ダブルの原点・・・最高のコンビの、最悪な出会いの物語です。あのキャラのリ・イマジネーションキャラも出ます。
それでは、どうぞ!
夜8時・・・五月は約束の時間に、先程の喫茶店『ウィンドウ・シティ』を尋ねた。
喫茶店に入ると、客は誰もおらず、夕方、対応してくれたマスターがカウンターでカップを磨いていた。翔太の姿は見えず、時間が早かったのかと、五月が考えていると・・・
「いらっしゃい・・・こちらにどうぞ」
「え・・・?は、はい」
五月に気付いたマスターが声を掛けた。それに従い、後ろについていく五月。個室の前についたマスターは、
「おい、翔太・・・お連れ様だぞ」
と中に声を掛けた。すると・・・
「おう、マスター。ありがとな・・・それと、何か飲み物を頼むよ」
「・・・おう」
「・・・さ、佐桐君・・・」
「よう、五月・・・よく来たな。まぁ、入れよ」
個室から顔をのぞかせた翔太はマスターにそう頼み、五月に中に入るように指示した。それに従い、五月が中に入ると・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・えっ?」
フィリップが中にいたのだが、見ず知らずの人物がいるとは思わず、五月は驚いてしまった。思わず、目で翔太に、誰ですかと、尋ねていた。
「ああ、悪い悪い・・・こっちは俺の相棒のフィリップだ。おい、フィリップ」
「・・・・・・・・・・」
「・・・はぁ・・・フィリップ!!!」
「うん・・・?ああ、すまない、翔太・・・検索に夢中になっていたよ」
「頼むぜ・・・?今日はお前にも話をしてもらわないといけないんだから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
翔太の呼びかけに、現実に戻ったフィリップは全く反省していない態度でそう謝罪した。そのやりとり・・・というよりも、普段と違った翔太の態度に五月は口が開いてしまっていた。
「さ、佐桐君・・・?」
「ああ、悪い、悪い・・・置いてけぼりにしちまったな」
「・・・すまない、僕は一度、検索・・・読書に没頭してしまうと、周りが見えなくなってしまう癖があってね・・・中野五月くん・・・初めまして、というよりも、改めまして、と言うべきかな?」
「・・・えっ?」
フィリップの言葉に、五月が固まる。
「夏祭りの時に会っただろう・・・?ひょっとこの仮面だ」
「・・・・・あー!もしかして、佐桐君の、弟さん?」
「正確には、同居人・・・と言うべきかな」
翔太の言葉に、夏祭りのことを思い出した五月は大声を上げた。フィリップは、その言葉に苦笑しながら、訂正した。
「あの時、二乃が近くにいたんで、咄嗟に誤魔化す必要があったんだ」
「・・・中野二乃は僕の正体を知ってしまったからね・・・翔太と僕の関係を隠す必要があったんだ」
「・・・・・は、はぁ・・・?」
いきなりすぎて、話についていけない五月は、適当に相槌を打つことしかできなかった。そんな時、
「・・・邪魔するぞ。アイスティーだ」
「ありがとう、マスター」
「・・・それじゃ、俺は帰るぞ?戸締りは頼んだからな」
「ああ」
そう言って、マスターはその場を後にし、扉から出て行った。
「・・・さて、それじゃ、どこから話したもんかな?」
「・・・ちょ、ちょっと待ってください!」
ようやく我に返った五月が待ったをかけた。
「・・・ど、どういうことですか!?二乃に隠すため?翔太君とその・・・フィリップさんが相棒?そもそも、このお店のマスターさんとは、どういう関係なんですか!?」
「・・・分かった、分かった!順に説明してやるから」
許容量を超え、栓を切ったように疑問点を言い出した五月の声に、耳を抑えながら答える翔太。ちなみに、その横でフィリップも耳を抑えていた。
「・・・まず、最初に一応言っておくが、この話は他言無用で頼む。お前に話すのは、お前を信用してのことだ。俺を信頼してくれてるお前に、隠し事をしたままなのは、俺の信条に反すると思ったからだ」
「・・・分かりました」
「・・・それじゃ、まずはお前を襲った怪物に関してだ。あれはドーパントと呼ばれる、怪人だ」
