真・恋姫†夢想~双魔の狩人~   作:D-ケンタ

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どんだけ間が空いてしまったのか……
とにかくちまちまと進めています


相対、感じる者

まだ夜も明けぬ頃。ザイユは賊討伐に向かう夏侯淵らに同行し、彼女の率いる隊の馬車に揺られていた。

 

「しかし、どういう風の吹き回しだ?お主が賊討伐に同行するとは」

「……」

 

夏侯淵の問い掛けに、ザイユは無言で空を見上げ、曹操とのやり取りを思い出していた。

 

――――――

 

「麒麟って、それは伝説上の生き物でしょう?」

 

ザイユからここ最近耳にする噂の正体について聞かされた曹操は怪訝そうな顔をしたが、それも無理はないだろう。

 

「キリンだ。こっちではどう扱われているか知らんが、お前が知っているのとは別物と考えたほうがいい」

「そうは言われてもね……」

 

彼女にとってキリンとは、礼記という書物に記された麒麟のことであり、それは瑞獣という神聖な生き物とされている。

その知識があるからこそ、キリンが出るかもしれないということの危険性がいまいちピンときていないのだろう。

 

「奴は古龍の中では小型の部類だが、その危険性は神出鬼没さと相まって、多くのハンターが犠牲になっている」

「確かに話を聞く限りでは危険な存在のようだけど、噂が出始めてから犠牲が出たという話は聞かないわよ」

「遠目で見るだけなら、奴も敵視はしない。だがもし、気が立っているときに遭遇したりしたら、確実に広範囲に被害が出る」

 

ザイユの話を聞いた曹操は口元に手を当てて、何かを考え込んでいるのか黙り込んでしまった。

 

「……貴方の話が本当なら、そのキリンにかかれば村一つ消すのなんてわけないってことよね」

「ついでにお前の部下達もな」

「そんなこと言わなくていいのよ!……分かったわ。ザイユ、貴方に依頼をするわ」

 

曹操はザイユに向き直ると、ビシッ!と指を指して彼に告げた。

 

「部隊に同行して、もしキリンがいた場合これを討伐、もしくは撃退して、街の人達及び私の可愛い部下達を守りなさい」

「構わんが、賊との戦闘には関与しないぞ。それに報酬はどうする?」

「賊に関してはもとよりそういう契約だから構わないわ。報酬は無事依頼を達成したら、貴方の望むものを授けるわ。そのほうが分かりやすいでしょう?」

 

ハンターギルドの依頼ではありえない報酬の決め方に、ザイユはヘルムの中で溜息を一つ吐いた。

 

「分かった。準備ができ次第、夏侯淵達に合流する」

「ええ。お願いね」

 

それからすぐに、ザイユは準備を整え、出発する直前の夏侯淵の隊に合流した。

馬車に乗り込んだ際、馬車の床板が悲鳴を上げていたが、それは関係のない話だろう。

 

――――――

 

と、このような事情により、本来は賊討伐などには関与しないザイユが夏侯淵達に同行することになった。

しかし、余計な心配はさせないよう、同行した理由については曹操の依頼のことはボカして伝えた。

 

「少し気になることがあってな。何もなければそれでいい」

「そうか。だが黄巾党はかなりの数だと聞く。お主の矜持は理解するが……」

「分かっている。確かにハンターとして人を斬ることは出来ないが、降りかかる火の粉を払うくらいは出来る」

 

そう答えたザイユを見て、夏侯淵は一瞬意外そうな表情をしたが、フッと短く笑うと「そうか」と一言だけ言ってその視線を馬車の進行方向へと向けた。

その後、これといった会話もしないうちに、目的地である街に到着した。

動きを止めた馬車から夏侯淵が降り、続いてザイユも降りようとしたのだが、何故か夏侯淵に止められた。

 

「ザイユ殿は、私が呼ぶまで待っていてくれ」

「何故だ?」

「……自分の格好を鑑みてくれ」

 

至極真っ当な意見である。ザイユの格好はいつものディアブロX装備一式に覇王剣クーネエムカム。街の人達に余計な威圧感を与えてしまうのは必然。ザイユは一人、馬車の中で待機することとなった。

 

「……装備の点検でもするか」

 

大剣とポーチを取り外し、一つ一つ点検していく。

回復アイテムや閃光玉などは、農場のお陰で必要な分は揃えられるが、今回に限って言えば不足していると言った方がいい。

 

