ライダーパート終わったので、ごじょじょ原作へとお話は戻ります!
といっても、前半はエピローグだったりするのですが…そして、翔太がまた大変な目に逢うと(笑)
それでは、どうぞ!
「昨日の緊急の特番見たか!?」
「見た見た!怪物と謎のヒーローが闘ってるやつでしょ?!」
「仮面ライダーってやつだよな!実在したんだな!」
「…うわぁ。凄い噂になってるね…」
ライダーたちがテレビ局で激闘を繰り広げた翌日…登校の最中、校舎は噂話で盛り上がりまくっていた。
話題はもちろん生中継によってお茶の間にその姿を映すことになったダブルとアクセルに関してだった。
予想はしていたものの、こうして耳にすることで改めて自分たちの知り合い…というか、友人とも言える面々がとんでもない人物なのだと実感した四葉が姉妹たちにだけ聞こえる声で話し掛けた。
「当然。正体を初めて知った私たちもそうだった」
「これで正体が佐桐君たちだって知られたらと思うと大変ですね。まぁ、一花はそれを今、味わっているわけなんですが…」
教室に向かう最中、冷静に周囲を見渡しながら答える三玖に対し、早朝に帰ってきた一花の疲弊具合を思い出した五月が苦笑いしていた。
『…流石に徹夜での取材からの事情聴取のコンボは鬼だよぉぉ…!?』
生中継の最中、堂々と仮面ライダーに呼び掛けてしまったことが仇となり、マスコミから取材の嵐を受けた直後に、刃野から事件のことを含めた事情聴取に巻き込まれた一花は、その一言を残して布団へと轟沈したのだ。
なので、何があったのかを姉妹たちも聞くことができなかったわけで…
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「もう…二乃。いつまで気にしているんですか?」
「別に…!一花の奴、いつの間にボディガードなんて依頼を頼んでいたのよ」
先頭を行く足取りが機嫌の悪さをこれでもかと表す二乃に、五月は困った様に言葉を掛ける。口では否定しつつも、その口調はかなり機嫌が悪い事を表していた。
一花が黙って翔太たちに依頼を出していたことを……ではない!
自分の知らないところで、一花がフィリップのボディガードを受けていたことに対して、嫉妬していたことで機嫌が悪かったのだ!
(そりゃまぁ…それがフィリップ君の仕事だとは分かってるけど……一花のことだから、私たちに心配を掛けまいと思ってのことなんだろうけど…それとこれとは別よ!?)
…結論としては羨ましかったわけだ。まぁ、一花の事情も理解できるため、その鬱憤を姉に当てるわけもいかず…ならば、もう一人の当事者に『話を聞く』という体で当ててやろうと、二乃は教室へと向かっていた。
なんとなく二乃の心情を察している三玖はやれやれといった感じで、一方でその事情を知らない四葉と五月はため息が零れていた。まぁ、詳しい話を聞きたいという思いは三人も一緒だったので、二乃についていく形で歩いていた。
「佐桐!?話を……えっ…?」
教室に着いた途端、その人物が座っている席へと向かおうとした二乃だが、その言葉が不自然に止まった。どうしたのかと背後から顔を覗かせた五月たちが見たのは…
「…ぐううぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
机に突っ伏して爆睡する佐桐翔太の姿だった。
寝ている姿を一切隠すことのないその姿に、流石の二乃も一瞬言葉を失ったのだ。流石に起こすのは申し訳ないという罪悪感が…
「…はっ!ちょ、起きなさい、佐桐!?」
「「「二乃!?」」
他の三人にはあっても、二乃にはなかった。我を取り戻した途端に、容赦なくその身体を揺すって起こし始めた姉の凶行に、妹たちの声が重なる。
「むぐぅ…!…あー、にのかぁ……悪い、あと5分でいいからねかせてくれぇ…昨日から一睡もしてなくてやべぇんだよぉぉ…」
「話を聞かせてくれたら好きなだけ寝させてあげるわよ!」
「…ああ、五月たちもいたのか……おやすみぃ…」
「自然に寝に入ろうとしないでください、佐桐君!?」
珍しく弱弱しい姿に、翔太が疲れ切っているのが分かった面々だが、二乃は待つつもりはなかったらしい。
これは話すしかないかと思い、眠気をなんとか振り切った翔太は一度伸びをしてから答え始めた。
