屋上に行かなくなったといったな、あれは嘘だ。
いや嘘ではないのだが。というか今のを言いたかっただけなんだが。
そもそも屋上に行ってたのはそこに行けば川崎先輩に会えるという純粋な下心だったわけだから、先輩が行かなくなった屋上にはもう意味がないというか価値がないというか。
いや言い過ぎだろおぉい。
冒頭から騒がしくなってしまったが、要は屋上に行くのはやめたが先輩に関わろうとするのはやめていないということだ。
雑草は踏まれて強くなるというからな、俺も雑草先輩を見習おうといったところだ。
関わるといっても正面から行っても嫌われてしまったので逆効果になるだろうから、とりあえず先輩に関する情報を集めるところから始めた。
おい誰だ今ストーカーって言ってやつ。訂正しろ熱烈なファンの間違いだ。
いや一緒かそれは。
なんにせよそんなこんなで先輩が夜更かししてなにをしているのかも理解した。
バイトが忙しい、というのはあの時ぱっと思いついた嘘ではなかったらしい。
どうやら深夜のバイトで『エンジェル・ラダー 天使の階』とかいうイカしたバーで働いているようだ。
それに、先輩が言っていた通り遅刻もあれだけではなく、割と常習犯だった。
けれど、学校は割と怠惰な感じだが、予備校にはきちんと言っているようで、学校が嫌になってバックレているわけではないようだった。
そういや先輩の弟さんは中学三年生、入試の学年なわけだからそのまま考えれば入学費か塾か、だな。
それに先輩の予備校費もある。家族思いの先輩のことだからおそらく予備校費が一番臭いか。
自分のケツは自分で拭くよってな感じで。
うっわぽいな。あまりに先輩っぽい。夕立にも勝らず劣らずのぽいぽい具合だ。
なんなら先輩のあだ名をサキサキからポイポイにしちゃうまである。
一文字も掠ってないけど。
そもそも先輩にあだ名があるのか怪しいところだが。友達いないし。
なんにせよお金に関することなら個人が勝手に割り込んでいいわけないし、割り込めるわけもない。
調べた結果、わかったことは現実の非情さと俺の無力。なにも変わらない。
そしてさらにわかったこと。
それは先輩に――。
「ひ、比企谷。その、この前のお礼にお弁当作ってきたん、だけど」
「…え、まじ?あ、ありがとう…ございます…?」
男どぅえきてるぅ~。
先輩に男どぅえきてる~。
おいおいおい…
おい?
誰ですか誰なんですか誰でしょう?
おい誰なんだよその根暗みたいな陰キャ。いや暗すぎるだろって暗に陰って2倍かよって。
バイバインもびっくりの暗さ。
ほら奥のピンク髪の先輩も、え、そいつはないっしょって顔で見てる。
ってなにあの先輩パイパイにバイバインかけたんですかっていうくらいでかい。
なんならパイパインに名前変えるまである。
とか考えてたらこの前の金髪ドリル先輩がめっちゃ睨んでいる。
俺の防御力はがくっと下がった。こわすぎて死んでしまうま。
さて、こいつはびっくりだ。
エッチなカップのHカップから意識を戻し、目の前の情緒へ傾ける。
おっと余計目つきがきつくなったがエスパーかあのドリル先輩。
黒い眼差しで逃げられなくなりそうだ。
まったく、先輩来てないかなーと偶々という名の下心で教室の前を通ったらまさかの仕打ち。
どこかの杉田ボイスが残念だったな!といいながら頭の片隅から浮かんだが水鉄砲で軌道を変えて撃墜した。
どうして俺の前に立った。いや自分から先輩の教室に立ったけど。
話を戻そう戻したくないけど。
現実を見よう。
まてまて、先輩いつの間にそんなクラスメートと交流持ってたんっすか。
最近バイトで忙しいんじゃ?
え、その根暗先輩運命を変えちゃったのん?
そんな乙女心に現を抜かしている暇なんてないんじゃ?
