仮面ライダーW/Kの花嫁   作:wing//

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サブタイ通り、遂に開戦です!
というわけで、問題のあのシーンが遂に…

それでは、どうぞ!


第92話 「古都のL/シスターズウォー開戦」

「さてと…新幹線が着くまでまだまだ時間があるわけだし、班メンバーの仲を深めるためにも何か面白い話をしようじゃないか!リクエストはあるかな?」

 

「勉強」「俺に質問するな」「…じ、自由旅行で行くところに関してとか…?」

 

「よし、UNOでもやろうか!他にもトランプとか花札とかもあるよ!」

 

京都に向かう新幹線の中、班メンバ―ごとに固められた席にて雑談していく旭高校三年生…その一班、班リーダーを担う武田が率先して話題を振るうも、風太郎と照井の通常運転での返しに対し、まともに答えたのは前田だけだった。

 

もっとも、めげることなく遊びへと方向を切り替えた武田のポジティブ精神は凄いのだろう…花札を持っていた理由は分からないが…

 

そういうことで、武田の強引な誘いによってUNOを始めた風太郎たち一行…それとは別に、同じカードゲームのトランプで遊んでいる一行もいるわけで…

 

「はい、フルハウス!」

 

「ぐぬぬ…もう一回!もう一回勝負よ!」「負けた~」

 

ポーカーによる勝負…ワンペアとスリーカードの組み合わせであるフルハウスの手札を公開した一花に、スリーカードを揃えた二乃が悔しそうに呻き、ワンペアだった四葉も降参だと言わんばかりの反応を出していた。

 

「エヘヘ、いつでも受けて立つよ」

 

「……三玖、三玖ってば。ポーカー終わったよ」

 

「…はっ!あ、ツーペアで…」

 

「遅いし弱い!」

 

二乃の声に一花が応えるように、再度勝負を始めようとする中、負けた悔しさに沈黙と化していた五月とは別に、同じく静かにしていた三玖。

 

いつもは口数が多くない方だが、今回のそれは理由が違った…完全に舟を漕いでいた彼女へと、四葉が起こすように声を掛けると遅れての反応が返ってきた…もっとも、二乃のツッコミの通り負け手札だったのだが…

 

「眠そうだね…今朝、早起きして佐桐さん家に行ってたんだよね?」

 

「うん…翔太が使っていいって言ってくれたから。フィリップに頼んで、朝からキッチンを貸してもらった」

 

「…出来栄えはどう?」

 

「上々…あとはフータローに食べてもらうだけ」

 

「そっか。いよいよだね…ずっと今日の為に頑張ってきたんだから、きっと大丈夫だよ!私も最後まで応援するから!」

 

「…冷めても美味しいといいんだけど」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

他の姉妹たちに耳打ちでこっそりと会話をする四葉と三玖…唯一、行動の意図を知らされていたのもあって、眠そうながらも自信がある三玖の答えに、四葉も釣られて笑みを浮かべていた。

 

そんな二人の会話を聞こえずとも、見ていたことで何かを察した一花は少し考え、その提案を口にした。

 

「そうだ、次勝った人はなんでも命令できる…って、ルールはどうかな?」

 

「なんでも命令…いいわね、面白そうじゃない」

 

「受けましょう」「負けない」

 

(あ、あれぇ~…なんか、みんなの纏う雰囲気が…)

 

勝者の命令を何でも聞く…とっても魅力あふれたその提案に、二乃は言葉通りに面白そうだと笑みを浮かべ、考えすぎて目をグルグルさせていた五月も、眠気が吹っ飛んだ三玖までもが静かに受けて立っていた。

 

唯一、トランプを楽しもうと思っていた四葉は姉妹たちから発せされる物凄い圧に冷や汗を流していた。錯覚だろうが、メラメラという音を立てた炎が周囲に立ち上がっているようにも見えたほどだ。

 

(このバチバチ…トランプだけの盛り上がりだよね…!?)

 

どこか願うような彼女の問い掛けに応えてくれる者は残念ながらここにはおらず…負けられない(?)戦いが始まろうとする中、新幹線は轟音を立て京都へと向かうのだった。

 

 

 

「…諸注意は以上だ。では、解散」

 

京都に到着し、新幹線から降りた生徒たちは集合して教員からの注意事項を聞いていた。修学旅行お馴染みの風景ともいえるそれが終わり、解散が告げられた中、各自が思うがままに行動し始める。

 

…カシャン…カシャ!

