仮面ライダーW/Kの花嫁   作:wing//

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前半は原作(もちろん、ちょっと変えてる部分はありますが…)通りの班決めのお話…そして、後半が彼女と彼のお話です。

このために色々と布石を打っていた訳で…まぁ、このお話のためでもあったわけです(黒笑)

それでは、どうぞ!


⑯古都のL
第90話 「古都のL/師と弟子と」


「全国模試も終わったということで…みんなも楽しみにしていたであろう修学旅行の話に本格的に入っていこうと思います」

 

ウェザー・ドーパントとの激闘から三日後…重傷を負って、入院することになった翔太とまたしても包帯(前のようなミイラ男もどきではないが)を巻いて登校してきた照井のことでクラスがざわざわする最中、委員長である風太郎と四葉は教壇に立って、来週行く予定の修学旅行について議題を上げていた。

 

生徒たちに主導させようということで担任は席を外しており、ニコニコ顔の四葉に対し、やれやれといった様子で取り纏めと説明を担う風太郎だったが、委員長としての責を最低限果たそうとしていた。

 

「先日配られたパンフレットに記載されているように、三日間の流れはその通りになります。ですが、当日は班ごとの行動となりますので、皆さんは明日までに誰と行動するのか、そのための班を決めておいてください。但し、班の定員は5人までです」

 

そんな風太郎の説明が続く中、クラスは誰で班を組むかで盛り上がりを見せていた。しかし、それどころではない面々もいるわけで…

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

何かを思いつき笑みを薄く浮かべる一花、いつものポーカーフェイスがさらに堅く見える三玖、そして…ちらりと三玖と風太郎へと視線を送る四葉がその代表だった。

 

 

「えっ~と…上杉さん、上杉さんはっと……あっ、いた!おーい、うえ「四葉」…えっ?」

 

HRを終え、どこかに行ってしまった風太郎を探しに教室の外に出た四葉。

 

すると、武田や前田、さらには意外なことに照井と話している風太郎の姿が見え、声を掛けようとした…のだが、それを遮る声が飛んできた。

 

「…一花?」

 

「…ちょいちょい」

 

誰かと視線を横に向けると、そこには手招きする一花の姿があって…何事かと思い、誘われるままに四葉がついていくと…

 

「どーしたの、一花…こんなところに連れてきて…」

 

「ちょっとね…でも、楽しみだね、来週の修学旅行。ショータ君が来れないのは残念だけど…」

 

「そうだね…佐桐さんには色々と助けてもらってたから。少しは戦いのことを忘れて、旅行を楽しんでもらって…一緒に楽しい思い出を作りたかったんだけどね」

 

空き教室に来た二人…用件を一向に話さない一花に四葉が尋ねると、ようやく本題を話し始めた一花。修学旅行のことと、意識が戻ったものの動くこともままならない翔太が修学旅行に不参加になったことに、四葉は少し寂しそうに笑っていた。

 

「仕方ないよ、あんな大怪我をしたんじゃ…彼の分、楽しんで、いい思い出話を手土産にしてあげないとね。そういえば…私たちって、京都は初めてだっけ?」

 

「えっ…違うよ。小学生の頃も行ったじゃん」

 

「…そうだったね。四葉は京都でまた行きたい所とかある?」

 

「そうだなぁ~…ベタだけどお寺かな~」

 

そのまま修学旅行へと話が移っていき、過去の記憶から今度の旅行でどこに行きたいかと問われた四葉は、想像しながら希望を告げる。

 

「四葉は真面目だね。行き先もだけど、クラスの皆は五人班をどうするかで悩んでるみたい。だけど、私たちにはお誂え向きな話だよね?」

 

「あ!はは…そ、そうだね。五つ子でよかったね…」

 

班決めの話になり、四葉は動揺をみせる…まさか一花からそんな話をされるとは予想外だったこともあり、冷や汗が頬を伝う。

 

「まぁ、私たち5人で班を組むのもアリだとは思うんだけど…そうなると、心配なことがあるよね」

 

「…心配?」

 

