真・恋姫†夢想~双魔の狩人~   作:D-ケンタ

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説得、予感

大凡二十万の大軍勢が控える黄巾党の拠点。そこに近づく人影が一つ。

 

「……ん、何だ?」

「また合流希望者か……ってなんだコイツ!?」

 

驚く黄巾党の兵士。それも仕方ないだろう、なぜなら彼らの目の前にいるのは、彼らにとっては異形の鎧を身に纏った人物だったのだから。

 

「……張角達に会いに来た」

 

そう言ってザイユはさらに歩を進める。

事の発端はしばらく前、曹操に呼ばれたことに始まる……。

 

 

「黄巾党の拠点が分かった、だと」

「ええ。秋蘭のおかげでね」

 

話を聞けば、夏侯淵と徐晃が怪しい人物を捕縛したところ、それが黄巾党の連絡員で、集合場所が書かれた連絡文書を見つけたことで、検証と偵察の結果本隊を確認できたとのことだ。

そこには当然というべきか、張三姉妹の姿もあったそうだ。

 

「成る程。俺を呼んだのは以前話した件の事か」

「ええ。ザイユ、あなたには張三姉妹を説得し、投降するように促してほしいのよ」

「俺としても、彼女達が害されるのは看過できん。場所を教えてくれ、すぐに出る」

「そう急がないの。段取りというものがあるんだから」

「む……すまん」

 

彼女達の事で、少々焦ってしまっていたのだろう。曹操に止められたことでザイユは何時もの様子に戻った。

それから説明を受けたが、ザイユが説得に向かうのはいいが、近くに軍を控えさせるというのだ。

最善は彼女達を説得し、そのまま黄巾党全員も無血で制圧することだが、おそらくそれは難しい。そのため複数の状況を想定した策を、曹操達は用意していた。

仕方がないとザイユはそれを了承し、曹操達の準備が終わった後、共に出立した。

そして本隊の近くまで迫った時、曹操が陣を引き、ザイユの役目が始まる。

 

「行ってくる」

「気をつけよザイユ殿。お主の見た目なら我が軍の者とは分かるまいが、万が一がある」

「大丈夫だ」

「それに、この場には我々の他にも黄巾党討伐に赴いた軍がいる。なるべく急いでくれよ」

「ああ」

 

そう短く答え、ザイユは黄巾党本隊が控える陣地へと向かった。

 

 

そうして陣地に到着したザイユだが、見張りの兵士に刃を向けられて足止めされていた。

 

「ちょ、張角様に会いに来たって、てめえみてえな怪しいモン、通すわけねぇだろ!」

「いいからどけ」

「う、うるせえ!」

 

どくように言うが、兵士達は頑としてどかない。ちょっと考えれば勝ち目がないのは分かるはずだが、そこは張角への忠誠心故か。

埒が明かないと思ったザイユは、方法を変えることにした。

 

「なら、張角に伝えてくれ。ザイユが会いに来たとな」

「な、何だと?」

「急げ。無理やりどかしてもいいんだぞ?」

「―――っ!?お、おい!」

「わ、分かった!おとなしく待ってろよ!」

 

ザイユの圧により、ようやく兵士の一人がこの場を離れ、張角のもとに向かった。

そして待つことしばらく。先ほどの兵士が戻ってきた。

 

「お、おい、どうだった?」

「……張角様からのお許しが出た。ついてこい」

 

その言葉に残っていた兵士は目が点に成る程驚いていた。それをよそに、ザイユは戻ってきた兵士の後ろをついていき、張角達の元へと向かった。

途中他の黄巾党の人達からの視線が刺さったが、全て無視して歩を進めた。

そして、張角達がいるという天幕に辿り着き、兵士が一声かけると中から聞き覚えある声が聞こえ、兵士はこの場を下がりザイユは天幕に入る。そこには懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 

「……久しぶりだな、三人とも」

「ザイユさん……!」

「あんた、元気だったのね!」

「うわーん!ザイユさーん!」

 

張梁―人和と張宝―地和はホッとしたような、感慨深い表情を浮かべながら駆け寄り、張角―天和は泣きながらザイユへと抱きついた。

そうしてしばし四人は、久々の再会を喜んだのだった。

 

 

黄巾党の拠点から離れた地点で陣を引いた曹操。彼女は天幕の中でザイユからの知らせを待っていた。

 

「むう。ザイユからの知らせはまだか!」

「姉上落ち着け」

「……はぁ」

 

