この校舎を見るのも何日ぶりなのだろうか。
大規模停電で真っ暗となりシルエットだけしか見えなくなったけれど、そこは間違いなく母校であった。
ヘッドライトもつけずここまで運転してきた教師の佐倉慈は、車をなれたように校舎入口の前に横付けした。
「あの……佐倉先生ってライトつけなくても見えるのですか?」
「よく見えるわ」
そう言って先生は愛想笑い。
実のところ最初彼女と会った時、私は失礼なことだけれど頼りないと思っていた。どこかふわふわしていて気が抜けているというか……隣にいた由紀先輩もそうだけれどそれよりもっと戦ったり生き残ったりに向いていないというのが第一印象だった。
だけれどその印象はすぐに覆されてしまう事になる。
そこまでコロコロと第一印象が変化するのもまた珍しいと言えば珍しい。だけれどそれは内面を推し量るという点では意外と重要なことなのだ。
結果的にとはいえ私達は助かった。ただ、先生は何かを隠している。
直感だけれど頭にその考えが過ぎった。
慣れた要領で彼らを無力化し、倒していく。
モールでだって彼女は蹴り一つで大人を吹っ飛ばしたのだ。恐ろしい脚力だ。
だけれどそれだけではない。彼らに囲まれたってそこから脱出してしまったのだ。彼女はゴリラではないのだろうか?きっとそうに違いない。
ああ私はおかしくなってしまったのだろうか。そんなことない……きっと何か理由があるはずなんだ。
「移動してきて早速なんだけど、2人とも手伝えるか?」
スコップを持ったくるみ先輩(本人が名前の方がいいと言った)が私達の後ろに積み込まれている大量の荷物を指差した。灯火管制時のように黒い折り紙を巻かれて余計な光が漏れないようになっている車内灯をつけると、そこにはたくさんの生活物資が載せられていた。
なるほどモールにはこれらを回収しに行っていたわけか。
圭と一緒に幾つかの荷物を持つことにしたけれど、それでも一往復で収まるような量ではないのは明白だった。
由紀先輩は軽い打撲で済んだらしく太郎丸を抱えて私と圭の後ろに。くるみ先輩と先生が残っている彼らを蹴散らして行った。
「慣れているんですね」
「まあこうでもしないとバリケードを作るにしても何するにしても危険だったからな」
それもそうかと納得…私達みたいに必ずしも最低限のものが揃ったところに避難できたわけではないのだ。
相変わらず真っ暗な校舎の中を月明かりだけを頼りに進んでいく。
窓ガラスはほとんど割れ、黒い汚れや傷が至るところで銀色の光を浴びて浮き上がっていた。
三階に上がると、廊下に並んだ扉の一つから明かりが漏れていた。
そこは生徒会室として使われていた部屋で、中にはまた先輩方と小学生の少女が1人いた。
生存者がいたこと自体に内心気が少し落ち着いた。今まで2人きりしか生き残っていないのではないかと不安で仕方がなかった。重圧のような孤独が拡散していくような感じだった。
くるみ先輩と由紀先輩が首にチョーカーを巻いた先輩を連れて残りの荷物を取りに戻った。私はどちらかと言えば引きこもりやすい性格だからか、あまり外の方に行こうという気になれない。それで圭と何度か喧嘩した事もある。
「2人ともあの部屋ってシャワーついていたの?」
「いえ、ついていなかったです」
「じゃあシャワー浴びて来る?」
先生は私達をシャワー室に案内した。そういえばシャワーなんて浴びれるはずもなかった。私だって年頃の女の子なのだ匂いとか色々気になってきた。圭も同じだったようで目線があった瞬間苦笑いしていた。
