仮面ライダーW/Kの花嫁   作:wing//

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ようやく落ち着いたので、前書きという名の後書き(…どういうこっちゃ?)

思った以上に残業が早く終わりましたので、移動+帰宅して速攻で書き上げました…半分も終わってなかったのに、書き上げられたのは奇跡です(笑)

さてと…描写変えての前日譚です。
ひさびさの日常回とも、イチャイチャ回とも言えるお話です。

それではどうぞ!

P.S. 最近気になってた『ホリミヤ』のアニメをようやく一気見しました…とりあえず、漫画全巻今度の休み、買いに行こうと思うぐらいハマりました(笑)!


⑭テレビ局に潜むE
第72話 「テレビ局に潜むE/三玖の初バイト」


「ねぇ…ショータ君の今欲しいものって何なの?」

「…いきなりどうした?」

 

アブソーブ・ドーパントの一件から数日後…

 

バイトのシフトが入ってしまった風太郎に代わり、五つ子たちの家庭教師を務めていた翔太だったが、五つ子全員が揃った勉強会を終えたところで、一花から唐突にそんなことを尋ねられ、怪訝そうな顔をしていた。

 

「うーん……街の平和?」

「いやいやいや!…願い事の規模が大きすぎますよ!?」

「なら、新しいバイク…この前、消し飛んだから」

「もうちょっと庶民的な意見が欲しい」

「…どこぞの大食いが来た時用に、大量に炊ける炊飯器」

「そうですか…喧嘩を売っているのですね?いいでしょう、買ってやりますよ!?」

 

ダブルとしての視点で意見を述べる翔太…とんでもない規模の願いごとに四葉が絶叫し、方向性を修正してほしいと三玖が伝えると、以前の家出騒動の時のことを思い出し、そんなことを言ってしまい、五月が右拳を震わせながら青筋を額に浮かべていた。

 

「まぁ、冗談は置いておいて…新しい探偵服と帽子かな。ジェノサイドとの一件で一着ダメになっちまったからな…」

「あー…あの服ね。そういえば、あのデザインって、もしかしたらと思ってたんだけど…『WIND SCALE』じゃないの?」

「おっ、流石は二乃。やっぱり知ってたか…そうだぜ。昔は知る人ぞ知る隠れブランドだったんだが、今や日本を代表する大手ブランドだからな」

「そうそう!模様だけじゃなく、デザインや曲線美によって、風を表わすその挑戦的な作品の数々は男性にも女性にも人気があるのよ!ちょっと値段が高いけど、学生でも手が出せないっていうわけじゃないから……って、そうじゃないわよ!?」

「ノリノリだったのに、遠慮なくぶった切るなよ…」

 

自分の好きなブランドを二乃が知っていたことに、互いにテンションが上がる二人。そのまま談義に花を咲かせようとしたところで、二乃が我に返り、流れを断ち切った。先程から五つ子たちの言いたいことが分からず、翔太は首を傾げてしまう。

 

「えーっとね…お恥ずかしい話が、一般的な男の子はどういったものが欲しいのかと思って聞いたんだ」

「…?そんなの一花の方が色々知ってるもんじゃないのか?というか、俺に聞くよりもスマホとかで調べた方がいいんじゃねーか?」

「それはもうした…けど、ショータに聞く方がいいと思った」

「…なんで、俺なんだ?男子なら上杉もそうだろうが…まぁ、あいつの場合、もっと頭が良くなれるような何かとでも答えそうだが…」

「残念ながらハズレです、佐桐さん!正解は、お金持ちになりたいだそうです!」

「それと、体力の向上、寝つきを良くしての疲労回復、運気アップ…だそうです」

「…堅実すぎないか、あいつ…」

「珍しく同意見よ、佐桐」

 

半笑いの一花に、更に疑問符を浮かべる翔太。三玖の言動もイマイチ理解できずに風太郎を例に出すも、事前に聞いていたようで四葉と五月がそれぞれ苦笑と呆れた表情で、彼の回答を答えていく。

 

あまりにも夢がなさすぎる風太郎の意見に、翔太と二乃も呆れてしまっていた。それでも、話の本筋が未だに見えない翔太は彼女たちに切り込むことにした。

 