え、あるからこうなってる?ソウデスネー。(白目)
「ねえ君、一年生だよね?さっきから中見てるけど、どうかした?誰かに用?」
「はい!?え、あっ、えっと」
しまった、思ったよりも長居してしまったらしい。
中にいたこの間の赤メガネ先輩に声をかけられてしまった。
まさか声をかけられるなんてシュミレートしているはずもなく、盛大にコミュ障を発揮しながら割と大きめな声で返事をする。
当然昼休みで教室に人がいないわけもなく、周囲や教室内は騒然としていたが、突然の大声に近くの生徒たちの視線を集めてしまった。
もちろんかなり恥ずかしい。
慌てふためきながら横目で川崎先輩を確認すると丁度俺と目があった。
――しまった。
そう思った途端、先輩が口を開きかけたのを尻目に赤メガネ先輩になんでもないです、と早口に伝え、そのまま自クラスへと階段を上がり駆け込んだ。
早きこと島風の如し、と雑念を払うように雑念を増やした。プラマイプラスつってね。
コンビニのショボいビニール袋を机の上に投げ、切れた息をそのままにしてイヤホンをつけ、菓子パンの袋を破りそのまま頬張った。
焦燥と息苦しさが混じって、もはや何を食べているのかもわからなくなりながら、その勢いに任せて飲み込む。
先輩と気まずくなっている今、あそこで長居したのは阿保だったと自分を叱責し、同時に逃げることもなかったんじゃないか、なんて考えてしまう。
と、そこでイヤホンがただの耳栓になっていたことに気付き、つながれたウォークマンを手慣れたように操作して適当に聞き始める。
気分は絶不調、もう恋なんてしないなんて言ってしまいそうになるが、昼のおすすめなんつって流れるのはお願いマッスル。
俺も筋肉にお願いしちゃおうか。
めっちゃモテたい、先輩から。
とか思ったんだがよく考えれば先輩と目があった瞬間逃げたから先輩絶対気を悪くしてるやん…。
おぅのこと島風の如しつってね。おぅのことってなんだよ。
そんな自問自答を繰り返し、やっと呼吸も整って菓子パンの味もわかってきたころ、なくなったゴミ袋をコンビニ袋にまたもどして次のカレーパンに手を出す。
人生とはカレーパンの如く辛さと甘さの織り成しなんて言ったのは誰だったろうか。
そうやってぼんやり考えながらもっきゅもっきゅとパンを食べ、やがて昼休みが終わるころには先輩との気まずい関係すらも終わらないかなぁなんつって。
まあ、終わるわけがないけど。関係自体が終わりそうだし。
そもそも先輩があの人にもし恋をしているのならば俺はそれを応援するだけ。
先輩の幸せが俺の幸せなんて、そんな独善的な痛い勘違いをしているわけではないんだが、それでもそう思わざるを得ない
表情って書いてカオって読むとエロ同人みたいだな。どうせ先輩もあの根暗先輩とそういうこと致しちゃうんでしょう!?
エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!!
そう考えたら寝取られたみたいで興ふn、げふんげふん。
そんなことよりも先輩とどう仲直りしたものか。
今日もなんだかんだ言って先輩を避けちゃったのは事実だし、このまま先輩と話せないのは心苦しいものもあるし。
あんな恋する乙女のような先輩の顔見ちゃうとねぇ、って思ったり。
この気持ちが嫉妬なのかどうなのかももうわからない。
はたして先輩とあの屋上で昼ご飯を食べることを取り戻すときが来るんだろうか。
もしあの根暗先輩と先輩が恋人になったとして、あの屋上はもう俺たちの場所じゃなくなるんだろうか。
先輩は本当に俺のことを何とも思っていなかったのか。
そう考えると、俺の半年の思いが、俺と先輩との関係が、根暗先輩とのひと時に勝ってしまったのなら。
そこまで考えて、手がりきんでいたこと気付いた。少し汗ばんで、握りしめた袋についたカレーパンの油が手に光沢を加える。
不快感を振り払うため、徐に立ち上がり手洗いへと向かった。
考え出すときりがなく、果てがない悩みばかり増えていく。
鏡の前で、はあ、とため息を一つこぼし、蛇口捻って水を出す。ついでに俺と先輩の微妙な空気も水に流せたらいいのに。
と、そこで聞き覚えのある古い機械音が。
結局、空回りし続けた俺の頭にブレーキをかけたのはいつもの無機質なチャイムだったとかかっこつけたはいいが完全に遅刻である。
おそらく、俺の机には菓子パンのごみが詰まったビニール袋。授業態度はバッドバターバスト間違いなし。
次のテストではアレクサンダー大王を書くことを心に決め、そのまま授業をサボタージュした。
口にはまだ、人生の辛い味が残っていた。
サキサキ視点を書くのもありかもつってね。
続きます。たぶん。