 

「…?……(また、あの音…でも……)」

 

「どうかしましたか、二乃?」

 

「え…う、ううん。多分、気のせいだわ…さてと、これからどうするかよね?」

 

五つ子たちも自由行動時間にどこに行こうかと話し合っていた最中だったのだが、二乃が何かを探すように周囲へと首を振っていた。そんな姉の行動に疑問を持った五月が問いかけると、気のせいだったと言って二乃は意識を話へと戻した。

 

「みんなは行きたいところある?」

 

「やっぱり旅と言えば買い物よね。古~いお寺よりお洒落なお店の方が楽しいし、京都でしか買えないものもあるから」

 

「…確かに。地方のお土産というのは人気が高いらしいね。検索によれば、お菓子やキーホルダーの他に木刀などを買っていく人も多いらしいね」

 

「分かってないな、二人とも。せっかくの京都だよ?だったら、ならではの美味しい物を食べさせて…コホン……みんなで食べて、写真を思い出にするべきだよ」

 

「それも一理あるね、中野一花。僕的には八つ橋なるもの、そして、本場の宇治金時なるかき氷を経験してみたいね」

 

「私も是非!京都に来れば、その辺りは外せま……って、フィリップさん!?!?」

 

「「「「えっ……ええええええええええぇぇぇ~~?!?!」」」」

 

四葉の質問に、個人の欲望が込められた二乃と、個人の策謀が漏れかけた一花の意見が返され…そんな意見に自然と最初からいたように相槌を打つ声があり、思わず賛同し掛けた五月が視線を向けて、数秒後に驚きの声を上げた。

 

それに遅れ、面々もようやく彼の存在を認知し…同級生だけでなく、駅にいた人たちの視線を集めるほどの大絶叫を上げた。

 

「しっ~…そんな大声を上げては、周りの人たちに迷惑だろう?」

 

「いやいやいや!?なんでここに…というか、その恰好…!?」

 

「これかい?翔太の制服をちょっとね。眼鏡は変装ってとこかな…ちょっとは似合ってるかな?」

 

「いやいやいやいやいやいや!?そういうことじゃなくって…どうしてここにいるんですか?」

 

一花の当然な疑問に、制服姿で一回転するフィリップがどこか面白そうに笑みを浮かべて応える。

 

本人が言うように、フィリップが今着ているのは翔太の制服だった。そこに、前までよく使っていた変装用の眼鏡をし、制服の上から薄着のフード付きカーディガンを着込んでいたのだ。独特な緑色の髪もフードを被ったことで周囲の目からは隠れていた。

 

だが、答えてもらいたいことを答えてはいないわけで…動揺しまくったせいで言葉が多くなった四葉の再度の問い掛けが放たれる。

 

「翔太に頼まれたんだよ…君たちの護衛をね。聞けば、照井竜は別の班とのことだったからね。奴らが君たちを狙っているとするなら、用心に越したことはないだろう?」

 

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

 

「…といっても、一応念のためといったところだよ。純粋な気持ちとしては、君たちに折角の修学旅行を楽しんでもらいたいだけだよ…ついでに、僕も検索して得た知識をこの目で確かめたいと思ってね!」

 

今度は真面目な返答が返ってきて…後半部分は声を潜めてフィリップが告げてきたことで、面々はどこか表情を硬くさせた。この前、あんなことがあったばかりなので当然だが…それを解こうとしてのフィリップの言葉にその硬直を緩ませた…もっとも、フィリップのそれはただ本音を言っただけなのだが。

 

ちなみに、翔太からの頼まれごとというのは本当だが…その理由は全く異なるものだった。

 

『この修学旅行…どうにもいい感じがしない。悪いんだが、こっそりとあいつらを見守ってやってくれないか?』

 

と、五月からある事実の告白をされたこともあって、嫌な予感を拭い切れずにいた入院中の翔太から頼まれたのが事の真相だった。

 

ついでに言うと、ダブルドライバーでの変身が主治医であるマルオから禁止だときつく言われている(バレたら、入院を長引かせると忠告までもされて)のもあって、単独変身ができるように、ロストドライバーをフィリップは持ってきているのだが。

 

更についでに言うと、確かに翔太から正式に修学旅行についてきたのだが…実は制服の使用許可を取っていなかったりする。つまり、今の恰好はフィリップの勝手な独断というわけで…事の次第を知った翔太がお怒りになりそうな話だった。

 

一同がフィリップが来た理由に納得していた中、そういえば、こういう場合に一番反応しそうな人物がおとなしくしていることに、四葉が気付き視線を向けながら声を掛けようとしたのだが、

 

…カシャ!