「…というか、話を元に戻すが…結局、お前らは何が知りたいんだ?」

「…フータロー君の…(ボソボソ)…」

「はぁ…?すまん、声が小さくて聞き取れなかったんだが…」

「その……誕・・プレ・・ト…」

「いや、普段以上に声量を小さくするなよ、三玖!?」

「もう!二人とも、佐桐さんが困ってるじゃん!すみません、佐桐さん…実は…」

 

深い質問をしていくが、それを言葉にしようとして、照れた一花と三玖の声量が小さくなる。三玖に至っては普段以上なのだから、翔太が思わずツッコミを入れてしまう程だ。そんな二人に代わり、四葉が伝えた質問の目的とは…

 

「上杉の誕生日プレゼントのことかよ…最初からそう言ってくれよ?」

「一花…あんたがあんな曖昧な質問をするからよ…長女の私が話を切り出すと言っておいて、あの様は何よ!」

「まぁまぁ…それでどうでしょうか?佐桐君は、上杉君の欲しがってる物とか、何か良い誕生日プレゼントはあったりするでしょうか?」

「と言われても…多少仲良いとは思うけど、そこまで踏み込んだ話をしたことなんてないからな。今、思ったら、あいつの家にも行ったことないな…」

「…使えないわね」

「面目ない」

 

五月にそう尋ねられるも、翔太自身もそこまで風太郎のことを知っているとは言えず、降参の意を示す様に両手を上げてしまった…二乃の暴言にも反論することなく、素直に謝る。

 

(…上杉の欲しいものね…出会った当初のあいつなら『どうでもいい』とか言いそうだが…今のあいつの望むものは…多分こいつらの成績が上がるための何か、とでも言うのかもな)

 

アテが外れた五つ子たちはどうするかと会議を始めてしまったが、そんな光景を見ながら翔太はそんなことを思っていた。風太郎も五つ子たちも出会った当初とは変わったよなと感慨深くなり、笑みが零れていた。

 

「まぁ、まだ時間はあるんだよな?だったら、明日辺りにでもさり気無く俺からも聞いてみるさ。ここは探偵の俺に任せとけ」

「ショータが探偵らしいところを見たことがないから、イマイチ信頼できないんだけど…」

「三玖…やる前から心が折れるようなことを言わないでくれ」

「佐桐さん!心理テストでは、上杉さんに効果ありませんからね!」

「やったな…それをやったんだな、お前ら!?妙に情報持ってるなと思ったら、そういうことかよ!?」

 

ジト目を向けられ、三玖に抗議する翔太。そんな彼にアドバイスを送る四葉だったが、風太郎の堅実な願いをどうやって彼女たちが知ったのかを察した翔太の絶叫がアパートに響き渡った。

 

 

 

「俺の欲しい物…?」

 

翌日

昼休み、廊下を歩きながら、翔太は昨日五つ子たちに聞かれたことを、早速風太郎へと尋ねていた。怪訝そうな顔をして答える風太郎に、苦笑いしながら翔太は次の言葉を放つ。

 

「ああ。実は知り合いの女子大生の先輩たちに、今どきの高校生男子がどんなものをプレゼントとして受け取るのが嬉しいか、聞いてきてほしいって頼まれちまってな。とりあえず、手当たり次第に聞いてるんだ」

「三玖にも似たようなことを聞かれたぞ…魔法のランプで願い事を叶えられるとかなんとか…そういうのが流行ってるのか?」

「あー、女子はそういうのに敏感なんだろう?まぁ、俺を助けると思って、答えてくれないか?何でももらえると言ったら、どういったものがいいんだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

半分真実半分嘘の言い訳をスラスラと語る翔太の言葉に、風太郎は足を止めて考え込んでしまった。そこまで悩むものなのかと半笑いしつつ、翔太は…背後の少し離れた位置から見ている五月と二乃の存在を確認していた。

 

翔太がイマイチ信用できないという三玖の意見も一理あると判断した五つ子たちは、二乃と五月を見張りにつけた訳である。

 

「………そうだ、あった…!商品券!」

「し、商品券…!?」((商品券!?))

 

まさかの回答が風太郎の口から飛び出し、翔太の叫びと二人の心の声が見事にシンクロした!

