もう少し更新頻度上げれればいいのですがね…(苦笑)
そんなわけで、二乃と三玖、フィリップと翔太のメイン回となります。
それでは、どうぞ!
風太郎たち一行が清水寺周辺にて色々とあった頃…
…ガチャ
「…えっ?」
オートロック式の自動扉が開かれたことで、彼女は思わずそちらへと視線を向ける。そこにいたのは…自分とよく似た姿をした人物が立っていたが、その正体をすぐに見破った少女の表情はまたしても暗いものへと戻ってしまった。
「知りがたきこと影の如く…だったかしら?」
「…何してるの……二乃?」
尋ねたのは部屋に籠りぱっなしである三玖であり、それに対し答えたのは、してやったりと言わんばかりの笑みで武田信玄が軍旗に記したとされる『風林火山陰雷』の一節、『陰』の部分を口にした二乃…いや、正確には三玖の恰好をした二乃だった。
「あんたの真似よ、二つの意味でね。流石に姉妹二人も仮病は怪しまれるわ」
髪の長さを合わせるためのウィッグと愛用の青のヘッドフォン…五つ子の常套手段である入れ替わりを用いて、体調不良がまだ続いている三玖の立場を装って点呼を誤魔化したわけだ…そして、変装を解いた二乃は時間を確かめる。
「次の点呼まではまだ時間があるわね…まぁ、本当はフィリップ君にフロッグポッドを貸してほしかったんだけど、断られちゃったからね…いつものお得意のやつを使ったわけよ」
「そうじゃなくて…なんでここに来たのかを聞いてるんだけど…」
「電話でも言ったでしょ、あんたと二人で話があるの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
問い掛けたところで、姉はまだはぐらかすようにそう答えを返してきた…そんな素っ気ないいつもの二乃の反応からして、彼女がここに来た理由を察した三玖は静かに呟く。
「…慰めならいらない」
「はぁ?そんなことするわけないじゃない」
「えっ…」
冷たく返したはずが、変わらず素っ気ない…しかし、予想だにしていなかった内容の即答がきて、流石の三玖も驚きの声が漏れた。
そんな動揺する妹のことなど全くかまうことなく、いつものツインテールを髪留めで整えた二乃は、ベットに腰掛けていた三玖に近寄り、そのまま押し倒した。
「あんたが勝手に落ち込もうが、いつまでも部屋に閉じこもってようが、どうでもいいわよ。少なくとも、あんたが一人でそんなことをしている間に、一花が上杉を狙ってアタックを仕掛けているだけよ。
まぁ、一花にとってはラッキーでしょうね…勝手にライバルが減ったんだから。あの女狐なら表面上は後悔しているフリして、黒い腹の中では笑っているかもね」
「…そんなこと……一花は……」
「なら、あんたのフリをしたのはなんでよ?虎視眈々と上杉のことを狙っていたんでしょうね…あんたのフリをしたのもあれが初めてじゃないんじゃない?まぁ、もしもそうだったら、私はあの嘘つきのことを姉として…いいえ、家族として認めない、絶交してやるわね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
淡々と事実を言葉として出してくる二乃に、三玖は言い返すことができない…いつもの姉らしくない、酷く冷静な態度に違和感を覚えることもなく、三玖は遂に口を閉ざしてしまう。
「何よ…まさか一花が正々堂々と勝負を仕掛けてくると思ったの?あの嘘つき我が儘長女がそんなことをするわけないでしょ。それとも、上杉のことを好きになったのは自分が一番だから…好きになったのが一番早かったのだから誰も手を出さないで、なんて勝手な言い分が通じるとでも思ってたの?…そんなわけないでしょ」
「そ、そんなこと…私は…」
「そりゃ、あんたが一番だったかもしれないわね…でも、人を好きになることに順番なんて意味ないのよ。私だって、愛に時間は関係ないって言えるほど恋について語れるとは思ってないし、これからだって思ってる。
初恋の想いが実ることもあれば、何度か巡った想いがようやく紡がれるのかもしれない…それがどうなるかなんて誰にも分からないし、誰もが恋することに慣れてるわけじゃない…何が正しくて何が間違ってるのかさえも全く分からないのよ。
