本当なら先週投稿できる筈だったのですが、仕上げる日に限って飲みに連れて行かれてしまい、お休みしてしまいました(苦笑)
色々と物議を沸かせるかもしれませんが、本作ではこういう形へと着地致しました。
それではどうぞ!
『物心ついた頃から、僕は家族のことを…自分の過去について全てを忘れてしまっていた』
静かに語り出したフィリップの脳裏には、薄暗い地下で唯々検索を続ける、過去の自分が映し出されていた。
『僕には名前などなく、地球の本棚の知識を調べ尽くすことが全てだと教えられていたんだ。愛も、喜びも、悲しみも…ほとんどの感情を知ることのなかった僕が唯一知っていたのは、恐怖だった』
『T』の頭文字のガイアメモリを持った男から底知れぬ闇が溢れ、過去のフィリップの四肢を拘束していく。周囲は光を失い、足元の闇にフィリップの体が沈んでいく。だが、
「そんな時に僕を助けてくれたのが佐桐壮吉だよ。僕にフィリップという名前をくれ、生きる意味を教えてくれた」
「…佐桐の父親で、あの骸骨の仮面ライダーに変身していた人、よね?」
「…ああ」
以前のペルソナ・ドーパントの一件で、(偽物とはいえ)その姿を見たことがあった二乃の言葉にフィリップは思考を現実世界へと戻しながら答えた。
「その時の話は前にも聞いたわ。それが、フィリップ君の過去とどう繋がるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…フィリップ君?」
いつものフィリップらしくない態度に、流石の二乃も不安を感じてしまう。だが、覚悟を決めたフィリップはその先を話し始めた。
「…クリスマスに全てを打ち明けた時…話したよね?僕は記憶を取り戻したって…あれには一部語弊があったんだ」
「…語弊…?」
「…正確には、僕が組織で活動していた時の記憶が戻ったのであって、それ以前の記憶は未だに戻っていないんだ……だから、僕は自分が本当は何者なのかを全く分かっていなかったんだ。
ダブルとして活動を始めた時も、子供の時に攫われそうになったことを考慮して、僕は外に出ることは全くなかった。君と出会った夜みたいにちょっとした買い物に出るくらい程度だったんだ…これまではね」
「……えっ?」
「それを僕たちが手に入れることができたのが本当に偶然だったと思う…僕たちは君のお父さんから、生前に佐桐壮吉が預けていたあるレポートを受け取ったんだ」
「…パパが…?」
「経緯については翔太から口止めされてるから割愛するけど、君のお父さんと佐桐壮吉は認識があったようだ。彼は君のお父さんを信頼して、そのレポートを託したんだと思う。自分に万が一の…いや、最悪の場合を考えて後世に手がかりを託そうと考えていたんだと思う……そのレポートには驚くべき事実が書かれていたよ…それは…」
「フィリップ君が…その家族の一員だったってことなの?」
「…(コクッ)」
無言で頷くことで二乃の推測を肯定するフィリップ…その表情は髪に隠れてしまい、二乃から伺うことはできないでいた。
「園崎来斗…それが僕の本当の名前だ。そして、ガイアメモリを生み出してしまった園崎の息子……佐桐壮吉が戦っていた『ミュージアム』と呼ばれるガイアメモリ組織を束ねていた元凶だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
強風が靡き、二人の体を揺らす。その事実に二乃は手で口を覆ってしまい、完全に言葉を失ってしまっていた。
「…けど、もう『ミュージアム』は存在しないんだ」
「…えっ?」
だが、次のフィリップの言葉で更なる衝撃が二乃の頭を襲う。理解が追い付かず、混乱し掛ける二乃を置き、フィリップは話を続ける。