(キリンに閃光玉は効かん。爆弾を作りたかったが、爆薬はおろか、原料の火薬草もニトロダケも入手できなかった。今回も厳しい狩りになりそうだ……)

 

ふぅ……とため息を吐きながら、砥石で大剣を研ぐ。この砥石は夏侯淵に頼んで調達してもらったものだが、多少研ぎ具合に違いがあるだけで、使い心地は変わらない。

研ぎ終わった大剣を立て掛けたところで、夏侯淵が馬車の幌を開けてザイユに声を掛けてきた。気付かぬうちに結構時間が経っていたらしい。

 

「街の者達への説明は終わった。紹介するから来てくれ」

「分かった」

 

大剣を背負い直し、馬車から降りて夏侯淵に着いていく。村人達の視線が突き刺さりながら少し歩くと、一軒の家が見えてきた。

先に入った夏侯淵に続いて中に入ると、「ヒェッ」という小さい悲鳴が聞こえてきた。声の方に視線を向ければ、眼鏡をかけた小柄な少女がもう一人の少女の背中に隠れていた。

 

「夏侯淵殿、そちらの御仁は?」

 

白髪なのか銀髪なのか、薄い髪色の少女が尋ねる。

 

「彼が先程話したザイユだ。今回はある目的があって着いてきたらしい」

「ある目的?」

 

訝しんだ目で彼女はザイユを観察するが、同時にザイユも彼女を観察していた。

動きやすくするためか、胸当てに手甲などといった最低限の装備に身を包み、露出している部分からは鍛え上げられた靭やかな筋肉が覗いている。

見るものが見れば相当な武人と思うだろうが、彼はモンスターハンター。

そこそこに鍛えている。ザイユが彼女に抱いた感想はそれだけだ。

 

「ザイユ殿。彼女達は義勇軍の者だ。何か聞きたいことがあれば、彼女達に訊くといい」

「分かった」

 

彼の短い返事を聞いた夏侯淵は、賊の襲撃に備えるため、仲間達の元へと向かった。

残されたザイユと彼女達の間には微妙な空気が流れたが、そんなのは気にせずザイユは彼女達へと話しかけた。

 

「夏侯淵から聞いてると思うが、俺はザイユ。ハンターだ」

「私は義勇軍の楽進と申します。こちらは李典と于禁」

(何や変なおっさんやな)

(そうなの。あんな鎧着てるなんて、絶対変わり者なの)

 

簡素な自己紹介を終えたザイユは、楽進以外の2名からの視線に気づくことなく、話を進めることにした。

 

「早速君達に訊きたい。この辺で……雷を操るウマ?が出たことはないか?噂でもいい」

 

ザイユの話を聞いた三人は少し驚いたように目を丸くし、それぞれ顔を見合わせる。

 

「それって、神の使い様のこと?」

「奴はそんな大層な存在じゃない」

 

于禁と呼ばれた少女の言葉を、ザイユはバッサリと否定した。しかしその言い方が気になったようで、今度は李典がザイユに向かって訊く。

 

「その言い方、何やソイツについてよー知っとるみたいやな?」

「まあな。同種だった場合、だが」

 

肯定するザイユの言葉を聞いた三人は、再び顔を見合わせ何やら小声で相談を始めた。

そして相談が終わったのか、楽進がザイユに静かな口調で話し始めた。

 

「丁度、昨日の話です」

「ふむ」

「私は賊の襲撃に備える為、修練がてら朝の見回りをしていました。そして丁度外周を一周し、そろそろ戻ろうとした時です」

 

無意識であろう、話しながら楽進は拳を握っていた。

 

「気配を感じ、振り向いた時には既に()()はいました。白く輝く馬体もそうですが、何より目を引いたのは……その額から生えた、一本の角」

 

ゴクリ。誰かの生唾を飲む音がやけに大きく聞こえる。

 

「どこから来たのか、そもそもいつの間に現れたのか。そんな疑問が出たのは、アレが雷に包まれ、姿を消した後でした。情けないことに、あの時私はアレの神々しさに目を奪われ、そして……その存在に恐怖し、動くことはおろか、考えることすら出来ませんでした」

 

拳をさらに強く握りしめながら、楽進は当時の心境を吐露した。この身一つを武器にし、己の武を高めている楽進にとって、悔しいものなのだろう。

 

「教えて下さい。アレは、一体何なのですか?」

 

尋ねた楽進だけでなく、李典と于禁も固唾をのんでザイユの答えを待っている。

 

