サブタイ通り、本話も重たいのですが…とりあえず、一花ファンの皆様、大変もうしわけありません!
それでは、どうぞ…
「誰かに盗撮されてる?」
昼間の一件から、各自のタイミングでホテルへと帰ってきた五つ子たちと風太郎一行。同じく自由行動から戻ってきた他の学生たちに混じり、夕食を食べている最中、先に食べ終わっていた四葉が、姉の告げた事実に首を傾げていた。
ちなみに同席している五月は何度目になるか分からないおかわりした御飯を食べている真っ最中だ…話はちゃんと聞いているのだろうか?
「そうよ…最初は偶然かと思っていたんだけど、照井もさっきの神社でシャッター音を聞いたって言って…何か変わったことはなかったかって聞いてきて、私も同じような音を駅とかで聞いたって教えたの」
「えっ…?!そ、それって…」
「その可能性も考えられるし、もしかしたらただの盗撮犯に追っかけられているっていう可能性もあるわ…あっちの駅から聞こえていたから、修学旅行の最初からつけられていた可能性も否定できないけどね」
「そ、それで…!?照井さんや……ふ、フィリップさんはどうするって?」
「…?二人とも警戒はしておくって。照井の奴なんかは一人になることがないようにしろって言ってたわ。フィリップ君は…まぁ、いつも通りって言った感じだけど、照井の方はちょっと意外だったわよね」
二乃自身ももしかしたら気のせいや偶然と捉えて気にしていなかったのだが、照井も同じ経験をしたと聞き、何者かが自分たちを盗撮していると確信したのだ。
四葉が言おうとしたことが、その盗撮がガイアメモリ関連なのではと察し、そちらの可能性も敢えて否定することはなく、しかし、必要以上に不安を煽ることはせずにライダー組の対応を説明する。
…まぁ、先程、風太郎の暴露によって二乃とフィリップが付き合っていると知った四葉が一瞬キョドったものの、そちらに関しては気づくことはなかったようだが。
「例え、ガイ……メモリ関係でなかったとしても、盗撮なんてサイテーな行為よ!前にニュースでやってたもの、修学旅行がよくターゲットにされるって…!」
「それが事実だとして、そして、目的が後者だったとしても…そこで、どうしてターゲットが二乃という話になるのですか?」
「ちょ、五月!どういう意味よ!?」
途中まで言いかけてしまった言葉を言い直し、正体が知れぬ盗撮犯に憤慨する二乃だが、(ちゃんと話を聞いていた)五月がジト目と共に待ったを掛けた、どこか呆れたような言い方に、自意識過剰だと言われたような気がした二乃から抗議の声が上がる。
…カシャン
「…!!ほら、やっぱり…!?」
「ご馳走だね~」
「インスタあげよー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
後ろからすぐ聞こえたシャッター音に二乃は逃がさないとばかりにすぐさま振り返る…が、そこにはスマホで豪華な夕食を撮影しようとする女生徒の組がいるだけだった。そんな的外れの事態に肩透かしを食らった二乃を放置し、五月と四葉は本題へと話を戻していた。
「それより、三玖と一花は…あれからずっと部屋に…?」
「うん…私も話をしに行ってみたんだけど、三玖も一花も出てこなくて…」
「そうですか…一花も三玖も急にどうしたんでしょうか。屋上で何かあったようですが…四葉は一緒にいたのに何も知らないのですか?」
「えっ?!え、えっと……そ、そうだ!やっぱり私、様子を見てくるよ!」
風太郎を巡って三角関係のせいです…とは口が裂けても言えるわけがない四葉。(本当は知っているのではないかと思いたくなるぐらい)自然体で聞いてきた五月の問いに、誤魔化しついでに様子を見に行くと席を立ったのだが、
「待ちなさい」
「に、二乃…?」
「…もうすぐ食べ終わるから、ちょっと待ちなさい。一緒に行くわよ」
「……ありがとう」
「わ、私も行きますよ!二乃、早く食べ終わってください!」
「五月、急かす前にあんたも……って、食べ終わってるのね。あんなにお代わりしてたのに…」