「佐桐壮吉が遺したレポートは、彼が姿を消す直前までの出来事が記されていた…そこには気になる記載がいくつか記されていたんだ。それは、ミュージアムの中に裏切り者がいることを示していた…佐桐壮吉はその裏切り者と手を結び、組織の正体に迫っていたようだ……だけど、彼はその裏切り者にも警戒心を抱いていた…奴は正義のためじゃなく、自身がミュージアムの権力を握るために動いていた。そして、佐桐壮吉はそのことを見抜いていた。だけど…」
「……佐桐のお父さんは帰ってくることはなく…フィリップ君たちはダブルを継承した…ってことなのね」
「そうだよ。そのレポートには、園崎のことだけじゃない…ミュージアムに関するあらゆる情報が記載されていた。あのホテルの事件…ハーミット・ドーパントが君を狙ったのも、今思えば、君のお父さんが佐切壮吉のレポートを持っていると知っていたから、君を狙うように仕向けられたのかもしれない」
「…そう…」
ここにきて、ホテルでの事件までも絡んでくるとは思ってもみなかった二乃は表情を歪めてしまう。あれは単なる逆恨みではなく、明確な目的があっての出来事だったのだと聞けば、当たり前のことだった。
「…話を戻そうか。あのレポートを手に入れ、学年末テストが終わった後、僕たちはレポートに記されていた場所のいくつかを調べてみた。残念ながら、組織に関する証拠は一つも入手することはできなかった。けど、その痕跡は最近になって消されたものばかりだということが分かって、そこで僕たちは確信したんだ……佐桐壮吉がミュージアムを滅ぼしたのと同時に、その裏切り者が新たなる組織を興したんだと…そして、おそらく佐桐壮吉も…」
「…それが、あの白い怪物が言ってた……『オリジン』って組織…!?」
月下の中、語られる衝撃の事実をようやく飲み込めた二乃。点と点が繋がり、話の道筋の大方は理解できたが、それでも分からないことがあった。
「…話は大体読めたわ…でも、結局どういうことなの?今の組織と、フィリップが捕まっていた時の組織が違うのは分かったわ。けど、それがフィリップ君の罪とどんな関係があるのよ…」
話を焦らされ、流石の二乃も眉を顰めてしまう。フィリップの言いたいことが分からず、不満が遂に口から出てしまったが…そこで初めてフィリップの表情が見え、二乃は驚く。
その表情は…今にも泣き出してしまいそう程に悲しみの色が浮かんでいたからだ。初めて見たその表情に、二乃も何を言えばいいのか分からずに困ってしまうも、フィリップは言葉を絞り出すように口を開いた。
「二乃ちゃん……僕はね…僕は………君に好きになってもらえるような立派な人間じゃないんだ…!?」
「…っ…!?」
「僕は好きを知らない…!人の心が分からない人間なんだ…!父が…家族が作った組織が滅んだと知っても何も感じなかったんだ!?ただ眼前の事実を知って、納得したんだ…!ああ、いないんだと…涙すら流さなかったんだ!?
翔太が君たちに取られたと思った時にはイラついたのに…!翔太があんなボロボロになった時には取り乱したのに…!?僕は…自分の家族が死んだかもしれないっていうのに、全く心がざわつかなかったんだ?!僕は……壊れてるんだ…
だから……僕は君を好きになってはいけないんだ…!危険とかそんなじゃない……心が分からない僕は、君を必ず傷つける!?悪魔の十字架を背負った僕は、一人でいるべきなんだ!?君を泣かせるくらいなら、僕は……?!」
パァン!?
その先が続くことはなかった。
フィリップがその先を言う前に、二乃がフィリップの頬を叩いていたからだ。いきなりのことに呆然とするフィリップだったが、そんな暇など与えまいといった勢いで二乃が怒鳴る。
「ふざけないでよ…!何が壊れてるよ…何が傷つけるよ……!私を馬鹿にしないでよ!?」
「っ…!」
「本当に心が壊れてる人間はそんなこと、自分から言わないわよ!なんで、自分一人で答えを出そうとするのよ!?それは…フィリップ君一人で決められることじゃないでしょ!?過去が何よ!?記憶がないのが何よ!悪魔の一族がどうしたっていうのよ!?
