…といっても、プロローグになりますので、本格的な話は次回以降となります。
風都探偵のアニメに感化されて、執筆へのボルテージが高いのなんの…!
第84話 「Gを吹き飛ばせ!/それぞれが抱えるもの」
…ギコ…ギコ…ギコ…ギコ…
ある団地のすぐ近くにある児童公園…幼稚園児らしき子供たちが遊具で遊ぶ中、彼らよりも年上の人物が二人…静かにブランコを漕いでいた。
「見事、と言う他ないね…君が10位以内に入ったとしても勝つつもりで臨んだ全国統一模試…全国8位というのは僕にとっても願ってもない順位だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でも、まさかその上をいかれるとはね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「改めて、2位おめでとう。ところで、もうすぐ修学旅行だけど「ちょっと待て」…うん、何だい?」
「なぜ俺はこんな昼間からお前とブランコを漕いでいるんだ?」
ブランコを漕ぐ男二人…それは風太郎と武田の二人だった。黙ってブランコを漕ぎ続ける風太郎に、一方的に武田が話し掛けるという構図が出来上がっていたのだが、流石の風太郎も黙ったままというわけにはいかないと思い、当然の疑問を武田にぶつけたのだった。
「ははっ!昨日の敵は今日の友と言うだろう?これが青春なのかもしれないね」
「帰る」
「はははっ!今のフレーズはお気に召さなかったかな?それなら、佐桐君は君の友人でもあり、僕の友人でもある。ほら、友達の友達は友達ともいうだろう?」
「…帰る」
やはり武田は苦手なタイプだと改めて感じた風太郎は強引に話を終え、漕いでいたブランコから勢いをつけて前方へと跳んだ。安全のために周囲を囲む鉄策を飛び越え、2メートルぐらい先に着地したその動きに、思わず武田も感心してしまった。
「やるね」
「そりゃどうも(…まだ足りないか)」
賞賛に対して一応の礼を返す一方、風太郎の脳裏に残る記憶と、今の自分の行動を比較しての感想を心の中で呟いていた。
風太郎なりにちょっとずつ練習しての成果なのだが…彼の脳裏にあるその記憶を破るには未だ足らずのようだった。
「まぁ、そう焦るんじゃないよ。忘れたのかい、僕らは呼び出されたんだ…ほら、ご到着だ」
武田の言葉と目線の先…公園の入り口前に停車したリムジンに風太郎の目線も移る。それに乗っている人物に、二人は呼び出されたのだ。リムジンから出てきたのは、
「待たせてすまないね」
「よう、上杉、武田」
「っ…!?佐桐、なんでお前が…!」
社内から降りて来た人物…一人は自分たちを呼び出した五つ子たちの父親である中野マルオだったが、同席していた人物がいたことに武田だけでなく、風太郎も驚いていた。
「まぁ、ちょっと家庭教師関係で先に呼び出されてな」
困った様に笑みを浮かべ、どうしてマルオと一緒にいるのかを答える翔太の言葉に、風太郎は思わず訝しい表情を浮かべてしまう。一方で、裏の事情までは知らない武田は翔太がマルオと一緒にいたことにそこまで違和感を持たなかったらしい。
(…まぁ、上杉が不審に思うのも無理ないよな)
そんなことを思う翔太の脳裏に、先程まで交わしていたマルオとの会話が蘇っていた。
「急に呼び出してすまなかったね」
「いえ…それでどんな要件でしょうか?」
「この前、無断で退院した君の友人の入院費を請求したいと思ってね」
「えっ…いや、それは照井本人に請求を…」
「冗談だよ」
「……(この人の場合、表情が全く変わらないから、ジョークに聞こえないんだよな)」
待ち合わせてから、江端の運転するリムジンに同席したマルオと翔太。用件を聞こうとしたところで、そんなことを言われ、翔太の笑みが引き攣っていた。
「それで本題だが…先日の全国模試の結果を見させてもらったよ」
