目が覚めれば、私は何かを抱きしめていた。
意識がはっきりしてくれば、それが横で寝ていたレナだと言うことに気がついた。
警察署で特別に保護してもらった後どうやら私は安心からか寝てしまっていたみたいだ。
時計がなく窓もない部屋なので今が昼なのか夜なのかすらわからない。
「おはようメグミ」
寝袋から体を出して動いていると、つられてレナが起きた。まだ寝ぼけているのか目は閉じたまま、体をふらふらさせていた。
「おはよ……」
せめて顔とかくらいは洗いたいのだけれど警察署にそんな設備あるだろうか?あったとしてそれが機能する保証は?そこまで疑問に思ってようやくその思考ができていると言う事実に驚いた。
地獄から解放された。仮初でしかないけれどそれは私たちに相当な負担軽減をしてくれたらしい。
「ご飯と体を洗えないか聞いてみようか」
「そう…だね」
そっと扉を開けて外を確認する。
そこは慌ただしく往来する警官たちがいた。昨日婦警さんに色々聞いてくれって言っていたよね…婦警さんどこにいるのかな?
ここは警察署なのだしそれなりに人も多い。
ただ警官さん達の表情にも不安と疲労が垣間見えた。どことなくみんなそれを表に出すまいとしているようだったけれど子供は敏感ゆえにその姿のなんとかわいそうなものかと同情してしまった。
「あらおはよう。貴女達ご飯食べた?」
ようやく婦警さんに会うことができた。丁度差し入れなのか幾つものサンドウィッチを持っていた。どことなく硝煙の匂いがするのはきっとその腰に収まっている拳銃からしているものなのだろう。
「食べてないです」
「そう、ならちょうどよかったわ。配給のご飯よ。食べて」
そう言って婦警さんは持っていたサンドウィッチを渡してくれた。何日かぶりのまともな食事に思わず涎が出てしまう。
「あ、ありがとうございます」
「これくらいしか出せなくてごめんなさいね」
今になって思えば目を輝かせていた私たちがどことなく悲壮に写っていたのだろう。まあどちらにしても私達には何日かぶりのご飯だった。
「いえ‼︎気にしないでください!」
ついでだったので聞いてみることにした。こういうのは男性に聞くよりも女性の方が安心して話すことができるから。
「ところでシャワーって浴びれたりします?」
特にレナは下水道でひどい目にあっている。いくら服を変えたといってもシャワーで体を洗っておかないと感染症などの危険性も否定できない。
「シャワー?ああ、仮眠室の隣にあるわよ」
そう言って婦警さんは警察署の見取り図のコピーを渡してくれた。仮眠室は一階の東側にあるようだった。まだ水やお湯も出すことができるらしい。
「使わせてもらっても良いですか?」
そう聞いたのは1番シャワーを浴びたがっているレナだった。
「そうね……多分大丈夫だと思うわよ。近くで休んでいる人に一声かけて頂戴」
婦警さんは再び食料を配りに歩いていった。
こんな状況でも、いやこんな状況だからこそみんな自分のやるべきことをやっているのだろう。逃げ回っている私たちと違って……
少なくとも自分の身を守る程度の力がないといけない。あまり扱いたくはないけれど銃の使い方教えてもらおう。
シャワー室の近くにいた人にシャワーを借りると伝えたら、快く通してくれた。多分私達相当臭っていたのだろう。下水道にいたのだから仕方がない。
確かにシャワーはしっかりと暖かいお湯を出した。
どうやらガスと水道は生きているようだ。インフラが止まってしまったらそれこそ大変な事態だろう。
暖かいお湯が流れていく下水溝から一瞬だけ叫び声のようなものが聞こえた気がした。
1人でシャワーを浴びているのが怖くなってすぐに体を洗いその場を飛び出した。地下に何かいる。そんな妄想のような恐怖がいつまでも私にまとわりついていた。
警察署の中が今どうなっているのかを知りたくて邪魔にならないように色々と見て回っていると、不意に警察署の奥が騒がしくなった。
何事なのだろうと騒がしくなっている方向へ行こうとして、角を曲がって、息を切らした警官が飛び込んできた。
「大変だ‼︎西側からゾンビ供が‼︎武器弾薬を持ってすぐ向かってくれ!」
その声に耳を疑った。あの化け物が警察署に入ってきた?だけれど警察官は武器だって持っている。数が多くても多分大丈夫なのではないだろうか。そんな希望が一瞬だけ頭に過ったものの、周りの警官達の慌てようからそれはあっさりと裏切られた。
「ど、どうしよう……」
どうすればいいのかわからない。逃げるべきか?でもどこへ?ここ以外で安全な場所なんてあるのだろうか?