自分も一緒に行くという姉の言動に、四葉も自然と笑みを浮かべる…既にお代わり分までも食べ終えていた五月の催促を受け、食事を終えた三人は一花と三玖の様子を見に自室へと戻るのだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「何度も頼んですまないんだが、トマトも食べてくれるかい?おや、上杉君…どうしたんだい?」
「なんでもねーよ…というか、宇宙飛行士を目指してる奴が好き嫌いしてんじゃねーよ。というか、あいつ…前田はどうした?」
「長いトイレだね…まぁ、それ以上に一分も経たない内に夕食を食べ終えてどこかに行ってしまった照井君も行方も気になるんだけどね」
「…なら、照井を探すついでに前田も探しに行くか」
「ということは、僕もだね」
「ついてくんな、というか、その前に飯を全部食え……って、食い終わってんのかよ」
そして、少し離れた席で、二乃たちの動向を気にして注意が散漫していた風太郎と武田がそんな会話を交わしていたのだった。
「(コンコン)…三玖―、一花―、いるんでしょー?鍵開けなさーい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「反応なし、ですね…」
「電話も無視と…ここ、私たちの部屋でもあるんだけど…(まぁ、いたとしても一花か三玖のどっちかでしょうね…同じ部屋にいるとは考えられないし)」
自室へと戻ってきた二乃たち三人…だが、自室の扉はロックが掛かっていた。中には三玖が一人だけいるのだが…オートロックであることが災いし、鍵を彼女が持ったまま閉じこもってしまっていたのだ。
二乃からそんな言葉が出るのも仕方ないわけで…一方で、一花と三玖のどちらかしかいないだろうとも予想していた。さて、どうしたものかと考えていると、
「三玖、ごめん!私のせいで…!でも、まだ修学旅行は二日あるんだよ。だから、これから私に取り返させてほしいんだ!」
「……(四葉………ううん、四葉は何も悪くない)」
堰を切ったように謝罪と共に必死に協力を要請する四葉…それは扉越しに三玖にも届いていた。だが、今回の一件が…いや、今、自分が抱えているものが四葉のせいではないことをよく分かっている三玖の心に更に影を差していた。
「四葉…」
…カシャン
「「「…?!」」」
その四葉の言動に二乃もひとまずは任せるべく様子を見ることにしようと…思った矢先、あのシャッター音がすぐ近くから聞こえ、三人に緊張が走った。
「は、はは…二乃が変なことを言うから、わ、私まで幻聴が聞こえてきました…」
「そ、そうよね…幻聴よね」
今しがた聞こえたものを否定したいという感情が出ている五月に、自分が言い出したことである筈なのに同調して認めようとしない二乃の表情が引き攣る。
「いくらなんでも、ホテルの中まで…」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
そうだ、まさかホテルにまで追っかけてくるわけがないと思いたい三人が振り返った視線の先に見えたのは…まさしく通路からカメラを持った手が出ている光景だった。
白昼堂々というべきか、それとも恐れ知らずと評すべきか…使い捨てカメラで堂々と三人へとシャッターを向けるその姿は、まさしく今から盗撮しますと言ってるようなもので…
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
…カシャン
「「「っ!?…キャアアアアアアアアアアアアァァァ!?!?」」」
シャッター音が切られると共に大絶叫を上げた三人が一目散に逃げ出すのは当然の話だった。そして、その悲鳴は少し離れた場所にも聞こえていて…
「なんだ、今の悲鳴…!」
武田と別れ、一人ホテルを探索していた風太郎の耳にも届いていた。二乃たちの悲鳴だと判断し、すぐさま悲鳴が聞こえた方へと駆け出そうとして…
「今のは何が……フータロー君?」
「一花、お前…」