「…フータロー君だよ」

 

「…えっ!?」

 

風太郎の名前が出て、驚くと同時に冷や汗の量が増える四葉…どうしようかと思っている内に、一花が話を進めていってしまう。

 

「どうなんだろうね…もう三年生なのに、友達いなさそうだし。唯一仲の良さそうなショータ君は旅行に不参加だし…お姉さん、心配だよ」

 

「えーっと…それなら…」

 

「仕方ない…ここは私たちが一肌脱ごうよ!」

 

「えっ、一花…?」

 

何と答えようか迷う四葉に、一花はまさかの提案をしてきた。

 

「私と四葉とフータロー君…三人で一班っていうのはどうかな?」

 

「…!!」

 

その提案に四葉は絶句する…彼女の思惑とは異なる展開になり、ひとまず姉にこっちの言い分を聞いてもらおうと考えたのだが…

 

「あ、ごめん、電話だ!じゃあ、四葉。そういうことでよろしくね!」

 

「え!?ま、待って、一花!?……ど、どーしよう…!?」

 

その前に、電話が掛かってきたということで颯爽と教室をあとにしてしまった一花…置いてけぼりにされてしまった四葉は頭を抱えたくなってしまった。

 

どうしてか…それは、四葉があることを引き受けていたことが原因であり、

 

『同じ班じゃなきゃ、お昼を一緒にできないかもしれない。何よりも…一緒に京都を回りたい』

 

『…よし!三玖、私に任せておいて!私と三玖と上杉さんで班になろうよ!私から上杉さんに言っておくからさ!』

 

『えっ、いいの?』

 

そう…あることが起因で、三玖から相談を受けていた四葉はそんな約束をしてしまっていたのだ。ところが、一花からもそんな提案をされてしまうとは思ってもみなかったわけで…残された四葉は右往左往する羽目になるのだった。

 

 

 

「さてと…ここ最近色々ありすぎて、こうやって全員で勉強会をするのも久々に感じるな」

 

「無理もないよ。ちょっと前まで、あんなことがあったわけだし」

 

その後、放課後になって勉強会で図書室に集まった風太郎と五つ子たち。別にそこまで期間が空いたわけではないのだが、ウェザー・ドーパントの一件もあって、久々な感じがしてそんな心の声が漏れた風太郎に、一花が苦笑しながら同意していた。

 

「五月はこの後、佐桐の見舞いに行くんだったよな?宜しく伝えておいてくれ」

 

「分かりました。でも、上杉君の言うこともちょっと分かる気がします…ちょっと前までは佐桐君も一緒でしたもんね」

 

「…ふーん。なんか含みのある言い方をするわね、五月。佐桐がいなくて、寂しいのかしら?」

 

「なぁ!?そ、そんなことはないですよ!さ、さぁ!?時間は有限、勉強を始めましょう!」

 

そんな言葉と共に少しばかり感傷に浸っていた五月だったが、何かを見透かしたような悪戯の笑みを浮かべた二乃に指摘され、慌てて否定しつつ話題を強引に逸らした。しかし、その言葉とは裏腹に事態は別の方向へと向かい、

 

「その前に…修学旅行の話がしたい」

 

「え?」「…三玖?」「…!」

 

突然の三玖の提案に、二乃と五月が驚き、四葉もまた別の意味で驚き動揺していた。

 

「ねぇ、フータロー…誰と組むか決めた?」

 

「「「「…!?」」」」

 

いきなりの核心を突いたその言葉に、他の姉妹たちは息を呑む。その反応は二つに分かれ、四葉と同じように一花もまた動揺の表情を浮かべる。

 

「えっ……俺は「待って!」…うおっ…一花?」

 

「よ……四葉が話したいことがあるって!?」

 

「えっ…ええぇ!?」

 

風太郎が答えようとしたのを遮ったのは一花で…ところが、なんとその矛先を四葉へと転換したのだ!

