実はこの時点でCはある。
レナータはA
私がその街に留学に来たのは中学一年からだった。
両親が幼いうちからある程度海外文化を知って柔軟に物事を考えられるようにと言うことで中学校ごとアメリカということになったのだ。
ただ、私がきてしばらくの合間は平穏だった街も5時あたりから何か不穏な雰囲気が出てしまっていた。
ラクーンシティと呼ばれたその街は周囲をアークレイ山地に囲まれている。そこにある民家で猟奇殺人事件が発生したのを皮切りに、不審な生物の目撃情報や街での行方不明者が続出していた。
ただまだ呑気な頃の私はそれがアメリカなんだなあと思い気にしていなかった。
それが悲劇に変わったのは9月ももう終わると言う頃。
私はあの日仲の良かったレナータと、リサの2人でショッピングに出かけていた。
子供だけだけれど昼を少し過ぎたあたりで帰る予定だったしそこまで危ないとは考えてもいなかった。あの日は街の外からもラクーンスタジアムで開催されるスポーツを見に多くの人が訪れていたから道は混んでいた。
しかし昼過ぎになって状況は変わった。
市街地から少し離れたところにいた私達は、お店のショーウィンドウで
「スタジアムで暴動が発生。現在警官50名を動員して事態の収集に当たっている模様」
「また各地にて暴動が発生。混乱が広がっています」
「暴動?物騒すぎないかしら……」
そう言ったのはリサ。彼女はニュースをじっと見つめて暴動の様子を知ろうとしていた。特段興味があるわけじゃないけれど流石に近くで暴動が発生しているかもしれないとなれば見過ごすわけにはいかなかった。
「ねえリサ、一旦寮に戻らない?」
暴動に巻き込まれるのはごめんだ。自分の身は自分で守らないといけない。
「そうね…私もそれに賛成」
黙って私の後ろからテレビを見ていたレナータが賛成し、こんな状態で反対できるはずもなかったリサはじゃあ帰りましょうと地下鉄の駅に向かって歩き出した。
「お嬢ちゃん達地下鉄乗るのかい?」
歩き出した直後に声をかけられた。振り返るとそこにはパーカーを着た中年の男がいた。私たちの隣でテレビに目を通していた人だ。
「ええ、そうよ」
茶髪のポニーテールを揺らしながらリサが答えた。
「地下鉄、今止まってるぞ」
「え⁈止まってるんですか‼︎」
「ああ、ついさっき地下鉄に乗ろうと思ったんだが駅員にそう言われてな。詳しくは教えてくれなかったが」
参ったわねとリサが頭を抱える。地下鉄以外の選択肢はバスとか路面電車があるもののここから路面電車は距離がある。
さらにバスに関しては近くを通るバスは寮の近くまで行かない。
「参ったなあ……まあ時間はあるしどうにか考えよう」
レナはそう言ってバッグからバスの路線図を出した。
「バス使う?時間がいつになるか読めないけれど…」
暴動が各地で発生していると伝えているからまともに走っているのかが怪しいのだけれど。
「メグミの言う通りよ。どこかで電話を貸してもらって寮母さんに迎えにきてもらいましょう」
「確かにそれの方がいいかもしれないね」
レナもそれにすぐ賛成してくれた。少しして休憩を兼ねて入った洋服店の店員に事情を話したら快く電話を貸してもらえた。
代表でリサが寮母さんに事情を話していた。
気づけばもう午後の2時を過ぎていた。ちょっとだけ外を見てみるとなんだかいつもより変に騒がしかった。やっぱり暴動の影響なのかな。
「寮母さん今手が離せないから夕方あたりに車まで来てくれるって‼︎」
電話を終えたリサがカウンターから戻ってきた。
「なら安心だね。しかし運がないことだ…こんな時に暴動だなんて」
レナはそう嘆いて肩を竦めた。
「そうね…せっかくだしここで服でも買っていく?メンズが多いけれど…」
流石にこのままだとみんな気分が落ち込んじゃっているだろうから気を紛らわすためにそう提案してみた。
「あーまあレディースもないわけじゃないしセンスは良いからちょっとだけ見ていくか」