私の好きな人は貴方よ、フィリップ君!!検索馬鹿で、KYで、人の感情に疎くて…それでも、誰かのために涙を流せる優しい人よ!」
「……僕は優しくなんて…」
「じゃあ、なんで今泣いてるのよ!?感情がない人間が涙を流せるわけがないじゃない!?だから…だから!グスッ……自分が壊れているなんて言わないで…!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
キレていた筈の二乃が逆に泣き出してしまったことに、心に重いものを感じるフィリップ。二乃のそんな表情を見たくなかった筈なのに…突き放して嫌われようとした筈なのに…自分をこうも想ってくれる人を傷つけてしまっている現実にフィリップの顔が歪む。
だが、そこで気付いてしまったのだ…自分は本当に二乃を突き放そうとしているのか。本当は自分の醜い部分を曝け出して、知ってもらいたかったのではないか……いや、そうすることで拒絶されることを、フィリップは恐れていたのだ。
フィリップが他者と距離を置こうとするのは、確かに自身の秘密を知られることを避けるためでもあったが、かなり特殊な自身の内面を知られて、否定されることが怖かったのだ。これが、組織に捕らわれていた頃であれば、それすらも気にしてはいなかっただろう。
だが、佐桐家で過ごし、ダブルとして戦い続けてきたことで、人としての感情を取り戻してきた彼にとって…組織で縫い付けられた『恐怖』の記憶が拒絶されることへの恐怖と結びつき、自然と人と関わることを避けていたのだ。
そこに自身と似た境遇である二乃への感情が板挟みされてしまったのだ。
フィリップが恐れていたこと…それは二乃を危険に晒すことでも、彼女を泣かせることでもなかった……自身が受け入れられないのではないかという恐怖に対する逃避が、彼をここまで迷わせていたのだった。
翔太の『フィリップが逃げている』という指摘は、実は的を得ていたのだ。だからこそ、翔太は自分ではなく、二乃へと全てを任せたのだった。義兄弟で相棒である自分ではなく、フィリップのことを真剣に想う、第三者の彼女の言葉でなければ、フィリップの心を覆っている恐怖の氷は砕けないと考えたのだ。
そして、その推測は功を制した。
「私も……この気持ちは…フィリップ君を好きだって気持ちは本心よ!けど、それで貴方に迷惑を掛けたらどうしようと思ってた!?でも……でも!フィリップ君が私のことを思ってくれてるって分かったから…どうしようもなく嬉しくて、どうしても我慢ができなかった!?
貴方が私のために泣いてくれるのなら……私も一緒に泣くわ!貴方一人で答えが出せないのなら……私の頭じゃ全然助けにならないかもしれないけど、それでも一緒に答えを探すわ!だから…………
…私のことを好きになってくれませんか…?」
「…っ…!?」
その言葉の意味をフィリップは悟った…前の告白では『好きだ』と伝えられた。しかし、今回の告白は違った。
『好きになってくれませんか?』
それは、二乃なりの責任を乗せた言葉だった。フィリップは自分を好きになる理由を、自分のせいにしていいからと言っているようなものだった。その言葉に、限界寸前だったフィリップの心が遂に決壊した。二乃の体を抱きしめ、大粒の涙を零す。
「フ、フィリップ君…!?」
「ううぅ……ゴメン…ゴメン!少しだけ、こうさせてくれないか…?」
「…うん」
普段の冷静な姿からは考えられない大粒の涙を流すフィリップを優しく抱きしめ、二乃はそれ以上は何も言うことはなく、フィリップが落ち着くのを待った。
「…すまない……その、情けないところを見せてしまって…」
「…いいわよ。私なんか何度もフィリップ君に変なところ見せてるし…これでお互い様、でしょ?」
「…!そう、だね…」
ようやく泣き止んだフィリップは、少し恥ずかしそうに二乃に謝罪するも、以前の出来事で何度も自身の裏表を見せてしまっていた二乃は気にしてなどいなかった。そんな彼女の泣き笑顔に、フィリップの心もようやく踏ん切りが着いた。
「(そうだ…僕は君の笑顔が……いや、君が受け入れてくれるといったことが本当に嬉しいと思ったんだ………だから…)…二乃ちゃん」
「な…っ…!?」
呼ばれた二乃の言葉はフィリップの口によって遮られてしまった…文字通り、フィリップが二乃へとキスをしていたからだ。突然のことに二乃は呆然としてしまう。そんな二乃を置いてけぼりに、唇を話したフィリップは言葉を発する。