落ち着きがない夏侯惇を夏侯淵がなだめ、その様子を眺める曹操は小さくため息を漏らした。

 

「ザイユさんはうまくやってくれるでしょうか」

「今は彼を信じて待つしかないわね」

 

座して知らせを待つ曹操達。そんな彼女達のもとに突然の来訪者が現れた

 

「曹操はいるか!」

 

天幕の入り口が勢いよく開かれ、まるで燃え盛る炎のような雰囲気の女性が乗り込んできた。

 

「奴らを一網打尽にできる好機だというのに、合図があるまで待てとはどういう了見だ!まさか手柄を独り占めする気じゃねえだろうな」

「あなたは……もしかして」

「いきなりやってきて貴様こそどういうつもりだ!名を名乗れ、この夏侯惇元譲がたたっ斬ってくれるわ!」

 

一触触発の空気が流れるが、そこにまた新たな来訪者が現れた。

 

「あのー。曹操さんはこちらですか?」

「色々聞きたいことがあるのだけど」

 

新たに訪れたのは柔和な雰囲気でいかにも人の良さそうな桃色の髪の少女と、眼鏡をかけた武人然とした女性だ。

二人の登場に天幕にいた全員が視線を向けると、先ほどまでの一触触発の空気が少し和らいだ。

一方少女は夏侯惇と先の女性に交互に視線を向けると、気まずそうな表情を浮かべていた。

 

「……あのー、お取り込み中でした?」

「はぁ。まあ、ちょうどいいわ。全員ここに来た理由は同じでしょう。説明するから座ってちょうだい」

 

曹操に促され天幕を訪れた三人は曹操の正面に座る。

そして説明の前に簡単にお互い名乗りあったのだが、桃色の髪の少女が劉備、一緒に来た眼鏡の女性が皇甫嵩。そして一番最初に訪れた女性は孫堅と名乗った。

 

「やはり、あなたが孫堅だったのね」

「お前が小さい頃に会ったことあるんだがな。一丁前になったもんだ」

 

孫堅の言い方にカチンと来たのか夏侯惇が再び剣を抜きかけるがそこは夏侯淵が止める。

 

「それに皇甫嵩将軍も」

「久しぶりね曹操。早速だけど、先ほどあなたのところから飛んできた伝令について聞かせてもらえないかしら」

「その前に一ついいかしら。劉備とやら」

「は、はい!」

 

まさかの呼びかけにビクリとしながら背筋を伸ばす劉備。

 

「さっきから気になっていたんだけど、なんで猫を抱えているの?」

 

この場にいる全員の視線が劉備に向く。いや、正確には劉備が抱えているの猫に向く。

 

「えっと、この子は私達でお世話している子で、アーちゃんと言います。心細かったのでついてきてもらいました」

「ニャー」

 

一瞬にして場の空気が緩くなった。天然なのか狙ってやったのか、もし後者だとしたら……いや、彼女に限ってありえないか。

 

「ま、まあいいわ。それで伝令の件だけど、伝えたとおりよ。今私の客将が張角達のところへ説得に向かっているの。その結果次第では無血による制圧の可能性もあり得るわ。だから彼からの合図が来るまで、仕掛けるのは待ってほしいのよ」

 

曹操の話を聞いた三人の反応はそれぞれだ。腕を組んで目を閉じ思案する孫堅。顎に手を当て眉を顰める皇甫嵩。そして劉備はホッとしたような、安堵した表情を浮かべていた。

 

「事情は理解した。だがそう上手く行くものじゃあるまい」

「張角達の説得はできたとしても、配下の連中まで大人しくしてるとは思えん。それに時間が経てば奴らに感づかれる可能性もある」

「もちろんそれはわかっているわ。けどもし誤って張角達を傷つけてしまった場合、彼は私達に剣を向けるでしょうね。私にとってはそっちの方が避けたいのよ」

 

その言葉に孫堅が反応した。

 

「あの曹孟徳が恐れる人間か……そいつは一体何者なんだ?」

「そうね……我が領内を脅かしていた化け物を退治したと言えば、分かるかしら」

「あの噂になってる奴か……やり合ってみてえな」

「おそらく相手にされないと思うけどね」

「なんだと?」

 

先ほどとはまた違う意味で一触触発の空気が流れる。それを破るように劉備が口を開いた。

 

「あの、要するにその人の説得が成功すれば、戦わなくて済むかもしれないんですよね。でしたら私達は待ちます」

「劉備さん?……まぁ、あなたならそう言うわよね」

「いいのか?このままじゃ手柄は独り占めされるかもしれねえんだぜ」

 

