外史の欠片   作:犬山わんこ

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やっと書き上げる事が出来ました。



第6話

 そろそろ日も暮れようとしてた頃、母子はまんじりともせず布団に横たわりながら過ごしていた。どれほどの沈黙が続いただろうか?母がゆっくりと寝物語を聞かせるように、自分の事を話し始めた。

 

 最初に、この家にいる男の使用人程岳(ていがく)は、自分の実の兄である事。更に、兄妹である自分たちは、幼い頃に両親を失い途方に暮れていたところを父の兄であった程峻(ていしゅん)という人が引き取ってくれたた事。程峻さんは譙県(しょうけん)の士大夫、豪族のような立場である程家の主であった為に、程家の本家で10年近く養ってもらっていた事。

 

 そして、ある時に大規模では無かったものの水害が発生してしまい、同県の士大夫に借財を申し入れたが、相手が見つからず裕福な夏侯家が唯一貸し出してくれたが、代わりに質を要求されてしまい、兄妹は恩返しの好機と自分から進み出て夏侯家に向かった事。

 

 ところが、前々から程峻が同県士大夫である曹家が宦官を排出した事に侮蔑の態度をとっていたのが災いとなり、曹家に親密な夏侯家が約定を違えて勝手に夏侯家から養子で曹家に入った曹嵩に勝手に兄妹を送り出してしまい、母は側室にさせられてしまった。

 

 兄である程岳は直ぐに程家に報告をし、程峻も怒りながらすぐに返すように迫ったが、母は子を宿してしまいそのまま生まれてきたのが純一こと、曹楊であるとのことだった。

 

 だが、問題があった。曹楊は曹家の長男ではあるものの側室の子であり、しかも程家は許しておらず、そのまま曹楊を連れて程家に戻ることも出来ず、曹家でも歓迎されていない為に、人の目が付かない田舎に追いやられている状況で、そんな母を兄である程岳は使用人として守ってくれるようにずっとついていてくれていた事等だった。

 

 華珠というのは、案の定曹嵩の正妻であり自分よりも先に子を産んだ側室の母に対して思う所があるのだろうと締めくくったが、純一はそれどころではなかった。

 

(宦官……?…曹家……?……夏侯家…???)

 

 母が語り終わるまで逸る心を抑えつつ、黙って一通り最後まで聞き終えた。そして、どうしても聞きたかった事を真っ先に聞くことにした。

 

「母上、色々聞きたい事が山ほどあるのですが……。第一に、私達のいるこの国の名は何というか教えて頂けないでしょうか…?」

 

 じっとりと嫌な汗が身体中から出るのを感じながら声が震えるのを何とか抑えつつ質問をしたが、何故そんな事を聞くのだろうと怪訝な顔をしつつ、ゆっくりと母は息子の質問に答えた。

 

「なんで、阿楊がそんな事を聞くかよくわからないけど、沛国っていうのよ。」

 

 (聞いたことないな、偶々かな?)

 

 聞き覚えの無い国の名に一安心した純一だったが、母の言葉は予想を裏切るように続いてしまった。

 

「ただ、沛国は豫洲の一部になるわね。」

 

 豫洲という言葉は純一にとって聞き覚えのある言葉だった。

 

(豫洲……州……州牧……宦官…曹家……夏侯家……)

 

 嫌な汗が吹き出し、目の前が真っ暗になりそうになるのを耐えつつ矢継早に母に質問をぶつけた。

 

「母上、も、もしかして、豫洲というのは、漢という中央集権国家の一部でしょうか…?そして、その政の中心は洛陽で行われているのでしょうか…?」

 

 彼にとって最早その質問はただ只管に、違うと言ってほしいという願いが込められていたが、母はじっくりと純一の言った事を吟味しながら丁寧に答えてくれた。

 

「中央…集…権…?よくわからないけど、漢であってるわ。そして、天子様がいらっしゃるところが洛陽になるわね。…ねぇ、阿楊?なんで、阿楊はそんな事を知ってるのかしら?それも聞いたの?」

 

 戸惑う母に構っている暇もなく、純一は思考の海に埋没していく。

 

(おかしい、この世界は異世界だろう?金髪はまだしも医者みたいに緑髪なんて、染めてる人以外いなかったぞ。まだだ、落ち着け俺、落ち着け、そうだと決まったわけじゃないんだ。)

