仮面ライダーW/Kの花嫁   作:wing//

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色々と詰め込んでおりますが、引き続きライダーパートになります。
また、若干のタイトル詐欺にもなっております。
ご注意下さい。

それではどうぞ。


第44話 「Dな賭け/禁断の第7フォーム」

「嘘でしょ・・・佐桐!?」

 

意識を失ったフィリップを背負い、なんとか廃墟を脱した二乃は目の前の光景が信じられずにいた。今、目の前で五月たちを襲った風の凶刃をダブルが庇い、変身が解除され崩れ落ちた翔太がボロボロになっていたからだ。

 

全身の至る所から血を流し傷だらけの翔太に対し、ジェノサイドは全くの無傷であった。

 

「はっ!翔太・・・翔太!?」

「っ・・・ぐぅ!?」

 

変身が解けたことで意識を取り戻したフィリップ。自身の体を運んでくれていた二乃に構うことなく叫ぶと、翔太が少しだけ反応を見せた。

 

どうやら命は無事みたいだが、意識を失っているようで一向に立ち上がる気配がなかった。そんな翔太を、そして、五月たちを捕まえようと、ジェノサイドが近づく。

 

「さぁ、そろそろゲームセットといこうか?」

「くっ!?こうなったら!二乃ちゃん、翔太を頼む!来い、ファング!」

 

二乃にそう一方的に告げ、未だにジョーカーメモリが刺さっているダブルドライバーから、翔太の意識と共にメモリがフィリップのドライバーに転送される。呼びかけに応えたファングメモリをメモリモードに変化させたフィリップが間に入った。

 

「変身!」

『Fang! Joker!』

 

「はぁぁ!」

「おっと!今度は白黒の仮面ライダーが相手してくれるのか?」

「っ!?二乃ちゃん、早く!!」

「え、ええ!」

 

ジェノサイド・ドーパントに飛び掛かかり、そのまま翔太たちから距離を取らせたファングジョーカー。その掛け声に我に返った二乃が翔太の元へと駆け寄る。

 

「上杉、あんたも手伝いなさい!早く!?」

「あ、ああ!」

 

一人では無理だと悟り、風太郎に声を掛ける。その言葉に正気に戻った五月たちも二乃の手助けに入り、意識を失った翔太の体をリボルキャリーへと運び始めた。

 

そして、ジェノサイドとの戦闘に入ったダブルは・・・一方的に蹂躙されていた。

 

「ぐぅ!?ああぁ!うわぁ!?」

「どうした、どうした!動きがさっきの奴に比べて鈍いぞ!」

(っ!?やはり翔太が意識を失っている分、体が思うように動かない?!)

 

ドーパントの指摘通り、いつもの俊敏性が今のファングジョーカーにはなかった。他のフォームに比べ、全体的に上位のステータスを持つファングジョーカーだが、ダブルの変身メカニズム上、二人の息が噛み合わなければ本来の力を発揮できないのだ。

 

その上、暴走の危険があるファングの力を本来制御する筈の翔太が意識を失っている状態である。今のフィリップはファングメモリが暴走しないようにするのがやっとであり、アームファングやショルダーファングを召喚することもできず、只々ジェノサイドの攻撃を受け止めるしかできない状態だった。

 

「がぁぁ!?うわぁぁぁぁ!?ううう・・まだ、だ!」

「あーあ。つまんねぇな。もういいよ、お前。吹き飛べ」

 

なんとか時間を稼ごうと地面に膝をつきながら大剣を肩で受け止めたダブル。だが、その必死な姿にジェノサイドは興醒めしたかのように残念がり、左手を機関銃へと変え、至近距離でダブルへとぶっ放した。

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

それを躱すことなどできるはずもなく、大量の火花を散らして吹き飛ばされるダブル。その全身の鋭利な部分は砕け散り、所々から煙が上がっていた。ダメージが蓄積された体をなんとか起こし、未だに闘う姿勢を見せるダブル。そこに二乃の声が聞こえてきた。

 

「フィリップ君!!」

「っ・・・!?」

「うん?ほう。そういうことか」

 

二乃達全員がリボルキャリーに搭乗したことを確認し、スタッグフォンを取り出し、リボルキャリーを遠隔操作しようとするが、ダブルの意図に気付いたジェノサイドが先に反応した。

 

「せっかくの獲物を逃がすわけがないだろうが」

「っ!マズい!?」

 

