短めですが、それではどうぞ!
「お主…園崎の人間じゃな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
旅館の裏口…二乃たちの祖父からその言葉を掛けられたフィリップは答えることなく、黙り続けていた。目元が髪で隠れた祖父の感情を読むことができないが、フィリップ自身も感情を表情に表すことなく老人と向き合っていた。
「……お主はあの娘とどう向き合うつもりじゃ。お主に…その資格があるというのか?」
「…僕は…」
老人にそう問われるフィリップ…どうしてこんなことになったのか…それを知るには、時を旅行の1日目…二乃たちと旅行先で出くわしたフィリップの心情を知る必要があった。では、時は遡ろう。
「それにしても五つ子の娘さんとはね…娘さんが複数いらっしゃるとは聞いていたけど、そっくりさんとは聞いてなかったわね…というか、翔太!あんた、あんなかわいいお嬢さんたちの家庭教師をしてるとか、私聞いてないんだけど…?」
「痛い痛い!?耳を引っ張るなよ、母さん!?俺はあくまでも手伝いだっつうの!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
二乃たちと別れ、旅館に着いたフィリップたち…中野家との関係を道中で知った亜希子が翔太を問い詰めている中、フィリップの表情は珍しく沈んでいた。そのことに二人も気づき、小声で話し始める。
「(ちょっと、翔太…フィリップ君、どうしたのよ?)」
「(…分かんねーよ。数日前から様子がおかしくてな)」
「(ふーん…ねぇ、ねぇ!もしかして、フィリップ君、恋してるんじゃないの?)」
「…こ、恋!?」
亜希子の口から出た言葉に驚く翔太。いきなり大声を出した翔太にフィリップが怪訝そうな表情を向ける。慌てて誤魔化す親子二人はそのまま話を続ける。
「(そうよ!だって、あの髪を二つ結んだショートの髪型の娘とか、フィリップ君と距離が近かったじゃない?)」
「(二乃のことか…あいつはあれが普通だ。それにフィリップだぞ?いくらあいつが家族とかに執着しやすいといっても、恋とかそんなことに興味を持つとは思えねけどな)」
「(かぁ~…あんたは駄目ね!そんなだから、お父さんみたいなハードボイルドになれないのよ)」
「(そ、それとこれとは関係ねーだろう!?フィリップのことだ…どうせ知りたい知識とかがなかなか知れないとかそんなことだろうぜ)」
フロントの老人に一礼し、部屋へと向かう3人。フィリップの様子がおかしい理由に見当がつかない翔太はそこで話を打ち切るも、亜希子だけはフィリップのことを気に掛けていた。そして、
「ねぇ、フィリップ君?もしかして中野さんの娘さんたちと何かあったの?」
「…っ…!?」
それは二日目の出来事だった…翔太が五月と大浴場で密会している時、亜希子は迷うことなくフィリップへとそう尋ねていた。いきなり核心を突かれた質問に流石のフィリップは驚愕の表情を浮かべるが、対する亜希子は驚くことはなく、穏やかな笑みを浮かべていた。
「…そ、それは…その………」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そういったことは…ないとも…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「………ありました」
「…そう」
血が繋がっていないとはいえ、長年母として接してきた亜希子に誤魔化すのは無駄だと悟ったフィリップは観念して、正直に答えた。その姿はどこか怯える子犬のような姿に見えた。
「…もしかして、二乃ちゃんって娘から告白されたんじゃない?」
「っ!?ど、どうしてそれを…!?」
「ありゃ…当てずっぽうで言ったんだけど、まさか当たっちゃうとはな。あたしの勘も鈍ってないみたいね」
「…(さ、流石というか、翔太に似た直感を持っているというか…)」
まさかの直感で当てられてしまったことに表情が引き攣るフィリップ。そんなフィリップなどお構いなく、亜希子は話を進める。
「ふ~ん…それでそれで!オーケーしようかどうか悩んでるの?それとも、もう答えちゃったの!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…なるほどね。それがフィリップ君の悩みってわけか」
またしても表情を曇らせたフィリップに亜希子は彼の悩みを理解した。これは翔太では荷が重すぎると判断し、亜希子は少し真面目に話を聞く体制になった。
「…難しいよね。好きになってくれた相手にも答えるのも、どう答えるべきなのかも…相手のことが大切だからこそ…尚更だよね」
「……亜希子さん…僕はどうすれば…どう答えても、僕は彼女を傷つけてしまうことになる。でも、できれば、僕は彼女にはもう泣いてほしくないんだ」
「…そっか………フフフっ」
「…?亜希子さん…?」
真剣な話題の中、笑い声を上げた亜希子にフィリップは思わず首を傾げてしまう。
「アハハ…ゴメン、ゴメン!でも、フィリップ君、見ない間に凄い変わったわね?」
「…変わった…?僕が…?」
亜希子の指摘にフィリップ自身が信じられないといった表情を浮かべるも、亜希子は優し気な視線を向け、その意味を語り出した。
「うん…一緒に過ごしていた時は私や翔太以外の人間とは関わるどころか、興味すら持とうとしたことなかったじゃない?でも、今は一人の女の子に心を揺れ動かされてる…あの人から君を預けられ時に比べて、随分と人間らしく……ううん。人の心を思いやれるようになったんじゃないかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ねぇ……フィリップ君自身はどうしたいの?」
「…っ…?!」
あの人…それが夫である佐桐壮吉を指していることをフィリップも理解した。そして、自身を救い出してくれた際に言われた言葉が蘇った。
『…お前は、今まで一つでも自分で決めて何かをしたことがあるか?』
『お前さんはどうだ?ここにいるのは、お前が決めたことか?お前自身が決断したことか?』
(…僕がしたいと思ったこと…)
「…答えはきっとあるよ…きっとね…『♬♪♫』おっと、ゴメンね!もしもし!ご無沙汰です、編集長!………はぁ!?担当がページ数を間違えてた!?しかも、今日締め切りの奴2件とも!?……10ページも!私聞いてない!?」
亜希子の絶叫が部屋に響く中、フィリップは思考の海へと沈んでいくのだった。
「…おい、二乃。ちょっといいか?」
「えっ…佐桐、何よ」
(翔太…二乃ちゃんと何を…?)
