もし機能が残っているとすれば、それは軍事施設であろう。
この町の近くには小さいけれど自衛隊と米軍の共同利用の基地があるのだった。
これはこの街がまだ巡ヶ丘と呼ばれる前からあったものだ。元々は戦前に陸軍の飛行場だったもので戦後、飛行場を米軍が使用し航空自衛隊も一部施設を共同使用するようになったもの。
最初は軍用機の運用が主だったものの機体の大型化と滑走距離の増加で飛行場の滑走路の長さがたりなくなり、伸ばそうにもその頃には周辺に民家が出来てしまっていたものだから大きくしようにも立退などで余計な費用や住民感情の悪化が懸念され結局首都圏の主力機は運用を厚木基地や土浦に移転した。
「今となっては米海軍の輸送機とか小型機、自衛隊の訓練機やヘリくらいしかないところよ」
「それじゃあ基地防衛の装備もなさそうだな」
車に乗っている恵飛須沢さんと柚村さんは私の話を聞きながら期待できそうにないと顔を伏せた。
「この惨劇がどこまで続いているか分からないけれど、元々警察や自衛隊などの暴力機関は人数が少ないの。おそらく内部でも感染者はあるはずだから市民救助まで力のリソースを回せないと思うわ」
実際ラクーンシティでも警察や投入されたUBCSの部隊は市民救助どころか自分の身すら守るので精一杯だった。
だからある種仕方がない事だ。暴徒鎮圧とはわけが違う。
「で、今更行ってどうするんだ。めぐねえ。いくら私がミリオタだからってそんなとこ連れて行っても喜べるかどうかわからないよ」
そうね……リッくんランドくらいなら全てが落ち着いたら行ってもいいかもしれないわね。
「基地に行くのはついでよ。まずは買い物が先」
「「買い物?」」
車を走らせること1時間。普段であれば二十分ほどで到着する道のりは、事故車や放置車両、道の崩壊などで発生した迂回で余計に時間を食った。
辿り着いたのはホームセンター。
もしかしたらここも生存者がいるかもしれない。だけれど外から見たところそのような感じはしなかった。バリケード跡が色濃く残っている入り口近くには彼らがうろついている。
従業員と思われる服装の者が多く、生前ここで働いていた人達の成れの果てというのは容易に想像できた。
駐車場に車を止め、元から止まっていた車の影に隠れながら入り口に近づいていく。近くには工事用のホイールローダーが止められていた。あれを使えばすぐに中に入れるだろうけれど、音が大きすぎる。それに動くかどうかわからない。
「買ってくるものはメモの通りよ」
少なくとも入り口付近にいる彼らは邪魔で仕方がない。だから駐車場の隅っこに止まっていた高級車を利用する。
紅茶の国のスパイ映画でお馴染みになった高級車の窓ガラスを石を使い思いっきり粉砕する。
車に警報の類はなく、あっさりと扉は開いた。
鍵穴が刺さる部分のカバーをマイナスドライバーで引き剥がし、内部の結線を素早く切る。バッテリー回路から直結している線とセルモーターに繋がれている線を組み合わせれば、高級車は一気に息を吹き返した。後はエンジン音を上げるためにアクセルペダルをペッドボトルをつっかえ棒がわりにして押し込む。
かなりの爆音が上がる。スポーツで音がかなりする車だったのが幸いだ。
見ればエンジン音に引き寄せられて入口シャッター前の彼らが駐車場を突っ切ってきた。
再び車の影を通り恵飛須沢さん達と合流する。
「それじゃあシャッターを開けるわ」
大型の電動シャッターは人が開けるようには出来ていない。
「これ、開けられるか?くるみでもこれは無理だろ」
「少し開けばいいのよ。行くわよ。せーの!」
普段は電動で開ける大型のシャッターは、必要以上に重たくなっていた。力一杯2人で押し上げて、隙間は70センチもない。屈まないと入れなかった。
周囲の彼らが気づく前に急ごう。
「うわ…中真っ暗だな」
基本こういった店舗は外との空気交換は大型空調設備と換気設備を使うから建物に窓はない。だから光が入ってこないのだ。夜であったとしても新月でなければそこそこ明るいけれど、建物の中は本当の闇だ。