 

「…に、二乃ちゃん?」

 

「はっ……ち、違うわよ!?別に普段絶対に見ることないフィリップ君のレアな恰好を収めておきたいとか、ここで写真を撮る機会を逃せば絶対に後悔すると思ってなんかないから!?」

 

((((…思ってたんだ))))

 

シャッター音が切られ、一同がその発生源へと視線を集めると…二乃の胸元には構えられたスマホがあった。

 

どこか困惑が混じったフィリップの声に、どうやら衝動的に行動してしまっていたらしく、我に返った二乃が慌てて弁明するも、姉妹たちからすればバレバレの理由だった。

 

(…なにこれ…なにこれ!?フィリップ君+制服+眼鏡=カンペキ…じゃない!?イケメンに組み合わせちゃいけない奴じゃない!?理性が吹っ飛んでたら、確実に抱きしめてたわ…!?)

 

前言撤回…姉妹の予想を超える感動が二乃の中に渦巻いていた。この後、彼氏と一緒に旅行できるかもしれないという喜びを忘れるほどなのだから、よっぽどなのだろう。

 

「それで…話し合いの邪魔をしておいてなんだけど、目的地はどうするんだい?」

 

「えっ…ええっと……あっ、フータロー君たちの班が出発したよ」

 

「それなら、まずは上杉風太郎たちの班と一緒の場所に向かうとしよう。それでどうだい?」

 

衝撃が未だに収まらない五つ子たちに対し、話の軌道を元に戻そうとフィリップが問い掛けると、一花が風太郎たちが動き出したことに気づき告げた。それに連なるように、フィリップからの声に一同は彼らの後を追うのだった。

 

(困りましたね…まさかフィリップさんが一緒だなんて。本来であれば、なんとか上杉君をこの場に留めて、あの日のことを連想してもらおうと思っていたのに…)

 

「五月、どうしたの?みんな、行っちゃうよ?」

 

「えっ…ええ、今、行きます」

 

予期していなかったフィリップの同行…頭から予定が頓挫した五月は頭を抱えたくなるのをなんとか堪えていたが、四葉に呼ばれて駆け足で先に行く面々を追い始めた。

 

その面々の中で、三玖は胸元に小包を大事そうに抱きかかえながら、どこか不安そうな表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

「なんだ、ここ…?」

 

「学問の神様が祀られている神社さ。前田君、君の成績は見るに堪えないんだから、深―く祈りたまえ」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

東の方角の名を持つ神社…京都旅行の初めは、学問の神が奉られた神社へと来たのは、彼らの班メンバ―の過半数が秀才組だからだろうか?もちろん、そんな彼らの後を追って、五つ子たち&フィリップも来ていたわけだが…

 

そんな中、一人だけ場所を知らないでいた前田が当然の疑問を声にしていた。それに答えたのは、静かにお参りをする風太郎と照井の横にいた武田だ。もっとも、その説明には純粋な善意を込めた(全く遠慮なしの)ストレートすぎる評価が含まれていたので、

 

「んだと、コラァー!?」

 

「お前ら、うるせー!」

 

「上杉、お前もうるさい。神社の前なんだから、もう少しおとなしくしろ」

 

「おや、照井君は意外にも信仰心が強いのかい?」

 

「俺に質問するな…別にそんなものじゃない。ただ常識を言ってるだけだ」

 

即座に意図に気づきキレて怒鳴る前田に、叫んでツッコミを入れる風太郎に、冷静に制止する照井というちょっと混沌とした状況…そこにマイペースな武田が会話に混じってカオス度が加速していた。

 

傍から見れば健全な男子高校生のやりとり…そんな騒がしい四人のやり取りを文字通り、(柵の)影から見守るのが五つ子たちなわけで…

 

「なんか…地味ね」

 

「こらこら、そんな罰当たりなことを言わないの」

 