でも、確かなことは……上杉の心を本当に掴めるのは、あの馬鹿のことを絶対に諦めずに挑戦し続ける人だけよ」
「…!」
自分を見下ろすその目が…言葉とは違う熱い色を秘めた二乃の目に、三玖は…閉ざしていた心の声を漏らしていた。
「……私だって…諦めたくない…」
「…はぁ…よく言ったわね。せっかくの修学旅行という、接近する絶好のチャンスをこんな部屋に閉じ籠って不意にしている癖に、よくそんなことを言えたものね。言ってることとやってることが真逆の癖に…こうして行動で諦めを示唆しているところで、あんたのターンはおしまいよ、ご苦労「…諦めたくない!?」…!」
零れた言葉を聞き、それでも、まだ足りないと思い、更なる追い込みを掛けたことで…ようやく聞きたかった妹の本音を聞いた姉は少しだけ笑みを零し、そして、すぐさま秘めた。離れようとした足を止め、少しだけ三玖の方へと振り返る。
「…でも、怖い…怖いの。こうなるって分かってたはずなのに、いざ、自分の気持ちがフータローに知られたら、私なんかじゃダメだって思えて…私は暗いし、料理も上手じゃないし、戦国好きで女の子っぽくないし……私なんかがフータローから好かれるわけないよ。
…公平に戦うことがこんなに怖いなんて、思わなかった…!」
『公平にいこうぜ』…風太郎の言葉に勇気を受け、去年の林間学校の際に、三玖が遠慮を止めると決めた際に真似た言葉だった。
その本当の意味を身を以て味わった彼女は…これまで堪えてた涙を目から零れ落としていた。自分には何もない、風太郎に好かれる要素はないのだと…誰にも聞かせたことのなかった本音に、二乃は溜息を吐きたくなるのグッと堪え、それに応える。
「なんで負ける前提なのよ。そこからして、気持ちで負けてるのよ」
「…だって、相手はあの一花だもん。
可愛くて、社交的で、男子からも人気で…自分の夢を持つ強さもある。私が男子でも一花を選ぶよ…それに、二乃も…」
「…!それはどうも……って、私が可愛いなんて分かり切ってたことだけどね!フィリップ君もよく可愛いって言ってくれるし、上杉の馬鹿みたいに見る目がない奴の方がおかしいのよ」
「…前言撤回。そういう多少自意識過剰なところは悪いところだと思う」
流れで褒めた三玖の言葉に、つい上機嫌になって余計なことを言ってしまう二乃。そんな姉の粗相に、若干冷めた視線と言葉で突っ込む三玖。
「…でも、やっぱり二乃も凄い。あのフィリップと付き合ってるんだもん」
「そりゃどーも…やっぱあんたはまだ告白すらしてないのね。あの勉強馬鹿の朴念仁には言わなきゃ分からないわよ」
「一応…したことはある…不発だったけど……でも、もう今はそんな自信湧いてこない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「…テストで一番になったら…美味しいパンが焼けたら……そうやって、何かと逃げる理由を作って先延ばしにしてきたのは私…一花も誰も悪くない…自業自得…」
「何よ…ちゃんとダメなところを自覚してるんじゃない…なら、また逃げる理由を作って、いつまでも塞ぎ込んでなさいよ…うじうじうじうじうじと、やっぱりあんたとは反りが合わないわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
愛想を尽かせたように、部屋から出ようとする二乃に三玖は何も声を掛けない。黙って見送ろうとしていたが、予想に反し、二乃の足はドアの前で止まり、
「でも…それはあんたの駄目なとこの話よ」
「…!」
「根暗でうじうじでいつも自信がなそうで、渋いおっさんがほとんどの戦国武将好きで…それがどうしたのよ!
それはあんたの悪いところで、私の嫌いなところなだけでしょ!あんたは…そうやって怒りを誰にもぶつけず、好きなあいつのために苦手なことにも諦めないで挑戦して…私が持ってないいいところをいっぱい持ってんでしょうが!!
私や一花とあんたじゃ勝負にならない?当たり前でしょ!得意なことも好きなことも全部が一緒じゃないんだから!でも、私のことを可愛いってあっさり認めたのなら…気づきなさいよ!