暫くして日が傾いてきた頃、私は店の外で寮母さんの車を待っていた。2人は店の中でのんびり待っている。交代で寮母さんの車を待つ役をやっているのだ。
そろそろきてくれるはずなのだけれどなかなか現れない。それどころか車はさっきから一方方向にしか走っていない。反対側に向かっているのは消防車や救急車、パトカーと言った緊急車両ばかりだった。
何か騒がしい。どうも変だと思っていると、ダウンタウンの方から逃げてくる人たちの一団が目に止まった。
一部は怪我をしているのか腕や肩から血を流していた。
何かあったのか聞こうとしたものの、私には目もくれず彼らは走っていってしまった。
通りの異変に気付いたレナとリサが店から出てきた。
「何かあったのかい?」
「わからないけれど…暴動なのかな…」
レナの疑問にただそう答えるしかない。怪我をしていた彼らが何から逃げていたのかそれを知るのはそう難しくはなかった。ただ、遅すぎた。
「さすがにお店に戻ったほうがいいんじゃないの?」
「でももう直ぐくるって言っていた…」
その直後、足を引きずるような音が聞こえた。人混みの喧騒の中で、それは確かにすぐ近くにいた。いつのまにか近くにきていたのだろうか。
リサの真後ろにそいつは忽然と現れた。
青白い肌に白目、一部の皮膚は腐っているのか腐敗していた。腐りかけた死体。いやそれは死体と言うにはあまりにもおぞましい何かだった。
「ひっ‼︎」
思わず後退りしてしまう。ふと横でレナが地面に尻餅をついた。腰が抜けてしまったようだ。気づいていないのはリサだけだった。早く教えなきゃと思ったものの、それより早くその化け物が動いた。
「え?どうしt……きゃあああ‼︎ちょ!離して!」
それは近くにいたリサの肩を掴み、その首元に噛み付いた。抵抗するリサの声が遠くに感じられた。
血と、肉が引き裂ける不快な音がして、目の前で起こっていることが信じられなくなっていた。ただのドッキリとかそう言うのだと思ってしまっていた。
だけれど実際に首筋を噛まれた彼女は、嫌々と暴れている。
「あ…あがっ…助け…」
彼女がそれに押し倒されるように前に倒された。飛び散った血で服も顔も血だらけだった。
助けようと手を伸ばしかけて、それが一体だけじゃないことに気づいた。
後ろから三人。いや三体。似たようなやつが迫ってきていた。そのうちの一体が倒れたリサの足に噛み付いた。さらに悲鳴が上がる。気づけば周囲でも同じような光景が広がっていた。化け物に襲われる男性、老若男女関係なしだ。
「い、いや‼︎」
どうしようもなかった。でも言い訳なんていくらしたって私の心は絶対にあの時のことを許したりはしない。その場にへたり込んでしまっていたレナの手を握って私はその場から逃げ出してしまっていた。
少しして我に帰って振り返ったものの、すでにリサは化け物達に囲まれていて姿は見えなかった。どうなってしまったかなんて言うまでもないだろう。
今になってその行為がどれほど酷いものだったのか……じわじわとお腹が締め付けられてくる。血の気がひいているのか視界が真っ白になっていく。
「ぁ……いやああああ‼︎」
「メ、メグ‼︎落ち着いて!」
「ごめんなさい‼︎そんなつもりじゃ……ごめんなさいいい‼︎」
だけれど時間は私に後悔をさせてくれなかった。私の声に反応したのか口を血塗れにした化け物達がこちらに向かって来ていた。
「すぐに逃げないとっ‼︎ほら立って!」
レナに引っ張られるように私は立ち上がる。いつのまにかしゃがみ込んでしまっていたらしい。リサを見殺しにしてしまった罪悪感から思わず一緒に死のうと考えてしまう。
「……っ!」
だけれどあの化け物の姿がどうしても怖くて、結局自殺願望より恐怖からの逃走心が上回ってしまった。
逃げ出そうと駆け出して、何かのエンジン音が近づいてきていた。
それは一台のバスだった。全く減速する様子もなくそのバスは道路に飛び出していた化け物を跳ね飛ばし、私たちのいる歩道に突っ込んできた。
「危ない!」
咄嗟に動いたのはまた私だった。
さっきまで私たちがいたところをバスが通り過ぎていく。