 

まさかの急な振りに四葉は悲鳴を上げる。どうしようかと考えていた最中に、当事者の一人から話を振られるとは思ってもみなかったわけで…しかし、全員の視線が自分に集まっている以上、何かを言わなければならないのだが…

 

「え、えーっと…その…私は……!?(チラッ)」

 

「ほら…ね?」

 

「……(チラッ)」

 

「…何?」

 

「……(チラッ)」

 

「…?どうした、早く言えよ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

一花、三玖、風太郎へと忙しなく視線を向ける四葉だが、三者三様の、また意味の異なる催促の言葉に、その表情が百面相の如く悪い顔色をコロコロ表示させていく。

 

「…あ、あのですね…三玖も一花も一緒に……だけど、五月と二乃は…姉妹は皆一緒じゃなきゃ………あっ、そうだ!」

 

…そして、困りに困った挙句に出てきた言葉は…

 

「この際、皆で同じ班になろうよ!上杉さんも一緒に!」

 

「はぁ…?ちょっと待「ちょっと待ちなさいよ、四葉」…おい」

 

「班の定員は5人…委員長であるあんたが一番分かってないといけないことでしょうが」

 

「もちろん分かってるよ。だから、私以外のみんなでってことでだよ!それで万事解「なわけないでしょうが、却下よ」…ええぇ!?」

 

そんな四葉の提案に、一花と三玖も思わず顔を顰め、勝手に話を進められる風太郎が口を挟もうとすると、二乃に遮られてしまい、不満を声に出していた。

 

一方で、解決策である自己犠牲案を出した四葉の意見も遮った二乃はやれやれといった様子で、

 

「私が抜けるわ。他の女子の班にまだ余裕があっただろうし、それなら、問題ないでしょう?」

 

「ちょっと待て、二乃。それは承諾できないぞ」

 

「あんたはちょっと黙ってなさい、話がややこしくなるから」

 

そんな代替案を告げた二乃に視線が集まる…一花の思案も三玖の想いも知っている二乃は、最初からこうするつもりだったのだ。

 

他の姉妹たちと風太郎が一緒の班を組めば、あとは当事者たちがどうアプローチするかの問題になる…公平の場を設けることさえすれば、それ以上は自分が余計に口を挟むことではないと思っての行動だった。

 

…まぁ、二乃からすれば、姉と妹が風太郎のことを好きだということに関しては、思うところはあるわけだが…昔とは違い、風太郎のことは認めていることもあって、とりあえずは黙認することにしたわけだが…

 

「それとも、私がここまで妥協してあげたっていうのに、この提案を断る理由があるっていうのかしら?あるのなら、今すぐに言ってみなさい!!」

 

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

 

二乃の独壇場…その提案を聞いた他の五つ子たちは呆然としていた。一花も三玖も反対する理由は特になかった。もちろん100%理想通りかと言われると微妙にそうではないかもしれないが…場が上手く収まりそうになっていたことに安堵するのも忘れた四葉も、成り行きを見守っていた五月も、風太郎の答えを待っていた。

 

「…決まりね。じゃあ、そういうことでよろしく「よろしくじゃねよ、勝手に決めんな」…はぁ?」

 

話は終わりだと打ち切ろうとした二乃だったが、今度は風太郎がその言葉を遮る番だった。まさかの反論に二乃の機嫌が一気に悪くなる。

 

「俺の話を聞け…!」

 

「あー、もう!?だーかーら!今は黙って頷いときなさいよ!?私があんたに譲歩してあげるなんて滅多にない機会なのよ!?有難く受け取りなさいよ!」

 

「…いや、もう班を組んじまったんだよ」

 

「えっ?」「「「「…!?」」」」

 

風太郎の反論など聞かまいと、図書室だというのに声を荒げる二乃だが…次に告げられた風太郎の言葉に、姉妹たちと揃って驚くことになる。

 

「だから…俺はもうクラスの男子と班を組んだんだよ。それをさっきから言おうとしてたんだが…すまん」

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

衝撃的な事実に…五つ子たちは口をあんぐりと開けることしかできなかったのだ。

 

 

 

「はい、これで班分けも決まったということで。各員、班長を決めておくように」

 

