真・恋姫†夢想~双魔の狩人~   作:D-ケンタ

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陳留の日常~その二~

「おじさーん!ご飯に行くっすー!」

 

光蟲の件で懐いたのか、曹仁は最近よくザイユのところに来ては遊んだり、一緒に食事をしたりしている。今回も妹の曹純と共に、その誘いに来たのだが……。

 

「すまん、遠慮する」

 

返ってきたのは遠慮と言う断り文句。これには二人も吃驚。

 

「ど、どうしたんですかザイユさん?体調でも悪いんですか?」

「いや、そういうわけではないんだが……」

 

グウゥゥウ~

 

といったところで、巨大な腹の虫の音が鳴ってしまう。これでは腹が減ってないというごまかしも出来なくなってしまった。

 

「……お腹、鳴ってるっすよ?」

「むぅ……」

 

人にもよるが、ハンターは総じて健啖家である。ザイユもその例に漏れないのだが、その彼が食事を遠慮するとは……何か理由があるに違いない。

 

「何かあったんですか?」

「うぅむ……実はな」

 

そう切り出して、ザイユは話し始めた。

 

――

―――

 

「ちょっとそこの貴方!」

「?」

 

丁度朝と昼の間くらいの時、いつものように農場として借りている中庭の傍らでザイユが武器の整備をしていたところ、急に声をかけられた。

気の強そうな声がした方に振り向くと、ぬいぐるみを抱えた金髪の少女が立っていた。

 

「あー、えっと……何の用だ?」

「何の用ですって……!散々城内の食糧を食べ荒らしておいて、よくそんな白々しいことが言えますわね!」

 

頭に?を浮かべて首を傾げるザイユ。それを見て少女はその端正な顔に青筋を浮かべ、さらに憤慨する。

 

「そんな顔をして、とぼけても無駄ですわ!貴方が来てからというもの、我が家の台所は火の車……どう責任をとってくれますの!?」

「いや、そんなこと言われても……曹操から許可はもらっているぞ」

「だまらっしゃい!例えお姉様は許しても、この曹洪子廉が許しませんわ!!」

 

激昂する少女―――曹洪を前に、さしものザイユもたじたじになる。

 

「えっと、すまなかった。ここの飯が美味くて、ついな」

「ふん!……貴方はお姉様の温情で当家に居候している身なのですから、少しは弁えなさい!」

「ああ、すまん」

「まったく、お姉様も何を考えているのかしら……」

 

そうブツブツ言いながら、曹洪は中庭兼ザイユの農場を離れていった。残されたザイユは、流石に無遠慮が過ぎたかと内心反省し、とりあえず装備と農場の手入れに戻った。

そしてお昼時になって、曹仁達がやってきたというわけである。

 

――

―――

 

「成る程、栄華ちゃんが……」

「ああ。という理由だ曹仁、すまんな」

「華琳姉ぇから許可は貰ってるのに、栄華も意地悪っすねー!」

 

曹純もそう思ったが、曹洪の言うことも理解できるのだ。何せザイユの食事量と言ったら、通常の兵士の倍程度では済まないのだから。詳しい量は分からないが、数日で一月分は消費しているだろう。これでは経理を担当している曹洪でなくとも文句を言いたくなる。

だがザイユは、夏侯淵らと共闘して、それまで領内にのさばっていたオオナズチを撃退した、いわば恩人ともいえる存在。おまけに謙虚な人柄である故、曹純をはじめ、誰もツッコめなかったのだが、我慢の限界が来た曹洪がザイユへ注意しに来た、というわけだ。

 

「そう言ってやるな。無遠慮だった俺が悪いんだ、暫くは手元の食料で何とかするさ」

「大丈夫なんですか?ザイユさん、料理とかできるんですか?」

「肉焼きセットがある。こんがり肉は結構腹持ちいいからな」

「は、はあ……」

 

それを料理と言っていいかはさておき、流石G級まで上り詰めただけあって、ザイユの肉焼きの腕前は確かだ。曹純たちもご馳走になったことがあるが、ただ丸焼きにしただけなのに何故か美味しかったのを覚えている。だが、だからと言ってそればかり食べていては体に良くないし、絶対足りなくなる。

 

「そういうわけだ曹仁。暫くは一緒に飯は行けん」

「むぅ~……それじゃあ寂しいっす!柳琳、何か言い案はないっすか?」

「え?!そ、そうですねぇ……」

 

急に言われてもそう簡単には案など出てこない。うーんうーんと曹純は頭を捻るが、やはりそれでも出てこない。

 

「せめて依頼でもあれば、食い扶持くらいは稼げるんだがな」

「まだ秋姉ぇのお手伝いしか、おじさんの仕事ないっすからねー」

「ああ。まあまだ信用が足りないだろうから、仕方ないがな」

 