真後ろで街灯をなぎ倒したバスが、止まっていた車にぶつかった。激しい金属のひしゃげる音が響いて、反動でバスは私たちとは道を挟んで反対側の建物に激突した。
「あれは…そんな……」
事故を起こしたバスにはまだ乗客が残されている。一瞬助けに行こうかどうか迷い足を止めた。そして見てしまった。割れた窓ガラスから這い出てくるあの化け物達を。もうすでにあのバスは化け物の巣窟に成り果てていたのだ。
さらに近くで後ろ半分を押しつぶされた車から燃料が漏れていた。独特の異臭が周囲に広がっている。
「こっち!」
レナが私の手を引っ張った。近くの空いていた扉に飛び込んだ。
どうやら雑貨屋らしい。逃げ込んだ建物に人はいなかった。すぐに扉を閉めたけれどガラスの扉一枚じゃすぐに破られるに決まっている。そのまま二階への階段を駆け上がる。
二階は在庫管理の部屋なのかダンボールに乗せられた商品らしきものが積まれている以外には何もなかった。
廊下を真っ直ぐ進むとベランダに続く扉を見つけた。
でも鍵がかかっていて開かない。鍵を探している余裕も無い。
扉を引っ張ったり押したりして開かないか試す。
「開いて‼︎お願いだから開いて!」
何度か扉を叩きつけるように動かしていると、元から脆くなっていたのか何かが壊れる音がして扉が開いた。金属の破片が落下する音が聞こえた。
「開いた!」
「やったね」
二階ベランダは他の建物のベランダとほぼ繋がっていると言っても過言ではない状態だった。ベランダ同士の隙間は数センチ。
柵さえ乗り越えてしまえば簡単に乗り移ることが出来る。でも足元は金網式の足場だしあまり気持ちの良い物ではない。足場を支えている鉄骨も一部はボルトがなくなっていて宙吊り状態だった。歩くたびに不規則に揺れる。
当てにしていた手すりも古くなっているところは丸ごとなくなっていた。
「ゆっくり……」
近くで爆発が起きた。多分さっきぶつかったバスか車だろう。ふと遠くを見ると街の至る所で黒煙と炎が上がっていた。暴動なんて物じゃない。もっと大変なことが起こっているんだとようやく理解した。その頃にはもうすでに遅かった。
2、3件ベランダを伝って移動したものの、もうこれ以上先にベランダはなかった。ただ外階段と、ベランダのようなものがあったであろう跡地が少しばかり残っているに過ぎなかった。
一応足場は階段まで続いていた。手すりもなく足場も一部は支えの柱だけになってしまっているとこもある。それでも行くしかない。
「ねえメグってさ。結構度胸あるよね…」
「そう?」
「だってここ渡るつもりなんでしょ?」
「そうだけど……」
だってそこの建物の中あの化け物がうろついていたんだから仕方がないだろう。そんな危険なところに入るのとここを通るのとそう変わらないだろうし。
すごく危なかったけれど私達の重さにベランダ跡は耐えてくれた。不用意な振動もなくて助かった。
ベランダから降りた頃には周囲にあの化け物はいないように思えた。だけれどあんなことがあったからすぐに大通りに戻ろうとは思えず裏路地を駆け抜けた。こっちの方が安全そうだったからというなんとも安易な気持ちだ。安全なところなどどこにもないと言うのに。
途中で拾った鉄の棒を護身用に、地獄を走る。
「ひっ‼︎あいつらが…」
「だ、大丈夫……動きはそこまで早くなさそうだから……」
伊達にあの化け物から逃げていたわけではない。多少は観察している。走ることはどうやらできないみたいだし動きもどこか遅い。反応もどこか鈍い。
棒を使ってこちらに伸ばしてくる手を払い飛ばし横をすり抜けた。生きた心地がしない。いや、心がどこかでこの現実を否定してしまっていたのかもしれない。だから無茶なことができたのだろう。
だけれどそれも長くは続かない。金網による扉が道を隔てていた。
後ろからはあの化け物が追いかけてきてる。逃げ道は……
「どこかに……」
「メグ、あそこ」
レナが指を刺す方向には、半開きになった換気用の窓があった。ちょうどゴミ箱の上だ。