「まぁ、簡単に説明するのなら…一花に脅迫状が届いていて、その真偽を見極めるのもあって、フィリップと俺と照井でボディガードをして、昨日の生中継はその最終局面だったわけだ。
その後、照井が酷い怪我だったから……その…お前らのとこの親父さんの病院に連れていったんだよ……はぁぁ…」
「えっ!?お父さんのところに言ってたんですか!」
まさか、自分の父が話に出てくるとは思ってなかった面々は大いに驚き、代表して五月が叫んでいた。
「経緯はどうあれ…親父さんは俺たちの正体を知ってるからな。で、流石に大怪我をしている照井を一般の病院に運ぶわけにもいかないし、駄目もとで連絡して頼んだんだよ……滅茶苦茶文句を言われたけどな…」
『夜遅くに急患を頼みたいと聞いて駆けつけてみれば、血まみれの少年を連れてくるとはいい度胸じゃないか、佐桐君。こんなことを親子そろってやられるとは…僕も年を取ったと感じずにはいられないよ。それと、あんな大胆な闘いをして…どうやら一花君もすぐ近くにいたみたいじゃないか?まさかとは思うが、彼女を危険な目にあわせたりしていないだろうね?』
出会い頭に容赦のない言葉のナックルが差し向けられ、文句を言いつつも照井の治療に当たってくれたマルオだが、その後もお説教…という名の尋問が院長室で夜通し繰り広げられたわけで、翔太は一睡もできなかったのだ。
…もっとも、マルオの心境としては、翔太のことを信頼しているからこその関与であり、彼なりの心配してのお説教でもあったわけだが…まぁ、言葉足らずなため、そのやり方はいわずもがなというわけで…
「…今、思い出しただけでも面倒くせぇぐらいに面倒だったぜ…」
「ショータ、言語が死んでる」
「うわぁ…お父さん、なんて言うか圧がありますもんね。そうだ…照井さんが怪我をしたって…大丈夫なんですか?」
「前の俺よりはまだマシらしいけど、ここ二、三日は絶対安静だってさ。というか、あんな状態で闘うどころか、動くことができるのも不思議なレベルだって…お前らの親父さんが言ってたな」
四葉が照井の容体を心配し、自分の知る範囲での情報を伝える翔太。あの時のマルオの『彼は本当に人間かい?』という訝しんでいる目を翔太は忘れることができそうになかった。
同時に、照井がアクセルであることもそれとなく知られているんだろうなと思いつつ、黙って治療をしてくれたマルオに感謝していた翔太は意識を現実へと戻した。
「簡単な話としてはそんな感じだ。まぁ、万事解決したってことで…詳しい話はまた家庭教師の時の合間にとかで…「きゃあああああああああ!?」…っ!何だ!?」
話を終え、一刻も早く眠りの世界へと戻りたかった翔太は話を打ち切ろうとした時、女子生徒の悲鳴が響き、翔太の意識が戦士のものへと変わった!どうしたのかと、悲鳴の発生源であるそちらへと視線を向けると、
「なぁ…な、な、なんでここに…!?」
「…俺に質問をするな…やかましいぞ、佐桐」
「…照井!?」「ミイラ男だぁぁぁぁぁぁ?!」
女子生徒が叫んだ理由…それは、教室の入り口に姿を露わにした人物のせいだった。ここに…いや、学校に来る筈がないであろう人物がいたことに、震える指で指差す翔太だが、お決まりのフレーズを聞いて間違いないと確信した。
もっとも、悲鳴を上げられたのは…翔太と同時に叫んだ四葉の言葉通り、頭から全身に至るまで真っ白な包帯で身を包んだ照井が教室に入ってきたのが理由だったからだ。
事情を知る翔太や五つ子たちはともかく、他の生徒たちは驚くのが当たり前だ。こぞって心配と質問の嵐が照井へと飛び交い、「俺に質問するな!?」と、怪我人にあるまじき怒声を飛ばすやりとりが繰り広げられていたわけで…
『♩♬♩』
昨日の戦闘時、新しき素体を披露したハードボイルダーと同じく、ようやく修理が完了した自身のスタッグフォンの着信音が鳴り響いた。
このタイミングで電話を掛けてくる人物などそうそういるわけもなく、着信画面を見る勇気がなかった翔太は覚悟を決めて電話に出た。
「…もしもし」
『やぁ、佐桐君。中野だ…突然の電話で申し訳ないね』
「い、いえ…何の御用でしょうか?」
『なに…昨夜、緊急入院した筈の患者が行方不明になってしまってね。どういうことか、君に事情を聞きたいと思って電話したんだ…さて、じっくりと話を聞かせてくれるね?』
「…了解です」
