めぐねえがいく『がっこうぐらし』RTA   作:鹿尾菜

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くるみがいくRTA その3

「ここは……」

 

見渡すと私の隣にレナータが同じく縛られた状態で座らされていた。

他にも薄暗い部屋の中には男女が数名縛られていた。

取り囲むようにお面をつけた男たちが自動小銃を持って立っている。時々何かを話しているもののその意味までは聞き取れなかった。

 

「うっ……」

 

「レナータ?」

隣でぐったりしていたレナータが目を覚ました。擦り傷や打撲痕が体に残っていたけれど大きな怪我はみたところではなさそうだった。まあ内出血で臓器がやられている可能性もあるけどそんなこと考え出したらキリがない。

「大丈夫か?」

 

「多分大丈夫……状況は?」

 

「ご覧の通り縛られてる」

私達が目を覚ましても見張りの彼らは全く反応を示さない。いや多少は睨んだりしているのか時々仮面に隠れた素顔をこちらに向けてくるけれどすぐにそっぽを向いてしまう。

「……あれは在中アメリカ大使と国連の職員……」」

レナータが縛られている他の人たちを見てそう呟いた。アメリカ大使⁈確かに大使館がこの地区にあるのは知ってたけれど。

「知り合い?」

 

「まあ……アメリカ大使とは顔見知りだね。国連の方は胸のネームカードを見ればわかるよ」

大使と顔見知りって……いや、SPとかが親だったりしたら顔くらいは知っているか。ともかく今は逃げることを考えないと……いつ殺されてもおかしくないんだ。そう思うとなんだか怖くなってきた、腕が震えてしまう。

「逃げられそうかい?」

 

「縛られてるし無理だろ」

ご丁寧に銃まで持っている。

どう考えても外で破壊活動をしている奴らとは違う雰囲気が漂っていた。

 

「まあそうだろうね……でも殺されてないってことはまだ利用価値があるってこと。まあそれは向こうだけじゃなくてこっちにも同じことが言えるから」

 

「待っていれば救助が来るってことか?」

確かにアメリカ大使であればそれなりの要求を突きつけることができる。テロにしても自爆テロじゃないなら何かしらの要求をするだろうからな。

「そう言うことさ」

なら大人しくしておいたほうが良さそうだ。

 

 

 

どれくらい経っただろうか?なるべく体力を温存するために目を閉じて寝ていた私だったけれどにわかに周囲が騒がしくなって浅い眠りから引き起こされた。

「……?」

 

「おはよう。可愛い寝顔だったよ」

目を開けたら目の前にレナータの顔があった。ご丁寧にイケボで言われたら女だってわかっていてもドキッとしてしまう。なんか悔しい。

「ホストの口説き文句より酷いな」

「……悪かったね」

一瞬震えるものが手に当たった。目線を少しだけ下に下げると、レナータの手が微かに震えて私の手に乗っていた。

なんだ……あんたも私と一緒か。だから無理してまで気を保っていようとあんなこと言ったのか。

 

 

建物の中で銃撃の音が響いたのはその時だった。

見張りをしていた何人かが慌てたように外に飛び出していった。

「どうやら、きてくれたみたいだ」

建物が騒がしくなる。大使館の人達も何があったのだとソワソワし始めた。

 

 

天井から何かが落ちてきた。

「…っ!目を閉じて」

レナータがそっと叫んだ。同時に私も目を閉じた。

よくアクション映画で見る存在が転がり落ちてきたのだ。

 

閃光手榴弾。フラッシュバンとも呼ばれるそれが、テロリスト達と私達の合間で盛大に光と突発音を放った。

180デシベルもの音で耳が瞬時に聞こえなくなり、目を閉じていても視界が真っ白に染まり、目が眩む。

誰かが近くに飛び降り、何かをしているのが振動で伝わってくる。

 

 

