時系列の関係で学年末テストや五月と下田さんのお話が少し絡んだりしますが、本格的に掘り下げるのはもう少し先になるので、気になさらないで頂ければと思います。
それではどうぞ!
第42話 「Dな賭け/汚された誇り」
「冬休みも終わっちゃったね」
「あんたたちのクラスも進路希望調査もらった?」
「何書けばいいか分からない・・・」
冬休みを終え、新学期を迎えた五つ子たち。初めての土曜休みにアパートでそんなことを話し合っていた。
「一花はすぐ書けるね」
「うーん・・・まだ学校に言ってないんだよね」
「よーし!お前ら、今日も授業を始めるぞ」
四葉の言葉に一花が苦笑していると、風太郎が勉強を始めるために声を掛けた。そんな風太郎に勢いよく乗り出した者がいた。
「やりましょう!是非やって下さい!!」
「お、おう・・・」
「そして、確かめて下さい!試験突破に何が必要なのかを!!」
「わ、分かった、分かった!乗り気なのは助かるから・・・」
そう意気込む五月の気迫と顔を近づけられたことで、流石の風太郎も思わず後退ってしまった。なんとか言葉を繋ごうとしたが、
「とにかく授業だ。目指せ、30点越え・・・っ!?」
突如、風太郎の言葉が止まった。
その原因は・・・風太郎の鼻から流れ出た血だった。それを見て、慌て始める五つ子たち。
「わわわっ、大丈夫ですか!?」
「どうしたのよ?」
「エッチな本でも見たんじゃないの?」
「上杉さん、これを鼻に詰めてください」
「悪い・・・はぁ」
驚く五月を横に二乃と一花のお姉さんコンビが風太郎を茶化していた。そんな風太郎は四葉が差し出してくれたティッシュを受け取り、鼻に詰めながらため息を吐いていた。
「三玖のせいだ。なぜか最近ずっと市販のチョコを無理矢理食わせてきやがる」
「今日も持ってきた」
全く悪そびれた姿を見せない三玖の手元に全員の視線が集中した。そこには、数種類のチョコがあった。
「あら、丁度良かったわ。甘い物を食べたい気分だったのよ」
「二乃にはあげない」
「はぁ?独り占めしないでよ」
チョコをもらえなかった二乃が声を荒げるも、次の三玖の一言で全てを察した。
「しないよ・・・まだね」
(・・・ああ、そういうこと。本当に変わったわね、三玖)
「ってことで、全部食べて感想教えて?」
「な、なんの罰ゲームだ・・・」
「わ、私も一つくらい・・・」
「ダメ」
「もー、みんな!あと2ヶ月なんだから勉強するよー!!」
収集がつかなくなってきたところで、四葉が声を掛けたことで本来の目的を思い出した一同。チョコは勉強会後に食べることになり(もちろん風太郎で一人だが)、ようやく勉強会を始めようと・・・
「それじゃ、今日は数学から・・・」
「ちょっと待ちなさい。佐桐はどうしたのよ?」
・・・始まらなかった。二乃の質問に全員が同じ考えで視線を風太郎へと向けた。てっきり遅刻をしているのかと思って、何も言わなかった五つ子たちだったのだが・・・逆に風太郎の方が怪訝な顔をしていた。
「・・・お前ら、聞いてないのか?」
「えっ・・・どういうことですか?」
「今朝、佐桐からメールがあったんだよ。野暮用で、少しの間家庭教師を休むって」
「「「「「・・・えっ!?」」」」」
そう告げた風太郎の言葉に全員が目を丸くした。
まさしく、寝耳に水といった表情だった。慌てて各自がスマホを確認するが、そんなメールは届いていなかった。
翔太の事情を知る二乃と五月にさえも届いていなかったのだ。