翌日…班の構成を把握した担任が伝達事項を告げ、自由時間になったことで生徒たちは一気に相談を始めて…

 

「つーか、班長とか…誰がやんだコラ」

 

「お前も一組だったんだな…えーっと「前田だ、コラ」」

 

「もちろん、この僕を差し置いて班長になろうなんているまい!照井君もそれでいいだろう?」

 

「俺に質問するな…適当に決めてくれ」

 

昨日話していた組み合わせ…前田、風太郎、武田、照井という四人で構成された班は誰がリーダーになるかという相談…というか、武田が思うがままに話を進めていた。このまま、彼が班長になりそうな流れだ。

 

…実は、負傷して入院する以前に、この4人が班を組むきっかけになったのは、照井と接点を持っていた翔太が風太郎と武田に声を掛け、その場に前田が偶然居合わせたも混ざることになったのが原因だったわけで…

 

「…まさか、いつもの組み合わせになるとはね…」

 

「結局いつも通り…」

 

「はは…まぁ、フータロー君に友達ができて良かったということで」

 

「……(き、気まずい…!)」

 

「…(…やっぱり…もう一度あれをすべきなんでしょうか)」

 

まさかの身内が原因とは知りもしない二乃はどこか呆れた様子で腕を組み、彼女を中心に左右に分かれて座る五つ子たち…三玖と一花は不服そうに呟き、四葉は雰囲気の重さに冷や汗を流し、五月は何かを覚悟していた。

 

…そんなわけで、昨日、五月が翔太に伝えたように…修学旅行の班は各自の思惑が外れた、いつもどおりの五つ子たちで一班という形に落ち着いたのだった。

 

 

 

「…お邪魔します」

 

そんな騒動が起こった放課後…もうすぐ夕日が沈む時間、病院で言えば、面会時間ギリギリのタイミングで、三玖はある場所を訪れていた。

 

ノックのあとに、スライドドアを開き、声を掛けると…

 

「よう、三玖……どうやら、その顔を見るとちょっとは成長したってところか?」

 

「…うん。その分、四葉に大変な思いをさせちゃったけど…」

 

病室のベットに寝ていた翔太が気が付き、リクライニングを起こし半座の体勢になって、彼女の来訪を出迎えた。

 

そう…三玖が訪れたのは翔太の病室だった。翔太の方も三玖が来た理由は察しており、顔つきを見て、多少の自信がついたそれを持ってきたのだと分かり尋ねると、苦笑いしながら三玖は答えた…同時に、脳裏に顔色を青くする四葉の色々な顔が浮かんだが…

 

「…お前に料理を教えて欲しいと言われて、早二か月…最初の頃は絶望的だったがな。そんなお前が自信があるって言って持ってきたんだ………いや、待った。やっぱり逆に危ない気がしてきた」

 

「失礼…ちゃんと四葉のお墨付きをもらってるもん…」

 

どこか遠いところを見るように…これまでのことを振り返っていた翔太が笑みを浮かべて…そして、そのまま顔を青くした。三玖の自信がある発言が逆に危険だと思っての言動だったが、流石の三玖も頬を膨らませて抗議していた。

 

…つまり、三玖がここを尋ねたのは師匠でもある翔太を尋ねたというわけで…話は春休みの最終日…ダブルがストレングス・ドーパントを倒した直後の話にまで遡る。

 

『翔太って料理できるんだよね?…だから、私に料理を教えてほしい』

 

『…?………はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

そんな三玖の依頼に、翔太のすっとんきょうな悲鳴がリボルギャリーの中で響き渡ったあと…アブソーブ・ドーパントとの激闘から数日が経った頃、三玖は佐桐家を訪れていた。

 

「…これはひでぇ…」

 

「…ご、ごめん」

 

眼下に広がる惨劇に、翔太は思わず手で顔を覆う。横に立つ三玖はとてつもなく申し訳なさそうにして謝罪していた…まぁ、その惨劇をやらかしたのが、彼女だからこその謝罪だったわけだが…

 