私の手を掴んだレナが二階へ行こうと提案した。確かに二階の方が多少は安全かもしれない。
「レナとメグミ?無事だったのか!」
急に私たちの名前を誰かが叫んだ。怒号の中こえのした方へ振り向くと、そこには動物園で私達と行動を共にした警官が立っていた。
「あ!ケビンさん!」
無事だったんだ。見知った人と再会して一瞬安心。向こうも私たちが無事なのが分かってほっとしているようだった。
ただすぐにこちらに駆け寄ってきて彼は言った。
「ここは危ない!すぐに避難しさない」
「避難するって……」
「なるべく二階が良い。ここに避難しているってことは部屋とか割り当てられなかったか?」
「えっと、二階の物置みたいな部屋に」
「ならそこにいなさい。大丈夫さ。警官を信じろ」
おそらく彼は人を安心させることに長けているのだろう。
少し話しただけなのに、この状況でも多少は安心してしまう自分がいた。
ケビンさんに背中を押されて階段を駆け上がる。
二階でもバリケードの構築のためかソファのような重たいものも下に運ぼうと警官達が駆け回っていた。その合間をすり抜けて部屋に転がり込んだ。
少なくともこれで私たちは安全…なのかもしれない。だけれど部屋の外で戦っている警官達はどうなるのだろう?
ここまできてしまってやっぱり不安が心に積もっていく。やっぱり今からでも何か手伝った方が良いのだろうか?ドアに手をかけながら悩む。
「やっぱり放って置けない!」
どうしても一歩を踏み出せない私を押し除けてレナが扉を開けた。
「あ、レナ!」
廊下に出たところで、さっき食事をくれた婦警さんと出会した。彼女は何枚もの木の板を持っていた。多分バリケードの構築材なのだろう。
「貴女達⁈危ないから部屋に隠れていなさい!」
「私達も手伝います!」
「バリケードですよね!どこに作るんですか?」
バリケードくらいなら私達だって作れる。
「……わかったわ。東側一階の窓と扉を塞ぐからついてきて」
最初は私達の申し出を断ろうかとしていたようだったけれど結局は私達も手伝わせる事にしたようだ。それほどまでに人手が足りないのだろうか?だとしたら相当な修羅場だろう。
「わかりました!」
「やってほしいのは東側一階の窓ガラスを木板で塞いでほしいの。奴らが入ってこないようにするためにね」
東側、私達がいるところの下ということね。なるほど確かにこっち側からも入ってこられたらどうしようもない。
「わ、わかりました!」
一階に降りる階段で婦警さんから工具を渡された。
「トンカチと釘よ。窓枠に装飾があるかもしれないけれど気にしないで打ちつけちゃって」
美術館時代の洒落た装飾などこの場合ただの飾りでしかない。美術的に価値があるとか何とか言われそうだけれど生憎私はそっちの感性は疎い。
「後、警察署内には対暴徒用の催涙ガス噴射装置を置いてあるから無闇に動いちゃダメよ私についてきて」
そう言って婦警さんはあえて廊下ではなく部屋側を通過したりして目的場所まで移動した。
見れば部屋の端っこや廊下の隅にガスを吹き出す装置が置かれていた。あれ効果あるのだろうか?
