(う、う、苦しい…)
純一が意識を覚醒した時に最初に思ったのは息苦しさ、そして体が何かに強烈に引っ張られるような感覚、目を開けることが適わず全く周囲の状況が分からないまま、息苦しさから今度は全身を覆う痛みを感じ、その痛みに耐えられなくなり再び意識を手放した。
どれほど経っただろうか?一日かもしれないし、ほんの少しの時間かもしれない、再び意識が戻り、先ほどの事は夢だったのだろうと一人ごちて今度こそ状況を確認しようと目を開けてみたが、何故かぼやけてよく見えない。
しかし、耳からは慌ただしい物音と人声が聞こえて来たが、まだ意識がぼんやりとしているせいか何を言ってるのかまではよくわからず、なんとか大丈夫だと伝えるために手だけでも動かそうするが全く動かない。
(飲みすぎたのかなぁ、迷惑かけちゃったな)
そんな事を思いつつも、先ほどから感じる強烈な眠気に身を任せようとした時、全身にいきなりの衝撃を受けた。
どうやら、お尻を叩かれているらしいがこの叩き方は尋常ではなく、さすがに純一は辟易して一言文句でも言ってやろうと、未だ霞がかかったような感じにしか見ることが出来ない両の眼を、自分に危害を与えてるだろう人影を睨み付けるつけるように開き、今出せる精一杯の声を意識しながら
(痛いぞこの野郎!フザケンナ!)
頭ではそう言ったつもりだが実際に出た声は
「ッイ…ッイ…オギャァアアアア!ケホッ、ケホッ」
純一の耳に飛び込んできたのは何時もの聞きなれた声ではなく、まるで赤子のような泣き叫ぶ声だけだった、全く理解できずに茫然としていると何故か周りの人から優しい声で話しかけられて、頭に暖かい感触を覚えたのでどうやら頭を撫でられてるらしい、何故か他人事のように感じられたが徐々に未だかつて味わった事のない幸福感を感じ、考えることすら億劫になりそのまま意識を落としていった。
猛烈な空腹感を感じ純一は意識を取り戻した。
先ほどのは一体なんだったのだろうと、さっぱりわからないまま頭の中では冷蔵庫に確か今日中に使ってしまわねばならない卵が入っていたなとぼんやりと考えながら目を開けると、真っ暗なせいか周りがよく見えない。
(ここは何処だ?俺の家?居酒屋?病院かな?)
今自分が何処にいるか全く把握できず、まずは暗闇に目を慣らして状況を確認せねばならないと思いとじっとしていると、すぐ隣から寝息らしきものが聞こえてきたので、どうやら自分は誰かの家に泊まったらしいと一安心を感じたが、徐々に慣れてきた視界に映ったものは月明かりのせいだろうか?淡い光の中に照らされて、見えたものは大学の友人ではなく、テレビや雑誌ですらお目にかかることが出来ないほどの金髪の美少女が寝ている顔だった。
あまりにも現実離れしているその光景。
(な、何を言ってるかわからねーと思うが、友達と酒飲んで意識を失って起きてみたら、隣に金髪の美少女が寝てたんだぜ……。クッソ!俺よ思い出せ!何で記憶してねーんだ!神様頼む!昨晩の記憶をオラにオラに戻してくれ!)
明かに美少女は前髪を汗で額に張り付かせ、何か疲労するような事をした後に見受けられる。
(思い出せ俺!がんばれ俺!こ、こんな美女で初めての経験をしたのか俺!羨ましすぎるぞ俺!なんで覚えてないんだ!どう見てもこれ事後だろこれ!)
だが無常なるかな、全く昨夜に行ってであろうお楽しみの記憶は思い出せない、その理不尽さに心の中で血の涙を流さんばかりに後悔をしていたが、こんな美少女の寝顔を見るチャンスなどこれ以降の人生の中で得られるかどうかもわからない為、脳内に焼き付けておこうと顔を嘗め回すように凝視し続けた。
目から血が出るほど激しく凝視して脳内に焼き付け、ある程度満足し今度は身体のほうも見ておこうとした時に、違和感を感じた。
純一本人の身体を起こさないように慎重にずらして下のほうに動かしてベストポジションを確保しようとしたのだが全く動けない。
それどころか首すらも動かない。
(あれ、全く動けない。金縛り…?)
純一は金縛りだろうと推測をつけ昔テレビで見た金縛りの解除方法、足の指から動かしてみる方法を試した、実際これで何度か解除に成功していたのだが。
だが、純一の身体は嘲笑うかのように足の指すら動かす事ができない。
この状況はさすがにおかしいと、不安が増していき、隣で気持ちよさそうに寝ている美少女には悪いが起きてもらって助けて貰おうとなるべく優しい声で
(起きてください)
「オッ、オッ、オギャ」
自分で喋ってみて自分で驚くという摩訶不思議な経験をしてしまった純一。
(え?なんだコレ、何で意味わからない事になってるの?っていうか赤ん坊の声?)
