アニメ『ポケットモンスター』GO 作:アルデ
『ポケットモンスター、縮めてポケモン。
この星の、不思議な不思議な生き物。
海に森に町に。
その種類は、100,200,300。
いや、それ以上かもしれない。』
そんな、ラジオから流れる定番の言葉を聞きながら、俺は読書をしていた。
俺の頭の中には確実に400匹を超えるポケモンの『データ』が存在する。
それでも。
「ポッポー」
鳥の、なきごえだ。
この車の速度は、緩やかに飛ぶ鳥ポケモンのポッポに等しい。目の前に実際に存在しているポケモンは、今の俺では想像できないような可能性を秘めている。
「ゴウ……ゴウってば!」
小豆色の髪の美少女が呼びかけてきた。
「……暇か?」
「そうじゃないけど……」
それは図星のようだ。
唇を尖らせる幼馴染は、まだまだ子どもっぽい。
「あと30分もすれば着くよ、コハル!」
「わかってるもん!」
運転しているコハルの父がそう告げれば、コハルは流れていく景色にそっぽ向いてしまう。。
俺と彼女は現在9歳、それにしては身体が大きい。
来年10歳になる頃にはポケモンを所持することが許され、ポケモンマスター目指して旅立つ人も多い。ポケモンと同じく、この世界の人間の成長が早いことは確かだ。
あと、1年なのだ。
「それ、おもしろいの?」
ジト目をしながら、彼女は本を覗き込んできた。
俺が1人でにやけているのが面白くなかったらしい。
「なんだか、不思議なポケモン」
「はるか昔に生息していたポケモンで、絶滅したとされているな。」
カントーでよく見かける化石を指差して、現代で復元されたポケモンの写真をなぞる。ドククラゲのような触手を持ち、固い甲羅が特徴的なポケモンだ。
その個体名はオムスター。
「なんで、昔のポケモンがいるの?」
それは、純粋な疑問だろう。
緑色の瞳が、真剣にこちらを見つめている。
「それはな……」
俺は得意気な顔をした。
これから告げることは、伝説の名言だ。
「科学の力って、すげー! ってことだ。」
「……あ、うん。」
期待外れの答えに、呆れられた。
俺の言った内容に理論的な内容はない。
「まだ知らないんだ。だからそれを知るために、今この本を読んでいる。」
「ふーん」
シルパカンパニーといい、グレン島の大学といい、世界的に有名な科学者たちの発明品は凡人にはそう簡単には理解できない。それこそ、時に関するポケモンであるディアルガやセレビィの力を借りたと言われた方がしっくりくる。
「はははっ!君は将来有望だね!」
車を運転するコハルの父上は、俺たちの会話を聞いていたようだ。
「いや、俺はまだまだっすよ。」
「どうして? ゴウってば、頭いいじゃん。」
確かに、800匹を超えるポケモンの外見やタイプを、俺は覚えている。
しかし、その習性を知らない。
まして、その数以上に存在するかもしれない。
「……ゴウ?」
どうやら思わずシロガネ山の向こうを、俺は見つめていたらしい。
遠くガラル地方で見つかった化石から復元されるポケモンを、俺は予想することができない。上半身だけであるのだが、どこかオンバーンに似た翼竜を俺は知らない。
「フィールドワークをしてこその、ポケモン博士ですよね。」
運転席に座るサクラギさんは大きく頷いた。
ポケモンへの愛情があってこそなのだ。
彼も、そう言っていた。
「ゴウってば、シゲルさんのファンだもんね。」
「パクりじゃない。リスペクトだ!」
彗星のごとくポケモン研究界に表れた、オーキド博士の孫のシゲルさんだ。同時に、彼は有名なポケモントレーナーでもある。
絆の証であるメガシンカを使える人は、本当にポケモンマスターに近い存在だ。
「物知りなゴウ君にとっても、今回のサマーキャンプはいい機会になるだろうね。」
「わかってますよ。」
俺は一度本を閉じて、近づいてくるマサラタウンを、自分の目で見つめる。
世界的権威のオーキド博士と、フィールドワークを体験する機会だ。カントー各地から、応募が行われることだろう。そして、俺とコハルはサクラギ博士によるコネの参加ができる。
