよ‼︎」
車が半分歩道に乗り上げた。
事故車の近くでこちらにフラフラ歩いてきた化け物を跳ね飛ばし、車は思いっきり事故車のトランクにぶつかった。反動で事故車が吹き飛び、車は無事突破できた。車の破片などが飛び散り、金属同士がひしゃげた音が耳に残る。
「うう…あれで動けなくなったらどうするつもりだったの!」
ここからは見えないだろうけれどフロントはひどいことになっているに違いない。
「大丈夫さ。当てる場所さえ間違えなければね」
そう言う問題じゃ無いわよ!余裕そうに言うレナ。全く心臓に悪いわ。
「今度は車でバリケード?」
警察車両が道を塞ぐように何台か置かれていた。それをみてレナは流石に諦めてくれるかと思ったけれどレナは甘くなかった。
「いけるいける。父と練習でよくやっていたから」
貴女のお父さん一体どんな教育させたのよ‼︎
そう叫ぼうとしたけれどそれより先に車体が建物に擦り付けられ。振動と火花が散った。
サイドミラーが吹き飛び、ドアが歪んだ音がする。
車が通るには小さい隙間。木製の柵を蹴散らし、再び車はパトカーのトランクに突っ込んだ。
激しい音がしてボンネットが歪んだ。
「さすがに今のは不味かったかも……」
「当たり前よ‼︎こんな無茶苦茶して!」
車のエンジンが白煙を上げ始めた。冷却液が漏れたのかラジエーターが壊れたのかガソリンメーターの下にある水温計上昇を表すランプが点滅し始めた。
このまま走るのは無理だろう。
「ともかくどこかに止めよう。これ以上はやばい…」
化物がいないところに無理やり車を止めた。流石に道路の真ん中は邪魔なので端によるのは忘れない。
ドアを開けようとしたら固くて開けづらい。完全にドアまでダメージが入ってしまっていたみたいだ。
「それじゃあいこっ…」
激しい音がして、レナのいる運転席側の窓にあの化け物が飛びついた。窓を叩き割ろうと激しく叩いている。ぶつけた衝撃でヒビの入っていた窓だからあまり保ちそうにない。
「うわあ⁈」
「レナこっち‼︎」
幸いにも助手席側に化け物は来ていなかった。ドアを蹴り開け、混乱しているレナを引っ張るように車から引き出す。車から駆け出した時には、音に敏感なのか化け物達が集まり始めていた。
「ここを離れるわ!」
すぐ近くで入れそうな…それでいて安全そうなところ……
あった‼︎安全かどうかはわからないけれど!
飛び込んだのは食料品店だった。入り口の扉は商品棚が倒れていて普通は入れない。だけれど下の方に少し隙間があったから私達はそこから潜り込むことができた。内部はひどく荒らされていて商品棚がいくつかなぎ倒されものが散乱していた。その中を化け物が数人うろついていた。
「さっさと片付けちゃいますか!」
「レナ、銃の弾って残ってるの?」
動物園での戦いで使い切ったと思っていたのだけれど……
「さっき弾が入った箱を見つけてね。6発だけなんだけど……」
6発…化物の数は三体だからいけなくはないのかな?確かあの化け物は脳を撃てば一撃で完全に死ぬっぽいけれど……
「いけそう?」
「準備するからちょっと待って」
レナが持っていた銃からマガジンを取り出しそこに弾を入れ始めた。
予備のマガジンがないってなんだか辛いね……
準備ができたレナが化け物の背後から頭を狙って発砲。乾いた音が室内に響き、普段よりも煩く聞こえる。
頭を撃ち抜かれた化け物がその場に倒れた。
銃声につられて残り二体の化け物が近づいてきた。
動く的を当てるのは難しいってレナは電車の中でぼやいていた。なら……
棚の影に隠れて化け物を待ち伏せ、鉄の棒で足を払う。フラフラと引きずるようにしか歩けないからか、あっさりとその場に転倒した。
レナがそれの頭を素早く撃ち抜く。
最後の一体は、気づけばレナのすぐ近くまで迫っていた。
「レナ!」
「大丈夫。間合いだよ」
構えた銃から放たれた弾丸が、至近距離から化け物の頭を貫いた。
「お、終わった……?」
「そうだね。ちょっとだけ休憩しようか……」
そういえば昨日から何も食べていない。そう思った瞬間お腹が鳴った。
ここは確か食料品店だったはず。
顔をあげればレナも同じことを考えていたらしい。なんとなく笑ってしまった。
「食べれそうなもの…探そうか」