そこから建物の中に張り込む。もしかしたらこの建物にも化け物がいるのかもしれないけれどあそこでモタモタしていたらやられていたのは確実だった。
それにこの建物はなんだか騒がしくはないように思えた。
「ここってカフェ?」
入り込んだのはカフェの倉庫のようなところだった。部屋の扉には鍵はかかっていない。そっと扉を開けて外を見れば、そこには化け物はおらずバックヤードと思われるところにつながっていた。ほのかにコーヒーの香りが充満している。
「カフェっぽいね」
カウンターなどがある表側に向かってみれば、そこには生きている人間がいた。店員さんも銃を持って入り口を警戒している。表はまだあの化け物はいないらしい。今のうちに……
「お嬢ちゃんたちダメだよ。今外は危ないから扉を開けないで」
やっぱり止められた。それもそうだろう。
「というかお嬢ちゃんどこから入ってきたんだ?」
「裏の換気用窓から……」
あそこかと合点がいった店員さんは、頭をかきながら後で閉じておくかと呟いていた。
「う、裏口から出てもいいですか?」
ここに留まるということも考えたけれどここに止まって助けが来るのかどうか……移動するのも危険が多いけれどここじゃ籠城するのにはすごい不安だった。
「え?ああ…構わないよ。こっちだ」
店員に案内され裏口の方へ回る。さっきの道とは違ってすぐ手前に大通りが見える。幸いにもあの化け物は近くにいなかった。背後で頑張れよという言葉とともに扉が閉められた。
「あの化け物いないみたいだね……」
「今のうちに移動しよう」
大通りも避難してくる人はいてもあの化け物の姿はなかった。いや、いるのだろうけれどまだ見えていないだけ……
「きゃあああ‼︎」
「うわ‼︎離せっ‼︎」
居ないというのは幻想だった。裏路地から出てきた化け物が近くにいる人を襲い始めた。この大通りも安全ではない。
咄嗟に駆け出した。行き先なんてわからない。もうがむしゃらだった。
気づけばまた周囲にはあの化け物が集まってきていた。私達が出てきたあのカフェも入り口付近に化け物が溜まっていた。
道を走っていた車が化け物を跳ね飛ばしながら市の中心へ走っていく。轢き殺されたかと思いきやその化け物はまだ生きていた。関節が変な方向に向き、骨折もしているようだったけれどあれは這いずりながら近くで倒れていた人間を食い散らかし始めた。その姿が衝撃すぎて、目を背けた。
「……はあ、はあ……」
逃げるのに必死でいつの間にか息が上がっていた。近くで火災が起こっているのか肌が焼けるように熱い。ここはどこなのだろう?どれほど走ったのだろう?
「メグ、ちょっと休もう。流石にこのままじゃ途中で動けなくなっちゃうよ」
「わ、わかったわ……」
ずっと走りっぱなしだった上にもう精神的に参っていた。まだ大丈夫と自分に言い聞かせたかったけれど、私はそこまで意思が強いわけじゃない。レナに導かれるように、近くにあったラクーンモールの裏口に向かった。周囲にはやっぱり化け物たちがひしめき合っていたけれどまだそんなに数はいなかった。
「このモールなら」
表はシャッターが下りていて、中と外は完全に隔離されているように思えた。それに頑丈で広さがある建物はそれなりに避難所として機能するようになっている。
裏口の鍵はかかっていなかった。すぐ近くには炎を纏ったあの化け物がいた。そいつを棒で無理やり押し除けすぐに扉の飛び込む。
「動くなっ‼︎」
「ヒッ」
私達の目の前に突然棒のようなものが突きつけられた。それはよく見れば筒状で、猟銃なのだと気づくまでに少し時間がかかった。
「なんだ子供か、すまなかった。てっきり奴らかと」
私たちがあの化け物じゃない事をようやく理解したのか銃を構えていた男性はすぐ私達に謝罪した。
「あ、いえ、大丈夫です」
「……‼︎伏せなさい!」
男性の表情が豹変した。同時にレナが私の頭を押さえながらしゃがみ込んだ。
すぐ近くで何かが爆発したんじゃないかという轟音が巻き起こり、背後で誰かが吹き飛ばされる音がした。
「すぐに扉を閉めろ!」
