めぐねえがいく『がっこうぐらし』RTA   作:鹿尾菜

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匿名から切り替えたので初投稿です。


さあ、貴女はどうするの?

私たちが小学校へ行っている合間に三階の廊下には机と紐によるバリケードが築かれていた。

それは彼らを食い止めるには少しだけ頼りなさそうで、でも今の私たちには立派な防壁に見えた。

 

これのおかげか3階の廊下には彼らの姿はなかった。とりあえずは助かったらしい。そう脳が理解してしまえば体から力が抜けてしまうのは明白だった。

思わず近くの椅子に座り込む。

時刻はまだ朝。数時間ほどしか経っていないけれど半日たったのではないかと思ってしまいたくなる。いや…あの日からずっと時間の流れが少し遅いように感じられる。

 

「1人だけ…だったのか?」

恵飛須沢さんが若狭さんの背中から降りたるーちゃんをみて呟いた。

「ええ……他には誰もいなかったわ。でも私たちより前に誰か来ていたのか車の跡はあったわ。無事を祈りましょう」

それは助けられなかったかもしれないという暗い絶望を捨てるための小さな光のようなものだった。だけれどこんな世界なのだ。そういう僅かな可能性にだってしがみついていないと心が保たない。

「そう……だな」

ああ、絶対彼女はわかっている。私の言葉がただの希望でしかないことを。

それにすがる以外の選択肢がないということも。

 

 

少し気分を落ち着かせようと思ったもののなかなか気分は落ち着かない。るーちゃんを囲っている皆んなから少し距離を取ってこれから何をするべきかを考える。

このままここに籠城して助けを待つべきか或いは自力で脱出するか。どちらにしても情報が少なすぎてどうしようも無い。

気休めにバリケードの強化でもしようかしら。あれだけでは少し不安だから。

確かまだ机はあるだろうから後は重ね合わせたりをどうにかすれば押されても倒れづらくすることはできる。それ以外にも方向誘導をするようにおいたりすれば分散できるかもしれない。実際あの時は一か所のバリケードが崩れたら連鎖的に崩壊してしまっていた。一部だけ崩れやすくしてあえてそこに穴を開けることで圧力を逃がすようにしても良いかもしれない。

「先生どこいくんですかー?」

柚村さんに見つかってしまった。勘が良いから先生困っちゃうわ。

「ちょっとバリケードの補強を…」

どうして彼女はそんな首を振るのだろう?

「いやいや、先生休みなってば」

え?でも…

「そうですよ。運転もしてたんですし走り回ったんですから今日は休まなきゃ」

若狭さんにまで言われてしまっては流石にやめておこう。私も少し疲れを感じていたところだ。そうね。無理して倒れたら大変だから。

「そう?じゃあお言葉に甘えて……」

 

「めぐねえは無茶しすぎだって。ちょっとは休んでいても良いんだぜ」

でもね……私が休んじゃうと恵飛須沢さんが今度無理しちゃうでしょ。先生それは嫌なの。いくら貴女が大丈夫と虚勢を張っても、それは儚く脆いものでしかない。近いうちに崩壊してしまうものだ。

 

 

 

 

 

椅子に座ってたらウトウト眠気がきてしまい、気づけばお腹にゆきちゃんが乗っかっていた。

時計は相変わらず時を刻んでいた。

「もう直ぐお昼ね……」

 

寝てしまっていたようだ。

でもおかげで頭がスッキリした。眠れてちょうどよかったのかもしれない。

そういえば職員室に緊急事態が起きた時にのみ閲覧して良いっていう書類があったわね。

どさくさで完全に忘れていたけれど今がその緊急事態じゃないのかしら?災害とかそういう時にどうすれば良いかなんかは書いてありそう。まあ気休めでしかないけれどもしかしたら毛布とか布団とか段ボールとか避難所設備が揃っている場所くらいは書いてあるだろう。

それがあれば多少は楽に寝ることができるかもしれない。ゆきちゃんを起こさないように静かに体を退かし、職員室に向かう。

途中柚村さんとすれ違った。一瞬どこへいくんですかと目線で訴えられた気がした。

「先生どこにいくんですか?」

やっぱりそうだった。なんでしょう…ちょっと警戒しているのかしら?

