なのはと思い出の夢   作:U川

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 大空の広場。

 首にはアイゼンと小さい夜天の書がぶら下がったネックレス。

 重さを感じないのは"夢"だからかな。 

 

 雪原の世界、展望台の世界を終えて、次はどこに行こう。

 まだ入ったことの無い扉は残り2つ。

 もう済んだ世界に行ってもいいけど、たぶん時間を潰すだけだろう。

 この"夢"から出る方法は、大空を飛ぶことだから。

 

 そう思いながら、私は青色を基調にした扉に向かった。

 

 水色の枠、青色と濃い青色の面。

 この色合いは、たぶんジュエルシードを表している。

 ならJS事件に関わる記憶が出てくるのかもしれない。

 

 そういえば、何かを忘れている気がする。

 "夢"に来る前に何かあったような……。

 

 扉の先を想像して懐かしさが湧きあがっているけど、現実のことでの疑問がある。

 

 でも、"夢"の中だと現実のことはどうしようもない。

 切り替えていこう。

 

 扉に関われば、復帰が近づく。

 それに展望台の世界みたいに思い出の場所が見れるのならもっと嬉しい。

 

「よしっ」

 

 掛け声に合わせて、扉を勢いよく開いた。

 

 

 

 海に林立するビル群。それを照らす白い太陽。

 久しぶりに日の光を見たような気がする。

 海の先には靄が掛かったように街が見える。

 

 ここは、練習空間。

 フェイトちゃんとジュエルシードを賭けて戦った場所。

 

 胸から広がる暖かさ。

 懐かしい気持ちと一緒に建物の間を飛ぶ。

 特に変わったところは無いような。

 

「あっ」

 

 ビルの屋上に何かある。

 

 近づいて見ると、白くて小さい。

 もっと寄ってその場所に降りて見れば、それは白いリボン。

 

 私がフェイトちゃんに渡したリボン。

 

 かがんで手に取って、手のひらに広げてみた。

 

 フェイトちゃんと私がぶつかり合った思い出が蘇る。

 あの辺りでフェイトちゃんが砲撃をして、ディバインバスターを撃って。

 上空に出て、スターライトブレイカーを使った。

 

 いつの間にか閉じていた瞳を開いて、リボンを見つめる。

 

 優しく握りしめて、胸の前に持って来る。

 

 会いたいよ、フェイトちゃん。

 ずっと顔を見ていない。

 そう。確かに。

 

 私はフェイトちゃんと会ってない――

 

 ―

 ――

 ―――

 

「んっ」

 

 目が覚める。

 意識が浮かんだように感じるのは、久しぶりな気がする。

 

「お早いお目覚めですね」

「アドレムさん」

 

 右隣を見ると白衣の女性。

 その先は別のベッド。どうやら個室ですら無くなったみたいだ。

 

「アドレムさん。ここは……」

 

 この病室、いや今までの病室。

 頻繁に移動するなんておかしい。

 全然気が付かなかったのも。

 質問しないとと思って、肘に力を込め、上体を起こす。

 

「ちょうどいい頃合いです」

 

 その言葉が耳に入ると、眩暈がやってきた。

 

 ぐるぐると視界が揺れる。

 体をぐっと曲げて、目を押さえる。

 だけど、そこに居る人の姿はしっかりと捉えようと顔を動かして。

 

「え……?」

 

 見えない。青い目があったはずなのに。

 顔のあるはずの場所には、黒い覆いだけが広がっていた。

 

「良き"夢"を。そして良き内省を。本機はそれを使命とします」

 

 ここはどこで、アドレムさんは何なのか。

 見えない顔に向かって口を開いても、声は出せなくて。

 

「ご安心ください。もうほとんど夢から醒めていますから」

 

 暗くなった世界に、落ち着いた声色だけが響く。

 体をほぐされて、ベッドに寝かしつけられる。

 

「最後のひと時を。いってらっしゃいませ、my user」

 

 ふっと下に落ちていった。

 

 ―――

 ――

 ―

 

 どん。

 背中が地面に当たった。

 ちょっと痛いけど、空中から落ちたような印象とは違う。

 

「ここは……」

 

 目を開けると青い空。

 仰向けのまま左を向くと花壇。

 

「もしかして」

 

 そう呟いて体を起こすと、大きめの建物が目に入る。

 

「聖祥だ」

 

 3階建てで、黄色に塗った外壁。

 ここは正門の前。校札に文字は無い。

 

 どうしてここに降りたのだろう。

 

 今、聖祥の"夢"に居るのはアドレムさんのせいで間違いない。

 でも、目覚めている時の方はよく分からない。

 

 病室のこと以外でも、変なところはある。

 私が撃墜されて意識を取り戻した後、お見舞いに来る人は多かった。

 フェイトちゃんは執務官試験があるけど、しょっちゅう看病しに来てくれている。

 クロノくんに注意されたのは……ちょっと考えにくいかな。

 

「――」

 

 校舎を眺めながら考え込んでいると、声が聞こえた。

 方向は、花壇の近くだろうか。

 

 "夢"の中のイベントに会うと、空と扉の場所へ戻れる。

 今回も経験のとおりなら、向かって損は無い。

 

 でも、そう考える前に、私の体は動いていた。

 この悲しい響きを、忘れることなんてない。

 行かなくちゃ。

 

「――!」

 

 花壇の前に来ると、小さな影が2つ向かい合っていた。

 片方がカチューシャを持っていて、もう片方が返してほしそうに手を伸ばしている。

 話している内容は聞き取れない。

 

 "夢"は私の記憶から生まれている。

 憶えていると思っていても、霞んでいる部分があるのだろう。

 少し寂しい気持ちが出てくる。

 