「いいところで会ったね…明日は時間ある?」
同じく悲鳴を聞いて走り出そうとしていた一花と角で出くわすこととなった。予期していなかったエンカウントに一花も風太郎も驚くも、女優としての胆力から一花はすぐさま切り替えあることを尋ねた。
「「「はぁ…!はぁ…!?」」」
一方、盗撮犯(仮)から逃げるべくホテルを全力疾走した三人は、盗撮犯(仮)が追ってきていないことを確認してからようやく一息つけていた。疲労と恐怖のダブルパンチに大きく息を切らす五月を四葉が介抱する横で、二乃はチャンスだと思いスマホを取り出し、通話アプリを起動させ、
『(プルルル…)…!二乃、今の悲鳴って…!?』
「やっと出たわね、この閉じこもり」
先程の悲鳴で、部屋の中にどちらかがいるのなら自分たちを心配して電話に出る筈…二乃が予想した通り、部屋に籠っていて扉越しに悲鳴を聞いて心配していた三玖が電話に出たのだ。
これで電話に出ない薄情な姉妹であれば、マスターキーを借りてでも部屋に乗り込んで怒鳴ってやると考えていたが、そうではなかったことに安堵しつつ、部屋にいたのが三玖であったことを確認し、悪態を吐きながら二乃は会話を続ける。
「三玖、あんた、明日はどうするつもりなの?もしもこのままずっと部屋にいるつもりだっていうのなら…」
ようやく話ができたところで、グダグダいっても仕方ないと思った二乃はすぐさま本題を切り出し、三玖へと尋ねた
「「話したいことがあるんだけど」」
一花と二乃…離れた場所で、尋ねる相手が違っていても、その内容は全く同じものだった。
「はぁ…!はぁ…!ヤバかったぜ…今のはバレるかと思ったぜ」
時を同じくして、二乃たちの悲鳴にびっくりしてその場から全速力で逃げ出したものがここに一名いた。肩で息を切らしながら、流れる汗をカメラを持つ右手の甲で拭いながらホッとしていたのだが、
…ガッ!
「い、いたたたたぁ!?」
「悲鳴が聞こえたから駆け付けたが…なるほどな、中野次女が言っていた通りだったらしいな」
一瞬の動作で腕を背中に回して関節を決められたその人物に、気配を直前まで押し殺していたことで接近を気づかせないでいた照井が静かに…しかし、低い声色で問い詰めようとしていた。
「さぁ、吐いてもらおうか。お前は一体……どういうことだ、なんでお前が…?」
「痛い痛い?!話す、全部話すから?!まずはこれを解いてくれよォ!?」
だが、その人物の顔を確認したところで、照井は珍しく驚いていた。一方で、捕まった人物も抵抗することなく、すぐさま降参の意思を表示していたので、すぐに拘束を解いた。
その人物とは…
「おー、駅までよく見えるね」
「…うう、落ちたらどうしましょう…」
各人の思惑が絡んだまま、修学旅行は二日目を迎えた。
今日は京都の各所観光地を巡っていく予定になっており、旭高校一行がバスに乗ってやってきたのは、舞台から飛び降りる逸話で有名な清水寺だった。
そんな舞台から遠方を眺めながら感嘆の声を漏らすのは四葉で、その右横で下を見てしまったことで顔を青くして震える五月の構図が出来上がっていた。
まぁ、彼女たちは今年受験する身でもあるので、五月の言葉はそういう意味にも捉えれそうだが、今の状況的にはリアルな意味のものだろう。
「さ、柵はもっと高いと思ってました…」
「あはは、そう感じるのは私たちが大きくなったってことだよ。今はこうやって手を使って、本当に飛び降りることだってできるわけだし」
「ちょ、ちょっと…危ないことは駄目ですよ、四葉「あっ…」…っ!!」
いつもの明るい調子ではしゃぐ四葉…そのまま手で柵に乗り掛かる姿勢を取り、流石に危険だと五月が注意しようとした途端、四葉の手が滑り…
「…なんちゃって」
「もー!止めてください!?」
滑ったのではなく、わざと滑ったフリをしたのだと悟り、悪戯成功の笑みを浮かべる四葉に、勘弁してくれといった表情で五月が叫ぶ……冗談であっても、大変危険なのでよいこは真似をしないように。
「ごめん、ごめん、ちょっとやりすぎだったね」