いくつかの窓に木の板を打ち付けていると、あらかた終わったわと声がした。
婦警さんのところに戻ってみれば、再び木材などの道具を持って移動しようとしていた。
「西側にもバリケードを作るわ。侵入をこれ以上許すわけにはいかないから」
気づけばあの喧騒や怒号もいつのまにか聞こえなくなっていた。どうやら西側はどうにかなったらしい。どれほどの犠牲が出たのかはわからない。だけれど安全は確保されたのだろう。
棚やソファーで通路は塞がれ、警察署の中は迷路のような状態になっていた。
西側に行く途中担架が何回か通過した。レナはそれをみて十字架を切っていた。それにならって私も十字架を切る。
いくつかは白い布がかぶされていて、私はそれをみないようにしていた。
だけれど目の前で担架に乗せられる人だったものを見た瞬間、その場に崩れ落ちた。
それは昨日私たちを案内してくれたメイヤーさんだったのだ。
少しの合間とはいえど話はした人だ。
知らない人が死ぬのとは訳が違う。
ショックを隠せないまま、婦警さんの言う通りバリケードの設置をしたり突破された窓を板で塞いだりしていたら、いつの間にか外は暗くなっていた。
所内の時計ももう7時だった。
レナは、リタ婦警さんと何かを話していた。そろそろショックもなくなってきたのだろうか何だろうかとその時何を考えていたのかはわからない。だけれどどうしてか私はフラフラと警察署を散策していた。
あてもなく歩いていると、無線室と書かれた部屋にたどり着いた。
「直りそうか?」
「いやこれは無理だな…完全に壊れちまってる」
興味本位で覗いてみると、そこには黒人でガッチリとした体格の警官と、警官のようだけれど作業服のようなものを着ている人が話し込んでいた。
「STARSオフィスのものは?」
「ありゃ市内限定の通信設備だ。どうにもできないさ」
「あ?お嬢ちゃんこんなところで何しているんだ?」
作業服姿の警官が扉のところで様子を見ていた私に気がついた。
「いや…えっと……」
どうしよう気になってみていましたって言えそうにないや。なんか怖いし……
「無線機が気になるのか?」
黒人警官がそう言った。今思えばそれは怖がっている私を見兼ねての助け舟のようなものだったのだろう。
「えっと…少しだけ」
「まあ娯楽と言えるようなものもないし、もっと近くにきてみてもいいぞ。俺はマービン警部補」
目線を下げて合わせてくれた彼は、警部補だった。どれくらいの階級なのかはわからないけれどそれなりに偉い人なのだろう。
「佐倉恵です。これ…壊れているんですか?」
煙をあげているようには見えないけれど、操作盤の下が開けられて内部が見える状態になっていた。そこから飛び出ているケーブルはほとんどが焦げていた。
「まあな。原因はわからんが、ともかく治せるかどうか試すさ。お嬢ちゃんが気にすることじゃない」
無線機に繋がれたヘッドホンを耳に当ててみる。完全に壊れてしまっているのか雑音ばかりしか聞こえなかったけれど一瞬だけ叫び声にのようなものが聞こえた気がした。
思わずボリュームダイヤルを上げる。ノイズまみれの音の中に確かにそれは聞こえた。ヘリコプターのパイロットのものだった。
相当焦っているのか早口で私には聞き取れなかった。唯一わかったのは墜落すると言う叫びだけだった。
少しして完全にその声は聞こえなくなった。故障した無線機ではこちらから何かを伝えるのは無理そうだ。
無線越しに誰かが死んだ。死というものに慣れてきてしまったのか……さっきのショックがうそみたいになにも感じなかった。
「何か聞こえたのか?」
そばにいた作業服姿の人が覗き込んできた。
「ヘリの断末魔が……」
それを聞いて2人の顔にまたかと言う諦めの表情が浮かんだ。どうやら珍しいものではなかったようだ。これが珍しくないって相当ひどい場所ではないだろうか。
「仕方がないさ。だが絶望するには早い。まだ外からの救援は行われているし明日になればアンブレラ社も救助部隊を送ると言っていた。少なくとも州軍と同じくらいだろう」
驚きだった。まさか外侮からの救助が実行されようとしていたなんて。現状私達はほとんど情報を持っていないと言うことが明らかになった。もしかしたらそれ以外にも救助を行なっている場所があるのかもしれない。
だとすれば多少は避難も進むのだろうか?
