化物達を食い止めている防衛線からヘリコプターの発着場まではそんなに距離がなかった。
私達が車を降りて駆け出してから僅か五分程度しか離れていない。
そんな広場には生き延びた人達が集まっていて、必死にヘリに乗ろうとしていた。
暴動や混乱が起こっていないのはひとえにBSAAの誘導が的確で人を落ち着かせているからだろう。
「慌てないで!次の便もすぐ上に待機しています!」
「ほら横入りするな‼︎ちゃんと全員分載せられるだけの余裕はある!」
「この便はいっぱいだ!すぐ次を降ろすからそっちにしてくれ!」
機内に人を乗せるだけ乗せたヘリが少し重たそうに機体を浮かばせた。
離陸して数分後に、上空で待機していた別のヘリが降りてきた。
ch-47、自衛隊でも使用されている中型のダンデムローター機が後部の貨物ランプを開け、人々を収納していく。
本当に後数便でここにいる避難民を全員収容できそうな勢いだった。
「それじゃあ私達も……」
ヘリに乗ろうとしている列に加わろうと歩き出した瞬間だった。
それは不意に聞こえた。背後の……バリケードがあった道路の方からだった。少しして悲鳴となにかが吹き飛ばされ、破壊される音が響いた。
「なんだ?」
唐突にそれらは現れた。
今までの化け物とは全く違う……異形の存在だった。
体は粘液が張り付いているのか不気味に光沢がかっていて、筋肉が剥き出しの変色し、腐ったかのような肉体。
片腕がもはや人のそれを残しておらず、まるでチェーンソーのように細い触手が幾重にも絡まり、剥き出しになった鋭いトゲのような骨が刃のように飛び出していた。
それらが数体。
そして、硬そうな外皮を持ちいかにも力自慢ですと言った風貌を持つ異形が、遅れて広場に入ってきた。
そいつの体は至るところから蒸気が出ていた。物凄い熱量を持っているのだろう。
一瞬でパニックとなる人達、その波に向かってチェーンソーのような腕を持つ異形が動き出した。
BSAAが反撃に移る。
私達のところにも向かってこようとしていた。
生憎まだBSAA隊員達とは距離があった。
レナータが牽制のため奴らの頭らしきところを銃撃するけれど、怯んだ様子はない。
「やっぱり.454くらいないと…」
後ろから隊員達が援護射撃をしてくれたけれど全く怯む様子もなくそいつは私達に襲い掛かろうとしてきた。レナータと一緒に横に避けることでどうにか突進は回避できた。
「うぐうっ⁉︎」
「レナ⁈」
だけれど、レナータがやや遅れてきた蹴り飛ばしに巻き込まれて吹き飛ばされた。幸い怪我をしている様子はなさそうだった。だけれどそう簡単に互いを援護できるような状況ではなくなってしまった。
BSAAはヘリコプターに向かっていく異形の化け物相手に防戦一方だった。
異形の化物は蹴り飛ばしたレナータではなく私に照準を定めた。死の恐怖が体を震わせる。
頭が真っ白になり、なにも考えられない。
手が何かに触れた。
顔を上げると、それはスコップだった。それもかなりの大きさだ。
手に力を入れてそれを振り回した。
「うわあああああっ‼︎」
先端が肉に突き刺さる鈍い音がして、力任せに振り回したスコップの動きが止まった。
「っ!」
一度突き刺さったスコップを戻し、もう一度振りかぶる。
頭らしき部分が遠くに吹き飛んだ。
「ふーっ…ふーっ」
レナータを襲っていた異形が私に目標を変えた。
先手必勝。やられる前にやるしかない。
槍のようにスコップを構え、駆け出した。
気分が昂揚していたのかもしれない。だけれどあの時は必死だった。
スコップの金属部分が、そいつの人ならざる腕を切り飛ばした。
感触はよく覚えていない。だけれど、血飛沫が上がるのだけは覚えていた。