「大丈夫か⁈」

ようやく視界と耳が聞こえるようになった時、真っ先に飛び込んできたのはゴリラみたいな男が近づいてきて拘束をほどき始めた。

その側ではさっきまで立っていたテロリストが倒れていた。

その体が急に燃え出して、急速に灰になっていく。

人間…じゃありえない光景だった。

 

「人質を確保!これよりビルから脱出します!」

ゴリラみたいな人の横で、スラッとした男がどこかと連絡を取り合っていた。さらにマスクをつけた軍隊のような格好の人達も扉から続々と入ってきていた。

「彼らがBSAAさ」

 

「軍隊みたいだな……」

 

「あながち間違ってはいないかもね」

どうやらあのゴリラみたいな人が隊長らしい。キャプテンと呼ばれていたから間違いはないだろう。ならその隣にいるのは副隊長か?まあいいや。

 

「ところで君達は?どうやら国連職員でも無いようだが…」

話しかけてきたのはゴリラみたいな人だった。いやゴリラって言っちゃ失礼か。だけどガタイが良すぎるだろ。某ボディビルダーな俳優並みじゃねえか。

「ただの巻き込まれた一般市民さ。私はレナータ。こっちは恵飛須沢 胡桃」

 

「そうか。俺はクリス。BSAAの隊長だ。すぐにここから避難する。逸れないでついてきてくれ」

 

 

 

 

「車を向かわせています!合流ポイントまでついてきてください!」

大使館職員に混ざって私たちもその場を後にする。

建物の中にはまだ敵がいたのか、前に出た隊員達が銃撃を行なっていた。

 

 

そんな中で、クリス隊長が何かを発見した。それはゆっくりと通路の奥から現れて、フラフラとした足取りで近づいてきた。

「何あれ……」

手足は確かにあるのだが、身体中が膨らんだ醜い化け物のような存在だった。

「腫瘍の塊みたいな……」

腐りきった体が腐敗ガスで膨らんでいるような…みているだけで気持ち悪くなるようなやつだった。明らかに仮面の奴らとは違う。

突然そいつの腫瘍が破裂し、青いガスが吹き出された。

 

近くで銃を構えていた隊員がガスに巻き込まれた。

もがき苦しみだす隊員を横目に隊長が射撃を開始。集中射撃で体を削り取っていく。

 

もがき苦しんでいた隊員が、急にこちらに向かって駆け来た。

その顔は、土気色に変色した目は白目を向いていた。

別の隊員が悪態をつきながらそれを撃った。2、3度弾が命中するたびにそれはのけぞり、頭部を貫通した弾丸が致命傷になりその場に崩れ落ちた。

 

「さっきのガスはゾンビにしちまう危険なガスだ‼︎絶対に吸い込むな!」

そんなガスを放つ敵までいるのか‼︎すぐにクリス隊長が私達を後ろに下げ、奴を攻撃し始めた。

 

 

 

しばらくして銃声が止み、クリアという声が聞こえてきた。

私達もそれにわせて進んでいく。

ようやく一階までたどり着き、シャッターを潜り抜けた。

その直後、背後で大きな音がした。振り返ると、入口が崩落で塞がってしまっていた。そこにクリス隊長の姿はなかった。

 

「「隊長さん⁈」」

 

「落ち着け!今隊長から連絡があった。このまま避難する!」

私達の動揺を抑えようとしてくれたのか隊員の1人が、すぐにこの場を離れるように指揮を取った。どうやらこの建物自体をミサイルで吹き飛ばす予定らしい。クリス隊長達は別ルートから脱出するつもりなのだとか。

 

 

駆け足でその場を離れる。

「もう大丈夫だ」

屋根に機銃を乗せた軍用車両が、目の前で急停車した。

すぐに国連職員と隊員たちが車に乗り込んでいく。その後ろで、一際大きな爆発音がしてさっきまで私たちがいた建物が倒壊した。隊長達が大丈夫なのか気になったけれど、少ししてハンドルを握っている隊員が、クリス達も脱出したという連絡を受けたと知らせてきた。