「…僕も君が好きだ……僕と一緒になってくれないかい?」
「…えっ…い、い、今……キ、キ、キ……!?」
「そうだよ。二乃ちゃんの唇を奪ったよ?これが僕なりの好きの表し方だよ?それとも、何かマズかったかな?」
「なぁ、なぁ……///!?」
突然の出来事に完全に茹蛸の如くに真っ赤になってしまった二乃は声にならない悲鳴を上げ、顔を伏せてしまった。いつの間にか攻守が逆転してしまっていたが、二乃がパニックになっている理由が分からないフィリップは首を傾げる。
「…?おかしいな…検索したのだと、キスは愛情表現の一種だったんだけど…もしかして、二乃ちゃんはキスが嫌いだったのかい?」
「っ…!?バ、バカぁ!?フィリップ君のバカ?!私、ファーストキスだったのよ!?しかも、告白し返すとの一緒にキスとか…!は…反則よ、そんなの…!?」
「…?…?…?」
いつもの調子に戻ったフィリップに抗議の声を上がる二乃だったがフィリップからキスされたのだと気付き嬉しくなり、そして、恥ずかしさがまたしても込み上げてきて再び顔を伏せてしまっていた。そんな表情をコロコロと変える彼女にフィリップも再び頭上にクエスチョンマークを浮かべてしまう。
「…はぁ…もう。私だけ恥ずかしがってて馬鹿みたい」
「いやいや…僕だって、かなり恥ずかしいんだよ?これでもキスするのは初めてだったしね」
「ふ~ん…その割には凄い慣れてるみたいだったけど…?」
「まぁ、一度『地球の本棚』で検索したことがあったからね。知識としては知っていたんだよ?」
「…それじゃ、ここがどんな場所かも知っててキスしたの?」
「…えっ…?」
二乃の言葉の意味が分からず、疑問の声がフィリップから上がる。そして、そんなフィリップの態度に二乃が驚き、説明する。
「四葉が言ってたでしょ?ここ『誓いの鐘』は島の随一スポットで、鐘を鳴らした男女は永遠に結ばれるっていう伝説が……もしかして聞いてなかったの?」
「……(コクッ)」
二乃の説明に今度はフィリップが驚く番だった。言葉も出ない様で、眼を丸くしながら頷くことしかできずにいた。無理もない…その時のフィリップは二乃といきなり出くわしたことに完全に混乱状態になっており、周りの話など全く耳に入ってなどいない状態だったのだから。
「…ねぇ?もし良かったら、鐘も鳴らしていく?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
先程のお返しとばかりに二乃が小悪魔の笑みと共にそう問いかける。対するフィリップは少し考えて、
「いや、別に鳴らさなくてもいいじゃないかな?」
「……えええェェ!?」
まさかの拒否の答えを示した…まさかの答えに二乃が絶句するも、次のフィリップの言葉でその真意を理解した。
「だって、僕と二乃ちゃんは林間学校で『結びの伝説』をしたじゃないか?それに……そうでなくも、僕は君を手放す気はないよ?」
「っ…!?」
その『二度と別れる気はない』発言に二乃は三度心を撃ち抜かれた。恋の暴走特急も、純粋な検索馬鹿の言葉の弾丸に脱線させられぱっなしだった。
「…鳴らしましょう!」
「えっ…でも…」
「い・い・か・ら!!」
今にも爆発しそうな真っ赤な顔を誤魔化すために強引にフィリップの腕を引っ張り、二乃は誓いの鐘の縄へと自分たちの腕を近づける。
「あっ…そうだ。二乃ちゃん、僕の告白に君の答えをまだもらってないだけど?」
「えっ……もう!そんなの決まってるでしょ!答えは……!」
そこで二乃の言葉は止まった。鐘が鳴り響く中、二人の影がもう一度近づき、そして離れた。縄を握っていない手が互いの手を強く握りしめ、星と月だけが彼らを見つめていた。
「…と、までは良かったんだけど…」
「不味いね…まさか中野マルオが玄関で待ち受けているとは…」
互いの気持ちを確かめ合い、手を握りながら下山したフィリップと二乃。互いに話したいことはあったが、今はこうして二人で歩いて過ごす時間をゆっくり楽しみたいと思って、旅館を目指していたのだが……入口付近にマルオが立ちはだかっているのが目に入り、慌てて身を隠したのだ。
ギリギリのところで気が付いたので、二人の存在はマルオに気付かれていないが、旅館に帰る方法がなく、二人は完全に困り果てていた。
「…このまま朝まで待つというのはどうかな?朝になれば、翔太たちが…」
「ダ、ダメよ!?朝帰りとか、本当に殺されるわ!?でも、このままここにいても、見つかるのも時間の問題だし…」
