ガスから逃れるために入ったビルの中も、ガスによって化け物にされてしまった奴らが押し寄せてきていた。
ガラスが砕かれ、ガスと共に化け物たちが入ってくる。
先頭をいく隊員と一緒に上に逃れるように上がっていくが、その先の通路も扉が閉ざされていて開けられそうになかった。
「下がっていろ!」
途中から合流した男性と女性が、扉を蹴り飛ばして吹き飛ばした。
「ここは押さえておく!行け‼︎」
私達をここまで連れてきてくれた隊員が階段を登ってくる化け物達に向かって銃撃を開始した。
先行した隊員が通路の奥の方にいた。
そこまでなら安全なのだろうと判断したけれど、それは間違いであった。
不意に隊員の近くのシャッターが揺れた。
その直後、シャッターが破壊されずに大量の化け物が通路に溢れ出した。
「危ない!」
咄嗟に男が隊員に襲い掛かろうとしていた化け物を蹴り飛ばした。だが次から次へとシャッターの壊れた通路から押し寄せてくる。
女性が持っていた短機関銃で応戦していく。
荒れ狂う化け物の頭に的確に弾丸がめり込んでいく。
BSAA隊員が使う5.56ミリ弾だけじゃなく、9ミリパラベラム弾も混ざっている。レナータがBSAAの腰から勝手に引き抜いて使っている拳銃から放たれたものだった。
だが数が多すぎる。比較的狭い通路だと言っても対処しきれない。
「うああああ‼︎」
近くにあった消火器を持ち、力任せに近づいてきた化け物をぶん殴った。
あたりどころが悪かったのか、消火器が当たった化け物は首があらぬ方向へ曲がり、その場に倒れた。間髪入れずに近くに化け物の頭も殴りつけた。生々しい音が消火器を伝わり手に響いた。
「数が多すぎる‼︎」
気づけば階段のところから撤退してきたのかさっきの隊員がすぐ側まで後退していた。
シャッターを破壊して入ってきた化け物とで挟み撃ちにされてしまっている。
「こっちだ!」
隊員が外に繋がる裏口の無理やり扉をこじ開けた。
先に行けと私たちを先に通す。その直後、後ろを押さえていた隊員が、押し出されるように飛び出してきた。その直後後ろから呻き声の連鎖が響いた。
「振り返るんじゃないぞ!」
振り返ると、隊員の1人が、扉を閉めようとしていた。自身がまだ内側にいるにも関わらず。その隊員の肩や腰から、化物達が手を伸ばしていた。
「そんなっまって!」
私の声など聞こえないかのように彼は扉を閉じた。
いや、化け物たちに引っ張られるかのように、扉の向こう側へ消えていったというべきだろうか?そんな感じがした。
彼の目は最後まで任務を全うしようとする漢のそれだった。
階段を降りた先に止められていた車に乗り込むと、少しして青いガスが押し寄せてきた。
「あんたらはどうするんだ?」
「俺たちはあのタワーに向かうつもりだ」
あそこは避難指定ポイントになっているらしい。だけれど、彼らは逃げるためにそこに行くのではないらしい。別の理由があるようだ。詳しくは教えてくれなかったけれど……ただ、レナータは彼らが時々口にしていた名前を聞いて少し考えていた。
「レナータ知ってるの?」
「大統領補佐官だよ」
「それがどうして……国際問題になりかねないよね」
「詳しくはいえないが……」
動き出した車の中で、レオンと名乗った男はこのウィルステロがアメリカでも行われているとことそれの裏にその大統領補佐官が関与していることを簡単にだが教えてくれた。
やがてガスが晴れてきた。同時に道は横転したトラックによって塞がれている光景があらわになった。
「ここからじゃすすめないな…お前たちは先に行け。俺は仲間を回収してから行く」
運転していた隊員がレオンさん達にそういった。
「嬢ちゃんたちは?」
運転していた隊員さんが私たちにも聞いてきたけれど、タワーまで彼らについていける気はしなかった。
こちらも避難場所に向かいたいけれど……
「仲間の回収に同行することにするよ」
「今となってはそのほうが安全だ」
レオンさんもレナータの意見に同意した。
「言うと思ったぜ。少しの合間耐えてくれよ」
レオンさん達を下ろした車は再び走り出した。
時々無線機に呼びかけて、仲間の位置を確認していた。
「一般市民に厳しいものだね」
青いガスの中に再び戻った車。金属とガラスの扉を一枚隔てて生と死が分かれているその様はまさに地獄を覗き込んでいる気分だった。
