吹雪を討つもの
氷雪に覆われた極寒の山岳。その頂は猛吹雪が吹き荒び、獣一匹の姿も見えない。
しかし"それ"は、吹き荒れる暴風や凍りつくような空気をものともせず、そこに鎮座していた。
体表面は鋼のような黒銀色の光沢を放ち、背中から巨大な翼を生やし、強靭な四肢で降り積もった雪を踏みしめるその強大な存在の名は、『鋼龍クシャルダオラ』。古龍という自然界における絶対的な強者であり、天候を操り、風を纏うその姿から、《風翔龍》の異名を持つ。
その眼前に、人影が一つ、相対するように立っていた。吹雪に覆われた中でも、その全身を包む砂漠色の重厚な鎧はその者の存在感を失わせることなく、更に身の丈を越えるほどもある大剣を両手で構えている。全身を鎧で覆い、その顔も確認できないが、体格からして男であることが分かる。その構える大剣の切っ先を向ける先は、鋼龍クシャルダオラ。
不意に、鋼龍が動いた。前肢を地から離し、翼を広げるとけたたましい咆哮が雪山に響き渡る。その衝撃は周囲に舞い吹雪く雪を吹き飛ばし、同時に風を纏ったことによりぽっかりとした空間が作られた。男は咄嗟に大剣の腹を正面に構えて咆哮の衝撃を防ぐ。しかし完全には防ぎきれず、後方に飛ばされる。
体勢を崩した男目掛け、鋼龍はその四肢をもって雪原を駆ける。男はなんとか体勢を整えると、ギリギリで横方向に転がって躱す。
素早く起き上がると接近し、その両手で構えた大剣を鋼龍へと振り下ろす。
ガキンッ。分厚く重厚な大剣は、めり込みはしたものの、堅牢な鱗や殻に阻まれ、鋼龍の肉を断つまではいかない。再び大剣を振るおうとした時、鋼龍が振り向きざまに前肢を振るってきたが、男はその下を潜るように転がり、お返しとばかりに後肢に大剣を横凪ぎに叩きつける。またもや甲高い音をたてて弾かれ、その表面に傷をつけ鱗を飛ばしただけに終わったが、着実にダメージを与えている。
鋼龍は煩わしく思ったのか、背中の翼を広げ羽ばたかせると、その巨体を宙へと浮かした。纏っている風と合わせて、凄まじい風圧が男を襲うが、男は怯む様子も見せず、大剣を振りかぶると、空中にいる鋼龍の腹部めがけ勢いよく振り下ろした。高低差があったため、切っ先しか当たらず、鋼龍は空中を翔て男との距離を開けると、大きく口を開き、凄まじい風圧を伴う空気の塊、ブレスを吐き出した。男は避けるのが間に合わないと悟ると、大剣の腹を正面に構えて防ぐが、その衝撃はとてつもなく、大きく後ろに飛ばされてしまう。
その隙に鋼龍が滑空して迫るが、男はギリギリで転がり、躱しながら大剣を納刀。立て直すためか鋼龍の後側に向かって走り出すが、鋼龍はその重量からは想像もつかない俊敏性で男の正面に回り込み、空中から尻尾を振るう。避けるのも間に合わず、鞭のように振るわれた尻尾に弾き飛ばされた男の身体は雪上を転がる。起き上がろうとした瞬間、鋼龍と眼が合った。鋼龍は再び大きく空気を取り込み先程と同じようにブレスを放とうとする。
その瞬間、男はその手から何かを放り、ソレは鋼龍の眼前まで達すると、焼き付かんばかりの閃光が走った。
まともに閃光を見てしまい、眼が焼き付き視界を奪われた鋼龍はブレスを放つことなく、驚きのあまり翼と風のコントロールを失い、その巨体を雪上に墜落させた。混乱からすぐに起き上がることが出来ず、四肢をもがかせることしか出来ない。
そんな状態の鋼龍に近づいた男は、背中に背負った大剣を抜刀と同時に振りかぶり、力を溜める。限界まで張り詰めた弓の弦のように、ギリギリと身体を絞り、それに呼応するかの様に、大剣の刃が開き、中心から橙が掛かった深紅のラインが輝く。溜めた力が最高点に達したとき、力を解放。勢いよく大剣を振り下ろす。狙いは頭部、生物共通の弱点であるその箇所に向かい、強大で強烈な一撃をぶちかます。
