甘々な空気が全開だったり(作者の趣向です!)、色々と補足があったり、次章に繋がるちょっとしたフラグがあったりなど…そんなお話です!
それではどうぞ!
(なんとかアブソーブを倒すことはできたが…俺たちに待っていたのは虚しい結末だった。以前、取り逃がしたマーカス・小島…塵となって消えてしまった奴の顔が未だに脳裏を離れねぇのは…例え奴が敵の一員だったとしても助けられなかったことを悔やんでか、それとも、組織に繋がる手掛かりがまた一つ失っちまったことから…
フィリップはあの時の自分たちにはどうしようもなかったことだと言っていたが、あいつも内心は気にしてない訳がないだろう。
まぁ、今回ばかりは本当にこっちがやられるかどうかの瀬戸際だった訳で…しかし、これからもあのようなレベルの…いや、あれ以上の敵が現れたとすれば、今度はどうなるかと俺は嫌な予感を覚えずにはいられない…だが、こっちにも一応の味方が増えたわけだから、今後は奴との共闘することも多くなるだろう。これからもできるなら争いたくはないが、あいつのあの性格や闘う理由を考えると、それは無理な話かも……)
「佐桐…いつまで下らないことを書くつもりだ?」
「…やっぱりおめぇとは仲良くできる気がしねぇわ」
アブソーブ・ドーパントとの激闘を終え、翔太はいつも通り、今回の一件に関しての報告書を作っていた。
最後の辺りに今後の懸念を書いていたところ、ちょうど該当人物…照井から冷めた声色で声を掛けられ、筆を止められた翔太が眉を顰めて苦言を呈した。
「事件の概要を纏めるのは分かるが、どうしてパソコンを使わない。そもそも、なぜ筆記体なんだ?読み辛いだけで報告書としての意味を為していないだろう?」
「かぁー!?ハードボイルド探偵の報告書は筆記かタイプライター!筆記体で書くのも別に誰かに読ませる訳じゃなく、その時その時の気持ちを表すために決まってんだろうが!?これだから素人は…!」
「……コーヒーでも淹れて待っているぞ」
「無視かよ!?これはな、探偵としての俺の日課で…!というか……勝手に人の家のもんを物色すんじゃねーよ!?」
自身のこだわりを悉くスルーしていく照井にペン片手に抗議する翔太…それすらも躱し続ける照井は、リビングに置かれていたコーヒーミルを弄り出した。
…そう。照井は再び佐桐家を訪れていた。尤も、今回は秘密基地がある地下ではなく、母屋の方だった。事前に学校を休むことを告げていた翔太はともかく、昼休みに無断で抜け出してきた照井がのこのこと戻るわけにもいかず、翔太自身も話さなければならないことがあり、照井を自宅に招いたのだ。
まぁ、今や学校では突然姿を消した照井のことに関して騒ぎが起こっており、照井に近しいと目された風太郎たちが、クラスメイトたちからまたしても質問攻めにあっていたりしているのだが…それを知らないライダーたちは戦いで疲れた体を休めていた。
ちなみに、フィリップは今回の戦闘で損傷したメタルシャフト、完全に破損したトリガーマグナム・(翔太の)スタッグフォンの修理のために秘密基地へと籠っていたため、この場には不在だった。
「はぁ~…なんか興ざめしちまったぜ。止めだ、止めだ…続きはお前が帰ってから、離すことにするわ」
「なんだ…ギャンギャン騒ぐ癖に堪え性がない奴だな」
「その言葉、お前にだけは絶対に言われたくないわ…」
「それよりも…さっさと本題を話せ。さっきの戦闘の際、お前たちは言ったな。あのそっくり姉妹たちが狙われたと…それにガイアメモリを扱う組織がいることを…」
「そうだったな…その話をするためにお前をここに呼んだんだったな」
照井の言葉で我に返った翔太は報告書と万年筆を横に片付け、アブソーブとの戦い終わりに自分たちが発した言葉の真意について説明を始めた。
「まず、奴らの組織の名前はオリジンって言うらしい。俺たちは今年の初めに、組織の幹部らしき奴と接触して、その時に奴らの名前と目的を聞いた…奴らはガイアメモリの真なる力を解き放つことが目的だって言っていた」
「…実に反吐が出る目的だな」