脱衣所の電気もシャワールームの電気もなんとか点灯した。昼のうちに発電していた分でどうにか賄えているのだそうだ。
それでも電力消費と蓄電容量が危ういのだそうだ。
少女脱衣中
雨水の貯水槽と濾過システムを動かしているおかげで暖かいお湯も出るようになっていると車の中で聞いてはいたものの、本当にそんな設備あるのか内心半信半疑だった。だけれどいま目の前で流れ出る暖かいお湯を浴びれば、そんな疑惑吹き飛んだ。暖かい液体が体の汚れを落としていく。
毎日浴びていたはずのシャワーもこうして浴びてるのが貴重となった今では恐ろしいほどの喜びだった。
文明社会がいかに優れているのかがよくわかる。
「着替えの体操服とバスタオル入り口に置いておくわね」
先生の声が聞こえた。
わかりましたと返事をしたのは圭。隣のシャワールームからだった。
「あれ?お湯が出ない!」
「圭?」
「ごめん美紀!そっちのシャワー借りるね!」
圭が私が使っているシャワールームに入ってきた。
「あ!ちょっと!」
後で知った話だと、シャワーへお湯を供給する配管に不具合が起きていたらしい。
多少の擦った揉んだがあったものの、生徒会室に戻ってみれば、丁度夕食の準備が進められていた。
「2人ともシャワー気持ちよかった?」
三年生の制服を着た女性が声をかけてきた。そういえばまだ自己紹介をしていなかった。その事を言えばそう言えばそうだったとコロコロ笑った。随分とおっとりしていて一年上だけのはずなのにまるでお姉さんのような存在に思えた。
「2人ともはじめまして若狭悠里。こっちは妹」
あの小学生と姉妹だったようだ。あんまり似ていないなんていうのは言わない方がいいだろう。よく見れば目元などが似ている気がする。
私が見つめているのに意識が向いたのか手話をしながら微笑んだ。どうやら喋れないようだ。手話はやったことないけれど少しくらいなら意味も知っている。今のはよろしくという意味だ。私も辿々しいけれど手話で返してみた。
「柚村貴依だ。柚村でいいよ」
「2年の直樹美紀です」
「同じく2年祠堂圭です」
「あら、一年下だったのね。一瞬同学年かと思ったわ。」
そうだろうか?確かに私は実年齢より上よりにみられることが多いのは確かなのだけれど。
一瞬先輩が体を揺らした。それに連動して二つの山が揺れた。あ、やっぱり先輩だった。
「……いや、先輩方は先輩ですよ」
「美紀目線を上に上げて言いなさい」
少なくともあのサイズはおかしいと思う。
隣にいる柚村先輩も少し大きい気がするけれどまだ常識的は範囲だ。
「そろそろご飯できるからもうちょっと待っていてね」
そう先輩が言ってから実際にご飯が完成したのは三十分ほど経ってからだった。
温かいご飯。今まであの部屋で食べていたものも暖かいといえば暖かいものだった。だけれど人が人のために作ったものというのはあれとは違った温かみがあった。こんな時にそれに気づくというのも皮肉なのだろうか。
急に両親や知り合いのことが心配になってきた。今まで自分の身を守るので精一杯だったからだろうか。でも泣き顔を見られるのはどうしても恥ずかしくて、私のプライドがそれを許すまいとご飯をかき込んで涙ごと飲み込んだ。
何気なく周囲を見渡してふと先生が飲んでいる缶が気になった。銀色の一件無地のように見える柄…それ確かお酒だったんじゃないのだろうか。別に飲酒が悪いというわけではない。こんな状態ではお酒を飲みたくなるのも無理はないだろう。もしかしてお酒が好きだったのだろうか?