「ふむ、学問の神様か…そういえば、そういうのは検索したことがまだなかったな。折角だ、この神社を含めて『星の本棚』で検索を「ちょ!?フィリップさん、ここではダメです!?」」

 

先程の駅からの発言から分かる通りの反応を今度は言葉にした二乃に、姉の一花が諫める。一方で、学問の神というキーワードに関心を覚えたフィリップがいつものノリで検索を始めようと…したので、四葉が慌てて制止していた。

 

…翔太がいない今、止めれる面々が限られるので、苦労する人が多発しそうである。護衛の人選をミスったのではと言うのは野暮な話である。

 

「移動するみたいだよ」

 

「隣にも神社があるみたいだね」

 

「自由昼食は今日しかないのに…やっぱり班行動が最大の難関」

 

一花と四葉の言葉で、後を追う風太郎たちが移動するのが見えた。なんとかタイミングを見つけて声を掛けたい三玖だが、風太郎が照井たちと離れずにいて困っていた。そんな不安そうにする三玖に四葉がその背中を押しながら励ます。

 

「大丈夫!きっと、二人きりになれるチャンスがある筈だよ!」

 

「…うん」

 

そう言って、風太郎たちを追いかける一同…そんな中、ズレた眼鏡を直す(必要はないのだが)フィリップはあることを思っていた。

 

(あの小包…朝に作っていたパンか。あれを上杉風太郎に食べさせたいってことなのか?でも、どうして…普通に継風で食べさせるのは駄目なのか?)

 

事情を知りつつも、翔太からはプライベートに関わることは聞かされていなかったのと…相棒と同じようにそういう恋愛感情云々に大変疎いのも手伝って、そんな疑問を抱いていたのだった。

 

…どうして、そこで自分と同じケースなのかとは思わないのだろうか。

 

 

 

「わぁっ…!これずっと鳥居なの!?」

 

そんなわけで、追ってきてやってきたのは伏見稲荷大社…その中でも有名な千本鳥居だった。奥にまで続く鳥居の列に、感嘆の声をあげる四葉だが、他の面々も同じ感想を抱いていた。

 

「写真では見ていましたが、やはり実物は壮観ですね」

 

「そうね、これは映えるわ~……ほら、あんたたちもそこに並びなさい」

 

木漏れ日に照らされた鳥居群を潜る面々…自然と声が弾む五月に対し、その光景をスマホで撮影し、次に姉妹たちの写真を撮ろうとして一同に集まるように告げる。

 

「二乃ちゃん、僕が撮影するから君も一緒に写るといいよ」

 

「えっ…うん、ありがとう」

 

 

二乃に代わって、撮影者を買って出たフィリップがスマホを受け取る。二乃を最後に、鳥居をバックに五人が横並ぶ。

 

「なんだか姉妹だけなのも貴重だね」

 

「あー…五人だけってなかった?」

 

「花火の時は写真撮ってないっけ?」

 

「…撮ってませんね。それこそ、小学校の頃の修学旅行以来じゃないですか?」

 

「そろそろいいかい?それじゃ、撮るよ……はい、チーズ」

 

懐かしさからそんな話をしていく五つ子たち…落ち着いた一瞬を見計らい、声を掛けたフィリップの合図に一同は思い思いのピースをしたところでスマホの撮影ボタンを押す。

 

「ありがとうございます、フィリップさん!良かったら、今度は私がフィリップさんを取りましょうか?」

 

「僕はいいよ、気にしないでくれたまえ」

 

「…フータロー、もう上かな?」

 

「先に見えてこないってことはそうでしょうね…男子って足が速いから」

 

「よーし!早く追いつけるように、私たちも頑張ろー!!」

 

撮ってもらったお礼に今度は自分が四葉が申し出るも、フィリップが笑顔と同時に遠慮していた。その間、追いかけてきた筈の風太郎の姿が見えないことに、三玖が呟きを零していた。

 

先に行っている可能性が高いと二乃も同意し、三玖の気持ちを察し、四葉が元気よく先導を切って歩き始めた。それに続いていく姉妹たちだが、

 

(本当はフィリップ君とも写真を撮りたいんだけど…四葉と五月の前じゃそういう真似をするわけにはいかないし…ここは諦めるしかないわね)

 

既に関係がバレている一花と三玖はともかく、まだ知られてない四葉と五月の前では恋人ムーブをして知られるのは恥ずかしいのもあり、自制心をなんとか聞かせるべく、二乃はそう心の中で呟いていた。

 

先を行く姉妹たちを追いかけなければと、フィリップからスマホを受け取ろうとしたのだが…

 

カシャ!