「それに関してばかりは同感だ…そして、奴らは二度に渡って、五月たち…中野家の五つ子の身柄を狙ったんだ…最初はあいつらの父親が持っている、俺の父さんが残した旧組織に関する資料を狙ったかと思ったんだが…その内容を見てみると、どうにも辻褄が合わなくてな…そういうこともあって、家庭教師の助っ人をしていた俺は、あいつらのボディガードも兼ねることになったわけだ」
「……彼女たちが…今の組織の狙いということか?」
「そうじゃないかと俺たちは睨んでる…いくらこの街にガイアメモリが蔓延っているからって、あいつらが事件に巻き込まれる確率は高すぎる」
「…そういうことか…」
翔太の言葉を聞いている内に、コーヒーミルを挽く照井の手が止まっていた。翔太の告げた事実をどう捉えたのかは彼自身にしか分からないが、その顔は真剣なものだった。
「…というか、お前の協力者のシュラウドはそのことを教えてくれなかったのかよ?てっきり彼女もそのぐらいの情報は掴んでいるのかと思ってたぜ」
「俺がシュラウドから聞いていたのは、アクセルの能力とお前たちのこと、ガイアメモリの基本知識だけだ…そもそも俺と奴はそこまで親しい関係ではない。情報共有も一方的に告げられていた程度だからな」
「…うん?だったら、なんで俺たちの内情について、あんなに詳しかったんだ?」
「フン……この家のセキュリティは中途半端すぎる。このガジェット一つで、お前たちの動向など筒抜けだったぞ?」
「なぁ…ビートルフォン…!?」
「……まぁ、母屋でガイアメモリの話をしていなかっただけ、お前たちもそれなりに情報漏洩には気を遣っていたんだろうがな」
照井が見せたビートルフォンには、ハードボイルドを取り繕おうとする翔太の私生活動画が写っていた。照井が翔太のハーフボイルド気質を知っていたのは、事前にダブルの家へと探りを入れていたからなのだ。
「奴らの話は大体分かった…だが、俺のやることは何一つ変わらん。奴を…俺の家族を殺した犯人に復讐するだけだ」
「そして、そいつの命を奪うってか…」
「下らんと言うつもりだろうが、それが今の俺の生きる目的だ。何を言われようが、それだけは譲るつもりはない…!」
「……好きにしろよ」
「…なんだと?」
翔太のまさかの言葉に、照井から驚きの声が上がる。それに構わず、翔太は言葉を続ける。
「お前が復讐しようが、何しようがもう何も言わねぇよ。けどな…お前がそれを理由に人の命を奪おうっていうのなら…俺たちが何度だって止めてやるよ。俺たち…仮面ライダーがな」
「…その時はお前たちを斬り倒してでも、俺は復讐を完遂してやる。忠告はしたぞ…邪魔をしないのなら、少しは協力してやろう」
「ハッ!ライダーとしては後輩のくせに、相変わらずの上から目線だな。上等だ…お前が折れるまで邪魔してやるよ」
「…なら、俺は帰るぞ?エンジンブレードをシュラウドに修理してもらうために、連絡を取らないといけないからな」
そう言って、途中で止めてしまってコーヒーを淹れた照井は、翔太の分だけを机に置き、その場を去ろうとした。
「おいおい…せっかく淹れたのに、飲まないのかよ?」
「シュラウドとはいつ連絡が取れるか分からん…いざという時に武器が使えんなど笑えんからな」
「はいはい、そうですか。なら、折角淹れてもらった訳だし、頂くとするか。まぁ、日ごろからコーヒーにこだわってる俺の下を唸らせられるわけ・・うまぁぁぁぁいぃぃ!?」
やれやれと言った様子で照井のコーヒーを飲む翔太だったが、秒どころか一瞬でその味に唸らされてしまっていた。自分が煎れるコーヒーなど比べることがあまりにも烏滸がましいと感じてしまう程、照井の淹れたコーヒーは美味すぎた。
「どうやら、コーヒーの淹れ方は俺の方が先輩のようだな?何なら、家庭教師も俺の方が上手くやれるんじゃないか?」
「て、てめぇぇ…!」
「…フッ…!」
「二度と来んなぁ、この性悪野郎!?」
してやったりという笑みを浮かべる照井…その言葉に青筋を額に浮かべていた翔太だが、鼻で笑われたことでキレ、その姿を見た照井は逃げるように佐桐家を跡にしたのだった。
「ったく…!ちょっとは仲良くしようと思って下手に出てたら、調子に乗りやがって…!塩でも撒いおいてやろうか!」
行き場を失くした怒りをなんとか鎮めようとする翔太は、本当にそう思いながら、塩をキッチンに取りに行こうかどうか迷っていた。そんな時だった…
ピンポーン!