「・・・変だな。佐桐からは、自分で伝えるってメールにあったからてっきりお前らの方にも連絡が入ってるかと思ったんだが・・・ともかく今は勉強だ。さっさと始めるぞ!」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
風太郎の言葉で勉強会がようやく始まろうとしていたが、二乃と五月は目を合わせ頷いていたのだった。
そんな翔太はというと・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
探偵姿の恰好で物陰に姿を隠していた。その腰にはダブルドライバーが装着されており、その状況はフィリップにも伝わっていた。
「・・・本当に来るのかね、奴は」
『ほぼ間違いないよ。奴が次に狙うのはここしかない』
「一応ガジェットたちは周りに放ってるが・・・ふざけたことをしやがって」
『・・・翔太。気持ちは分かるが、もう少し冷静に。
君のその熱くなれるところは美徳だが、敵が組織の連中である可能性が高い今回のケースには冷静な状況判断が問われてくる』
「分かってるよ・・・それでも、今回の犯人は許せねぇ。絶対に取っ捕まえてやる!」
(言ってる傍からか・・・今回は僕がフォローに回るしかないか)
自身の忠告が届いていない、どこか諦めがついていたフィリップはため息を吐きながら、秘密のガレージで情報を纏めていたホワイトボードへと意識を移した。
(事の発端は4日前に起きた銀行強盗事件・・・わざわざ警察に挑戦状を叩き付けてまでの襲撃。こうも早く動いてくるとはな)
これまで起きた事件を見ながら、フィリップは今回の一件に関して再考察を始めていた。家庭教師の助っ人を休んでまで翔太が・・・そして、フィリップまでもがこの事件に積極的に関わるのにある理由があった。
「最初に襲撃されたのが1丁目の銀行の支店。次が2丁目の信用金庫本店の襲撃、3丁目の大手商業施設の爆破・・・ならば、今回襲われるのは4丁目のどこか。被害が大きくなっていることを考えれば・・・狙うのは」
『4丁目のこれまで襲ってきた施設よりも規模が大きいもの・・・この高層ビルが次のターゲットってわけだが、どうやらお前の読み通りだったみたいだぜ、フィリップ』
翔太の言葉にフィリップは意識をドライバーへと戻した。翔太を通して共有した視界の先には、
「さてと・・・今度はどうやって壊してやろうか」
「そこまでだ!・・・この偽物野郎!」
赤い頭部に骨のような白いカバー、左手に普通の人間が持ちそうにない巨大な銃を持った人型のドーパントに翔太は言い放った。
「ああん?・・・あー!お前、本物の仮面ライダーか?ようやくのお出ましかよ・・・待ちくたびれたぜ!!」
「っ・・・てめぇが今回の襲撃事件の犯人だな。こんな白昼にノコノコ現れやがって。覚悟しやがれ、この偽物野郎が!?フィリップ!」
『・・・全く。仕方ない』
『Cyclone!』『Joker!』
「『変身!』」
『Cyclone! Joker!』
「おおう!流石は本物!かっこいいね!」
「ふざけんな!?仮面ライダーの名前を使ってこんなことしやがって!?お前だけは絶対に俺が倒す!」
『そこは僕たちが、だろう?頼むからもう少し冷静になってくれたまえ』
「そうそう。熱くなったら負けだぜ、本物さん?」
「こ、こいつ~!?ぜってぇぶっとばす!!」
挑発に簡単に乗ってしまったダブル。駆けだした勢いで、そのまま飛び蹴りを放つが、ドーパントはそれを容易く避けてしまう。
「このぉ!ちょこまこと!」
「ハハハハ!攻撃っていうのはさ・・・こうやるのさ!!」
