真・恋姫†夢想~双魔の狩人~   作:D-ケンタ

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やっと書けました。



雷電

黄巾党を名乗る賊が確認された街に、本隊に先んじて救援に来た夏侯淵達は、黄巾党の襲撃に備える準備をしていた。

それと同時。キリンの情報を得たザイユは、キリンが現れた時に備えるため、彼女達とは別行動をしていた。

 

「む、これは……」

 

街の外を回り、キリンの痕跡を探していたザイユだが、ある場所に差し掛かった時、野草に白い毛が残っているのを見つけた。

調べようと手を伸ばすと、バチッと音を立てて弾かれた。

 

「帯電している、キリンの体毛で間違いないか……」

 

体毛が落ちていた周りを探る。するとやはりというべきか、キリンの足跡らしきものも見つかった。恐らくここで楽進がキリンを目撃したのだろう。

これ以外の痕跡は見つからなかったものの、それはザイユにとって想定内。何故なら、キリンは「健脚の古龍」とも呼ばれており、現実離れした行動力を有している。

 

(だが、遠くに行った訳でもないだろうな)

 

楽進の話によれば、キリンが現れたのは昨日の朝。楽観視はできない。

ふと視線を街の方へと向ける。その視線の先では夏侯淵の部下と思われる兵士達が忙しなく動き、賊の襲撃への備えを進めている。

ザイユはほんの少しだけその様子を眺めた後、再びキリンの痕跡を探し始めた。

興味がないのか、はたまた邪魔をしないようにするためか。ヘルムの奥で彼は何を考えているのだろうか。

 

「ザイユ殿」

 

ふと、声をかけられた。聞き覚えのある声だ。その人物が誰か察したザイユは振り返らずに返す。

 

「夏侯淵か。何のようだ?」

「いやなに、ただ様子を見に来ただけだ」

「そうか」

 

こちらを振り返らず、黙々と手を動かしながら返事を返す彼の姿に、夏侯淵はついため息を吐く。

 

「そっちの方はどうだ?」

「ああ、順調だ。これなら本隊到着まで持ち堪えられるだろう」

「そうか」

「……モンスターか?」

 

不意に問いかけられたその言葉に、流石のザイユも手を止めた。

 

「……気づいていたか」

「最初からな。お主が出撃に同行する理由なぞ、それ以外にあるまい」

 

ザイユはふぅ、と一息はいてから立ち上がり、夏侯淵に向き直る。

 

「同行が決まった段階では、可能性の話でしかなかった。だが楽進の話と、こいつが見つかったことで確信に変わった」

 

そう言ってザイユが差し出した手には、先程見つけたキリンの体毛が握られていた。

 

「これは?」

「キリンの体毛だ。昨日現れたと楽進が話していたから、その時のものだろう」

「キリン……以前お前が話していた、雷を操るモンスターか」

 

無言で首肯するザイユに、夏侯淵は呆れたような表情でため息を吐く。

 

「何故伝えなかった?」

「確証がなかったからな。いたずらに不安を煽るようなことはしたくない」

「今回の同行は、華琳様からの依頼か?」

「半分はな。もう半分は俺の意思だ」

「そ、そうか」

 

ザイユの返答に何故か夏侯淵は言葉を詰まらせ、一つ咳払いをしてから再びザイユが持つキリンの体毛について尋ねる

 

「しかし、この体毛は本当にキリンのものなのか?」

「触ってみろ」

 

言われるままその毛に触ると、バチッと音を立てて蒼白い電気が走り夏侯淵の手を弾く。

弾かれた手を抑えながら、驚いた表情で夏侯淵はザイユへと視線を向ける。

 

「な、何だ今のは!?」

「これが証拠だ。キリンは雷を操るため、体毛は抜け落ちてから暫くは帯電している」

「成る程……確かにこれ以上ない証拠だな。だが雷を帯びていることは言っておいてほしかったぞ」

「……すまない」

 

謝罪するザイユに夏侯淵は再びため息を吐き、然しザイユらしいと少しだけ口角を上げた。

 

「ところでザイユ殿。キリンの毛が落ちていたということは」

「……確証はないが、もし奴がここを縄張りの一部とみなしていた場合、戦いが始まればほぼ確実に現れるだろう」

 

ザイユから告げられた、これから起こりうる事態に夏侯淵は知らずのうちに奥歯を噛む。

 

「キリンは好戦的な古龍だ。もしそうなれば、下手をすれば敵味方関係なくかなりの被害が出るだろう」

「だろうな……分かった。もしキリンが現れたら、速やかに兵達を退かせよう」

「頼む。それと夏侯淵」

 

ザイユは一呼吸おいて、再び彼女へと告げる。

 