 

「……母上、漢という国は劉邦という人が興した国で合ってますでしょうか?」

 

「え、ええ、漢は高祖様である劉邦様が興した国ね。」

 

「クッ…劉邦と最後まで戦ったのは項羽という人じゃないですよね?違いますよね?」

 

「阿楊、阿楊落ち着いて。項羽という方と争ったのは聞いたことがあるわ。ねぇ、阿楊、なんで貴方が知ってるのかしら?教えてくれない?」

 

(クソッ!やっぱりそうだ!これは間違いない!ここは漢王朝だ!いや、まて落ち着け俺、まだだ、漢王朝は長く続いたはずだ。あの時代でなければ問題ない。平穏に過ごせるはずだ。いや、だめだ。確認しておかないといけない。まだ俺の知ってる年老いた武将って誰だ?わからん。思い出せ、何かないか!呂布…そうだ、董卓!)

 

「母上、呂布か董卓という名前に聞き覚えはありますか?」

 

「いえ、ないわね。」

 

(皇帝の名前なんか言われてもわからん!皆、劉姓なのはわかるけどっ!落ち着け、待て、待てよ。呂布を知らないなら孔明とかいってもわからないよな?孫堅はどうだ?いや、そうじゃない。そもそも董卓がなんで洛陽に来た?宦官の排除…!そうだ!十常時!張譲しかわからんが!あ、豚殺しのやつ何進だ!いや、あいつの妹だかなんだかが皇后になったんだ。名前がわからん…!何進だから…何皇后だ!)

 

「母上、もう一度聞きますが孫堅、張譲、何進、それと帝の妃に何皇后?という方はいますか?」

 

「ごめんなさいね。」

「そうですか!良かった!」

「張譲様以外聞いたことは無いわ。張中常侍様の事よね?私は他の方は知らないわ、ごめんなさい。」

 

 そう母が言い終わると同時に、純一は急に立ち上がり叫んだ。

 

「冗談だろう!?なんでよりにもよって三国志なんだよ!クソッ!ありえねーだろ!死亡フラグビンビンじゃねーかよっ!しかも、曹家の曹嵩とかって曹操の親父だろ!聞いたことある気がするし!じゃあ、あれかよ!俺は曹操の腹違いの兄とかか!?嘘だろう!?曹操の兄なんて居たか?いたら曹操家督ついでねーよな!っつーことは俺間違いなく死んでるじゃん!ヤバイ、マジヤバイ!俺死んだぁああああ!」

 

 暴れながら叫び続ける純一に、何が何だかわからない母は最初茫然とそれを見ていたが、そのうち純一が涙を流しながら暴れている事に気が付くと、慌てて力一杯抱きしめて落ち着かせようとした。

 

「阿楊!落ち着きなさい!阿楊!わからないわ!貴方が何を言ってるのかわからない説明して頂戴、お願い、説明して頂戴。それになんで曹操の名前を知ってるの?曹操と何か関係があるの?まだ生まれたばかりのはずよ。」

 

「やっぱりだ!曹操の兄確定だ。クッソ!もうだめだ無理だ!なんでよりによって!」

 

 母に抱きしめられ、もがきながらそれでも叫び続ける純一。幼い身体のせいかその動きも声もしばらくすると静かになり、その後はすすり泣くような声で呟くように言葉を綴りはじめた。

 

「母上…母上…こんな事は、信じられないかもしれませんが、いえ、僕自身も信じられませんが、でも、どうやら…どうやら僕は、1000年以上先の時代に生きていたようです。何を言ってるかわからないと思いますが、自分でもよくわかってません。でも、これより先にこの漢という国がどうなるかを僕は知っております。」

 

「どういうこと?阿楊、何を言ってるの?」

 

「落ち着いて聞いてください、これからこの漢という国は乱れに乱れ戦乱の世となり、そして…滅亡することを僕は知っております。何故ならば、僕が生きた時代にまでその事は史実を元にした小説、いえ、物語として残っていたからです。」

 

 呆気にとられた母の顔を優しく撫でながら純一は続けた。

 