 だけど、そんなことを気にしている場合じゃない。

 私がやったこと、やるべきことはこの胸に焼き付いているから。

 

「ねぇ」

 

 言葉を掛けながら、2人の間に立つ。

 さっきまで見下ろしていたはずの身長差は、無くなっていた。

 

 影がこっちに気付いて驚いている隙を狙って――

 

 無言でその頬をひっぱたく。

 

 ぱんと良い音が鳴った。肌の感触もちゃんとあった。

 

 静寂。

 

 前の子も、後ろの子もこっちを見ている。

 

「……痛かったよね」

 

 口から出たのは、あの時とは違う言葉。

 

「でも、このことがあったから、私達は友達になれた」

 

 影は動かない。

 

「ちょっと物騒な気はするけどね」

 

 困ったように笑うと、影――アリサちゃんはやれやれと首を振る。

 後ろの影――すずかちゃんが小走りで隣に来た。

 

「あたしたちのことだけじゃないわよ」

「なのはちゃんの始まりでもあるんだよ」

 

 2人の声がしっかりと聞こえた。

 穏やかな声色。

 表情は見えない。でも、笑顔を浮かべている確信があった。

 

「それってどういう……」

 

 言い切る前に2人は消えてしまった。

 それどころか、花壇、校舎、青空まで消えていき、暗い空間に覆われていっている。

 

 これは"夢"。私の思い出から作っている情景。

 でも、起きてた頃の話し方からすると、たぶんアドレムさんが編集している。

 さっきのアリサちゃんとすずかちゃんの言葉は、きっと"良き内省"のことだろう。

 

 アドレムさんは、私に何をさせてようとしているのだろう。

 

 暗闇の中で思いを巡らしていると、目の前に扉が現れた。

 ちょっと古めの雰囲気がある引き戸。

 

 家の扉だ。

 

 今まで"夢"で見てきた昔のこと。

 思い返せば、現在から時計の針を戻すように見ていた。

 

 なら、この扉は――

 

 胸のどこかで痛みを感じながら、扉を開いた。

 

 

 

 靴は1足。幼稚園児が履くくらいのサイズ。

 玄関の電気は消えている。

 

 見慣れた場所のはずなのに、上がることに抵抗がある。

 思い出すことはあっても、見つめ直したことは無い記憶。

 

 でも、進まないといけない。

 踊らされているような気分も出てくるけど、負けてなんかいられない。

 

 

 

 深呼吸をして、靴を脱ぐ。

 嫌な気持ちが浮かぶ胸を手で抑えながら、それに導かれるようにリビングに。

 

 廊下とリビングを仕切る扉。

 これは"良き夢"でも"良き内省"でも無いんじゃないかな。

 その先に何があるか、ぼんやりと予想して、取っ手を手に取った。

 

 

 

「……」

 

 居た。

 

 ソファにうずくまっている小さい私。

 

 憶えていたけど、思い出していたけれど、見ていなかった思い出。

 

 お父さんが事故で大怪我をして入院している頃。

 

 何もできない自分に――

 

「……そうだったね」

 

 考えを止めて、下がった視線を幼い自分に向きなおして、そこに歩き出す。

 

「これが"私"だね」

 

 隣に腰を掛けて、顔を覗く。

 

 幼い私が振り向く。

 

 泣きたくて、でも迷惑で。

 

 寂しくて、でも諦めていて。

 

 暗い瞳があった。

 

「……ありがとう」

 

 後ろ髪をさらっと撫でる。

 こんな状態からよく元気になったなと場違いな感想を抱いた。

 

「あっ。そうか」

 

 2人との始まりが、私の始まりでもある。

 そう言われたことをふと思い出す。

 

 その時の言葉の意味が繋がった。

 なら、この子に掛けるべき言葉は――。

 

「"なのは"」

 

 優しく声を掛ける。

 

「辛いよね。寂しいよね。迷惑かけちゃ駄目だって」

 

 だんだんと小さくなる。

 

「でも、それで大丈夫」

 

 少し声を張り上げて、瞳をしっかり見る。

 

「そうじゃない"過去"も有り得たかもしれない」

 

 教えるように。

 

「でも、それがあってもどうにかなるから……いや、なかったら逆に……」

 

 懐かしむように。

 

「だから……」

 

 言葉は、続かない。続けられない。

 話したいことがまとまらない。

 

 違う。私は、そんなことを言うために、"なのは"と向き合っているんじゃない。

 

「ごめん」

 

 視線を下げる。

 

「もう"なのは"の頃には、戻れない」

 

 間をおいて話す。

 

「友達がね、居るんだ」

 

 少し声の高さが上がる。

 

「会いたい。ずっと会えてなくて、悲しい」

 

 手を握りしめる。

 

「大切な、友達」

 

 言い切って、"なのは"に向き直る。

 

「……」

 

 無言の時間。

 "なのは"は、最後までこっちに目を向けていた。

 表情は変わらない。

 

「ありがとう、"なのは"」

 

 息をたっぷりと含んだ声。

 

「思い出させてくれて」

 

 忘れていたわけじゃない。でも、直視していなかった。

 昔のこととして、仕舞いこんでた過去。

 

 ふわりと笑顔を浮かべる。

 

 "なのは"は私を見て、ちょっとだけ頬を上げた。

 

 

 

 そして、言葉を出さないまま、廊下の方を向いて、指を差した。

 

 さっきまでただの扉だった場所には、病室の引き戸が付いていた。

 

 イベントの終わり。

 いや、夢が閉じるのかもしれない。

 

「いってきます」

 

 もう一回頭の後ろを撫でて、ソファから立ち上がる。

 

 振り返らない。

 扉は勢いよくスライドさせた。

 

 ―

 ――

 ―――

 

 

 

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