ヘッドライトの灯りに、人を喰っている化け物の姿が映し出される。さっきまで生きていた人間が同じ人間を喰らう。地獄が再開されたのだ。
「外は見ないほうがいい」
運転していた隊員が頭に手を乗せてきた。
「この車大丈夫なんですよね?」
「対NBC対策はしてあるから大丈夫だ。気になるなら後ろにガスマスクが置いてあるからそれをつけておいてくれ」
レナータが後ろで何かを探し始める音がしばらくして、あったよとガスマスクを渡してきた。
よく映画などでみる顔全体を覆うフルフェイスマスクではなく、口元だけを隠すタイプだ。だけれど呼吸用フィルターなどはごついものが口の近くに取り付けられている。
「ガスって皮膚浸透とかしないのかな……」
「半年前に使われたものと同じタイプだとすれば皮膚からは浸透しないが傷口とかからウィルスに感染する可能性はある」
「そっか……」
いずれにしても危険であることには変わりないか……
「厳しい世界だね……」
後ろの席で外を覗きこんだレナータが呟いた。
ガスが晴れている場所に到着し、車が停車した。
隊員が無線機で誰かと話をした後、車体上部に設けられたハッチから身を乗り出した。
「ちょっと騒がしくなるかもしれないが我慢してくれよ」
少しして近くの建物の扉が開いて、BSAAの装備をした人が3人飛び出してきた。その後ろからは多数の化け物も一緒についてきていた。
ハッチから身を乗り出した隊員が後ろの化け物達に攻撃を始めた。車に隊員達が乗り込んでくる。
「全員乗ったぞ!出せ‼︎」
閉められた扉を叩くように幾つもの手と顔が張り付いてきた。
ハッチから身を引こうとした隊員がなにかと格闘し始めた。ハッチの隙間から化け物の手が見えていた。どうやら屋根の上にまで乗っかっていたらしい。
このままでは囲まれてしまう。
咄嗟に助手席から運転席に飛び移り、ギアをドライブに入れアクセルペダルを踏み込んだ。目線が低いせいで前が見づらいけれど、走らせる分には問題なかった。
車が急発進し、目の前にいた化け物がはじき飛ばされた。
屋根の上にいた化け物も同時に吹き飛んだのか、すぐに隊員が身を下げた。
「助かった。車の運転できたのか?」
「レナータの見様見真似です」
実際にハンドル握って運転するなんてのは初めて。だからアクセルを軽く踏み込んだだけであんなに加速するなんて思わなかった。
「なら道を指示するからその通りに走ってくれるか?」
今から運転を変わるのも手間がかかると判断したのだろう。
「わかった。やってみる」
少し進んだ先で右折を指示してきた。ハンドルをどれくらいきれば良いのか分からずレナータが後部座席から指示してきた。他の隊員は何か話していたみたいだけれどネイティブな発音は聞き取りづらいしこっちは運転に必死でそれどころじゃなかったから覚えていない。後でレナータから聞いたところによると結構私たちを茶化しながらも助かったことに安堵していたようだった。
「救助ヘリだ」
ガス雲が晴れて化け物を跳ね飛ばしながら突き進んでいると、頭上をCH-47の編隊が飛んで行った。
「民間人の救助を行うために飛んできたんだ」
助手席にいた隊員さんがそう教えてくれた。
そのヘリについていくように道の角を曲がると、化物達が大量に現れた。その奥にはハンヴィーとストライカー装甲車で即席で作られたバリケードがありBSAAの隊員達が防衛線を張っていた。
車体を咄嗟に横向きにしながら車体側面でバリケードに群がろうとしている化け物を跳ね飛ばして絶命させていく。
ハッチから身を乗り出した隊員も化け物を素早く掃討していく。熱くなった薬莢が転がり落ちてくる。
ふとサイドミラーで後ろをみるとレナータもドアを開けて身を乗り出しながら化物を銃撃していた。
バリケード端っこで車は停車した。
その頃には化け物達は一掃されていた。
「今のうちだ!この先で民間人の空輸避難を行っている筈だ、君たちはそこへ行け」
「わかった。ありがとう」
「そうだ。無事だったら食事でもどうだ?アメリカだが美味しいお店に案内しよう」
車から降りる直前、運転席に戻った隊員が誘いをかけてきた。悪い人ではない。いつかアメリカに行くことがあったら食べに行こう。
「ならそっちも生き延びてくださいね‼︎」
「わかってるさ」
この人は生き延びます