ダブルの連続蹴りを全て躱し、カウンターで左手の銃から弾丸を連射するドーパント。至近距離で受けたことで、ダブルのボディに火花が散りダメージを受ける。
「そらそら!これはどうかな!」
「ぐぅぅ・・・!?」
右手を大剣へと変え、ダブルを切り刻むドーパント。なんとか腕で直撃は避けるも、ダブルにダメージが蓄積していく。だが、ダブルもやられぱっなしではなかった。
『Blizzard!』『Metal!』
『Blizzard! Metal!』
「調子に・・・乗んなぁ!」
一瞬の隙を突き、ブリザードメタルへと変わったダブルが目の前に氷の壁を出現させた。ドーパントの大剣は氷の壁を直撃し、埋まってしまう。
「何ィ!?」
「もらった!」
『Heat!』『Triger!』
『Heat! Triger!』
動きが一瞬止まったドーパントに壁越しにトリガーマグナムの火炎弾を放つヒートトリガー。壁をぶち抜き、お返しの至近距離の弾丸に流石のドーパントも耐え切れず後退った。
「まだまだぁ!!」
『Cyclone!』『Crusher!』
『Cyclone! Crusher!』
「てめぇが汚した仮面ライダーの名前、その分をここでぶち込んでやる!」
「ぐぅ!?ごはぁ!」
「ぶっとびやがれ!」
風の力を纏ったクラッシャースレッジを突き、振り回し、そして、ドーパントのボディに強力な一撃をぶちかます。地面を転がるドーパントに、追撃の一撃を振り下ろしたダブル。だが・・・
「なぁ・・・!?」
「・・・残念。タイムアップだ」
クラッシャースレッジの一撃を、左手を変えた盾により微動だすることなく受け止めたドーパント。その事実にダブルから驚きの声が漏れた。
「今日はあくまでも顔合わせ。今度の本番で、存分に遊ぼうぜ・・・本物さん?そらぁ!!」
「うわぁぁぁ!?」
盾で武器を弾き、右手を大砲に変え爆弾を放ち、ダブルを吹き飛ばすドーパント。そのまま、大砲からスモーク弾を放って視界を断った。
「ま、待ちやがれ!?ぐわぁ!」
ドーパントを逃がさまいと煙の中に突っ込んだダブルに銃弾がヒットした。弾丸は火炎弾であり、ダブルの体を炎が包んだ。地面を転ってダブルが体の火を消し、視界が晴れた頃には・・・
「くそっ!逃げられた!」
『・・・翔太。あれは?』
ドーパントは姿を消してしまっていた。くやしさのあまり、翔太が右手で地面を叩く。そんな中、フィリップが、ドーパントがいた場所に何かが落ちているのに気が付いた。落ちていたのは何かが書かれたカードだった。
『カード・・・これは、次の犯行予告?』
「ふざけたことしやがって!」
冷静にカードを分析するフィリップと違って、翔太は憤っていた。今にもカードを破り捨ててやろうかと考えていたが、流石にドーパントに関わる証拠を無駄にするわけにもいかず、なんとか堪えた。
『あれが・・・僕たちの偽物』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
フィリップの呟きに翔太は仮面の下で表情を歪ませていた。これ以上、騒ぎになる前にハードボイルダーに乗り、その場を後にするのだった。
「僕たちが戦った、あの偽物はアームズ・ドーパントだろうね。奴のメモリの力は両腕をありとあらゆる武器に変えられることだ。あの瞬間的な換装に、多種多様な武器・・・かなりの強敵だろうね」
「・・・関係ねーよ。誰が相手だろうと、偽物なんてぶっとばすだけだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