孫堅の挑発ともとれる発言にも、劉備は変わらず毅然とした態度で返す。

 

「もしそうだとしても、無駄な血が流れないのであれば、私はそれでいいと思っています」

「……はん!とんだ甘ちゃんだな」

 

そう言うと孫堅は立ち上がり、天幕の出入り口へと歩を進めた。

 

「曹操、半刻だけ待ってやる。それまでにお前のいう合図が無かったらオレ達は、好きにやらせてもらうぜ」

「安心なさい。彼は受けた依頼は必ずこなす人間よ」

「フン、そうかよ」

 

そう言い残し、孫堅はこの場を去っていった。それに続いて、皇甫嵩と劉備も腰を上げる。

 

「では我々も失礼するわ。説得が成功するよう祈ってるわね」

「曹操さん、ありがとうございました」

「ニャー」

 

猫の鳴き声を残し、彼女達も自軍の陣地へと去っていった。それを見送った曹操は一つ呼吸を吐く。

 

「ふぅ……ザイユの方はどうなっているかしらね」

 

そう呟いた曹操は天幕の中からザイユが向かっていった方向を見る。

時間はあまりないが、ザイユからの合図はいまだ無い。

 

 

「モグモグ……ザイユさんと別れてから、モグモグ……大変だったんだから」

「もうほんと最悪よ!ムグムグ……軍には追われるしハグハグ……食料はどんどんなくなるし!」

「やっぱりおいしーモグモグ。ザイユさんおかわりー」

「……話すか食べるかどっちかにしろ」

 

三人の腹の虫が叫んでいたため、ザイユはポーチからこんがり肉を取り出し三人へと渡していた。

腹が減っていたのか、三人はこんがり肉を受け取ると一心不乱にむしゃぶりつきながら、今まであったことについて話した。

そして完食し終えるとようやく一息ついた。

 

「ふー、食べた食べた」

「お肉を食べたのなんて久しぶりね」

「美味しかったー。ザイユさんありがとー」

「気にするな……早速だが三人とも、話がある」

 

真剣な様子で話を切り出したザイユに、地和と人和も顔を引き締める。天和だけはよく分かってないようだが。

 

「今この拠点は多数の軍勢が包囲し、攻撃の準備を整えている。このままでは多数の死者が出るだろう」

「なんですって……とうとうこの時が来たのね」

「ど、どうすんのよ!?まだ死にたくないわよ!」

「お姉ちゃんもやだー!」

 

ザイユの言葉に、驚きながらも冷静な人和に対し、天和と地和は再び騒ぎ出す。

 

「落ち着け。今ならお前達が投降すれば、無駄な血が流れずに済む。俺はその説得に来た」

「え、そ、そうなの?」

「それなら安心だねー」

 

ホッとする二人だが、人和は未だ難しい顔のまま。

 

「……ねぇザイユさん。その話し方だと、ザイユさんはどこかの陣営から来たの?」

「……曹操のところだ」

「曹操……この宛洲を治めている……」

「じゃ、じゃあザイユさんは、ちぃ達を捕らえに来たってこと!?」

「ええ!?ザイユさんの裏切り者ーっ!」

 

更に騒ぎ立てる天和達を無視して人和とザイユは話を進める。

 

「ねぇザイユさん。ザイユさんの話は分かったけど、それで私達の安全は保証されるの?」

「当然だ。俺がそんなことはさせない」

「……信じるわ。じゃああとはどうやって抜け出すかね」

「?普通に出ればいいのではないのか」

 

ザイユの疑問に人和は首を横に振って答える。

 

「黄巾党は大きくなりすぎた。元は私達の歌を応援してくれる人達の集まりだったんだけど、今では私達を利用しようとする人達までも集まってきて……このまま捕まるのを良しとしない人達も多いのよ」

「そうか……」

「中には私達を大義名分にすすんで略奪行為を行う人達もいるし……完全に血を流さずには終われないでしょうね」

 

人和の言葉に少し頭を悩ませるザイユ。ハンターとして、戦争で人の血が流れるのはあまり気分のいいものではない。しかし、こればっかりはどうすることもできない。

 

「分かった。お前達に投降の意思があるなら問題はない。お前達に危害は加えさせないと約束する」

「ありがとう、ザイユさん。ほら姉さん達、準備するわよ」

「え、え?どういうこと?」

「ちぃ達助かるの?」

 

蚊帳の外で話をよくわかっていない二人に人和が説明すると、ザイユへと詰め寄った。

 