まだ分からない…だけれど状況はマシになるのかもしれない。
「そういやお嬢ちゃんもしかして日本人か?」
話題を変えようと切り出したのはマービンさんだった。
「ええ、そうですけれど…」
中学校に留学しにきていることを伝えれば、そうかと返事が返ってきた。後で聞いた話では郊外にあった中学校は避難所としてすぐに解放されていたものの、26日の朝の時点で連絡は途切れたそうだ。あそこもヘリの発着場になっていたらしいけれど詳しいことはわからない。
ただ教師を含め生徒の8割は今も行方不明扱いだ。
「災難だったなこんなことに巻き込まれちまって。そうだ、折角だし色々話聞かせてくれ」
「良いんですか?」
「俺は構わない。スコットはどうだ?」
作業服姿の厳つい警官はやっぱり威圧感満載の表情だった。だけれど別に威圧している訳ではないと言うのはそろそろ雰囲気でわかってきていた。
「休憩がてらいい暇つぶしになりそうだ」
2人の顔に嫌そうな気配はなかった。
その日はマービンさんとスコットさんがリタ婦警さんに呼ばれるまで話し続けた。
次の日は朝少し遅い時間に起きた。
署内の時計は午前9時を指している。外が少し薄暗い気がしてそっと木材の隙間から外を見てみると、雨が降っていた。どうやら今日は雨らしい。ここ最近はよく降る。季節的にちょっと遅めの梅雨のようなものだった。まあ基本的に天気が良くないのだけれど。
それでも人はなにかとやっていないと気が滅入ってしまう。だから私も朝からバリケードの見回りをしたり補強をしていた。そのおかげでもうすっかり署内の構造は覚えてしまった。
「なんだか少し騒がしいね」
選抜警官隊。わかりやすく言うのであればSWATである。
どうやら今まで温存されていた部隊らしい。ようやく出動ということとなった。作戦はメインストリートの確保。
それがどう言った理由で行われたのかはわからない。だけれどタイミングとしてUBCSという私兵部隊と歩調を合わせるらしい。
やる気に溢れているのはそのためなのだろう。だけれど彼らの武装をよく見れば何故か拳銃だけだったりする。全員が全員フル武装というわけではないみたいだ。
それ自体はやはり仕方がないと割り切ってはいるのだけれど少しだけ不安だ。
化物の数がどれ程のものなのかは分からない。だけれど生半可な数ではないことは確かだ。
大丈夫なのだろうか。
夕方になって選抜警官隊は出動して行った。私達は作戦会議室として扱われている部屋で飲み物を飲んでいた。
作戦会議室という部屋は常に会議室として使われているわけではない。元々はデスク作業を行う部屋だからか、会議以外の時は基本は休憩室だったりとして使われている。
実際そこにある程度の食料と水の備蓄がありお昼ご飯などはここで取るという警官が多いのも事実だった。
それは選抜警官隊がメインストリートの確保をするために出動してからも変わらなかった。
だけれど地獄というのは私達を逃さないらしい。もうすぐ日が暮れようかと言うや否やな時間。その音は空気を切り裂き署内を駆け巡った。
バリケードの倒れる音、悲鳴と怒号。それらは作戦会議室にもしっかりと聞こえた。
「何⁈今度は何⁈」
中にいた警官達が一斉に外へ駆け出し、中に残ったのは私達を含め数人だけだった。
「西側でバリケードが突破された!」
西側といえば昨日突破されたところとだ。昨日の今日でまた?それどころかタイミングが悪すぎる。
選抜警官隊が出払った後でそんなに人数も弾薬も残っていないはずだ。いくらバリケードがあっても突破されるのは時間の問題だ。
「嘘だろこの!」
「ともかくいくぞ‼︎」
無駄に議論している暇はなかった。一気に残った警官達は動き出した。
本部が置かれている会議室でレナと一緒に身を寄せ合っていると、ケビンさんが飛び込んできた。
どうやら相当焦っているようだった。
「まずい手が足りない‼︎リタ‼︎武器と弾薬を集められるだけ集めてきてくれ!」
「分かったわ!」
リタさんが素早く部屋を飛び出した。
「他のやつは一階西側へ急げ!」
「2人とも‼︎もう警察署は保ちそうにない。すぐに逃げるんだ!」
ようやく私達を見つけたケビンさんが、すごい剣幕でそう言った。警察署が保ちそうにないと言うのはある意味ショックだった。もはや警察署も安全な場所ではなくなってしまったのだった。