「…ちぃ。こんな時に誰だよ…まさかとは思うが、照井か?こうなったら、塩でも顔面にぶつけてやろうか…!」
家の呼び鈴が鳴り、先程出て行った照井が戻って来たのではないかと思った翔太は、キッチンから塩の入った小箱を取り、玄関へと向かった。
冷静に考えれば、先程までここにいた照井がわざわざ呼び鈴を鳴らすことなどありえないと分かった筈だが、憤怒に駆られた今の翔太にはそんな冷静さは欠片も残っていなかった。
「だぁ~!?嫌味の次は何だよ!いい加減に…しや……あっ」
「…心配して来てみれば…元気そうで良かったです、佐桐君?それで…?その振りかぶってる手の中には何が握られているのですか?」
怒鳴りながら玄関の扉を乱暴に開いた翔太だったが、次第にその声が勢いを失っていく。最初は翔太の怒鳴り声にビビっていたが、状況を呑み込んだ彼女…冷静に五月は怒りを堪えた笑みを浮かべ、翔太のことを睨んでいた。
完全にやらかしたと後悔するも、どうしようもない状況の翔太は…
「これは参ったな…メタルシャフトの修理はなんとかなりそうだけど、トリガーの方はメモリのシステムにまで破損が出てしまっている。当面の間、トリガーメモリは使用できないな」
場面は打って変わって、地下の秘密基地。
そこには、今回の戦闘で破損した道具の修理をするフィリップの姿があったが、その様子は芳しくはなかった。
アブソーブから取り戻したメタルシャフトの修理は目途が立ったのだが、問題は完全に破壊されたトリガーマグナムとスタッグフォンだった。
特にトリガーマグナムはメモリの生成機能によって生み出されていた武器であるため、完全破壊のダメージがメモリにまで及んでしまっていたのだ。データ自体は『地球の本棚』を調べれば分かるが、一からデータを組み直す必要があり、修理するには相応の時間が必要だった。
それに比べれば、ガラケーを改造していくことでできるスタッグフォンを再度作る方が早く済むぐらいである…幸い、携帯のバックアップデータはあるので本体さえ用意すればいいわけである…尤も、それまで翔太は代替機のスマホを使うことになるのだが…
(…ともかく、まずはスタッグフォンからだな。本体となる携帯と各パーツから揃っているから…当面、検索はお預けだな)
頭の中でどのように修理していくかを組み立てていくフィリップ。ここまで被害を受けたことが初めてだったこともあり、知識を求めての閲覧もできないと思うと同時に、外出できないということは、二乃にも会えないということであり、その事実に心が少しだけ寂しさを感じていた。
昨日の電話の際にも、作戦を詰めるのに必死で余裕のない対応をしてしまい、後からやってしまったと後悔していたフィリップ…またしても、二乃を待ちぼうけさせてしまうことになると思うと、更に気持ちが沈んでしまった。
(はぁ~…これが寂しいということか…僕自身がこう思う時が来るとは。翔太が家にいない時だって、こんな風に思ったことなんてなかったんだけどな…)
「おにぎりとお味噌汁…ここに置いておくわよ?」
「ああ、ありがとう…後でいた……えっ!?」