左手をミサイルランチャーへと再度換装したジェノサイドの凶弾がリボルキャリーへと向けられる。それを予知したダブルが空中へと飛び、割って入った。それを迎撃する手段は今のダブルにあるはずもなく、

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?!?!」

「そ、そんな・・・フィリップ君!?」

 

爆炎に包まれ、吹き飛ばされるダブル。フィリップの悲鳴に二乃の悲痛な声が重なる。そのままダブルはリボルキャリーへと不時着する。

 

「これでゲームセッ・・・」

「・・・ううぅ、やれぇ!!」

「っ、何?!」

 

そのままリボルキャリーを破壊しようとするジェノサイドの言葉が続くことはなかった。最後の力を振り絞り、ミサイルが直撃する直前に放ったショルダーファングを操るダブル。その奇襲に攻撃に気を取られていたジェノサイドは不意を突かれる。

 

その隙を見逃さず、スタッグフォンでリボルキャリーを操作するフィリップ。収納部分の屋根が閉まり、遠隔操作で移動を始めたリボルキャリーがショルダーファングに翻弄されるジェノサイドを吹き飛ばした。

 

「うおぉぉぉぉ?!」

 

流石に鉄の巨体に吹き飛ばされたジェノサイドが外壁へと叩き付けられ、瓦礫の山へと姿を消した。そして、全速力でその場から離脱するリボルキャリーの中では、

 

「な、なんとか逃げ切れたか。咄嗟の作戦だったが、けいさ、ん、どお・・・っ(ドサッ)」

「フ、フィリップ君?フィリップ君?!」

 

遂に限界が訪れたフィリップの体が崩れ落ち変身が解除される。すぐさま二乃が駆け寄るが、全身から尋常でない量の血が流れ出ていた。リボルキャリーに二乃の悲鳴が響き渡った。

 

一方、吹き飛ばされたジェノサイド・ドーパントは、

 

「あー、くそ!油断したわ!あのデカブツがやってくれたな。あー、いてて」

「素晴らしい力でしたね、ジェノサイド」

「あぁ?ああ、ドクターか」

 

呼び掛けられた人物の方を向くと、いつの間にかドクターが歪な笑みを浮かべてそこに立っていた。声の主が知っている人だと気が付いたジェノサイドはドーパントから人間の姿に戻り、嗤いながら応えた。

 

「ドクターが作ったこの玩具、最高に遊べるぜ!あの仮面ライダーが赤子を捻るかのように、手も足も出せずに俺にボコボコにされたんだからな」

「それは結構。ですが、本来の目的を忘れてはいませんよね?」

「ああん?あー、あの五つ子のガキ共だろうが・・・忘れてねーよ」

「貴方は調子に乗って、全てを破壊する癖がありますからね。お願いしますよ・・・もしあの五つ子たちに何かをすれば、私が手を出さないといけませんからね」

 

警告するかのように自身のメモリを見せ、ジェノサイドへと警告を告げるドクター。その場の温度が一気に下がったかのような殺気がドクターから放たれる。だが、それを受けたジェノサイドは全く怯むことなく、

 

「おーお、怖い怖い。安心しなよ、ドクター。あんたのヤバさはよーく分かってるからよ。ちゃんと任務もこなせばいいんだろう?わーってるって」

「・・・・・本当に、お願いしますよ」

 

曖昧な態度で返事しながら踵を返すジェノサイドの背中に、念を押すかのように呟くドクターの声が響いた。

 

 

 

「・・・っ!?ここ、は?」

「佐桐君?・・・佐桐君?!」

「さ、つき・・・五月!?っ、ううぅ!?」

「だ、駄目です!?安静にしていないと!」

「そ、そんなことよりも、フィリップは!?みんなは無事なのか!?」

 

痛みすら忘れ、五月の肩を掴み問いかける翔太。あまりの必死な姿に慌てながらもなんとか答える五月だったが、その表情は芳しくなかった。

 

「み、みんな無事です!フィリップさんがあの大きな車でみんなを乗せて、ガレージまで連れてきてくれたんです。その後、家の構造を知っている私が説明して・・・今はみんな、家の方で待機してくれてます・・・ただ、フィリップさんが・・・」

「えっ?フィリップがどうした?何があったんだ、五月?!」

「私たちを庇って、まだ意識が戻ってないんです」

「・・・っ?!」

 

