普段とそう変わりない文字数になりました(笑)
ちょっとオリジナルも交えてたら、意外に長くなりました。
旅行前の一時のお話です。
それでは、どうぞ!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『…それでお前の気が済むのなら止めはしないが…』
アパートの居間…炬燵テーブルにバックを置いて、一人佇む五月の姿がそこにはあった。その脳裏に浮かぶのは、先日見舞いに行った際に告げられた翔太の一言。
あの少女に関する真実を知った翔太の反応が複雑なものであったのは、五月の予想通りだった。そして、先を言い淀むような態度は…翔太なりの気遣いを込めての言葉だったのだろう。
(…上杉君…あなたは…)
「あれ…?五月だけ?」
「…は、はい!」
覚悟を決め、ぼんやりとそんなことを考えていると、突然居間の方に入ってきた四葉に声を掛けられ、慌てた五月は見えかけていた鞄の中身を隠すように抱え込む。
「…ん?今、何かカバンに入れなかった?」
「ええ…!修学旅行の準備です」
「そっか…もうすぐだよね。そういえば、佐桐さんのお見舞いに行ったんだよね…何か言ってた?」
「気を付けて楽しんでこいと、お土産をよろしくと言ってましたよ」
修学旅行ということで、やはり頭に浮かぶのは行けなくなってしまった翔太のことで…四葉から見舞いのことを尋ねられた五月は、表向きの伝言を答えた。
「楽しんで、か……佐桐さんっぽいね。でも、最近なんだか雰囲気の悪い私たちにはちょうどいいのかな…また修学旅行で仲良くなれるといいね!」
「…そう、ですね。また、あの頃のように戻れますよ」
「そうだよね…!よーし!私も準備を始めよっかな…何が必要だったかな?」
その言葉を受け、いつもの調子を取り戻した四葉は自分の分も始めようと気合を入れるのだった。
(…まさかライダーとして闘っていて、服に困ることになるとはな)
そんなことを思い、ショッピングモールをうろついていたのは普段着である赤いジャケットを羽織る照井だった。
修学旅行が週明けに迫る中、直前に準備をしていた照井だったが、その最中にワンルームのマンションであることに気付いた。
…そう、アンダーシャツが思った以上に不足していたのだ。
理由としては、アクセルと闘い出したからという最も理由だった。
これまで、アブソーブ、エディター、スノーマン、シンクロにウェザー・ドーパントと、どれも激闘に等しい闘いを短時間で繰り広げてきたのだが、どの闘いにおいてもダブルを含めて被弾することが多かった。
そのため、装甲を貫通したダメージで焦げたり破れたり、己の血で真っ赤に汚れたりなどなど…その度に普段着として使えるものの数が減っていき、それが準備中に露見することになったわけだ。
生活に困るものでなければいいと割り切っていた反動がきたと言ってもいいだろう…そういうわけで、それらの補充を兼ねて照井は買い物に来ていた、
翔太から喫茶『風都』のマスターを間接的に紹介してもらったのもあり、平日の放課後にはダブルの代役としてドーパント退治に駆り出ており、休日の今日はそれらしい情報もなかったため、時間ができたのも大きかった。
…もちろん、万が一に備えてドライバーとメモリはちゃんと持ってきているのだが…
(アンダーウェアはいつものでいいとして…あとは下着か。機能性が高いやつがあればいいのだが…)
そう思いながら、下着コーナーを回りながら物色している最中、
「お兄ちゃん、こっちにオシャレな奴が…きゃぁ!?」
「っ…!」
走っていた少女が自分にぶつかり、こけそうになったのを咄嗟に助けてしまった…小学生くらいかと思いつつ、その肩を支えながら照井は声を掛ける。
「怪我はないか?」
「えっと…はい。大丈夫です」
「らいは、先に行くなって……照井?!」
「…上杉?」
向こうから聞こえてきた声に覚えがあり、もしかしてと思い顔を向けると…相手も自身を認識して驚いていたことで確信を持った照井は、ため息を吐きながらも風太郎と目を合わせる。
