真・恋姫†夢想~双魔の狩人~   作:D-ケンタ

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陳留の日常〜その三〜

沛国への救援を終え、陳留へと戻ったザイユは借りてる農場にて自身の手持ちのアイテムを確認していた。

 

(回復薬と閃光玉は数を揃えられた。ハチミツはなんとかなる。もっと言えば秘薬が欲しかったが、贅沢は言えんか)

 

アイテムのチェックを終えたザイユは、収納している簡易アイテムボックスを閉じると畑へと向かう。

そこには薬草などが植えられており、生命力の強いそれらは畝に所狭しと生えている。

横を見ればキノコの原木にアオキノコや赤いキノコが生えており、ザイユはその様子に満足気に頷く。

そのザイユの背後から近づく人影が……。

 

「よっすザイユはん。土いじりまでやるなんて、多芸やなぁ」

「お前は……李典だったか?」

「せや。ちょーっとあんさんに用があってな、付き合うてもらえるか?」

 

特に断る理由もないため、ザイユは李典に付き合うことにした。

一体何の用なのだろうか。彼女に着いていくと、とある部屋に案内された。

部屋の中には工具や様々な素材が転がっており、どこか工房のような雰囲気がある。

 

「ここは?」

「うちの作業部屋や。何を隠そう、うちはカラクリが好きでなぁ、自分で造ったりもしてんねん」

「ほう」

 

部屋の中を見渡すと、転がってる素材や工具とは別に、何やら彼女の製作物のようなものが立てかけられたりしている。

小型の大砲のようなもの。先端にかけて螺旋模様が描かれた特殊な形状の槍。他にもよく分からないものがこの部屋には置かれていた。

 

「まあ、今はうちの発明のことはええ。それよりおっちゃんの持ってる武具に用があんねん」

「……何故だ?」

「実は華琳様から、うちの発明の腕を見込まれて相談されてな。新しい強力な武具を造れへんかー、ちゅうもんやったんやけど」

「そうか。それと俺の装備に何の関係がある」

 

ザイユのその発言に李典はジトッとした目でため息を吐き、ザイユへとにじり寄ってきた。

 

「あんなーおっちゃん。忘れとるようやから言うとくけど、あんたがとんでもないバケモンがいるなんて話をしたのが原因やで」

「……あれのことか」

「せや。やからバケモン狩りを生業にしとるおっちゃんの武具を参考にすれば早いんやないかと思ってな」

「そうか」

 

李典の話に納得したのか、ザイユは背負っている覇王剣クーネエムカムを目の前の作業台の上に置いた。

 

「なら好きに見ろ。壊すなよ」

「わーとるって。心配せんといてーな」

 

手をワキワキさせながら、その目線はクーネエムカムを捉えて離さない。

そして李典はクーネエムカムを調べ始め、ザイユは隅に座りその様子を見守っていた。

しばらく経って……。

 

「……何や……何やねんこれ!ホントに剣か!?」

「……どうした」

 

頭を掻きむしりながら奇声を上げる李典にザイユが腰を上げながら尋ねる。

 

「どうもこうもあらへん!あんた、こんなもんどないして手に入れた!?」

「素材を集めて、加工屋に作ってもらったが?」

「……それがホントなら、その加工屋っちゅーのはとんでもない奴やな」

 

額に冷や汗を滲ませながら、李典は再び視線を作業台の上の大剣に向ける。

 

「パッと見ただけじゃあ、見た目がへんてこなこと以外は特別なとこは見当たらへん。せやけどちょっと触った途端、悍ましいほどの寒気が背中を奔りよった」

「……ほう」

 

話を聞きながら、ザイユは李典が大剣の素材元であるアカムトルムの気配を感じ取ったことに感心していた。

 

「この世のもんとは思えへん。この大剣、いったい何で出来てるんや?」

「……お前が感じ取った通り、コイツは覇竜アカムトルムの素材を用いて作られている」

「覇竜……そういえば華琳様もそないな話をしとったけど、正直ハッタリやと思っとったわ。けどこの感じ、どうやら本当みたいやな」

 

額の冷や汗を拭い、李典はザイユへと向き直る。

 

