ということで、シスターズ・ウォーの最終局面前編です。
キリいいのと、オチのために分割しました!
後編も明日投稿予定ですので、お楽しみに!
それでは、どうぞ!
「修学旅行最終日にてEコースを選択された皆様…本日の目的地である映画村に到着でございます!」
ガイドの案内に従い、バスから降りてきた学生たち…そのまま観光時間の再確認や注意事項などが告げられていく。
映画村…正式には「東映太秦映画村」と呼ばれるここは京都の観光地の一つであり、実は日本のテーマパークの先駆けとなったとも言われている地である。日本文化である時代劇のセット、殺陣ショーから着付け体験、更には特撮のヒーローショーなども行われており、観光客で常ににぎわっている程に人気の高い場所だった。
直近では、『風の佐平次』シリーズがプチヒットしており、その着付けや一部セットの見学ツアーも人気である。余談だが、今は第11シーズンとなる『ザ・デッドオアアライブバトル』が撮影中だとか。
そんな中、一人だけ浮かない顔をしていた人物がいた…それは中野家三女である三玖だった。
「………」
『やっぱDコースがいいなー、三玖、交換しようよ』
(ここにいるのは一花の筈だったのに…私と選択コースを取り替えなんて…なんで言い出したんだろう)
昨夜、いきなり自身に観光コースの交換を告げてきた一花の言葉を思い出しながら、三玖は説明を聞き続けていた。狙ってやったことなのか、それとも偶然か…今となっては一花の真意は分からないが…三玖の気持ちが晴れることはなかった。
そして、説明が終わり、各自自由行動になったが…気持ちが沈んだ三玖は宛先もないまま、一人ぶらぶらと村の中を歩き回っていた。考えが纏まらず、呆然と歩いていることしかできず…そのせいで、その声に気付くのが遅れた。
「この後、お昼過ぎまで村内を自由に見て回れるらしいね」
「って言ってもよぅ、どこ行くんだ、コラ?」
(っ…!)
聞き慣れた男性二人の声…その近くにいるのはもちろん彼だ。それを理解いしつつ、彼らが会話に夢中になっている間に、三玖はできるだけ気配を消して、早足で通り過ぎようとした。このまま建物の影に隠れようと…
「あ、中野さん。また会ったね」
「…!」
予想に反して、自身の存在に気付いた人物…武田に声をかけられてしまった。それにより、前田と…そして、一緒に行動していた上杉も三玖に気付いてしまった。マズいと思い、慌ててその場から逃げ出した三玖だが、
「あれ…ははっ、また逃げられちゃった」「嫌われてんじゃね?」
「…っ!三玖!止まっ…」
「えっ…あっ!」
勢いよく駆け出してしまったせいで、近くを歩いていた通行人と三玖がぶつかってしまい、その場で尻もちを着いてしまった。流石に三玖をそのままにしておくわけにはいかず、慌てて風太郎が駆け寄る。
「おい、大丈夫か?すみませんでした…って、行っちまいやがった。ちゃんと前見ないと危ないだろう」
「う、うん…ありが……っ?!」
ぶつかった人は気にした様子もなく、どこかへと去っていってしまった。三玖を助けようとして手を伸ばす風太郎だが、顔を合わせてしまったために恥ずかしさと共に顔が真っ赤になり、三玖は目を逸らしてしまった。
(ううぅ…二乃、ゴメン。あんだけ言ってくれたけど、やっぱり無理だよ…)
(決まずい…)
風太郎は風太郎で、この修学旅行での一連の騒動もあって気まずさがあって、空を切った手を誤魔化すように頭を掻いていた。変な間が二人の間に流れてしまっていた。そこから逃げるように動いたのは三玖だった。
「じゃ、じゃあね」
「あ、おい!」
『『戦国武将の着付け体験いかがですかー?』』
逃げ出そうとした三玖とそれを追いかけようとした風太郎…二人の追いかけっこが始まるかと思った矢先、呼子の掛け声が三玖の動きを止めた。釣られて風太郎も制止してしまった。どうしたものかと風太郎が思っていると、
「着付け体験だとよ。コスプレとか恥じぃだろ…」
「いいじゃないか、号に入っては郷に従えというやつだよ。上杉君も当然するだろ?」
「いや、しないが」
「似合うと思うのにもったいない。中野さんもそう思うよね?」
「…(チラッ)」
「……(コクッ)」
乗り気ではない前田に、武田が後押しをするように諭す。その勢いで、風太郎をも誘うが、風太郎はいつもの如く即効で断った…が、三玖にまで同意を求めてしまった。そんな三玖が静かに首を縦に振ったことで、風太郎もコスプレをせざるを得なくなってしまったのだった。
「『………』」
そんな一同を上空と、そして、遠くから見つめる影があった。
「…これはどういうことだ」
『時代劇 扮装の館』…着付けコーナーにてあれやこれやと係りの人によって着せ替えられた風太郎はポツリとそんな一言を呟いていた…一人で。
「武将の着付けをやってるってさっき言ってたのに…武将の着付けなんて一つもなかったぞ。それはまぁいい…百歩譲っていいとして、前田と武田の着替えが激遅い。しかも、待ってると言ってた三玖もいなくなってるし…」