タイミングよくレナータがやつの後頭部に銃弾を浴びせ、そいつは糸が切れた操り人形みたいに倒れた。
BSAAに襲い掛かろうとしている身体中から蒸気を吹いている化け物の背中をレナータが攻撃した。
背中の皮膚が剥がれ、白色の何かが剥き出しになった。
咄嗟にそれをスコップで突き刺した。
その途端銃弾すら聞いている様子がなく平然としていた化け物が、大きく悶え始めた。スコップを縦に引っ掻くように引き下ろすと、化け物はさっきまでの威勢はなんだったのかと言わんばかりにあっさりとその場に倒れ、体が燃え始めた。
火傷をしないようにその場から離れて、周りを見渡すと化け物は全てBSAAが片付けたのか、いやるところで遺体が燃え上がっていた。
「くるみ!大丈夫かい?」
レナータか駆け寄ってきた。
「私は平気……そっちは?」
「私も……」
大丈夫と言う言葉は聞くことができなかった。
「うわッ!」
何かが私の体を強く押し飛ばした。視界がぶれて、体の至る所を地面に強打した。
それでも握りしめていたスコップを顔の前にして何かからの攻撃を防いだ。
ようやく視界が回らなくなった時、私に飛びかかってきていた化け物の姿を拝むことができた。
「くそっ!犬まで化け物かよ!」
飛びかかってきたのは皮膚がズルムケな白目を向いた犬だった。
だがそれが敵意を持って襲いかかってきたのは間違いなく、咄嗟に前に出したスコップに噛みつきながらも私の首元に喰らい付こうとしているのは確かだった。
木製の柄の部分が牙によってひび割れ、大きくしなり始めた。
「くるみっ‼︎」
レナータの援護が入り、動体に数発打ち込まれた化け物が一瞬怯んだ。
「うりゃっ‼︎」
力を込めてスコップを押し返し、そいつの腹を蹴り飛ばす。陸上部で足を鍛えていた甲斐があった。化物はスコップを咥えたまま大きく吹き飛び、近くの建物の窓を突き破って視界から消えた。
周囲は一瞬だけ静寂に包まれた。
だけれど、大通りの方から犬の化け物が数匹現れた。
今度はBSAAが化け物の突入を防ごうと攻撃を始めた。
「2人とも早く乗れ‼︎」
後ろから声がした。振り返ると、すでに避難民の姿はなく、ヘリコプターもCH-47ではなく中型のUH-60になっていた。
既に隊員の半数がそれに乗っている。
私達がヘリに飛び乗った直後、犬の化け物に続いて通りから人形の化け物が溢れ出した。
援護射撃が行われていたけれどそんなもの気にしないと言わんばかりの数の暴力だった。
最後の隊員がヘリに乗り、機体が浮かび上がった。ジャンプして飛びつこうとしていた化け物が、ヘリに飛び乗ることができず落ちていく。
高度を上げ、離れていくヘリの後方で、支援の爆撃だろうか、何かが落下し広場を吹き飛ばした。
「終わった?」
「終わったさ……これから避難所に行って……怪我のや感染の有無のための検査を受けるんだ……そのあとはさ…」
「言わなくていい…終わったんだな」
実感はまだ湧かなかった。
ヘリは安定して空を飛んでいた。遠くで、地上支援を行うシーハリアーの姿が見えた。戦いはまだ続いているのだった。だけれど私たちにはどうすることもできなかった。
そもそも一般人が同行できるようなほど人生は甘くないし主人公なんてものになれるはずもない。生き残れただけでも満足だよ。
「レナータはこれからどうするの?」
「んー休暇の延長」
「じゃあ私も延長するわ」
全部終わったはずだった。だけど悪夢はまだ終わっていなかった。
「先輩、ちょっと人助けに行ってくる。だから……」
ちゃんと見守っていてください。
おまけ
「めぐねえの家ってここで合ってる?」
「ええ、そこよ」
「お、第一次大戦の軍用エンピ!」
「なんでめぐねえが武器を……」
「会社から支給されたの」
√ランダムCP