「職員室よ」

 

「職員室?何か取ってくるんですか?」

 

「そんなところかな?」

他にも私の机の中とかにちょっとは役に立つものが入っていたはず。十徳ナイフとか…残っていれば良いなあ。

「気をつけてください先生」

 

「わかっているわよ」

職員室まではバリケードによって道が確保されているから特に危険な事もなく、職員室も最初の日に破壊されたところを除けば特に変わったところはなかった。

扉や窓ガラスの破片も一部は掃除してくれたのかなくなっていた。

頑張ってくれたのね……

久しぶりに自分の机に座ってみる。

もしかしたら悪夢が覚めるかもしれないから……でもそんなことはなかった。

神山先生がいつものように話しかけてくることも教頭先生が生徒との距離を適切にと説教をしてくることももうない。完全な孤独だった。

 

静かすぎて辛くなってくる。主電源が入らないテレビはその機能を完全に停止し、何も映さない。ケータイも基地局がやられたのか通話は不可能。ネットもダメ。完全に外部からの情報は入ってこない。

あれだけ鳴っていたサイレンも今はもう聞こえない。街自体が死んでしまったように思えてくる。

 

机の中に入れておいた双眼鏡を取り出す。何があるか分からないからと持ってきていたものだけれどちょっとは役に立つかもしれない。後はライター。正直まだ使わなそうだ。でも持っておくだけ良いかな?

十徳ナイフを入れておいた棚は誰かが取り外して使ったのか変形した状態で教頭先生の机の下に転がっていた。もちろん十徳ナイフも見つからない。

 

 

そういえば緊急のマニュアル見なきゃ。

確かあれは……金庫に入っていたはず。正直マニュアルなのだから棚にでも入れておけば良いのにと不思議に思っている。一応全員に金庫番号は周知されていたけれど……

 

 

 

閑話休題(SAN値チェック)

 

 

「……うそ」

こんな……こんなことが許されるの?

マニュアルにはこのような大規模感染が発生した場合の対処と非難場所が書かれていた。この惨事は想定されていた?いやそれよりも……

地下に設けられた避難用の区画。そこは収容人数たった15人分しか確保されていない場所だった。クラスの半分の人数しかない。入り口も三階職員室に最も近いところにあるエレベーターを使えと書いてある。

命の選別……いや、これは学校の生徒全員を見捨てて教師陣の一部が避難するためだけに作られた避難区画。15人で一ヶ月分の食料が備蓄されているにすぎない地下シェルターのようなものだった。

そこで救助を待つと……ふざけるな。生徒の命をなんだと思っている‼︎

子供900人の命を見殺しにしてのうのうと助かろうなんて……

こんなものを作成した者に怒りしか出てこない。

 

おそらく校長や教頭はこの中身を知っていたのだろう。その上で生徒を見ていた…最低だ……教師失格と言いたかったけれどその相手はもう彼らとなってどこかを彷徨っているのだろう。

或いは生き延びているか……どちらにしてももう無意味だろう。それにこれは緊急時のもの。想定はしていても想像はしていなかったのかもしれない。

 

 

 

マニュアルをめくっていくと発生しうる可能性のある感染ウィルスの情報まで書いてあった。ワクチンがあるようだけれど正直それが効果があるのかはいまいちわからない。何せ書かれているウィルスの情報では詳細がわからない上に肝心なところばかり黒塗りだ。種類もいくつかあるようでどれにどれが効くのか……

そもそもウィルスってことは変異性が高いことが多いからすぐその性質を変えてしまう。

このようなウィルスは前に見たことがある。もしかしたらその類のものかもしれない。細菌とか……ウィルス以外にも可能性はある。

 

 

……なんとなく違和感のようなものはあったけれど学校ってこんなものだろうと納得していた私がアホだった。もっとちゃんと調べておけばよかった。妙に屋上に集中した豪華な非常設備だって違和感はあった。風力と太陽光だけならまだわかる。だけれど屋上に畑や水の濾過装置まであったらさすがに不自然だ。

まあ皮肉なことにそれらの設備が私達を救っているのも事実なのだけれど。

仕方がない。こうなったら私は彼女達を最後まで生かす。

何がなんでもだ。これ以上こんな理不尽で大切な教え子を失うわけにはいかない。今回の事故が人災なのかそうじゃないのか……そんなことはもうどうだって良い。

 