「そうね…懐中電灯必要だったかしら」
ペンライトだけでは周囲の様子がわからない。だけれど呻き声や這いずり回る音が周囲には彼らがいるということを教えていた。
「彼らをおびき寄せるだけだし問題はないと思うよ」
必然的にみんなの声のトーンが落ちる。会話で彼らが寄ってきてしまう可能性があるからだ。
柚村さんが警戒しながら先に進んだ。後に私達が続く。
「それじゃあ私はこの先の洗剤類を……」
それは唐突だった。いや、シャッターからもれ出たあかりに引き寄せられたのだろう。
恵飛須沢さんに向かって影から腐った肌のそれが飛びかかった。
「くそっ!」
シャベルの柄で咄嗟に掴みかかられるのを押さえ込んだ。
それをすぐに引き剥がしそいつの頭を横に捻った。
事切れたそれを床にゆっくりと下ろす。
「あぶな…寿命が縮んだよ」
それと同時に彼らに気づかれなくてよかった。暗闇に紛れる彼らはおそらく音を頼りにやってくるだろう。今の音がもっと大きかったらヤバかったかもしれない。
「気をつけてね2人とも。柚村さんも無理そうだったら私か恵飛須沢さんと一緒に行動していいのよ」
「わ、わかった」
そう返事した柚村さんは顔を青くしながらも恵飛須沢さんと一緒に行動する事を選んだ。
しばらく広い店内を探索していると、梯子が通路の真ん中に降りていた。彼らの1人がそれにぶつかりガタガタと不快な音を立てていた。それを素早く始末し、静かになったところで梯子の上を照らしてみる。天井にまで伸びたそれは、半開きになった点検ハッチから下がっていた。
もしかしてと思いそこを覗き込んでみれば、それは中間分電盤の制御器が納められているところだった。
屋根には太陽光などがあったからもしかしたらここも蓄電した電気で一部の機械が動かせるのではないかと思っていたがビンゴだ。
いくつかの回路を開くとパッと内部が明るくなった。
と言っても普段の電灯がついたわけではなく、非常灯がいくつか点灯しただけに過ぎない。だけれど周囲が見えるようになったのは非常にありがたい。
あらかた欲しいものを調達できた。2人と合流をしようとして耳をつん裂く轟音が貫いた。
それは棚が倒れたような音で、店内全体にコダマする様に響き渡った。
尋常ではないその音に何かあったのだと直感が告げた。
「いやああ⁈」
「柚村!」
ああ大変な事態になっていた。
2人の声が聞こえた方向へ走っていけば、そこには既に始末された彼らの死体と、その横で茫然としている柚村さんがいた。商品棚が一列大きく倒れてしまっている。
「あ!めぐねえ!」
「恵飛須沢さん!なにがあったの!」
「彼らに襲われて……倒すときに間違えて棚も一緒に…」
「……くるみ!先生!後ろ!」
柚村さんが物干し竿を私と恵飛須沢さんの合間に通した。とっさに振り返れば、背後には彼らがいた。
店内に散らばっていた彼らが一斉に集まり始めていたのだ。
「まずいわ!逃げましょう!」
息が荒くなっている柚村さんの手を取り移動を開始した。
だけれど入り口の方は外から彼らがシャッターを叩く音がしたから行こうにもいけない状態だ。もしかしたら外も彼らが集まってきているのかもしれない。
「こっちだ!」
恵飛須沢さんが彼らの合間を襲ってきそうなものだけをシャベルで叩きつけて駆け抜けていく。
向かったのは下へ向かう階段。
そこにもやはり彼らは溜まっていたものの、その数は多くはなかった。
素早く階段下にいた彼らの頭を蹴り飛ばす。バールのようなもので叩きつけ、邪魔な奴らを退けていく。
駐車場に出たものの、そこは異様な暗さだった。
「もしかして…入り口閉じているのか?」
「そうみたいね……」
だけれど電源が回復した今なら開けられるかもしれない。
駐車場にいる彼らを投げ飛ばし、シャッター近くに行ってみれば、すぐ側に小さな小屋のような建物があった。
それはどうやらここのシャッターや空調設備の制御を行う部屋だった。
入り口にはご丁寧に鍵がかけられてしまっている。だけれど…
手にタオルを巻き付け、思いっきり窓ガラスを殴り付けた。