「コハルもいっぱい楽しんでおいで。」
「うんっ!」
羽ばたいていくポッポの群れが、青空へ飛び立っていく。人間と共生するポケモンもいれば、ああいう風に自由気ままに野生として生きるポケモンもいる。
どんな『カタチ』であっても、俺はこの現実でポケモンと関わっていきたい。
****
ゼニガメ、フシギダネ、ヒトカゲ。
この3匹は初心者用ポケモンとして扱われる。
もちろん、その性格によってはクセのあるポケモンもいるが、その成長速度は目を見張るものがある。
「ゼニガメ!」
新米トレーナーが、自分の初めての相棒の名を告げる。
オーキド研究所での生活で、人に慣れているゼニガメはトレーナーの指示をちゃんと受け取ってくれるはずだ。
「あわをはくこうげき!」
「ゼニ!」
重い甲羅を気にせずジャンプして、その口から泡を吐いた。
虫ポケモンのキャタピーはたまらず顔を背ける。
「すごいすごい!ねぇ、ゴウ!」
コハルが俺のシャツの裾を引っ張って、指差す。
研究者夫婦の娘ということもあって、インドアな生活を送ることが多いからな。
決して、迫力のあるポケモンバトルではない。テレビの前や観客席や、まして『ゲーム』とは違って、目の前でポケモンバトルが見ることができていることがいいのだ。ポケモントレーナーの状況によって変わる表情を見ながら、俺たちは次の一手を待つ。
「ナイス!ゼニガメ!」
キャタピーのたいあたりを、咄嗟にゼニガメは甲羅に籠って防いだ。
指示したわけではないが、自分でポケモンが動いたようだ。決して、これはターン制ではない。
「ゼニ!」
褒められたことで、嬉しそうな表情を思わずトレーナーに返した。
「……おもしれぇ」
年相応に、つぶやいてしまう。
奥が深い。
トレーナーとポケモンの絆や、戦略が関わってくる。
「これが、ポケモンバトルじゃ。」
赤いシャツの上に、白い白衣を羽織った老人が、俺たちに生き生きと解説を始めた。
キャンプに参加している10人の子ども全員が興奮して、観戦している。
どこか早口だ。
新米トレーナーとゼニガメが心を合わせて、ポケモンバトルしている姿をオーキド博士は嬉しがっているらしい。まるで、我が子を見るかのよう。
「ボールを投げるんじゃ!」
「はいっ!」
オーキド博士が呼びかければ、焦りながら鞄の中にある赤と白のボールを取り出した。
それは伸縮性があって、手のひらサイズまで大きくなる。
「いけっ!モンスターボール!!」
まだまだ慣れない動きで、ボールを投げた。
もちろん、コントロールは拙い。
ギリギリ当たった程度。
それでも。
「すげぇ……これがリアルか。」
乱数に左右されない世界だ。
1つのボールに『心』を籠めている。
揺れるボールを見ると、俺までドキドキしてしまう。
コハルも両手をギュっと握って、祈っている。
やがて。
ポンッという音。
「成功じゃ。」
オーキド博士が、大きく頷いた。
「やったぁ!初ゲットだよぉー!」
ゼニガメと一緒に喜んでいる姿は、彼女の明るい未来を示しているようだ。
「ねっ!私もあんな風になれるかな!」
新米さんが、1歳年上の女性ポケモントレーナーということもある。また、コハルが好きな有名人は、シンオウ地方の女性チャンピオンシロナさんと言うくらいだからな。
自分の未来像を重ねて、コハルがそう尋ねてきた。
「コハル次第だ。体力がないところはどうにかしないといけないな。」
「うぅ、わかってるもん。」
ボールを投げる練習に、今度から誘うことにしよう。
1年後が楽しみなのはコハルだけじゃない。
「オーキド博士、あたし行ってきます!」
「ああ。ゼニガメやキャタピーと、仲良くするんじゃぞ。」
オーキド博士と少し話した新米トレーナーは旅立っていく。不安と希望に満ちたその背中は、どんどん前へ進んでいく。
今、彼女には仲間がいる。
ポケモンマスター目指して、果てない道を歩む。
「さあ。サマーキャンプを続けようか。」
『はーい!!』
ほんと、1年後が楽しみになってくる。