「先生それお酒じゃ……」
でも私の考えは圭によって覆された。
「あれ?でもノンアルって……」
圭の指摘にきょとんとした顔でお酒の缶を見せてくる先生。
どこにもノンアルなんて書いていない上に堂々とアルコール5%と入っているのですけれど。
「めぐねえ、書いてないよそんなの」
アルコールを飲んで赤くなっていた先生の顔が青くなっていく。少し見ていて面白い。
「あ……」
なんだろうやっぱり先生は頼りないって思えてしまう。やっぱり二面性がある人なのだろうか。
「いいよめぐねえ疲れてるだろうしお酒飲んじゃったんなら明日まで寝てな。見回りは私らがやっておくさ」
「え、缶一本でですか?」
ロシアなどではウォッカとか飲みながらでも色々作業する人はいますけれど。
「先生はお酒強くないのよ。酔いが回ってくるとすぐ眠っちゃうの」
ああそうか。そう言う理由があったのか。
完全に先生はしょげていた。モールで見せたあの雰囲気はどこにもない。まだ酔いが回ってはいないようだけれど時間の問題なのだろう。
食事が終わり、後片付けをしている最中、佐倉先生はいつの間にか寝袋に入って寝てしまっていた。若狭先輩が言っていた通りあまりお酒には強くないみたいだ。というかすごい弱い。
電気も最低限しかつけていないからか部屋はものすごく暗い。これで怖い話でもしようものなら雰囲気だけで怖い。
「そうだ。実は布団と寝袋の数がちょっと足りなくてな。2人で一つ使うことになっても大丈夫か?」
そういえば寝るのはどうしているのだろうと思ったら仮眠室から持ってきた布団とキャンプ用の寝袋を使っていた。さっきまでみんなで部屋の隅から引き出していたけれどどうやら数が足りないらしい。確かに人数分必ずあるなんていうのは有り得ない話だ。
「私は大丈夫ですけれど」
「なら私が美紀と寝ますね」
圭が先輩から寝袋を受け取った。決断が早いというか何というか。
こういう時に主導権を握りやすい圭は正直すごいと思う。
スキンシップが激しいように思えたのは多分気のせいだろう。
「あ、先生」
昨日飲酒をしてしまいそのまま眠ることになった先生はもう既に普通の状態に戻っていた。相変わらず笑顔に影が残る人だ。
「直樹さんおはよう。よく眠れたかしら?」
「ええ、よく眠れました」
ただし寝袋が圭と共用というのは色々と大変だった。圭は寝相があまりよくないからよくお腹を蹴られるのだ。悪気はないと分かっていてももう一枚くらい布団セットが欲しい。どこか探せば見つからないだろうか?
「良かった」
朝食はフレンチトーストだった。しかも手作り。ある意味この惨劇の中で最も食事に力を入れていると言っても過言ではないだろう。おかげで不安な気持ちも美味しさである程度緩和される。もしかしてこれが狙いではないだろうか。
食事の食べ終わり、図書館から持ってこられて隅っこで山を作っていた本を気晴らしに読んでみようと思っていたところで、由紀先輩達が衣服の入ったバッグを次々と開けていた。
「折角だから買ってきた服みんなで着ようよ!」
「あーそういえば……」
食糧や生活必需品だけにしては荷物が多かった。衣類が入っているにしても何か違う気がしていたのはそういうことだったのか。
「みんなですか……」
ここに元からいた人達は別にしても私たちのサイズまであるのだろうか?
「サイズ合わせとか色々あるし、ならその合間にそっちの制服洗っちゃいましょうか」
佐倉先生はそう提案した。なるほど確かにずっと服を着たままというのも色々と辛い話だ。それに少しは気晴らしになるかもしれない。
「賛成だな」
いつのまにか私も混ざって中に畳まれて入れられていた服を出す作業に没頭していた。
中にはふざけたデザインの服やこれはどうなのと言わざるをえないアレな下着なども混ざっていたけれど、大半はまともな服ばかりだった。私達の制服は先に洗濯に回されていたから戻ってきていたものの少し空気を読んでこの遊びを楽しむことにした。
「なあこれ本当に似合うのか?私じゃなくて柚村が着るようにって買ってきたと思ったんだけど…」
くるみ先輩はパンク系の服を若狭先輩に着せられて困惑していた。第一印象しか知らないけれど私は似合っていると思う。まあそれで街に遊びに出ようとかそういう感じになるかと言われたら少し違うかもしれないけれど。どちらかといえば原宿にいても違和感がないけれど新宿に行ったら悪目立ちする感じだ。
「似合っているわ」
「むしろ私より似合っていると思うけどなあ」
柚村先輩用に買ってきたと言っていたけれど当の本人はなぜか大正時代を連想させる少し色彩が派手な和服を着ていた。
和服と言っても腰から下はスカート状のものになっているから和洋の混ざった感じだ。巫女に近いかもしれない。いったいどこでそんなもの売っていたのやらだ。
「むしろお前が和服を着るとは思わなかったわ」
柚村さんは確かにちょっと化粧が厚くて首のチョーカーや髪型からパンク系を連想しやすかったし本人もそっちの節があった。だけれど和服も似合わないわけではなかった。かなり綺麗に着こなしている。
「失礼だな。これでも母方の実家は神社だし帰省で帰った時は巫女服着たりしてるんだ」
なるほどだから和服を着なれていたのか。そういえば圭も家では和服がメインだと言っていた。珍しいからそのことはよく覚えている。後で圭も着るのではないだろうか?