五つ子よ!あんたも可愛いに決まってんじゃん!!」
「…っ?!」
背中越しで表情は見えないが、必死な声色が二乃の隠すことない本音だということを物語っていた。その言葉を聞いた三玖の脳裏に蘇ったのは…
『ちょっと待って!これ切り過ぎじゃない!?』
『切れって言ったの二乃じゃん』
『そうだけど…こんなの初めてだし…』
『大丈夫、可愛いって』
『ほ、本当でしょうね』
『うん、可愛い』
昨年の期末テストに起こった二乃・五月家出事件…その際、四葉を助ける前に、三玖に頼み自身の髪を二乃が切ってもらった時にした会話だった。
あの時は、その場を誤魔化すために適当な感情で言っていた部分もあったが、実際に切った後はとてもよく似合っていた…その時のことを、二乃は忘れていなかったのだ。
「…ありがとう、二乃」
「…べ、別に!大したことは言ってないわよ…じゃあね!」
今度こそ部屋を出ようとした二乃だが、三玖の言葉に一瞬足を止め、ぶっきらぼうに手を振ってから、ようやく部屋を後にした。
そんな素直じゃない姉の励ましに、少しだけ三玖は笑顔を取り戻していた。
「…本当に世話の焼ける子ね(…あれ?何か大事なことを忘れているような…)」
閉まった扉を見て、そう呟く二乃…このままどこかで時間を潰そうと散策に向かうのだが、彼女は重要なことを見落としていた。
…とっくの昔に自分とフィリップが付き合っていることが知られているのを、三玖が口を滑らせたことを…落ち込む妹をどう激励すべきかと必死になりすぎていて、見落としていたのだった。
「ひとまず着替えて、各班部屋で晴れるまで待機だ」
「え~…!?」
「せっかく京都に来たのに!」
突然の大雨に観光を中断させられたら生徒一同は教師からの指示に不満の声を漏らしていた。かなり雨に打たれた者もいれば、軽くで済んだ者もいる…ロビーをしたる雨水で濡らす中、生徒たちは散り散りになったり、その場でたむろったり、それぞれだった。
「照井君、まだ濡れているよ…良かったら、このタオルも使ってくれ」
「助かる」
「ったくよ…予報は晴れだったよな~。雨男雨女はいるな、絶対に許さねぇぞ、コラ!」
「まぁまぁ…照井君がずぶ濡れでバスに乗り込んできたのには驚いたけど、上杉君も似たような感じだったからね…君たち二人ともどこにいたんだい?」
「…ちょっとな」「俺に質問するな」
「ははは、二人して迷子か…もしくは、二人で友情を深めに「俺に質問するな…!」…冗談だよ」
雨水を吸った服を纏う照井に武田が予備のタオルを貸す中、武田が突然の雨に悪態を吐いていた。雨の話に、ずぶ濡れで帰ってきた二人に武田から純粋な質問が飛んできたが、それぞれ素直には答えない。
その反応に(純度100%の)推測が飛んできて、流石の照井も少し慌てた様子で否定する…僅かに後退ったのは、彼の警戒心が働いたからだろうか。
そんな風太郎たち一行や戻ってきた一花たちを影から見守るフィリップの姿は…そこにはなかった。
トゥルル…トゥルル……ガチャ
『おう、フィリップ…お前から電話なんて、何かあったのか?』
人の気配がない場所にて、フィリップはスタッグフォンで電話を掛けていた。数コールの内、繋がった先から聞こえてきたのは、元気そうな相棒の…佐桐翔太の言葉だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『こっちはこっちで色々あってさ…いま、イレギュラーズのみんなに調査を頼んでいてさ。修学旅行が終わったら、お前にも色々と………何か、ヤバいことがあったのか?』
一向に声を発しない相棒の反応に、何か重大なことが起こっていると判断した翔太の声色が真剣なものに変わる。その問い掛けを聞いても、フィリップはすぐに答えることができなかった。
対する翔太もすぐに問い詰めず…スタッグフォンを片手にフィリップが答えるのを静かに待っていた。そして、ようやく重い口を開いたフィリップから出た第一声は…
「君は…こうなることを、どこかで予想していたのかい…」
『…何があったかは分からないが…何かが起こるかもとは思ってた。五月から…かなり気になることを聞いてたし、それに三玖からあることを告白されていたからな』
「……そうか。君が知っていることとほとんど関連している話だよ、翔太…実は……」
そこから、フィリップは昨日、出くわした一件のことを…一花がやらかしてしまったことと、三玖が部屋に閉じ籠ってしまい、他の面々にも影響が出ていることを話した。それを黙って聞き続けていた翔太は、
『……そう、か…』
「翔太…僕はどうしたら…」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