風太郎なりに少しは期待していたのか…館に入ってみると、着付けには武将の類は一切なかったのだ。その代わりに風太郎が着たのは新選組の恰好だ…鉢巻までもしており、口ではああ言いつも、それなりに乗り気だったようだ。
だが、一人で結構な間待たされてしまっているのもあり、風太郎がそんな悪態を独り言で呟いてしまうのも無理はない話だった。といっても呟ける独り言になど限界はあるわけで…一通り言い切ったことで、少しは苛つきも収まったようで、風太郎はようやく現実へと目を向けた。
「やっぱ行っちまったかな。初日の件もあるし、当然の反応といえば当然……うん?」
三玖がいない以上、ここにいてもしょうがないと思い、武田たちが早く来ないかと思っている矢先だった。
館から、どこか照れくさそうに姿を現した三玖が視界に映った。どこに行っていたのかと思っていると、その恰好は…花の髪飾りに着物姿と、いつもの三玖とはまた異なる雰囲気を纏っていたものだった。
「なんだ…やっぱ、お前も着替えたのか?」
「そのつもりはなかったんだけど…何故か係の人がノリノリで…あれよあれよという間に…」
「…そうか」
「…うん。変…じゃない?」
「っ…まぁ、似合ってる」
いつもとは異なった雰囲気なのに、喋り方とマッチしていることもあり、三玖からの問い掛けに、風太郎は思わずストレートな感想を言ってしまった。三玖は三玖で、まさか風太郎から誉め言葉で出てくるとは思わず、少しばかり嬉しくなった。
「…!お、お友達は…?」
「…!そ、それが来ねーんだよ。ったく、しょーがねー奴らだ」
「え?あの二人、私が着替える前にもう出てきたけど…」
「は?こっちを待ちきれず行っちまったってか?」
「…電話してみたら?」
「そうだな、そうさせてもらう……あっ」
「フータロー?」
「俺、あいつらの番号知らんわ…」
「本当にお友達…?」
「…佐切とフィリップの連絡先は知ってるだけど…そういや、武田たちとは交換したことなかったな」
「フータロー、そういうところ抜け……ズレてるよね?」
「おい、言い直せてないからな」
まさかの連絡先を知らない発言に、思わず素が出た三玖の呆れた声色に、風太郎に精神的なダメージが入った。これで翔太の連絡先まで知らないとなっていれば、ポンコツレベルに認定されかねなかっただろう。
ちなみに、翔太は武田と前田の連絡先を知っている。武田とは2年の時に一緒のクラスだったこともあり知っており、前田とは3年でクラスが一緒になった際に聞いていたのだ。
「ともかく…そう遠くまで行ってないと思うんだが、最悪迷子センターでの呼び出しだな」
「………」
「(チラッ…)あー…三玖、探すの手伝ってくれないか?流石にこの衣装で一人で歩く勇気はない。かと言って、ずっと二人きりも嫌だろう?早いとこ見つけて楽しもうぜ。三日目の思い出が人探しだけなんて虚しいもんな」
「…う、うん」
そんなわけで、予想だにしていなかった風太郎と三玖の二人っきりの映画村散策ツアーが始まったのだった。
「「「「………」」」」「…」『…(カシャ!)』
そんな彼らを見守る目があることを知らずに…
「…凄い」
「ほら、周りばかり見てないで前も見ろよ。また人にぶつかるぞ」
二人っきりの道中…屋号が書かれた看板が並ぶ建物を歩きながら、目を奪われまくりの三玖に、風太郎が注意しつつ、人にぶつからないようにと先導して歩いていた。
さっきまでは様々な感情が入り混じっていた三玖だったが、自身の好きなものである時代劇の世界を歩いているということで、そのテンションが徐々に上がっていっているようだった。
これなら、徹夜で調べてきた映画村のうんちくを語らずとも、会話が変に途切れたり、気まずい空間が流れることはないだろうと思っていると…
「…(チラッ、チラッ)」
「うん…?あー…」
いつでもフォローできるようにと三玖の方を気に掛けていた風太郎だが、いきなりそわそわし始めた三玖の姿に気付いた。
(ったく、しょうがねぇな)…あのー、すみません」
「ふ、フータロー…?」
「写真、撮りたいんだろう?一枚、写真を撮らせてもらっても「フータロー」…いや、別に遠慮は「一緒に映った写真が撮りたい」…すみません、そういうのも大丈夫ですか?」
伊達政宗の特徴として有名な三日月を模した兜を被った職員の方に撮影をお願いして、3人一緒の写真を撮ったり、
「…こうかな?」
「いいぞ、そのまま放せ」
「う、うん…!…あっ、当たった!」
簡易的な弓矢を体験して、見事に三玖が的に当ててみせたり、
さっきまでの時間は何だったのかと思う程に、二人はいつものように自然な感じで、映画村を見回っていた。
「あっ、フータロー、写真撮って!引っ込んじゃう!」
「ったく…しゃーねーな」
ここまでの行動でテンションが上がりまくりの三玖が、恐竜(名称不明)が出没する池にて、また写真を撮ってほしいと風太郎にせがんでいた。そんなハイテンションの三玖の要望にやれやれといった様子で応えようとする風太郎だったが、
…ドシン!