「個人情報の塊である模試の成績をどうやって知ったんだっていうツッコミは言わないでおきますよ」
「それは賢明な判断だね…校内5位に全国100位内の十二分に優れた成績とは。これなら、君に家庭教師の助っ人を今後も任せても問題なさそうだ」
「あっ、やっぱり俺の方もそういう見られ方をされていたんですね」
「当然だろう…仮面ライダーで娘たちを守ってもらっているとはいえ、あまりにも馬鹿であるなら問題ありだと考えるだろう」
「まぁ、お眼鏡に適ったようでなによりです」
先日の模試の結果の話となり、マルオなりの賞賛の言葉を受け取り、一応の礼をする翔太。しかし、そんなことを伝えるためだけに二人っきりの状態でマルオが自分を呼び出したとは思えない翔太は、マルオの心意を図りかねていた。
「…本題はここからだ。この資料を見たまえ」
「…………………これは?」
マルオから手渡されたのはカルテとレントゲンを可視化した資料のようだった。一通り目を通したところで、翔太が資料の内容を尋ねるとマルオは目を一層細くし答え始めた。
「それはここ一週間で私の病院に運ばれた患者のカルテだ…だが、その患者たちがどれも奇妙でね」
「…何かしらの病気を持っていたとか、症状があったという感じなんですか?」
「後者だ…年齢・性別・住所と全てが異なるが、彼らはいきなり暴れ始めたかと思えば、数分後には意識を失って、病院に運ばれたという経緯なんだが…過去の病歴を確認したが、精神病を患わっていた者はほとんどおらず、急激なストレスによる突発的な病状を疑ったが、警察の聞き込みによると、その可能性も低いらしい」
「…それはとってもきな臭い話ですね」
「そしてだ…運ばれた患者の脳レントゲンを撮って、脳波長を調べてみると…変な波長を受けた形跡があった。人体に悪影響はなさそうだが……私的にはその波長に何かあるのではないかと睨んでいる」
「…ドーパント…何かしらの波動か精神干渉を及ぼす力を持つメモリか」
マルオの懸念が正解なら、確かにガイアメモリの可能性も考えられる一件だった。ここから先は自分たちが調べるべき案件だと判断した翔太の顔は探偵のものへと変わっていた。
「医者である私として調べられるのはここまでだ…あとは君たちの専門分野だろう?」
「分かりました…こっちでも調べてみます。情報ありがとうございます…というか、そんな情報全然聞いたことなかったんですけど…」
「君もここ数日は模試の勉強に追われていただろう…それに、刃野刑事が君に気を遣って、知らせないようにしていたんだよ」
「刃さんが…?」
「三か月前に大怪我したばかりだろう、君…刃野刑事が心配するのも当然だろう。君がまた無茶をしないようにとね…まぁ、まだ事件かどうかも分からないから尚更だろう」
ものの見事に痛いところを疲れた翔太は苦笑いのまま閉口する…刃野なりの気遣いで、おそらくマスターにも情報を伏せていたのだろう。
事件化もしていないため、一般市民である自分たちに情報が降りづらく、風都イレギュラーズの面々の情報網にも引っ掛かりにくかったのだろう。
「…さてと、あと数分で目的地に着く。他の話をするとしよう」
「えっ…これが本題だったんじゃ…?」
「さっきのは仮面ライダーである君への話だ。これからは、家庭教師の助っ人の話に関してだ」
どうやらマルオの話はまだ続きがあったらしい…もう終わりだと思っていた翔太は驚きながらも、耳を傾けることにした。
「以前、上杉君の辞職騒動の際にも告げたが…私は君に報酬を支払う責任がある。月50万…でも安すぎるだろうか?」
「いやいやいや…!?上杉の十倍って…たかが助っ人なのにそんなに貰えませんって!それに、仮面ライダーは事業でもなんでもない…俺が…俺たちがやるべきことだって決意してやってることです。