「…ったく。やっぱりそういうことになったか」
「「っ!?」」
フィリップの案を(フィリップの身を案じて)全力で否定する二乃。だが、彼女にもこの状況を打破する手立てはなかった。そんな時、二人の背後から聞き覚えのある声がして、慌てて振り返ると、
「翔太!?」「佐桐!?」
「しぃー!大声出したら、マルオさんに気付かれだろうが……全く、人に散々説教しておいて、あそこまでするとか、親バカにも程があるだろうが…」
「しょ、翔太…その…!」
「あー…皆まで言うな。お前らの様子を見たら、大体どういうことがあったのかは想像つくわ。まぁ、その辺りの話は追々聞くとして、今はこの状況をなんとかするぞ?いいか、二人とも…よく聞け」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
翔太の提案に耳を貸す二人。そして、それぞれが作戦通りに動き出した。
「それにしても、意外だったわね」
「あん?何がだ」
二乃のそんな言葉に答えるのは、木々を分けながら先導する翔太だった。音をたてないように慎重に進む翔太は背後にいる二乃の問いの真意を図りかね、逆に聞き返していた。
「あんた…私がフィリップ君のことが好きだって言ったら、反対するかと思ってたわ。なのに、ここまで協力してくれるとは思ってもなかったから」
「そういうことか…別に俺はフィリップの保護者…じゃないとは言わないが、あいつの意思やしたいこと全部を止めたいわけじゃないからな。あいつが危険な目に遭うのを避けるために、いつもは止めてるだけだ。今回はあいつ自身が望んだんだ。それを、相棒の俺が助けずに止めるなんてするわけがないだろう。
それに……お前がフィリップのことを大切に想ってくれていることは知ってたからな。伊達にお前らの家庭教師をしてたわけじゃない……そのくらいは理解してるさ」
「…そう。フィリップ君の方は大丈夫かしら?」
「多分な。マルオさんはお前らが表からしか入って来れない様に裏口の鍵まで閉めてやがったからな…まぁ、その後に俺がこっそりと鍵を開けておいたから、問題なく入れるだろう」
そう…翔太の案というのはこうなることを見通しての仕掛けだった。二手に分かれ、部屋が一階にあたるフィリップは裏口から、二階の二乃は翔太が送っていくことだった。尤も、長時間のお説教を受けた後だったので、翔太が足の痺れに苦しみながら色々と細工したことは余談である。
「よし、着いたな」
「ここって…私たちの部屋の真下…?」
「ああ。さてと…五月が窓の鍵を開けてくれてるから、ここから登って入ればバレないだろう」
「の、登るって…!?どうやって…」
「こいつを使うのさ。頼むぜ、スパイダーショック」
『Spider』
疑似メモリを装填したスパイダーショックを手首から放つ翔太。スパイダーショックがベランダの手すりに掛かったことをワイヤーを引っ張りながら確認し、翔太は二乃へと手を差し出す。
「はぁ…忘れてたわ。あんたたちがとんでもないおもちゃを持ってること…それで今朝も部屋から飛び降りたわけね?というか、なんでそんなものを旅行に持ってきてるのよ?」
「まぁ、万が一に備えて奴だ。ほら、マルオさんが感付く前に行くぞ。さっさと掴まれ」
「……変なところ触ったら、叫ぶわよ?」
「その辺りは信用しろ!?…ったく、いくぞ?」
とんでもない嫌疑を掛けられ、抗議の声を上げる翔太。ため息を吐きながらも、二乃の体を支え(もちろん触る部分に気を付けながら)、ワイヤーを巻き取る。そして、無事に二階へと辿り着いたところで、翔太はその場を去ろうとするが、
「…佐桐…!」
「うん…?」
「え、えっと……その…一回しか言わないからよく聞きなさい………ありがとう」
「…!…おう。それじゃあな…そうだ。マルオさんには…」
「上手く誤魔化しておくわよ。じゃないと、パパがフィリップ君に何するか、分かったもんじゃないし」
「アハハ……頼むわ」
分かってるという二乃の態度に翔太も苦笑いしながら、スパイダーショックを使い、一階へと無事に降り立つ。そして、そのまま素早く裏口へと向かった。
「…本当…あんたには返せない借りができちゃったわね」
憎々しい言葉だったが、どこか柔らかい笑みを含んだ二乃は、翔太の姿が見えなくなるのを見送り、自分も部屋に戻ったのだった。
(……よし。どうやら中野マルオはこっちに気付いていないようだ。今なら…!)