SHRまでの時間、もう寝ることはできないなと諦めた翔太は、電話をしに行くため、教室を出て廊下へと向かった。
…流石にSHRまで話をすることはなかったが、マルオの言葉は昨夜以上に鋭かったと翔太は後に語った。
「…(ブツブツブツブツブツブツブツブツブツ)」
『全国統一模試』…そう表紙と背表紙に書かれた、幾多ものの付箋が上部から飛び出している参考本を片手に、登校のために歩いている男子生徒が一人。
その異様なまでに鬼気迫った気迫で周囲を歩いていた人たちが思わず距離を取ってしまう程に彼は集中し切っていた。
…もっとも、安全面から言えばながらスマホもとい、ながら勉強は推奨されるべきではないのだが…今の彼には一秒も無駄にはできない状態だったのだから仕方ない。
「フータロー君、前見ないと危ないよ?」
「…うん?」
そんな彼…風太郎に声を掛ける強者がいた。といっても、彼女もまた彼の知り合いだからこそだったからなのだが。
「おっはー。頑張ってるのは分かるけど、怪我したら元も子もないんじゃない?」
「一花か。別にこのぐらいは問題ない。というか、不自然なほどにお前とは登校時に会うな。他の姉妹は一緒じゃないのか?」
「えっ!?あ、あ~…私はこれを買いにね!君に会えたのも偶然も偶然!あはははは!」
変装用の眼鏡を掛けた一花が声を掛けてきたのだと気付き、ふと感じたことをそのまま口に出した風太郎。突然の追及に、一瞬目を泳がせながらも、一花は片手に持っていたフラッペを強調しながら慌てて答えた。
…本当は風太郎を待ち伏せしていたとは言えない一花だった。
「そだ!こっちはフータロー君に差し入れだよ」
「偶然に会ったのに用意してくれてたのか?」
「えっ?!あ、えっと…!?それは…!」
「悪いが、コーヒーは飲めない…苦いし…」
「そ、そっか…じゃあ、私が飲んじゃお~、美味しい~!」
「へいへい。ほら、遅刻する前に行くぞ」
誤魔化した途端に、またしても墓穴を掘った一花が冷や汗を流しまくりだった。もっとも、その方面に関してとんでもなく鈍い風太郎がスルーしたことで、一花は本心を知られることがなかったため、安堵していたが、それと同時に目論見が失敗してしまったことに内心落胆していた。
(あーあ、やっちゃった…貢物作戦も失敗か。できることはやっておきたいと思ってやってみたけど…かと言って、二乃みたいな直球勝負は…絶対無理!?)
先を行く風太郎へと追い付き、その横顔を見ていた一花は聞こえないようにため息を吐いていた。フィリップに告白した際の二乃の言動が今でも頭に残っているが、一花にはあそこまでできる勇気はなく、妹の強引さが少しばかり羨ましく思えていた。
(…だけど…このポジションは譲りたくないんだ)
それでも…一方的な思いであったとしても、風太郎の横にいるこの時間、この立ち位置を誰にも取られたくないと、そんな乙女心が一花の中で渦巻いていた。
「佐桐から聞いた。一昨日まで大変だったみたいだな」
「まぁね…でも、ショータ君や照井君たちのお陰でなんとかなったから。でも、ここ最近事件に巻き込まれ過ぎてるから、当面の間は勘弁してほしいくらいかなぁ。事情聴取は、警察の雰囲気を知れてよかったけど、徹夜での取り調べは女の子にはきつかったな…」
「徹夜の一回二回で音を上げるとは…俺なら余裕だな」
「誰もがフータロー君みたいな勉強廃人じゃないんだよ。私はか弱い女の子だもん…その隈も武田君に負けないように勉強してる結果でしょう…?」
「…っ!やっぱり分かるか…ちょっとだけ仮眠は取ったんだけどな」
昨日、しっかり寝たことでもう眠気はないが、わざと欠伸をするような仕草を取る一花に、風太郎は少しばかり高揚した声で切り返す。もっとも、それが強がりだということは、一花には理解できていた。
「あの武田君って人、フータロー君とは真逆の非の打ちどころのないザ・好青年って感じだったらしいよ?まさか、あそこまでフータロー君をライバル視してるとは思ってなかったけど…」
「知ってたのか?」
「噂に聞いてた程度…っていうか、ショータ君が同じクラスだったんだよ。お父さんと一緒に来たあのあと、ショータ君が教えてくれたんだ。悪い人じゃないとも言ってたけど」
「そうか?俺が言えた義理じゃないかもしれないが、あの態度とか挑発の仕方からしてそうは思えないんだが…まぁ、誰が相手だろうが負けるつもりは毛頭ない。これから月末の試験まで勉強漬けだから覚悟しろよ?」