「この国は政の腐敗により、大規模な反乱が起き、そのまま乱世に突入します。弱肉強食の時代となり、力の無いものは潰れ、力あるもののみが残ります。そして、最後に三つの国が残ったことから後世では三国志時代と言われ、遠く異国の地まで私が生きた1800年後、いえ、それ以上何千年も語り継がれていく事となるでしょう。曹操は最後に残る三国のうち一角を担う一番大きな勢力を持った覇王として有名になるんです。これより先、10年か或いは、20年先に漢全土を巻き込む戦乱の世になるんです。そして、僕も詳しく覚えているわけではないのですが三国志という物語には数多の武将、知将、英雄が描かれておりますが…僕の知る限り、曹操の兄の記述は無かったと…思います…。」

 

 これより先、戦乱を迎えるという言葉に母は絶句し、そして愛しい息子の記述が無かったと聞いたところで、どういう意味かを理解し、蒼白になっていく。

 

「いえ、わからないわ!ただ、記述されてないだけだわ!阿楊が死ぬなんてことがある訳がない。そうでしょう?私が守るもの、例え貴方が死ぬ運命にあるとしても、私が変えます!いえ、変えてみませます!」

 

 母が決意を込めて純一に言った言葉は彼の頭を真っ白に染め上げた。

 

(そうだ…俺は曹楊であって、曹楊ではないんだ。新宮純一でもあるんだ。最早歴史は変わっていると信じたい!)

 

「母上!僕の未来を変えるのに協力下さい!」

 

 純一は生きようと、生き延びてみせようと固く心に誓う。

 

 

 それから純一は母に覚えている限りの出来事を母に伝えるが、覚えている事は大きな歴史の流れと、有名な話しか伝えられなかった。それでも、なんとか伝えるだけ伝えることにしたのだが、どうしたらいいかまでは思いつくことは無かった。

 

「阿楊、私達だけでは拉致が明かないわね…。明日兄さんが帰ってきますから話してみましょう?大丈夫よ、きっと兄さんなら力になってくれるわ。」

 

 

 陽もすっかり沈み、純一監修の下に夕餉を作り食事を終えた二人は床に就いた。

 

「阿楊、貴方は本当は何歳なの?」

 

「前世は23歳まで、そしてこちらで2歳近くになりますから24歳か25歳になるんでしょうか?」

 

 激動の一日を終え、ウトウトしはじめた純一がそう答えると隣で寝ていた母は突然身を起こし、純一に覆いかぶさった。

 月明かりに照らされてうすぼんやりとした美しい母の顔は何故か意地の悪そうな笑みを浮かべていた。

 

「な、なんです?母上、その顔は何をするつもりですか?」

 

「いーえー、別にぃ、でも、そうよねー、阿楊は私より年上だったのね。」

 

「母上はお幾つなんですか?」

 

 つい、そう聞いてしまった純一だったが、目の前の母を見た瞬間にしまったと心の内で思ったが後の祭りだった。

 

「あらあら、聞いちゃうの?ねぇ、年聞いちゃうの?教えないわ。うふふ、でも阿楊よりは年下よ?っで、どうだったの?」

 

「…どうだった…とは…?」

 

「阿楊はねぇ、年下のお母さんのお乳を吸っていたのよね?うふふ、どうだったの?私は知る権利があると思うのよね?そうでしょ、阿楊?」

 

 必死に黙秘権を行使しようとする純一を舐るように母は追い詰めていき、全てを吐かされた後に気絶するように眠りに落ちたのは、明け方近くとなるのだった。

 

 

 翌日、人の声で純一は目が覚めたが、意識がハッキリした時には旅装のまま母に手を掴まれて程岳が部屋に入ってくる頃だった。

 恐らく、何の説明もないまま連れてこられたのだろう、完全に困惑した表情を浮かべている程岳。

 

「兄さん、阿楊が凄いのよ。ねぇ、聞いてる?あら、阿楊起こしちゃったかしら?おはよう。」

「木蘭、お前の説明はさっぱりわからないのだが、阿楊の何が凄いというのだ?」

 

 純一の目に映ったのは、使用人という壁を作り他人行儀で寡黙な姿とは違い、興奮した妹にほとほと困り果てた兄という柔らかな雰囲気を纏った初めて見る程岳の姿だった。

 

「母上、叔父上おはようございます。そして、初めまして?」

 