強化ガラスでもなんでもない窓は、それだけであっさり叩き割れた。
すぐに手を伸ばしてシャッター開閉ボタンを操作。
同時にシャッターが音を立てて動き出した。
「めぐねえ……」
「大丈夫よ怪我はしていないわ」
「先生そうじゃないです」
どういうことなのだろう⁇
その後も外から彼らが入ってきたりして少しばかり戦う羽目になったけれど、全部を倒すなんてのは出来るわけがないので早々逃げる選択肢を取った。
地上駐車場のほうに回ってみれば彼らは再びシャッターに集まっていて、車の周りには彼らはいなかった。
滑り込むように車に飛び乗る。気づけば息が上がっていた。さっきから走りっぱなしだったからだろうか…少し息を整えないと……
「運動続け…ていればよかったわ」
そうすればもう少しマシだったかもしれない。
「めぐねえ運動していたのか?」
「ええ、でも大学で辞めちゃってね…元剣道部よ」
体力の衰えとは意外と早いものだ。なんて年寄り染みた感想が頭の中を横切ってしまう。
ともかく帰ろう。車をゆっくりと引き出せば、一瞬誰かが助けを求める声が聞こえた気がした。それを気のせいだと割り切った私はきっとこのとき胸に感じた痛みを忘れないだろう。
帰る途中少し気になって基地の方に寄ってみた。とは言っても入り口がある大通りの方は横転したトレーラーと黒焦げになったタンクローリー、それを消化したと見られる消防車などが邪魔で行くことはできなかった。
だから生活道路を使って基地の周囲を見て見る事にした。
「中、彼らしか見えないな」
管制塔がある建物を私が貸した双眼鏡で見ながら恵飛須沢さんは呟いた。
「飛行機もヘリもないわ」
そこは完全に破棄された基地と言っても過言ではなかった。他の場所と同じく彼らが徘徊し、文明が滅んでしまった場所。生き残った人たちはおそらくヘリや飛行機で脱出したのだろう。
格納庫の奥に整備途中だった機体が少しだけ見えた。
「とっくに避難済って事か……」
これでは救助要請は無理そうだ。ここの通信設備を使えば何処かにつながるだろうが危険が多すぎるだろう。背中が少し寒くなった。こういう時は下手に近づかない方がいいに決まっている。
「でも通信施設くらいは……」
「柚村、正直無理だと思うぜ」
「そうね。彼らは今まで見てきたところだと身体能力のリミッターが外れているような奴らばかりだし、ましてや隊員なんて……」
あそこで彼らになっているのは自衛隊員や米軍の人なのだ。一般人よりガタイは絶対良いはずだ。どれほど影響があるかはわからないけれどきっと手こずるはず。
危険が大きすぎる。
やっぱり救助はあてにできそうにない。こちらから脱出の準備をしないと……
もしかしたら最悪の事態というのもあり得る。
再び車を動かし道を駆け抜けていく。時々彼らが道を阻もうとして、車に凹みをつけた。
まあジープだし問題にはならない。
「ちょっと止まってくれ!」
恵飛須沢さんがそう叫んだのは少し大きな通りに出てすぐだった。とっさにブレーキを踏み込み、減速をかける。だけれどそれすら惜しいのか、彼女は車から飛び降りた。
「くるみ⁈急にどうしたんだ!」
「屋上で誰かが襲われそうになってるのがみえたんだ‼︎」
そう言って駆け出す恵飛須沢さん。
「待って私も行くわ‼︎柚村さんは車で待ってて!」
「え⁈あ…わかった」
既に恵飛須沢さんはビルの中に入っていた。私もそれを追いかけて中に飛び込む。
彼女にはすぐに追いつけた。通路は彼らが何人もいて、通せんぼをしていたからだ。
助走をつけて1番近くにいた彼らの頭をバールで殴り飛ばす。勢いを殺さず次に飛び蹴り。
「めぐねえ⁈」
「勝手に飛び出したら危ないわよ!」
「でも見捨てられなくて…ごめん」
「…大丈夫よ。ともかく先にいきましょう」
オフィスビルであるその建物の階段はひどく狭いものだった。だけれどそのおかげか彼らは登って来れなさそうだった。上にいる彼らの足を払い転ばせ、頭を叩き潰す。気づけば私の体は返り血で汚れていた。それは恵飛須沢さんも同じだった。