五月の告げた事実に思わず息を呑む翔太。辛うじてファングジョーカーに変身していた時の記憶が残っていた翔太は、最後にフィリップが受けたダメージがあまりにも大きすぎたことを実感していた。

 

五月に頼み、動かすのがやっとな体を支えてもらってガレージから母屋の方に移動した翔太。そのままフィリップが寝ている自室へと向かうと、

 

「っ!佐桐、目が覚めたの?!」

「ああ・・・悪い。心配かけた、二乃。それでフィリップは?」

「駄目。なんとか応急手当で血は止まったんだけど、全然意識が戻らないの」

 

翔太の姿を見た二乃は安堵し、フィリップの状態を答えた。ベッドへと目を向けると、横たわるフィリップの姿が見え、全身に包帯がグルグルと巻かれており、重傷であることは一目瞭然だった。

 

「俺が変身していた時の精神的ダメージもフィードバックしちまってだろうし・・・意識を取り戻すまで時間がかかるだろう・・・くそぉ!」

「あんた、言ってたわよね?ガイアメモリでのダメージは一般医療では治療できないって・・・フィリップ君は本当に大丈夫なの!?」

「今はフィリップの体力が持つことを信じるしかない・・・」

「・・・そう」

 

現状維持しか方法がないと悟った二乃の表情に悲しみの色が映る。

 

「二乃。悪いんだが、フィリップのことを看ててくれないか?俺はみんなに・・・全てを話してくる」

「分かったわ。任せて」

 

二乃の心情を察した翔太はその場を二乃へと任せ、部屋を五月と共に後にした。

 

「・・・お願い・・・フィリップ君・・・死なないで・・・!」

 

祈るようにフィリップの手を握った二乃の目から涙が零れた。

 

 

 

「佐桐!?もう大丈夫なのか?!」

「上杉、みんな・・・もう大丈夫だ。そして、済まなかった・・・」

 

リビングで待機していた風太郎たちは五月に支えながら姿を現した翔太に驚き、駆け寄った。あまりに突然の出来事が連続して起こり、混乱していた一同だったが、何よりも翔太が意識を取り戻したことに安堵していた。だが、いきなり翔太が頭を下げたことに反応できずにいた。

 

「俺が至らないばかりに・・・みんなを危ない目に合わしちまった!本当に・・・済まない!!」

「ま、待って待って!ショータ君のせいじゃないよ!?」

「そ、そうですよ!その・・・あの怖い人が・・・佐桐さんを・・・」

 

謝罪する翔太をフォローしようと一花と四葉が制止の言葉を投げかけるも、先程の出来事を思い出し、四葉の言葉が止まった。

 

「・・・あれが・・・ドーパントって奴なの・・・?」

「・・・そうだ。俺は・・・俺と相棒はそれとずっと戦い続けてきたんだ、一年半前からな・・・」

「「「「!?」」」」

 

三玖の疑問に答えた翔太の言葉に、事情を知らなかった4人に激震が走った。一方、事情を知っていた五月は思わず顔を反らしてしまった。

 

「ちょ、ちょっと待て?!あんなバケモノと戦っていたって・・・お前は俺たちと同じ高校生で・・・!」

「そんなことは関係ない。俺たちがやらないといけなかったんだ!俺たちがやらないと・・・メモリのせいでこの街の誰かが泣いていたんだ・・・今回だって、俺が・・・あいつを倒していれば、こんなことには・・・・・!」

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

風太郎の言葉を遮った翔太だったが、途中から自身を責めるかのように言葉を零していた。その言葉の重みに、聞きたいことばかりだった風太郎たちも何も言えなくなってしまった。

 

「・・・みんな、よく聞いてくれ」

 

静かに話を切り出した翔太に全員の視線が集まる。

 

「明日はこの家にみんないてくれないか?あいつの狙いはおそらく五つ子のお前達だ。上杉も悪いが、あいつが人質と利用するために襲われるかもしれないからここにいてくれ。一花、仕事は大丈夫そうか?」

「えっ・・・う、うん。明日はオフだったから大丈夫だよ。でも、いつまでも学校を休むってわけにもいかないよ。お父さんのこともそうだけど・・・」

「分かってる・・・ここにいることがバレるのも時間の問題だろうしな」

 

一花の不安に同意しながら、翔太は支えてくれていた五月から離れ、玄関へと向かおうとしていた。

 