「お前らは相変わらず騒がしいな。他の人に迷惑にならないようにな」
「あれ、上杉君…?」
「よっ…うおっ、久々に見ると結構高く感じるな」
そんな二人のやりとりを聞きつけてか、それとも、舞台を見に来たのか…風太郎がやってきたことに五月が少し驚く。対する風太郎は昔来たこともあって久々の清水寺を懐かしんでいた。
「上杉さんお一人ですか?二日目は全体での団体行動ではありますが…お友達と一緒じゃないんですか?」
「ああ、三玖に用事があってな」
「…!三玖に、ですか…?」
「そうだ。それでお前らと一緒にいると思ったんだが…当てが外れたみたいだな」
一方で、他の班メンバ―がいないことに事情を尋ねる四葉に、風太郎は本来の目的…三玖に用事があると告げ、彼女を驚かせていた。
「三玖ならここにはいません。一花と二乃は二人とも2年の頃のお友達と見て回るそうです。そして、三玖はまだ体調が優れないようで、ホテルで休んでます」
「三玖のことは気になりますが、そういった理由で私たち二人でこの場はお送りしております」
「説明口調での解説ご苦労…そうか、半分以下は寂しいな。といっても、こっちの班も照井が寺に着いて早々に姿を消しやがったからな。ちなみに、フィリップはホテルに残ってくれてる。三玖のフォロー…というよりも、何か有事に備えての待機に近いか…そんな感じだ」
ここにはいない三人の事情を五月、四葉の順で説明を受け、いつも一緒にいるであろう五つ子の半分以上が欠けている状態に、素の感想が風太郎の口から出ていた。ついでに、軽く輝に関する愚痴がフィリップの現状の説明と合わさって返事として出ていたが。
「……(…はっ!これは…チャンスなのでは…!?)た、たまにはいいじゃないですか!いえ、むしろいい機会ですから、上杉君ももっと楽しみましょう!ほら、折角の清水寺ですよ!」
何のギアが嚙み合ったのか、謎の脳内計算を処理してしまった五月がそんなことを言い出した…あまりに唐突の言動に、あと、いつもの彼女からは到底考えられない態度に姉妹である四葉が困惑するのは当然で…
「い、五月…?」
「上杉君もこの景色を見てください、絶景ですよ!」
突然の妹の積極的な行動にどう言葉を掛ければいいか困り、その間にこのまま押し切ると言わんばかりの態度で風太郎を舞台の柵の方へと押していく。
「い、いきなりなんだよ…!というか、そんなに強く押すなよ、危ねぇって」
「ふふっ、こんなのが怖いんですか?男の子なのに」
「あっ?ぜ、全然怖くないんですけど~?お前の方が実はビビッてんじゃねーの?」
「な、何を言うのですか!?こ、こ…この程度、怖くあるわけがないでしょうが!?」
(ど、どうしよう…こういう時、佐桐さんがいつも止めてくれてたのに!?だ、誰か~…!?)
数分前の自分のことを忘れて煽る五月に、簡単に乗っかかり挑発し返す風太郎…結果、いつもの喧嘩が始まってしまった。
ここに翔太がいれば、両成敗といった感じで諫めているのだろうが…残念ながら、ツッコミ役を担っている頼れる彼は絶賛入院中なわけで、『助けてライダー!』みたいなノリで四葉が心の中で悲鳴を上げていた。
…この光景を翔太が見たらどう思うかは興味がつきないが、相棒のフィリップもここにはいないので、彼が知る由はないだろう。まぁ、そんな余談はさておき…
「あー、そうです…ツーショット写真を撮りましょう!ここで!」
「…はぁ?!なんでだよ…」
今日の五月は本当にどうしたのか…風太郎の心の声を代弁するとしたらそうと言わざるを得ないほどに、五月はとんでもない提案をしてきた。流石の風太郎も困惑を隠し切れず、四葉も五月の言動を見守ることしかできずにいたわけで…
「四葉、カメラの方をお願いします」
「い、いいけど…それじゃあ、撮るよ?」
「……やるなら早くしてくれ」
「は、はいっ…お手数お掛けします!」
もうどこか諦めた様子で早く終わらせてくれと言わんばかりの風太郎に、五月は忙しなく彼に近づき…なんとそのまま風太郎の腕を抱き寄せたのだ!
