めぐねえがいく『がっこうぐらし』RTA   作:鹿尾菜

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止まらねえからよ……
初投稿です


キャンプだけどキャンプファイアは無い

話終わったときの反応は様々だった。

 

案の定真っ青になっている由紀さん達と今の地獄が前にも発生していたその事実を受け入れようとしている若狭さん。

「あの時は運が良かっただけ。それと場慣れしているように感じるのもそれが原因かもしれないわ」

実際あれは本当に運が良かっただけだ。

「めぐねえはさ…その後どうしたんだ?」

恵飛須沢さんが、あの後のことを聞いてきた。あの後か……

「色々あったわね。レナを救護所に連れて行ったり勝手に使った銃を本来の持ち主に返したり」

私が使ったリボルバーは本来ならケンドさんの友人であるバリーという人のための銃だった。偶然救護所に来ていた彼に遭遇した時にその事を聞き、今となってはその銃は形見となってしまったのだった。

「あのさ……ちょっと聞くの怖いんだけど学校の生徒ってどうなった…」

それを聞いてきたのは柚村さんだった。怖くて仕方がないような瞳をしていたけれど知りたいという欲求がまさったみたいだ。

「一般人でしかない私に情報はこなかったけれど行方不明のリストに殆どの人の名前が載っていたから多分…」

 

「そっか……」

どのような最後を迎えたのかは分からない。だけれど多くの生徒と教師はあの日地獄で散っていった。

 

気づけば日は完全に暮れていた。みんなの顔色も悪そうだし夕食はちょっと無理かもしれない。

「もう日も暮れたし寝ましょう」

私の提案に反対する人は誰もいなかった。由紀さんさえ、元気なく頷いて布団を敷く準備に取りかかった。

 

あまり長く起きていると、部屋の明かりにいろんなヒトが寄ってきかねない。

死んでいる存在だったらまだ良い。1番恐ろしいのは生きている存在だ。秩序が崩壊した状態が長く続いた場合人は多かれ少なかれ本性に戻っていく。

友好的な相手だったらまだ平気だけれどもし友好的じゃなかったら?特に私達は女性だ。下手をすると襲われる可能性も高い。その逆というのもあり得るけれど。

 

 

 

 

 

 

 

日付が変わる頃からの見回りを終えて寝泊りをしている生徒会室に戻ってみれば、誰かがガサガサと布団から起き上がっていた。交代のくるみかと思ったけれど、あいつは日が昇ってない時は極端に寝起きが悪くなる。それはここ数日一緒に生活していてなんとなく理解できていた。だから彼女ではないだろう。

「起こしちゃったかな?」

完全に闇に慣れた目は、起きてしまったヒトをしっかりと認識した。

「大丈夫よ。今起きたところだったから。折角だし見回り変わるわ」

佐倉先生はそう言って近くにたたんで置いてあった紫色の修道女の着ている服にデザインが似ているワンピースを着込んだ。

「本当はそこの寝坊助さんなんですけれどね」

 

「悪いめぐねえ。私眠くてさ」

どうやら起きていたらしい。そりゃここまで音を立てれば起きるか。警戒心もなく完全に寝てしまっている3人は別にしてだけれど。

「ふふ、寝不足は体に毒よ」

そう言って佐倉先生は枝切りなどで使う手持ちの長い鋏を持って部屋を後にした。あの時以来ずっと使っているというそのハサミは、先端が少しだけ歪んできているのか完全に閉じなくなってきているようだった。少し遠くから見たらあるゲームの殺人鬼としていてもおかしくない感じだった。

まあそんなことは流石に言わないけれど。

私も寝ておこうと布団に潜り込んだ。ただこんな状態になってしまうと少し寝れない体質だからか全然寝付けなかった。それでも目を瞑って体を休めておくのが重要だとどこかの本で書いてあった。

あの時と変わらず、部屋の時計は時を刻み続けている。

 

そう言えば町の外はどうなってしまっているのだろうか?ラクーンシティ内部でもやはり情報は来ていなかったようだしそもそも封鎖されてしまっていて徒歩での脱出は実質不可能だと言っていた。

今回もそんな感じだったのだと仮定したら? 生存者である私たちも同時にウィルスなどを持っている保菌者の可能性がある。そうなれば街からは出してくれないだろう。そう考えると本当に救助が来るのか不安になって仕方がない。もしこの街だけこんな惨事だったとしたら?

もしかしたら滅菌作戦を決行する可能性は?