「……話を聞く限り、ソイツは間違いなくキリンだ」

「麒麟……伝説の瑞獣の?」

「違う。確かに滅多に目撃されないが、キリンはそんな大層な存在じゃない。古龍種に属するただのモンスターだ」

「こりゅう?」

「モンスターって何や?」

 

後ろの二人が騒がしくなるが、ザイユは気にせず続ける。

 

「奴は雷を操る。おまけに気性が荒く、好戦的な個体が多い」

「それでは何故、あのキリンは私に何もせず、あの場を去ったのですか?」

「……恐らく、ほっといても問題はないと判断したのだろう。運がいい」

 

不意に、楽進の様子が変わった気がした。具体的に言うと先程までは自身の不甲斐なさに震えていたのが、今は怒りの感情が出てきているといった感じだ。

その証拠に、李典はあちゃーといった様子で額を抑え、于禁はあわあわしている。

 

「……ザイユ殿。あなたの考えでは、私ではそのキリンにとって脅威とならないから見逃された。そう言っているように聞こえるのですが」

「その通りだ」

 

アッサリと肯定するザイユ。それによって楽進の怒気が更に強まったようだが、そんなのは気にせずにザイユは更に続けて言い放つ。

 

「熟練のハンターですら、キリンに大怪我を負わされることもある。奴も古龍種だからな。無事を喜びこそすれ、相手にされないのを恥じることはない」

「だが!私にも武人としての誇りがある。恐怖に震え、情けをかけられたなど!」

 

語気を強める楽進に対し、ザイユの様子は変わらず、至って普通に立っている。

 

「お前の気持ちは理解できなくもない。だが相手は古龍だ。次は挑みかかろうなど、馬鹿なことは考えるな」

 

そう言い放ち、ザイユは踵を返してこの場を去ろうとする。だがそれに待ったをかけたのは、楽進を抑えた李典だ。

 

「ちょい待ち!おっちゃんはうちらにキリンっちゅー奴のこと聞いてどないするつもりなんや?ただの興味本位か?」

 

李典の問いかけにザイユは足を止め、視線だけを彼女達の方に振り向けてから答えた。

 

「キリンの出現に備える。キリンは神出鬼没だが、また現れないとも限らん」

「何やて?」

 

再びキリンが現れるかもしれない。その可能性に李典だけでなく楽進と于禁も目を見開いて驚いている。

 

「現れなければそれでいい。だがもしもの時に備えがないのでは、笑い話にもならん」

「そうかもしれんけど……つかあんた、キリンと戦うつもりなんか?」

「いや……戦うつもりはない」

 

「だが」と区切りを入れ、ザイユは三人の方に振り返ってから続きを言い放つ。

 

「奴を狩るつもりではいる」

 

その言葉に三人は言葉を失った。ザイユはキリンと戦うつもりはないと答えた。だが直後、キリンを狩るつもりだと言った。その意味が一瞬分からなかった。

 

「狩るって、あんた戦うつもりはない言うてたやないか!?」

「ああ、奴とは戦わん。だから狩ると言っている」

「同じ事やないか!」

 

楽進を抑えていたのはどこへやら、今度は李典が声を荒げてザイユに詰め寄った。

 

「戦いとは互いに敵意を持ち、倒し、殺し合うものだ」

「まあ、そうやな」

「だが狩りは違う。モンスターは脅威だが、同時に貴重な自然の恵みでもある。その為自然に感謝し、使える手は全て使い全力で挑む。それが狩りだ」

 

淡々と語るザイユ。楽進達は聞いてて何か感じるところがあったのか、静かに彼の話を聞いていた。

 

「……つまらない話をしてしまったな。ともかく、キリンが出たら俺に任せておけ」

「ま、待ってくれ!あの存在に一人で向かうなんて、恐ろしくないのか?」

 

その問い掛けは、実際にキリンを目撃し、その存在を間近で感じた楽進、彼女の心から出たものだった。

 

「そういう依頼だからな。俺はハンターだ。依頼があればこなす、それだけだ」

「だからといって……」

「それに、恐怖はある。自然への恐怖があるからこそ、同時に恵みへの感謝も生まれる。俺はそう教わった」

 

そう言うとザイユは話は終わりだと言わんばかりに再び踵を返し、この場を後にした。

三人は彼を引き止めることもせず、離れていくザイユの背中を見送っていた。

 

「ザイユ殿……あなたは……」

 

楽進の呟きに返す者は既におらず、静寂の中に消えていった。

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