「逃げるってどこに?」
だけれど当時の私はどこに逃げれば良いのかわからなかった。
「さあな。とりあえずここより安全なところだ。援護するから一緒に来るんだ!」
そう言ってケビンさんは悲しい顔をしながら私達を部屋の外へ連れ出した。荷物自体は常に持ち歩いていたから準備に時間はかからなかった。
かなりのところまで突破されてしまっているのか、銃声がすぐ近くに聞こえた。作戦会議室は中央ホールに近いところにあるのだけれど、もうすでにそこまで化け物が迫っているのだ。早すぎる……
通路に出たものの、そこではバリケードを突破しようとする化け物相手への防衛戦が展開されていた。
中には警官服の化け物もいた。
それらがまとめて吹き飛んだ。周囲でバリケードを押さえつけていた人をまとめて吹き飛ばして……
「あ…ああ……」
目の前でショットガンを撃った警官。その射線にはまだ味方もいたのだ。敵と一緒に無事だったはずの味方まで吹き飛んだ。人だったものと生きている人が吹き飛ぶのはかなり凄惨なものだった。ただ今となってはその時のあの惨劇は思い出せそうにない。脳が拒否をしているのだろう。
「見るな。みんなこの事態にどうかしちまってるんだ……」
その惨劇が脳に記憶される前に私はケビンさんに手を引かれてその場を離れてしまったからそれ以降彼がどうなったのかはわからない。
部屋を通り抜け、反対側の通路に出た。こっちはまだ化け物はいないようだった。
だけれどそれはいないように見えただけ。
通路を曲がった先で、マービンさんが化け物と対峙していた。だけれどその銃口は天井を向いていた。天井に何かいるのだろうか?
天井にはなにもいないように見えた。
突然、天井のパネルが吹き飛んだ。
それは長い触手のような舌だった。そんな長い舌がマービンさんを弾き飛ばした。
「マービン!」
同時に化け物が降りてきた。
彼が対峙していたのは見たこともない化け物だった。肥大化した脳、身体中が剥き出しになった筋肉で覆われた四足歩行。どの生物にも当てはまらない全く未知の怪物だった。
「このやろう‼︎」
ケビンさんが放った弾丸が脳を直撃しその場に崩れ落ちる。やっぱり弱点はあの剥き出しの脳みたいだ。普通の化け物と違って骨で覆われていない分破壊しやすくみえる。
だけれどマービンさんは既に怪我をしていた。重症だった。
「ケビン!俺のことはいいからそっちの子供達を守ってやれ!」
ただ重篤という状態でもないらしく片膝をついたけれどすぐに立ち上がった。
「だけど!少なくとも救護所まで……」
肩を貸そうとしたケビンさんを押しやってマービンさんは起き上がった。
「自分でいくさ。それにたいした怪我じゃねえ」
そう言ってマービンさんはしっかりとした足どりで救護所のあるホールに向かって行った。脇腹を怪我しているのに……
「彼は強い。あんなのでくたばる奴じゃないから安心しろ」
何となくだけれどあそこまでしっかりと歩けるのなら確かに大丈夫なのかもしれない。その上マービンさんあの化け物何体も倒していたみたいだ。死体がたくさん転がっている。
「急ぐぞ。ここも危ない」
ケビンさんに連れられる形で地下の駐車場へ向かう階段へ駆け込んだ。ここも化け物が既に侵入しているからか、階段には何体もの化け物がいた。ただ階段を登るのは苦手のようで突っかかって転んでばかりだ。
それらの頭を素早くケビンさんは撃ち抜いていく。
建物の地下駐車場は、車の多くが出払ってしまっていて、ほとんど車両は残っていなかった。残っているものも大半は整備中だったものか職員の私物の車でありすぐに動かすことはできそうにない。車で避難するのは現実的ではない。
「ここからだと時計塔あたりなら何とかなりそうだ!一応あそこはUBCSのヘリ発着ポイントの一つだったはずだからな!」
どうしてそう言った情報を知っているのかは分からない。だけれど警官全員が共通している情報だからだいぶ前から決まっていたことなのだろう。
「ケビンさんは一緒に来ないのですか⁈」
レナが訪ねたけれどケビンさんは首を横に振った。
「俺にはまだやるべきことがあるからな!幸運を祈る!」
そう言って彼は再び建物へ戻って行ってしまった。
いや、彼が駆けて行った先は犬舎だった。中で唸り声が響いているのもしかして…犬も化け物になってしまっているの?