 

「お、お前!?換金できるとか、好きな物を買えるとか…!確かに現実的かつ堅実的な物ではあるが、それは違うだろうがぁ!?もっと具体的にこれが欲しいとか、こういった目的のために欲しい物とか、普通はそういうもんだろうがぁぁぁ!!」

「ど、どうした、佐桐!?そこまで言われること言ったか…!」

「人の気持ちの問題だって言ってんだよ!?どうして商品券なのか、俺が納得できる理由を言ってみやがれ、この野郎!?」

「…いや…商品券とかだったら、らいはの欲しい物も買ってやれるかなと思って…駄目だっ…佐桐?!どうした!なんで地面によつんばいになってるんだぁ!?」

「ゴメン、上杉……俺が悪かった…お前の妹を愛している気持ちを完全に失念してた…頭でも何でも踏んでくれていいから…」

「マジでどうした!?俺、そこまでヤバいことを言ったのか!?」

 

感情任せに怒号を飛ばした翔太だったが、風太郎の告げた理由に地面に肘をついた。先程までの自分を全力で殴り飛ばしたいと後悔の念に駆られた翔太の要求に、今度は風太郎が悲鳴を上げる番だった。

 

「廊下で何をしているんだ、お前らは…」

「照井…気にしないでくれ…自分のハーフボイルドぶりに死にたくなってるだけだから」

「…こいつ、大丈夫か?」

「俺に聞かないでくれ…佐桐に用か?」

 

未だに地面から立ち上がれないでいた翔太の反応に、照井は本気で心配…いや、半分軽蔑の混じった視線と共に風太郎に尋ねるが、自分に話を振らないでくれと思いながら、照井が自分たちの元へと来た理由を尋ねる。

 

「いや、お前に用事だ。担任がお前を探していたぞ…えっと…」

「…上杉風太郎だ。一応、クラス委員長だから、覚えておいてくれよ」

「すまない…そういえば、こうして話すのは初めてか…照井竜だ」

「いや、知ってる……この前、色々と酷い目に逢ったからな」

「…???」

 

照井失踪事件でのクラスメイトからの質問攻めのことを思い出し、苦い表情を作る。そんなことがあったとは知る由のない照井は風太郎の表情の意味が分からず、眉を顰めていた。

 

「というか、どうして蝶々娘とアホ毛娘があんな離れたところから、こっちを見ているんだ?」

「はぁ…?蝶々娘とアホ毛娘って、誰の……お前、馬鹿かぁ!?」

 

ようやく精神的なダメージから立ち直れた翔太が会話に加わろうとして…照井の放った言葉に誰のことを指しているのかと視線を辿り、思わず絶叫する。もちろん照井の呼び方は届いており、

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「ちょ…!お前、もっと別の呼び方があるだろうがぁ!?どんなセンスしてたら、そんな呼び方になるんだよ!」

 

背後からとてつもない怒りの視線が注がれ、照井に呼び方の修正を求める翔太。しかし、照井は悪気はないという顔をし、そのまま風太郎を指さしたかと思えば、

 

「昨日、女子生徒に似た者姉妹の見分け方を聞かれていた時、

『面倒なら身に着けてるアイテムだけ覚えろ』

と、こいつが言っていたのを参考にしたんだが…」

「う・え・す・ぎィィィィィィィィ!!」

「…確かに言ったな」

「あと、ヘッドホン娘にこれを渡しておいてくれ…と、お前を探しに行く時にクラスメイトに頼まれたから、渡しておく」

「照井まで俺にそういうことを押し付けてくるのかよぉ!?」

 

五月と二乃の殺意の籠った視線を作り出した風太郎に、翔太の怒りが大爆発する横で、クールに三玖への渡し物を風太郎に手渡す照井…あまりに混沌な空気に風太郎の悲鳴が木霊するのだった。

 

 

 

「おっ…今日からだったか」

「うん…一応基礎は店長さんから教わったから…」

 

時間は流れ、放課後…バイトの制服に着替え終わり、最後の確認を行っていた三玖。そこに、今日届いた卵が入った箱を運んできた風太郎がやってきた。三玖が今日からシフトに入ることを忘れていた風太郎に、三玖は静かに答える。

 

「どうかな…?変じゃないかな?」

「……特段おかしなところはないと思うぞ?三玖にしては、珍しく髪を上げているから、 印象が変わってるが、悪くないんじゃないか」

「ほ、本当…!そっか……エヘヘ」

「笑ってるところ悪いが、そろそろ時間だろう?まぁ、分からないことがあったら、何でも聞いてくれ」

「…珍しい…フータローが優しい…」

 