「まさかオムレツが…その……スクランブルエッグになるとはな」

 

「…気休めはいいよ、ショータ…黄色に黒いのが混じった料理だし…」

 

佐桐家のキッチン…三玖の料理のレベルをまず知りたいと思い、まずはオムレツを課題に出した翔太だったが…予想を遥かに超える三玖の料理の出来前に、翔太は見通しが甘かったことを悟った。

 

フライパンの中には焦げが8割を占める卵のなれの果てが鎮座しており…多少言葉を選んでフォローしようとした翔太だが、分かっていた三玖はどこか投げやりな目をしていたが…

 

「……おおぅ。これは化学の実験か何かかい?」

 

「お前は黙ってろ、フィリップ…!?まぁ、なんだ…ダメなポイントはよく分かった。安心しろ、なんとかなると……多分思う」

 

「…お願いします」

 

たまたま母屋に来ていたフィリップが苦笑しつつも、ちょっと興味が湧いたようで、いつもの歯に着せぬトークで感想を述べていたが、翔太に睨まれたことで静かになった。

 

最初ということで、まずは何も助言せずに三玖の料理工程を観察していた翔太はいつもの笑みを浮かべて、三玖へとフォローの言葉を投げた。

 

三玖もこれから改善していくのだと、その意気ごみを示すかのように翔太に頭を下げて、二人は再び調理に掛かるのだった。

 

「まずは火加減を覚えろ。自分が思っているよりも、強・中火は違う。フライパンにどれだけ火が当たっているか、どういう料理をするかで使い分けるんだ」

「包丁は引いたり押したりすることで簡単に食材を切れる。素早く切るのは慣れてからでいい。まずは切る感覚を掴むんだ」

「目分量で覚えるのもいいが、慣れないうちは軽量スプーンを使え。料理はある意味、流れ作業だ。レシピの通りに作るっていうのは、数学の方程式みたいに完成品を仕上げるための工程だって、想像すればいい。段取りを守って、余計なことを最初はしなければいい」

 

三玖の悪い癖は、自分に自信が持てないことだった。

 

だから、自分のしていることが合っているのかと不安に感じてしまうことが時折見受けられていた。それが料理に出てしまっていたのだ。

 

ようは、味付けや調理の仕方に不安を覚え、余計なことをしてしまっていることが一番の問題だった。

 

そうと分かれば、翔太がやることなど決まっていた。料理における工程を嫌という程に叩き込んでやることだった。

 

そんな感じで、翔太と三玖の料理教室は不定期に行われることになった。

 

するのは勉強会の前後、三玖のバイトがない時にだ。場所は五つ子たちのアパートだったり、佐桐家だったりと時間によって交互にだった。

 

「日持ちする料理を覚えたい…?」

 

「うん…例えば、旅先で持っていけるような軽食がベストなんだけど」

 

そして、一通りの工程を叩き教え込み、オムライスなども多少は歪ではありつつも、なんとか形になった程の腕前になった三玖は、翔太にそんなお願いをしていた。

 

少しは自信がついたのと…先の事を見据えて、経験豊富な翔太なら何か心当たりがないかと思ってのお願いだった。

 

翔太の方も条件が結構絞られていることもあって、いくつかに絞られた選択肢の中から思い付くものを告げていく。

 

「生モノが入っているのはキツイからな…おにぎりとか…あとはやっぱりパンとかか?」

 

「…パンって、家で作れるの?」

 

「もちろん。まぁ、サンドイッチは食パン自体がカットされてからの日持ちが短いし、挟む具材によっては更に短くなることもあるしな…だから、パン自体を手作りできるような種類の方がいいだろうな。メジャーなところで、コッペパンとか……クロワッサンとかか?」

 

「クロワッサン…あれも作れるの!?」

 

「お、おう…一回ちょっと気になって作ったことがあるからな。レシピを見れば、多分教えられるぞ…ただやっぱり難易度はかなり上がるぞ?」

 

翔太も最初はちょっと焦がしたこともあって、素人同然だった三玖にはちょっと厳しいのではと思って、一応の忠告はしたのだが…

 