探し出せたのは缶詰が5つだけだった。そのほかの食品はほとんどがダメになっていたか無くなっていた。特に缶詰などの保存食は軒並み店から消えていた。多分最初の騒動の時に誰かが盗んでいったのだろう。それを咎めようとは思わない。それに少しだけ食料も残っていたから全くないってわけでもないし。
「いただきます」
店にあったプラスチックのスプーンとフォークで缶の中身を摘む。
「おいしいね……」
肉って書いてあるけれど肉と言うよりなんかよくわからないパテの塊だったけれど、それでも今の私にとってはそれなりにおいしいと感じた。
「そうだね…まさか缶詰がここまで美味しいものだったとは」
普段は全然美味しいと思えないものだけれど、なぜか今はすごく美味しく感じた。気づけば缶詰5つはあっさりとなくなっていた。
「なんか喉渇くね」
「保存食は塩気が強いからね」
外に集まっていた化け物も、気づけば何処かに散らばってしまったのか店の前にはいなかった。時計は午後13時を過ぎたところだった。
十分休息も取れた。そろそろここを出よう。
再び通りに出てみれば、雨が降り始めていた。
肌に当たる水滴は9月の冷たい雨。傘が欲しいと思う気持ちはこっちで生活していると薄れてくると言うけれどそんなことは全然なかった。
「雨ひどいね……」
「いつもの雨さ」
レナが手を握って先導。道路はあの化け物が多く、道も状態は良くない。横転していた車が壁となり道を塞いでいた。端っこの歩道側はあの化け物が蠢いている。とっさに裏路地に駆け込んだ。雨で滑りやすくなっている道を、駆け抜けていく。
隣の道路まではあの化け物もいなくて静かだった。だけれど普段手入れをしていないからか違う意味で不気味なところだった。
反対側の道も似たようにズタズタだった。でもこっちはまだ車が少ない。破損した看板やらが転がっているけれど通れない程ではなかった。
それでもあの化け物がいないと言うわけではない。密度は低いけれどそれなりにいた。
呻き声が聞こえ、車にぶつかって止まっていた救急車から化け物が飛び出してきた。
おそらく搬送中に化け物になり果てたのだろう。
そこから先は想像したくない。
これ以上はもう進むのは無理そうだ。再び裏路地に逃げ込んだ。近くに工事現場があったのか、一部の建物は取り壊され、その場所は錆びたトタン板で覆われていた。
背後で何か扉が破壊される金属音が響いた。
振り返れば、沢山の化け物がトタンを破壊して出てきた。その多くが作業用のヘルメットをかぶっていたり作業服を身につけたものだった。数はそこまで多くない。だけれど細い路地であの数は多く見えた。
「やば‼︎囲まれた!」
レナの叫びで意識を前に戻すとそこには複数の化物が、路地に入り込んできていた。さっきの音に反応して入ってきてしまったのだ。横道があったけれどそこにも化け物がいた。通り抜けるのは無理そうだ。完全に囲まれてしまった。逃げ場はない‼︎
細い道のデメリットがここにきて……どうしよう逃げられるところは……
左右は壁。窓もなし……
ヤバイヤバイ‼︎どうにかしないと…えっと…えっと‼︎
「あ‼︎もしかして!」
足下には下水へ続く点検ハッチ。思わず鉄の棒でそれを無理やりこじ開けた。ラクーンシティの下水道は一部が昔のものを流用している関係で点検ハッチに鍵がない所が多い。だから鉄の棒などがあれば簡単に開けることができるのだ。
「こっち!早く入って!」
暗闇がぽっかり口を開けて待ち構えているような恐怖を感じたけれど今すぐ食い殺されると言う怖さに比べたら可愛いものだった。
地下水道につながる点検ハッチを潜り、すぐにハッチをしめた。多分あの化け物は扉などを開けると言うことは出来ないのだろう。足で踏みつける音はしても開けてくることはなかった。知能はやっぱり高くないみたいだ。
「助かった……」
「メグ、ナイス!」
梯子を下っていくと、水の流れる音が煩く響いていた。
「ここって地下水道?」
明かりが全くない地下は完全に真っ暗闇だった。水の流れる音と少しだけ漂ってくる腐敗臭。すぐ近くを水が流れているのだろうか。
「川の水を通す方のね。下水はもっと汚いわ」
離れるわけにもいかないからレナの手を握る。
「うう…そんなところに入らなくてよかったかも」
だんだんと目が慣れてきた。すぐ近くにはやっぱり水路が通っていた。結構深いようで鉄の棒を入れてみたらかなり深くまで入った。
そんな水路の端っこを手探りで進んでいく。どっちに行けばいいのかはわからない。さっき入ったところからどっち向きに流れているのか。完全に運だった。
