真・恋姫†夢想~双魔の狩人~   作:D-ケンタ

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新たな嵐

ザイユ達がキリンを撃退し、曹操達が黄巾党から街を守ってから数日後。黄巾党の拠点の一つを発見したと報告を受け、彼女達はその拠点制圧の為に出撃していた。

既に官軍に攻められていたのもあり、難なく制圧していく。

押収した糧食に関しては曹操の指示により全て燃やされ、その光景にザイユは人知れずため息を吐く。

そんな中、突然の知らせが曹操達の下へと届いた。

 

「沛の城が襲われたですって!?」

 

沛の国が黄巾党に襲われ、その救援を求めに兵士が曹操の下へとやってきたのだ。

ひとまずその兵士に休息を取らせ、曹操は家臣達とこの件の対応について話し始めた。

その際、何故陳留ではなく出陣しているここにあの兵士が来たのか疑問が上がったものの、沛の相である陳珪ならこちらの動きを把握していてもおかしくないのだとか。

そして、肝心の救援を出すかどうかだが……。

 

「反対です。我が軍は既に連戦に連戦を重ね、疲弊の極みにあります。何より行軍に必要なだけの糧食がありません」

「わたくしも桂花さんの意見に賛成ですわ。救出に向かうにせよ、一度陳留まで戻り、準備を整えてから改めて出直すべきかと」

 

荀彧と曹洪が救援に向かうことに難色を示した。

現在の曹操軍の状況を鑑みれば当然だろう。度重なる戦で兵は疲弊し、食糧も心許ない。いくらザイユが採ってこようとも、全員の腹を満たすほどの量にはほど遠いのだ。

故に彼女達の意見は正しい。しかし、一度陳留に戻ってから向かったのでは間に合わないのも事実。

 

「……なら、華琳様、お願いがあります」

「何?」

 

正直このままでは厳しい。だが捨て置くこともできない。頭を悩ませる曹操に、許褚が提案した。

 

「ボクを、沛国に行かせて下さい」

 

なんと許褚が単身で救援に向かうと言い出した。

当然反対されるが、本人は先の戦で一番最初に旗を立てたため、願いを叶えるという褒美を使うとまで言い出した。

 

「せめて、こちらに向かっている輸送部隊と合流して、補給を済ませてからでないと」

「それじゃ間に合わないかもしれないんでしょ! それに、その食べ物は街の人たちのものなんだから」

 

そう言ったところで、許褚の腹の虫が大きな鳴き声をあげた。

曹洪から説得されるも、空腹は我慢すればいいと言って聞かない。

どうするべきか、判断が曹操に委ねられた。その時だ。

 

「なら、俺も行こう」

「ザイユ?」

 

その発言には全員が驚いた。争いごとには無関心のはずのザイユが手を貸すと言ったのだ。

 

「先のキリン撃退の時、無断で楽進を借りた詫びだ」

「ザイユ殿、気持ちは嬉しいがお主一人加わったところで……第一、お主は人には手を出さぬのではなかったのか?」

「殺さなければ問題はない。駆け出しの頃は商隊の護衛や用心棒の依頼を受けたこともある」

 

心配する夏侯淵に対し、ザイユはそう返した。

しかし心配しているのはそこではない。大勢の軍勢を相手にザイユと許褚の二人だけでは無謀というのもおこがましい。確かに許褚はその身に合わぬ怪力を持っているし、ザイユの実力は疑うところもないが、数の不利というのは大きいのだ。

 

「……はぁ、仕方ないわね」

「華琳様?」

「ザイユ、あなたにそこまで言われては、私がこのまま黙っているわけにはいかないわ」

 

曹操は椅子から立ち上がると、この場にいる全員に向かって言い放った。

 

◇――――――

 

沛国の城。その一室にて一人の女性と少女が将軍からの報告を聞いていた。

報告が終わると、女性はその将軍を持ち場に戻すとため息を吐いた。

 

「……あれの本質が見えない者は、ただの烏合の衆と見誤るか」

「違うの?暴徒と賊が寄り集まっただけでしょ?」

 

女性―沛国の相である陳珪の言葉に、少女―陳珪の娘である陳登は疑問を口にする。

 