「…お願い、ショータ。作り方、教えて」

 

「…分かったよ」

 

迷うことなく、まっすぐな目でそうお願いしてきた三玖に、それ以上言うのは野暮だと思い、翔太は肩を竦めながら依頼を承諾したのだ。

 

…まぁ、翔太の懸念通り、最初は全然上手くいかなかったのだが…

 

一回目はパンとも呼べぬまっ黒くろすけ…どちらかといえば、黒曜石モドキなのではと翔太が思ってしまったほどの大失敗に終わり、

 

二回目は焦がすのを心配しすぎて、水気が全然抜けきっていないねちょねちょパンになってしまい、

 

翔太自身も手伝いながら、三玖に作り方を教えていくのだが、どうしても捏ねや伸ばしといった手作業を挟む分、感覚を伝えるのに悪戦苦闘していた。だが、それでも、三玖は諦めることなくクロワッサンを作り続け、

 

「なぁ…なんで、三玖は料理を教えて欲しいって頼んできたんだ?」

 

ある日…焼き上がるのを待つ中、ふと翔太がそんなことを尋ねた。

 

今回の出来はそれなりでは…工程に変な感覚も覚えなかったためにそう思い、安堵したこともあって、思わず尋ねてしまったのだ。

 

本来、プライベートのことかと詮索を避けていたのだが、今日に至るまで必死に頑張ってきた三玖の原動力が何か、どうしてそこまで必死になっているのかを知りたくなったのと…そして、弟子の成長を感じたからこそ出た疑問だった。

 

「料理を教わるのなら、二乃にだって頼むことはできただろう?それなのに、なんでわざわざ俺なんかに頼んでまで」

 

「バイトすることになって、個人の時間が結構減ったから…二乃には二乃の時間があるから、邪魔するのは悪いかなって」

 

「…俺はいいのかよ?」

 

「フィリップと付き合ってるせいで気を遣ってるんだから、その保護者であるショータが責任を取るべきじゃないの?」

 

「…言うじゃねぇか。まぁ、別にいいけどさ」

 

「あと、二乃に教わると時々うるさいから」

 

「お前、それが本音だったりしないよな?」

 

オーブンレンジを前に、他愛ないように会話をする三玖に翔太も肩を竦める。姉とその彼氏に気を遣って…という言葉の後に、とんでもない理由を告げられて、思わず驚くも、三玖のポーカーフェイスからはそれが本音かどうかを悟ることはできなかった。

 

「…でも、料理が上手くなりたいって思ったきっかけは…やっぱり、作ったものを『美味しい』って言ってもらえたからかな」

 

『…うん。どっちも美味いな』

 

「…へぇ~」

 

そう告げる三玖の唇は笑みを浮かべていて…脳裏には半年前の出来事が蘇っていた。姉のおしゃれな料理に対して、自分は無残な形であるオムライスを対決で作った時、彼が零した感想の言葉を…

 

…もちろん、あの時は味音痴だと知らずにそのまま受け取っていたが…それでも、三玖からすれば、初めての経験だったわけで…

 

三玖の感慨深く呟くその姿に、意外だと思った翔太は感心の溜息を吐いていた。

 

「まぁ、ちょっと分かる気はするな」

 

「ショータも…分かるの?」

 

「俺だって、最初から料理が上手かったわけじゃない。うちは今もそうだが、両親が家にいないことが多くてさ…で、自分の為でもあったが、やっぱり疲れて帰ってきた両親に食べてもらいたいっていうのもあってさ…失敗した料理も美味しいって言い繕ってもらった時なんか、次こそは!って思ったりもしてたしな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「だから、三玖のそういう気持ちっていうか…そのきっかけっていうのは、とてもいいことなんじゃないか?」

 

「…うん」 

 

隣にいる友人でもあり、弟子が…過去の子供だった自分と重なって見えたような気がして…思わずそんな過去の話をしてしまった翔太。意外な過去を知って、ちょっと驚く三玖だが、親近感を覚えたせいか、笑みを零していた。すると…

 

…チーン…!