「へえ、意外だな」
「ねえこれどうかな!」
ちょっと待ってください由紀先輩そのスカートもしかして私立小学校の制服じゃないですか!いくらなんでもそれは……上が私服のシャツだからバレないとでも思ったのでしょうか?いやそもそもどうしてスカートだけそれを……
「可愛いわね」
圭は気づいていない。多分気づいたのは先生と柚村さんだけだ。
「スカートを除けば……」
「スカート?あーこれなんか着やすかったし昔小学校で着てたものだったから懐かしくて」
「え……由紀先輩って私立小出身だったんですか?」
「そうだよ!」
確かかなり頭が良くないと入れないところだったはず。もしかして先輩も見た目に限らず結構頭いいのでは?
無粋な詮索はやめておこう。人は見かけによらないと言うではないか。
「一応国語と英語を除けば学年上位20位には入るよ」
「そうなんだよなあ……国語と英語以外で私は勝ったことないからなあ」
あ、やっぱり頭はいい方だったんだ……やっぱり人って見かけによらない。
「……なんかるーと並んでると歳の近い姉妹に見える」
ふとくるみ先輩がそうこぼした。確かにと圭もうなずく。かくいう私もうなずいた。るーちゃんは半ズボンと半袖シャツだけれど私服を着ている姉妹に見えて仕方がない。
「確かに。りーさんと並ぶより姉妹みたいだな」
「2人ともそれどういう意味かしら?」
「お待たせしましたあ」
最後に部屋に入ってきた佐倉先生は、なぜかパーカーと長ズボンという部屋着姿だった。
「めぐねえは…すっごいダボダボだな服!」
だけれどそのおかげか露出も少なく先生らしいチョイスのように感じられた。体型を隠す着こなしもあってかなり落ち着いている。
「そうね。ちょっとそれはサイズがあっていないんじゃないかしら?」
「元からこういうデザインだったのでは?パーカーですし」
実際ダボダボ系パーカーは存在する。主に部屋着に使われるけれどね。
その後集められた洗濯物は先生と若狭先輩が屋上で洗っていたそうだ。洗濯機も乾燥機もあるにはあるが故障中なのだそうだ。
私たちも手伝おうとしたものの、気づいた時にはすでに洗い終わっていた。2人揃って家事上手。女として負けた気がする。
朝から昼にかけては避難生活中と言っても皆バラバラに動いていることが多い。若狭先輩と由紀先輩は妹さんを連れて屋上で菜園。そのほかは雑談をしていたりしていなかったり。
私はあまり人と雑談をするのが好きではないからよく本を読んでいた。まあ話しかけてきたらそれなりに話す。ふと先生はどうしているのだろうと思ったらラジカセをいじっていた。
少しだけ観察していると、情報はもうないと思ったのかラジカセの電源を切った。
「あの、先生いくつか聞いてもいいですか?」
私の問いに先生は少しだけ肩を震わせた。そこまでびっくりすることだろうか?
「答えられる範囲ならいいわよ」
「この学校の設備がここまでしっかりしているのって何か理由があるんですか?」
「そうね……災害対策って名目だったけれど」
一瞬の言葉の空白、そして泳いだ瞳。
其れにしては設備が過剰すぎる。さらにいえばここの学校の間取り。普段の生活ではわからなかってけれどこうなった時に改めて間取りを見てみると、かなり立て篭りやすく作られている。偶然そうなったとは思えない。
「……あの、会って1日も経っていないのですけれど、もしかして何か大事なことを隠していませんか?」
嘘を言っているわけではないだろうけれど肝心なところを言っているようには思えなかった。
「……」
「教えられないことですか?」
この人は悪い人ではない。だけれど良い人だからこそ自分で全部背負い込もうとしてしまうところがある。昨日までの行動から見れば私の予想は当たっている。
「私自身信じられない事だったし……ショックが大きいかと思ってて」
「じゃあ私はだれにも言いません。これならどうですか?」
場合によっては教えるかもしれないけれど……
「できるだけ教えたくはなかったんだけれど……」
そう言って先生は私を職員室まで連れて行った。
佐倉先生は校長室にある金庫から緊急用マニュアルと書かれたパンフレット状の冊子を取り出した。
「教頭から非常事態の時に読むようにって言われていたものなの」
そこに書かれていた事は到底信じられるようなものではなかった。