バギンッ
先程までの弾かれた音とは明らかに違う音が雪山に響く。振り下ろした大剣は、狙い通り鋼龍の側頭部へと命中し、その堅牢な体表に罅を走らせ、頭部後方へ生えた角は、その根本からへし折られていた。
その痛みによってか、鋼龍は更に激しくもがき、それを見た男は慎重に一旦距離をとる。鋼龍はようやく身体を起こすも、未だ視界が戻らないのか、闇雲に前肢を振り回し、尻尾を地面に叩きつける。
男はその隙に鋼龍から距離をとり、腰のポーチから砥石を取り出すと、注意は鋼龍に向けたまま、大剣を研ぎ始める。刀身が鋭さを取り戻したとき、鋼龍が吐き出したブレスが男の近くを通り抜け、後ろの山壁へと着弾。表面の雪だけでなく、中の岩までも砕く威力に、男は顔をしかめる。
男が大剣を構え直したと同時、鋼龍も視界が戻ったのか、男を睨み付けると鋭い咆哮を上げ、再びその身を宙へと舞い上がらせると、男目掛けてその巨体を滑空させる。
男はそれを避けようとするでもなく、構えた大剣を振りかぶり、先程と同じように力を溜める。
圧倒的な大質量で轢き潰さんとする鋼龍に対し、男はその鋼龍を叩き落とさんと、振りかぶった大剣を振り下ろした。
正面からぶつかり合う両者。衝突するまでの僅かな時間が、男には永遠にも感じられた。
そして、ついに大剣の刃と鋼龍の頭部が接触。瞬間、男の手にはとてつもない負荷と衝撃が走り、ビキビキと筋繊維が軋む音が体の中を駆け、直接脳内に響いたように感じた。
それでも男は大剣をその手から落とすことなく、万力の如く力を込め、鋼龍の頭部へと押し込む。
ビキリ。と音を立てて大剣が命中した個所から鋼龍の頭部に罅が入り、殻が欠け鱗と血が周囲へと飛び散っていく。
しかし、男が与えたダメージはそれだけで終わり、鋼龍の勢いに押され、軽々と吹き飛ばされ後方の山壁へと叩きつけられた。男の口からは血が溢れ、砂漠色の鎧を赤に染め上げる。
満身創痍の男に対し、鋼龍は自身もダメージを負いながらも、悠然と宙に体を浮かせ、止めと言わんばかりに空気を体内に取り込んでいく。
何とかして逃げようとするが、喰らったダメージが大きすぎて、男の身体はまったく動かない。内臓が傷ついているのか、呼吸をする度に鈍い痛みが走り、口内に鉄の味が充満していく。男はギリリと軋む音がするほど歯を食いしばり、目の前の鋼龍を睨み付ける。最期の瞬間まで、その闘志を燃やさんとするために。
そして、鋼龍がブレスを吐こうとした瞬間、男の目の前は白く塗りつぶされた。
――――――鋼龍は知らなかった。自然界に生きた存在であるため、砕けた山壁から出てきたそれが何であるかを。
――――――男は気付かなかった。山壁に叩きつけられた瞬間、鋼龍のブレスで砕かれた箇所から出てきたそれに触れていたことを。
――――――鋼龍が男に止めを刺そうとした瞬間、それは眩いばかりの光を放ち、彼らの姿は、光の中へと消えていった。
……光が収まると、そこには苛烈な戦闘の跡はあれど、勝者の姿も、敗者の姿も見あたらなかった。
恋姫の二次創作、始めました。
正直戦闘描写上手く書けたか分かんないですけど、そこは温かい目で見てください。
ちなみに主人公の装備はディアブロX(龍風圧無効発動)と覇王剣クーネエムカムです。実用度よりもロマンと個人的な趣味で決めました。だってカッコいいじゃん、アレ。
ちなみにP2Gです。
あと、同じくハーメルンにて、ISのSSも書いてるので、そっちの方もよろしくお願いします!
それではまた次回!