もしも自分がそこにいれば、迷うことなく即決していただろう。五つ子たちの答えを尊重するべく…それを助力しようと、色々と動いていた筈だ。
一花に多少説教はしていただろうし、三玖の願いを最大限に叶えるようお節介を焼いていただろう…だが、今の自分はそこにいない。
そして、フィリップにとって、こういった人間関係が入り混んだ案件は一番苦手とするものだった。自分に向けられる感情ならまだしも、第三者間でのものになると、そこまで機敏でないのと、時折無縁慮に踏み込んでしまう性格が合わさり、かなり堪えていた。
こんなことがなければ、翔太に電話を掛けてくることもなかっただろう…電話越しの声だけだが、どれだけ苦悩を表情としてフィリップが表しているのか、翔太は理解していた。
特に、今回は恋人である二乃も無関係ではない問題なのだ…確実に首を突っ込むことになるだろうと予測しつつ、翔太は…
『俺だったら、考えなしに介入しまくるな』
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
『…俺だったらな』
「えっ…?」
どこか意味深な言い方にフィリップは伏せていた顔を上げ、電話先からの相棒の声に耳を傾ける。
『フィリップ…お前はお前なりのやり方で見守ってやればいいんだよ。あいつらだって、そこまでお節介をしないといけない奴らじゃないさ。きっと…あいつらなりの答えを見つけるだろうさ…それに、あの上杉が放っておくわけないだろうしな』
「…何もしない方がいい、ってことかい?」
『そこまでは言わねーよ。けど、自分ができないことは誰かを頼る…俺たちの関係がそうだろう?お前が苦手なことを無理にしようとしなくていいんだよ…できる範囲で助けてやればいい。そういうのが、案外上手いのは照井なんだろうけどな』
「…できることを……」
その背中を押してやるように…翔太の言葉を反芻するように呟くフィリップ。少しは助けになれたかと笑みを零す翔太だが、
『…そろそろいいか?さっきから、物凄い目線と圧で、主治医の中野先生が俺の方を睨んできてて、胃が縮まりそうなんだが…』
「…!す、すまない…!診察中だったのかい?」
『正確には電話の途中で先生がやってきたんだけどな。ともかく、何かあったら、いつでも連絡してくれ。お前の情けない声を聞くのも案外悪くないしな』
「言ってくれるじゃないか……なんとか頑張ってみるよ」
零した笑みが一気に引き攣り、ベットのすぐ傍にまでいて見落としているマルオとようやく目を合わせた翔太がこれ以上は限界だということで、電話を切ろうと…
「翔太……ありがとう」
『…!おう、頑張れよ』
切れる直前、聞こえてきたお礼の言葉に、肩を竦めながら翔太はスタッグフォンを折りたたんだ。そして、フィリップの目からも迷いが消えたのだった。
「シャワー空いたよ…先、頂いてゴメンね…」
部屋に戻った五つ子たち…観光に出ていた一花、四葉、五月は見事に雨に打たれたこともあり、冷えた身体を温めるために、順番にシャワーを浴びていた。
最も濡れていた一花が先にシャワーを使わせてもらったのだが、部屋の空気は最悪といっても差し支えないものだった。
「で、では…次、四葉、どうぞ」
「うぅ~~…下着までグッショリ…」
(ここに残って正解だったわね…)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
前者二名に関しては雨に打たれたことに…特に、五月の方は清水寺にて慣れないことをしたのもあり、精神的な意味もあって疲労でぐったりとしていた。そんな五月に譲られ、四葉が入れ替わるように風呂場へと向かい、気まずい空気をなんとかしようと…一花は、五月へと声を掛けた。
「…わぁ。五月ちゃん、こんなやつ持ってたんだ…結構責めてるね、着ないの?」
「…!こ、これは違うんです!私には身の丈の合わないもので…捨ててしまいます!」
「一花、三玖に言うことあるんじゃないの?」
「…っ!」「…!」
着替えを取り出そうとしていた五月の荷物を見て、そこにあるものを見つけた一花が少し驚こうと…そんなことよりもすることがあるだろうと、二乃が現実を突き付けた。
言い出す機会を見失っていた一花と、そして、言わずにいまいとしていた三玖…この二人に任せていては進展がないと、心を鬼にして二乃がわざと言葉にしたのだ。そして、両者の視線がぶつかり…
「…あ…その…み「ごめんね、一花…」…ぁ…」
自分が言わなければならなかった言葉を口にした三玖を前に、一花は完全に言葉を失う…目を合わせることもできなくなり、再び沈黙が…
「(…コンコン)入るぞ」
「「「「…!」」」」