ぼんやりと自らの心境の変化をしみじみと感じ取っている時、ガレージにその声が響いた。意識を思考に傾けていたフィリップは自然と受け答えをしようとして…その声の持ち主に気付き、思わず視線を隣へと向けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「に、二乃ちゃん…!?」
そこには机の上におにぎりとお味噌汁が乗ったトレイを置いた二乃の姿があった。脳裏で想っていたことと、まさかその人物がそこにいるとは思っていなかったフィリップは驚くことしかできなかった。
「ど、どうして…ここに…?」
「どうしてって…本当に分かんないの?」
尋ねた筈が、どこか機嫌の悪い二乃に尋ね返され、フィリップは言葉に詰まってしまう。その態度に二乃は思わずため息を吐いた。
「心配してたからに…決まってるじゃない…!佐桐もフィリップ君も電話に出ないし…!?もしかしたら、何かあったんじゃないかって……思うに決まってるじゃない!?」
「…!すまない…そっか、連絡をくれてたんだ。修理に夢中になっていて、電話に気付かなったみたいだ」
言葉の途中で泣きそうな表情を浮かべる二乃に、フィリップは素直に謝罪した。慌てて自身のスタッグフォンを見ると、何件も二乃からの着信履歴が残っていた。
「バカ!フィリップ君のバカ!…本当に心配したんだから!?」
「に、二乃ちゃん…!?」
「心配させた罰よ!私が泣き止むまで離してあげないんだから!」
「……分かったよ」
そう言われてしまっては抵抗する術のないフィリップは、抱き着いてきた二乃を抗うことなく受け止めた。そのまま二乃が泣き始めてしまったため、彼女が泣き止むまでフィリップは二乃を抱きしめていた。
「…ぐすん…」
「もういいのかい?」
「うん…いつまでも泣いてたら、フィリップ君の邪魔をしちゃうし…フィリップ君も佐桐も無事だって分かったから…」
二乃が泣き止んだところで、落ち着いて会話ができるようになり、フィリップは二乃から体を離した…少し名残惜しいと思いつつも、今は話をする方が先決だった。
「でも、良かったのかい?今日も勉強会があったんじゃ…」
「上杉が夕方からバイトで、勉強会は夜からなのよ。だから、それまでの間に五月と一緒に来たの…私も五月も今日はバイトなかったから」
「このおにぎりとお味噌汁は…?」
「佐桐に聞いたら、フィリップ君籠りっぱなしだって聞いたから…お米を借りて作ったのよ。流石にお味噌汁は時間がなかったから、インスタントだけど…」
(…そういえば、今日は何も食べてなかったな)
アブソーブへの対策をギリギリまで練っていたこともあり、完全に食欲を失くしていたフィリップは、二乃が作ってくれたおにぎりとお味噌汁を見て、そのことを思い出していた。すると、フィリップのお腹の音が丁度鳴り響き…
「…フィリップ君…?」
「すまない…もし良かったら、頂いてもいいかな?」
「…!もちろん!そのために作ったんだから!」
二乃のジト目が刺さり、申し訳なそうにするフィリップだったが、その態度と言葉に笑みを浮かべて答える二乃。
その言葉に従い、海苔が巻かれたおにぎりを一つ取り、一口齧るフィリップ…塩むすびらなではのシンプルな味付けだったが、精神的にも頭脳的にも疲れていた彼にとってはそれで充分で…
「美味しいよ…!翔太の作る料理より、ずっと美味しい!」
「そ、そう…!まぁ、佐桐の奴も料理が上手だとは聞いていたけど、女の子として、負けずに済んで良かったわ…!」