「・・・ドーパント」
「ああ。名前の由来は、肉体に地球の記憶をドーピングした者、という意味だ・・・人間がガイアメモリと呼ばれる代物で変身した・・・超人とも言えるかもな」
「・・・ガイアメモリって・・・?」
「ガイアメモリとは、外見上はUSBに酷似したものだ。その中には、様々な地球の記憶が封じ込められている」
翔太とフィリップが交互に説明を進めていく。その言葉を、五月はなんとか理解しようと言葉を反芻しながら、聞いていた。
「メモリの種類は様々だ。動物や植物、人の感情や概念といった、様々なメモリが存在する。例えば、君が遭遇した、アント・ドーパントは蟻の記憶を宿したメモリ、ボム・ドーパントは爆弾の記憶を宿したメモリ・・・有機物・無機物、その種類は問わない」
「・・・・それじゃあ、その数は・・・」
「地球上に存在するもの全て・・・と言ってもいいかもしれないね」
五月の言葉をフィリップが冷静に答える。その事実に、成績の良くない五月でも、恐ろしさを感じた。
「で、でも・・・そんな怪物、普通なら警察が対処すべきなんじゃ・・・」
「・・・ガイアメモリは、どの種類であっても、人間を超えた力を与え、ドーパントに変えてしまう。人間の通常兵器では、撃退することはまず難しいだろう。それに、例え、軍隊を率いて、ドーパントを倒せても、そんなことは推奨しないけどね」
「・・・ど、どうしてですか!?」
暗に、翔太たちが戦うべきではない、そう言った五月の言葉をフィリップが否定した。なぜなら、
「・・・その方法で倒した場合・・・ガイアメモリの使用者は、死に至る」
「・・・・・っ!?」
「・・・ガイアメモリは使用者に強力な力を与える・・・だが、同時に人間の身体にメモリの毒素も注入しちまう。ほとんどの人間は、メモリに精神と肉体を蝕まれ、暴走したり、依存しちまうようになっちまう・・・悪魔の道具だ」
フィリップの説明を翔太が補足する。その事実に、五月は信じられない、といった表情をし、
「・・・そ、それじゃあ・・・一度、使ってしまったら・・・?」
「・・・・・そんなことを避けるために、俺たちが戦ってるんだ・・・俺達、仮面ライダーダブルがな」
絶望的な声で尋ねる五月に、翔太が少し明るい・・・自信を持った声で答えた。
「・・・ダブル?」
「俺達の名称だ。仮面ライダー、って名前は前からあったんだが、俺たちが活動するにあたって、その名前と一緒に名乗らせてもらってる、ってわけだ」
「・・・・・もしかして、この前の・・・翔太君の姿のことですか・・・?」
「あれは、ちょっと違うんだ。ややこしいんだが、あれは緊急事態の時に変身する形態だ。俺達はジョーカーと呼んでる。ダブル、っていうのは・・・見せた方が早いか」
「・・・そうだね。論より証拠、と言うしね」
翔太の言葉に、フィリップも同意した。そのまま、翔太は席を立ち、ダブルドライバーを取り出し、装着する。そして、
『Cyclone!』『Joker!』
「「変身」」
それぞれがガイアメモリを起動し、ドライバーに装填し、開く。フィリップが意識を失い、翔太の姿がダブルへと変わる。
「しょ、翔太君・・・!・・・というか、フ、フィリップさん!?」
『大丈夫・・・僕の意識はこっちだ』
「・・・えっ?」
意識を失ったフィリップを心配する五月を横に、右手を振るダブルからフィリップの声が聞こえ、驚く五月。
『びっくりさせたかな?ダブルは僕と翔太・・・正確には、翔太の身体に僕の精神が憑依する変身システムなんだ』
「・・・まさしく、二人で一人の仮面ライダー、ってわけだ」
「・・・・・あ、頭が痛くなってきました」
自分の目の前で起きている現象に頭痛を感じ始めた五月は頭を抱えてしまった。その間に、翔太は変身を解き、フィリップも意識を取り戻す。
「今のがダブルだ・・・俺達は、それぞれ変身用のメモリを使って、ドーパントと戦い続けてる、ってわけだ」
「ドーパントはダブルのマキシマムドライブでなければ、倒せない。その方法であれば、ドーパントのガイアメモリのエネルギーを中和し、メモリブレイク・・・ガイアメモリを破壊することができるんだ」