「……ええ。あれらには、あの黄色い布がある」

「それが……?ただの布だよね?」

 

ただの布。そう言った陳登に、それこそが連中にとっての正義の証であると、陳珪は語る。

 

「喜雨も、こんな事に巻き込んで悪かったわね。せめて、連中が城を包囲する前に逃がせればよかったのだけれど……」

「……土を触っていても、嵐が来ることはあるよ」

「そうね。……けれど、連中が城まで入ってきたら、覚悟を決めて頂戴。戦で虜囚となった若い娘は、不幸よ」

 

最悪の事態を想定し、陳登も覚悟を決める。そんな彼女に陳珪は一本の短刀を手渡した。

もしもの時は、これで自害をするつもりなのだろう。

 

「曹操様達、助けに来てくれないかな。……手遅れになる前には何とかしてくれるって、言ってたのに」

「こういう時のために貸しは作っておいたし、それを理解できない愚物ではないはずだけれどね」

 

間が悪すぎたか。そう思ったとき、城の外から声が上がっているのが聞こえた。

いよいよ大攻勢が始まったか。そう思ったとき、一人の兵士が報告に来た。

北方に新たな軍勢が確認できたらしく、陳珪が旗の詳細を問うと、その旗は曹操のものであると告げられる。

 

「もうここまで来たというの……?まさか……」

 

信じられないといった様子の陳珪。絶望的な状況に、光明が指した瞬間であった。

 

 

「斥候の兵、戻りました。既に沛城は最寄りの北門を始め、主要な門のいくつかが崩壊。黄巾党に城下への侵入を許しているようです。ですが、城に未だ陳の旗は健在。陳登殿は不明ですが、陳珪殿はまだ無事と思われます」

「どうやら間に合ったみたいね」

 

夏侯淵からの報告を受けた曹操は、自身の臣下達へと指示を出す。

 

「まずは城と、陳珪陳登親子の確保が最優先よ。その後に賊を捕らえ、暴徒どものつながりを暴く。これだけの規模の賊だもの、張角につながる手掛かりは必ずあるでしょう」

 

臣下達も動き出す。作戦としてはまずは落とされた北門を攻略し、その後各城門の支援に隊を分割。内外から攻撃を行い、門を攻める敵を殲滅するというもの。

 

「桂花にしては良い策だ!季衣もいけるな?」

「もちろんです!ご飯もお腹いっぱい食べましたから、いくらでも戦えますよーっ!」

 

夏侯惇に続き、許褚もやる気十分に返事を返す。

そして、頃合いと感じた曹操は全軍へと告げる。

 

「ならば、我が陳留の勇者たちよ!沛国を襲う脅威を蹴散らし、この地に平穏を。そして、我が国の農の希望を救出なさい!」

 

華琳の激励で銅鑼が高らかに鳴らされ、全軍から気合の声が上がる。

曹操は傍らに立っていたザイユの方に振り返る。

 

「ザイユ、あなたには北門攻略後、陳珪と陳登の救出をお願いするわ」

「分かった」

 

ザイユが頷いたのを確認した曹操は夏侯淵へと目配せする。

 

「総員、進撃を開始せよ!!」

 

夏侯淵の号令で、軍勢が鬨の声をあげて進軍を開始した。

 

 

流石というべきか、北門を大した被害もなく攻略した曹操達はそのまま城下町に侵入してきた賊の掃討に移った。

 

「はあああああああああああああああああああっ!」

「でりゃああああああああああああああああああ!」

 

夏侯惇と許褚の二人が無双の勢いで賊をなぎ倒していく。

その光景をザイユが見ていると、曹操が話しかけてきた。

 

「ザイユ。これから城に向かうから、あなたもついてきなさい」

「分かった」

 

頷き、彼女達の前にでて歩を進める。

進んだ先では未だ賊がたむろしていたが、ザイユに気づいた者はその姿に驚きと恐怖を感じ、後退りしている。

しかし、物陰に潜んでいた賊が飛び出し、ザイユへと襲いかかった。

 

「ザイユ殿っ!?」

 

夏侯淵が声を上げるが、その間に賊の凶刃がザイユを襲う。しかし。

 

「……」

「なっ!?」

 