報酬は…上杉に上乗せしてやってください。あいつの手助けをするのが俺が請けた依頼です…俺の負担を減らすことが報酬だと思ってもらえればありがたいです」
「…欲がないね。なら、君の希望通り、報酬は上杉君の方に少し色をつけることにしよう」
「…ありがとうございます」
翔太の回答に満足したのか…どこか嬉しそうな雰囲気を少しだけ出したマルオ。それに形だけとはいえ、礼を述べる翔太も少しだけ笑みを零していた。
「それと…君はそんなことはないと思うが、娘たちには一定の距離を持って接してくれよ?上杉君たちが娘たちに手を出さないようにそっちの警護もしてくれると…大変嬉しいんだがね」
「えっと……善処するかつ十二分に気を付けます」
先程までの多少穏やかな空気から絶対零度の雰囲気を纏ったマルオの態度に、翔太は何度も頷きながら冷や汗を流していた。その胸中は、
(顔に似合わず、親バカだよな…この人)
そんな感じの感想だった。
「まずは…武田君、全国8位おめでとう。出来の良い息子を持てて、お父さんもさぞ鼻が高いだろう」
「ありがとうございます…父が聞けば、喜びはするんでしょうね」
そして、時は今に戻り…少し離れた場所から翔太が聞いている中、公園のベンチに武田を挟む形で、風太路とマルオで座り込んで話していた。
マルオの評価に礼を述べつつも、少し棘のある言葉を選んだ武田…その胸中には、やはり父親に対して思うところがあったのだろう。
「医師を目指していると聞いた。どうだろうか…君のような優秀な人材ならば、僕の病院に…」
「申し訳ございません…大変光栄なお話ではありますが、僕の進路についてはもう少し考えたいと思っています」
「そうかい…良い返事を期待しているよ」
武田の返答に、良くも悪くもそれ以上追及することなく、マルオは話を終えた。マルオとしては、個の意見を尊重したいという考えと、来る者拒まず去る者追わずというスタンスのだろう。
そして、話の矛先は上杉へと向いて、
「…上杉君」
「はい」
「君に家庭教師の仕事を再度頼みたい」
「…えっ!?」
何を言われるか覚悟していた風太郎だが、まさかの仕事の再依頼に流石の彼も表情を崩して取り乱していた。しかし、そんな風太郎の反応などお構いなしにマルオは淡々と話を進めていく。
「報酬は相場の5倍…いや、8倍でアットホームで楽しい職場だ」
「よ、よ―く知ってます…って、報酬も前よりアップなんですか?!」
「君は助っ人を雇っているのだろう?その人材費として認識してくれればいい」
給料アップという条件に驚く風太郎…まさかと思い、ブランコの支柱にもたれ掛かっている翔太を見た。気付いた翔太も手を振って、そういうことだと暗に伝えていた。
「また君に依頼するのは正直不本意だ。本来ならプロでさえ、手に余る仕事だろう。だが…本当に残念なことだが、これは君にしかできないらしい…やるかい?」
「…!…勿論!言われなくても、このままタダ働きだったとしてもやるつもりだったんだ!給料が貰えるのなら、願ったり叶ったりですよ!」
自分が言った売り文句を逆に使われたことで、それに敢えて乗っかかる形で風太郎は依頼を受託した。珍しく喜びが顔に出る程、風太郎のテンションも上がっていた。
「それは良かった。では、当初の予定通り卒業まで…」
「あっ、そのことで一つお伝えしたいことがあります」
「…多少のことは聞こう。なんだい?」
「成績だけでいえば、あいつらはもう卒業までいける力を身に着けています」
「ほう…それは頼もしいね」
「ええ、俺も当初はそれでいと思ってました。だけど、あいつらと一緒に過ごしていて、武田や佐桐の話を聞いて思い直しました…次の道を見つけてこそが真の卒業になるじゃないかって…俺はあいつらの夢をみつけてやりたい!」