「ちょ、ちょっと?!佐桐さん、どこに行くんですか!」

「・・・あいつを探し出して、倒す・・・それしかないに決まってるだろう」

「なぁ・・・馬鹿!!そんな怪我してるのに、倒せるわけがないだろうが!?」

 

翔太の言動に慌てて風太郎が止めに入るが、翔太の歩みが止まることはなかった。

 

「あいつを倒さないと・・・俺があいつを・・・止めないといけないんだ・・・!」

「待って下さい、佐桐君?!今は休まないと貴方の体が・・・!?」

「五月ちゃんの言う通りだよ!今出て行ったら、次こそ本当に・・・!」

 

五月と一花も止めようと加わるが、それでも翔太は止まらない。その姿は何かに取りつかれたかのような様子だった。だが、

 

「俺がやらないと・・・俺がみんなをまも、る・・・っ!?」

「佐桐君!?・・・!凄い熱です・・・!」

「三玖、四葉!急いで氷嚢を作って来て!!フータロー君は新しい包帯を!」

「「う、うん!」」「わ、分かった!」

 

再び意識を失った翔太の熱に気付いた五月の声に、一花が3人に指示を飛ばす。そのまま使っていなかった部屋のベッドに翔太を運び、一同は一夜を佐桐家で過ごしたのだった。

 

 

 

「・・・ううっ・・・くっ・・・」

(佐桐君・・・)

 

早朝・・・翔太のことが心配で徹夜で看病していた五月は不安げな表情で、苦しそうに眠る翔太を看ていた。時々うめき声が聞こえるのは傷が痛むせいのようだった。

 

「・・・五月。ちょっといい」

「・・・二乃?」

 

入ってきた二乃に首を傾げる五月。何事かと思って姉に目を向けると、二乃の目の下には少しクマができていた。彼女も寝ずにフィリップの看病をしていたようだ。

 

「あんたもやっぱり寝てなかったのね。目の下にクマできてるわよ?」

「そういう二乃だって・・・」

「私はこれから少し仮眠を取るから大丈夫よ・・・フィリップ君も少しは良くなったみたいだし」

 

そう告げた姉の表情が再び曇ったことに五月は直視することができず、目を伏せてしまった。

 

「私が・・・私が攫われたばっかりにみんなが・・・佐桐君たちまで」

「・・・あんたのせいじゃないわ。こいつらだって、あんたのせいだなんて絶対に思ってないわ。悪いのは・・・あのドーパントよ」

「・・・それは分かっていますが・・・でも・・・」

「しっかりしなさい、五月!」

「っ!?」

 

姉の叱責にハッとする五月。怒り・・・というよりも、まるで自分に聞かせるかのように二乃は言葉を放った。

 

「今、事情を知っている私たちがしっかりしないでどうするのよ!一花も三玖も四葉も・・・あと、上杉も・・・みんな不安なのよ!佐桐たちがやられて、あのドーパントだってまだ倒せてない!そんな状況で私たちがしっかりしないでどうするのよ!?」

「・・・っ・・・!」

「あんた、私たちの母親代わりになろうとしてるんでしょ!だったら・・・こんなときぐらい、フリでもいいから母親代わりぐらいしなさいよ!!」

「・・・二乃」

「あっ・・・・・ゴメン、言いすぎたわ」

 

流石に言いすぎたかとも思った二乃はすぐに謝罪した。そして、大声を出したことで翔太を起こしてしまったかと思い視線を向けたが、翔太は眠ったままだった。

 

「・・・ゴメン。少し仮眠を取ってくるわ」

「あっ、二乃・・・」

「・・・何よ」

「・・・・・ありがとうございます」

「・・・あんたも少しは寝なさい。いいわね」

 

自分も不安で一杯であるはずなのに、自身を叱責してくれた姉に礼を言う五月。照れた二乃は顔を見せずに手を振って応え、部屋を後にした・

 

「そう、ですよね。私がしっかりしないと・・・私が・・・」

『♬♩♪』

「っ・・・!電話?・・・もしもし?」

『・・・よう、嬢ちゃん。元気かな?』

「っ・・・貴方は・・・?!」

 

着信を知らせるスマホに驚いた五月。知らない番号だと思い、出ると・・・相手は自分を攫った犯人・・・ジェノサイドだった。

 

『取引をしないか、嬢ちゃん?』

「と、取引・・・?」

 

