真・恋姫†夢想~双魔の狩人~   作:D-ケンタ

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白き霊獣

「ぐっ!?」

 

ザイユの体が大きく弾かれる。なんとかバランスを取り、大剣を正面に構える。

彼の視線の先には、"幻獣"キリンがその頭角から蒼白い雷を奔らせていた。

そして、キリンが大きく嘶いて立ち上がると同時、ザイユは大剣を一度納刀してキリンの周囲を回るように走り出した。その直後、落雷がザイユを追うように地面を焼いていく。

 

「フンッ!!」

 

落雷が収まった瞬間、ザイユはキリンへ向かって一気に駆け出し、一気に抜刀。勢いを乗せた一撃をキリンの首元へと叩きつける。

しかし、振り抜かれた大剣はキリンの頑丈な皮膚によって阻まれ、弾かれてしまった。

その隙を突くようにキリンが角を突き上げてくるが、ザイユは地面を転がることで避ける。立ち上がると同時に大剣を横薙ぎに振り回し、キリンの頭部へと叩きつける。またもや弾かれるものの、流石のキリンも頭部に直撃を受けては堪らないようで、怯み唸り声を上げていた。

その間に体制を立て直し、再び大剣を振り落とす。キリンの角へと直撃した一撃は強烈で、ガキィンと甲高い音を立てたが角を折るまでは行かない。

 

「ヒィィンッ!」

「がっ!?」

 

追撃を加えようとするザイユをキリンは角を突き上げて弾き飛ばす。

防具によりダメージは抑えられたが、弾き飛ばされたザイユの体は地面を転がる。地面に指を引っ掛けることで無理やり止め、素早く立ち上がるがそこにキリンが真っ直ぐ突進してきた。

横っ飛びで躱し、キリンの振り向きに合わせて力を溜めた一撃を叩き込み、更に間髪入れずに下から斬り上げる。

大剣の重さとキリンの体重が合計されたとてつもない負荷がザイユの両腕にかかるが、ザイユは脅威の膂力でキリンを打ち上げ、キリンの巨体を吹き飛ばし地面へと倒れさせた。

そして、地面を転がって空いた距離を埋めると大剣を振りかぶって力を溜める。そして、力が限界まで溜められたことを知らせるように大剣の外殻が開き、マグマの如きラインが現れ、張り詰めた糸が切れたようにザイユは己が大剣をキリンの首目掛けて振り下ろした。

 

「ディイヤッ!!」

 

鈍い音が森に響く。振り下ろされた大剣はキリンの首に叩きつけられ、途轍もないダメージを与えた。その手応えに、ザイユはヘルムの奥で舌打ちを打つ。

普通のモンスター等であればこの一撃で仕留められただろうが、相手は古龍に名を連ねるキリン。頑丈で靭やかな皮膚に阻まれ、ダメージは完全に通らない。

 

「ブルィィン!」

「くっ!?」

 

暴れて起き出したキリンから咄嗟に距離を取り、それでも視線だけはキリンから外さずに警戒する。

キリンは起き上がると低く唸り声を上げ、その双眼はザイユを睨んでいるように感じられる。

 

「ヒィィンッ!」

 

大きく嘶いて後ろ足で立ち上がったキリンを雷が直撃した。その閃光に咄嗟に目を庇ったザイユが再びキリンを見ると、キリンの鬣が帯電し、青白く発光していた。更にはキリンの呼吸も荒くなっている。つまり、怒り状態だ。

 

「面倒だな。だが、やるしかない」

 

そう呟き、ザイユは大剣を再び構える。狩りはまだこれからだ。

 

 

次第に激しさを増していくザイユとキリンの攻防。その様子を離れた茂みから覗いく人影がいた。

 

「な、何だあれは……何故一人で戦える……?」

 

そう口に出したのは、こっそりとザイユの後をつけてきた楽進だ。

彼女はザイユが森に向かうのを目撃し、もしかしてと思い街を離れて彼の後を追ってきたのだ。

そして、彼女の予想通りザイユが向かった先にキリンは現れた。然し、眼の前で起きていることは彼女の理解を超えていた。

何せ落雷を躱したと思えば、あの巨体の突進を大剣の腹で受け止め、更にはキリンを斬り上げてふっ飛ばしたのだ。

これだけでザイユの実力を測るには十分であった。

 

(あの男からは武人のような気は感じない。だのにこの隙の無さは何だ!?一体どんな修羅場をくぐり抜ければ、あのような―――!?)