本当に…ここに翔太がいないことが残念でならないことが起こっているわけだが…五月には五月なりに狙いがあってのことだった。まぁ、その言動があまりにも突然かつ奇妙だったせいで、何か変な物でも食べたのではみたいなふざけた理由を連想しそうなのだが…
(うわ~…私はなんて大胆なことをしてるのでしょう!)
流石に自分でもこれはないと思いっきり恥ずかしがっていた…まぁ、普段の彼女の性格から考えれば、まずしない行動だから当然といえば当然だった。不器用な彼女のその特性が出てしまった結果でもあったと言えるだろう。
(し、しかし…!ここまですれば、上杉君も六年前のことを思い出してくれる筈…どうですか!?)
風太郎に何かを思い出してほしい…その一心で奇天烈な行動に出た五月の思惑に対し、風太郎は…
(そういや…あの写真もここで撮ったんだっけ)
五月の思惑通り、6年前にここに来たことを思い出していた。今は零奈と名乗った少女に取られて手元にない…彼女とのツーショット写真を撮影したのがここだったと思い出していた。
そして、記憶に導かれるままに視線がお守りなどを売っている場所へと向かい、
「(それから、あの売店であの子がお守りを五つも買って…そういえば、俺が貰った奴はあの時に川で流されていったっけ…………そうか…!!)………」
「…!どうしました?何か思い出しましたか!」
「…………いや、なんでもない。悪い、ちょっと一人にしてくれ」
「えっ…!ちょ、上杉君!?」
何かを思い出したような素振りを見せた風太郎。これは、と期待した五月がそれを尋ねるも、風太郎は応えることなく、そのまま一人でどこかへと行ってしまった。
(上杉君……どうして…?)
「ねぇ、五月…どうしたの?」
「えっ…な、何がですか…?」
「今日の五月、絶対に変だよ!五月までどうしちゃったの!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
残された二人…何も語らずに去ってしまった風太郎に五月はそう思う中、黙って見ていた四葉が限界とばかりに遂に尋ねた。三玖と一花の一件があったのも重なり、五月までもが態度がおかしくなったことに、四葉がこれ以上黙っていられるわけがなかった。
「ねぇ、五月…何か私に隠してるの?」
「…っ……それは、四葉もではありませんか。上杉君には知る権利があります…だからこそ、告げるべきではありませんか……あなたが」
四葉の問いに、五月はどうして自分がいきなりこんな行動を取り出したのか…その理由となった根拠を口にした。その部分は喧噪に搔き消され、四葉にしか届いていなかったが……それを聞いた彼女は…
「お、おいっ…どこに連れて行く気だ」
過去と最近と現在…因縁ある京都ということもあってか、様々なことを追想していた中、あることを思い出し、整理するために清水寺周辺を一人で彷徨っていた風太郎。
だが、今はある人物に引っ張られる形で寺からどんどんと離れる形で移動している最中だった。目的地も分からず、告げられていないこともあって尋ねるも、返ってきたのは
「いいから…こっち来て」
という素っ気ない…いや、どこか焦りを感じさせるような短い答えだった。
「急にどうしたんだよ………三玖」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
風太郎に名前を呼ばれても、彼女は振り返らずに風太郎の手を引いていく…振り返れないのは当然だった…彼女は三玖ではないのだから。彼女は…
『三玖の話を聞いてあげてよ』
昨夜…風太郎に話があると告げ、切り出したのはそんな提案だった。今日、三玖の話を聞いてあげてほしいと…その為に時間が空いているかと尋ねたのだ。風太郎の予定が空いていることを確認し、そして、風太郎が三玖を探すように誘導したのは…
最後に会った一花…今や、風太郎の手を引く三玖の恰好をした一花だった。
(三玖がフータロー君を好きだと知られたままじゃ私の嘘に矛盾ができてしまう。使えるものはなんでも使う…もう引き戻すことは…許されないことをした私にはもうこれしかないんだ…!)