「(モグモグ!)…!」
「そんなに慌てなくてもいいわよ?おかわりが欲しかったら、また作ってくるわよ?」
「本当かい?それは………………」
「…?フィリップ君…どうしたの?」
言葉を途中で止めてしまったフィリップに二乃が心配になり、思わず声を掛けた。何かを考えているようだったが、それを言葉に変換できたフィリップが口を開いた。
「いや…中野五月たちが羨ましいと思ってさ。君の手料理をこうして毎日食べていられると思うとね…」
「えっ…そ、そうかしら?そんなに大したものは作ってないわよ…!」
「僕なら毎日食べたいかな…」
「なぁ…!?」
フィリップにとっては純粋な思いで呟いた一言だったが、二乃にとってはクリティカルヒットした言葉だった。それはまぁ、いわゆる『君の作った味噌汁を毎日飲みたい』に近い言葉なわけで…
「…っ~~~~///!?」
「に、二乃ちゃん…どうかした?」
そう解釈してしまった二乃の顔は真っ赤になり、そうとは知らずに心配するフィリップの構図が出来上がってしまった。尤も、二乃も二乃でやられっぱなしというわけでもなく、
「…いいわよ…」
「えっ…?」
「い、いつでも作ってあげるって言ってるのよ…フィリップ君のお嫁さんになれたら…!」
「……(ボン?!)//!?!」
俯きながらも、ハッキリとした声で呟いた二乃…その言葉でようやく自分が放った言葉の真意に気付き、まさかの二乃の返答にフィリップの顔も一気に赤くなった。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
他人がいれば、間違いなく甘たるすぎて吐き気を催すであろう甘々空間が形成され、付き合いたてのカップルも沈黙し切ってしまっていた。
「えっと…二乃ちゃん…?キスでもする?」
「なんで今、それを聞くのよ!?」
「いや…気まずさを誤魔化そうかと思って……しないのかい?」
「…なんかそう言われてしたら負けな気がする」
「そ、そっか…なら……っ!?」
口を尖らせた二乃からそう告げたフィリップは少し…いや、かなりガッカリしてしまい、ふとそれが表情に出してしまった時だった。
気付く前に、フィリップの唇は二乃によって、奪われていた。
「…でも…フィリップ君のそんな表情を変えられるのなら…負けてもいいかなと思っちゃう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…ちょっとしょっぱいわね。塩加減が強かったかしら?」
「刺激の強いの間違いじゃないのかい…(本当に、君には敵わないね…)」
キスの名残りを確かめるように唇に指を当てる二乃…その姿がどこか妖艶に、小悪魔という評価がピッタリはまる態度に、どこか満たされた気持ちになったフィリップも内心白旗を上げながら、そう答えていた。
そして、二人は時間が来るまで話をするのだった。
一方…
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さっきは悪かったって…まさか、お前たちが来るとは思ってなかったんだよ…!」
「…別に…もう怒ってませんから…」
(いや…!どう見たって、まだ怒ってますという表情してんじゃねーかぁ!?)