ああそうだった。扉を閉めるのを忘れていたのだった。
振り返れば炎を纏ったあの化け物が吹き飛ばされて地面に倒れているのが見えた。
焼けていく人間の体。不快な匂いが鼻をついて思わず吐きそうになった。
生焼けになった人間というものを間近で見てしまったものの、それに対する感情は全く浮き上がってこなかった。まるで心に鎖が絡まっているかのようだった。
扉を閉め、鍵をかけた。さっきの銃声で化け物が寄ってこないとも限らない。
「奥の方にみんな集まっている。そっちに行っていなさい」
そう言って彼は私達を建物の奥に押しやった。
少し奥に進むと私達以外にも逃げてきた人が集まっていて、気づけば近くにいた記者のような女性から非常用のペットボトルの水を渡された。そういえばさっきから何も飲んでいなかった。
「……」
一口水を飲んで座り込んだ瞬間、今まで抑えていたものが溢れ出した。最初からわかっていた。自分がいかに最低なことをしたのかを……それを押し殺して無理に今まで振る舞えたのは単純に死の恐怖が隣にあったからだった。
感情がめちゃめちゃになっていく。きっとあの子は絶望し私を最後まで許さなかっただろう。それだけのことをしてしまった。
「メグ、大丈夫…か?」
「大丈夫……大丈夫だけど……ごめんなさい。ごめんなさい……手をつかめなかった…怖くて逃げ出しちゃった」
吐くことはなかったけれどあの光景が頭から離れない。肩を半分近く噛みちぎられ血管がいくつか見えていた。あそこで助けたらまだ助かっていたのかもしれない……
レナの慰めをただ自分の行いを正当化するための道具にしてしまいたいと心が叫んだ。でもそんなことは許されないのだ。私は友人を見殺しにしてしまった。
「いやメグのせいじゃ無いって…あの化け物が悪いんだって……それに私はあそこでずっと動けなかったんだよ?」
「でも……」
伸ばしていた手を私は引っ込めた。もしかしたら引っ張り出せたかもしれない……いやわかってはいた。子供の力であれをどうにかするのは不可能なんだって。だけれど友人を見殺しにした事実はいくら取り繕っても変わらない。
不意にレナが私を抱きしめた。ほのかな暖かさと、誰かに抱かれているという安心感で沈んでいた気持ちもある程度収まってきた。
「落ち着いたかな?」
見上げれば彼女が私を心配そうな瞳で見ていた。ああそうか……彼女も不安だったのか。彼女も同じ気持ちだったのだ。なのに私だけ取り乱して……何してたんだろ私……
「うん……落ち着いた」
本当に気持ちを爆発させるのはこの地獄から生還してから。そうしよう。
気づけばもう20時になろうとしていた。外は完全に日が落ち、暗くなっているらしい。もうそろそろ出ないと22時のヘリには乗れない。次は確か朝の10時だったはず
避難するヘリのところへ行こうとレナが言った。ここに篭って救助を待つという手もあるけれどあの化け物が大量に出てきてしまったら救助なんて言ってられないかもしれない。
流石に他の人にも避難を強要するのは良くないからあの警官からもらったこの紙を目立つところに貼っていく事にした。
一階は危ないので二階から外階段を使って出ようと言うことになり移動しようとしたところで声をかけられた。
「子供2人でどこに行こうとしているの?」
振り返るとそこには赤いスーツを着た金髪の女性が立っていた。少し訛りが強い英語で聴き取りづらい。私の代わりにレナが話すことになった。
「えっと…貴女は?」
「ああごめんなさい。アリッサよ。新聞社で記者をしているの」
「私はレナータ。こっちは友人のメグミだ。よろしく」
記者と名乗った彼女は同時に名刺を渡してきた。どうやら夕方あたりの暴動に巻き込まれてここまできたらしい。ついさっきここに到着したのだとか。
「そうだったんですか……」
その際に大量にいたあの化け物をまとめて吹き飛ばす警察の作戦を手伝ったりしてきたと言っていたけれどそれは聞かなかったことにしよう。相当アグレッシブな人だ。記者ってそういう人種なのかしら?