それはまるで自分に言い聞かせるかのように…そんな風に考えなければ、自分が今からしようとしていることへの決意が揺らぎそうな気がしていたのかもしれない。それが…全てを欺き、裏切ることになったとしても…
(例え…みんなとの絆を失うことになっても…それでも、この戦いにだけは……フータロー君の気持ちだけは…誰にも渡したくない!負けたくない…!?)
自分では止められないその気持ちのまま、一花は風太郎の手を引いていく…風太郎も何かを感じ取っていたのか、それ以上は言葉を告げることなく…行きついた先は…
「…ここは…」
「来たことあるでしょ?」
「ああ……小学生の頃にな」
六年前にもあの少女と共に登った緩やかな坂…今の自分たちと同じ構図で登ったこともあり、三玖の恰好をした一花(以下 一花(三))の問い掛けに、風太郎は思い出しながら同意する。
「小学生の頃?」
「あの日のことは今でも思い出せる。俺はあの子…零奈に振り回されるがままに辺りを散策した…俺を必要と言ってくれた彼女との旅が楽しくない筈がない…だから、気が付けば陽は落ち、夜となっていたんだ」
「それで…どうしたの?」
「学校の先生が迎えに来てくれることになったんだ。零奈が泊まってた旅館の空き部屋で待たせてもらった。そこで…トランプしてたっけ。まぁ、迎えに来た担任にはこっぴどく叱られたけどな……それも今となってはいい思い出だ」
「…その子は「もういいだろう」…え?」
流れるままに…いや、風太郎を誘導するように話しかけていた一花(三)だったが、その流れは風太郎によって言葉通り遮られた。突然のぶったぎりに進めていた歩みを止めてしまった程だ。
「もういいって言ったんだ…お前に何か意図があるのではと思い、馬鹿正直に話しただけだ。その辺りのことを話せば何かを知れるかと期待したが…もう面倒くせぇ…お前に付き合うのはここまでだ、三玖…
いや…………一花…」
「……え…?」
淡々と…どこか疲れたように言葉を口にし…そして、迷うことなく、三玖に変装しているのは自分だと断言してみせた風太郎に、一花も動揺を隠し切れないでいた。
「えっ…ちょっと、なんで急に…」
「勘」
「勘!?ちょ、ええっ!?」
「というか、ここまでの状況を考えたらな…ある程度の推測をすれば、お前の可能性が一番高いんだよ」
まさかの勘とあっさりと告げる風太郎に一花は更に動揺する…だが、勘と言いつつも、風太郎のそれは経験則と状況から判断したものでもあった。期間は短くとも、過ごした時間はかなり濃密なものだったのだ。
良くも…そして、悪くも風太郎は彼女たちのことを深く理解していた。それこそ…佐桐翔太よりも、五つ子のことに関しては彼の方が熟知しているといっても過言ではないほどに…知っていたのだ。
「ち、違うから!ハズレ!残念でした!」
「往生際が悪いな…だが、お前が何を考えていようと、お前らのミニコーナーに付き合う義理もない」
動揺のあまりなんとか誤魔化そうとするも、確信を持った風太郎にもう迷いはなかった。そのまま塀の方へと一花(三)を追い詰め、その手を頭部へと掛けて…
「…ほら、正解だ」
「……っ!」
三玖のロングヘア―に合わせるためのウィッグを取り去り、一花の変装を解いた。恰好を解かれては言い訳することももうできず、観念したように一花は黙ることしかできなかった。
…そんな中、これから起こることを予言するかのように…怪しかった天候が崩れ、雷の音と共に雨音が鳴り出した。雨が少しずつ降ってくる中、冷静な声で風太郎は一花へと尋ねる。
「このタイミングでこれだ…先日、学校の廊下で会った三玖の正体もお前で間違いないな?」
「あ、あれは私じゃ「なぜ俺にあんな嘘を吐いた?」…っ?!」
…嘘は聞きたくない…風太郎の問い掛けは尋問でも問い詰めでもなく、自身の感情をなんとかコントロールしようとしているかのように冷静だった。それは、一花に思うところがあり、正直なことを言ってほしかったという思いもあったのかもしれない。
だから、一花の言葉を敢えて遮り、別の質問を尋ねた…そこに一筋の希望をも合わせて…
雨音が一気に強くなり、豪雨と言っても差し支えないレベルにまで降り注いできた…大量の雨水が二人を打つも、そんなことは今はどうでもよくなっていた。