何度か休憩を挟みつつ奥へ進んでいくと、急にレナが止まった。
「まって、何かいる」
耳を澄ませば、流れる水の音に混ざって微かだけれど何か聞こえた。
人間の成れの果てのような化け物とは違う…甲高い獣の叫び声のようなもの。まるでモンスターだ。
歩く音も何かを引きずるようなものではなく、硬い爪がコンクリに当たる音だ。そんな足音をする生き物なんて犬くらいだろうか?でも犬の歩幅でもない。二足歩行の何かだった。
(なんだろう……)
(わからない。でも近づかないほうがよさそうだ)
闇に目が慣れてきてもあまり遠くを見通せない。懐中電灯があれば良かったけれど無い物ねだりをしても仕方がない。
そうこうしていると腐敗臭が濃くなった。
直ぐ近くに生活排水を流す水路があるのだろう。最悪の匂いだ。そんなところに落ちたくはない。
だけれど運がなかったのかレナがそんな汚水に落ちた。姿は暗闇で見えないけれど泣きそうな声を出していた。私は絶対に落ちないようにしないと……気持ち悪そう……
再び手探りで進む。もう何時間進んだのかわからない。運良く途中で懐中電灯を拾うことができた。多分ここの点検用具の一種だろう。通常のものより強力な作業用のものだった。
それのおかげか多少は周りが見えるようになった。それだけでもありがたい限りあのまま真っ暗闇にいたら気が狂いそうだ。
時々通路の角で何かよくわからない化け物の影がちらつく。
あの足音を立てて動き回る怪物……地上の化け物とはまた違う何かが地下にもいると言うことを嫌でも思い知った。
姿は直接見えていなくてもあれはやばい。
「ここに梯子があるよ」
懐中電灯で照らされたそれは、かなり新しいものだった。つい最近付け替えられたのだろうか。
「そろそろ登ろうか。さすがにいつまでもモグラごっこをするのはつまらないし」
というより何時間も暗闇の中にいると恐怖で感覚がおかしくなりそうだった。
どうしてここまで長々と地下を移動する羽目になったのだろうか?ああそうだ上に出る階段が無かったからか…だとしたら仕方がないかもしれない。
上の点検ハッチも鍵がかかっていないのか鉄の棒を隙間に挟み無理やり動かせば、大きな音を立ててハッチが空いた。
いまの音聞かれたりしていないよね?
レナが先に外にでて周囲の安全確認。すぐに私の手を取って引き揚げてくれた。背後で何か大きな音がした。怖くなって咄嗟にハッチを閉める。暗闇が広がるハッチの中が今さらながらとてつもなく恐ろしいものに見えた。死が渦巻くあの世への入り口のようなそんな感じだ。
「ねえここって……」
見覚えがある。というより私たちがこれから行こうとしていた場所のすぐ近くだった。
「警察署がある通りだね」
放置車両の合間を抜けて進んでいくと、雨に濡れたラクーン警察署の門が見えた。門の外にはまだあの化け物がうろついている。となると警察署は壊滅した?いや、そんな雰囲気は見られない。灯の灯る窓からは走り回る警官の姿が確かに確認できた。
降り注ぐ雨が体から体温を奪っていく。10月になろうという時の雨はとても冷たい。周囲もいつの間に可否が落ちてしまっていて、吹き付ける風が体を凍えさせる。
レナが門の前の化け物に向けて残りの弾をたたき込んだ。
完全に倒せたのかどうかはわからないけれど門の前にいた化け物たちはその場に倒れ伏した。その合間に門まで駆け抜ける。
幸い鍵は付いていない。すぐにそこに入り込み、内側から棒の鍵をかけた。これでひとまずは安心なのかもしれない。だけれど大勢でやってこられたらちょっとやばいかも。
案の定さっきの銃声に反応した化け物と、完全に倒しきれず起き上がる化け物が門を叩き始めた。
ラクーン警察署の玄関は、警察署とは思えない独特の作りをした両開き式の扉だった。普通なら自動ドアとかガラス張りの扉が普通なのだけれど。
アメリカの警察署は初めて来たのだけれどこんな小洒落たところなのだろうか?なんて場違いな感想を抱いてしまう。
「誰か‼︎誰かいませんか?」
蝶番を叩くように呼びかける。ここまで広い建物でちゃんと蝶番だけで聞こえるのかどうか怪しいところだけれど。
だけれど私がドアを叩く音はしっかり伝わっていた。扉の片方が開かれた。
「どうした⁈って子供?」
出てきたのは茶髪の警察官だった。よかった。まだ警察署は生きていた!