そんなことできるはずがないじゃないかと否定したいけれど、自国の街でさえ吹っ飛ばす国がやれと言ったらおそらく日本政府は断らない。ああもう嫌だ!寝よう寝よう。

そう思い寝返りを打つ。嫌な想像をしてしまったせいか胃の上のあたりが変にささくれてしまっているようだった。

少しして私も睡眠に入ってしまったけれど、視たのが悪夢だったせいか三十分もしないうちに睡眠から覚めてしまった。

 

自分の体がまるで自分で無くなっていくような。何かに体の内側から食い破られるようなそんなひどいものだった。ひどく生々しいものだと思い、少し上半身を起こして呼吸を整える。

そういえば佐倉先生はまだ帰ってきていないようだった。

やけに佐倉先生の帰りが遅いように感じた。何かあったのではないのだろうか?そういう不安が心の中に生まれ始めた。

腕時計を見ると午前4時半を過ぎたところだった。確か午前3時あたりに交代だったはずだから…

やっぱり遅い気がする。

流石に1時間以上も外を見回るなんて危ないからしていない。

様子を見に行こうかどうか悩んでいると、その悩みの渦中の佐倉先生が戻ってきた。やけに汗をかいているように見えたけれど大丈夫だろうか?

感染した?でもそんな様子はない。

大丈夫なのかと聞いてみた。

「ちょっと暑くなっちゃって。窓開けていいかしら?」

疲れたと呟きながら先生は窓の近くに寄っていった。汗を掻いて明らかに疲労しているけれど、足取りはしっかりしていた。多分ただ疲れてしまっただけなのだろう。

「大丈夫だと思いますけれど…」

 

月明かりに照らされた彼女の手は、少し黒く汚れていた。

何をしていたのだろう?まさか夜間に襲撃でもあったのだろうか?でもそんな雰囲気はないし建物は静かだ。

何をしていたのですかと聞こうとしたけれど、すぐそばで寝ていたくるみが起きたせいでタイミングを逃した。

「ああ、めぐべえ?」

寝ぼけたくるみが起きてきた。流石にまだ寝起きが悪い時間だったのだろう。

「佐倉先生よ」

 

「お腹すいた……」

半目で頭が前後に揺れている。普段しばっている髪も長くおろしているせいかなんだか別人のように思える。

「完全に寝ぼけちゃってるな」

 

「そうね…パンあるけど…貴女も食べる?」

そう言えば夕食を食べていなかった事を思い出した。

その途端にお腹が空いてきた。先生が何をしていたのか気になるのは相変わらずだけれど、きっと私たちの為に何かしているはずだ。言わないってことは何か事情があるからだろう。ならば無理に聞くのはやめておこう。

 

そのあと意識がはっきりしたくるみが顔を赤くしながら見回り行ってくると駆けて行ったのはちょっとした話題になりそうだった。

 

 

 

 

 

昨日見つけたそれが気になって、夜のうちに屋上に運んで置いたそれをどうしようかと悩んだ末、私はめぐ姉に相談して見ることにした。

めぐねえは丁度由紀とるーを相手していた。ちょっと割り込ませてもらおうか。

 

「なあめぐねえ、ちょっと良いかな?」

 

「くるみちゃんどうしたの?何かあったらの?」

真っ先に寄ってきたのは由紀だった。同い年なはずなんだけど年下を扱っているように感じちまうのは好奇心の塊のようなやつだからだろうか。

「ちょっと見つけたものがあってな。めぐねえに見てほしいんだよ」

 

「分かったわ」

 

「私も見てみたい!」

由紀もか?いや別にグロテスクだとかそういうものじゃないから別にいいか。

「んー?まあ別に良いぜ」

るーはりーさんのところに行った。失語症だと聞いたけれどなんとなく身振り手振りで意思疎通は出来ていた。

 

 

 

 

ふとめぐねえの腕を見てみた。普段の言動とか行動から運動系ではないように思えたし実際の腕は筋肉質には見えなかった。でも…あの腕で鋏を振り回している。それもかなりの力だ。多分…力の入れ方が上手いんだろうなあ。

 

屋上の端っこに一応雨風を防ぐためにブルーシートをかぶせてねかせておいたそれを2人に見せた。

 

「テントね」

これを見つけたのは偶然だった。柚村がめぐねえがどこか行っていたのではないかって見回り前に話したからどこに行っていたのかを探ろうとして下に降りた時に見つけた。本来の目的は結局分からずじまいだった。