「……さっきの話…フータロー君は知ってるんじゃない?六年前のその子が私たち五人の誰かだって…」
「…ああ」
一花の問いに風太郎は静かに短く答える。そして、一花の口から告げられたのは…
「私、だよ……私が……私なんだよ…私たち、六年前に会ってるんだよ…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
六年前に出会った少女は自分だ…告げられた事実に風太郎は何も応えない。ただまっすぐに、今目の前にいる一花のことだけを見ていた。
「嘘じゃないよ…信じて…」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
豪雨の中、泣いているようにも、必死に訴えているようにも、それすらも虚ろのようにも…雨に濡れた一花の表情はそう見えていた。
その表情を見て、その目に思うところがありつつも…風太郎はこれからすることに嫌気を覚えながら、重たい口を開いた。
「…六年前…俺とここで買ったお守りを覚えているか?」
「えっ、うん…!今でも持ってるよ。忘れるわけないよ…「嘘、なんだな」」
その答えを聞いた途端、これまで冷静に話していた風太郎の声が酷く冷たいものに変わった。お守りを持っていることを表現しようと自身の上着のポケットに入っているような身振りをしていた一花がその声を聞き、顔を上げた時だった。
…これまで一度も見たことがない程に冷め切った風太郎の目が視界に入った。
風太郎は信じたかった…最後まで信じたままでいたかったのだ。もしかしたら、一花の言う通りなのかもしれない…一花と自分は六年前に出会っていたのかもしれないと…
だが、もしそうであるのなら「一緒に買ったおみくじを今も持っている」と零奈が言うはずがないのだ…なぜなら、つい数か月前に当の本人から風太郎に(ほぼ強引ではあったが)譲渡され、それを風太郎は家庭教師再任となったクリスマスの日に、溺れかけていた二乃を助けるために川に流してしまっていたのだから。
風太郎は心のどこかで期待していたのだ…一花が零奈かもしれない、ということではなく、自分には正直に話してくれるのではないかと…信頼していたのだ。だが、その結果は嘘という形で返されてしまった。
「…すまん…今はお前を信じられない……風邪ひく前に帰るぞ」
それでも…信頼を裏切られるような形になっても怒り狂わないのは風太郎の不器用なやさしさなのだろう。
これ以上、今話すと一花へ何を言ってしまうのかが分からないのもあり、そう告げた風太郎は一足先に元来た道を戻っていった。
そして、残された一花は…
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
独り…雨に打たれることしかできずにいた。
昔の自分なら、慌てて風太郎を追いかけていたことだろう。
嘘を吐いたことを謝るか誤魔化すか…なんとか挽回を図ろうとしていただろう。
だが、今はそんな気持ちは一切起こらなかった。その心にあったのは…絶望といっても差し支えない虚空だった。
(…どうして……こうなっちゃったんだろう…)
全てを捨てる覚悟を持っていたのに…自分の持てる手段を使ったのに…何度も立ち止まれるところがあった筈なのに……その結果は捕まえようとしたものすら手に入らず、本当の意味で全てを失ったといっても差しつかえない結果となったからだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
泣きたい筈なのに涙も出ない…女優としての演技力を今こそ発揮するべきなのに、どんな表情をすればいいかも分からない。
ただただ自分のしてきたことがどれだけ愚かで、そして、惨めであったか…それを痛感させるかのように、冷たい雨が一花の全身を打ち付けられていた。
そして、立っている気力すらもなく膝を突いた一花の視線は…どこを見ているかも分からない程に焦点が合っていなかった。
(………これは……神様からの罰なのかな。フータロー君の想いを手に入れるために、大事なものを犠牲にした……当然の報いなのかな…)
三玖の恋心も、四葉の心配も、二乃の注意も、五月との絆も……全ての自身の手によって台無しにしてしまったのだ。