ジェノサイドの提案に五月は思わず聞き返してしまった。そして、取引の内容を聞き始めたのだった。

 

そして、通話を終えた五月は・・・

 

「・・・ゴメンなさい、佐桐君・・・約束破ります」

 

そう告げた五月は静かに部屋を後にし、誰にも気付かれないように佐桐家を出たのだった。しかし・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そんな五月の姿を見つめる人物の姿がいたのだった。

 

 

 

佐桐家から電車で3駅ほど移動した区画。

人気がない廃工場に上機嫌な男の鼻歌が響き渡っていた。不法投棄された家具の山に絶妙なバランスで座って、足をブラブラとさせる男。すると、彼が待っていた人物が姿を現した。

 

「ようこそ!中野・・・五月ちゃんだったかな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

五月を呼び出した男・・・ジェノサイドは歪な笑みを浮かべ、乗っていた家具から飛び降りた。そんなジェノサイドに対し、五月は何も答えることなく少し離れた位置で立ち止まった。

 

「まさか、こうもあっさりと取引に応じてくれるとは思ってもみなかったぜ?」

「本当に・・・約束は守ってもらえるんですか?」

「もちろんさ。俺も組織から命じられてることがあってさ、お前さんたちを連れて行かないとちょっとヤバいことになるんだよ。約束は守るさ・・・君が他の姉妹たちをここに呼び出してくれるのならね」

 

ジェノサイドの言葉に五月は何も答えず、黙ったままジェノサイドを睨み返していた。その態度が気に入ったのか、ジェノサイドは歪な笑みを更に深めた。

 

「俺は君たち5人が必要だ。君が協力してくれるのなら、俺はもう仮面ライダーには手を出さない。君たち5人にも危害は加えないと約束するよ、絶対にね」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ジェノサイドが五月に提案した取引・・・それは仮面ライダーを見逃す代わりに五月に他の姉妹たちを呼び寄せることであった。

 

五月を誘拐した際に電話番号をくすねておいたジェノサイドは万が一のための予防策を打っていたのだ。仮面ライダーを排除、もしくは戦闘不能な状態にまで追い込むことで五つ子たちを精神的に追い込み攫うことを予期していたのだ。

 

尤もその策は最後の抵抗を見せたフィリップの尽力により最悪のケースは回避されたのだが、フィリップは意識不明、翔太も満足に動けない状態において、ジェノサイドのあまりに卑劣な提案は五月の心を揺さぶるには十分のはずだった。

 

「さぁ、早く姉妹たちを呼んでくれないか?君がここに来たってことは分かっているだろう?頼れる仮面ライダーは戦えない・・・いや、戦ったとしても俺には勝てない。利口だろうが馬鹿だろうが、答えは分かるだろう?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

策が成功したことを確信し、歯をむき出しにしたジェノサイドはそう問いかけた。その答えに五月は、

 

「そうですね、馬鹿でも分かることですね。ここに来るまでにもう答えは決まってましたから」

「そうかい。それなら「お断りします」・・・はぁぁ?」

 

迷うことなく拒絶した。その目には怯えや恐怖の色などなく、確固たる意志でジェノサイドと対峙していた。まさかの五月の言葉にジェノサイドの表情が崩れた。

 

「今、何て言った?断る・・・はぁぁ?はぁぁぁ?!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

五月の答えが思っていたものとまるっきり正反対のものが返ってきたことにジェノサイドは癇癪を起し、周りの物にやつあたりをするかの如く暴れ始める。その暴挙にビビりながらも五月はジェノサイドから目を離すことはなかった。

 

「なんなんだよ!?ふざけんなぁ、この馬鹿女!こっちが下手に出てれば調子に乗りやがって!断る・・・?馬鹿じゃないのか!?」

「馬鹿で結構です!貴方みたいな人に私の・・・私の大事な家族を差し出したりなんかしません!それが不服だというのなら、私を煮るなり焼くなり好きにして下さい!できればの話ですけどね!」

「・・・っ!?」

 

震える体を必死に堪え、恐れながらも五月は言い放った。取引を持ち掛けたられた時から五月の答えは決まっていた。自分が犠牲になって姉妹たちを魔の手から遠ざけられるのなら・・その一心での行動だった。

 

それが、五つ子たちの母親代わりになろうとしている彼女のエゴで、自らの体を張って自分たちを助けてくれた翔太たちに応えた結果だった。

 

