サキサキを大好きな後輩の話。   作:ま~べる

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いろいろあって川崎沙希は拗ねている

川崎先輩が屋上で暗い顔をしたあの日から先輩は徐々に屋上に来なくなった。

俺の言動が原因なのだろうかと気を落としてしまいそうになるが、先輩は忙しくなったから、としか言わず、ちょっと軽く探ってもみたが、軽く一蹴されて終わってしまった。ほんとうにどうしたというのだろうか。ほんとうなら、先輩に詰め寄って問いただしたいところではあるのだが、それをして先輩に嫌われてはもともこもない。

それから少し経ったある日、俺が昼に購買へパンを買いに行こうと靴箱へ行くと、鞄を持った川崎先輩が気怠そうに校内へ入ってくるところだった。

目の下には化粧でごまかしているだろうが確かに隈が深く刻まれているし、片方垂れた鞄の肩紐は憂鬱さを彷彿させていた。雰囲気が剣呑としており、まわりが声を掛けづらくさせていた。そもそも先輩に声をかけるやつはいないか、先輩ぼっちだし。ぷぷっ。

と、そんなことを考えていると先輩の人を殺す瞳が俺をまっすぐと射貫く。

 

「…あぁ、あんたか。なんか不躾な感じがしたんだけど」

「いや先輩ちょーこわいんで声をかけようかちょっと迷ったんですけどね」

 

 

あっぶねー。いやなにそのセンサーちょーこわい。間違っても先輩ぼっち乙なんて言おうものなら気づけば床と添い寝なんてことになりかねない。

にしても正面から見た先輩はいつも以上に制服をよれよれに着崩し、ヤンキーというよりもバーのカウンターの隅でウイスキー片手にタバコを吸っていそうな雰囲気がある。見た感じ今登校してきたようだ。

 

「先輩遅刻っすか?めずらしいっすね」

「そーでもないけどね、まあアンタには関係ないことだし」

 

先輩の投げやりな発言に少々心に靄がかかる。確かに俺には関係ないし、先輩にとって俺なんてどうでもいいのかもしれないがそんな言い方をしなくてもいいだろうに。

今の先輩の発言から鑑みるに最近屋上に来なくなった理由は同じように遅刻をしてきているからだろう。そんな深い隈まで作って一体夜中に何をしているというのだろうか。

とりあえず先輩の発言にへらへらっと笑ってそっすけどー、とすねてますという風に返す。

 

「先輩はもうお昼食べたんっすか?」

「もう食べてきたけど、あんた購買に行こうとしてたんじゃないの?」

「いやそうなんすけど、実はそんなおなかすいてないからお菓子でも買いに行こうかなーって。まあ先輩と会えたからもうそれもいいんすけどね」

「ふーん、ちゃんと食べなよ。じゃ、あたしもう行くから」

「えー、お昼まだ時間ありますし屋上行きません?最近先輩あんま来てくれないですし」

「いや、あんたが勝手に行ってるだけでしょ?あたしちょっと寝たいから、じゃあね」

 

あ、ちょっとという俺の静止の声を無視して先輩は行ってしまった。あれー?これはもう詰み?ギャルゲーで初めて好感度下がったときくらい絶望的なんだが?いや一周回ってツンデレか?あ、そう思えばなんだか回復して、いやこないなぜんぜんだ致命傷すぎるってまじで。。

先輩のじゃあねが頭の中で呪いのように反響し、まるでひと時の別れどころか関係の終わりを意味しているかのようだった。

すぐに思考の膠着状態から脱すべく先輩を追いかける。

 

「せんぱぁあああああい!!」

 

廊下を全力ダッシュし階段を一気に駆け上がり、そのゆらゆらとゆれる尻尾のようなポニーテールを認めると後ろから飛び掛かる。

 

「隙あr」

「ふっ」

「げふぅっ!?」

 

999HITといわんばかりの蹴りをもらう。死ぬわ!と心の中で突っ込みを入れる。おかしい、こういうのって体勢を崩してtoらぶってもいいんじゃないんだろうか。そしてさっき失った好感度をばっかじゃないのなんて言いながら取り戻すイベントが定石なんじゃあないんだろうか。

王道を行かない先輩さすがっす。マイ大阪ガスくらいさすが。

 

「…またあんた?今日はもう眠いって言ったじゃん」

「先輩実は男なんじゃ…」

「ぶつよ?」

「ごめんなさい」

 

ぱんぱん、と制服のほこりを払い落し、さて、と切り出す。

 

「先輩、髭剃りかしてくれませんか」

「デリカシーもへったくれもないね、もぐよ?」

「どこをっ!?」

 

ぎらっと、鋭い目つきが下半身にちろっと向いた気がして思わず股を抑える。こころなしか俺の息子がいつもよりコンパクトになっている気がする。けっしてびびったわけではない。小型化は技術の進歩。つまり俺の俺も小型化することで成長、いややめようこの話は。

 

「っていうのは冗談で」

 

ここで手をボウリングの投球フォームのように上げ、ふぅっと息を吐き出す。

毎日。そうぼそりと呟き、いけると確信して顔をあげて、真摯な眼差しで先輩を見やる。

 

「毎日俺の朝食をぉ!!」

「これ以上ふざけると次はないから」

「うっすさーせんっした」

 

本気のトーンだった。本気と書いてマジと読む。なんなら冗談と書いてもマジと読んでいるまである。相手は死ぬ。

はぁ、と先輩は煩わしそうに溜息を吐くと、

 

「本当に、なにもないならいくよ?まじで眠たいから寝たいんだけど」

「…じゃあ、最近遅刻している訳を聞いても?」

 

先輩の本気の雰囲気に気圧されそうになるが、冷静に静かな声で切り出す。

きっとこれじゃあ先輩は話してはくれないだろうが、それでも先輩のことが好きである以上は聞いといておきたかった。

 

「あんたに言う義理はないし、何度も行ってると思うけどあんたには関係ない。これはあたしの、あたしの家族の問題だから話したくないし話すこともない。わかった?」

「…そっすかって簡単に引き下がるわけにもいかないんですよね、俺も」

「じゃあ、バイトが忙しいの。これでいいでしょ?わかったらほっといて」

「せんぱっ!」

 

…行ってしまった。あ、これ完全に嫌われたやつ?

そこで俺の思考はフリーズしてなにも考えられなくなる。先輩の姿はもうない。昼休みの終わりを告げるチャイムが俺しかいなくなった廊下に虚しく響く。いつかと同じようにチャイムが鳴り響く様に苛立ちを感じる。

早く教室に入れー、という教師の間延びした声すら無視をして、屋上に足を運んでその日を終えた。

 

屋上で一人おもう。

結局、俺と先輩との関係はそこまで深くはなかったということだ。わかっていたことではあるが。俺に出来ることはないし、先輩も俺を頼っているわけではない。

ただ俺が先輩を好きだからという理由だけで踏み込むのは三流のすることだ。

 

――けど。

――だけど。

 

好きな人の役に立ちたいと思うのは当然で、結局なにをすればいいのかわからなくなって。三流のやり方しか思い浮かばなくて、そんな自分が歯痒いから。

 

気づけば俺は、屋上に行かなくなった。




続きます。たぶん。
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