釣りの最中…相棒が二乃を連れて行く姿を視線に捉え、フィリップは平静を装いながらも、その内心は全く穏やかではなかった。後ろで他の姉妹たちが盛り上がっている中、心がざわつくのを感じていた。
(翔太、一体どういうつもりだ…いや、そもそも二乃ちゃんから何を聞こうと…!どうする…スタッグフォンを飛ばして盗聴でも…!いやいや、僕は何を考えているんだ!?)
自身の釣竿が引いていることにも気づかない程にフィリップは混乱していた。だが、今だに振り切れない迷いが自身の中で渦巻いていることもあり、行動に移すことができずに二の足を踏んでしまっていた。
「う、上杉!?大丈夫か!?」
「何してるのよ?」「あははは!」
「お前ら!見てないで、助けるの手伝え!?上杉、掴まれ!」
(……僕は…僕の答えは…)
慌てて翔太が風太郎に浮き輪を投げる光景を見て、苦笑している二乃…そんな彼女の姿を見つめるフィリップは未だに答えを見つけれずにいた。その悩みの原因は自身の中にあった。
『今日の23時…誓いの鐘の前で待ってます』
(この字は二乃ちゃんか……僕は…)
釣りから戻り、大浴場で入浴を終えたフィリップは自分たちの部屋の扉に挟まれた手紙を見て、その差出人に気が付いた。手紙を見つめながら、迷うフィリップ。そんな背中に声を掛ける人物がいた。
「それで…お前はどうするつもりだ?」
「しょ、翔太…!?」
「話は聞いた…お前、どうするつもりだ?」
「っ…」
(風太郎を問い質したことで)事情を把握した相棒の真剣な問い掛けにフィリップは視線を逸らす。だが、翔太は逃がすことを許さず、フィリップから視線を離さずにいた。
「…ハハッ。何を言っているんだい、翔太。行くわけがないだろう?彼女が僕をどう思っていようと、そんなことは関係ないさ。それに、君にも散々言っていたが、僕らと彼女たちは最低限の付き合いにするべきだ。こんな…こんな誘いなんて無視すれば…ぐぅ!?」
その先の言葉が続くことはなかった…その前に翔太がフィリップの襟を掴み、壁に押しつけたからだ。いきなりの行動に出た翔太の視線には怒りと…悲しみの色が映っていた。
「…お前…本気でそう思ってんのか…!」
「…当たり前だろう?それとも、いつものハーフボイルドが発動したのかい?本当に君はお人好しだね」
「…そうかもな…確かに俺はキレてるさ……そんな嘘を吐いてまで、目の前の現実から逃げようとしている相棒の情けない姿にな…!」
「…っ…何を…!」
「だったら、なんでお前は泣いてるんだよ…」
「……!?」
翔太の今にも泣き出しそうな声に、フィリップは自身が涙を流していることに気が付いた。自身の涙が信じられず、呆然とするフィリップ。そんな彼に翔太は掴んでいた腕を離し、言葉を掛ける。
「…その涙がお前の答えじゃないのか…二乃だって、お前と同じように苦しんでた」
「っ…二乃ちゃんも…?」
「ああ…さっき話を聞いた時はどういうことか分からなかったが…ようやく分かったよ。確かに俺たちは普通じゃない…けど、だからって誰かを好きになっちゃいけないってわけでもないだろう?だったら…」
「違う……違うんだ、翔太!?」
「っ!?」
珍しく叫んだ相棒に翔太の言葉が止まった。そして、フィリップは遂に本心を吐露した。それは…
「僕は……僕は…!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
子供のように泣きじゃくるフィリップの言葉を翔太は黙って聞き続けていた。そして、全てを聞き終え、相棒だからこそ理解した彼の苦しみに対し、次の言葉を掛けた。
「だったら…全てをぶつけてみればいいじゃねーか?俺はあいつじゃねーし…それを聞いて、どうするかを決めるのはあいつ自身だ」
「…翔太…」
「任せとけ…お膳立ては俺がしてやる。行こうぜ、相棒」
「……すまない。そして、ありがとう」
その言葉と共に翔太の手を借りて立ち上がったフィリップは涙を拭う。そして、ダブルは動き出した。
23時…娘たちが勝手に外出していないかを見回るため、旅館の外に出ようとしたマルオ。五月と三玖は旅館の中にいたが、一花と二乃、四葉が見当たらないため、探しに行こうとしていたところだったのだが、