少しして連続した発砲音が聞こえる。だけれどすぐにそれも途絶えた。もしかして…いやそんなこと考えたくはなかった。
それでも仕方がない。ここからは自分の力で生きていくしかない。私の手元に残されたのは斧だけ。あとはレナが持っている拳銃。
すぐにかけ出す。メインストリート方面がどうにかなっていればそっち側から時計塔まではいけたはずだ。例え車などが邪魔になっていても乗り越えたりすればいけるはずだ。
だけれど少し道を駆け抜けて嫌な明かりが見えた。いやそれは明かりというより何かが燃えて真っ赤に輝いているそんな感じのものだった。
「そ、そんな…」
大規模な火災が発生していた。道路上で車は燃え、近くの建物も一緒に炎上している。どこまでもそんな火災が続いているような感覚に襲われた。絶望というものを感じすぎて体が麻痺を起こしているのではないかと思っていたけれどどうやら私はまだ絶望には慣れていないようだった。
「こっちは無理だ!」
呆然としているとレナが私の手を取り駆け出した。気づけば周囲には化け物が集まりつつあった。
呻き声が重なりあって遠吠えのように聞こえる。
炎の熱風を少しだけ感じながら雨の街を駆け抜ける。
「あそこだ!」
どこをどう駆け抜けたのかは分からない。気づけばレナはどこかの建物裏口から室内に入っていた。
「誰だ‼︎」
ガチャっと金属の擦れ合う音がして、私たち2人の前の前に銃口が向けられた。
「ひっ!撃たないでください!」
この店の人だろうか。40代前後のおじさんがショットガンを構えていた。
「何だ子供か。危ないから奥へ入っていなさい」
そう言っておじさんは銃を下げた。
「ここは?」
「俺の店さ。ケンド銃砲店」
銃砲店。それはもっとも武器が置いてある場所だ。
だけれど店内の方へ行ってみてもほとんど銃や弾薬はなかった。どうやら市民に無償で配っていたらしい。
もう残ってなくてすまんと謝られたけれど彼が悪いわけではない。
店主さんはしばらく避難していた方がいいと店の二階へ案内してくれた。そこには食料と水。さらに少しだけれど武器があった。流石にこの武器は店主さんが使うものだから触っちゃダメだと言っていた。中には大事そうにケースに入れられているものもあって、多分特注品なのだろうとレナは分析していた。
中には大事そうにケースに入れられているものもあった。多分あれは特注品のようなものなのだろう。
「ねえレナ、銃の使い方教えて」
私も覚悟を決めることにした。今までどこか人の面影が残る化け物を殺すのに躊躇してしまっていた。だけれどこれからはそうもいかない。
「銃の使い方?わかった」
レナが持っていた45口径の拳銃を渡してきた。
「ここのセレクタでロック解除。初弾はスライドして送り込んで」
てきぱきと操作していきあっという間に射撃可能な状態になった。もちろん弾は入れていないから実弾が飛び出すことはない。
「結構重いんだね…」
「まあね。それと銃を構えるときはちゃんと脇を閉じて安定させて。45口径は反動が大きいからしっかり握って」
「こう?」
「そう、目標を狙うときは手前と銃の先っぽの出っ張りが重なるように調整。反動もあるから最初は首か胸の上辺りを狙うようにしてみて」
「わ、わかったわ」
なにもない壁に向けて銃を構える。ずっしりと手にかかる重さが、その武器の本質を、命を奪うということの重さを表しているようだった。
「って言ってもこれは私が普段は使うからメグは9ミリとかそっちにしておいた方がいいと思うよ。反動も小さいしグリップが細く小さいから握りやすいから取り回しやすい」
そっか……銃って言ってもいろいろあるんだね。
「お嬢ちゃん銃に詳しいのか?」
階段の方から声が聞こえて振り返ると、店主さんが立っていた。どうやら危機はさったみたいだ。
「ええまあ、父に扱い方を教えてもらって」
「なら色々と話すことができるかもしれないな。そうだ?折角だし色々話そうじゃないか」
「良いですね。私も趣味の合う人と話したかったところなんですよ」