「わ、私たちもかぁ…(フータロー君の誕生日もうすぐなのに…言い出しづらくなっちゃったなぁ…)」
二年の時、同じクラスだった翔太から事情を聞いていた一花が、今回の模試で対決することになるであろう武田のことを教えるも、風太郎はそこまで興味ないといった反応と同時に、意気込みを語っていた。
一花としては、それも大事だと分かっているが、もうすぐ迫っている風太郎の誕生日のことも気掛かりであった。
「とは言え…他の姉妹と違い、学年末試験の頃から働きながら勉強してきたお前だ…だから、お前に関しては何も心配してないがな」
信頼している…そう捉えられる言葉が風太郎から掛けられ、懸念していた考えが一花の頭から飛んだ。嬉しいと思う気持ちを堪え、笑みを浮かべながらその言葉に応える。
「むふふ、乙女の扱いがお上手になりましたねぇ」
「なんだ、それ……ん?お前、眼鏡とかしてたっけ?」
「今更!?前言撤回…フータロー君はやっぱりニブチンだね…」
「褒めたり下げたり…忙しい奴だな」
「女の子のファッションにはちゃんと注意しないとモテないぞ?…どう?少しは知的に見えるんじゃない?まぁ、一応変装なんだけどね」
「変装…?あー、一昨日の奴か」
フータローの残念ぶりにも慣れっこの一花が、変装用の伊達眼鏡をくいっとフレームを持ち上げながら自信いっぱいに告げる。それが一昨日の騒動のことかと思った風太郎が確かめるように尋ねる。
「それもあるんだけど…実は昨日、私が出た映画の完成試写会が夕方からあって、それもそこそこテレビで取り上げられたみたいなんだ。まぁ、一昨日の件もそれを助長してくれたのもあったと思うんだけどね」
「一昨日の昨日でまた仕事か…やっぱり大変なんだな、女優ってやつは…」
「まぁ、私としては有難い話なんだけどね…ねぇ、覚えてる?あの時、君のバイト先のお店で撮った…あの映画のことなんだけど…」
「あーー………(プルプルプル!?)」
一昨日のことがあったにも関わらず、昨日も仕事をしていたのかと感心する風太郎だが、その映画の内容を思い出し、笑わない様になんとか堪えようとしていた…しかし、身震いする体は抑えることはできなかった!
「くくくっ…声を掛けられない様に変装してたのか。これは大女優だぜ」
「っ!?もー!恥ずかしいから言わないでよ!?一昨日の件で、私だってバレたら物凄い騒ぎになるんだもん、しょーがないじゃん!?」
「そういえば、昨日は妹たちがお前と間違われて大変な目に逢ってたな。まぁ、変装はお前たちの十八番だから、そのツケが回ったんだろう?」
「アハハ…でも、三玖ほどには上手くできないんだよね。いつでも変装できるように、私たちみんな変装道具は常備してて…四葉や三玖だったらすぐにいけるかなー…二乃もすぐにできそう!」
「お前ら…どんだけ用意周到なんだよ。そういえば、林間学校の前も三玖がお前の真似をしてたな」
「懐かしいねぇ…その節はご迷惑をお掛けしました。まぁ、今は変装はいっか。したらしたらで、フータロー君が見分けつかなくなるだろうし」
「ふん、見くびってもらっては困る!つい先日、あの三玖の変装をノーヒントで見破ったばかりだからな!」
「…えっ…?」
その一言…風太郎が自慢げに言い放ったその一言が、一花の笑みを硬直させた。胸にざわつく何かを抑えられず、思わず言葉にして問い掛けてしまった。
「それって…どういう…」
「ん?…あれはお前らの妹らと佐桐か。どうやら追いついたみたいだな」
一花の言葉が言い終わる前に、歩道橋の少し先…歩道を歩いている他の五つ子たちと、護衛を兼ねて一緒に通学している翔太の姿に気付いた風太郎の声が被ってしまった。
「追い付いて、お前の笑える勘違いを教えてやろうぜ。って、佐桐は当事者だから逆に同情するかもな。昨日は授業以外完全に死んでたが、今日は大丈夫そうだな。
…っていうか、五月の奴、またなんか食ってやがる。四葉の声はこっちにまで届くぐらいうるせぇし」
(…やめて…)
「三玖がうちのバイトに入った時には驚いたぜ…まぁ、二乃が向かいのパン屋で働くと聞いた時はもっと驚いたぜ。そのせいか、うちの店と向こうのパン屋とで競合するように客足が伸びて、店長が喜んでいいのかどうか微妙な顔してたけどな」
(…もうやめて…他の子のこと話さないで…!)