 そう言い終わると、普段使用人たちがやっている揖礼(はいゆう)を見よう見まねでたどたどしいながら行った。

 

「なっ!どういう事だ!?」

 

 程岳は純一の豹変ぶりに声を上げて驚き、後ろに立つ妹の顔を見やると、してやったりという満足げな妹をしていた。

 

「うふふ、兄さん驚いた?ねぇ驚いたでしょう?」

 

「あ、ああ、これは驚いたよ。木蘭これはどんな奇術、いや妖術を使ったんだい?」

 

「あら、兄さん私は何もしてないわよ?それに、私に聞くよりも阿楊に聞いた方がいいんじゃない?」

 

「いや、しかし…そうか……阿楊、説明してくれるかい?」

 

 程岳は純一を抱き上げると椅子に座らせ、自分たちも椅子に三人で机を囲むように

座ると、妹と甥を交互に見ながら説明するように促した。

 

 純一は最初、ゆっくりと程岳に昨日母に話した事を掻い摘みながら行く、熱を出した一件から始まり、自分が先の時代に生きていた事、そして最後にはこれより先の戦乱の世が物語になっていた事、その中に自分の記述が無い事まで話した。

 

「信じられん、いや、信じたいとは思うのだが証拠はあるのかね?」

 

「確かにいきなりこんな事を言われたら驚くなという方が無理だとおもいますが、証拠というと難しいです。」

 

「兄さん?阿楊は張中常侍の事や曹操の名前を知っていたのよ?」

 

「いや、だがどこかで聞いたかもしれない。もう少し、今度はこれより先の事を詳しく教えて貰っていいかね?」

 

「ええ、僕も全てを覚えてるわけではないですが判る範囲で……。」

 

 そう、純一は前置きしつつ宦官による政の腐敗により大規模な民衆蜂起、そして黄色の布を巻いている事から黄布の乱と呼ばれる事や、その後に帝が死に後継者争いは何進と宦官の権力争いと発展し、何進暗殺、そして袁紹達による宦官の排除。だがそこで董卓が洛陽に入り込み洛陽の圧政、袁紹盟主による反董卓連合で袁術や曹操、孫堅まで話すと程岳は言葉を挟んだ。

 

「もういい、わかった…。木蘭、阿楊の言う事は真実だ。彼は未来を知っている。」

 

 程岳は目を瞑り、一旦間を置いてから再び純一をじっと見つめ、口を開いた。

 

「実は、昨日町に入った後に酒場で聞いた話なんだが、袁家に生まれたそうだよ。阿楊の言った通り袁紹という名前の姫君がね。これは阿楊が知る訳がない、木蘭だって知らないだろう?」

 

「ええ、兄さん知る訳がないわ。」

 

 だが、純一は程岳の言葉に違和感を感じた。

 

「……今、姫君と言いましたか?」

 

「ああ、そうだよ。」

 

「あの、姫君って女性ですよね?それって武将とかになれるんですかね?」

 

「何を言ってるんだ?曹操も女児であろう?」

 

(え?どういう事?女が武将になれる?あれ?曹操も女?)

 

「あ、あれれ?よくわからないんですが僕も叔父さんも男ですよね?」

 

 若干戸惑いながらも質問をしてしまう純一に対して大人二人はきょとんとした後に笑いながら答えた。

 

「あらあら、阿楊?貴方は男の子でしょう?うふふ。」

 

「そうだぞ、阿楊も私も男に決まってるだろう?何を言ってるんだ?」

 

(あれ、おかしいな。女?男?どういうことだ?)

 

「あの、不躾な質問で申し訳ないのですが女性でも役人とか、太守とか、もしかして帝とかになれちゃったりしちゃったりするんですかね?」

 

「阿楊、何を言ってるんだね?女性で有名な方なぞ沢山いるではないか、高祖様ですら女性であったと伝えられてるぞ?」

 

 何が何やらわからぬといった顔をした純一に向かって母が声をかけた。

 

「阿楊、女性のほうが気を使える者が多いから著名な方はほとんど女性よ?」

 

(そうか、気があるのか!って、気ってなんだ?)