「ザ、ザイユさん、いざとなったら助けてくれるよね!?」

「ザイユさんはちぃ達の味方だよね!」

「当然だ。お前達に何かするなど、俺が許さん」

 

その言葉に二人の顔に笑顔が浮かぶ。

ふぅ、と一つ息を吐いたザイユはポーチから玉を一つ取り出した。

 

「俺は曹操達に合図を送ってくる。その間に荷物をまとめておけ」

 

そう言ってザイユは天幕の外に出る。幸い黄巾党の兵士の姿はない。ザイユは手に持った玉を振りかぶると思いっきり放り投げる。

放物線を描いて飛んでいった玉は天幕から離れた位置で地面に衝突すると、そこから白い煙が上がり始めた。ツタの葉と素材玉で調合したけむり玉だ。もし張角達に投降の意思があり、完全無血での制圧が不可能な場合はこれで合図することになっていた。

煙がしっかりと上がっていることを確認したザイユは再び天幕へと戻る。

 

「終わったか?」

「ちょ、ちょっと待って!あれとこれとそれとー」

「人和、ちぃのあの服どこしまったっけ?」

「姉さん達早くして。時間がないんだから」

 

いまだ荷物をまとめ終えてない天和と地和。その様子を眺めていると天幕の外から声がかかった。

 

「張角様!張宝様!張梁様!」

 

声からして黄巾党の兵士だろう。どうするべきかザイユが考えていると

 

「私が出るわ。ザイユさんは中で待ってて」

 

そう言うと人和は天幕の外に出て兵士に対応した。報告に来た兵士はさらに増え、人和はそのすべてに対応し指示を出すとようやく天幕に戻ってきた。

 

「どうした?」

「奇襲よ。各所から火の手が上がってるみたい」

「なんだと?動きが速いな……急ぐぞ」

 

二人を見ると荷物をまとめ終わったようだが、今の話を聞いてたのか二人の顔に不安の色が浮かんでいた。

 

「だ、大丈夫なの?本当にちぃ達助かるのよね?」

「ざいゆさぁん……」

 

泣きそうな顔の二人を安心させるため、ザイユは二人の頭を撫でる。

 

「心配するな。何があってもオレが守る」

 

頼りがいのあるその言葉に、二人の顔に再び笑顔が浮かぶ。

 

「行くぞ。ついてこい」

 

そう言ってザイユは三人を先導するため前を進む。

 

 

ザイユの合図があってすぐ。真っ先に黄巾党の拠点に攻め入ったのは孫堅が率いる軍勢だ。

 

「オラオラオラァッ!!」

 

凄まじい勢いで斬り込んでいく孫堅倒れていく兵士達を尻目に、自軍の軍勢に向けて叫ぶ。

 

「ハッハッハッ!いいぞ、焼けいっ!焼き尽くせっ!片っ端から火をかけよっ!!」

 

まるで悪役のような台詞だが、これでも彼女は孫呉という地を治める傑物なのだ。

血の気の多い彼女はその立場にも関わらず死地へと飛び込みその武を振るう、まさに豪傑である。

その活躍に彼女の兵達の士気はさらに上がっていく。

 

「ハァッ……!!」

「ぇやぁああああっっ!!」

 

孫堅に続き、目を見張る活躍を見せるのは黄蓋と程普だ。孫呉でも指折りの実力者である彼女達の周りには、いつの間にか立っている兵士は居なくなっていた。

 

「うむ……!粋怜、我らはここまでじゃっ!炎蓮様の退路をここでお守りするぞっ!」

「ええ!それにしても、よく燃えるわねー」

「冥琳が狙い定めた地点じゃからな。火を使わせたら、あ奴の右に出るものはおらん」

「ふふっ、ほんとにね」

 

強者ゆえの余裕か、戦場に似合わぬ雰囲気で話す二人。それも仕方ないだろう。彼女達にとってこの場にいる兵士達は手応えのないものであったのだから。

しかしそんな時だった。

 

「ん……?」

「何……?」

 

何かを感じ取った二人は同時に同じ方向を見る。当然、その方向には何もない。しかし、嫌な予感は未だ彼女達にまとわりつくように漂っている。

 

「いったい何じゃ……この感じは」

「冷や汗が出てきたわ……何か、来る」

 

血の匂いを嗅ぎつけたのか、はたまたただの偶然か。荒れ狂う暴風雨が彼女達の元へと近づいていた。

その衝突まで、あと僅か

 

「グルル……」

 

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