星と幼子の物語〜未来少女、混沌の街に挑まんとす〜   作:chee

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6話

あれから一晩たって、私は再びおじ様の家を目指している。その手に大量のアイス(栗きんとん味)を引っさげて。

 

結局昨日の晩は病院の一室に泊めさせてもらった。病院のベッドは流石に寝心地が良かったが、未来ほどではなかった。そもそも私は寝心地のいいベッドは落ち着かなくてあまり好きじゃない。それこそ、硬い床の方がよく寝れたりする。おじ様の家の寝床とか......いや、決しておじ様の家に泊まりたいだけってわけじゃない。まぁ泊まりたいけど。

 

とか考えてたら着いた。

 

「おじ様〜こんにちは〜」

 

返事はない。まだ寝ているのだろうか。もう昼なのに。

 

中に入ると、おじ様は留守のようだ。誰もいない。アイスを一本取り出し、残りは冷蔵庫をお借りして冷やしておく。

 

...っていうか何この冷蔵庫。中身ほぼないじゃん。おじ様の食生活どうなってんの?

 

おじ様帰って来ないかな...とか思いつつ時間を潰している。昨日はドタバタしてたし夜も疲れててすぐに寝ちゃったのもあって落ち着いていられる時間ってこっち(この時代)に来て初めてだ。

 

色々なことを考える。向こう(未来)に残してきた人たちのこと。帰ったら怒られるだろうな......っていうか私帰れるのかな?時間移動手段を持っているのはリフィルだし。倒しちゃったら帰れないじゃん。倒さずに捕まえたところでアイツが私達が帰るために使うとも思えない。.........やっぱ帰れないじゃん。そりゃこっち(過去)で十数年過ごせば必然的にあっち(未来)に行くわけだけどさ、それはなんかちがくない?

 

「......何してんだお前」

 

そんなことを考えてたらおじ様が帰ってきた。

 

「おじ様もアイス食べる?冷蔵庫にたくさんはいってるよ」

 

「そういうことを言ってるんじゃねぇよ空き巣犯。勝手に俺様の家に入って何をしてんのか聞いてんだよ」

 

空き巣犯とは失礼な。やってることはたしかに同じかもしれないけど。

 

「鍵をかけないおじ様が悪いんだよ」

 

「お前は鍵をかけても開けるだろうが。得意なんだろ?鍵開け」

 

......覚えててくれたんだ。

 

「流石にわざわざ鍵を開けてまで忍び込むほど常識欠けてないよ、私」

 

「人ん家に勝手に入るやつには常識なんてねぇだろ」

 

そう言いつつもおじ様はアイスを一本取り出す。

 

「美味しいでしょ」

 

「クソ甘ぇ」

 

甘いのいいじゃん。っていうか文句言いながらも食べるんだ。

 

「おじ様、冷蔵庫なにも入ってなかったけど大丈夫なの?食生活」

 

「どうでもいい。まぁそこらへんのやつから奪えばいいさ。俺様はヴィランだ」

 

「でもおじ様はそんなことはしないでしょ?」

 

おじ様はそんな何の理由もなしに人を傷つけるようなヴィランじゃない。......と思う。小さい私を助けてくれたり、昨日だって人のいない工事現場を戦場にしたり意外と他人のことを気にしている。

 

「お前が俺様を語るな。不愉快だ」

 

「やだ。私おじ様のこと話すの好きだもん」

 

...あ、めっちゃ睨まれてる。

 

「っていうか話そらさないでよ。食生活、食生活」

 

「うるせぇお前には関係ねぇ」

 

「もー、そんなこと言って弱ってミーティアスさんにコテンパンにされても知らないよ」

 

「俺様はそんなことじゃ弱くなんねぇし弱ったところであんな奴には負けねぇ」

 

「そんなこと言ってないでさ。ほら、何なら私がご飯作ってあげるからさ!」

 

うわーすごい嫌そうな顔。流石にちょっと傷つくよ。

 

「とりあえず材料買ってくるからさ。何食べたい?」

 

「いらねぇ。早く帰れ」

 

「やだよ。適当に食材買ってくるからね」

 

「いや...帰れよ...」

 

部屋を出ていく私に何か言っているが無視だ無視。とりあえず食材の買い出しに行こう。

 

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「何を作ろうか......」

 

場所は安全区の大型食材売り場のコーナー。安全区とはケイオースシティの郊外にある一帯のことでここに入るために厳重なチェックが必要になる。セキュリティがあまりに厳重すぎる代わりに、街のどの施設がヒーローとヴィランの戦いで被害を受けようと安全区に通うことで復旧までの間やりくりできるようになっている。

 

「あれ、ロックピッカーちゃん」

 

振り向くとそこにはミーティアスさんがいた。

 