よかった。

私達2人は後から来た2台目に乗った。この車両には他に隊員が数人乗り込んできた。

 

 

「ところで君達は?どうやら大使館とは関係ないようだが……」

隣に座った隊員がふと思い出したように聞いてきた。

「ただの一般人」

レナータがそう答える。

多分そうじゃないだろうけれど今追求するのはやめておく。

「そうか。一応安全地帯まで送りたいんだがこっちの車両は他の場所での援護に回さないといけない。向こうの車両は定員オーバーだから危険地帯を抜けたら避難誘導に従って逃げてくれないか?」

ゴーグルとマスクに隠れた顔が申し訳なさそうにしているのが一瞬だけ見えた。

「了解した」

 

 

 

到着したのはターチィと呼ばれる地域の外れだった。私達を乗せてくれた車は少ししてまたあの地区に戻っていった。

ここでも避難民が荷物を持って移動していた。やはりどこもこんな感じなんだな……

車を降りて川縁の手すりに寄りかかる。

「ここはまだ安全みたいだね」

レナータが、遠くの橋で脱線した列車を見つめながらそう言った。

「世紀末感がどうしても拭きれないんだけどな」

「世紀末?」

 

「あーわからないんだったら気にしないで」

 

「……」

「なんだか実感が湧かないな……」

死の恐怖に直面していたのに冷静だったし……

「人間、非現実的なことに直面するとリアリティを失うんだよ…それにしても嫌な予感がする……」

 

ふと何かが飛翔する音が聞こえた。戦闘機とは違う、もっと小さなものが矢のように突き進む音。つられて空を見上げると、一筋の線が近づいてきていたよ

「あれはっ!」

海の向こうから赤い光を放つ光点が現れ、あっという間に高層ビル群の影に隠れていった。ほんの一瞬のことだった。

「巡航ミサイル……?」

レナータが顔を蒼くしていたけれど、予想されるような熱風も衝撃波も襲ってこなかった。

そのかわり、悲鳴と共に青いガス雲がビル群の合間に現れた。

空気よりも重たいガスなのかそれは瞬く間に地面に降下し、拡散されようとしていた。あまり遠く無い。いや、近すぎるっ‼︎

「まずいっ!あれと同じ毒ガスだ!」

 

「くそッ!なんでなんだよ!」

瞬く間に周りにパニックが広がっていく。

 

瞬く間に広がっていく青いガス。悲鳴と怒号が格段に大きくなった。

目の前の道を歩いていた人たちが反対方向へ向かって駆け出していた。

「どうすれば……」

 

「BSAAの人達から離れないように!」

 

「レナータ?」

 

「彼らはバイオテロのプロだから。今は信じるんだ」

近くにいたBSAA隊員のそばに駆け寄る。他の人たちは我先にと反対側に向かっているがそっちからもガスが迫ってきていた。

「すいません‼︎避難はどうしたらっ!」

ここで指揮をとっているであろう小隊長らしき人のそばにレナータが駆け寄った。

「子供⁈くそ……こうなったら…君達!俺たちから離れるな!おい!小隊集合!この場所から退避する!」

 

「俺たちも協力させてくれ」

長身の男と女性もそれに加わった。

何か手帳のようなものを見せて、小隊長さんと思われる人と何やら話していた。普通の人ではないみたいだ。服装は普通の人だけど。

「わかった!」

 

「こっちだ‼︎」

隊員達が毒ガスからの避難のためビルの扉をこじ開けた。ガスから逃れようとなるべく建物の高いところに移動しようとしているらしい。

先導をする隊員の側に隊員じゃない人が2人いた。

銃を構えているところからして普通の人ではない。その身のこなしも、普通の人というより警察とかセキュリティサービスのような動きだった。

「こっちだ!上へ逃げろ!」

階段を駆け上がる最中、後ろで窓ガラスが割れた音がした。

 

 


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