「…奇遇だな。お前も来てたのか?」
「修学旅行の準備だ。そういうお前も同じ目的なのだろう?」
「まぁな…妹が迷惑を掛けちまったか?」
「そこまでのものじゃない」
淡々とではあるが、会話に応じてくれる照井に、風太郎は少しドギマギしながらも普通に話せていた。
まぁ、コミュニケーションお化けの翔太を例外として、ハイテンションで関わってくる武田に比べれば、自身と似た雰囲気を持つ照井は話しやすい相手なのだろう。
しかし、普段の彼とは珍しく違う様子に風太郎はどうしたのかと思っていると、その視線がらいはに集中していることに気付いた。一方で、初対面のらいはは面喰らっており、どうしたものかと困っていた。
「えっと…お兄ちゃん?」
「ああ、こいつは先日、転校してきた照井竜だ。今度の修学旅行も同じ班になったんだ」
「そうなんだ!兄がいつもお世話になってます!」
「…別に世話にはなっていない。買い物の邪魔をして悪かったな」
あの一匹狼である照井にしては珍しく穏やかな雰囲気で応える姿に風太郎が驚いている内に、照井が別れを告げようとしたのだが…
「あの…!よかったら、照井さんも一緒にお買い物しませんか?」
(いやいや…照井がそんな誘いに乗る訳が…)
「…いいだろう」
「えっ?」
らいはの誘いを、予想を裏切る形で素直に承諾した照井に、風太郎の口からはそんな声が出ていた。
「…いい妹じゃないか?」
「だろう…?らいはの良さが分かるなんて、流石だ!」
オシャレな下着を探しに行くと…兄の下着を探しに行ったらいはを待っている間、店内で照井と風太郎は他愛もない話をしていた。
らいはのことを褒められたので、自分のことのように誇らしく告げる風太郎だが、照井の顔を見て、その目が何か懐かしそうにしているのに気がついた。
「大事にしろよ…同じ明日がいつもくるとは限らないんだからな」
「それはもちろん大事にするが……なぁ、それって…」
その言い方に…どこか含みのある照井の言葉に、風太郎は問い掛けようとして、その口が止まった。
照井が仮面ライダーアクセルとして闘っていることは先日知ったが、それ以外に関することは一花を除き、風太郎たちはあまり知らない。
ウェザー・ドーパントと対峙した時に見せたその姿に…その時に言った『仇』という言葉を聞いたこともあり、風太郎の言葉を告げるのに二の足を踏んでしまった。
「…俺にも妹がいた。お前の妹みたいに…家族思いで、夢の為に一生懸命な奴だった」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
かつてはいた…その言葉の重みが測れない程に、風太郎も鈍くはなかった。風太郎も、らいはをダブルに助けてもらったことが一度あるからこそ、照井の言う言葉の重みが嫌という程に理解できた。
「よかったのか…そんなことを、俺に言って…」
「…少しだけお前が羨ましいと思ったのかもしれないな。確かに、らしくないことを言ったな、忘れてくれ」
「…なんか変わったな、お前」
「だとしたら、確実に佐桐の奴のせいだな」
「…悪い事じゃないと思うぜ。俺もあいつらには毒されたからな」
偶然にもその正体を知ることになったライダーの一人…共感できる部分が見つかったせいか、そんな照井に風太郎はどこか思うところがあったのも、また事実で…
「お兄ちゃ~ん、これとかどう!この際、ゴムがビロビロのパンツは全部交換しちゃうからね!」
「大声でそんな事情を語るのは止めてくれ!聞かれたら、笑われる!?」
「…フッ」
「おい、照井…今、鼻で笑ったな?笑っただろう、お前!?」
戻ってきたらいはに大声でパンツ事情を語られるのを制止するも、隣にいた照井には聞こえてしまい、笑いを堪え切れなかった照井を風太郎が問い詰めるという構図が出来上がるのだった。
「照井さん、いい人だったね~。我が家の家計状況を察して、奢ろうとしてくれるなんて」
「クラスメイトに奢られたら、俺の立つ瀬がないから、全力でお断りしたけどな」