荷物を置き、時計を見た風太郎はそろそろホールへと出るべきだと三玖に声を掛ける。もうそんな時間かと思い、三玖も準備するが、普段の風太郎からは考えられない言葉が出てきて、三玖は目を丸くしていた。

 

「ククク…お嬢様生活をしていたお前にこのバイトがちゃんと務まるかな?仕事の…社会の厳しさを思い知るがいい!」

「…前言撤回…フータローはフータローだった」

 

意味深な言葉を放つ風太郎に、先程の感動を返してほしいと思いながら、三玖は風太郎の後に続き、ホールへと向かった。

 

「い、いらっしゃいませ…2名様でよろしいですか?」

 

「…ご注文を承りました。少々お待ちください」

 

「こちら、お持ち帰りのケーキです……あ、ありがとうございました…!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「上杉君…そんな影からこっそり見てると、お客様に不審がられるから、止めて欲しいんだが…」

「す、すみません…」

 

少したどたどしくはあったが、初日にしては上手く接客をこなしていく三玖。そんな三玖が心配でか、時折様子を伺う風太郎だったが、その行動が怪しすぎて店長からクレームが入っていた。

 

「それにしても、意外だったね」

「…そうですか?俺だって、知り合いが同じ職場にいたら少しは気にしますよ?」

「君のことなんかどうでもいい…僕が感心しているのは、彼女だよ。研修の時は、少し大人しすぎるかなと思っていたが…僕の懸念だったようだ」

「…そう、ですね」

「ああ…大人しい雰囲気の中、時折見せるあの笑顔…イケる!僕の選択に間違いはなかった…これで向かいのパン屋にギャッフンと言わせられる!!」

「………(すげぇなと思ったけど、これを見習うべきかどうかはちょっと迷ってきたな)」

 

三玖の接客態度を褒める店長の言葉に、バレない様に笑みを零す風太郎…次のハングリー精神発言に顔を顰めたことは言うまでもないだろう。

 

「フータロー…ちょっといい?」

「っ…どうした?」

「ハンディが動かなくなちゃった…もしかしたら、壊したかも…」

「…見せてみろ……ああ、バッテリーが切れたんだな。安心しろ、故障じゃない。多分、使っていたのが充電切れ寸前だったんだろう」

「良かった…」

 

店長の会話に夢中になっていた風太郎は、三玖が近くに来ていたことに気付くのが遅れた。不安そうな表情をする彼女に何があったのかと思っていたが、すぐに原因が分かり、ハンディの充電パーツを入れ替えていく。

 

「中野さん、スムーズに接客できているね。これなら、今日はなんとか乗り切れそうだよ」

「いえ…店長さんの教え方が上手かったから…」

「そういえば、今日って何かあるんですか?三玖まで呼んで、バイトメンバー総動員って珍しいですよね?団体の予約でもありましたっけ?」

「…いいや…たった一人だ」

「「…?」」

 

戻って来た風太郎が、バイトメンバー総動員で稼働している理由を店長に尋ねると、真剣な空気を纏ったまま、店長はその訳を話し始めた。その異様な空気に二人だけでなく、手の空いていたバイトメンバーも話へと耳を傾けていた。

 

「…『M・A・Y』…この界隈では知る人ぞ知る有名レビュワーだ。素顔は誰にも晒さず、正体も知らない…しかし、口コミサイトに星を付けた分だけ客が倍増すると言われている程にその評価は的確なんだ。

ブログにて、写真と顔を晒す超絶ブロガーで知られるあの『ウォッチャマン』さんまでもが注目し、その存在をライバル視しつつあると言われる程の存在なんだ!

そのM・A・Yさんが度々この店にも訪れれているらしく、その度に危機からこの店を救ってくれた救世主だ。そんな人が、今夜初めて予約を入れてくれたんんだ…失敗は許されない…この春の新作を御所望だ!目指せ☆5!!」

「「「「おおーーー!!」」」

「…おー…」

「いや、乗らなくていいぞ、三玖…それにしても、有名ブロガーね…(…あれ、待てよ…ウォッチャマンって確か…一花が撮影に来た時に、佐桐と一緒に見学していたあの人じゃ…?)」

 

店長の妙に気合の入った空気が店内に伝わり、店員たちも盛り上がる。それに遅れて、気合の声を上げる三玖に、風太郎が無理するなと諫めながら、聞き覚えのある名前に心当たりを覚えていた…そして、それは正解であった。