一方…翔太たちとは別ルートで裏口へと向かったフィリップは、マルオがこちらに気付いていないことを確認し、素早く裏口の前へと向かうことに成功していた。翔太の細工通り、裏口の鍵は開錠されており、裏口から旅館へと入ろうとするフィリップ。
無事に戻れたことに安堵し、裏口の扉を開いた時だった。
「…っ…!?(人!?……旅館のオーナー…?!)」
裏口を開けた先には、まるでフィリップがそこから戻ってくることを予想していたかのように、二乃たちの祖父が立ちはだかっていた。翔太から祖父の正体について聞いていたフィリップは、嫌な予感を覚えていた。こちらをジッと見つめる祖父にフィリップも動くことが出来ず、成り行きに身を任せるしかない状態だった。しかし、先に口を開いたのは祖父の方だった。
「……お主、園崎の人間じゃな?」
「…っ…!?」
自身の出生を当てられたことにフィリップは思わず驚きの色を隠せないでいた。だが、祖父は構うことなく言葉を続ける。
「見間違いかと思ったが、昔、ここに家族と泊りに来ておった時の面影が残っておる。かなり著名な考古学者であったお主の父の話はよく聞いておったわ……良い話も、あまりにも悪い話もな…」
「…貴方は…一体……」
「なに…そんな噂が大量に流れ込んでくる場に身を寄せておっただけじゃよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それで…二乃と会っておったのじゃろ?儂の孫に何をするつもりじゃ…悪魔の一族よ?」
「っ…!?」
祖父から怒気を孕んだ言葉が放たれ、思わずフィリップは後退った。だが、それ以上後退ることはなく、フィリップは真っ直ぐと祖父を見つめ、向き合った。
「……お主はあの娘とどう向き合うつもりじゃ。お主に…その資格があるというのか?」
「…僕は…」
祖父にとう問われ、フィリップは言葉に詰まる。だが、その時に蘇ったのは…
『自分が壊れているなんて言わないで…!?』
『…私のことを好きになってくれませんか…?』
涙を流しながらも、自分を肯定してくれた二乃の言葉と表情だった。
「…彼女を…二乃ちゃんを守りたいです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「僕は自分でも分かっているくらいに、人の感情に疎いです。そして、この体にはその悪魔の血が流れています…記憶がなくても、僕の罪は消えないと思います。
それでも…こんな僕を肯定してくれた……愛してくれた彼女だけは守りたいです」
「……お主と一緒になることが、二乃を危ない目に遭わせることになってもか?」
「…その時は地獄に行くことになっても、彼女を守ります。僕は……いや、僕たちは二人で一人の探偵で……仮面ライダーですから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
裏口の背後にいるであろう相棒の存在に気付き、フィリップははっきりと祖父にそう答える。その答えを聞いた祖父は何も言わず、黙ってフィリップのことを見つめて続けていた。そして、まるで数十分が経ったかのように錯覚する沈黙の場が訪れた。
「………孫たちは母を失ったことで大きな傷を抱えておる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…その時に儂は何もしてやれなんだ。だからこそ、あの娘たちの笑顔が儂にとっての最後の希望でもある。もしも……孫たちに再び危険が迫っておるのなら、何が何でも守り切ってみせよ。
お主たちが孫を絶望させてれば…その時は儂がお前らを殺しに行く…覚えておけ」
「…分かりました」
「ふぅ……あの娘を頼むぞ」
そう言い終わると、祖父は怒気を放つのを止め、旅館の廊下へと消えていった。威圧から解放されたフィリップは珍しく冷や汗を流しており、少し落ち着いてから裏口の裏へといるであろう人物へと声を掛けた。
「翔太…もう来てもいいじゃないかい?」
「……はぁ。まさか、あの爺さんが待ち構えているとはな…というか、とんでねぇ爺さんだな。あんな気、初めてだったぞ」
「本当に只者ではないだろうね…僕のことも知っていたところを見ると、おそらく……」
「…その先は詮索しないでおこうぜ?知らないことが良いこともあるだろう」
「そうだね…それじゃ、僕たちも帰ろうか?」
「そうだな……はぁ、マジで疲れたわ。旅行に来てるのに、なんでこうもトラブルに巻き込まれるのかね?」
「それは君の不幸体質のせいじゃないのかい?」
「…今回はお前のせいでもあることを忘れんなよ……まぁ、これでようやくトラブルは全部解決…………」
「…翔太?」
廊下を歩きながら、会話をしていた筈の相棒の言葉が途中で止まったことにフィリップが首を傾げていると…
「…しまった…まだ上杉の一件が解決してなかった」
「……?どういうことだい?」
この2日間、全く事情を知る余裕がなかったフィリップに対し、翔太は完全に風太郎と偽五月の一件を忘れていたことを思い出し、思わず頭を抱えるのだった。
次回 仮面ライダーダブル/Kの花嫁
『Mの試練/私を探して…?』
これで決まりだ!
というわけで、ようやくくっつけられました(笑)
元々この二人は早めにくっつける予定でしたので、これまでも焦点が当たることが多かったんですよね(その分、他の5つ子たちにスポットが当てれてなかったんですが…)
というわけで、本章もあと2話ぐらいで終われるかと思います。そのあと、間章を挟んで、新学期をテーマとした新章に突入しようかと思います。
それではまた。