「ああ、結構本格的だよな」

青色のテント一式。それが二つセットで二階の部屋に置いてあった。

「山岳部の物じゃないかしら…どこにあったの?」

 

「ちょっと二階に降りた時に教室の隅に立てかけてあったんだ」

週末に山岳部が登山をしようとか言っていたから多分それだろうか。

「そう……教室に」

 

「めぐねえ?」

何か考え始めためぐねえだったけれど何を考えているのかはその表情からは読み取れなかった。

「テント⁈折角だしキャンプしようよ‼︎」

 

「キャンプ??」

いや由紀お前何言ってるんだよ。これでキャンプって……

「良いと思うわよ。気分転換に面白いこととかやらないと人ってすぐ潰れちゃうし…」

めぐねえまで賛成かよ。しかも理論的に間違っちゃいない。確かに最近非日常かつ命の危険と隣り合わせの生活だ。寝ている時だって神経が張り詰めちゃって最近自分でもピリピリしているなと感じているところだった。

「それでキャンプか…でも外はゾンビまみれだぜ?」

 

「屋上でやるのよ」

 

「なるほどな…悪くないかも」

屋上でやる…確かにそれなら問題ないかもしれない。

これが気分転換になるって考えてしまっている時点で私もどうにかなってしまっているように思えたけれどそんなもの世界が先にどうにかなっちまったのだからしょうがない。

「それじゃあ私他のみんなに伝えてくる‼︎」

まるで水を得た魚のようだった。楽しいことが好きなんだろう。というか嫌いな奴はいないか。でもあんなに喜べるっていうのももしかしたらこんな世界では必要なことなのかもしれない。

 

「なあめぐねえ、これどうやって組み立てるんだ?」

そういえばこんな折り畳まれた本格テントなんてどうやって組み立てるんだろうな?

「説明書がここにあるわ。骨組みの組み立てはこれでどうにかなるけど……」

テントを開けて中身を見ていためぐねえが白いコピー用紙の冊子を見つけた。説明書だった。ただ問題はそれだけに止まらないみたいだった。

「なるけど?」

 

「テントの布とか骨組みを支える紐を地面に固定するのをどうするかよねえ」

 

「ああそれか」

名前は知らないけれど確かにテントを貼る時って杭みたいなもの打ってるイメージがある。

「養生テープで代用できるかしら」

なんだか怪しくなってきた。

 

なんだかんだあったけれど、テントはお昼ご飯が完成する頃には出来上がっていた。半分くらいめぐねえが作ったようなものだけど。

そのめぐねえはお昼ご飯を食べた後、りーさんと下の階に行っていたらしい。

 

どこからとってきたのか刺又や箒をいくつか持ってきていた。

そのうち箒はテントの補強のために使われていた。

刺又の使い道は考えなくてもわかる。逆に今までどうしてなかったのかが不思議なくらいだった。

まあ、それらが使われることなんて無いと良いなあ。

 

 

 

「ところで昼は何を作るんだ?」

 

早速夕食の準備をしていた由紀に聞いてみた。夕食を一任させちゃったのは不味かったかな?

「カレーだよ!期限の近い食材が多そうだったから」

杞憂だった。カレーなら多少変な食材が入っても問題は無い。流石に変すぎるとやばいけど。

 

「どれそれ…キノコか?」

 

「キノコと納豆!あと牛乳」

 

「うん納豆はやめておけ。台無しになるぞ」

危ねえ。変な食材打ち込もうとしすぎてた。こういう時の我らがお母さん(本人に言ったらめっちゃ怒られた)のりーさんはどこに…あ、妹の面倒か。仕方がない。私がやるしかないか。

 

「じゃあ私もカレー作りに混ぜろ!」

 

「良いよ!一緒にやろう!」

まあ私がいなくても柚村あたりがどうにかしてくれそうな気がしていたけれど。私自身こうしていると普段のいろんなことを忘れられて良い気分転換になった。たまにはこういうのも必要だな。こんな時だからこそ。

 

 

「お、どうしたどうした?寝れなかったのか?」

 

「ねえねえみんなで怖い話しようよ!」

 

 

「おいおい正気か?ここは普通……」

普通…なんだっけ?えっと…先輩?いや、忘れよう!今そのことを考えるべきじゃない。

「普通?」

 

「ミリタリーの話を……」

あまり言わなかったけれど私は結構その…そっち系が好きなんだ。まあこれも言ってしまえば先輩のせいなんだけど。先輩が悪いんだからね。

「それもどうかと思うわよ」

 

「い、良いじゃないか!スコップだって立派なミリタリ武装だぞ!」

 