沈黙が場を支配する直前、外部から割り込む音が聞こえ、扉を開いたのはもちろん…
「五班、全員いるか?連絡事項、30分後、2階の大広間に集合だそうだ」
「上杉君…なぜあなたが…」
「一応、学級委員長だからな…四葉が見当たらなかったから、A組の連中は俺が周知を頼まれたんだ」
伝達事項を伝えに来た風太郎…五月の疑問にもあっさりと答えた彼はシャワーを浴びたせいか、ジャージ姿で頭にタオルを巻いていた。
だが、そんな風太郎を直視できない者が二人ほどおり…一花は表情を押し殺し、三玖に至っては顔を真っ赤にしていた。
「…お前ら、ま「と、トイレ…!」…お前ら、まだ揉めてんのか。解決できないっていうのなら、ちょっと俺に話してみろ」
「えっ、いや…」「これは…」
口にしようとした途端、逃げるように…いや、逃げるためにトイレへと飛び込んでしまった三玖に遮られた言葉を再度口にして、風太郎は自分が把握できていない部分の全容を知ろうと迫る。
流石に内容そのものを口にするわけにはいかず…何と言い繕うべきかと五月と二乃が言い淀んでいると、
「ふーー、スッキリしたー!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
立ち位置があまりにも悪すぎた…ドアのすぐ傍に浴室の扉があり、そこからシャワーを浴び終えた四葉が勢いよく扉を開け放ったのだ…首に掛けたタオルが胸を少しだけ隠している、ほぼ裸の状態で…
「…!?!?(バタン)」
優れた運動神経と反射神経で秒にも満たない時間で扉を閉めたのは流石というべきだろうが…風太郎も思わず硬直してしまった。その隙を見逃さずに、一花が誤魔化しに入る。
「た、大したことじゃないよね」
「…!え、ええ…こんなの姉妹じゃ日常茶飯事よ」
「じょ、じょ、じょーしきですよね」
「…なら、いいが…とにかく30分後な。明日の選択コースもそこで決めるらしいから考えておけよ」
「…!」
そこまで言われては強く出ることもできず、風太郎はそれ以上言及することはなく、静かに部屋を出て行った。風太郎が遠ざかったのを見計らい、口を開いたのは一花だった。
「ごめん、勝手なことを言って」
「別にいいわよ…上杉に気を遣わせるのがあんたにも三玖にとっても一番避けたいことでしょう…あんたもすぐに逃げんじゃないわよ、三玖」
「…だ、だって…」
「三玖、いつまでもそうはしてられませんよ」
咄嗟に話を合わせた二乃は気にするなと言わんばかりに返し、ようやくトイレから出てきた三玖へと注意をしていた。咄嗟のことだったので仕方なくといった三玖に、五月もこのままではいられないと告げる。
「……みんな、ハッキリさせよう。私たちはずっとフータロー君と二人っきりになる機会を窺ってる」
「正確にはあんたと三玖がだけどね…それと、五月、あんたもね?理由はよくは分からないけど、あんた、修学旅行の初日からどっか変だったし…」
「……否定は、しません。理由も言えませんけど…」
「このままじゃ誰の目的も叶うことはない…それは全員が望むところじゃない筈、だよね?」
「…あんたがそれを言うの、って感じもするけど…まぁ、いいわ」
「…四葉も聞いてほしいんだ。浴室で聞き耳立ててるんでしょ?」
「ううぅ…もう上杉さん、いないよね…?」
言いたいことはあったが、一花の提案に一先ず耳を傾ける二乃、羞恥心から浴室に閉じ籠っていた四葉も呼び、一花は提案の先を話し続ける。
「最終日、コース別体験学習…五つのメニューから1つを選んで、各地に赴く。カリキュラムなのは知ってるよね?私たちはそれぞれ一つずつ選択するのはどう?チャンスを得るのは偶然フータロー君と同じコースになった人だけ……最後は運に任せるっていうのはどうかな?」
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
一花の告げた提案を各自が吟味するように眉を顰める。全てを運任せにする恨みっこなしの勝負…それだけ聞けば、確かに公平なようにも思える。
「さ、賛成!これなら、恨みっこなしだねー!」
「…私はどっちでもいいわ。私が上杉と一緒になっても恨み言なしでもいいのならいいけど…あんたはそれでいいの、三玖?確率はたった五分の一よ」
真っ先に賛同した四葉に続き、二乃は特に反対意見はないと言いつつも、心のどこかで一花に疑念を覚えていた…ここまで策を仕掛けてきた彼女の性格からして、また何かを仕掛けているのではと思い、しかし、それが分かっていない今、追及することもできず、三玖へと意見を委ねるも、
「……今は、どんな顔してフータローに会えばいいか分からない。だから、低い確率の方がいい…」
(はぁ~…もうこの子ったら…!)