 

 

 

「つ、疲れた~~……」

 

そんな気合に呑まれ、必死に働いていく店員たち…その空気についていこうと頑張った三玖だったが、彼女は今日がバイト初日である…しかも、五つ子の中でも最も体力のない彼女が、慣れない接客業を気合を入れて行えばどうなるか…

 

ようやく休憩へと入った三玖は、休憩室の机に突っ伏していた…いつもの眠そうな表情がさらにグデッとなっている程、三玖は疲れていた。しかし、まだお目当ての『M・A・Y』なる人物は来ておらず、バイトもまだ終わってはいない。

 

バイト前の言われた風太郎の言葉が脳裏に蘇り、三玖は覚悟が足りていなかったことを自覚していた。

 

(みんな、すごいな…私よりも色々やっているのに、全然疲れた様子がなかった。私なんて、最後の方とか笑顔ができていたかどうかも分からないのに…)

 

机のひんやりした冷たさがとても気持ちよく感じ、顔を上げることができない三玖はそんなことを思っていた。

 

(フータローも…家庭教師や自分の勉強だってある筈なのに…本当に凄い…それなのに、私は…)

 

『誕生日プレゼントのこと、今日のバイトの時に探ってみる…!』

 

バイト前、翔太もあまり当てにできないと悟った三玖は、他の姉妹たちにそう宣言して、バイトに来ていた。

 

もしかすれば、少しは風太郎との距離感を詰めることもできるかも…という乙女心の野心もあったが、今の三玖はそれどころではなかった。ちょっと働いただけで疲れ切ってしまっている自分を情けないと思っていたのだが…

 

「お疲れだな」

「っ…フー、冷たぁ…!?」

 

とても聞き覚えのある声が聞こえ、顔を上げようとした三玖の頬に冷たいものが当たった。それが、風太郎が当てた缶ジュースだと気付き、驚く三玖。

 

「俺も休憩もらったんだ…飲めよ。疲れた時には甘い物が一番って言うだろう?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「…どうした?もしかして、嫌いな味だったか?」

「抹茶オレが良かった」

「我儘言うな…洋菓子専門のこの店に置いてるわけがないだろうが」

 

いつもの通りの我を通す三玖の意見を一刀両断し、自身の缶ジュースを開けて一口飲む風太郎。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「…はぁ……お前はよくやってるよ」

「えっ…?」

 

浮かない表情をする三玖の見かね、風太郎の口からそんな言葉が出た。その言葉の真意が汲み取れず、思わず三玖が言葉を漏らす。

 

「バイトメンバー総動員でこんなに忙しいのは珍しいんだよ。そんな中、バイト初日だっていうのに、よく動いている方だと思うぞ?他の店員たちからの評判も良いから、気にすることないぞ」

「…でも…みんな、もっと動いているのに、全然疲れてない…わたしはもうヘトヘトなのに…」

「…ちょっと待ってろ」

 

未だに表情が晴れない三玖の様子に、風太郎は席を立ち、部屋を出て行った…かと思えば、すぐに何かを持って戻ってきて…

 

「これ見てみろよ…でも、あんまりじっくりは見るなよ」

「…これは?」

「クリスマスの時に本当は百個のところを、俺が間違えて千個注文しちまったサンタの飾りだ。向こう十年は追加注文なしでこれでやっていける」

「う、うん…」

「あと、ここの机の傷…俺が一人で転んだときにできたやつな」

「そ、そうなんだ…えっと?」

「客のテーブルに注文とは別のケーキを運んだり、割った皿の枚数はもう数えきれねぇ…ミスなんてもう覚えきれないぐらいしてきたさ…」

「…な、何言ってるの、フータロー…?」

「あー…だから…初日の癖に気にし過ぎだって言ってんだ…お前なんか、俺なんかよりずっとまともだって言ってんだ…その……」

「…もしかして、励ましてくれてる…?」

「い、一応先輩だからな…後輩が気にしてたら、思うところがあって…」

「フフッ…アハハハハハ!」

「わ、笑うなよ!?」

 

不器用ながら自身のために動いてくれた風太郎に、ようやく三玖の表情に笑顔が戻る。

 

「…ありがとう…フータロー」

「…ほら。そろそろ休憩時間も終わりに…」

「上杉君!中野さん!すぐにホールに戻ってくれ!」

「「…えっ!?」」

 