下着の話から、普段の家庭状況を聞かれたらいはが素直に答えたことで、憐みの目が混じった照井が、服の料金を立て替えるという暴挙に出かかり、慌てて風太郎が止めた後、照井と別れた二人はその騒動について話し合っていた。
「でも、お兄ちゃんが悪いんだよ?ビロビロパンツをいつまでも履き続けてるから。そんなのを他のクラスの人に見られたら、笑われちゃうよ?」
「さっき照井には鼻で笑われたけどな」
「でも、せっかく家庭教師に復帰できたんだから、少しくらい自分のために使ってもバチは当たらないよ?」
「それは確かにそうだが…(…まぁ、佐桐が気を遣って、報酬を上増ししてくれたからな。身だしなみも大切だって言うから、これからはちょっとは気を遣うべきか?…ほんのちょっとだけ)」
らいはの言葉と、服装にこだわりを見せる翔太のことを思い出した風太郎は一理あるかと思い、どこか納得していた。そんなことを思っている風太郎に、らいはは思い出したように告げる。
「あ、でも、五月さんたちへの誕生日プレゼントをケチってたら嫌われちゃうよ?」
「へぇ…あいつら誕生日なのか」
「えっ…お兄ちゃん、もしかしてだけど……知らなかったの?」
「…え?」
「誕生日…もう過ぎてるけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
妹から信じられないといった目を向けられ、それから逃れるように風太郎は静かに一考したと思えば…
「ま、まぁ…プレゼントをやらなくても…つーか、あいつらも遅れてたし…いや、そもそもあっちから言わないということは…」
「…うわ~~…」
現実逃避と共に言い訳のオンパレードを並べる兄の情けない姿に、らいはからドン引きの声が漏れる。
ちなみにだが、翔太はストレングス・ドーパントの一件で誕生日のことは知っていた為、高級ブランドのチョコレートとクッキーの詰め合わせを送っていて(6割方が五月で消費されたらしいが)、フィリップも個人的に二乃に香水を送っていたという裏話があるのだが…
そんな情けない兄へと、らいはは容赦なく注意をする。
「頂いたらお返し!小学生でも知ってる常識だよ!」
「…!」
妹から言われてしまえば、返した方がいいのではという思考になり…そんなことを思っていた風太郎の視線にある光景が映り、
「…やっぱあげた方がいいかな?」
「ひゃあぁ!?…あっ、誰かと思えば…」
「上杉さん!らいはちゃんもこんにちは!」
罪悪感に押し潰されてからか、眼前にまで近づき本人に問い掛けるという暴挙に、それが風太郎だと気付いた五月と、遅れて気付いた四葉が反応する。
「五月さんと昨日メールしてたんだ。そしたら、一緒に買い物しようって…でも、照井さんとも会えたから、やっぱり来て良かったかな!」
「照井君もいたんですんか?ちょっと意外ですね」
「偶然だけどな…それよりも、誕生日の「あー…シーシー!」…ぐぅ」
本人たちに欲しいものを聞くという甘えに走ろうとする兄を制止するように黙らせるらいは。妹のその行動には風太郎も強く贖えない。
「お兄ちゃん、頭いいんだからそれぐらい考えられるでしょ?」
「…ぬぅぅ」「「…?」」
兄妹間の会話に、首を傾げる二人…仕方ないとばかりに、本題の買い物へと戻ろうとしたのだが、
「らいはちゃんが一緒なのは構いませんが、今から行くところには、あなたとは一緒には行けませんからね」
「はぁ…?」
何故か自分だけを拒絶する五月に風太郎は首を傾げる。だが、お構いなしについていこうとするのが風太郎クオリティ…容赦なく三人の後を追う。
(こいつらの買い物を観察してりゃ、欲しい物も見えてくるかも…)
「な、何故付いてくるのですか!?」
「どうせ同じ物を買うんだ、いいだろ?」
「いいわけないでしょう!?」
「はぁ…?修学旅行に持っていくものだろう?違うものなんて…」
「…っ~~!…ええ、そうです!しかし、同じであっても全く別物なんですよ…!」
「…え?」
拒絶しまくりの五月の態度に理解が及ばない風太郎…我慢の限界を迎えた五月の叫びがその場に響くことに…
「下着!!買いに来たんです!!」
(…デジュビュ!?)