いくら曹操のお墨付きとはいえ、陳留に来てまだ日の浅いザイユは、夏侯淵や目の前の曹仁たちぐらいとしかまだ交流がない。最近は夏侯淵の手伝いをこなしているからか、彼女の部下たちとは少し打ち解けたようだが……そもそもハンターに依頼するほどの事例が少なすぎると言うのも原因の一つである。

 

「あっ」

 

二人が会話しているうちに、何かを思い付いたのか曹純は手のひらをポンと叩いた。

 

「では単純な方法ですが、こうするのはどうでしょうか?」

「「?」」

 

一体何を思い付いたのだろうか。

 

〜数日後〜

 

「な、な、な―――」

 

曹洪は目の前の光景に絶句していた。

この日、彼女はいつものように仕事をしていたのだが、その最中に曹仁に無理矢理連れ出された。無論抵抗しようとはしたものの、勢いに流されてしまって、ここまで来てしまった。どうせ大した用事ではないだろうと思っていた彼女の目に入ってきたのは……。

 

「何なのですかっ?!これはっ!」

 

解体済みの獣の肉や毛皮等が、荷車に山積みにされている光景だった。それも一台や二台ではない。それらがずらりとそびえる様に並んでいた。

 

「ふっふっふ、どうっすか栄華?これ全部おじさんが取ってきたんすよ!」

「おじさん?……まさかあの男が?」

 

曹仁の言う通り、これらは全部ザイユがここ数日フィールドに出て狩ってきたものだ。何故そんなことをしたのかというと、数日前の曹純の提案によるものだ。

 

「柳琳が言ってたっす、おじさんの食べ過ぎで食料が無くなりそうなら、おじさんに直接獲ってきてもらえばいいって」

「柳琳さんが?で、ですが、本当にこの量をあの男が?」

 

確かに獲ってきた量はかなりのものだが、ザイユは村にいた頃、大型モンスターの狩猟だけでなくフィールドに自生する野草や魚、モンスターの肉やキモといった食材となる素材の納品依頼もこなしていた。

中には飛竜の卵の納品といった依頼もあった。それに比べれば正直楽な仕事である。

 

「へえ、確かにこれは凄いわね」

「お、お姉さま?!」

「あっ、華琳ねぇ!」

 

気付けばいつの間にか曹操もこの場に来ていた。彼女は目の前の光景に驚きつつも感嘆している様子である。

 

「これだけの働きを見せられては、認めないわけにはいかないわね。栄華?」

「ぅぅ……はい」

 

こうして、ザイユは無事食堂の利用権を得たのであった。

 

「やったっすー!そういえばおじさんは?」

 

ちなみにこの間、当の本人であるザイユはというと。

 

「……」グルグル

「あの、ザイユさん。いいんですか、農場(ここ)にいて?」

「依頼は終わっている。納品物に関しては、君にも確認してもらったから問題はない。……焼けたぞ、食べるか?」

「え、あ……いただきます」

 

農場で肉を焼いていた。その近くには曹純の姿もある。獲ってきた食材を曹純に確認してもらった後、ザイユは仕事は終わったと言わんばかりに農場へと戻ったのだった。

そして自分用に確保していた肉を焼いているという訳だ。いつも通りと言えばいつも通りだが……。自分の事なのに無頓着すぎやしないだろうか?

 

「……」ムグムグ

 

 

◇――――――

 

 

「……ふぅ」

 

練兵場の傍らでヘルムを脱ぎ一息つく。日課の鍛錬をこなしたザイユの額にはうっすらと汗が浮かび、疲労の色が見える。

 

「お疲れのようだな、ザイユ殿」

 

声をかけたのは夏侯淵。彼女もまた自身の鍛錬のため、練兵場で腕を磨いていた。

 

「慣れたことだ。お前も、随分熱が入っているようだな」

「オオナズチとの戦いで、自分の力不足を痛感したからな。姉者も同じだ」

 

そう言って自嘲するように笑った夏侯淵の視線の先では、訓練用の剣を振るう夏侯惇の姿があった。

 

「いつまたオオナズチが、もしくはそれに匹敵する化け物が襲ってくるか分からぬからな。もしその時が訪れたとして、無様を晒すようなことはしたくない」

「そうか……」

「だが、いくら鍛えたとしても恐らく無駄なのだろう。ザイユ殿?」

「それは……」

 

ザイユはそれ以上言えなかった。確かに夏侯淵の言う通り、いくら彼女たちが鍛錬を積んだとしても、モンスターに太刀打ちできない。その明確な理由を、彼女は理解していた。

 

「私たちの武器は人と戦うための物だ。あのような化け物相手では、通用しない。そうだろう?」

「……ああ、その通りだ」

 

自身の持つ弓を見ながら言ったその言葉に、ザイユは申し訳なさそうに目を伏せながら肯定した。

 

「小型モンスターであれば問題ないだろう。だが大型モンスター、特にオオナズチをはじめとした古龍には、余程弱いところを狙わなくては、虫が指した程度の効果しかないだろう」

「やはり、か」

「鉱石をふんだんに用いた武器であれば多少は通用するが、やはりモンスターを倒すにはモンスターの素材を使った武器の方が効果的だ」

 