「…(上杉)」「上杉君…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それは家庭教師の仕事ではないのだろう…しかし、マルオはそれを指摘するという無粋なことはせず黙って聞き続けていた。翔太と武田もその意気込みに思うところがあり、静かにその成り行きを見守っていた。
「…ふぅ…随分な変わりようだ。就任直後の流されるまま嫌々こなし、本来は助っ人である筈の佐桐君の方が好感度が高いなんていう本末転倒になっていた君とは思えない発言だね」
「うぐぅ…!し、知っていたんですか…」
「まぁ、どのような方針を取ろうと自由だ。君のその考えが間違っているとも思えないしね…だが、これだけは忘れないでほしい」
「な、なんでしょうか…?」
「…君はあくまで家庭教師…佐桐君にも念を押して伝えたが、娘たちには紳士的に接してくれると信じている…紳士的に接してくれると信じているからね」
「も、も、勿論です!?一線はちゃんと引いてます!俺は!俺はね!?ははは、ははははは…!」
「……(プッ…ヤバい、二度目となるとちょっと面白い…!)」
風太郎にまで親バカを発動させ、絶対零度の温度で迫るマルオ…そのやりとりを他人事ということもあって、見られないようにこっそり笑う翔太。
しかし、そんな彼の知らないところで風太郎は戦々恐々と化していた。五つ子の一人の誰かとキスし、長女が自分に好意を抱いていると告げられている状態とは…口が裂けても言えないだろう。
(一応、あいつらの心配はしてるんだなぁ…バレたら、社会的に抹殺されるかも)
そうならないように、今後はもっと気を付けようと風太郎は思ったのだった。
「う、上杉君…それに佐桐君まで!い、今乗ってきた車って…!」
話を一通り終え、車で五つ子たちのアパートまで送ってくれるというマルオの提案に乗った翔太と風太郎…武田と別れ、送ってもらい降りたところで、買い物帰りの五月と遭遇した。
「おう、五月…そうだよ、お前らの父さんの車だよ。ちょっと呼び出されて、話をしててな」
「は、話って…何を?」
「えーっとな…家庭教師に復帰できることになった」
「……っ!それは良かったです!功績がお父さんに認められたのですね!おめでとうござい…「そういうことだ。それじゃ、先に行ってるぞ」ま…って、上杉君!?ちょ、待って…何ですか、あの避け方は…」
「お前らの父親から過度な接触は避けろって釘を刺されたんだよ」
「あー…」
中途半端かつ強引に話を終えた風太郎が、先に二階のアパートの部屋へと向かってしまい、置いてけぼりにされた五月が眉を顰めていた。まぁまぁと言いながら、翔太が風太郎の反応の変化について説明していた。
「それでも、あそこまで露骨にしなくても…」
「上杉が不器用なのは今に始まった話じゃないだろう…少し時間を置けば、あいつも距離感を掴めるだろうから待ってやれよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「うん?俺の顔に何か付いてるか?」
「えっと…佐桐君もお父さんに釘を刺されたんですよね?その割には、全然接し方が変わらないなって」
「今更変えたところでだろう…というか、別にそんな関係に今すぐなるとも思えないだろうし…フィリップっていう…」
「フィリップさんがどうかしたんですか?」
「えっ…いや……フィリップもそういうのは興味ないだろうから大丈夫だろうって言いたかったんだよ、うん!」
「…本当ですか?何か怪しいですね」
「ほら、馬鹿なこと行ってないで、部屋に行こうぜ」
完全に口を滑らせた翔太…それ以上の追及を避けるべく、強引に話を打ち切り、先に行った風太郎の後を追い、多少不審がりながらも五月もその後を追った。
「あ!上杉さん、いらっしゃーい!」
「やっと来た~」
「遅いじゃない、何してたのよ」
「…わ、悪い。色々とあってな(…距離感、距離感…!)」
先に行った風太郎を出迎えたのは、四葉・一花・二乃の個性豊かな挨拶だった。まぁ、適切な距離感を気にし過ぎている風太郎はそれどころじゃなかったわけだが…