もちろん、ジェノサイドがそんな答えを期待していたわけがなく、五月の言動にイラつきを隠そうともせず、頭を乱暴に掻きながらジェノサイドはアームズメモリとメモリアダプターを取り出した。

 

「お前さ!調子に乗ってんじゃねーよ!!少し痛い目見ないと分かんねのかよ、この馬鹿ガキが!?」

 

『Arsm…Upgrade!! Genocide!』

 

ジェノサイドはドーパントへと変貌し、右手を大鎌へと変化させた。そのまま大鎌をわざと地面へと引きずり、威嚇しながら五月へと近寄る。

 

「生意気なことを言えないように調教してやるよ!腕や足の1本2本どうなろうが、生きてさえいればどうだっていいんだからな!その後でお前の姉妹達も同じ目に逢わせてやるよ!!」

「・・・・・っ!?」

 

迫るジェノサイドに五月も後退りながら、なんとか時間を稼ごうとするも焼け石に水の状態であった。だが、そこに割って入ってきたものがジェノサイドを襲った。

 

「っ!?うぉぉ!?こ、こいつは、あの探偵の玩具か!?」

「えっ?えっ?!」

「何やってんのよ、五月!?」

 

突如現れたスタッグフォンがジェノサイドを襲い、何が起きたのか理解しようとしていた五月の手を誰かが掴み、すぐさまその場から離脱した。手を掴んだ人物が誰かと思い、五月が目を向け驚いた。

 

「に、二乃!?」

「こっそり出て行くあんたを見かけて、慌てて追いかけてみれば・・・無茶なことをしてんじゃないわよ!」

 

そう、五月がジェノサイドに呼び出され、出て行くのを見ていたのは二乃だったのだ。慌ててフィリップのスタッグフォンを持ち出し、五月の後をつけてきたのだ。

 

「ちぃ!この、クソガキ共が!?」

「「っ!?」」

 

飛び回るスタッグフォンを左手を変化させたショットガンで打ち落としたジェノサイドが逃走する二人へと迫る。もはや怒りで生死すら度外視したジェノサイドの凶行が二人を襲う。

 

身の危険を感じた二乃と五月は咄嗟に廃工場の外壁へと身を隠した。そのすぐ後、二人が立っていた場所へとガトリングガンの雨が降り注いだ。

 

「ふぅぅ・・・ほ~ら、おとなしく出て来いよ。お前らの頼りになる仮面ライダーは来れないんだろう?今、出てくればさっきまでのことは全部水に流してやるよ」

 

ガイアメモリの毒素が一気に加速したジェノサイドの情緒はかなり不安定となっていた。先程まで怒り狂っていたのとは対照的に穏やかな声でそう告げるジェノサイド。二人はなんとか隙を見て逃げようとするも、完全に退路を断たれてしまっていた状態だった。

 

「あと3秒で出てこないと、今度こそ痛い目を見ることになるぜ?ほら、早く出て来いよ?」

「「・・・・・・」」

「さーん!にー!いーち!」

「「っ!?」」

 

無慈悲に告げられるカウントに思わず目を瞑る二人。どうすればいいのか分からず、動くことすらできず、ジェノサイドがカウントを数え終えようと、

 

「ぜー・・・あぁ?!」

「「えっ?」」

 

いきなりジェノサイドが怪訝な声を上げたことに二乃と五月も何事かと思い、顔を上げた。そして、呆けているジェノサイドが見ている方へと視線を向けると、

 

コツ・・・コツ・・・コツ・・・

 

「これは驚いたな・・・・・まさかの正義のヒーロー様の登場かよ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「佐桐君!?」「佐桐!?」

 

廃工場に静かな足跡が響き、姿を現したのは翔太だった。全身に巻かれた包帯から出血の跡が見え、明らかに無理してここに来たことは明確だった。だが、その腰にはダブルドライバーが装着されていた。

 

「ったく!勝手なことしやがって・・・!」

「さ、佐桐君!?その傷・・・」

「こいつらを倒すのは俺の仕事だ!それにお前が傷つけられたら、他の姉妹たちが何にも思わないわけがないだろうが!?母親代わりになろうとするのなら、そんぐらい分かってやりやがれ、馬鹿!!」

「っ!?」

 