もちろん、鉱石系の武器でもG級装備ともなれば高い効果を発揮するが、希少な鉱石を多く必要とするため、今の状況では現実的ではない。そもそも加工できる者がいるのかどうか。

 

「オオナズチの尻尾を加工できれば、完全とは言えないまでも、マシなものが作れるとは思うが」

「正直に言って、そちらも芳しくない。どうにか加工できないか調べてはいるが……」

 

通常の大型モンスターならともかく、古龍であるオオナズチの素材を加工するのは簡単ではない。

尻尾の解体はザイユが手伝ったお陰で、難なく終わっているが、そこから先はザイユも知識がないためどうすることもできない。

 

「よしんば加工方法が分かったとしても、素材はギリギリ足りるか足りないかだ。無駄使いはできんぞ?」

「分かっているさ。素材を集めるために、また戦うのは御免だ」

 

尻尾をまるごと回収できたお陰で、皮や尻尾といった素材、更にはメランジェ鉱石も確保することができた。しかし、近接のナズチ武器を生産するには、爪や角といった素材が必要であり、それらは今回、端材のようなものしか手に入っていない。

 

「安心しろ。その時は俺だけで行く」

「なんだと?お主正気か?」

「あの時は回復薬といったアイテム不足もあって苦戦したが、今回は農地を借りれたお陰で、次は万全の状態で挑めるからな。問題はない」

「ううむ、そうは言ってもだな……」

 

頼もしい台詞だが、夏侯淵もオオナズチの強さを知っているだけに、その厚意を素直に受け取るわけにもいかない。

そんな二人に近づく人影が一つ。

 

「おじさーん」

「徐晃か、どうした?」

 

ザイユが陳留の街を訪れてから、大分日が経った。そんなある日、夏侯淵達が連れてきたのが、この徐晃だ。

詳しくは省くが、なんやかんやあって拾われたとか。

そうして曹操の仲間になった徐晃だが、意外にもザイユに懐いている。その理由とは……。

 

「あれやってー」

「分かった。よっと」

 

あれ、とはなんなのだろうか?

ザイユは再びヘルムを被り、傍らに立ててあった大剣を手に取ると、徐晃のもとに向かう。

 

「じゃあ、いくぞ」

「うんー」

 

そう言ってザイユは手に持った大剣を振りかぶり、地面を抉るように下段から上段へと斬り上げた。

……徐晃目掛けて。

 

「フンッ!」

「わあぁー……」

 

刃を寝かせているので斬り裂くことはないが、ザイユの怪力で下段から斬り上げられれば、当然徐晃の小さい体は高く打ち上げられることになる。

みるみる内にその高さは延びていき、暫くして上昇が止まると、数秒の浮遊感の後重力に従って落下を始めた。

 

「よっと」ポス

「ふわぁ~」

 

地面に衝突する前に、落下地点に先回りしたザイユが徐晃をキャッチした。これがハンターであれば地面に落ちても平気だが、彼女はハンターではない。武人であるため鍛えてはいるものの、ザイユからしてみればまだ小さい子供に見える故、受け止めないわけにいかない。

いつまでも抱えてるわけにも行かず、そっと徐晃を地面に下ろす。

 

「満足したか?」

「もう一回」

「……分かった」

 

どうやら一回では足りないらしい。ザイユは大剣を振りかぶり、徐晃は再び空へと打ち上げられた。

なんでも彼女の夢が、鳥のように空を飛ぶことらしく、誰かからザイユが夏侯惇を打ち上げた話を聞いたのか、こうしてねだってくるというわけだ。

 

「あーっ!?香風ずるいっすーっ!おじさんあたしもー!」

「……」

 

その後は徐晃に加え曹仁も混ざってきて、大忙しなザイユであった。

 

「……ふふ。ザイユ殿もすっかり溶け込んだようだな」

 

そう呟いて、一人微笑む夏侯淵であった。

 

 

神の使いが降り立った。

民衆の間では、最近そのような噂が広がっている。戦乱の世を治めるために使わされたとか、現皇帝の霊帝が神の怒りに触れたとか、このような不遜な噂もまことしやかにささやかれている。

切っ掛けは、一人の農民だった。ある朝、雷の落ちる音で目が覚めたその農民は、確認に向かった先にある自分の畑で、その生物を目撃した。

純白の鬣を持ち、神々しく輝くその存在を。

突如として雷鳴が響き、気づいたらそれは姿を消していた。

それを聞いた商人や旅の武芸者達により、この話は広がっていったというわけだ。

その生物は一体なんだったのだろう?

雷鳴と共に現れ、幻の如く消えていく。

いつしか人はそれを"幻獣"と呼ぶようになった。

 

 




日常編はここで終了です。
次回から本編に戻っていきます。
最後に出てきたモンスターは、みんな大好きあのモンスターです。
どのような活躍をするのか、ご期待ください!!
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