 

「えっ…?」

 

肩を抱き抱えられたと思ったときには、スマホのシャッター音が鳴っていた。そこには、自撮りモードに切り替わったことで、驚いた表情の自分と、少し顔を赤くしたフィリップの顔が写っていた。

 

「…ふ、フィリップ君?」

 

「二乃ちゃんはこうしたいじゃないかって…今はみんなの視線もなかったから。駄目だったかな?」

 

自分のしたいことを察して動いてくれたことに、茫然としていた二乃の頭脳がようやく事態を理解し、その顔を一気に赤くさせていく。

 

「…ダメじゃない…けど、もう一枚撮りたい…今の写真の顔、絶対に変だったから」

 

折角の彼氏との写真なのだから、ちゃんとした表情で撮りたい…そんな我儘を告げて、二人はもう一枚写真を撮り直すのだった。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「…大丈夫、フィリップ君?」

 

「だ、大丈夫……でも、まさかこんなにキツイとは予想外だったけどね」

 

写真を取り直し、他の四人を追い掛けたフィリップと二乃だったが、息を切らした彼を心配するように二乃が声を掛けていた。

 

そんな心配に額に浮かんだ汗を拭いながら答えるフィリップだったが、言葉とは違いそこまで余裕はなさそうだった。

 

「それにしても、結構長いわね…」

 

「そ、そうですね…足が痛くなってきました」

 

「五月ちゃんもフィリップ君もファイトーだよ。まだまだ登り始めたところだよ?」

 

二乃の方もそこまで余裕があるかと聞かれるとそうではなく、ここまで階段に慣れていないというのもあって、五月が悲鳴に近い声を出していた。そんな面々を一花が励ましていると、バテバテの三玖を助けながら少し先を行く四葉から更に元気な声が聞こえてきた。

 

「もー、みんな遅―い!」

 

「中野四葉は元気だね…彼女のスタミナなら、ライダーに変身しても普通に戦えるんじゃないかい?」

 

「アハハ、本当にできそうで怖いけどね…そういうフィリップ君はそんなので、どうやってライダーとして戦っているの?」

 

「ファングジョーカーは機敏性に優れるから、基本短期決戦で戦ってるんだよ。そもそも、翔太をメインにしてダブルは戦うことが多いから…まぁ、この状況では中野四葉が元気すぎるような気もするけどね」

 

「それが四葉の良いところだからねー」

 

「…そうね、あの子の真っすぐさは本当に美点よね。どこかの腹黒さんとは大違いだね」

 

「…!」

 

まだまだ元気いっぱいの四葉の姿に、感心した様子のフィリップとその評価に苦笑する一花が会話する中、二乃が厳しい言葉と共に割り込んだ。いきなりのことに、どうしたのかとフィリップが眉を顰めるも、二乃は言葉を止めない。

 

「フィリップ君がいるから、私が恋愛脳で呆けると思ってたら大間違いよ。どうせ今日も悪巧みを企ててるんでしょ?分かってんでしょうね、前に言ったように…」

 

「ははっ、そんなにお姉ちゃんに信頼がないかな、二乃……しないよ、そんなこと」

 

見逃したりなどしない…そうとも取れる言葉を放った険しい表情の二乃に、苦笑交じりで一花はそう返す。それとは別に、その視線から逃れるように握っていた鞄の紐を無意識に強く握っていた。

 

「…道が二つあるね」

 

四ッ辻…頂上までの中間ポイントへと着いた五つ子たちだったが、その視線の先には二つに分かれたルートが見えていた。四葉の言葉にどっちの道へと行くべきかと思案していると、一花は案内図を見ていた。

 

「どっちも山頂に続いてはいるみたいだよ」

 

(フータローはどっちの道に行ったんだろう…もしすれ違ったりして、フータローたちがお昼を食べたりしちゃったら…)

 

「あっ!もうお昼ですし、あそこのお店でお食事を取りましょう!」

 

「えっ…ま、待って…お昼は…」

 