それにしてもランダルコーポレーションか……まるであの時のアンブレラ社みたいね。私だって名前くらいは知っているしこの街に住む限り普通に耳にする存在だ。

町の再開発計画の時から街の発展に関わり続けた製薬会社。現在では多方面に手を伸ばしているから製薬会社ではなく複合企業となっている。

まるでアンブレラ社のような存在とはよく言われていた。ただあちらはとっくに破綻して民事再生法がどうとかだったけれど……だとしたらもしかして……

疑問がいくつも出てきたけれど、それを解決してくれそうな答えは見つからなかった。

 

 

だけれど収穫がなかったわけではない。布団や毛布の場所も一応記されていた。生徒会室にダンボール入りになった毛布と布団が20セット。体育館のほうには通常の災害時に備えたものがあると書いてあった。

 

ふと職員室の入り口に人気を感じ、マニュアルを机の引き出しにしまった。

「やっぱりここにいた。めぐねえもう直ぐお昼ご飯だよ!屋上でみんなで食べるから呼んできてって」

ああそうだった…もうそんな時間だったのか。

「ありがとうゆきちゃん。じゃあ一緒にいきましょう」

 

まだこれは見せるべきではない……問題を先送りにしている自覚はある。だけれど今こんなものを見せたら……どちらにしても傷を残すだろう。

 

 

屋上に上がると、どうやら蕎麦を作っていたらしい。さっきのあれのせいで食欲が低下していたからちょうど良かった。

蕎麦以外にも多少パンやサラダなどもあった。若狭さんが少し得意げにしていたから作ったのは多分彼女なのだろう。

ほんのわずかだけれど、風を切り裂く音が聞こえた。空を見上げると、そこには灰色で空に紛れるようなモノトーンの何かが動いていた。

さっき持って来ていた双眼鏡でその動いているものを観察してみる。

一瞬だけ双眼鏡の視界にそれが映った。

「……無人偵察機?」

機種は詳しくわからないけれどアメリカ軍がよく使っているプッシャー式の無人偵察機だった。

側面には小さく部隊紋章が掲げられていた。BSAA…バイオテロ対策部隊だったかしら?確か数年前にそんな組織ができたというのをニュースで見たことがある。これももしかしてバイオテロの一種なのだろうか?

もしかして生存者を確認しているのだろうか。

彼らの真意は私にはわからない。だけれどもしかしたら救助が来るかもしれない。心の中で希望が膨れ上がった気がした。

「めぐねえどうしたの?」

 

「なんでもないわ……飛行機が見えた気がしたのだけれど気のせいだったみたい」

適当にごまかすことにした。あれが味方であるという確信はまだないもしかしたら感染拡大を防ぐためと言って囲い込みを行う相手かもしれない。その危険性を一瞬でも想像してしまった。

「飛行機…まだ飛んでるのかな?」

 

「どこまでこの惨劇が広がっているかによるわね」

 

もしかしたら空港などの主要施設とかなら初期防衛が成功していればなんとかなるかもしれない。

羽田や関西国際空港などは地形的にも防衛はしやすいはずだ。

「そもそも救助来てくれるのかな?」

 

「「うーん……」」

 

警察や自衛隊を当てにするのはちょっと難しいかもしれないわね。

彼らだってその人数は限られている。日本人口1億超えに大して警察と自衛隊で70万にも満たないのだ。

さらに内部で感染者が存在する場合。組織系統が完全に機能しない場合。

人命救助よりまず組織存亡、ひいては自己の生存を優先するに決まっている。

 

「まあ先にご飯食べちゃいましょう」

 

「そうね。そうしましょう」

若狭さんの言う通りに蕎麦を食べてしまおう。流石に伸びちゃうわ。

 

 

 

閑話休題(お食事中)

 

 

 

人は暇な時間ができてしまうとどうしても落ち着かなくなってしまう。午後からどうしようかというミーティングを行ったものの、結局私は一日中休んでいて欲しいと懇願されてしまった。

でもそういうわけにもいかないだろう。なんだろう先生として自信なくなってきたわ。

でもまあバリケードの強化の仕方は教えたから大丈夫だろう……

 

屋上から遠くを双眼鏡で見てみたものの、動いているのは相変わらず彼らだけだ。グランドでも風に吹かれたボールに反応した彼らがそれを追いかけている姿が見えるのみ。

生きている存在はもうどこにも見えない。

 

ふと服の裾を誰かが引っ張った。

「あらるーちゃん?どうしたの?」

足元にいたのはるーちゃんだった。

視線を下げるためにしゃがめば、メモ用紙に何かを書き込んでいた。

 