以前にも似たようなやりとりがあったのと…そんなことを思いつつ、大人しく風太郎は追跡を断念することとなった。
「五月の奴め、あそこまで怒鳴ることないだろうに…」
「さっきのは上杉さんが悪いですよね…完全なるセクハラでしたよ、あれは」
五月と一緒にらいはも付いていったので、店外に四葉と待っていることにした風太郎はそんな愚痴を呟き、四葉に怒られていた。
「お前は一緒に行かなくてよかったのか?」
「あはは‥私、物持ちが良い方なので」
「…まだお子様パンツか」
「なぁ…なぜそれを…!!」
二学期の期末試験前の騒動時に盗み聞きしていたことをそのまま口にしただけだったのだが…風太郎の指摘に、純粋な四葉は動揺して正解だと反応で示してしまった。
「ったく…模試が終わったばかりとはいえ、こんなことしている場合かよ…」
別に風太郎も息抜きが不必要だとは思っていない…しかし、この気の緩みがまた油断を誘いそうだという懸念があっての発言だった。
まぁ、それは…相方である翔太が入院していることからくる不安も併せてのことだったが…マルオにあんな宣言をした以上、それを実行しなければ、家庭教師として駄目だと思った風太郎は、咄嗟に横にいた四葉に問い掛けていた。
「四葉…お前、将来なりたいものとかあるか?」
「…えっ?突然ですね。うーん……考えたことなかったですね」
(…やはりか)
鮮明な答えが返ってくるとは期待していなったこともあり、無表情のまま答えを受けた風太郎は熟考する。
(とはいえ、四葉はずば抜けた身体能力がある。その方面で探してやれば、きっと適したものが見つかる筈なんだが…)
「おまたせー」
四葉の長所からどうしたものかと考えていたが、帰ってきたらいはの声に風太郎の意識は現実世界へと戻された。
「おかえりなさい、らいはちゃん…あれ、五月は?」
「奥で採寸と試着をしてるよ」
「採寸って…五つ子なんだから、他の奴と同じサイズでいいだろ」
「ピッピー!上杉さん、今度は五つ子ハラスメントですよ、イツハラ!」
一緒に行った筈の五月がいないことを四葉が尋ねると、どうやらまだ店内にいるらしい。まだ待たされると思った風太郎から出た悪態を、四葉が新たに作り出した造語を持ち出して注意する。
「でも、採寸は確かに不自然です……はっ!もしや、五月…一人だけ抜け駆けしたんじゃ…」
「五つ子のみなさんも大変なんだね」
「そうなんですよ…最近なんて、特に……あっ」
「…?どうした?」
らいはに同情され、思わず自然にそのまま近況を語ろうとした四葉だったが、この場に風太郎がいるのを思い出し、慌てて口を閉じる。どうしたのかと風太郎が問い掛けるも、四葉は話を逸らす。
「い、いえ…とにかく!林間学校は散々な結果で終わってしまったので…今度こそ!後悔のない修学旅行にしましょうね!」
「…!まぁ、どうでもいいがな。前のようにならないよう、体調管理だけは気を付けるさ」
「もー、またカッコつけて…本当は楽しみにしてるくせに。お兄ちゃん、家で何度もしおりを確認してるんだから」
「らいは!?」
態度を素直に出さない兄に、らいはは容赦なくその隠した感情を暴露する。妹の暴挙を止めようとするも、らいはの勢いは止まらず、
「それに…写真の子にも会えるかもしれないしね!」
「…それはないだろう」
「あれ…?出会ったの、京都じゃなかったっけ?お父さんがそう言ってたけど」
「だとしても、向こうも旅行者だから、全く同じタイミングで来るなんてゼロに等しいだろう…」
「…あの…写真の子ってなんですか?」
兄妹間で繰り広げられる話に、蚊帳の外である四葉がどういうことかと問い掛ける。沈黙を貫く風太郎だが、代わりにらいはがそれに答える。
「ほら、見せてあげなよー」
「な、なんでもねーよ…写真ももうない」