 

焼成が完了したことを告げるオーブンレンジのベルが鳴り響き、二人はその戸を開いた。その中で焼かれていたクロワッサンはというと…

 

 

 

「…ああやって、パンの形になるまで長かったよな」

 

「ハハハ……そうだね」

 

『パンだ!ちゃんとパンになってる!?』みたいな発言をしてしまうほどに、あのあとちゃんとできあがった完成品を目にして、二人で歓喜したことを懐かしむのは病室のベットに半座する翔太で、その姿に釣られて思い出した三玖も苦笑していた。

 

味はまだまだ粗かったが…それでも、なんとかひとまずの完成へと至った二人。だが、その少しして、ウェザーとシンクロ・ドーパントの一件があり、翔太が入院することになってしまったのだ。

 

…で、家で練習していた時に試食係を受け持っていた四葉への負担が一気に集中し、成功率6割に対して、残りの失敗4割を食べることになり、顔を青くする機会が増えたというオチに繋がることになった。

 

「それで…それが四葉を犠牲にして、仕上げてきた完成品ってことか」

 

「うん…!自信があるからこそ、師匠である翔太に最後のジャッジをしてほしいと思って…持ってきた」

 

三玖が手にする小包…その中にあるそれを察して、翔太は感慨深そうに呟く。これは師匠として、しっかり吟味すべきなのだと覚悟し、机の上に置かれた小包に手を突っ込む。

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

三玖が緊張して見守る中、翔太は取り出したそれ…クロワッサンをまずは観察する。見た目は普通…というより、結構しっかりしている。自分と最後につくったものよりも良くなっていると言えるだろう。

 

だが、見た目が良くても、味が酷ければ本末転倒…バターの匂いが鼻孔を刺激し、食欲をそそるが…それを動力として、翔太はクロワッサンを齧った。

 

「…(モグモグ)」

 

「………ど、どう?」

 

「……なんというかだな」

 

「…(ゴクリ)」

 

「……正直驚いた…普通に美味い」

 

「…!」

 

美味い…驚きながらも、ポツリとそう呟いた翔太の感想に、三玖の顔に生気が戻るのと同時に、嬉しさで熱がこもる。

 

「あれから、よくここまで仕上げたな。文句なしの出来栄えだ…これなら、マズいって言った奴の舌が馬鹿だっていってもいいレベルのものだ…本当にたいしたもんだ」

 

「本当…?本当に、美味しい…?」

 

「おう。自身を持て、これはマジでうまいクロワッサンだ」

 

「…っ~!うん!」

 

お世辞も気休めでもない…本音だけのその感想で更に後押しするように告げた翔太の言葉に、三玖も安心するのだった。

 

「これで…修学旅行も安心…」

 

「修学旅行…?もしかして、修学旅行に作って持っていくつもりだったのか?」

 

だからだろうか…安心したこともあって、思わず本音が零れ、それを拾った翔太が尋ねると、あっと思いつつも、観念したように三玖は答え始めた。

 

「…うん。一日目のお昼が自由昼食だから…その時に」

 

「…そういや、そんな日程だったな。それじゃ、他の姉妹たちと一緒に食べるってことか?五月から聞いたが、お前ら同じ班になったんだろう?二乃もこの出来栄えは文句も少ないんじゃないか?」

 

「…・う・じゃ・い…」

 

「えっ…すまん、聞き取れなかった。もう一回頼む」

 

「…そうじゃない。みんなに食べてもらうためじゃない…」

 

「みんなじゃないって…じゃあ……」

 

「………ショータはとっくに気付いているだろうから、言っておくね…私…」

 

これまで師として料理を教えてくれたのと、勉強を教えてくれる親しい友人として、そして、妹が…無自覚だろうが…一番信頼しているであろう彼には打ち明けるべきだと思った三玖は、顔を赤くして本心を告げた。

 

「…修学旅行で…フータローに告白しようかなって…思ってるの…」

 