(やることがない。退屈)

そういえば若狭さんは野菜の手入れをしているしゆきちゃん達は今バリケードの改良に行ってしまっている。子供1人というのもまた酷だったかもしれない。環境に1番影響を受けるのは子供だから。

「あー…そうね。じゃあるーちゃんは何がしたい?先生が一緒に遊んであげるわ」

(ほんよみたい)

 

「本ね……今手元にないかなあ…ちょっとまっててね。そしたらいくつか図書館から持ってくるわ」

 

流石にるーちゃんを連れて図書館へ行こうなんてのは無理がありすぎる。

そこで、バリケードを作っているゆきちゃん達のところに行き図書館へ行きたいから何人かでいかないかと誘ってみることにした。

流石にバリケードの補強もあるから全員で行くことは難しいけれどね。

 

 

「なら私がいくよ」

 

「えー!たかちゃん良いなあ……」

 

「こう言うのは早い者勝ちだよ」

 

「まあ…バリケードももうほとんど完成だから別に良いぞ行ってきても」

 

「んー……じゃあるーちゃんと遊んでくる‼︎」

 

「ぬああああ‼︎こらゆきいいいい!」

 

こんなやりとりがあって、柚村さんが一緒に来てくれることになった。本はいくつあっても良いと思うから何冊も持っていきましょう。

 

二階の廊下はお昼頃だからなのか明るいからなのかよくわからないけれど彼らがかなりの数いた。

だけれど最も多かったのは、学生食堂の中だった。かなりの数の彼らが入り込んでいた。

階段の影から覗き見ただけでも30体以上はいるように見える。

「こんなに食堂に集まっているなんて……」

いくら夜にいなくなるからといってもこれは異常と言えるだろう。

「腹でも減ったんですかね?」

年がら年中お腹空いているのではないだろうか…

「習性……なのかしら?」

「或いは生前の行動をとっているとか……」

 

「あり得なくはないわ。実際寄生虫やウィルス感染した虫や動物が感染前の習性や行動をとるのは観測されている事実だしそれに……」

そこまで言って思わず口をつぐんだ。あの件は一応箝口令が敷かれているんだった。

「それに?」

 

「なんでもないわ…」

 

食堂に集まってくれているからか図書館までの道はそこまで困難なものでもなかった。

それに図書館は相変わらず彼らは少なく、本を回収するくらいの余裕はできそうだった。だけれど危険なのは変わらない。

まだ背後を向いている彼らの1人の頭を鋏で叩き潰す。

音が出ないように体をゆっくりと床に下ろし、ほかの彼らにこっそり近づく。

 

4、5回繰り返せばもう図書館に彼らはいなくなっていた。中には私が担任を持っていたクラスの生徒だったものも含まれていた。ごめんなさい。私も後で地獄に行くから……

 

彼らの脅威がほぼなくなったところで本を回収していく。

娯楽として読める本をなるべく多く持っていく。それ以外にもサバイバル術が書かれたものだったりもある程度追加。

「あったあった世界の銃ポケット版」

何を選んでも良いと言ったけれど流石にそれは……へえ?分解組み立てに基本的な銃の扱い方まで乗っているのね。使えそう。どうしてこんな本があるのかは今となってはわからない。でもこれ生徒からのリクエストってわけでもなさそうね。ってことはやっぱりそう言うのに対処するためだろうか。

この図書館は学校側が独自に購入した本と生徒たちのリクエストによって購入される本をマークと棚分けで区別している。この本は学校側が独自に購入した本だ。

今までだったら珍しいなで終わっていたけれど今となってはそういった本もきっとその本書の通りの使い方をするための教本とするつもりだったのだろう。

 

「後はるーちゃんの為に軽い小説…青い鳥(ブルーバード)系統は確かここら辺だったはず」

本当ならもっと優しい本が良いのだけれどここは高校の図書館だ。ブルーバードが限界だ。

「司書さんか図書館のドンがいればなあ」

図書館のドンが誰のことかは知らないけれどおそらくここもかなりの惨劇が繰り広げられた場所だ。考えたくはないけれど……

でも奥の方にはまだいくつもの本がある。もしかしたらその中には図書以外の目的のものもあるかもしれない。別に知ろうと思っているわけではないけれど。

下の方の本や一部の棚は血が飛び散って黒く変色していた。

やっぱりここもかなり酷かったのだろう。3階より彼らが登ってきやすいと言うこともある。だけれど放課後でもかなりの生徒がいた場所でもある。防音性も高いから気づいた頃には囲まれていたのかもしれない。