この惨劇が最悪の想定として乗っていたこと。そしてこれがウィルスによるものだと裏付ける事まで。さらに地下にある緊急避難区画。そんな……
有り得るはずがない。だけれどこれが現実だった。
「こんな事って……」
避難人数だって僅か15人しかいない。まあそれすら使われた形跡はないようだけれどね
「残念だけれど事実よ。それにこう言ったウィルスや細菌兵器はいろんな企業が作っているわ。実際それらが事故で流出したりテロに利用されたりしているのも事実よ」
「だからって……」
「この惨劇がどこまで続いているのかはわからない。もしかしたら政府は私達を見捨てたのかもしれない。だから言い出せなかったの…」
事実だとすれば隔離して……全部の記録を抹消してから幾らでも捏造できる。そういった事例もあるのだそうだ。
先生はラクーンシティと言っていた。名前は聞いたことある。放射能漏れで破棄された場所……実際はそうではなかったようだ。
「先生、地下のシェルター見に行きませんか?」
普段立ち入りが禁止されていた地下室。そう言ったところに男子だったら多分ワクワクしていたと思う。彼らと言う本物の死の恐怖がいなければだけれど。
降りるまでの合間に階段付近を彷徨いていた彼らを先生は無慈悲に、素早く仕留めて行った。
「早いですね……」
「ああなってしまった以上もう手の施しようがないわ。悲しいけれどこうするしかないの。だから素早く一瞬でなるべく苦痛がないようにする。それが彼らへの手向けよ」
その表情はものすごく辛そうで、絶対にこの先生は彼らを倒すのには向いていないと確信した。同時に悪い人ではないということも。
「随分と覚悟が決まっていますね」
私はまだ彼らを手にかけたことはない。彼らを前にしたとき私は、戦えるのだろうか?
「2人にはまだ教えていなかったけれど、こういう惨劇は初めてじゃないから」
「そうですか。なら後でその話じっくり聞かせてください」
地下一階は日の光が入ってこないからか真っ暗でどこかじめっとしていた。空気も循環もできていないようだった。先生が壁につけられたスイッチを押したものの非常灯がいくつか点灯しただけだ。やはり電力不足なのだろう。
そんな薄暗い倉庫の奥にシャッターが降りた場所があった。これがシェルターの出入り口……
電動シャッターのようだったけれど壁の横には手回しハンドルも取り付けられていた。
それを回してシャッターを持ち上げる。
シャッターの奥もまた通路のような無機質な空間が広がっていた。空っぽの倉庫というより倉庫と倉庫をつなぐ通路のようなところで、左右に扉がいくつもあった。
それらは鍵がかかっていて開けることはできなかった。唯一開けることができたその場所は物資貯蔵室と書かれたプレートが扉に掲げられていた。
中はいくつもの段ボールがゲージに重ねられるように乗せられていた。
中に何が入っているかまではわからない。だけれどこれらは多分避難してきた十五人のために使われる予定だった非常食や医薬品などだろう。残念だけれどそれらが使われることはなかったみたいだけれど。
「使えそうなもの、ありませんね」
「精々がこの丸太くらいね」
そう言って先生は壁に立てかけてあったかなりの大きさの丸太を抱えた。それ結構重いと思うのですけれど。
「これ扉押さえるためのものですよね?」
「これで相手を薙ぎ払うこともできるわね。丸太の可能性ってやっぱり無限大ね」
いやそうではないと思うのですけれど。
「……もうちょっと色々調べたかったのですが戻りましょうか」
時々外から聞こえる呻き声がだんだん大きくなってきていた。
「そうね。暗い分彼ら以外の化け物が来たら危険極まりないわ」
「居るんですか?」
確かにウィルスや細菌は人以外にも感染するのは当たり前だけれど。だとしたら鳥などに感染したら不味いのでは?一気に世界に広がりかねない。
「犬の彼らも居たわ。実際に戦ったし」
それもそれで最悪な事態だ。犬が野生動物と接触しないはずがない。そうなれば野生動物を媒介にアウトブレイクは広がる。それを食い止める術を人間は持っていないのだ。
豚コレラが流行った時だって鳥インフルが流行った時だってそうだ。発生後対処だけでは到底塞ぐことなんて不可能なのだ。
「……助け、来てくれると良いですね」
「ええ…そうね」
るーちゃん
うああああん!けーちゃんとみーくんこうびしたんだ!