「・・・・・え~と・・・?」
「・・・ダブルの必殺技なら、メモリの使用者を死なせずに倒せるってことだ」
キャパシティを超えた五月に、翔太が分かりやすく説明した。
「そして、この前、君が目撃した、黒一色の仮面ライダー・・・僕が変身できない状態や緊急時に変身する形態・・・それがジョーカーというわけだ」
「ダブルに変身中、基本的にはフィリップの精神は俺の身体に憑依していて、その体が無防備になっちまうからな。そういう時に、備えての保険ってわけだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だ、大丈夫か、五月?」
「ふむ・・・・なんとか理解しようと、必死に頭を働かせているようだね」
頭を抱え、目をグルグルさせてしまった五月を見て、翔太が心配そうに声をかける一方で、その様子を面白そうにフィリップが見ていた。
「・・・つ、つまり・・・翔太君とフィリップさんは、二人で一人になって戦っていて、あの化物は、人間が人間じゃなくなった存在だということですね・・・?」
「・・・・・なんか変な解釈の仕方になってるが・・・まぁ、そういうことだ」
なんとか状況を(彼女なりに)理解した五月の言葉に、苦笑いしながら頷く翔太。
「・・・でも・・・それなら、どうして貴方が戦っているのですか?それに、貴方たちが持っているそれも・・・ガイアメモリというやつなんですよね?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
五月の言葉に、翔太とフィリップはアイコンタクトを取り、最後の確認を取った。
「・・・それはな、五月。俺たちが受け継いだ信念と背負った罪があるからだ」
「・・・信念?・・・罪?」
「・・・・・そうさ。話は、僕と翔太の出会った10年前・・・まだ、この町が美しい風が吹くことで知られる『風都』と呼ばれていた時に遡る」
フィリップは静かに語り、懐かしむようにその話を話し始めた。
10年前・・・
夜・・・一人の男が町の中を歩いていた。白いハンチング帽にジャケット・・・その風貌から渋く、歴戦の戦士を思わせるものだった。その男を一言で表すのなら・・・まさしくハードボイルドという言葉がふさわしいだろう。その男の背中には、緑がかった髪色の少年が背負われていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
背中で眠る少年を一瞥し、男は目的地へと再び歩き出した。そして、目的地・・・男の住まいへと着き、敷地へと入って行く。そして、扉を開くと・・・
「父さん!!!」
「・・・おっと。まだ起きてたのか、翔太」
男を父と呼んだ少年・・・佐桐翔太が玄関に駆け寄り、父親を出迎えた。少年の出迎えに、まだ起きていることと嬉しいことが重なり、苦笑いでその出迎えを受ける父親・・・佐桐壮吉はその固い表情を崩した。
「母さん、今日も仕事で遅くなるって・・・だから、父さんが帰ってくるまで、待ってよって思って」
「・・・すまんな」
父親からのお礼の言葉に笑みを浮かべる翔太だったが、壮吉が背負っている少年に気が付き、その表情が困惑に変わる。
「誰なの、その子?」
「ああ・・・翔太。彼は、今日からウチに住むことになった」
「・・・え!?」
父親のまさかの発言に、更に混乱する翔太。壮吉は、靴を脱ぎ、リビングへと進んでいく。遅れて、正気に戻った翔太も壮吉の後を追っていく。背負っていた少年をソファーに寝かせる。
「ど、どういうことだよ!なんで!?この子は、一体、誰なんだよ!」
「・・・翔太」
混乱し、少年らしい口調で壮吉に詰め寄る翔太。壮吉は、しょうがない、といった表情で翔太の頭を撫でながら、
「落ち着け。今、理由を話してやる」
「・・・う、うん」
普段はクールな父親の笑みと穏やかな言葉に、今度こそ冷静に戻る翔太。帽子をいつもの位置に掛け、ジャッケットをハンガーに掛け、コーヒーを淹れながら、壮吉は理由を話し始めた。
「翔太。彼は、今回の依頼人から保護を求められたんだ」
「・・・保護?」