 

「そろそろ本も回収し終えたことだし戻りましょう」

 

「そう……ですね。先生」

帰りもそこまで彼らは廊下にいなかった。相変わらず食堂内に溜まっていてふらふらと体を揺らしていた。まるで海で波に揺られる海藻のようなものだった。

 

持ってきた本をるーちゃんは気に入ってくれたようで、仕事が終わった若狭さんと一緒に日が暮れるまで読んでいた。流石に日没となれば停電した状態で本を読むのは難しく、空を見上げれば星がいつも以上に綺麗に見えた。

 

でもいつまでも眺めているわけにはいかない。荷物を取りに行かなければならないから。

 

 

 

 

 

 

 

めぐねえ達が朝スーパーから回収した食料を取ってくるために日が落ちてから、私達は移動することにした。割れた窓から差し込む月明かりと、非常灯の緑がかった灯りを頼りに校内を手探り状態で進んでいく。彼らは灯りに反応しやすいから懐中電灯も厳禁だ。

まるで肝試しみたいだなんて感想を抱いたのは最初に見回りをした時。幽霊でも出てきたっておかしくないんじゃないかと思ってちょっとだけ怖くなった。変だよなあ……噛まれたら感染するやばい奴らがウヨウヨしているそっちの方が怖いってのに。

そんな暗闇の中でもめぐねえは校内を覚えているのかのように素早く移動していた。

その動きには迷いはない。目を慣らせば誰でもできるわと言っていたけれど私はまだあそこまでスイスイ動くことは無理だ。身のこなしも、ちゃんと観察していると普通の人とはなんだか違うものだった。廊下や曲がり角の確認、まるで誰かに仕込まれたみたいだ。

その上慣れた手つきで彼らを倒していく。なんでこんな慣れているのだろう?私だって生きるため自分を押し殺してやっとなのに……教え子に手をかけるときの気持ちってどうなんだろう。

 

気づけば私はめぐねえの背中ばかり見ていた。頼りにはならない。むしろ壊れそうで少し怖い……そんな背中だった。

気がつけばふと何処かへ行ってしまいそうと言ったほうがいいのかな?

 

あっという間に車のもとにたどり着いた。改めてみると結構大きい車だなジープって。もっとこう小型で頑丈で屋根のない軍用車を想像していた。

後部席には食料品がたくさん詰め込まれていた。それだけじゃなくラップや紙皿、コップなんかも積み込まれている。

素早くそれらを持ってきたバッグに入れていく。

 

帰りも私が先導をしていたのに気づけばめぐねえが一足先に行っていた。

やっぱりめぐねえ…過去に何かあったんだろうなあ。それかこの事態もある程度知っているんじゃないのかな?いやいやそんな馬鹿な事があるか。なんて否定しようにも今までありえないと思っていたことがたて続けに起こってしまっていたからそれを否定するのが難しかった。

 

冷蔵が必要なものは2階調理場の冷蔵庫に押し込み、残りを生徒会室に運び込んだところで緊張の糸が解けたのかめぐねえと柚村は座り込んだ。

 

 

 

 

めぐねえ達が眠り、私が見回りをする番になった。まあ彼らは入ってこないし結構暇なものだったから、つい外で寝っ転がり夜空を見て綺麗だなんて安っぽい感想を抱いていると、後ろから声をかけられた。

「ねえ起きてる?」

振り返ればそこにはりーさんがいた。眠れなかったのかな?

「若狭か。どうしたんだ?」

そういえば苦笑しながらもりーさんは私の隣に同じように並んで寝っ転がった。

「悠里とかりーさんで良いわよ」

 

「じゃありーさんで」

由紀がそう呼んでいるからって言うにもあるけれどなんとなくそっちのほうがいい気がしていたから。

まあ深い理由があるわけではない。なんとなくと言うやつだった。

 

「佐倉先生のことなんだけど…」

 

「めぐねえのこと?」

 

「うん、ちょっと気になっちゃって」

 

「分かった。多分同じこと考えてるはずだろ。なんであんなに場慣れしているのか。だろ?」

 

「あたりよ。やっぱり思うことは同じよね」

 