佐桐家のリビングでは、ちょっとした修羅場が起こっていた…いや、彼らにとっては日常茶飯事な出来事なので、修羅場は言い過ぎか…先程怒鳴られたことに未だ不快感を覚えていた五月を、翔太が必死に宥めていたのだ。
「…まだ米余ってるが、良かったら…」
「佐桐君!私を一体何だと思ってるんですか!?」
「(常時腹ペコ女王…)いや、イライラしている時には好きなことをした方がいいかなと思ってなんだが…」
「うぅ…け、結構です…」
前言撤回…宥めるどころか、怒りに油を注ぎかけていた。尤も、五月自身も翔太の提案に少し心が揺らいだところもあったので、どっちもどっちであった。
「でも、安心しました…あれから全然連絡が取れませんでしたから。特に、佐桐君の携帯なんかは電源が切れているとばかりだったので…」
「あ~…戦いでスタッグフォンが破損しちまってな…まだ予備のスマホにデータを移してなかったからな。悪いが、後でみんなに伝えておいてくれないか?」
「分かりました…それはそうとして、一つ聞いていいですか?」
「うん…何だ…?」
「どうして二乃にフィリップさんのことを頼んだんですか?フィリップさんが心配なのは分かりますけど、二乃に持って行かせなくても良かったのでは…?」
「……俺が行くよりも、お前と二乃のどっちかが行った方が、流石のあいつも無碍には扱わないと思ってな。ほら、あいつが夢中になったら、なぁ?」
「あぁ……なるほど…」
(本当は二乃のことを気遣ってのことなんだが、本人たちが秘密にしたがってるのに、俺から言う訳にもいかないしな…まぁ、姉妹半分にはバレてるんだが…)
翔太の言葉に、以前泊りでお世話になった際、フィリップの知識披露の被害者になった五月は思わず納得してしまい、微妙な笑みを浮かべていた。尤も、翔太自身は誤魔化すためにそう言ったのだが、一番ダブルとしての付き合いが長い五月は逆に納得してしまっていた。
「そうですよね…てっきり二乃がフィリップさんのことを好きだから、佐桐君が気を遣ったのかと思いましたよ…!」
「…そ、そんなわけがないだろう…!?(…本当は気付いてるんじゃないだろうな、こいつ!?)」
いきなりの核心を突いたかのような五月の言葉に、内心ツッコミを入れる翔太。そんな話題から、五月は真面目な顔をして、話を変えた。
「それとは別なんですが…さっき照井君と家の前ですれ違いました」
「…そうか」
「……彼が…佐桐君が言っていた、新しい仮面ライダーなんですね?」
「はぁ…やっぱり気が付くか」
「それは……そうですよ。いきなり学校からいなくなったりしたら…事情を知っている私たちからすれば、どんなに馬鹿でも察しがつきますよ…というか、そのせいでまたしても質問攻めに遭いましたからね。一花なんて、クラスの男子生徒全員に詰め寄られてましたから…」
「お、おう…(一花の奴…照井に何したんだ?)」
照井と一花のやりとりを知らない翔太は、そのことに疑問を覚えつつも、今日の出来事を思い出してどこか疲れた表情を浮かべる五月に少し同情していた。
「まぁ、俺たちの正体と同じように秘密で頼むわ。あいつ自身がどう考えているのか聞き損ねたから、はっきりするまではあまり言いふらさない様にしてくれ」
「分かってます…でも、驚きですね。転校生の彼が仮面ライダーだなんて…あれ?でも、佐桐君と一花は彼を知っているみたいでしたよね?」
「ああ…期末テスト期間の時にちょっとな…それで、俺たちと一花は照井と面識があったんだ。といっても、仮面ライダーだとは知らなかったけどな」
照井が転校してきた始業式の日のことを思い出した五月の疑問に、苦笑いしながら答える翔太。まさか、あの時はこうなるとは思っておらず、肩を竦めていた。
「でも、本当に良かったです。お二人とも無事で…」
「心配かけて悪かったな…まぁ、今回は照井がいなかったら、本当にヤバかったとは思う。そういう意味では…マジで助けられちまったからな」
「そこまでですか…佐桐君がそこまで言うなんて、どんな敵だったんですか?」
「そうだな……お前みたいに何でも食べるドーパントだったな…」
「…(プチィ!)」
「あっ…」
思わず思ったことそのままを口にしてしまった翔太だったが、眼前の少女が笑いながらキレる音が聞こえ、失言に気付くも完全に手遅れだった。
「…佐桐君…どういうことか、ゆ~っくりとお話を伺わせ貰いましょうか?誰が、どのように、どう化け物だって言いたいんですか?」
「………(しまった…)」
またしても機嫌を悪化させてしまい、翔太は冷や汗を掻いていた。