「うぉ!?」「あっ…」
通りすがった人に背中からぶつかられ、風太郎が体勢を崩した。そのままドミノ式で、風太郎の服を引っ張っていた三玖を押し倒す形になって…
…ボッチャン!
「…わ、悪い」
「…フフッ、もう」
池に見事なまでに三玖が落ちてしまった。水も滴るいい女…とは全く言えない状況に、流石の風太郎も顔を真っ青にして謝ることしかできなかった。そんな風太郎の謝罪に、三玖も笑いを堪え切れずにいた。
『(カシャ!カシャ!カシャ!)』
「もう…せっかく着替えたのに…私に注意したくせに、フータローこそ周りに注意してよ」
「だから、悪かったって、何度も謝ってるだろう。係の人にも俺から謝っておくから、今の内に着替えておけよ(おかしいなぁ…誰かに押された感じがしたんだが…)」
「…うん」
池に落ちてしまったので、そのまま濡れた着物姿でいるわけにもいかず、不機嫌になりつつも三玖は更衣室で着物を脱いでいた。風太郎の気配が消えたところで、着物を脱いでいたのだが、
(いつの間にか普通に話せてる。色々あったのに不思議…フータローといると、細かいことなんて忘れてしまいそう…例えば、そう…
…下着まで水に濡れちゃってることとか…)
あんな気まずいと思っていた時間が嘘のように…三玖は今の時間を楽しんでいた。それほどまでに、自分が風太郎に夢中になっていることを改めて自覚していた…ところで、冷静になって、現実と向き合うことにした。
池に尻もちを着く形で落ちたため、履いていた下着がぐっしょりというレベルで濡れてしまっているのだ。
(本当にどうしよう…こんなの着れない…このままじゃ…係の人…あ、たいつがある、それなら…なんとかない、無理無理無理無理…!?)
打てる選択肢はゼロに等しく、このまま履き続けることはとてもできないレベルで濡れている下着をどうしたものかと思っていると…
…ガサ
「えっ…」
いきなり試着室のカーテンの下から何かが差し込まれてきたのだ。一体何事かと思うと…
「『お困りでしたら、お使いください』…え?これって、下着屋さんの紙袋……一体、誰が…係の人、かな?でも、そういうことなら、ありがたく使わせて……おっ…」
カーテンから少しだけ顔を出すも、周りに人はいなかった。使ってくれということなら、その気遣いに感謝して、下着を取り出した三玖だったが…思わず息を呑んだ。
…それはあまりにもアダルティすぎる衣装に、三玖は自身の血の気が引くのを感じた。あり大抵に言うのなら、スケスケすぎるそれは、俗に言う勝負下着というものに等しかった。
感謝の気持ちが後悔へと切り替わったが、それ以外に選択肢は履かないか、これを履くしかないという究極の二択に…美玖は後者を選ぶしかなかった。
「あいつら、見つからねーな。どこ行ったんだが…うん?どうした、三玖?」
「な、なぁ、なんでも…ない…!っ~~~~~!?」
着付けから制服へと戻った風太郎と三玖は引き続き武田たちを探すべく、村内を歩き回っていた…が、三玖の様子が大変なことになっていた。少しばかり前傾姿勢の三玖に、流石の風太郎もどうしたのかと思い、尋ねるも…まさかとんでもない下着を履いているのを隠そうとしているから…なんてことを正直に言えるわけもなく、顔を真っ赤にして誤魔化すしかなかった。
「…つ、疲れちゃった…少し座ろう」
そう言って、一旦は立ち続けることを避けるべきだと、三玖は風太郎を誘導していく。ちょうどいい場所に、傘と椅子が設置されたスペースがあったので、そこに二人して座る。
「…もう、終わりだね、修学旅行」
「だな…帰ったら、また勉強の日々だな」
「もう、フータローはやっぱりデリカシーがない。でも、本当にあっという間だった…目まぐるしくて、あっという間の三日間だった…私は実質二日だったけど…」
「…三玖」
「でも、いいんだ…最後にフータローを独り占めする形で…一緒に過ごせたから。私はそれだけで…」
「…?なぁ、三玖…その隣に置いてあるの、なんだ?」
椅子に座り、落ち着いたところでこの数日の修学旅行を振り返り、そんな会話をしていた。のだが、ふと風太郎が視線を向けると、三玖の横に袋が置かれていた。風太郎に言われ、視線をずらすと、
「え!な、なんで、私のパンがこんな所に…」
「へぇ、お前が作ってきたのか?」
(そうだけど…そうなんだけど…これは初日になくしたはず…なんでここに?)