「…むぅ」
なんとか追及から逃げようとする風太郎だが、その態度が四葉の好奇心を刺激してしまったようで…
「なんだか怪しいですね!何もやましいことがないのなら言えるはずですよ!なぜ話せないのか、私には分かります!それは上杉さんに未練があるからです!さぁ、話してすっきりしちゃいましょう!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
(珍しくお兄ちゃんが押されてる…こういう話になると途端に弱いなぁ)
四葉の怒涛の口撃に風太郎は何も言い返せない…勉強はできるくせに、そういう感情面の話になると、昔から一気に劣勢に陥る兄を見てきたことから、冷静な分析をするらいはは状況を見守っていた。
その状況に音を先に上げたのはやはり風太郎だったわけで…
「京都で偶然会った女の子だ…名前は零奈」
「えっ…零奈って…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「…おしまい」
「…今のでおしまいですか!?」
すんなりと説明があったかと思いきや、それだけ説明するともう終わりだという風太郎の言葉に、四葉もそう簡単に引き下がるわけにいかず…
「いや、そこで終わりだなんて…かなり内容が気になるんですが!?もう少し詳しく教えてくださいよ!」
「つまりね…その人がお兄ちゃんの初恋の人だよね?」
「えっ…は、初恋!?」
「…おい、誰もそんなことは「(…グゥゥゥゥ)」…えっ?」
風太郎が言い淀む代わりに、らいはが答えたことで四葉の好奇心と乙女心が更に駆り立てられる。もっと聞かせてくれという彼女と思い込みが混じった妹のやりとりを止めようと風太郎が口を開くも、空腹を知らせるお腹の音が代わりに遮り…
「えへへ…食べ物の話したら、お腹すいちゃった」
「いや、一言もしてないけど…」
「じゃ、じゃあ!私が何でも買ってあげちゃいますよ!あっちにフードコートがあったはずですから、行きましょー!…あっ、上杉さんは五月を待っている係です!」
「…って、勝手に……行っちまいやがった…はぁ」
あれはらいはが色々と四葉に吹き込みそうだと思いつつも、止められるような勢いでもなかったため、遠くに二人を見送りながら風太郎はため息を吐く。
短時間で色々なことが重なったせいで、精神的な意味で疲れを感じた風太郎は近くにあったベンチへと腰をかけた。眼前を何人もの通行人が通り過ぎ、大勢の客の喧騒をBGMとして聞きながら、一瞥することなく風太郎は声を掛けた。
「二回目は驚かねぇぞ……零奈」
「…!」
気配を消していた自分の横に座っていた彼女へとそう告げた風太郎の顔には、その言葉通り驚きの色はなかった。むしろ、言われた側の彼女の方が驚いていたくらいだ。
「なーんだ、残念…前みたいに驚いたところを見れると思ってたのに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
以前と会った時と同じ淵のおおきい帽子とコートに身を包んだ少女に視線を向けることなく、聞きに徹する風太郎。そんな彼の様子に構わず、少女は話し掛ける。
「修学旅行京都らしいね?懐かしいなー」
「そんな世間話はいい…もう姿を見せないじゃなかったのか?なぜまた現れた?」
本題を早く言えとばかりの態度を取る風太郎の冷静な問い掛けに…それでも、零奈は余裕の笑みを崩さずに答えを口にした。
「君に会いたくて…って言ったらどうする?」
まるで風太郎を試すかのように…明るい声でそう理由を告げた少女。それに対し、風太郎は目線だけを動かし、静かに答えた。
「…こんなことしなくても、いつも会ってるだろ」
「…え?」
…その言葉は、少女の余裕を吹き飛ばすには十分過ぎた。