 

楽進が感じた通り、ザイユは武人ではない。ザイユはハンターとして、モンスターを狩り続けてきた。その数は十や百では圧倒的に足りない。その実践の数々が、ザイユの狩りの腕前を培ってきた。

そして、ザイユはキリンの狩猟も一度や二度ではない程経験しており、それによりキリンの動きをある程度予測した立ち回りを可能としていた。

何ら特別なことではない。ある程度経験を積んだハンターであれば当然のこと。然しそんなことを知るはずもない楽進にとって、キリンと相対しているザイユは何か得体の知れないもののように感じられた。

そのせいか、楽進がふと自身の手に視線を落とすと、その手は細かく震えていた。

 

(まさか、怖いのか私は……。いや、これは……!)

 

ぐっと握り拳を作ると、ジワッと手汗が吹き出ているのを感じる。

暫し目を閉じる。震えていたのは恐怖からではない。深く呼吸をし、再び目を開いたときには震えは止まり、彼女の眼はいつもの武人の眼へと戻っていた。

そして視線を戻した先で、ザイユがキリンの突進により吹き飛ばされたのが目に入った瞬間、彼女は茂みから飛び出した。

 

 

地面を蹴って転がりながらキリンの攻撃を躱し、隙をついて斬りつける。

単純だが、こと相手が古龍に名を連ねるモンスターとあっては、そう簡単ではない。

 

(やはり、コイツでは厳しいな)

 

加えて今のザイユの装備は覇王剣クーネエムカム。一撃の重さに特化した大剣であり、更には無属性であるためキリンを相手にするには向いていない。

本来なら装備を変えて挑むところなのだが、生憎ザイユは自身の他の装備全てを元居た村に置いて来てしまっている。

 

(だがダメージは通っている。ならば問題はない)

 

然しそれでも手が無い訳では無い。相性が悪かろうが攻撃を続ければ必ず倒せる。

だからこそザイユは僅かな隙を見逃さず、攻撃を続けている。

キリンの角が発光した。ザイユはすぐさまその場から転がって落雷を躱すが、立ち上がり体勢を立て直そうとした瞬間に飛び込んできたキリンの突進に反応できず、まともに受けて弾き飛ばされてしまった。

 

「ガアッ!?」

 

ザイユの体が地面を転がる。漸く止まり、立ち上がろうとした時には、キリンが再び雷を落とそうとしていた。

油断した、避けられそうもない。内心独り言ちるとこれから襲い来るであろうダメージに備え奥歯を食いしばる。

然し、結論を言えば雷が落とされることはなかった。

 

「ハアァァッ!!」

 

掛け声とともに楽進が飛び出し、キリンへと飛び蹴りを見舞った。

当然、その程度でキリンの体勢は崩れない。だが動揺はさせたのか、僅かだが落雷までの隙ができる。

それを逃さず、ザイユはその場から転がり、ギリギリで雷を躱すことができた。

 

「ザイユ殿っ!」

「すまん、助かった。だが何故ここにいる?」

 

駆け寄ってきた楽進に向け、視線をキリンへと向けたまままず先程の礼を伝えてから問いかける。

キリンも警戒しているようで、唸り声上げるだけで攻撃の挙動は見せていない。

 

「ここへ向かうザイユ殿の姿が見え、後をつけてきました。……無茶なお願いだとは分かっています。私も共に戦わせてください」

「その装備では危険だ。武器もなしに戦えるほど、奴は甘い相手ではない」

「それでも!私にの武人としての誇りがあります……このまま引き下がるなどできません!」

 

そう答えた楽進の目を見たザイユは、彼女の覚悟を感じ取ったのかそれ以上は何も言わず、キリンへと視線を戻して大剣を構えなおす。

 

「……奴の角が発光したら雷が落ちる前兆だ。見逃すなよ」

「ザイユ殿……!感謝します!」

「礼はいい……来るぞ!」

 

大きな嘶きと共に、キリンの角が眩い程に輝く。

二人はその場から咄嗟に飛び退き、落雷を躱すと楽進はそのままキリンへと向かい、ザイユは一度納刀してから駆け出す。

 

「ハアァァァアッ!!」

 

楽進の雄叫びが響く。

彼女が鍛えてきた武は、果たして幻獣を相手に実を結ぶのだろうか。

それを確かめる為、楽進は己の拳を振るう。

狩り場の空気が、今動き出す。

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