重傷の体から全力の声を出し、五月を叱責する翔太。そのまま、被っていた帽子を深く被り直し、翔太はジェノサイドを睨みつける。

 

「だから、俺はお前を許せない!五月の気持ちに付け込みやがって!!覚悟しやがれ、この偽物野郎が!?」

「はぁぁ?許さない?この前ボロ負けしたこと、もう忘れたのかよ?それにその傷・・・そんな体で俺に勝てると本気で思ってのかよ?!今度こそ確実に息の根を止めてやるよぉ!!!」

 

ボロボロの翔太を嘲笑うジェノサイド。だが、翔太の方は怒りを体に纏ってはいるが、今まで見たことないほどに冷たい表情をしていた。

 

「倒すさ・・・俺のせいで五月や二乃たち、それにフィリップまで傷つけちまった。だから、どんな手段を使ったってお前を倒す!俺は俺の罪を数えたぞ・・・ここから先は、どうなっても知らねぇぞ!!」

 

そう叫び、翔太は懐から『D』の文字が記されたカーキカラーのガイアメモリを取り出した。その時、翔太の脳裏にある記憶が蘇った。

 

 

『そのメモリは使用すべきじゃない』

 

そう告げるフィリップの声が秘密のガレージに響いた。彼に背を向けたまま、翔太は自身が持つメモリへと目を落としていた。

 

『だが、こいつはファングメモリを参考に作ったんだろう?そりゃ、あん時は制御するのでやっとだったが』

『駄目だ!』

 

普段とは打って違ったフィリップの声に翔太はそれ以上言葉を続けることができなかった。視線をフィリップへと向けると、その表情は真剣なものだった。

 

『テストの時でさえあの様だったんだ。僕の方のメモリでやっと制御が可能だったんだ。もし他のメモリを使用して暴走したりすれば・・・・・被害はファングの時よりも酷くなる可能性がある!それに、君の体が・・・・・』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

フィリップの言葉に翔太は自身の右手へと目を落とす。その右手には痛々しく包帯が巻かれていた。その右手にフィリップも視線を向け、表情を歪める。

 

『翔太。頼む・・・くれぐれもそのメモリは使わないでくれ。そのメモリを使えば、君は君で無くなってしまうかもしれないのだから』

『分かってるさ。分かってるよ・・・』

 

フィリップの警告に翔太はメモリを手放し、そう答えた。

 

 

(悪いな、フィリップ。お前との約束、破るぞ!)

 

『Dinosaur!』

 

「お前は・・・お前だけは俺が倒す。この街を・・・五月たちを傷つける奴は俺が許さない!

・・・変身!!!」

 

メモリを起動させ、言葉と共にダイナソーメモリをダブルドライバーへと装填する。そこには、既に意識のないフィリップから転送されていたサイクロンメモリが装填されていた。

 

そして、ドライバーを開いた翔太の体を風が・・・包むはずがいつもの変身とは様子が違っていた。

 

「うううぅぅぅ!?あああぁぁ!!おおおぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォ!?!?!」

「「「!?」」」

 

『Cyclone!』『Dinosaur!』

 

緑の風を打ち消すかのように、歪な暴風が鱗と牙を巻き込み翔太の体へと巻き付いていく。翔太の叫びと共に大気が震え、地面が揺れているかのような錯覚を覚えた。

 

そして、ドライバーからの音声が鳴り響き、その姿を象っていく。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

無言のまま、その場に立つダブルのボディサイドは今まで変身してきたどのフォームとも異なっていた。全身に鱗のような紋章が目立ち、背中からは翼のようなパーツが形成されており、その左手は恐竜に似た手へと変貌していた。

 

「ううう・・・・おおおおォォォォォォォォおおおおぉぉ!!!」

 

仮面ライダーダブル サイクロンダイナソー・・・最も危険で最も凶暴なフォームが目を覚ましてしまったのだった。

 

 

 

次回 仮面ライダーダブル 

 

『Dな賭け/君の声が聞こえて』

これで決まりだ!

 




第7フォームと言っておいて、片割れのメモリしか出ないというオチ…

次回こそ、真の第7のフォーム登場&決着回です。

永龍さん ご評価付けて頂きありがとうございました。

それではまた。

次回更新 28日0時更新予定

オリジナルドーパントに関しての解説は必要でしょうか?

  • あると助かる
  • 別にいらない
  • フッ、その情報はもう既に検索済みさ

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