お礼を言われ、照れる風太郎は前髪を弄りながら、バイトに戻ろうとしたが、その前に休憩室に飛び込んできた店長の声に驚く二人。

 

「来たんだ…!彼女が来たんだ……M・A・Yさんがいらっしゃったんだ!」

「「っ…!?」」

 

遂にその時が来た…そう思い、二人は生唾を呑み込み、ホールへと向かう。あの店長がそこまで言うM・A・Yなる人物とは一体…覚悟を決め、ホールへと入った二人が見た者とは…

 

「…ねぇ、フータロー…気のせいかな?私、あの二人組見たことがあるんだけど…」

「奇遇だな、三玖…俺もとても既視感があるわ」

 

店員たちが、誰がM・A・Yの注文を取りに行くか相談し合っている中、風太郎と三玖は信じられない光景に苦笑いしていた。

 

賑わう店内の一角…店員から見れば、3番テーブルと呼ばれている席に彼女と…その付き添いの人物がいたのだが…

 

「おい、いつ……コホン…M・A・Y。お前、いつもそんな恰好をして、色々な料理屋に行っているのか?ウォッチャマンから、M・A・Yの画像が回ってきた時は本当に驚いたんだからな」

「だ、だって…バレたら恥ずかしいじゃないですか!?それに、こういう恰好がM・A・Yのものだと認識が深まれば、逆に助かりますし…今のさぎ…コホン…風都君の恰好と同じですよ?」

「ちょっと待て…!お前の変装と俺の探偵服を一緒にされるのは心外なんだが…!そこは否定させてもらうぞ!」

「…ともかく!今日は風都君の奢りなんですからね!楽しみです!ここのケーキ、前に食べた時から全種類制覇したいと思っていたんです」

「へいへい……おい、今なんて言った!?全種類制覇…!マジで言ってんのか?!」

 

そこには特徴的なアホ毛を揺らすサングラスとマスクをした赤毛の少女と、『WIND SCALE』デザインの紺色の探偵服を着た栗毛が特徴の少年が会話している光景が見えた。

 

普段からよく見るその二人組に…風太郎と三玖がその正体に気付かないわけもなく…

 

「「フフッ…フフフフフ!!」」

 

まさかの人物が正体だったことに、風太郎と三玖から笑みが零れる。

 

「私、M・A・Yさんの注文取ってきますね…」

「えっ…すげぇな、中野さん」「あれで初日なんでしょ…勇気あるな」

 

率先して、M・A・Yたちの注文を取りに行った三玖の姿に店員たちから驚きの声が漏れる。そんな声に囲まれながら、三玖は一瞬風太郎の方を向いたと思えば、

 

『頑張るね』

「…おう」

 

そう言ったように見えた口の動きに、風太郎は笑みを浮かべて三玖を送り出した。

 

「注文をお伺いしますね…M・A・Yさん、仮面ライダーさん?」

「み、三玖…!?今日シフトに入っていたのですか?!」

「あー……アハハハ…」

 

三玖が注文を取りにきたことに驚く五月…まさかの知り合いがいたことに、翔太は諦めの笑みを浮かべていた。

 

「では…メニューの端から端までのケーキ全部お願いします!」

「マジで言ってるのか、お前!?」「正気、五月…?」

 

(し、翔ちゃん…!?まさか、M・A・Yちゃんと知り合いだったとは…!これはじっくりと話を伺わないといけないみたいだね!)

 

爆弾注文をする五月に、翔太が絶叫し、三玖が呆れている光景を…こっそりと来店していたウォッチャマンが見ていたことを、彼らは知らないでいた。

 




さり気無くウォッチャマン登場…本章は風都イレギュラーズがもう少し出てきます(笑)

風太郎と三玖の回だったのですが、意外にも翔太と五月も登場です。前話の奢りの話は今回の為の布石でございました。

そして、照井のまさかの呼び方…その元凶は風太郎でした(笑)
ちなみに四葉の呼び方は『緑リボン娘』です…後々ちょっと改善されるので、五つ子フォンのみなさん、なんかすいません…今の照井だと、そういう呼び方しても違和感ないなと思っての暴挙です。

次回がちょっとどっちを書こうか迷っているのですが、武田との勝負の一件か、一花からの依頼の件か…どちらにしろ、本題に入るお話を書く予定ではありますので、お楽しみに…

それでは!
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