「…って、うおっ。なんだ、この荷物…!」
「あはは、散らかっていて申し訳ない」
「生活も落ち着いてきたし、みんなで大掃除してたんです」
「大掃除って…今日は試験の反省会をする予定じゃなかったか?」
「それまでには終わらせようとしたんだけど…思った以上に片付ける荷物出てきたのよ」
躓きそうになった荷物に足を引いた風太郎。その荷物の正体を一花と四葉が答えるも、本来の予定を伝えていた筈だと眉を顰める風太郎、それに対して二乃も眉を顰めて理由を返していた。
「…そうだ。二乃、誕生日プレゼントありがとうな。食材の詰め合わせとか、あんないい食材は久々だって、らいはが凄い喜んでてお礼を伝えてくれって」
「そう!まぁ、私が選んだものだからね…妹ちゃんが喜んでくれたのなら良かったわ。そういえば、フィリップ君からのプレゼントはどうだった?」
「えっ!?あー、確かアロマな…えっと、良いよなアロマ、うん。ふんふん、アロマね……人を選ぶと思うが、俺はうまいと思うぜアロマ」
「あんた、絶対使い方分からなかったでしょう…今度、一つ持ってきなさい。ちゃんと使い方を教えるから…睡眠不足とかに結構効果あるんだから」
らいはからお礼を言っておいてくれと頼まれたこともあり、誕生日プレゼントのことについて言及した風太郎だが、二乃を通して送られたフィリップのプレゼントについては手を着けていなかったことがバレ、喜んでいた二乃が呆れへと表情を一転させたのだった。
そんな二人のやりとりを見ていて、口を挟まずにいられなかった人物がいるわけで…
「フータロー君、私のプレゼントだけど…」
「ああ…なんかお前のだけ変だったな。あれで買い物しろってことか?」
「うん。あれでらいはちゃんの好きなもの買ってあげたら喜んでくれるんじゃないかなー」
「最高だな!マジで助かる!ありがとな、一花!」
「…!へへへ!」
「…(流石は一花ね。そういうのに目敏いものね)」
思った以上に風太郎が喜んでくれたことに、一花も満足していた。作戦通りというのもあったが、純粋に風太郎が喜んでいる姿を見れたのが嬉しいのが大きかった。そんな姉の姿に、二乃も思わず笑みが零れる。
「私の贈り物はどうでしたー?」
「四葉…お前、よくあんなに………」
「…?上杉さん、どうかしましたか?」
「…!…いや…あー、悪い。今日はもう勉強もできなさそうだし…俺、帰えるわ」
「えっ、もう帰っちゃうの?」
「少しくらいゆっくりしていってくださいよ」
いつの間にか普段の距離感で話してしまっていたことに気付いた風太郎…このままではマズイ、今日はそれどころではないという理由に結び付け、勉強会は延期すると申し出たのだ。一花と四葉の制止も振り切り、外に出ると、
「おっと…上杉。もしかして帰るのか?」
「…今日は勉強どころじゃないみたいだからな…じゃあな」
翔太と五月に出くわすも、端的に用件を告げるとそのまま階段を降りていってしまった。
「露骨すぎませんか?」
「…まぁ、確かにちょっと変ではあるな。あんまりプライベートに関わるのはどうかと思うんだが…ちょっと続くようだったら、やんわりと聞いてみるわ」
「そうですね…上杉君にも秘密にしたいことが……多分あるでしょうし」
「そういうことだ。まぁ、勉強会がないなら、俺もそろそろお暇するわ。あんまり長居すると、それこそお前らの父親に小言を言われることになるからな」
自分も家に帰るかと思い、アパートをあとにしようとした翔太。そんな彼を見送ろうと、、下まで再び降りて来た五月。
「…そういや、もうすぐ修学旅行か。来週に班決めするんだったよな」
「そうですね…佐桐君は誰かと班を組む予定があるんですか?」
「一応な…お前らはやっぱり五人で一班な感じか?」
「そうなるかと…行き先は京都でしたね。佐桐君は、京都に行ったことは?」