「それで貴女たち2人はどこへ行こうとしていたの?」
「実は……路面電車の車庫あたりから救助ヘリが出ているらしくて」
壁に貼った貼り紙を指差して答える。市街地などいくつかの場所を閉鎖するため、すぐに避難をしてくれというものだった。一応封鎖はもう始まってるらしい。あのヘリは取り残された住人の救助のものだと詳しくかいてある。
「なるほどね……そういうことなら私もついていくわ」
正直それは意外だった。安全地帯に篭っている方が安全性は高いはずなのに。
「え?」
レナと一緒にすっとんきょうな声をあげてしまう。
「子供だけじゃ危ないでしょ。それに外の様子をある程度取材できるからね」
「あ、ありがとうございます?」
後半の言葉が完全に記者だけれど仕事柄危険なところにも突っ込んでいく人だったのだろう。周囲を見渡してみたものの、他の人の多くはここに残る方を選択していたようだ。
「そうだな…そういうヘリは女子供を優先するべきだ。俺たちは俺たちでどうにかするさ」
そういう声も小さいながら聞こえてきた。
「そうね…ここからなら動物園前の停留所が1番近いわ」
動物園……こんな化け物まみれな状態で動物園は大丈夫なのだろうか…
私の不安は最悪な形で的中してしまうことになった。だけれどそれを知るのはまだ先のことだった。
「ラクーン動物園…確か一昨日から臨時休業していましたよね?」
こっちに来てから2回ほど遊びに行ったことのある場所だからなにかと親近感が出てくる。確か植物園か何かを新しく作っていたとかでそれが完成したらまたきてみようと話していたんだっけ……
「ええ、もしかしたらこの暴動ともなにか関係があるのかもしれないわ。ともかく移動しましょう」
そう言ってアリッサさんはこの建物の上のフロアに上がっていった。エスカレーターやエレベーターは電力が遮断されているからか全く動いていなかった。
「そういえばアリッサさんここまでどうやって来たんですか?」
階段を上がりながらふとそんなことを聞いた。外はあの化け物がたくさん居る筈だ。そこを突っ切ってきたのだろうか?流石にそれはないと思いたい。
「警官の車で避難している途中でこの建物から発煙信号が出ていたの。警官に言ったけれど救助できるかどうかは分からないって。少なくとも明日以降の状況でどうするか決めるそうよ」
一度降りてわざわざここまで来たのは取材をしたかったからだそうだ。記者魂すごい。
取材もほぼ終わりどうするか考えていたところで私達が移動しようという話が耳に飛び込んできて声をかけたのだとか。
「そうだったんですか…大丈夫かしらこのこと伝えなくて」
「不安になるような事は事実であっても伝えない方が良いのよ。それに確定した事実でも無いから無駄に感情を煽っても意味ないでしょ」
「それに士気が下がるとそれだけで生き残れる確率も低くなる。酷いようだけれど彼女の言っていることには正しいところもある」
「なんか釈然としない言い方ね。別に意地悪をしているわけじゃないわ。警官が市民の救助を優先するならここに止まっていた方が絶対に良いに決まっているわ」
そういうものなのだろうか。なんだか騙している気がしてならない。またあの時みたいに……リサを見捨てたときみたいに見捨てるのだろうか……
「それに彼らは自分の意思で残るって決めたんだから。メグミちゃんが無理に悩む必要はないわ」
そう言ってばっさりと彼女はこの話を切り上げた。きっと彼女も思うところはあるのだろう。そう思いたい。
屋上に出る扉は一応鎖で施錠がされていた。だけれどそれをアリッサさんは思いっきり蹴り飛ばしてドアノブごと破壊して外してしまった。
なんとも豪快な……
「さあ行きましょう」
ちなみに動物園周辺は24日夕方からどったんばったん大騒ぎ。
地獄のパーク巡りなのだ。
ラクーンなのでアライグマがインしました(嘘)
特殊条件を満たすとアライグマの彼女でバイオタイムアタックができるようになるぞ!
ちなみにラクーンシティ脱出は5種類あります四つはヘリを使うので実質ヘリに乗らないと脱出できないラクーン。カプコンヘリの因縁をどうにかすることはできるのだろうか