星と幼子の物語〜未来少女、混沌の街に挑まんとす〜   作:chee

3 / 13
3話

「よし。ひとまず治療は終わったぞ。とはいえ、絶対安静だがな」

 

「ありがとう、先生」

 

先生(Dr.サンダルフォン)はそう言って僕の背中を叩く。確かに、戦いの直後は一切動かなかった足が多少痛みはするものの十分動くようになっている。

 

「安静とは言っても、奴が現れたら僕は行かなきゃいけないんだよ。先生」

 

「ダメだ。その状態で戦うのはあまりに危険だ」

 

「そんなのは承知の上だよ」

 

「お前の気持ちもわかる。いつもなら確かに怪我を覚悟で送り出したかもしれん。多少の怪我なら私が直せばいいんだからな」

 

実際、先生のこういうところには何度も助けられている。先生は程よく無理をさせてくれるし、その結果怪我を負って、治療してもらったことも一度や二度じゃない。

 

「だが今回はいつもと違う。例のリフィルとかいうヴィランのこともあるし、そもそもあのロックピッカーという少女すら信用できる保証がない。二人がグルという可能性もあるしな」

 

「確かに、その通りかもしれない。でも、僕が彼女に助けられたのは事実だ。もし二人がグルなら、あそこで僕を助ける意味がわからない」

 

それにもう一つ、気になることもある。

 

「ちなみに先生、カースドプリズンの名前を聞いたときの彼女の顔は見た?」

 

「あぁ。私にもあの顔の意味はよくわからなかった。一体何を思ってのあの表情なんだろうな。」

 

「彼女のとアイツの間には間違いなく()()があると、僕は思う......」

 

そして、なぜかこれだけは言い切れる。

 

「......そして、それは悪いものじゃないんだろうな」

 

先生の呆れ顔に、僕は笑みを返す。

 

「あんなに傲慢でワガママな奴がそんな関係を築く相手がいるっていうのは本当に驚きだよね」

 

アイツの意外な一面を見た気がする。

 

案外悪い気分はしない。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

私は街を歩いている。目の前に広がる景色は間違いなく思い出の中の景色のソレで、この街の中にいるという事実だけで心が踊り、それでいて感慨深い。

 

元々どこに向かっていたわけでもない。だけど、足は勝手にそこへ向かっていた。そして、実際にその建物を目の前にすると様々な思い出が溢れてくる。

 

「ふふっ...」

 

窓から中を覗くと満面の笑みで栗きんとん味のアイスを食べていた小さな女の子に母親が笑顔を向けていた。その微笑ましい光景が思い出と重なって、思わず笑みがこぼれる。

 

中には入れない。そもそもこの時代の人間とあまり関わるべきではない。時間遡行の影響がどんな形で現れるかわからないからだ。でも、この光景を一目見ることができただけで十分だった。

 

「バイバイ。頑張って生きてね」

 

一言呟いてその場を立ち去る。さて、次はどこを歩こうか。その足は嘗て行きつけだった駄菓子屋へと向いていた。

 

.........栗きんとん味のアイスが食べたいな。

 

そんなことを考えながらのんびりと街を歩いていた。気を抜けば思わず鼻歌がこぼれてしまいそうなほど、この街の散策は心が踊る。あと少しであの駄菓子屋が見えてくるはずだ。そんな時、どこかから爆発音が聞こえてきた。まぁこの街ではよくある事だと思い、歩を進めようとするが、

 

高笑いが聞こえた。

 

思わず振り返ってしまう。

胸が高鳴る。

だってそうでしょう。

鮮明に思い出せる。

その声は、

その声の持ち主は、

嘗て自分の命を救った救世主で、

 

私の憧れのヴィラン(ヒーロー)なのだから。

 

「.......おじ様!!」

 

思わず走り出す。声はそう遠くない。大まかな方向と距離は把握している。公園を走り抜け、交差点を曲がり、ビルの間を抜け、目の前の開けた工事現場の一角で、

 

脱獄(プリズンブレイク)!!」

 

ずっと追いかけていた緋色の凶星が、光り輝いているのを見た。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

俺様は常に自分のやりたいように生きてきた。その結果この呪われた牢獄の鎧を着せられる羽目になったが、後悔はした事がない。

 

俺様が好き勝手にしているというだけで、【ヒーロー】という立場を盾にして俺様に難癖をつけ、喧嘩を売ってきた輩が腐るほどいた。全員返り討ちにしてやったが。あいつらはバトルスタイルがパワー型の俺様と戦うために馬鹿の一つ覚えでひたすらパワーをつけて俺様に挑んだ。そういう奴らはスピードとテクニックで返り討ちにしてしまえばいい。そうすれば敵わないと悟って俺様と関わらなくなるなる。だが、コイツだけは違った。