そのまま行われた五月の尋問に、翔太は正直に答えていくことしかできず、機嫌を直すために今度何かを奢ることになってしまうのだった。
そして…
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…良かったら、手伝おうか?」
「…俺に質問をするな」
翌日
放課後の教室…そこには黙々と何かを書き続ける照井の姿があった。そんな彼に気楽に声を掛ける人物…一花の言葉に、彼女を一瞥してから照井はお決まりの言葉と共に断った。
「でも、私のせいでもあるわけだし…ちょっとは罪悪感があるというか…」
「別にこの程度、お前に手伝ってもらう必要はない。反省文10枚くらいなど…もう終わりが見えているしな…」
どこかバツの悪そうな表情をする一花だったが、今度は視線を上げることなく、照井はシャーペンを動かしていく。彼の言う通り、その筆は9ページ目の終わりへと差し掛かっていた。
反省文…事前に学校を休むことを担任に伝えていた翔太と違い、昼休みに無断で飛び出した照井は、事件の翌日…登校直後に担任から呼び出しを受け、説教と併せて反省文の提出を課されたのだ。
まぁ、ただでさえアブソーブ・ドーパントの一件で敏感になっていた学校側としては、いきなり生徒がいなくなることは到底容認できたものではなく、照井自身も致し方ないことだと思い、それを受け入れた。一方で、照井を唆したに近い一花自身もそのことに罪悪感を抱いていた訳である。
「嘘ぉ…!うわぁ、本当だ…さっき書き始めたばかりずじゃなかったの…?」
「…俺に構っている暇があるのか?意外に女優というのは暇なのか?」
「むぅ…別に暇ってわけじゃないよ。ただ、今日の撮影は夜からだったから、ちょっと時間があったんだよ。まぁ、その調子なら手伝わなくても良さそうだね。じゃ、行くね…?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
照井の言葉にムッとしつつも、撮影までの時間を勉強に回せると思った一花は図書室にでも行こうかと思い、教室を出ようとした。その姿を目で追うことはせず、照井がシャーペンを動かし続けていたが、
「(あれ…?)…ねぇ…私が、女優だってこと…君に話したっけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
教室を出る直前、先程の照井の言葉を思い出した一花がそう言葉を掛けた…そして、初めて照井が動かしていたシャーペンの筆先が止まった。
「…以前にお前が出ていた映画を見た…それが記憶にあっただけだ」
「そっか…でも、私、まだちょっとした役しか出てないと思うんだけど…」
「真っ先に殺された役だったからな…偶然覚えていただけだ…」
「ふ~ん……でも、嬉しいな。そっちの私も知ってくれてるなんて…ありがとね!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
会話は終わりだといわんばかりに、再びシャーペンを動かし始めた照井の姿に、今度こそ教室を去ろうとした一花。その背中に、
「じゃあな…中野長女…」
「…またね、照井君」
微かに、しかし、はっきり聞こえてきた別れの挨拶に、一花も手を振って応え、今度こそ教室を後にした。その姿が見えなくなり、照井は一花が去って行った方向へと視線を向けていた。
「……ふぅ」
そのため息はどこか安堵が混じったような、それとも、どこか疲れたような声色が混じったものだった。そして、照井の前には書き上げた反省文があった。
フィリップと二乃がイチャついたり、いつも通りに翔太と五月が喧嘩したり、一花のことを照井が『中野長女』と呼ぶことにしたりなど…そんなエピローグでした。
そういうわけで、次回は宣言したように原作交えつつのオリジナル回になります。少しだけ、あらすじを紹介致しますと、
慌ただしい新学期を迎え、それぞれの距離感を詰めていく風太郎と五つ子たち、そしてダブルとアクセル…そんな中、マルオから家庭教師交代の案が上がり、家庭教師たちに試練が訪れる!?
更には、一花に対しての脅迫事件までもが起こり、様々な事情から家庭教師の方のサポートを翔太が、一花の仕事に関しての護衛をフィリップと…なんと、照井が務めることになり…!
迫る模擬試験とドーパントたちの魔の手…それらを彼らは乗り越えることができるのか…!?
次回 『テレビ局に潜むE/三玖の初バイト』 これで決まりだ!
そんなわけで、次章も結構長くなります(笑)是非ご期待頂ければと思います!ちなみに、次週はお休みです、すみません!?
それでは!