風太郎の口から視線の先にいる面々の…いや、妹たちのことが告げられていくのを、一花は冷静に聞いていることができなかった。今、隣にいるのは自分なのに…今だけは誰にもその視線を渡したくないと…そう思った時には、一花は風太郎の腕を掴んでいた。
「…待って!」
「うん?どうした、一花」
「っ…(私だけを…私だけを見て欲しい…!)」
言葉にできなくても…それでも、風太郎のこの立場を手放すことができない一花は必死だった。焦燥に駆られたと言ってもいいだろう…それほどまでに、一花は風太郎の意識を自分に戻そうとしていた。
「…ねぇ、このまま二人でサボっちゃおうよ」
必死に…一花なりに勇気を振り絞っての誘いの言葉だった。それを受けた風太郎は、
「いや、ダメっしょ」
(…えーーー………)
迷うことなく切り捨てた。一切の遠慮のないその否定の言葉に、流石の一花も思わず心の中で呆然と呟いてしまった。
「っ…いいじゃん、少しだけ!」
「模試があるって言っただろう」
「一限目、体育だよ!」
「そうか、それなら…って、そんなわけいくか!」
我を取り戻した一花が抗議の声を上げるも、なお冷静に切り返していく風太郎。ノリツッコミをするほどまでに冷静なのだが…一花は一花でかなり粘って誘い続けていき…
「お前がダダこねるから遅刻寸前じゃねーか!」
「フータロー君、真面目過ぎ!」
一花の粘りが凄すぎて、いつの間にか登校時間ギリギリになってしまい、慌てた二人は走って登校していた。靴を履き替え、言い争いながら二人は廊下をも走る。
「ただでさえお前は勉強会を参加できてないことが多いんだから…少なくとも授業に参加できる時はしてくれ」
「…むぅぅ(私だって…サボりたくてサボってるじゃなくって、仕事をしてるから参加するのが難しいだけで…そんな言い方をしなくてもいいじゃん…)」
「ギリギリセーフだな…」
「…そうだね(…はぁ、どうしてフータロー君のことになると上手くいかないんだろう)」
良く悪くも遠慮のない風太郎の言葉に、思わず頬を膨らませてしまう一花…なんとか始業のベルが鳴る直前に教室へと辿り着いたが、思うように事態が進まないことに落胆する一花だが、
「あっ、一花さん来たよ!」
「一昨日の中継とか、今朝のニュース見たよ!」
「女優ってマジ!?っていうか、あのヒーローって言われてる仮面ライダーとも知り合いなの?!」
「え、えっと…?」
教室の扉を開けた途端、待ってましたとばかりにクラスメイトが押し掛けてきたことで、当の本人である一花や風太郎は目を丸くする。
「びっくりした!なんで教えてくれなかったんだよ」
「同じクラスにこんな大スターがいるなんて!」
「一昨日の話題で持ち切りだったところに、昨日の試写会で更に盛り上がりだよ!」
「そんなにでかい映画だったのか、あれ…」
「ま、まぁね…」
(…一花、昨日も仕事だって聞いてたけど、元気そうで良かったな)
(…どこまで飲み物買いに行ってたんだろ…)
盛り上がり続ける一同に、自分の予想以上の盛り上がりを見せている風太郎もようやく実感が湧き、一方の一花もまさかここまでとは思ってなかったため、苦笑いしていた。
もっとも、事件後に直接会うことがなかったことで心配していた翔太が、そんな様子を見て安堵する中、遅刻ギリギリでやってきた姉に純粋な疑問を持った四葉が遠巻きから見ていたわけだが。
「…まぁ、どうでもいいけど…オーディションを受けて良かったな。もう立派な嘘つきだ」
「っ…/!?」
いつものぶっきらぼうな言い方ではあったが、去年の花火大会に時に、自分の背中を押してくれたことを思い出した一花の胸に熱いものが込み上げる。
(こんな単純でいいのかな…君が私を気に掛けて覚えていてくれた…たったそれだけが、クラスメイトのどんな賛辞よりも…胸に響いてしまうんだ)
単純かもしれなくても、少しでも自分のことを気に掛けてくれていたのだと…それが分かっただけで、一花の心は最高潮に熱くなっていた。