「なあおっちゃん。おっちゃんはもともと遠い地域から来たと聞いたんやが、そっちの武具の話、聞かせてはもらえへんか?」

「……門外漢だが、それでもいいならな」

「かまわへん。今は少しでも情報が欲しいさかい」

「そうか。なら駆け出しの装備から話そう」

 

そうして、ザイユは李典に狩り用の装備について、自分の知っていることを話した。

何故こうする気になったのかはわからない。今後襲い来るであろう脅威に対して少しでも対抗策として用意しておきたかったのかもしれない。

しかし、真剣な眼差しでザイユの話を聞く李典に、ザイユの口角はほん少し上がっていた。

 

◇――――――

 

ある時ザイユが農場の手入れをしていると、どこからか視線を感じた。

何かと振り向けば、物陰から少女がこちらを見ていた。

少女はザイユに見つけられると、物陰を離れてザイユの近くへと歩み寄ってきた。

 

「……君は確か」

「陳登。えっと……ザイユさん、だよね」

「ああ。何か用か?」

 

彼女、陳登は少しおずおずとした様子でザイユに尋ねた。

 

「その、畑をいじっているみたいだから、気になって」

「そうか」

 

一言だけ返すと、ザイユは横に一歩移動し、見てもいいと仕草で伝える。すると陳登は本当にいいのかと不安げな様子で畑に近づき、畝の様子を観察し始めた。

 

「これは、何の草?」

「薬草だ。多少の傷等なら治せるが、あっちにあるアオキノコと調合することで効果を高めることができる」

 

そう説明したあと、ザイユはポーチから回復薬が入った容器を取り出し、陳登へと渡す。

 

「調合した回復薬がこれだ」

「これが薬、なの?」

「ああ。これを飲めばある程度の外傷ならすぐに治る」

「……飲み薬なのに、外傷に効くの?塗るんじゃなくて?」

 

陳登の疑問にザイユは腕を組んで考え込む。

しばしの沈黙のあと、考えがまとまったのか顔を上げて口を開いた。

 

「……理由は知らん。だが飲めば全身の外傷が治る」

「えぇ……?」

 

納得できないといった表情になる陳登。それも仕方ない。ザイユの言う通り、回復薬は飲むことで効果を発揮するが、その原理は正直分からない。

飲んで消化器官で吸収することで薬効を全身に行き渡らせているという話も聞くが、詳しいことは分からない。

飲んで効果があるから良し。ザイユにとってはそれでいいのだ。

 

「じゃ、じゃあこっちの作物は?」

「それは―――」

 

その後もザイユは陳登に自身の農場について説明した。

初めて見る植物に陳登は目を輝かせていたが、薬草を初めとした生命力の高さには若干引いていた。

他にも農法についての話は特に興味深く聞いていた。

 

「……成る程、そんなやり方もあるんだね」

「ああ。君は、農業が好きなのか?」

 

ザイユの問いかけに、陳登は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに頷いて返答した。

 

「うん。今はどこもかしこも戦ばかりだけど……そんなことしてないで、皆で畑を耕せばいいのに」

「……」

「自分で畑を耕して、種を撒いて、育てて……採れた野菜を食べたら……それで心を満たされない、喜びを感じない人はいないと、ボクはそう思っている」

「……そうか、そうだな」

 

陳登の話を聞き、ザイユは頷き同意を示す。

二人は沈黙し、しばし静寂がこの場を支配した。

 

「……ザイユさん。ザイユさんは、遠いところから来たんだよね」

「ああ」

「その……そっちも、やっぱり戦ばかりなの?」

 

ジッと目線を合わせて問いかけてくる陳登。ザイユは近くの丸太に腰掛けてから答える。

 

「……いや。俺のいた地方では、俺の知る限り戦なんてものはなかった」

「そうなの?信じられない……どうして?」

「人同士で戦なんてする余裕がなかった、というところだろうな」

 

陳登が驚きの表情を浮かべながら隣に座る。この戦乱の世を生きる彼女にとって、戦がないというのは衝撃だっただろう。

 

「俺のいたところは、過酷なところでな。強大なモンスターが跋扈していた」

「も、もんすたぁ?」

「ああ。モンスターの中には、単体で村や街を滅ぼせる力を持つものもいる。そんな脅威が身近にいるんだ、戦なんてしてる暇はない」

 