「私はこれが最善だと思います。最初からこうするべきだったんです」
完全に沈んでいる三玖の態度に、あれやこれやと言ってやりたい気分に駆られる二乃だが、本人にその意思がない以上、どうこう言ったところで仕方ない分かり、なんとか心の中で溜息を吐く程度に留めていた。五月も賛同したことで、自分一人が反対しても仕方ないと割り切り、二乃は全員を見渡し告げる。
「…反対意見がないのなら、それでいくわよ。指差しでいいわね。どうせいつもみたいにバラけるわ。それじゃあ、」
「「「「「せーのっ…」」」」」
そして、一同が選んだのは…
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
集合の少し前、一花は先程自分が選んだコースを誰にも見られないように申込書に記入していた。その脳裏に映るのは、ホテルに着いた直後、偶然耳にした会話だった。
『おい、上杉、。明日のコース選択どうすんだよ…やっぱりEにしようぜ!』
『…!』
「…(カキカキ)」
『中野 一花(E)コース』…そこまで記入したところで、一花は…
『そんなつもりで言ったんじゃないよ』
『私は素直に祝福したかった…!』
『ごめんね、一花』
「……………アハハ…」
呆れたような、そして、悲しそうな笑みを浮かべ、記入した申込書を見下ろしていたのだった。
そして、一夜が明け、迎えた修学旅行最終日。
五つ子たちの選択の結果は…
「Aコースの生徒は集合!」
「…(上杉の姿はないわね。別のコースを選んだことを喜ぶべきか、怪しむべきか…それに、フィリップ君の姿も朝から見えないのが気になるわね)」
Aコースの集合場所にて周囲を見渡す二乃…そこに風太郎の姿はなかったことと、そして、フィリップの姿も見かけなかったことに、違和感を覚えていた。
「Bコース選択者はこっちだ」
「上杉さーん、いませんよねー?」
「…(Cコース…上杉君はいないみたいですね)」
B、Cコース共に風太郎の姿はない…四葉は安堵する一方で、五月もCコースに風太郎の姿がないことを確認していた。
そして、Dコースには…
「私、適当に選んじゃったけど、Dってどこに行くんだっけ?」
「ほら、本能寺とか武将の墓とか歴史系だよ」
「えー、興味ないんですけどー」
「もう…ちゃんと確認しないと。あっ、あなたも日本史が好きなんだね」
女子生徒が話している中、意外な人物がいたと声を掛けたのは、
「…一花さん」
「……まぁね」
そこにいたのは、Eコースと申込書に記入していた一花だった。
そして、ここに一花がいるということは、
「Eコースはこっちよ。そろそろ出発するわよ」
「「…あ」」
集合場所に、照井や武田たちと共に来ていた風太郎…そんな彼と目が合い、思わず互いに声を漏らしたのは、
『やっぱDコースがいいなー、三玖、交換しようよ』
昨夜、一花から突然そんなことを提案され、自分が選んだコースと交換をしたことで、Eコースに来ていた三玖だった。
…古都におけるシスターズ・ウォーの最終戦が始まろうとしていた。
次回で本章もラストですかね。
その後に間章のお話を一つ挟み、次章の予告をお届けできればと思います…まぁ、それがまた賛否両論を呼びそうな気もするのですが…
それでは、また。