 

「あ、あの、気ってなんでしょうか?僕はよくわからないんですが…。」

 

「阿楊はいつも医者にしてもらってるじゃない。それに気を使えると身体が凄く軽くなったり力を出せるようになったりするのよ?」

 

(なるほど、あれが気か!前世では眉唾物だったけど確かにあれをしてもらうと病気が治ったり身体が楽になったりしたな、緑髪だったり金髪だったり曹操とか袁紹が女性だったり、なるほど…。ここはパラレルワールド的な感じなのか)

 

 そこまで考えが及んだことで納得し始めた純一は未だ、笑いながら眺めている大人二人に言葉を選ぶように、口を開いた。

 

「どうやら、僕の知る歴史とは若干この世界は異なるようです。何故なら、僕の知る世界には気等ございませんでしたし、それに曹操や袁紹、高祖劉邦ですら男でした。更に言えば、僕の世界では女性が政に参加する等は今よりずっと後の時代になっていかと思います…。」

 

 若干言葉を濁しつつ、今度はきょとんとした顔をする大人二人を見ながら言葉を続ける。

 

「恐らくこの世界は、僕が生きた世界とは違う世界のようですが因果というか高祖劉邦が女性、男性に関わらず漢という国を興したように、恐らく歴史の流れ自体は変わらないと考えてよいかと、また、曹操が男であろうが女であろうが細かい部分は違うかもしれませんが大まかな所は変わらぬまま役割を果たすのではないでしょうか?」

 

 パラレルワールドという概念が恐らくないだろうこの時代に生きる母と叔父に何とか伝えようとする純一だったが、二人ともよくわからないが多分そうなのだろうとやっと頷いたのを見て安心した。

 

「そして、出来れば叔父さん。出来れば力を貸していただけないでしょうか?」

 

 そう言いながら純一は頭を下げた。しかし、程岳は返事をしようとしなかった。

 

「兄さんっ!」

 

「木蘭、黙れっ。」

 

 詰め寄ろうとする母を、程岳は一喝し純一を値踏みするように見つめている。

 

「これより、乱世になり漢は倒れる。それは判った。だが、君はそこで何を望む?阿楊、いや曹楊殿、何を成すつもりかね?」

 

 程岳の手厳しい質問に対して、純一は言葉に詰まってしまい中々切り出す事が出来なかった。

 

「わかりません。今判るのは、僕は死にたくないし、母も死なせたくない。」

 

 ふむ、と頷きながら定額は腕を組み純一の顔を見ながら目線で続きを言うように促した。

 

「確かに、乱世に活躍して名前を残したりしたいと思う気持ちもあります。だけど、僕は人の上に立ったこともないし、立てるとも思えない。危険な事もしたくないです。その上で、これからこの世界の事を知って行き、何が出来るかを僕は知りたい。」

 

 今思ってることを素直に純一が言い終わると、程岳は笑い声をあげた。

 

「誰よりも早く乱世を知り、そして危険な事をしたくないか面白いな曹楊殿は、それに木蘭を守る事を第一とするのは私も一緒だよ、聞いただろう?」

 

 そこまで言い終えると程岳は椅子から立ち上がり、佇まいを直し今までと打って変わった表情をしながら純一に話しかけた。

 

「私は姓は程、名は岳。沛国譙県(はいこくしょうけん)の出で字を景徳(けいとく)、真名を伯(はく)と申します。今後、曹楊殿に協力する事を誓いましょう。」

 

 それを見た母は慌てて立ち上がり

 

「阿楊、いえ、曹楊殿。私は姓は程、名は木蘭。兄と同じ出であり字は宮(きょう)、真名を崔(さい)と申します。今後ともよろしくお願いしますね?いろいろ教えてくださいね?そしていっぱい甘えてね?うふふ」

 

 大人二人は小さい純一に拝礼を行った。

 たじたじとなってしまった純一はどうしたらよいかわからないまま、床に降りて土下座してしまった。

 そんな姿を見た二人は大いに笑い、純一もどうしていいかわからないまま二人に釣られて笑い声をあげ、三人ともこれから始まるであろう戦乱を知りつつも、今この場は笑いながら幸せを噛みしめていた。

 

 また、その後に二人に真名の説明を受けた純一は自分でもつけても良いと聞き大いに喜び、真名を「純一」と自ら命名し、再び彼は純一という名前を名乗る事が出来るようになった。




次回の更新はもう少し早くなるようにしたいとおもいます。
毎日書ける人ってすごい・・・。

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