モンスターの強さは種類によって様々だ。小型種であれば群れていればともかく、単体の脅威はそれほどでもない。

しかし大型種の脅威は小型種とは比べものにならない。強力な力を持つものが大半で、迎撃設備があり、多くのハンターが在籍している街ならともかく、小さな村々はその脅威に怯えながら暮らしているところも少なくない。

最近化け物により村が壊滅したという話を聞いていた陳登は、モンスターに蹂躙される場面を想像し、ブルリと体を震わせる。

 

「……怖いか」

「うん……ザイユさんは、怖くないの?」

「……俺はハンターだ。モンスターを狩る、それが仕事だ」 

「はんたぁ?軍人じゃないの?」

「ああ」

「その、ハンターがモンスターを倒すなら、軍はモンスターを相手に何もしないの?」

 

その質問にザイユは腕を組み、空を見上げてヘルムの奥で眉を顰める。

 

「そんなことはないが、少なくとも俺は軍隊がモンスターを討伐したという話は聞いたことがない」

「何それ」

「仕方ない。軍隊は基本人間を相手にするものだ。俺達ハンターとは違う」

 

ザイユの言う通り、ハンターと軍隊ではその目的が違う。それに、ハンターになるにはある種才能によるものが大きい。ハンターになれなかった者が軍隊に入ったという話もあるとか。

 

「……軍隊でも歯が立たない存在の脅威にさらされているおかげで、戦がない……でもそんな環境じゃ、畑を耕すことも、家畜を育てることもできないんじゃ……」

「その為に俺達が、ハンターがいる」

 

「それに」と区切り、ザイユは陳登へ視線を向けてから話を続ける。

 

「それに、モンスターというのは、確かに脅威だ。だがそれと同時に、大事な自然の恵みでもある」

「自然の、恵み」

「ああ。例えば草食種1頭から採れる肉の量はちょっとした村なら十分生きられるほどだ」

「そんなに!?でもそうだとしても、いずれは足りなくなってくるんじゃ?」

「いや、奴らの繁殖力は凄まじいからな。数頭狩った程度じゃ、数日で狩った時以上に増えている。もちろん、時期などによって狩猟管理はしているが」

 

陳登は言葉が出なかった。

それはそうだ。家畜としている豚で言えば、食肉にできるまで約半年はかかる。それが常識だ。

それなのにザイユのいたところでは、1頭でちょっとした村が飢えることないほどの肉が取れ、しかもすぐ増えるときた。

しかも話は戻るが、植物の繁殖力も強い。正直言って羨ましいどころではないだろう。

しばしザイユから自然の恵みについての話を聞いていた陳登は、変な疲労感を感じ空を見上げて呆けていた。

 

「……大丈夫か?」

「うん……でも、ちょっと頭痛いかも」

 

常識外の話の連続で、陳登の頭は知恵熱を発してると思えるくらい混乱していた。

しかし、陳登にとっては大事な話であったことも事実だ。

 

「自然の恵み、か。ザイユさんの話は、すごい興味深い」

「ああ。いいか陳登。自然は脅威だけでなく、様々な恵みを俺達に与えてくれる。中には極端に恐れ、征服すべきだという輩もいる。だがそんなことをすれば、自然の怒りに触れ、手痛い目に合うことになる」

 

その言葉に陳登の表情が変わる。

 

「俺たちも、いずれ自然へと帰る。だから忘れるな。自然とは共存するもの、そして恵みへの感謝を、決して忘れるな」

「……うん。絶対忘れないよ」

「そうか」

 

その一言を最後に、二人の間にしばしの沈黙が流れる。それを破るように陳登が立ち上がった。

 

「そろそろ戻るね。お話、聞かせてくれてありがとう」

「ああ」

 

そのまま歩き出す陳登。ザイユも作業に戻ろうとした時、陳登が振り向きザイユへと呼びかけた。

 

「あの、ザイユさん」

「ん?」

「また、お話聞かせてもらっても、いいかな?」

「……構わない」

 

その言葉を聞いて再び歩き出した陳登の表情には、笑顔が浮かんでいた。

そしてザイユは彼女を見送ると、再び農場の手入れを始めたのだった。

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