「ああ。彼は、犯罪組織によって、ある施設に閉じ込められていて、犯罪に加担させられていたんだ。それを、依頼を受けた俺が救出した。だが、その組織はまだ壊滅していない。それらが全て片付くまで、ウチで保護することになったんだ。母さんもこのことは知っている」
「・・・・・へぇ」
「そうしょげるな。お前に話さなかったのは、絶対に混乱させると思ったからだ。現にさっきがそうだっただろう」
自分だけ、除け者扱いされていたことに、頬を膨らませて抗議する翔太に、苦笑いしながら壮吉が宥める。壮吉の指摘に、納得がいってしまった翔太は頬を膨らませるのを止めた・・・眉はまだ不機嫌であることを表していたが。
「それでだ・・・翔太。お前に頼みたいことがある」
「頼み?なになに!?」
尊敬する父親からの依頼に不機嫌から一気に機嫌が良くなった翔太は、父親の話を促した。
「・・・この子の面倒を見てくれないか?」
「はぁ!?」
その依頼に、今日二度目となるすっとんきょんな声を上げるのだった。
「・・・・・・ここは?」
「おう・・・目が覚めたのか?」
翌朝。早速仕事で出かけてしまった壮吉の代わりに、翔太は少年が起きるのを待っていた。
ちなみに、母親は徹夜明けにより、今、寝床で爆睡している最中だった。その内、起きてくる母親と少年のために、朝食を準備し終わったところで、少年が目を覚まし、翔太は声を掛けた。少年はここがどこか、把握するために周りをキョロキョロしていた。
「君は、誰だい?」
「俺の名前は佐桐翔太。お前を助けた人の息子だ」
「・・・あの人はどこだい?」
「仕事に行ったよ。それで、お前の面倒を見るように、俺が頼まれたんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
少年は翔太の説明を黙って聞いていた。少年の反応が薄いことに、ペースを崩されながらも、翔太は話を進めていった。
「それで?お前、名前は?」
「名前?」
「そうだよ。いつまでも、お前、お前、って呼ぶわけにもいかないだろう」
「・・・・・・フィリップ。それが、僕の名前だ」
「へぇ・・・いい名前じゃん」
少年はフィリップと名乗った。その名前が、自分が愛読する小説の探偵の名前と同じことだったことに、翔太は素直に思ったことを言った。
「それじゃ、フィリップ。飯出来てるから、食おうぜ」
そう言って、朝食が並んだテーブルに座った翔太。それに倣い、フィリップも反対側に座る。
「よし、いただきます!」
「・・・いた、だきます」
そう言って、朝食を取り始めた・・・のだが、喉が渇いていたフィリップが、まずコーヒーを飲んでからこう言った。
「君、コーヒーを淹れる才能、皆無だね」
「・・・あぁ!?」
いきなりの暴言に、翔太はこう思った。
(こいつ、なんなんだよ!?)
「・・・今でも、思い出すよ。子供の翔太が入れたコーヒーは苦く、渋く・・・砂糖やミルクを入れても、ドブのような味だったと」
「うるせぇ!あん時は、父さんのを見様見真似で入れてたんだよ!」
五月に、翔太とフィリップとの出会いを語る途中で、遠い目をし、過去のことをほじくり出したフィリップに、翔太は言い返していた。
「あん時は、こいつ、何様だよと思ったもんだよ。コーヒーがどういうものか、俺が淹れたコーヒーがどれだけ酷いか、2時間に渡って、説明してきやがって」
「あの時のことは、本当にすまない。僕自身、あの時は無意識に『星の本棚』を使用していたからね。それに、あの時の僕は人の感情というものが、よく分かっていなかったからね」
昔話を楽しそうに語る翔太たちに、五月は、今の二人の様子から、その話は考えられなかった。
「だから、俺のフィリップの第一印象は、それはもう最悪だったな」
「僕に至っては、眼中になかったからね」
「そんなお二人が、どうしてここまで仲良くなったんですか?」
続きが気になった五月は、その経緯を知りたくなって、話を促した。
「仲良くなった理由か。あれは、フィリップがウチに来てから、1か月が過ぎた頃だったか」
五月の言葉に、翔太はそのことを思い出し、苦笑いしながら、語り出した。
(なんだよ、あいつ!)