 

ミーティアス

 

コイツは俺様と戦うたびにどんどん()()()()()()()()。“僕の武器はこのスピードなんだ”“このスピードで僕はお前を倒すんだ”と主張するように。

 

面白かった。

 

コイツは今までの奴らとは違う。だから、コイツが現れると、この先にある戦いに、この先にある()()()成長に、ワクワクしてしまう。

 

「よォ。来ると思ってたぜ。ミーティアス」

 

「当たり前だよ。お前が現れてるのに僕が駆けつけないわけないじゃないか」

 

「迷惑な話だな」

 

「お前が街の人たちに迷惑をかけないなら、僕も戦う必要はないんだけどね」

 

「俺様は俺様のやりたいようにやるだけだ。他の奴らなんて関係ねぇ」

 

「じゃあ今日も僕がお灸を据えてあげよう」

 

「面白ぇ。やってみろ」

 

今日の舞台は工事現場か。なら、コイツらを使ってやろう。

 

近くにあったクレーンを吹き飛ばし、その先にあったトラックまるごと破壊する。

 

「今日の衣装だ。楽しみやがれ」

 

右腕には射出可能フックを装備。左手にはトラックの積荷を模した大盾。足装備はキャタピラ。タイヤよりも小回りが効かないが不安定な地形に強いため、この舞台に向いているとも言える。そのタイヤは膝に装備。なるほど。これは面白い活用ができそうだ。名付けるならカースドプリズン『重機カスタム』ってところか。

 

重機カスタムを身にまとい、変身したミーティアスと向き合う。お互いに何も言わない。緊張感が走る。

 

「行くぞ!!カースドプリズン!!」

 

身構える。今日はどこまで()()なっているんだろうか。ミーティアスが拳を引き、素早く距離を詰めてくる。

 

「遅ぇ」

 

パンチを片手で受け止める。足のキャタピラが広い面積で凹凸のある足場を捉え、体を支える。この程度じゃ微動だにしない。

 

「どうしたよ。ミーティアス。俺様をナメてるのか?」

 

「そんなわけ無いだろ!!」

 

やっぱり遅い。確かに一般人から見れば速い動きなのだろうが、ミーティアスはもっと速いはずだ。

 

ミーティアスを投げ飛ばし、右腕のワイヤーフックでロケットパンチ。ミーティアスは体をひねってそれを躱すが、一瞬体が硬直する。

 

「オラァ!!」

 

躱されたフックを奥の鉄骨に引っ掛けて、そのままワイヤーを巻き取り、ジャンプをして急加速。膝のタイヤを全力で回転させて飛び膝蹴りを当てる。

 

「何のつもりだ?」

 

おかしい。明らかに遅い。遅すぎる。今の蹴りだってミーティアスなら躱せたはずだ。

 

「『スターロード』!!!」

 

ミーティアスは素早く距離を詰め、手間で跳躍。俺様の真上で天地さかさまに虚空を蹴り、真後ろに着地してすぐに回し蹴りを放つ。だが、やはり遅い。その蹴りを盾で防ぐ。

 

「だから遅ェんだよ!!」

 

俺様のパンチに合わせて後方に跳ぶ。そのまま虚空での踏み込みから切り返しの飛び蹴りが飛んでくるが、盾で防ぐまでもない。横から足を掴んで投げ飛ばす。

 

「遅ぇ。遅すぎるぞ。ミーティアス!」

 

「余計なお世話だ!!」

 

直線的な飛び蹴り。確かにさっきよりは速い。だが、まだ遅い。盾で防ぎ、払う。そのまま足を掴んで吊るし上げると、そこには、

 

()()()()()()()()()()()()

 

「ふざけんな。こんな状態で勝てると本気で思ってんのか」

 

「怪我がなんだ。そんなので諦める程僕は軟弱じゃない!!」

 

「諦めなければ俺様にも勝てるとでも思ってたのか?調子乗んじゃねぇ!!」

 

足を締め付ける手に力が入る。

 

「アアアアァァァ!!」

 

頭が冷えていく。

 

魂が冷めていく。

 

そこにもう戦うまでの高揚感や期待感はない。

 

苛立つ。苛立つ。苛立つ。苛立つ。苛立つ。

 

 

 

とっさに盾を構える。数瞬遅れて何かが盾を穿つ。

 

盾の向こうを睨むと、そこには無粋にも横槍を入れやがった銃らしきものを構える機械野郎が一人。

 

俺様の中で、プツンと、何かが、()()()

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。