「どうもです。ミーティアスさん、怪我はもう平気なんですか?」

 

「あぁ。もう問題ないよ。先生の技術はやっぱり凄いからね。まる一日寝てればどんな怪我でも治っちゃうんだよ」

 

それは本当に凄い。サンダルフォンさんは未来の最先端医療と同じレベルの医療をすでに確立しているようだ。

 

「それで、君はここに何を買いに来たんだい?」

 

「ちょっとおじ様の食生活が想像以上に心配で、手料理でも振る舞おうと思いまして」

 

「ハッハ。なるほどね。アイツに手料理ねぇ。アイツの食生活を心配する人なんて始めてみたよ。案外、こんなことをきっかけに優しい心に目覚めたりしてね」

 

私の手料理を食べて優しく微笑むおじ様......無いな。でもあったらいいなぁ。

 

「ハハ...おじ様に限ってそんなことないとは思いますけどね」

 

「だよね。僕もそう思うよ。でも、アイツの心は誰かが支えてやる必要があると思うんだ。そして、それは君であるべきだと、感じてならない」

 

おじ様の心を支える。その表現が妙にストンと落ちてきた。おじ様の孤独な日常に、その殺風景な心に、私が彩りをもたらすことができたならば、それはどんなに素晴らしいことだろうか。

 

「いいんですか?ヒーローのミーティアスさんがヴィランのおじ様を支えてくれなんて言って」

 

「いいんだよ。たしかにアイツは僕の宿敵だが、最終的にはアイツも救ってやりたいと思っている。......いつか平和になった世界で改心したアイツと酒を呑み交わしながら、『こんな戦いがあったな』なんて笑い合うのが夢なんだ。変だろ」

 

「変なんかじゃないです」

 

即答する。当たり前だ。そんないい世界。私も見てみたい。

 

「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。アイツは確かに迷惑極まりないヴィランだが根の部分までが腐りきっているわけじゃないんだよ。ヴィランの中には平気で関係ない人を爆殺するような外道もいるけど、アイツは今まで一人も人を殺したことがない。そんな奴の心が悪だとは僕は言い切れない」

 

やっぱりこの人はおじ様のことをよく見ている。ただの宿敵ってだけじゃない。例え敵であっても本当におじ様のことを心配しているんだろう。それに比べて私はどうだ。自分の敵(リフィル)のことをちゃんと見ていたのだろうか。きっと、答えは否だ。私もこの人のようにもっと人の根の部分を見れるようにならなきゃいけないな。

 

「そうだ。ハイドロハンズの奴がリフィルの潜伏場所らしき場所を何箇所か見つけたと言っていたんだ。場所は南と西の郊外にある今は使われていない研究施設だ。予定では明日突撃するのだが......」

 

「私も行きます」

 

これは未来から来た私の役目であり、役目を関係なしにしてもきっと今の私には必要なことなのだ。もう一度リフィルと顔を合わせて、話を聞いて、心までも見る必要がある。ミーティアスさんに気付かされた。

 

真剣な顔を向ける私にミーティアスさんは微笑む。

 

「そう言うと思っていたよ。僕たちは南の担当。西はハイドロハンズとアムドラヴァが担当してくれる。準備をしておいてくれ」

 

「わかりました」

 

少し肩に力が入る。リフィルが南にいてくれればいいが。

 

「突撃は明日なんだから。今は力を抜きなよ。そういえば、カースドプリズンの奴は前に戦闘中に『早く帰ってクリームシチューが飲みたい』とボヤいていたことがあったよ。奴の好物なのかもしれない。作ってやるといい」

 

え!?おじ様の好物!?それはいい事を聞いた!!

 

「じゃあ僕はそろそろ帰るよ」

 

「あ、はい!!ありがとうございました!!」

 

彼の背中を見送る私は、不思議と肩の力が抜けていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「ただいま〜」

 

結局ミーティアスさんの助言通りシチューの材料を買ってきた。

 

「おじ様〜」

 

あれ、おじ様いないじゃん。どこいったんだろ。

とりあえず買ってきた材料でシチューを作り始める。

 

「〜♪〜♪〜♪」

 

思わず鼻歌が漏れる。ってあれ?これは“夫の帰りを待つ妻シチュ”では?私は妻より娘ポジをご所望なのです。

 

とりあえずシチューが出来上がる。おじ様は帰って来なかった。このまま待ち続けたいのは山々だが、明日は私も突撃に参加するから休まねばならない。一旦帰るしかなさそうだ。......いやそりゃこのままここで寝泊まりしたいけどさ?おじ様と話してたら寝れなさそうじゃん。

 

「じゃあ、また来るね」

 

誰もいない部屋に一声かけて帰路につく。部屋では鍋から湯気が上がっていて少しいい匂いが漂ってきた。

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