最近、一緒に住み始めた同居人・・・フィリップのことを考えながら、家の中庭で縄跳びをしていた翔太はイライラしていた。その理由は、フィリップの言動にあった。父親からの依頼・・・というよりもお願いから、外に出られないフィリップに色々なことを教えようと奮闘した翔太だったが、
「はぁ?君の知っていることなど、僕は全て知っている」
と、目も合わせずに否定され、
「君におせっかいをかけてもらう必要はない。僕は、僕の知りたいことを検索するだけだ」
と、お気に入りの小説を紹介しようとしたら、そう切り捨てられ、
「勘違いしないでくれ。僕はあの人の言葉に従っただけだ。君の言うことを聞く理由なんてない。読書の邪魔だ」
と、感情のこもってない言葉を言われ、翔太の我慢も限界を超えていた。
学校が終わり、帰宅した翔太は、イライラを発散するために体育の課題である縄跳びの練習をしていた。ちなみに、今日は母親が早めに帰ってくるので、料理当番でないため、家事から解放されていた。
(今日できなかった、二重飛びの連続10回飛び・・・明日には、できるようにならないとな!)
今日できなかったことは、明日までにできるようにする。それが、佐桐翔太という少年だった。すると、
「なんだい、うるさいな・・・読書の邪魔だよ」
「・・・フィリップ」
機嫌の悪い声にその方向を向くと、心底迷惑だという表情をしたフィリップが立っていた。片手には、いつも持ち歩いている本があった。
「うるさい。今日できなかった、縄跳びの練習をしてるんだよ。音が気になるのなら、二階の部屋にでも行けよ」
「今日は、ここで読書をする気分だったんだ。それに、できないことを練習するなんて、無駄な努力だと、気が付かないのかい?」
「・・・・・・・・(ムカッ!!)」
その言葉に、怒り出しそうになるも、なんとか堪え、無言で縄跳びの練習を始める。9回までは、上手くいくのだが、どうしても10回目で足が引っかかってしまう。
「くそぉ!」
何度もトライする翔太。それをいつしか、フィリップが無言で見つめていた。
「はぁ、はぁ」
もう何度目になるか分からない挑戦に、翔太が息を切らしていた。すると、
「貸したまえ」
「あぁ・・・?」
見ていられない、といった表情で、フィリップが翔太に縄跳びを渡すように言った。
まさかの言葉に、一瞬渡すかどうか、迷った翔太だったが、また嫌味を言われるのは面倒くさいと思い、素直に縄跳びを渡した。
「もう既に、縄跳びに関しては検索を完了した」
そう言って、自信満々にフィリップを縄跳びを振った。そして・・・・・・見事に足へと引っかけた。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
沈黙が場を支配した。再び、フィリップが挑戦する。今度は・・・頭で引っ掛かり、思わず頭を抑え、その場に蹲るフィリップ。その様子を見た翔太は、
(・・・・・ったく、しょうがねぇな)
笑うことなく、未だに上手くいかない理由をブツブツと考察するフィリップに駆け寄り、
「縄を振るうことに意識を集中させすぎなんだよ」
「・・・・・えっ?」
「縄を振るうことにこだわりすぎて、体とのタイミングがずれてるから、引っかかんだよ。いいか、俺の言う通りに、振りながら、飛んでみろ」
「・・・分かった」
渋々といった表情で、フィリップは指示に従い始めた。
「まず、縄を握る力は強過ぎず、全身の力はもっと抜け。そのまま、縄を大きく振るって・・・今だ、飛べ!」
その指示に従いにフィリップは飛んだ。今度は縄に引っかからず、成功した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「できただろう?ほら、貸せよ。俺も、自分の練習をしないといけないからさ」
そう言って、フィリップに縄跳びを返すように言うも、フィリップは縄跳びを返そうとしなかった。その様子に、また嫌味かと警戒した翔太だったが、
「・・・・くれ・・・」
「・・・あぁ?」
「僕に、もっとこれを教えてくれないか?」
どこか遠慮がちなお願いがフィリップから飛んできたことに、翔太は思わず目を丸くしたが、すぐに、
「ああ、いいぜ!」
笑みで答えた。だが、その即答に今度はフィリップが目を丸くする番だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おいおい、どうした?そんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして」
「君は・・・・・なんとも思わないのかい?」
「はぁ?」