ザイユは振り下ろされた刃を握って受け止める。その光景に賊達は信じられないといった様子で目を見開いていた。

襲いかかってきた賊は剣を抜こうとするが、びくともしない。そうしてる間に、ザイユが賊の顔面を鷲掴んだ。

 

「がぁっ!?」

 

そのまま持ち上げると、周りにいた賊に向かって放り投げた。

たむろしていた賊達は投げられた賊に巻き込まれてまとめて吹き飛び、近くの家屋に叩き込まれた。

 

「く、くそぉっ!」

「うおおっ!」

 

残っていた賊が、今度は二人がかりで襲いかかる。しかし、結果は分かりきっていた。

 

「フンっ」

「「がっ!?」」

 

振り下ろされた刀身を掴んで止めるとそのまま握り潰し、呆然とする賊二人の首を掴むと二人の頭同士を思いっきり衝突させる。

ザイユの力でそんなことをされれば当然、賊は目を回して気を失った。

 

「……行くぞ」

「……心配したのが馬鹿らしく感じるな」

「ふふ、頼もしいわね」

 

まるで何事もなかったかのようにザイユは再び歩を進め、その後ろに曹操達が続く。

そして、ザイユの存在に戦意喪失したのか、道中の賊達の制圧は非常に容易であったという。 

 

 

難なく道中の敵を制圧し、城にたどり着いた曹操とザイユ達は陳珪らと対面していた。

 

「来ていただけたこと、改めて礼を言わせていただきますわ、曹孟徳殿。……正直、間に合わないかと思っていたもの」

「同盟のよしみだもの。礼には及ばないわ」

 

すでに大勢は決しており、残りの黄巾党を制圧するのは時間の問題だ。

しかし、どうしてこうも早く来ることができたのか。陳珪の問いかけに曹操は進路上の街の役人たちから糧食を借用したと答えた。恩を傘に着て無理やり徴収したりはしてないとは言ったが、時間の短縮のためにザイユの威圧感(本人にその気はない)を利用したことは内緒だ。

 

「曹操……いえ、曹孟徳殿。ちょうど良い機会だし、お願いがあるの」

「これ以上何を求めるつもり?」

「ええ。……あなたとの同盟を解消させて下さらない?」

 

陳珪の突然の申し出にザイユを除いた全員が驚く。

何故かと言えば、同盟を解消し、豫州を曹操に預けるというのだ。

すでに曹操達にとって沛国と同名を結ぶ旨味はなく、更には曹操達が通り道で立ち寄った沛の県令達は、賊に好き勝手される陳珪を見限り曹操に乗り換えるつもりだと、陳珪や同行した荀彧は語った。

どうするか。回答を迫る陳珪に曹操が尋ね返す。

 

「なら……一つだけ答えなさい」

「何なりと」

「あなたの目的は、何だったの?私を刺史にまで引き上げ、自分の属する州を売り渡すような真似までして……あなたは、一体何を見ていたの?」

 

曹操の問いかけに、陳珪はいつも通りの素敵な笑みを浮かべたまま答えた。

 

「そうね……有能な後進に道を与えたかった、では駄目かしら?」

「おためごかしは嫌いよ」

「……なら、この地を守るための大樹が欲しかった、とでも言えば満足する?」

 

為政者としての誇りはないのか。そう聞かれて陳珪は平然とした態度で言った。

 

「この土地と民もろともに果てるのが為政者の誇りというのなら、そんなものはとうに捨ててしまったわね」

 

その覚悟の見せ方に、曹操も呆気にとられてしまう。

そして、外の制圧が完了したと知らせが入ってすぐ、曹操は陳珪の提案を受け入れることに決めた。

 

「……ところで、あなたが噂のお客人かしら?」

「……」

 

曹操が提案を受け入れてくれたことで安堵したか、陳珪の視線は次にザイユへと向けられた。

 

「ええそうよ。ザイユ」

「……ザイユだ」

「ザイユ殿、ね。以前遠目では見かけましたけど、こうして対面するのは初めてね」

 

曹操に促され、一歩前に出るザイユ。その威圧感に普通は気圧されるものだが、百戦錬磨の陳珪は物怖じしない。

 