秘密のガレージに戻ってきてから、先程の戦闘を分析するフィリップ。その一方で、怒りを露わにした翔太が拳を壁とぶつけていた。その様子を見ていたフィリップから、今日何度目になるか分からないため息が出ていた。
「いい加減にしたまえ。君が仮面ライダーの名前に誇りを持っているのは分かっているが、今の君は感情的になりすぎだ」
「当たり前だろう!奴はこの街の住人を傷つけた!仮面ライダーの名前を使ってだ!!こんな・・・こんなことが許せるわけがないだろう!?」
烈火の如く怒りを露わにし、フィリップに詰め寄る翔太。翔太の気持ちはフィリップにもよく分かっており、彼がここまで感情的にもなるのはもっともだとも感じていた。事の発端は、刃野刑事が零した話だった。
「仮面ライダーが銀行強盗を!?」
「お、おう・・・しかも警察に犯行予告まで送りつけてきてな。俺たちが現場に向かったんだが、総勢50人で臨場したにも関わらず、パトカーは全損、負傷者も多く出ちまってな・・・今もこうして厳重体勢で見回りを続けているんだ」
偶然、街でパトロールをしていた刃野刑事に偶然出会った翔太はその話を聞いて、刃野刑事の話が信じられず、思わず詰め寄った。
「刃さん!今の話、本当なのかよ!?本当に仮面ライダーがそんなことを!?」
「お、落ち着け、翔太!?ゴホ、ゴホ・・・マジな話だ。俺がこの耳で聞いたからな。奴が、自身を仮面ライダーと名乗るのをな」
「・・・!?」
「・・・仮面ライダーの名前は、俺たちの誇りでもあり、街の人たちが付けてくれた名前でもあるんだ!そして・・・俺が父さんから継いだ名前だ。それを・・・
あんな偽物野郎にこれ以上使われるわけにはいかない!とっとと見つけて、さっさとこんなくだらいことを終わらせてやる!」
「・・・だが、手がかりがこのカード以外には『♪♬♩』・・・翔太、君のスタッグフォンの方からみたいだけど?」
「ちぃ・・・誰だよ、こんな時に・・・!」
緊迫した空気に似合わない着信音が鳴り、思わず翔太が舌打ちして電話に出た。
「もしもし!誰だよ、こん『あんた、一体何やってんのよ!?』っ!?」
いきなり怒鳴られたことでキーンと鳴った耳を抑えながら、離していたスタッグフォンを耳に当て直す翔太。電話先の声は・・・
『出たと思ったら、いきなり怒鳴ってきて・・・何様よ、あんた!』
『まぁまぁ、二乃。落ち着いて下さい。佐桐君、聞こえてますか?』
「二乃。それに五月かよ・・・あー、いきなり怒鳴って悪かった。ちょっと色々立て込んでてな」
二人の声を聞き、少しだけ頭を冷やした翔太は謝りながらそう返事した。
「お前ら、今日の勉強会は終わったのか?」
『今、休憩中です。それで外に出て、電話を掛けてる状態なんで、上杉君達に聞かれる心配はないと思います』
『それで?あんたが、こっちのことを休んでの野暮用ってことは、仮面ライダー関係なんでしょう?上杉はともかく、連絡がないって一花たちが心配してたわよ』
「・・・しまった。そう言えば、上杉には俺から連絡するって伝えてたんだったな」
「頭に血が上りすぎだよ。そんなことまで忘れていたのかい」
完全に五つ子たちへの連絡を忘れていた翔太に、フィリップからそれみたことと言いたげな視線と共に苦言が出た。その言葉に睨むことで反撃し、翔太は電話へと意識を戻した。
『多分そういうことだろうと思って、こっちで適当に言っといたわよ。ボロが出ないように話を合わせなさいよ』
『当分はこっちに来れなさそうですか?』
「・・・今回の一件はちょっとややこしくてな。学校も多分休むことになると思う。悪い、まだ捜査の途中なんだ。じゃーな!」
『ちょ・・・佐桐く』ブツ!