「しつこいのよ、あんた!?私に付きまとわないでよ?!」
「ま、待ってくれ、二乃!俺の話を聞いてくれ!?」
「…!」
廊下の奥から聞こえてきた声に外へと出ようとしたマルオの足が止まった。その声の主たちがよく知るものであり、すぐさま戻ったマルオが見たものとは…
「馬鹿!変態!スケベ!この…ストーカー!?」
「ぐぅ…誰が馬鹿だ!?」
「……(プチッ!)」
翔太の腕を振り払い、廊下の角へと姿を消した娘の後ろ姿だった。そして、必死に追いすがろうとする翔太の姿にマルオの中で何かが切れた。
「…佐桐君」
「…っ…!な、中野さん…!?」
「…ガッカリだよ。仮面ライダーである君が女の子を追い掛け回す趣味があったとはね。そして、娘が言い寄られている場面を見せつけられるとは思ってもみなかったよ」
「い、いや…!これは誤解で…!」
「言い訳は部屋でゆっくり聞こうか…夜はまだまだ長いからね」
「……ア、アハハハ……はぁ…」
断ることは許さない…そんな有無を言わさないマルオの言動に翔太は抵抗することもできず、連行されていくしかなかった……のだが、その口元には笑みが浮かんでいた。
(…後は頑張れよ…フィリップ、二乃…)
内心でそんなことを思う翔太…そんな彼らを見送る人物がいた。
「い、言われた通りにしましたけど…大丈夫でしょうか、佐桐君」
『馬鹿!変態!スケベ!この…ストーカー!?』
「だ、駄目です!静かにして下さい!?」
それは二乃の恰好をした五月だった。そんな彼女の手元には、先程の二乃の罵倒を発するフロッグポットがあった。つまり、先程のやりとりはマルオを誤魔化すための翔太の策であり、本当の二乃はというと……
「…来てくれたんだ…フィリップ君」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
指定した時間通りにやってきた二乃…そして、誓いの鐘の元には既に来ていたフィリップの姿があり、ひとまず安堵していた。無言のまま、背中を向けるフィリップに話題を切り出そうとする二乃だったが、
「正直に話すと……最初は君たちのことが嫌いだった」
「…っ…!?」
嫌い…そんな信じられないワードがフィリップの口から飛び出し、二乃は硬直してしまう。だが、フィリップは冷静に言葉を続けた。
「翔太に必要以上に近づいて、ダブルの活動も知られて……多分だけど、僕は君たちに嫉妬していたんだと思う。翔太を…僕を分かってくれている相棒を取られたと思ったんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…だから、どこか君に自分を重ねていたのかもしれない。上杉風太郎に家族の場を乱されたと思って、反発していた君の姿が…振り切れてなかったのはそのせいかもしれない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…僕も翔太のことをどうこう言えなかったわけだ…こんなに心を搔き乱されても、僕は君のことが嫌いにも、切り捨てることもできない…だから、僕は君に打ち明けたいと思う」
「……何を、なの…?」
「僕は…フィリップという僕じゃなく…悪魔の子として十字架を背負ってきたんだ。二乃ちゃんだからこそ聞いてほしい……それを聞けば、君にも十字架を背負わせてしまうかもしれない……それでも聞いてくれるかい?」
「………分かったわ」
「すぅ……フィリップは僕の本名じゃない。そして、菅山頼都という名前も…佐桐壮吉が僕のために用意してくれた偽名だ……
僕の本名は園崎来人…ガイアメモリという禁忌を見つけてしまった悪魔の一族の一人だよ」
「っ…!?」
二乃が息を呑む中、月下の元で覚悟を決めたフィリップの独白が始まった。
次回 仮面ライダーダブル/Kの花嫁
『Mの試練/彼らの答え』
これで決まりだ!
というわけで次回に続きます。
多分次回がまぁまぁ長くなるかと思いますが、ちゃんと一段落はつけますのでご安心を…色々と衝撃の事実が次々と発覚する次回にご期待頂ければ有り難いです。
それでは。