「いや、実は初めてだ…中学の時は広島だったからな」
「そう、なんですね…」
「……ああ。上杉とお前らのそっくりさんらしき女の子との話のやつか」
京都というワードで言い淀んだ五月に、それが風太郎の思い出の話だと察した翔太は思わず唸った。
「でも、お前らの誰とも違うって一応って話だろう?一応は」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…?おい、どうした、五月?」
いつもなら、『何ですか、その含みのある言い方は!?』と食って掛かってくるところが、普段の反応どころか、押し黙ってしまった五月の反応に、翔太もどうしたのかと心配になる。
「あの佐桐君……もし私が隠し事を明かしたいって言ったら…聞いてくれますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…例えば…誰かを騙している、みたいな酷いことだったとしても…聞いてもらえますか?」
「…五月。それはもしかして……」
真剣な五月のその姿に、翔太は自身が以前より考えていたことがそれではないかと思い、確かめようと口を開き…
「…それはお前らのは「私、ちょっと五月探してくるよー!」っ!?」
言葉にしようとしたところで、四葉の元気のよい声がそれを綺麗に遮ってしまった。出鼻を挫かれてしまったことで、話ができる雰囲気ではなくなり、翔太はまた別の機会に改めることにした。
「あっ、佐桐さん!こんにちわー!ちょっと五月をお借りしたいんですけど…」
「いいぞー!俺も今から帰るところだったからな」
「さ、佐桐君…!」
「…あんまり人に聞かれたくない話なんだろう?今日は忙しそうだし、また今度の時に聞くさ」
「……分かりました。それでは、またその時に…」
そう言って、今度こそ翔太はアパートを去って行き、四葉に呼ばれた五月は部屋へと戻って行った。
「五月ちゃん、この箱見覚えある?」
「あっ、私のものです。もう着ないだろう服を入れておいたのです」
四葉が五月を探していた理由…それは片付けの中で、誰の物か分からない荷物があったからだ。確認していないのは五月と、バイトに行っている三玖だけだったので、先に五月に確認してもらおうと四葉が探していた訳だ。
一花の問い掛けに自分のものだと答えた五月は慌ててその段ボール箱を抱えて寝室の方へと運ぼうとしていた。
「いらないものは捨てなよー…って、私が言えることじゃないか……あれ?五月ちゃん、何か落とし……えっ?」
颯爽と去ってしまった五月の背に言葉を掛ける一花…その時、五月が箱から落とした写真に気付き、伝えようとするも五月は扉を閉めてしまい…とりあえず預かっておくかと写真を拾ったのだが…
「やっぱり…こんなことを打ち明けたら怒られて…嫌悪されますよね。上杉君には言えなくとも…せめて佐桐君には打ち明けられればと思ったのですが…卑怯ですよね」
一人、寝室にて箱を膝に乗せながら五月は苦悶していた。その箱の中には…去年の期末テスト前に風太郎が再会した…零奈が身に纏っていた帽子と服が収められていた。
「京都のことも全て…こんなこと…なんて説明すればいいのか…」
その後悔は誰にも聞き取れることもなく、そのチャンスをも逃してしまったことに…五月はまだ気付いていなかった。
「これ…この写真って京都の……そっか…」
そして、五月が落とした写真を拾い上げた一花は、そこに映る光景に…嬉しそうに、そして、懐かしの涙を目に浮かべていた。
…そこに写っていたのは、金髪に染めていた子供の時の風太郎と、同じく子供の時の零奈のツーショット…風太郎も生徒手帳に大事に挟んでいる写真と同じものが写っていたのだ
何やら不穏な空気が…今回、マルオさん結構登場頻度多めの章だったりします。
次回から本格始動です!
それでは、また!