止まれるポイントはいくらでもあったのだ…昨日の件も、二乃から叱責された時にも…そして、昨夜も…就寝している時、二乃がスマホで五つ子たちが仲良く映っている写真をこっそりと見ていたのを、一花は気づいていた。
だが、それを見ないフリをして全てを振り切り…そして、全てを壊してしまったのだ。豪雨に打たれる中、今の一花に立ち上がる気力はなく…その場にずっと居続けようとしていた。
地面を叩く豪雨に全ての音が掻き消される中、世界から取り残されたように一花は動こうとはしなかった。
「…そのまま居ても風邪をひくだけだぞ、中野長女」
「…っ…」
雨音だけの世界に声が響く…その独特な呼び方をする人物など、一花の知る限り一人しかいるわけがなく…雨水を大量に吸った髪で重くなった頭を持ち上げると…
「…いつまでそこにボサッと座っているつもりだ。さっさと行くぞ。お前が戻らないと、バスが出発できないからな」
「…てるい…くん……?」
「…これでも被ってろ」
照井竜…いつもはクールな物言いが特徴な彼なのに、今、眼前に立っている人物はどこか悲しそうな声で言葉を発していた。
どうしてここにいるのか…そんな純粋な疑問は出るも、今の一花には言葉にするどころか、湧き出た疑問すらも霧のようにすぐに頭から消えてしまっていた。
そんな茫然自失に近い一花に、照井はパックサックからパーカーを取り出し、乱暴に一花へと被せた。防水性があるのか、もう十二分に濡れてしまってはいるが、それ以上、一花が濡れることはなくなっていた。
「さっさと立て。そうでないと、無理やりにでも連れて行くぞ」
「………ほっといてよ。もう私なんて…どうでも…」
「…そうか」
自棄にも、八つ当たりとも捉えられる一花の答えに、照井は溜息を吐きながらそう呟き、諦めたのかと思った矢先、
「えっ…ちょ!?」
「言った筈だ、無理やりにでも連れて行くって」
お米の俵を背負うかのように、一花を右肩に担いだ照井は反論は聞かんといったばかりにそのまま坂道を下りだした。
「は、放して!?もう…私のことなんか放っておいてよ!?」
「それは無理だな」
「なんで…なんでよ!?照井君には関係ないじゃん!私はもう…!?」
「相手がどんな者であろうと眼前で苦しんでいるのなら放っておける訳がない…それが、佐桐曰く、仮面ライダーの流儀という奴だそうだ」
「…!」
何を言っても下ろす気はないという照井の反応に、じたばたして抵抗する一花。だが、次に出てきた言葉にその抵抗が止まった。
仮面ライダーの流儀とやらを持ち出してくるのは結構反則に近いものだと思いつつ、あの照井からそんなことを聞く日がくるとは思ってもみなかったからだ。
「それに…お前に何かがあると俺も思うところがあるからな。お前にだって心配してくれる姉妹たちがまだいるだろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…中野長女。お前にはまだ仲を寄り戻せることができる姉妹がいる。壊れたとしても、失ったわけじゃない…その大切さが分かっているのなら…お前はずっとここにいるべきではない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今はおとなしく運ばれていろ。バスが近くなったら下ろしてやる…そこからは自分で歩いて行け」
もう既にその機会を永遠に失っている照井の言葉は重く、そして、実感が込められたものだった。それを聞いた一花の目に少しだけ生気が戻り、それ以上は何も言わず、バスの停留場まで静かに運ばれていったのだった。
…ストーカーやんけ(台無し)
あっ、最後のやりとりが書きたかっただけです、その欲に駆られて本話を書いたところがあるわけで。
ダブル原作も同じサブタイ(第6話)でしたが、ここまでピッタリなものはなかったかと…その結末は全く違うものとなりましたが(そして、間章を挟んだ次章のサブタイが『少女Y』という…)
照井さんの行動原理にまたしても謎が加わりましたが…次回は二乃と三玖の件からですからね…多分、また大人二乃さんが色々とが頑張ってくれるかと。
…あっ、盗撮犯のこと忘れてました…(苦笑)まぁ、原作通り…ではなかったりするんですよね。
それでは、また。