少女からすれば、風太郎は自分の正体に気付いているのではと連想させてしまう答えに、パニックに陥ったその顔が徐々に赤くなっていく。だが、次の言葉に風太郎の真意を理解することになる。
「零奈…なぜ母親の名前を名乗った?」
…そう…きっかけは春先の家族旅行だった。中野家の祖父から、母親の名を聞いた風太郎は、少女が母親の名前を語っていたことに気付き、その当時、既にその真相に気付いていた翔太にも裏を取ったのだ。
学年末試験の少し前…五月が日課にしている月命日の墓参りに翔太が付き添った際、五つ子たちの母親が眠る墓石に刻まれた名前を見て、その事実に気付いていたのだ。
そうなれば、今、自分の眼前にいる少女の正体など限られてくる…風太郎は半ば確信に近い考えを持ち、少女に母親の名を騙ったわけを尋ねたのだ。
「はは…そこまでバレちゃってるんだ」
「偶然が重なったっていうのもあるがな…母親の名前を知っていて、二度もこうやって来た時点で、そうなんじゃないかっていう確信が強まった」
「あの時は咄嗟にお母さんの名前を使っちゃったの…まさか、そこから推測するなんて、流石は君だね。でも、それで良かったのかも…私から君に伝えたいことを逆に言ってくれて。信じてもらえなかったらどうしようかと思ってたくらいだから…」
冷静さを取り戻し、余裕の笑みを浮かべ直した少女は立ち上がり、風太郎と対峙するように向き直ると、問い掛けてきた。
「君の考えている通り…私は五つ子の一人。君に私が分かるかな?」
それは五つ子ゲームのような、問い掛けだった。
またしても、自分を試すかのような問い掛けに風太郎は…
「…わからん!早く教えろ」
「諦め早っ!?」
まさかの速攻での降参宣言を繰り出し、再び少女を驚かせていた!
もう少し悩むものかと思っていたが、考えるどころか、そんなゲームに付き合うのが面倒くさいとばかりの態度を示す風太郎に、慌てて少女も抗議の声を上げる。
「普通そんな直球に聞くもんじゃなくない!?ほら、成績優秀なんだから考えてみてよ!」
「そういうのは佐桐に話を振ってくれ…誰が誰とか、誰のフリをした誰とか…そんなのはもうたくさんだ」
やれやれといった態度をしたと思いきや…俄然とした態度で風太郎は少女の問い掛けに応えることはなく、はっきりと告げる。
「あいつらが…いや、俺たちが楽しみにしている修学旅行を前に、変なケチをつけんな。しっしっ…」
今はそんな些細なことに付き合っている場合ではない…今の自分は、四葉に言われた通り、修学旅行をいい思い出として過ごせるようにしようとすることがやることなのだと…その気持ちを言葉にした風太郎のはっきりとした拒絶が言葉として提示された。
だが、少女は…予想外の風太郎のその答えに、顔を真っ青にさせていた。
「…なんで…気にならないの…?私の事……どうでも良くなったの…?」
「(…零奈…?)…いや、お前には……あっ…行っちまいやがった」
それまで纏っていた雰囲気が…いや、メッキが剥がれたという表現の方が正しいのだろう。呆然とした様子でそう呟く少女に、風太郎もそういう意味ではないと言葉を足そうとするも、少女はそれを聞く前に賭け出し、人混みの中に消えていってしまった。
それを見送り、追い掛けることはしなかった風太郎は、何かを言いたそうな表情をしたまま、考え込むのだった。
「…なるほど。あれが上杉風太郎を変えたという例の少女か」
その一部始終を見ていた者が一人…相棒の代わりに、五月と四葉の護衛役としてこっそりショッピングモールに来ていたフィリップが本を片手に興味深そうにそう呟いていた。
その手にライブモードにしていたバットショットが収まり、ガジェットモードにして写真を確認する…そこには、風太郎と先程の少女が映っていて…