「何よ、他に食べたいものがあるの?」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

ここでタイムロスをして、風太郎がご飯を食べてしまうとチャンスが無くなってしまう…そんな焦りを心中に浮かべる三玖だが、そこに追い打ちを書けるようにご飯処を見つけた五月が昼食の提案をしたことで更に焦燥感が加速する。

 

なんとか断りたいところだが、二乃の主旨が異なる問い掛けに、真意を告げるわけにもいかず、三玖は言葉を詰まらせていた。それを見ていた一花も思うところがあり、良心を押し殺し沈黙を保っていた。

 

完全に打つ手なしとばかりに黙り込んでしまった三玖の姿に、自分がなんとかしなければと四葉が狼狽えながら必死に頭を働かせる。

 

「え、ええっと……(ど、どうすれば…!なんとかみんなが上杉さんたちを追いかけるように誘導しないと……あっ…!)」

 

姉妹たちの行動をなんとか軌道修正したいと思いつつも、その手段が思いつかないでいた中、あることを思い出した四葉は息を吸って両腕を突き出してある提案をした。

 

「二手に分かれよう!」

 

「「「「え?」」」」

 

右手と左手…左右にそれぞれ3本の指を立てて告げたその提案に、他の四人が思わず声を揃えて驚いていた。

 

「私と三玖とフィリップさんは右のルート、一花と二乃と五月が左のルートね!そうすれば、上杉さんと入れ違わずにすむよ!」

 

「ちょ…勝手に決められちゃ…」

 

突然の提案に、最悪の可能性が思い浮かんだ一花が思わず反論しようとするも、得意げな笑みを浮かべた四葉は…それは予想したと言わんばかりに自信満々に口を開いた!

 

「新幹線の中でフルハウスをした時の権利をここで発動しまーす!勝者の私が絶対!なんでも命令できる権利!!」

 

「うっ…!?」

 

それをここで持ち出すのか…そんな言葉がピッタリな表情をして、反論を口にしていた一花が硬直する。

 

そう…新幹線内で行われていた『なんでも一つだけ命令できる権利』を賭けた戦いの末、勝利したのはなんと四葉だったのだ…一番、欲を持っていなかった彼女が権利を得たという、無欲の勝利の結果に終わったのはなんという皮肉だろうか。

 

「あっ、それなら僕は二乃ちゃんの方へと移りたいな…というか、僕はそのゲームに参加してなかったから、命令を聞かなくてもいいのかな?」

 

「はっ、そうでした!大丈夫ですよ!」

 

ちょっと蚊帳の外にいたフィリップからの指摘に、そうだったと思いつつ、逆に思惑的には有難い申し出に四葉は笑顔でオッケーを出した。

 

「(これで、あとは上杉さんに追いつくだけだよ!)」

 

「(うん…ありがとう、四葉)」

 

(やっぱり二乃ちゃんとできるだけ一緒にいたいからね)

 

思惑的には全く違う理由なのだか、結果的にそれぞれのメリットへと同じ方向を向いた…小声で言葉を交わす四葉と三玖、そして、残りの四人は左右に分かれて再び歩き出したのだった。

 

 

「三玖~、早くしないとお昼の時間が過ぎちゃうよ~!」

 

「う、うん…あと少し…!」

 

右のルートを行く四葉と三玖…声援を送りながら上段に立つ四葉の声が鳥居内で響く。そんな彼女の声に応えようと、バテバテで息を切らし肩を大きく揺らす三玖だったが、その目はまだ死んでいなかった。

 

いや、これはもう意地になっていると言ってもいいだろう…それだけ、今日このために準備と覚悟をしてきたのだから。

 

「この日の為にずっと頑張ってきたんだもん…あと少しだけ頑張ろっ!」

 

「四葉…本当にありがと……頑張、る!」

 

そんな彼女の頑張りを知っているからこそ、四葉は声援を送り続ける。そして、それに手を引かれるように三玖もまた階段を登り続けるのだった。

 

 

時を同じくして、左ルートを行く二乃たちは…

 

「もうお昼なのに…お腹が空きましたね」

 

「何度も言わないでよ、五月…余計にお腹が空くわ。そういえば、上杉たちはお昼ご飯どうするつもりだったのかしらね?」

 

「さあ…そういうのは武田さんとか調べてそうな気も……あれ?」

 

