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「その後はどうなさいましたか?」
「えっと、後ろ向いたら扉があったので、不思議だなって思ったけど、そのまま広場に戻りました」
「ふむ」
「それで、ちょっと飛んで、気付いたら目が覚めました」
「はい。分かりました」
お茶を飲みながらでも、ずっと話し続けたのは久しぶり。
ふうと息をついて、メモを取るアドレムさんを見やる。
「ありがとうございます。さて、昨日のデータはこちらですね」
アドレムさんは端末を操作してモニターを開く。
私の体のほぼ全体が真っ赤に染まっている様子が見えた。
「今までにないほどの活性化です。おそらくかなり回復が進んでいるかと思いますが、どうでしょうか。足の感覚とかは」
そう言われて私は足の指を閉じたり開いたり、膝を曲げたりしてみた。
昨日よりもしっかり動く。
動かしているっていう感覚が伝わってくる。
「はい。良くなっています」
一歩踏み出しただけでこれだけ違うなんて。
意外さ、今までやらなかった馬鹿らしさ、奇妙さ。
色んな気持ちと共に、治りが良くなった実感を覚える。
「でも……」
アンノウンの攻撃を受けそうになったときの怖さが付いて来た。
手に力が入る。言葉は出てこない。
「何でもありません」
「分かりました。また何かあったら話してくださいね」
「はい」
「それで、昨日の夢では嫌なことがあったみたいですが――次も扉に行きます?」
「はい。行きます。今度は別の場所に」
「そうですね。それで良いと思います」
アドレムさんは安心したように笑みを見せた。
「では、今日のリハビリを始めていきましょう。回復の状況も知りたいので、適宜データを取りながら」
「はい。お願いします!」
足をベッドの外に出して、アドレムさんに支えてもらいながら、私は立った。
以前は、支え無しでは立っていることすらできなかったけど、今は違う。
本局内の居住空間の光を背に受けながら、私は病室の扉へと歩いて行った。
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大空の広場。
4つある扉。
今日もまた"夢"の世界に来た。
「今回は……」
決めていた場所に行こうしたとき、かしゃんと首元から音がした。
「アイゼンだ」
待機状態のグラーフアイゼンがネックレスになっていた。
こう着るのは、ヴィータちゃんと同じだ。
ハンマーを手に取ってじっと見つめる。
これはヴィータちゃんの象徴。私の命を助けてくれたあの子の。
一緒に居るなら心強い。
ぐっと握った後、私は改めて歩き出す。
そして、黒字に十字が描いてある扉の前に立つ。
昨日のことから考えるなら、私の記憶が夢に関わっていると仮設が立つ。
この扉の先はきっと。
開いてまず目に入ってきたのは、街とその先に広がる海。
扉の先に足を入れて、左右を見るとベンチがあった。
「展望台」
海鳴市を見渡す高台。
昼くらいの明るさで、雪が照らされながら降っている。
雪原の世界とは違って、ちゃんと冷たい。
あの模様の扉がこの場所に繋がっているのなら、きっとここは"あの時"。
私は確信を抱きながら、扉の後ろに回った。
そこには、魔法陣があった。
中央に大きな三角のベルカ式。その両側に附属する円形のミッド式。
「リインフォースさんが空に昇った時だ」
夜天の書の完全消滅を実行した場所、時間。
やっぱり私の思い出と"夢"は繋がっている。
夢らしいと言えばそんな感じがする。そんな感想を抱いた。
思考していた意識を魔法陣に向け直すと、中心に長方形の物体があった。
それに気付いた瞬間、魔法陣は光の針になって弾け飛ぶ。
「わっ」
少しびっくりして腕を体の前に上げたけど、それ以上は何も起きなかった。
昨日の遺跡での景色変化と言い、びっくり箱みたいにでもなっているのだろうか。
「これは、夜天の書」
中心だった場所にあったのは1冊の魔導書。
十字を中央に描いた暗褐色の装丁。
屈んで手に取ると、それなりの重さを感じる。
お皿3,4枚くらいはありそう。
「――元気であるとは言えまい」
後ろから声が聞こえた。
少し低めの包み込むような音。
「だが、無事だったようで何よりだ」
「リインフォースさんっ」
急いで振り向いた先には、誰も居なかった。
山を背景に、雪が降っているだけ。
「リインフォースさん」
これは私の夢。
だから意味は無いけど、口に出したい。
撃墜後で感傷的になっているのかもしれない。
それだけなのかもしれないけど、伝えたい。
「はやてちゃんは、頑張っています」
「私が撃墜されちゃって心配かけちゃっているけど、指揮官目指して頑張っています」
「ヴィータちゃん、シグナムさん、シャマルさん、ザフィーラさんもはやてちゃんの支えになっています」
「フェイトちゃんも、執務官に向けて、勉強頑張っています」
そこまで言い終えて、呼吸を整えて、また口を開いた。
「リインフォース・ツヴァイが生まれました。はやてちゃんが努力して」
「リインフォースさんの妹です」
「小さくて、可愛い子です」
頬を緩めて、視線を下げる。
「私達は、元気です」
伝えきって、静けさが戻る。
返事は無い。
だけど、ふっと笑みを見せたリインフォースが見えたような気がした。
懐に抱えた夜天の書が、ちょっと暖かくなったように思えたから。
その後、周囲を探索していたけど、気になるような物は無かった。
リインフォースさんとの出会いと、久しぶり見れた海鳴の景色。
いっぱい元気を分けてもらった気分になった。
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「ふむ。なのはさんの故郷があったと」
「はい。懐かしくて、なんだか元気をもらいました」
闇の書事件のことは一応緘口令があるから、ちょっとぼかさないといけない。
クロノ君が選んだお医者さんなら事情を知っているだろうけど、アドレムさんは普通の局員だから。
「ええ。元気をもらっているのはデータにも表れていますね」
「また回復が進みましたか?」
「はい。"夢"でなくても、1人でゆっくり歩けるくらいには神経組織も戻っています」
「本当ですか!」
「本当です」
その言葉を受けて、口角がふわりと上がる。
治る。飛べるようになる。
嬉しさで空を思い描いて、天井を見上げた。
見えたのは、金属光沢をもった黒色。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
「えっと……」
こんな色だったっけ。
確か病院みたいな白めの感じだったような。
それにと思って、外を見る。
次元の海が一望できる。かなり上質な部屋。
だけど、ここから見えるのは違うものだったような。
そもそもこの部屋から外は見えたっけ。
「いえ。何でもないです」
「――"夢"に居る時間が長いと、現実と夢との間で混乱することもあるかもしれませんね。一昨日の件もありますし、扉の先に行く時は注意を欠かさないように」
「そうですね」
どこか引っかかる。
思えば、フェイトちゃんやはやてちゃんが全く来てないのも不自然。
確かできる限り毎日見舞いに来て、リハビリも助けるよって言ってたような。
「では、今日のリハビリを始めていきましょう。1人でベッドから出られますか?」
「あ。はい」
足をベッドの外に出して、そのまま力を入れて地面に立つ。
姿勢が保てる。
しっかり回復しているようだった。
「では行きましょう」
「お願いします」
アドレムさんが用意していた歩行車を掴んで、扉に向かう。
扉の前まで来た時、私はふと思い出した。
「そういえば……」
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