「いくらなんでも慣れるのが早すぎるんだよなあ。だってあんなことが起こる数時間前にちょっと相談したんだけどいつもどおりのほほんとしてたんだよ。それが数時間であそこまでたくましくなるなんてな」

大きな出来事は人を大きく変えると聞くけれどどう考えたってそんなものじゃない。あれは……慣れている人だからこそのものの見方をしている。

「貴女だって似たようなものでしょ。もしかしたら何か吹っ切れちゃったのかしら…」

確かに、私はあの日先輩を手にかけた時から変わってしまった。重たいはずのスコップも容赦なく振り回し、彼らを叩き潰してきた。友人だったかもしれないもの、元気な後輩だったかもしれないもの。それらを手にかけ最近やっと気持ちの整理ができるようになった。なのに……

「実際前に似たようなことがあったって言ってたしなあ……」

最初は暴動とかそう言うのの類のことを言っているのかと思ったけれどそう言うわけでもなさそうだった。だとしたら考えられる可能性は一つ。だけれどめぐねえがそうだったなんて想像できない。まだ秘密結社の工作員の方が信憑性が上がると言うものだ。

「朝起きたら聞いてみましょう?」

そんな私の迷いをよそにりーさんは、素直にめぐねえに聞くことを提案してきた。確かにそれが1番かもしれない。

「そうだな。変に誤解するのも嫌だしちゃんと聞いてみるか」

こんな世の中になっちまったんだ。下手に誤解したり喧嘩したりなんてして後で謝ろうと言うのが不可能になってしまうのも珍しくはないだろう。

ちゃんと向き合って話せばめぐねえも教えてくれるはず。何故だか知らないけれどそう思えた。

 

 

 

 

 

今日も私が朝方の見回りになっていた。まだ日が昇る前だったけれど見回りを終えて戻る頃にはそろそろご飯の支度を始めようかと言う時間になっていた。たとえ文明が崩壊しても多少は文明的な暮らしをしておかないと人は体調を崩してしまう。

 

昨日の夜についでだからと炊飯器とお米を調理場から回収したから今日の朝は白米にしてみることにした。

おかずもサバの味噌煮とお味噌汁。それと小松菜のお浸しを作ってみることにした。流石に料理を始めたら音で気づいたのか誰かがおきた。

「なあめぐねえ…」

やっぱり恵飛須沢さんだった。それに釣られて若狭さんと柚村さんも上体を起こした。

「どうしたの?ご飯ならもう直ぐできるわよ」

だけれど料理ではなく彼女たちは私自身に用があったらしい。だけれど押し黙ってしまっている。何か気に触ることをしてしまったのだろうか?最初に口を開いたのは恵飛須沢さんだった。

「めぐねえって過去に似たようなこと経験したって言ってたよな?詳しく聞かせて欲しいんだ!」

それはかなり意外なことで、それでいて私の知られたくない過去だった。私の手はとっくの昔から血に染まっていたと暴露するようなものだ。できれば知られたくはない。

「それは……」

どうやら3人とも同じ意見のようだ。いや本当は私の胸の内にずっと秘めているのは辛いから誰かにぶちまけたいと言うのが本音なのだろう。だけれどこんな汚い大人をさらけ出したくないと言うちっぽけなプライドがどうしても押し留めてしまう。

そんなプライドを支えているのは拒絶される恐怖だった。いえば楽になるかもしれない。だけれど言ったらもしかしたら軽蔑されてしまうかもしれない。確証はない。だけれど否定することもできない。どうしても勇気が出なかった。

「先生がこんなに場慣れしている理由が気になっちゃってさ。聞かせて欲しいんだ」

いつもと変わらない調子で柚村さんが追い討ちをかけてきた。やめて、それ以上言われたら堪えきれなくなっちゃう。

話したところで何か変わるわけでもない。だけれど別に隠す必要があるわけでもない。一応箝口令が敷かれていることだから詳しくは話せない。いや…もう監視なんて無理だろう。この際話してしまうのも良いかもしれない。

そういった気持ちが抑えきれなくなって溢れ出した。

「本当はさ…めぐねえ無理に話さなくても良いと思うよ…でもちょっとだけ気になっちゃうかな」

 

「そうね…朝ごはん食べてから全部話すわ……私の過去について」

言ってしまったからには後戻りはできない。

それでも何かが吹っ切れたからか少しだけ朝ごはんが美味しく感じられた。

 




ちなみにめぐねえは実弾射撃経験ありです。

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