「やっぱ怖い話しようよ。デュラハンとか」

デュラハンってそれ怖くないだろ。しかもあれ妖精の類だし。

「首なし騎士か。まあ当時だったらめっちゃ怖いわな」

 

「今で言う首無しライダーみたいなものかしら?」

りーさんどうしてそこで首無しライダーが出てくるんだ。あれ都市伝説だろう。

「それだと騎士じゃなくて首無し騎乗兵だな」

 

「でもデュラハンって首のない馬に乗ってやってくるよね」

 

「あーまあなあ」

 

結局めぐねえが来るまでその場はたわいもない話で盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか曇ってるな」

日が登っているはずの時間だというのにあたりは薄暗かった。そんな中で目が覚めたのは左隣で寝ていた小学生の足蹴りが私の鳩尾を捉えたからだ。無防備なところに容赦がない一撃が入ったものだから痛いのなんのって。叫ばなかった私を褒めてほしいくらいだ。

 

丁度起きてきた由紀と顔を洗っているときにふと空が曇っているという話題に話を振った。なんのことはない世間話というやつだ。

「雨が降るんじゃないかな?なんか湿ってるし」

確かに可能性はあるな。空気が湿っているかは鈍いからわからないけれど。

 

「だとしたら貯水タンクが満タンになってくれるからありがたいわ。最近水不足になってきていたし」

話に割り込んできたのはりーさんだった。鳩尾を抑えているからやられたのだろう。

「水道水は?」

シャワー設備も生きているとは言え水の供給が安定しないのか時々断水している状態だ。それでも水道水は生きていると思うんだけど。

そんな話をしていたら最後に起きてきためぐねえと柚村が話に入ってきた。

「水道水の話?」

 

「そうそう。たまに断水して困っちゃうよね」

 

「確かになあ」

 

「本当は念のために加熱処理しておきたいっていうのが本音なんだけど」

 

「そういや今は水道生きているのかな?」

 

「一応生きているけど……あ、発電大丈夫かしら」

りーさんの言葉でそう言えばと思い出す。

ここの電力は風力と太陽光で賄われている。補助電力としては申し分ないけれどその発電量の4割は太陽光だ。曇っている現状では4割の電力がごっそり失われているに等しい。

「冷凍庫が心配ね。最悪外の車を使って冷凍庫分だけ電気回そうかしら」

めぐねえがそんなことを言い出した。

「めぐねえできるのかそんなの」

 

「何回かやったことあるわ」

マジか。めぐねえって思いっきり文系かと思ってたけれど案外理系なんだな。

「これでも先生は理系大学院卒業なの」

それは意外な返答だった。

「マジ?」

国語教員だし文系大学出てるかと思った。

「じゃあめぐねえ物理教えられるの⁈」

「教員免許は国語と英語だけだから教えることができないけど……」

ありゃま。

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

テントを畳むのはテントを建てるのよりも素早くできた。多分慣れてきているからだと思う。或いは組み立てるのより壊すのが得意なやつが手伝ってくれたからなのかもしれない。

テントを解体し終えた所でポツリポツリと頭に水滴が降ってきた。

「やべ降ってきた」

 

「仕方ないからブルーシートの下に入れておきましょう」

私と柚村にめぐねえでテントの部品をしまっている間も雨は激しさを増して行った。最初はマダラになるかならないかだったコンクリートの床も今となっては完全に濡れてしまっていた。

「ちくしょうこれじゃあ服着たままシャワー浴びたのと同じじゃないか」

 

「トリートメントして髪の手入れしなくちゃね」

そうじゃないだろと柚村にツッコミを入れる。あんたまでそっちにいっちまったら私のツッコミが追いつかないっての。

「何か嫌な予感がするわ」

 

「めぐねえ?どうした?」

後ろにいためぐねえが外を見ながら何かを言っていたけれどよく聞き取れなかった。

「なんでもないわ……服の替えとかもそろそろ確保しないといけない気がしてね」

ああ確かにそうだ。いつまでもこの服を着たままっていうのもあれだし下着だって交換したい。流石に匂いもやばいと思う。肌の手入れなんかも……やべえ考えてみたらやばそうな気がしてきた。やっぱり雨で服を洗えて正解か?でもなあ……生乾きは匂いがきついからなあ。体操服に着替えるか。

「あー生理用品なんかもなあ……」

柚村もちょっとやべえって顔してる。やっぱり考えることはみんな同じか。

「今度探しにいきましょう」

 

 


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