「キリンの相手は俺だけでする。お前も退避していてくれ」

「何?」

「勘違いしないでくれ。お前の腕前はオオナズチ戦で十二分に理解している。ただ今回は相性が悪い」

 

その言い方に怪訝そうな顔をする夏侯淵に、ザイユは説明を続ける。

 

「キリンは雷を操ると言ったが、それは比喩などではない。奴は雷を攻撃、防御に利用している」

「そこまで意図的に操れるのか!?」

 

驚き、目を見開いく夏侯淵。ザイユは彼女の問い掛けに首肯で返し、続きを話す。

 

「キリンからどれだけ離れていようとも、奴は狙って雷を落とす。予兆を完全に捉えられるなら別だが、そうでないなら手を出さない方がいい」

「むぅ……分かった。今回ばかりはお主に任せる」

「ああ。任せろ」

 

一言。とても短い一言だが、これがどれほど心強いかを彼女は知っている。

二人の会話はそこまでで、夏侯淵は部隊の指揮に、ザイユはキリンの痕跡の調査へとそれぞれ戻っていった。

再び一人になり、キリンの足跡を更に調べていくザイユ。数歩ほどある足跡の最後の痕跡は、他の足跡とは違っていた。

 

「跳んだか。この踏み込みの方角だと……」

 

跳躍痕から視線を移した先、街から離れた位置に森があるのを視認したザイユはそこへ向けて歩き出した。

途中地を鳴らすような音が聞こえたが、彼は一瞬も足を止めず、一目も振り向かずに歩み進む。

 

◇―――

 

森に入ったザイユは痕跡を探しながら、奥へと向けて足を進めていた。

森の中は草花が揺れる音すら聞こえてくる程静寂に包まれており、そのことがザイユの警戒心を強くしていた。

何故なら、鳥や獣といったものの気配が周囲からは全くと言っていい程感じられなかったのだ。

勿論、偶々そうだということもあるが、ザイユのハンターとしての勘が言っていた、ここには何かがあると。

周囲を警戒しながら更に奥へと進んでいくと、開けた場所へと出た。中心には池があり、近づいて確認してみると底が見える程澄んでおり、飲水としても利用できそうだ。

 

「少し休むか」

 

池の畔にしゃがみ、水をすくって飲み込む。スッとした清涼感が喉を通り、ザイユの乾きを潤していく。

その感覚に思わずため息を吐き、もう一すくいしようとしたところで、ザイユは動きを止め、瞬時にその場を飛び退いた。その瞬間!

 

ピシャァァンッ!!

 

先程までザイユが立っていた場所に雷が落ちてきた。咄嗟に避けたので無事だったが、あと少し動くのが遅ければ大きく負傷してしまっていただろう。

明らかに自然に落ちてきたものではない、気配を感じた方向に視線を向けると、そこにソレはいた。

 

「ブルル……」

「……出たか」

 

見上げる程の巨躯、全身を覆う迸る雷のエネルギーにより発光している白い体毛、そして何より目を引くのは、頭部から生えた一本の角。

"幻獣"キリンがザイユの目の前に姿を現した。

ザイユは視線をキリンへと向けたまま自然に大剣の柄を掴み、抜刀。キリンの方も既に臨戦態勢であり、森がざわつく程の緊張感が一人と一頭の間に奔る。

 

「―――っ!!」

 

張った糸が切れたかのように、状況は動き出した。キリンは大地を蹴って突進し、ザイユはそれを迎撃せんと踏み込み大剣を振りかぶる。

そして、両者が激突した瞬間、森が大きく揺れた。

 

 

ザイユが森に向かっている頃、襲撃に備える夏侯淵達曹操軍と義勇軍達。そこに偵察からの報せが届き、頭に黄色い布を巻いた軍勢、黄巾党が接近していると報告を受けた。

そして、それに間違いはなく、暫く後目に見える位置まで迫ってきたのを確認した彼女達は迎撃の体制を整える。

そして、戦が始まった。

 

「ちぃっ!分かっとったけど、こうも数が多いとかなわんな……!」

 

いつでも迎え撃つ準備と覚悟を決めていた彼女達だったが、それでもやはりこうもすぐに仕掛けてきたとあっては多少なりとも兵達は動揺してしまう。

 

「真桜ちゃんっ!大変なの!」

「何や、どないしたんっ!?」

 

そんな中、于禁が慌てた様子で李典のもとへと駆け寄ってきた。迫ってくる黄巾党の雑兵を蹴散らし、于禁の話に耳を傾ける。

 

「凪ちゃんが、どこかに行っちゃったの!?」

「な、何やてーーーっ!?」

 

その直後、街から離れた森に雷が落ちたが、戦場の喧騒に紛れ気にするものは少なかった。

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