風太郎に告白する…そのために、このクロワッサンを仕上げてきたのだと…本来の目的を告げたのだ。偽ることなく、自分の覚悟を証明するかのように告げた三玖だったが…それを聞いた翔太はというと…

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「…しょ、ショータ…?」

 

…絶句していた…

 

これ以上見たことがないほどまでに目と口を開いて驚く翔太に、逆に三玖までもが驚いてしまうほどにだ。そして、ようやく現実が頭で理解できた翔太だが、

 

「…ええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?い、痛たたたたたぁぁぁぁ!?!?」

 

そして、絶叫して、それが原因で傷に響き、激痛に襲われる…しかし、そんなことなど知ったことないとまでに、翔太が受けた衝撃はかなりのものだったわけで…!

 

「お、お…お前!上杉のことが好きだったのか!?」

 

「えっ……し、知らなかったの…!」

 

「知るわけないだろう!えっ?!いつからだ!?いつから、あいつのことが好きだったんだ!?」

 

「え、えっと……翔太と知り合ってから、少ししてかな…色々あって」

 

「あー…あん頃か。接触を最低限にしてた時か……まさか、春先の旅行で、お前があの五つ子ゲームに乗じて、偽五月を演じたのも…もしかして、それが理由か…!?」

 

 

「…やっぱりショータは私が五月のフリをしていたのに気付いてたんだ。そうだよ…本当は学年末テストで皆の中で一番の成績を取れたら、告白しようかと思ってたんだけど…」

 

(…なるほど、ようやくあの旅先での五つ子ゲームの真意が分かった。そういうことだったのか……待てよ。確か、学年末テストの結果をみんなで共有していた時、一花の様子が変だったのは…三玖の気持ちを知っていたからじゃないのか…?)

 

これまで謎だったことが、三玖の風太郎に対する気持ちというピースを理解したことで、これまで穴だらけだったその謎を補填していく翔太。

 

それと同時に、学年末テストで様子がおかしかった一花のことまでが脳裏に蘇り、自分が思っていた以上に、五つ子と風太郎を取り巻く関係は複雑なものになっているのではないかと…翔太は冷や汗を流していた。

 

『佐桐君。おそらく、この修学旅行は無事には終わらないかもしれません』

 

それは、五月のあの言葉が現実になろうとしているのではないかと思わざるを得ない…いつもヤバい時に感じる、嫌な予感そのものだった。

 

「…まぁ、驚くには驚いたが…ともかく、師匠としてはこれだけは言っておく。自信をもってぶつかってこい……頑張れよ」

 

「…うん。あっ…ちゃんとお土産も買ってくるから」

 

「おう…それじゃ、気を付けて帰れよ?…って言っても、フィリップがここまで送ってくれたんだろうけどな」

 

「…それじゃ、バイバイ、ショータ」

 

ひとまずは…その懸念が当たらないことを願いつつも表には出さず、三玖に声援を送り、見送った翔太は…笑みを潜めて、視線を落とす。

 

(…五月が教えてくれたあの真実…三玖の気持ち…一花の態度……上杉、お前は気付いてるのか?)

 

行けないからこそ、思い出作りとして楽しい筈の修学旅行が悲劇に終わらなければいいが…そう願う翔太は、最悪の可能性を考え祈ることしかできなかった。

 

(あいつも行く予定だったのが不幸中の…いや、それはそれで負担を掛けちまうことになるか?)

 

こうなれば、彼ら彼女らに任すしかない…来週に迫る修学旅行を前に翔太は、独り病室でそう思うのだった。

 

 




翔太、三玖の恋心を知るってよ(黒笑)

修学旅行に行かないと決めた時点で、もう色々知ってもいい立ち位置かなと思ってのぶっこみでした(笑)これで、一花の真実まで知ったら…ムンクの叫びを上げそうですね…

さらっと照井が風太郎と同じ班になってますが、原因が翔太という…知られたら、後が怖いという…

次回は原作の買い物編ですかね…ちょっと短くなりそうな気もしますが…できるだけ早めに更新できたらなとは思ってます。

それでは、また!
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