これ以上、話題が広がるのは不味いと思った翔太が電話を強引に切った。そのまま、話を偽物仮面ライダーへと戻した。
「・・・で、次の奴の狙いは分かったのか?」
「このカードだけではな流石に絞りきれないね。次に奴が狙うのは5丁目のどこかの施設とまでしか・・・今回の4丁目の高層ビルだって、4丁目に建っていた規模の大きい建物がそこだけにしかなかったからだ」
まるでお手上げかのように本を持ったまま両手を挙げるフィリップ。流石の『地球の本棚』でも情報が少なすぎて、検索のしようがない状態だったからだ。そんな相棒の姿を見て、翔太はため息を吐きながら、ドーパントが残したカードを見ていた。
「『次の5はこの名に最もふさわしいものを頂く』か・・・丁寧に仮面ライダーの名前まで記載しやがって」
「・・・どうゆう意味が込められているだろうね、このカードには」
二人は地図を広げながら、ドーパントが次に襲いそうな場所を推測し始めるのだった。
一方、翔太に無理矢理電話を切られた二乃と五月の二人は・・・
「あっ!佐桐の奴、切りやがったわ!」
「・・・佐桐君の声的にかなり余裕がなかったように感じられました。連絡を忘れていたことからも、余程重大な事件なのではないでしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「二乃。なんですか、その目は?」
五月の放った一言に二乃は目を丸くしていた。そんな二乃の様子をおかしく思い、五月は思わずそう尋ねていた。
「前から思ってたんだけど・・・あんた、佐桐のことよく分かるわね」
「・・・え?」
「だってそうでしょ?さっきの声で、私も余裕がないのは何となく察したけど、連絡がないことからそこまで察せられるとは思ってもみなかったから」
「そう、でしょうか・・・私は佐桐君たちの事情を知ってからの期間が長いだけですよ。それに、彼のことはあくまでも信頼しているだけで特別な感情を持っているわけでは・・・!」
「・・・・・私、そんなことまで言ってないんだけど?」
「あっ」
思わず余計なことまで行ってしまった五月に、二乃が向けるジト目の視線が更に強くなった。そんな視線を受け、更に慌てて否定し出す五月。
「ほ、本当に違いますから!?彼と私は、教師と生徒です!?別に、彼がどうこうとか、私がどう思っているとか・・・そんなことはありませんから!?」
「はいはい、そういうことにしておいてあげるわよ」
「絶対に誤解してますから~!?」
姉に信じてもらえず涙を浮かべる五月の姿に、これ以上はやりすぎかと思った二乃は話題を変えることにした。
「それより・・・明日も行くんでしょ、あそこ」
「・・・はい。そのつもりです」
「そう。上杉には伝えてるの?」
「いえ・・・かえって気を遣われそうですし、黙って行こうかと思います。佐桐君にも伝えておこうと思ったのですが、どうやら手一杯のようですし」
「・・・分かったわ。気を付けなさいよ。この前のこともあるんだから」
「分かってますよ。ありがとうございます、二乃」
そう言って、そろそろ休憩時間も終わろうとしていたため、二人は急ぎアパートへと向かうのだった。
翌日
五月は一人である場所へと来ていた。膝をつき、手を合わせる彼女の前にあったのは。『中野家之墓』と銘された墓だった。
そう、今日は五月達の母親の月命日だったのだ。五月は毎日14日には墓参りに来ていたのだ。もっともそんな事情を知らない風太郎が他の姉妹たちから話を聞いて、変な深読みをしたり、五月のことを案じていたりしたのは余談だ。
そして、五月が墓参りに来たのは月命日だけが理由ではなかった。
「・・・私はお母さんのようになれるのでしょうか」
そう問いかける人物が答えてくれることはないと分かっていながらも、五月は手を合わせながらそう呟いていた。母を喪ってから、姉妹たちの母親代わりになろうとしていた彼女の弱音が出た瞬間だった。
そんなことを五月が呟いている時だった。
「お、先客なんて珍しいな」