フィリップが信じられないと言った表情でそんなことを言いだしたのだから、翔太は意味が分からないといった表情になってしまった。
「僕は、君を散々邪見にしてきた。君など、眼中にない、唯の生き物としかみていなかったんだよ?」
「お、おう・・・」
フィリップからの衝撃的な告白に、そこまでか、と驚きを隠せない翔太は頷くことしかできなかった。
「それなのに。君は僕がこうやって、教えを乞うことに何も感じないのかい!普通なら、断っても当然のはずだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・なんだ、そんなことか」
「!?」
フィリップの言っている意味がようやく分かった理由は、何事もなかったように答えた。
「お前がどんな奴だろうと、どんなに俺が嫌いでもそんなの関係ねぇよ。こうやって、助けを求めてんだったら、俺は黙って手を伸ばすだけだ・・・・・それが、俺の憧れるハードボイルドの男だからな」
「ハード、ボイルド・・・・・」
そう言う翔太の姿が、フィリップの目には強く映った。それは、自身をあの地獄から救い、自分に名を付けてくれた人物・・・佐桐壮吉の姿が重なって見えたのだ。
「まぁ、こうやってかっこつけてるけど、父さんには半人前扱いされてるんだけどな」
照れくさそうに笑いながら、そういう翔太に、
「フフフ、アハハハハ!」
「そ、そこまで笑うことはないだろう!?」
つられて、フィリップまでも笑い始めた。まさか、そこまで笑われるとは思っていなかった翔太は顔を赤くして、抗議する。
「ハハハ。すまない、おかしくて、笑ったんじゃない・・・君が凄いと思ったから、そう思って、笑ったんだ」
「・・・・・はぁ?」
そう言うフィリップに翔太は意味が分からないといった表情をした。
「まぁ、いいや。それよりも、縄跳びの練習したいんだろう?さっさとやろうぜ?」
「ああ。そうだ、その前に君に言わなければならないことがあった」
「なんだよ?」
「今まで・・・酷いことを言ってばかりで済まなかった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
フィリップの謝罪に今度は翔太が驚きで言葉を無くす番だった。
「・・・・・なんだい、その信じられないといった表情は?」
「いや・・・・・今まで、人の感情なんて、まるで理解してないような言葉しか使ってきてない奴が、そんなことを言うなんて、と思ってな・・・・・もしかして、夢か!?」
「・・・・・君の頭は本当に悪いのかい?こうして、人が親切にお礼を言っているのに」
「ああ!?よく言うぜ!人をそこら辺の生き物としか、見てなかった奴が!!」
「君のような、考えなしに人のプライベートゾーンまで踏み込んでくる人には言われたくないね!」
「なんだと!?」「なんだい!?」
そのまま、口喧嘩を始める二人。その口論は、偶然仕事が早く終わった壮吉が仲裁するまで、続いた。その日から、フィリップは翔太の言うことを少しずつ聞くようになり、翔太もフィリップから色々なことを教わり始めた。
そんな日々が続き、フィリップが佐桐家に来て、3か月が過ぎようとしていた。
季節は8月の終わりを向かえようとしていた。
「・・・花火?」
「ああ。調べていたら、どうしても気になってしまったんだ。駄目かな?」
学校から戻り、買ってきた夕飯の食材をしまいながら、翔太はフィリップのお願いを聞いていた。フィリップ曰く、今日行われる花火大会を見に行きたいとのことだったのだ。
「あ~、父さんにお前を外に出さないように言われてるからな」
「それは、僕も分かってる。だが、どうしても見たいんだ。ここから、少し歩いたところに花火が見れる場所があるようなんだ。そこまででも駄目かな?」
父親との約束・・・フィリップを不用意に外に出さないこと・・・これは、壮吉に最も強く念押しされたことでもあった。だが、必死なフィリップの言葉に、翔太は地図を見ながら、考え、
「分かった。ここなら、家の傍だし・・・ちょっとだけなら、父さんも許してくれるだろう」
「!それじゃ!」
「ただし、ちょっと見たら、すぐに帰るからな!それで、いいな?」
「ああ、もちろんだ!」
と、言うことで、翔太とフィリップは花火を見に行くことにした。
それが、二人の運命に関わる事件に遭遇することだとは二人はまだ知らない。
次回 仮面ライダーW
『Wの継承/ビギンズナイト』
これで決まりだ!
翔太の原点は父親の壮吉の生き方・信念にあります。
原作で、五つ子たちの本当の父親、無堂が出てきた時、これは絡ませるのが、楽しみだと思ったのは余談です。
そして、物語はビキンズナイトに移ります。