「あの‼︎助けてください!」
「あーすまない。助けたい気持ちはあるんだが警察署は避難所としては開放していないんだ。この近くだと時計塔と市役所が避難所として開放されている。すまない、そこに行ってくれ」
告げられた言葉は、無情なものだった。確かに警察署は避難場所としては機能しない場所ではある。多分解放されている可能性は低いと思ってたけれど……あの化け物をくぐり抜けて別のところまで行くのは流石に疲労していて無理だった。
「そんな……」
だけれどここを解放していないとなればもうどうしようもない。レナは絶望した表情で茶髪の警官を見つめていた。彼もものすごくバツの悪い表情で顔を伏せていた。
個人の感情より全体を鑑みての行動だったのだろう。なら彼を非難するのは筋違いだ。諦めよう……
「まあまあ良いじゃないかメイヤー入れてやれよ」
わかりましたと言おうとした時、別の警官が合間に割り込んできた。茶髪の警官より少しだけ背の高いお兄さんのような感じのする警官だった。
「でも入れるなって言われただろ?どこに行ったのかわからねえバカ所長の命令だけどよ」
所長って確か警察署のトップだよね?まさか行方不明?まさかそんなこと……大丈夫、多分大丈夫だ。指揮系統はまだしっかりしているみたいだし。
「まだ子供だろ?それにお前だって本当は保護したいんだろ」
保護したいかどうかではなく放っておけないと言ったところだろう。多分この場の全員はそう感じた筈だ。
「あー仕方がねえ。お嬢ちゃん早く入りな」
少し悩んだ挙句メイヤーと呼ばれた警官が扉を大きく開けた。レナの顔が輝いた。多分私も輝いていたはずだろう。そうでなければ、多分私の心はどこか壊れてしまっているはずだ。
「あ、ありがとうございます‼︎」
中に入れば完全にそこが警察署なのか疑いたくなるようなエントランスだった。不思議そうにしていた私を見かねたのかレナが教えてくれた。
警察署は元々美術館だったものを改装して使っているものなのだとか。だからこんな警察署らしくない内装と外装なのか。
「取り敢えず案内するからついてきてくれ」
元美術館を改装して使用している警察署のエントランスは、そこが警察署だという事を感じさせない独特な作りだった。
だけれど出会う人はみんな警官。それがこの場所を警察署だと教えていた。
異質だったのはショットガンや短機関銃などを持った警官が行き交っていたことだ。まるで防衛前線のようなピリピリとした雰囲気だ。
所々で作戦室や情報収集室と書かれた紙が扉に貼り付けられていた。
やっぱり街全体があんな状態になっているからか、警察署はものすごい喧騒だった。
机や木材などのバリケードに使えそうなものが集められていたり、何故か通路の端っこに武器弾薬が積み上げられてた。
そんなところを通過しながら案内されたのは建物二階の一角だった。途中でメイヤーさんから渡された地図によればそこは西側の物置部屋になっているところだった。
美術館だった頃の名残か、壁や天井の装飾が独特だった。
「取り敢えず物置だが…ここくらいしかまともに部屋として残ってないんだすまない」
元々避難所として開放していなかったのだから仕方がない。それに安全なところでしかも雨風凌げるのならむしろありがたい。
「無理を言っているのはこっちなんです。むしろ部屋が与えられただけでもありがたいですよ」
メイヤーさんはそうか。悪いなと一言呟いて、仕事に戻ると部屋を後にした。
「とりあえずそこに寝袋がある。寝るときはそれを使ってくれ。それと、これ良かったら飲んでくれ」
だけれどすぐに色々伝え忘れていたのに気づいたのかまた戻ってきた。
二本の水のペットボトルは近くを通った別の警官からもらったものなのだろう。
「あ、ありがとうございます!」
そういえば昨日からなんにも飲んでいなかった。その事実に気づいた瞬間喉が一気に乾いてきた。必死すぎて忘れていたのだろう。喉を水で潤していくと、安堵感が浮かれてしまったのか一気に睡魔が襲ってきた。
「すまんなこんな埃っぽい部屋で。何かあったら婦警に尋ねてくれ。俺たちよりかはフレンドリーで話しかけやすいからな」
そう言って彼は警官達の喧騒の中に戻っていった。
「……眠いね」
「これが寝袋か……メグは寝ていていいよ。私は婦警さんを探してくる」
一緒に寝ようと言おうとしたけれど、その気力もいつの間にか消えてしまっていた。気づけば私は寝落ちをしてしまっていたのだ。
あきらかにやばいであろう下水を腰まで浸かりながら歩くラクーンの人達って頭おかしい