「何でも曹操殿が頭を悩ませていた化け物を退治したとか。あなたがいてくれれば、もしかしたら……」

「ところで一ついいかしら。あなたのところの戦力なら、賊を撃退するなんてわけないはずでしょう」

「ええ。ですが私にも想定外のことが起こりまして」

 

想定外。頭に疑問符を浮かべる面々に陳珪は続けて話す。

 

「少し前。我が軍の兵が壊滅した村を発見しました。賊に襲われたというのはあまりにも酷く、まるで焼け野原のようだったと」

「焼け野原。確かに異質ね」

「捜索の末、やっと生存者を一人見つけて事情を聴くも、一言だけ言い残して事切れてしまったわ。化け物、とね」

 

その単語に曹操達の表情が強張る。

化け物。ザイユにより情報を共有され、モンスターの脅威を知る彼女達にとってはその単語は聞き逃せない。

 

「その言葉を信じたわけではなかったけど、警戒はしたわ。巡回を強化したりね。そしてある日、ある部隊が化け物と遭遇したと知らせを受けたわ。急いで軍を派遣したけど、時すでに遅く、部隊は壊滅した。その惨状は……口ではとても言い表せないわ」

「成る程。その被害のせいで、賊に付け込まれたということね」

「お恥ずかしながら、そういうことです」

 

陳珪の話を聞き、曹操はザイユに視線を向ける。

 

「……ザイユ」

「これだけでは断定できん。特徴は分からないのか」

「知らせに戻った兵から話を聞けば、その化け物は大きな二本の角と巨大な体躯を持ち、その雄叫びはとても恐ろしいものだったそうよ」

 

陳珪の説明にザイユは顎に手を当てて考え込む。しかし当てはまるモンスターの数は複数あり絞り込めない。

 

「他にはないか?体色や、翼の有無は?」

「え、ええ。その兵士もだいぶ錯乱していましたから」

「なら被害者の状態は?」

 

流石に酷な質問だと曹操が諌めようかと思ったが、何とか飲み込む。

詳しく知らなければ対策を立てられない。次に被害に遭うのは自分達かもしれないのだから。

 

「……被害に遭った者達の状態は、本当に酷かった。ある者はまるで踏まれた果実のように潰され、ある者は全身の骨が砕け、ある者は……誰か分からないほど焼け焦げていたわ。状態は違えど、原型を保っている者は誰一人いなかった」

「……成る程」

 

陳珪の話を聞きその場面を想像したのか、周りを見れば皆顔が青褪め、吐き気を催しているのか口を押さえている者もいる。

そんな中、ザイユは曹操へと向き直る。

 

「な、何よザイユ」

「大体目処がついた。早急に対策を練る」

「あなた、化け物の正体を知っているの?」

 

陳珪がザイユに尋ねる。ザイユは彼女に振り返ると淡々とした口調で話す。

 

「初めはディアブロスかと思ったが、奴は人を黒焦げにできるような攻撃手段を持たん。特徴と惨状からテオ・テスカトルの可能性も考えたが、生息環境や性格から奴ではない。なら残ったのは奴だけだ」

「それも、古龍とかいう奴なの?」

 

話を聞いた曹操がザイユに訊くが、ザイユは首を振って否定する。

 

「いや、奴は古龍ではない。だがその危険性は古龍に匹敵する。場合によっては古龍以上の被害をもたらすこともある」

「そんな……そんな化け物が現れたなんて」

「だから対策を練る必要がある。本当に奴なら、今の俺の装備ではかなり厳しい」

 

その発言に慄く曹操。話についていけないのか他の面々はその様子に困惑している者もいる。

 

「しかしそんな化け物が、何故今まで目撃されなかったのかしら?」

「それは奴の戦闘能力、そしてその凶暴性によるものだ」

「……つまり、それと遭遇したら、まず生きては帰れないと」

 

荀彧の推測にザイユは黙って頷くことで肯定する。

 

「それで、その化け物の正体は?」

「……奴には様々な異名がある。荒ぶる獣、猛き凶王、破壊の権化。だが奴を表すならこの名が一番だろう」

 

緊張からか、つばを飲む音が異様に大きく聴こえる。

 

「……金獅子。それが奴の異名だ」

 

新たな嵐が、三国の地に吹き荒れようとしていた。

 

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