…だから、一花はその立場を誰かに取られることが…一番嫌だった。
時間は過ぎ去り、放課後…
「一花、今日は一日中ひっぱりだこだったね」
「あれじゃ、しょうがねぇだろう…俺としてはちょっと申し訳ないと思うけどな。ほら、これから勉強会だろう。行くぞー」
「あっ、待って下さい、佐桐さん!一花、先に図書室に行ってるねー!」
授業以外、クラスメイトに質問攻めに遭っていた一花…そんな姉を感心するような形で言葉を零した四葉だが、他の姉妹たちを先導して教室を出た翔太を追い掛けながら、一花へと声を掛けた。
「あっ、待って!私も…」
「えー、もっと話聞きたいなー!」
「もうちょっといいでしょ?」
「有名人に会ったとか…」
みんなを追い掛けようとした一花だったが、まだまだ聞き足りないとばかりに女子生徒たちに声を掛けられてしまった。今日こそ勉強会に参加したいと思っていたこともあり、一花は…
「(マズいな…これはこのままだとずっと捕まっちゃうパターンだし…こうなったら!)…ごめん!」
「あっ!待って、一花ちゃん!?」
鞄を片手に脱兎の如く、教室外へと逃げ出した一花。それを慌てて追い掛ける女子生徒たちだったが、
「あれっ…どっち行った?」
あっという間に姿が見えなくなり、どこに行ったのかと向こうの方を探しに行くクラスメイトたち…それを扉のすぐ近くの壁にもたれ掛かる彼女は完全に過ぎ去ったのを見て、安堵と共に肩の荷を下ろしていた。
(…ごめんねー…)
ロングヘアーに青いヘッドフォン…それは三玖…ではなく、三玖の恰好をした一花だった。今朝、風太郎に述べていた変装道具で早変わりして、クラスメイトたちを煙に巻いたのだ。
少し罪悪感を感じながら、心の中で謝罪する一花。これで勉強会に行けると思っていた矢先に、
「お前、まだここにいたのか」
「えっ…あっ…」
用事を終え、廊下の向こうから風太郎がやってきたのだ。突然のことに反応が遅れる一花だが、それに構わず風太郎は先を行きながら彼女の名を…
「早く行くぞ…三玖」
「…!あ、ごめん…私…」
「もう公演とか早ぇーよな」
「…え?何が…?」
今の恰好からして、風太郎が自分を三玖と勘違いしているのだと気付き、慌てて訂正しようとするも、風太郎が話を進めてしまい、そのチャンスを逃してしまう。
「一花の映画の話だよ…お前が昨日、バイトの時に教えてくれたんだろう」
「…!?」
その一言…自分には絶対言わないつもりであったまさかの事実に、一花は思わず絶句してしまった。風太郎は知っていたのだ…自分が出演している映画が今日からだということを。
(…そっか。三玖から聞いて……あれから色々あったもんね。きっと私だけじゃなく、皆とも同じことがあって…私のことだけなんて…そんな都合のいいようにはいかないようね…)
『お好きにどうぞ?負けないから』
『もう少し…自分の気持ちと向き合ってみるわ』
『一花だけ我慢しないで…したいことしてほしい、かな!』
(…私も…私だって…!)
朝の出来事で芽生えた暗い思いが…心に嫌な色として広がっていく。姉妹たちの言葉が脳裏に蘇り、
「フータローく……フータロー」
「…うん?なんだ?」
思わず呼び止めたその口調は…三玖を真似たそのものだった。それでも…今の一花は迷うことを知らずに、その先を言葉として放った…放ってしまった。
「フータロー…教えてあげる
一花、フータローのこと好きだよ」
「…!?…」
突然の…
「凄くお似合いだと思う…私、応援するね?」
「嘘、だろ…?」
「…嘘じゃないよ(…私だけを…君には見て欲しい…!)」
例えどんな代償を払うことになったとしても…それがどれだけ間違ったことであっても…一花が自分の気持ちに沿って動いた時だった。
…シスター・ウォーズの火だねは撒かれました…
映画見て、次はゲームですね!ちゃんと予約しましたので、楽しみです!
…私事漏れました、すみません…次回でできれば、本章も終わりを迎えられるかと思いますので、お楽しみに!
それでは!