初日の騒動で…どこに置いたのかも分からなくなってしまった自身のパンが入っていた小包がそこに置かれていたのだ。三玖がどういうことかと驚いている最中、風太郎はそんなことなどもお構いなしに、小包を手に取った。
「腹減ったし、一個もらうな」
「あっ…それはもう…!」
そんな一言と共に、風太郎は小包からパンを取り出した。時間が経ちすぎていて、状態はあまり宜しくはないものだった。クロワッサンであったため、それはなおさらだった。
三玖の制止も聞かず、高速の動きでパンを口にした風太郎…その動向に、三玖は何も言えず、見守っていた。食べた勢いとは別にゆっくりと咀嚼する風太郎の口の動きが止まるのをずっと見ていた。
そして、飲み込んだ風太郎が口にした言葉は…
「うまい」
「…!」
シンプルだが、ある意味では一番聞きたかった言葉だった。もしかして、気を遣って、わざとそんなことを言っているのではと思ったところもあるが…
「って、俺、味音痴らしくてな。正直、自信はない。もしかしたら、このパンはまずいのかもしれない。だから、ろくな感想も言えないんだが…
お前の努力…それだけは味わえた。頑張ったな」
風太郎なりの、彼らしい…不器用ながらの、しかし、真っ直ぐなその言葉は…偽りのない彼の本心だった。
「…………うん…私、頑張ったんだよ」」
嬉しい筈が…嬉しすぎて、堪えていたものが目から零れ落ちてしまった。だけど、もう我慢しなくていいのだと、三玖は手で目を抑えながらも、それを零した。
「実はな…お袋が昔焼いてくれてたんだ」
「えっ…?」
「パンだよ。俺が6歳の頃…お袋が死ぬまでパンを毎日…お前のパンを食べた時、なぜか今それを思い出した」
「…!フータローの…お母さん…?」
珍しく…いや、初めてだろう。風太郎がこんな自分の話を…過去とも言える話をしてくれたのは。そう思い、三玖は風太郎の話を聞き続けていた。
「小さな個人喫茶をやってたんだ…そこで出す人気手作りパンでな。俺も親父も大好きな…って、今は俺の話なんかどうでもいいか」
「う、ううん!もっと教えてほしい!こんなに一緒にいるのに、そんなこと全然知らなかった!」
「…三玖?」
「私…ずっと自分のことばかりで知ろうともしてなかった。だから、もっと知りたい…フータローのこと全部!そして……私のことも全部知ってほしい!!」
それは紛れもない本心だった…知りたいと思うからこそ、逆に自分のことも知ってほしいと感じるは、当然の摂理だった。その言葉と三玖は立ち上がると、向こうにある家屋を指さす。
「あれ!奉行所として、時代劇にも使われてる名スポット。今日はあそこを見れただけで満足。Dコースほどじゃないけど、ここにも私の好きなものがたくさんある」
「お前はそうだろうな。知ってる」
「さっき渡った大きな橋も好き」
「またドラマか?」
「うん、それとね…あれも好き、あれも…これも好き」
「いや、多すぎるだろ…知ってたが…」
橋に続き、これまで見てきた家屋を次々と指していき、二人が座っていた和傘を指差していた三玖の指を見ていた風太郎だったが、少し動いた彼女の指が自身を指したところで止まった時に、
「…好き」
告げられた言葉は確かに風太郎の耳に聞こえていた。指から彼女の顔へと視線を移すと、少し恥ずかしさが残っていたのか、赤くなっていて…
「…ああ、知ってるぞ」
その言葉を返すと、三玖はしてやったりといった形で笑みを浮かべるのだった。
後編は見守る側の視点をおとどけです!