声がした方を向くと、スーツ姿の女性がお供え用の花を持ち、五月を見ていた。自分たち以外に墓地には人の姿は見えないため、この人も母の墓参りに来た知人ではないかと、五月は判断した。そして、突然の見知らぬ来訪者にとりあえず挨拶をすることにした。
「えっと・・・初めまして」
「・・・うげっ・・・せ、先生・・・?」
「せ、先生!?」
見知らぬ女性は五月の顔を見た瞬間、困惑しそう呼んだ。そして、呼ばれた五月の方も困惑してしまったのだった。
「わっはっは!悪ぃ、悪ぃ!」
場所を変え、女性と共にケーキ屋(ちなみに風太郎がバイトしているお店)に来た五月。事情を聞いた女性は、スーツ姿に似合わない豪快な笑い声を出していた。
「いや~、なに!お嬢ちゃんがあまりにも先生にクリソツだったから間違えちまった!よく考えたらとっくの昔に先生は死んでたわ」
「は、はぁ・・・(クリソツ?)」
「おっと、娘さんの前で言う事じゃねぁな、許してくれ。あ~、そういえば昔から口が悪くて、先生によく叱られてたな~」
いきなり始まった女性の昔話にぽかーんとしてしまう五月。女性の豪快な話し方にも圧倒されてしまっていたのもあった。
「まぁ、ここで会ったのも何かの縁だ。先生への恩返しということで、好きなだけでケーキを奢ってやるよ!」
「す、好きなだけ・・・?」
「遠慮すんな!ここのケーキ屋はうめぇぞ!店長はちょっと感じ悪いがな!」
ケーキを好きなだけ奢ってくれると聞いた五月は、よううやくいつもの調子に戻った。店員にケーキを頼んで、女性に質問し始めた。
「その・・・下田さんは、お母さんとは一体・・・?」
「元教え子だな。先生・・・お母さんには何度拳骨をもらったか、覚えてないぐらいもらったのは良い思い出だよ」
「そ、それです!」
女性・・下田の言葉に五月は尋ねてみたいことを口にした。
「お母さんがどんな人だったのか、教えて頂けませんか?」
「覚えてないのか?5年前のことだから・・・君たちも結構大きくなっていただろう?」
「ええ・・・そうですが私は家庭でのお母さんしか知りませんから。
お母さんが先生として、どんな仕事をしていたのかを知りたいんです」
「ふーん・・・なるほどね」
五月の尋ねたいことを理解した下田は頭を掻きながら少し考えてから言葉を続けた。
「まぁ、聞きてぇならいくらでも話してやれるが・・・
なにぶん先生とは、私が高二の一年間だけの思い出しかねぇ。私が少々お転婆だったからかもしれねぇが、とにかく怖ぇ先生だったな」
懐かしそうに語る下田の昔話に、その時の光景を思い浮かべる五月、ちなみに少々お転婆と言っているが、五月が想像しているお転婆姿よりも、当時の下田は更に上のヤンキーガールだったりする。
「愛想も悪く、生徒にも媚びない。学校で、あの人が笑ったところを一度も見たことがなかったね」
「はは・・・さぞ、生徒さんには怖がられてたのでしょうね」
「・・・いーや。それが違うだよなぁ」
そう否定する下田が苦笑いしていることに五月は首を傾げた。そんな下田が告げたのは意外な事実だった。
「どんなに恐ろしくても、鉄仮面でも許されてしまう、愛されてしまう、慕われてしまう・・・先生はそれほどまでに・・・・・・めちゃ美人だった!」
「・・・!めちゃ美人・・・!?」
自分が知らない母親の事実に、飲み物を飲んでいた五月も咽そうになるほど驚いた。
「ただでさえ新卒の歳の近い女教師で、しかも美人。それだけで同学年のみならず、学校全ての男子はメロメロよ」
「メ、メロメロですか・・・?」
「ま、そんなこと言わずもがなか。お嬢ちゃんも先生似だし、けっこういけるんじゃねーか?もしかして、同級生を何人も堕としてたりとか?」
「わ、私なんて・・・そんなことは・・・!?」
下田にそう茶化された五月の脳内に一瞬、昨日の二乃と会話や翔太の顔が浮かんだが、頭を振るってその考えを頭から打ち消した。それに気付かなかった下田は話を続けた。
「ファンクラブもあったくらいだ。とにかく女の私でさえも惚れちまう美しさだった。あの無表情から繰り出される鉄拳に私ら不良は恐れ慄いたもんだ・・・まさに鬼教師だったな。だが、その中にも先生の信念みたいなもんを感じて、いつしか見た目以上に惚れちまってた」