途中の間所で休憩を挟み、フィリップと二乃、五月がそれぞれ男女のお手洗いへと行っていたのだが、会話しながら出てきた二乃と五月だったが、

 

「…一花はどこに…?」

 

「っ……しまった、やられた。まさか、こうも堂々と仕掛けてくるなんて…!」

 

待っていると一人外にいた筈の一花の姿が見えず、周囲をきょろきょろする五月に対し、瞬時に状況を悟った二乃はそう呟くのだった。

 

 

「ハァ…!ハァ…!」

 

二乃の想像通り、一花は階段を全速力で駆け上がっていた。息を切らし駆けるその顔には、疲労とは別のもの…焦りの汗も表情と共に浮かんでいた。

 

(地図を見た限りでは、こっちのルートの方が山頂まで短い。四葉だけなら負けるかもしれないけど…三玖の体力を考慮すれば私の方が早く着く!)

 

四葉のあの提案(というよりは命令といった方が正確か)を聞いた時は万事休すかと思ったが、見ていた地図のことを思い出したことで、一花はすぐさま策を切り替えた。

 

だが、それは同時にその先の策を考えながらの行動でもあった。

 

(フータロー君に会ってどうしよう…班には照井君も始め、他の男の子たちもいる…それでも、三玖の動きが怪しい。四葉も積極的に行動しているところか見て、きっとこの修学旅行中にアクションを起こす筈。

 

…またやるしかない!一度吐いた嘘はもう取り消せないなら…

 

三玖を止めるため……私は噓つきを演じ続ける!)

 

それは覚悟だった。

 

人を騙し、偽り…そして、傷つけることになるとしても…

 

もう既に過ちを犯してしまったからこそ、ブレーキを掛けることができなくなってしまっていたのかもしれない。

 

嘘を吐いたら最後…最後の最後まで演じ続けるしかないと…そう心に決めてしまった一花は、肩掛けの鞄からそれを…変装用の五つ子セットの中から、三玖のウィッグと青いヘッドフォンを取り出し、身に着けた。

 

「…着いた」

 

『14』…一ノ峯(頂上)と刻まれた案内板を前に、変装を完璧に整え終わった一花は風太郎の姿を求めて周囲へと視線を走らせる。

 

「……誰もいない」

 

頂上には風太郎どころか、人っ子一人いない状態だった。落胆せず、すぐさま思考を切り替えた一花は、次に取るべき行動を考える。

 

(左ルートですれ違わなかったということは……やっぱりフータロー君はまだ右ルートの途中…!)

 

風太郎は三玖と四葉が選んだ右ルートにいる…そう確信した一花はすぐさま駆け出した!

 

「急がなきゃ…これだけ走ったんだから、三玖たちはまだ……っ!?」

 

焦りのあまり、思考が言葉となって出ていたが、それが突如として止まった。それは駆けていた足をも同時に止まっていたわけで…

 

その理由は、いまから駆け下りようと考えていたルートの出口から、四葉と、彼女に背負われた三玖の姿が目に入ったからだった。

 

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

…ドクン

 

「え……」

 

……ドクン!

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

………ドクン!!

 

心臓の音だけが酷く頭に響く…その音がどんどんと強くなるような気がしていた一花は、それが自分の呼吸が早くなっていることだと理解できずにいた。

 

それは、一花と…いや、三玖の恰好をした彼女と相対することになった三玖と四葉も、理解できずにいるという部分に関しては同じだった。

 

これは天罰だろうか…神の審判を疑いたくなるその展開に、三人は言葉を発することができず、葉を揺らす風の音がその場に響き渡っていた。

 

 




あっ、フィリップも修学旅行に参加します(知ってた)

まぁ、翔太が参加できないのなら、彼が代わりに参加するわけで…前話のラストでトランクケースを持っていた人物はフィリップだったわけです。ちなみに、風太郎と照井は翔太からメールで知らされていたという裏設定があります。

…えっ、問題はそこじゃないって?
いや、もうラストでお届けしたままの状態なので…二乃とのいちゃつきからの急転直下で温度差がエグイことになってますが、次回はもっと大変なことになるかと…

というよりも、次章(間章を挟みますが)の話が更にエグイ内容なので…本章が次章から次々章のフラグ立てでもあるわけで(そのせいで、本話のサブタイ滅茶苦茶悩みましたし)

次回もお楽しみに!

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