「どうやら、翔太の勘が当たりそうだね。これは…」
昨夜、相棒から理由は隠されながらも五つ子たちと風太郎に注意してくれと言われ、一応風太郎の方にも監視をつけていたのだが…思わぬ現場に遭遇したことに、フィリップは相棒の勘の良さに感心しつつ、自分自身も嫌な予感を覚えずにはいられなかった。
「あらっ…こちらで試着していたお客様は?」
「鞄しかないけど…」
「すみません」
試着室の周辺…二人の店員がさっきまでいた筈の客に関して不思議がっていると、その当の本人が帰ってきて、荷物を置いていた試着室へと再び入った。そして、帽子を取ったその素顔は…
(思った通りにいかない…けど、楔は打ちました)
思った成果にならなかったことに、複雑な思いを抱く五月の姿がそこにはあった。頭から手に取った帽子は、さっきまで風太郎と会っていた『零奈』と名乗っていた少女のものであり…
それでも、布石は打ったという思いと共に、五月はコートと帽子を持ってきていた鞄に隠し、試着室を後にした。
そして、向かえた修学旅行当日。
「いよいよ始まるね…」
「おーい、五月…新幹線乗るよー!」
待ち合わせの駅にて、集合時間に遅れないように生徒たちが集まる中、五つ子たちの姿もそこにはあり、覚悟を決めるように告げる一花の横で、離れていた五月を呼ぶ四葉の声がホーム内で響いていると、
…カシャ!カシャ!
「…?何かしら…」
「どうしたの、二乃?」
「なんか…誰かに見られているっていうか…変な視線を感じるのよね」
「…きの…せいじゃないの……ふわぁ…」
「そうなのかしら…って、随分眠そうね、三玖。あんた、新幹線に乗った途端に寝ないでよ?」
何かの気配を感じ取った二乃が周囲を確認するように目線を向ける…そんな妹の姿に一花も釣られて周囲を見る一方、眠気を隠さないように目を擦る三玖の姿があり、気のせいかと思った二乃も視線を姉妹たちの方に向けようと…
「あっ、上杉君!…今日は自由行動でしたよね?良かったら、私たちの班と一緒に清水寺行きましょうよ!」
「は?」「「「「!?」」」」
風太郎の姿を目にした途端、そんな提案をした五月の姿に、風太郎と五つ子たちから別々の驚きの声が出る。
末っ子の突然の行動に、理解が追い付かない二乃は目を丸くし、一花も驚きを隠せず、眠気に襲われていた三玖の意識は一気に覚醒したほどにだ!
「いや、今回は班ごとに行動だろ?」
「まぁ、そう言わずに…たまにはいいじゃないですか」
いきなりの提案に戸惑う風太郎だが、頑として譲る気のない五月…その行動にはどうしてもそうせざるを得ないという考えがあって…
(京都での思い出は大切な筈じゃなかったのですか?あなたなら、気付いてくれると信じてます)
(…い、五月まで…!?どうしちゃったのーっ!?)
唯一関係ないと思っていた五月までもがいきなり態度を豹変させて行動に出たことに、四葉は自分が見ているものが信じられず、大混乱に陥っていた。
そんな混沌とした状態のまま、彼らの修学旅行が幕を明けようとしていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そんな彼らを見守る様に、一人の男がトランクケース片手に離れたところから新幹線に乗り込んでいた。
あんだけボロボロになってるのに、服が消耗してないわけがないんですよね(真顔)
そんなとんでもない無茶ぶりから、照井と風太郎が絡むお話から原作のお話へと繋がるエピソードでした。
前章のこともあって、大分丸くなったので、照井と風太郎とらいはを絡ませるのも面白いかと思っての展開でした。
次回は…まぁ、また長くなりそうな気が…あれやこれやとちょっとオリジナルも混ぜていきますので。
今年の更新は本話がラストですね…次回は一月更新予定です!
それでは、また!