そう言って、下田はどこか懐かみ、憧れを隠せない顔で言葉を続けた。
「結局、一年間怒られた記憶しかねぇ。ただあの一年がなければ・・・
教師に憧れて、塾講師になんてなってねーだろうな」
「・・・!」
下田から母の話を聞いた五月は、自身が目指すべき道がはっきりと見えた気がした。そして、自身が追いかける夢を目指すことを決心し、
「下田さんの話が聞けて、私、踏ん切りがつきました。学校で進路希望調査票が配られたのですが、下田さんのようにお母さんみたいになれるのなら・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「やはり、私が目指す先はこれしかありません!」
そう言って、取り出した進路希望の調査票に勢いよく書き込もうとした五月のペンを、下田がフォークで制止した。
「ちょいと待ちな」
「・・・え?」
「母親に憧れるのは結構。憧れの人のようになろうとするのも決して悪いことじゃない。この私だってそうだしな」
五月に理解を示しながらも、下田は真面目な声でそれを指摘した。
「だが、お嬢ちゃんはお母ちゃんになりたいだけじゃないのか?」
「・・・!」
そう指摘された五月は息を呑んだ。否定したくとも、言葉が口から出てこなかった。
「なりたいだけなら他にも手はあるさ。とは言っても、人の夢に口出す権利は誰にもねぇ。生徒に勉強を教えてやるのも、やりがいがあっていい仕事だよ。目指すといいさ。
・・・お嬢ちゃんに、「先生」になりたい理由があるならな」
「・・・・・私は」
下田の言葉に五月はそう呟くことしかできなかった。
『お嬢ちゃんはお母ちゃんになりたいだけじゃないのか?』
(・・・私がなりたいもの・・・なりたい理由・・・)
連絡先を交換し、下田と別れた五月は帰り道、彼女に言われたことを思い返していた。ちなみに、ケーキの代金は下田に奢ってもらったが、五月の食べる量を一般女性と変わりないと読み誤った下田が驚き、泣く泣く支払っていたのは余談である。
(私は・・・どうしたいのでしょうか?)
自身が目指す夢、勉強する理由、なりたい理想・・・それが何なのか考える五月。だが、答えは一向に見つからない。
(こんな時、佐桐君ならどう考えるでしょうか?)
ふと五月の頭に浮かんだのは、自身と似ていると感じた翔太のことだった。一瞬、翔太ならどう考えるのかと思い、相談しようかとスマホを手にしたが・・・
(いけませんね。これは私の問題であって、佐桐君の問題じゃありません。それに、彼も今はそれどころじゃない筈ですし・・・私が答えを出さなければ・・・)
そう思い、スマホをしまう。そして、アパートへと再び歩み出そうとした時だった。
ビリィ!
「・・・っ!?!?」
自身が感じたことのない痛みが背中に走り、五月の意識はそこで失われた。その背後にいたのは・・・
「いい夢を見な、中野五月ちゃん。君にはこれから始まる楽しい遊びの材料になってもらうぜ」
目の下に大きなクマを作った男の手にはスタンガンが握られていた。そのスタンガンにより、気絶させた五月を見下ろしながら、男は懐からガイアメモリを取り出し、メモリを味わうように舐め始めた。
「仮面ライダーの処刑ショー、っていう超スリリングな遊びのな。
アハハハハハハハ!!ハハハハハハハハ!!!」
次回 仮面ライダーダブル
『Dな賭け/それは蹂躙の足音』
これで決まりだ!
今、思ったら五月のピンチ率が高すぎる・・・(笑)
まぁ、メインヒロインのお約束ということで。
マサイXさん、ドレドゲンさんご評価ありがとうございます。
それではまた。
次回更新 14日0時予定
オリジナルドーパントに関しての解説は必要でしょうか?
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あると助かる
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別にいらない
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フッ、その情報はもう既に検索済みさ