二階に上がったところで階段が崩落を起こしていた。
「なんで階段が……」
よく見れば崩落したところにはヘリコプターのローターがあった。ヘリに突っ込まれたのだろう。よく建物の方が無事だったものだ。まあ耐震構造や免震構造のせいでなまじ頑丈だからというのもある。
「建物の反対側にも階段があるわ。そっちを使いましょう!」
二階のオフィスは、彼らが溢れていた。
こんなところで時間を食うわけにはいかない。
「め、めぐねえ⁈」
恵跳須沢さんを抱き上げ、私は飛び上がった。そばに寄ってきていた彼らが襲ってくるよりも早く、デスクの上に飛び乗りそこを駆け抜ける。
「これが1番早いわ」
反対側に着いたところで彼女をすぐに下ろす。もう腕が痛い。やっぱり無茶しすぎたわ、一瞬腰がダメになるかと思ったし。
「本当に先生運動やめたのか⁇」
「もちろんよ」
ようやく屋上に向かえたものの、既に救助を待っていた人は彼らに組み付かれていた。
胸ポケットに入れておいたナイフを投げつける。放物線を描いて、それは噛み付いている彼らの頭に突き刺さった。
崩れ落ちる彼ら。
助けを求めていたのは二十代くらいの女性だった。首元を噛まれたのかひどい出血だ。すぐに治療しないと……
「こないでっ!」
だけれど私たちが近づこうとすると、彼女はビルのフェンスをよじ登った。
「落ち着いて。私達は助けにきたんだ」
恵飛須沢さんが呼びかけたものの、一向にこちらに戻ってこようとはしない。
「もうダメよ。噛まれたら彼らになる。見てきたもの!」
確かにそうかもしれない。だけれどこっちにはそれを止めるためのワクチンがあるの!
「待って‼︎まだ間に合うわ!だってワクt……」
「そうだ!だから早くこっちに……」
だけれどもう彼女の決心は固まってしまっていたようだった。
「もう、遅いのよ」
説得で心が揺らぐのを恐れたのか、最後まで聞かずに彼女はフェンスの向こう側からいなくなった。
何かものがぶつかる音が鈍く響いた。
「どうして……どうしてなんだよ‼︎」
「……」
どうして……もうちょっと早くきていれば助かったのかな……
「戻りましょう……」
「……めぐねえ、どうしてこうなっちゃったんだろうな…」
「分からないわ……でも、今は落ち込んでいちゃダメ。全部終わったときに泣いて…弔うのよ」
気持ちを切り替えられなければ生き残れない。残酷だけれど死者に付き合って一緒に死んでしまうのは逃げと一緒なのだ。
帰ってきた頃にはもう日は暮れかけていた。学校の前には彼らの姿はほとんどなく、建物の中にも誰もいなかった。
さっきからずっと落ち込んでいた恵飛須沢さんも、学校が見えて来れば嫌でも気持ちを切り替えないとと思ったのか柚村さんとの会話もだんだん弾んでいった。
あれだけ乗り越えられたのなら、今は大丈夫だろう。
沢山の人が死んでいくところを見てきた。もう手遅れなのかもしれない。だけれどここで折れるわけにはいかないのだ。
「ねえ由紀ちゃん、手伝ってくれる?」
夕食が終わった後、私は人手を何人か必要とする作業を行うことにした。
「めぐねえ?私なんでも手伝うよ!」
「でしたら私も御手伝いします」
参加してくれたのは由紀さんと直樹さん。2人いれば多分十分だろう。
「じゃあちょっと隣の教室に来て」
隣の教室には今日買ってきたものが並んでいた。
「先生…なに作る気ですか?」
「爆弾よ」
「「……⁇」」
「ニトロ系のものよ。だから慎重に扱ってね」
意外と市販のものでも爆弾を作ることは可能なのだ。私が今回作るのはニトロ系化合物を生成する方式。もちろん衝撃で爆発するようなことは起こさないために粘土質のものに浸透させて安定化させる。
「十分気をつけてね」
「「……はい」」
怖がっちゃった?大丈夫よ。安全に気をつけていればね。
るーちゃん
もちろんぜんねんれいばんもあーるしていばんもせいせい失敗によるばくはつをうけてもだめーじはうけないよ。
すこしたちえがくろくすすけるくらいかな?あーるしていばんはふくがふきとぶだけですむよ。だけどてづくりばくだんだけだよ。