あまりの状況に、何が何だかわからなくなったが、もう一度今度は一語一語丁寧に確かめるように発音してみることにした。
(お)
「オッ」
(き)
「キャッ」
(て)
「ビェ」
(く)
「ッウッウッ」
(だ)
「ダァ」
(………?タスケテェエエエエ!)
「………オッ!オギャァアアアアアア!」
しんと静まり返った部屋の中で混乱状態にある純一の「赤子の叫び声」が闇を切り裂いた。
(……拝啓、お父さん、お母さん。どうやら俺「赤ん坊」になったみたいです。だって、歯がねーもん!どう考えても俺「赤ん坊」です!本当にありがとうざいました……って、冗談じゃねーぞ!なんだよコレ!何なんだよ!)
パニックに陥った純一は動かない身体を必至に動かそうとして喋ろうとしては
「オギャッオギャ」っと繰り返していると、とうとう目の前で寝ていた美少女が何事かと驚いた表情でこちらを見ていた。
純一もそれに呼応するかのように見返していると、美少女は恐らく自分に向かって優しい声で語りかけてきたが、全く意味がわからない。
(日本語でおk)
心の中でそんな事を思いつつも、口からでた声も美しいと感動していると、美少女は疲労を色濃く残した顔をしつつも、純一に天使のような微笑みを向けると再び美しい声で意味はわからないが語りかけてながら、ゆっくりと寝ていた身体を上半身だけ起こした。
首すら動かせない純一は視線だけでなんとか顔をみようと追いかけようとしていた時、美少女は上着をおもむろに脱ぎ始めてしまった。
あまりにも現実離れしたその光景にどうしていいかわからなくなってしまった純一はとりあえず、難しい事はすっかり忘れて陶磁器のような白い肌と二つの膨らみを再び脳内に焼き付けようと凝視していた。
ところが、美少女さんが再び声をかけて来たと思ったら、今度はおずおずと両手を純一のほうに向けてきて、そのままその手は頭の後ろとお尻の下に入れたかと思ったらヒョイと簡単に持ち上げられてしまった。
あっさりと持ち上げられてしまった純一はポカーンとして視線を上にあげ美少女の顔を見つめていると、美少女は何事か言うと胸を純一のほうに突き出してきた。
純一は視線を下げると目の前に映ったのは、慎ましやかながら陶磁器のような真っ白な丘陵、そしてちょっと生意気そうに上向きしたピンク色の野イチゴちゃんが……。
今までに妙齢の女性のこういった部分を生で見たことのない純一は注意深くそれを眺めるしかなかった、そして現在の状況にはたと気が付き、流石に気まずくなって視線を上に向け美少女の顔を見ると、美少女は少し戸惑ったような顔をしつつ今度は純一の口の近くに野イチゴちゃんを押し付けようとしてきた。
前を見れば野イチゴちゃん
上を見れば類稀な美少女の顔
野イチゴちゃん…美少女…野イチゴちゃん…美少女…野チク…美少女…
純一の視線がきょときょとと上と下に落ち着きなく揺れ、頭の中はもう何が何だかわからなくなってしまって、気が付けば吸い付いていた。
だが吸い付いてはみたものの、何も出てこない
(吸いが足りないのかなぁ?)
最早、考えることを放棄してしまった純一は何が正しくて何が間違っているのかすらわからなくなってしまっており、冷静に現在の状況を分析するという現実逃避を行っていた。
徐々に吸う力を増していった純一だが、自分なりにはもう痛いだろうというくらい吸い付いたところでやっと口の中に何かがにじみ出てきた。
(あまり、美味しいものじゃないな、味薄いし、何より甘味が足りない!)
とうとう、味にまでダメだしをしはじめる純一だが、ほんの少し飲んだ程度で身体のほうが満腹感を訴えだした。
プハッとばかりに口を離し、視線で美少女の顔を見やると謝礼が伝わるようにじっと見つめ、この状況はなんなのだろうと落ち着いて考えようとした瞬間、純一の身体に再び異常事態が発生した。
(せ、せんせい、お、お手洗いに行きたい…です…)
「オッ、オッ、オギャアアアア」
この身体の異変を何とか伝えなくてはと純一は今出せる最大の声を張り上げなんとか伝達を試みたが、美少女は慌てた顔をしつつ、どうしていいかわからないと困惑の表情を深めていた。
何とか我慢してお手洗いに行こうとする純一だったが無念、増水からのダム決壊までの時間は赤子の身体にはあまりにも短く、一人我慢大会は開始したばかりで数分も持たず。
身体にはあっさりと苦痛から解放され、その心地よさに至福の一時を与えたが、純一の精神には深い絶望と心の傷を残した。