真・恋姫†夢想~双魔の狩人~   作:D-ケンタ

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金獅子襲来!

「それで、これからどうするの?」

 

天幕の外に出た時、人和がザイユへと尋ねた。

 

「この陣地の裏手を進んだところに曹操の部下がいる。奇襲の混乱に紛れて合流し、曹操の陣地へと移動する」

「曹操……ザイユさん、本当に大丈夫なの?」

「心配ない。彼女は信用できる人物だ」

 

信用できる。ザイユがそう言ったことで三人は少しホッとした。短い間だったが、一緒に行動したことでザイユの性格を三人は理解している。そのザイユが信用できると言ったのだ。ならばと彼女達はその言葉を信用し、彼のあとに続いて進む。

しかし、しばらく進んだところで、ザイユが急に足を止めて振り返った。

 

「ザイユさん、どうしたの?」

「ちょっと、なんで止まるのよ!?」

「待て……この感じは」

 

詰め寄る地和を制止するが、ザイユの視線はある方向に向けられたままだ。その視線の先では孫堅や曹操、劉備達の軍勢が黄巾党の兵士達を制圧していた。

戦が身近ではなかったザイユにとっては慣れない光景ではあるが、それが理由で足を止めたわけではない。

嫌な予感がする。ハンターとして活動していく中で身についた第六感が警鐘を鳴らしていたのだ。

そしてその予感の主は、間もなく彼らの前へと降り立つのだった。

 

 

「フン。手応えがねえな」

 

兵士達を斬り捨てながら、孫堅はそう吐き捨てる。周囲には彼女へと襲いかかり、返り討ちに遭った兵士達の屍が両手の指で数え切れないほど転がっている。

 

「まあいい。折角の一番乗りだ、もう少し遊ばせてもらうと―――っ!?」

 

突如孫堅の背筋に凄まじい悪寒が走る。周囲を見渡すが近くに悪寒の主は居ない。しかし気のせいで済ませられないほどはっきりと感じた。

 

「何、なんだ今のは……」

「炎蓮様っ!」

 

悪寒の正体について思考する孫堅のもとに黄蓋と程普が駆け寄ってきた。

 

「お前ら……感じたか?」

「はい、未だはっきりと」

「まるで纏わりつくように離れん。こんな感じはワシも初めてじゃ」

 

三人の周囲に緊張が走る。歴戦の猛者である彼女達にここまで警戒させるとは、並大抵の存在ではない。周囲では追いついてきた他陣営の軍勢と黄巾党が争っているが、この気配の主はいない。

孫堅達はその喧騒から切り離され、静寂さえ流れてるように感じた。それほどまでに恐ろしい存在が近づいている。

そして、それはついに彼女達の前に姿を現した。

 

ドグァアアアアンッ!!

 

激しい地響きと風圧、それにより舞い上がった土埃には孫堅達もつい顔を覆ってしまう。

 

「チッ!一体何が……!?」

 

起こりやがった。そう言いかけた時。

 

「ゴアアアアアアッ!!」

 

「―――っッ!?!?」

 

天を揺るがすような咆哮が響き渡る。その咆哮を耳にした瞬間、この場にいた人間は本能的恐怖により身体を強張らせる。孫堅達ですらビリビリと身体中が痺れたかのような錯覚すら感じるほどだ。

 

「―――そ、うか、コイツが」

 

次の瞬間、未だ収まらない土煙の中から人が飛び出した。……いや。()()()()()()()()()()()()()()と言ったほうが正しい。

しばし宙を飛び、地面へと衝突したそれらは、既に人の姿ではなかったのだから。

誰かの血の気が一気に引く音が聞こえるようにすら感じる。

やがて土煙が収まり、そこにいる存在が露わになる。それは、ぱっと見猿のような見た目だが、そんな優しい存在じゃない。

人の数倍はある巨躯。漆黒の体毛と見ただけで怪力だと理解できる剛腕。そして側頭部から真横に伸びる一対の巨大な角。本能のまま暴れるそのモンスターを、ある地域の人はこう呼ぶ。

―――【金獅子】ラージャンと。

 

 

ラージャンが降り立って間もない頃、土煙により視界が遮られる中でもザイユはその正体を察し、戦慄していた。

 

「馬鹿な……っ」

 

突然の乱入者に慄いているのはザイユだけではなかった。

 

「な、何……何が起こったの……!?」

「ふ、震えが止まんない……なんなの一体!?」

「だ、だいじょうぶ……おねえちゃんがついているから……」

 

天和達三人もラージャンの気配に当てられたか、恐怖に体を震わせていた。

今すぐにここを離れなければ彼女達が危険だ。しかしラージャンを放置することもできない。あれは見境なく暴れまわり、周囲を破壊し尽くすまで止まらない。

ザイユは僅かに考えたあと、彼女達へと振り返った。

 

「いいか。このまま行ったところに曹仁、楽進、于禁という者達がいる。彼女達と合流したら俺の名前を出して、安全なところまで連れて行ってもらうんだ」

「ざ、ざいゆさんは、どうするの……?」

 

天和の問いかけに、ザイユは無言で振り返るとラージャンが降りた地点に向けて歩き始めた。

 

「俺は奴を足止めする」

「そ、そんな!危ないわよ!」

「いっしょににげようよざいゆさん……!」

 

天和が止めようとするが、未だ足が震えて力が入らず、駆け寄ることもできない。

 

「気持ちは受け取っておく。だが俺はモンスターハンターだ。危険なモンスターがいれば、それを狩るのが仕事だ」

「そんな……そんなこといったって……」

「……分かったわ。人和」

「ええ。天和姉さん、行きましょう」

 

だがそこで、人和が二人の手を引きザイユが指示した方へと歩き始めた。

 

「ちょ、ちょっと二人とも離して!ザイユさんが!」

「このままじゃちぃ達も危険なんだよ!いいから行くわよ!」

「それに私達がいたら、かえって邪魔になるわ。今はザイユさんを信じて逃げましょう!」

「そんな……ザイユさーんっ!!」

 

天和の叫びをザイユは背中で受け止めながら、ラージャンが暴れている地点へと駆け出した。

その際、彼女達へと向けて小さく呟やきながら。

 

「……すまんな」

 

 

振るわれた剛腕を飛び退いて躱す。

 

「危ねぇ!」

 

当たりはしなかったが、その拳圧に孫堅の背中に冷たいものが流れる。

 

「食らったら一発だな……」

 

冷や汗を拭いながら目の前の存在を観察する。知性の欠片も感じない獣のようだが、その圧力は猪や熊などとは比べ物にならない。

まさに化け物と呼ぶに相応しい。

 

「この!」

 

ラージャンから距離を取った黄蓋が弓矢を放つ。名手である彼女の弓は真っ直ぐラージャンへと向かう。だが矢は確かにラージャンに命中したものの、その強靭な肉体には対人用の矢は刺さらず弾かれ、虚しく地面へと落ちた。

 

「馬鹿な……っ!?」

「グオアッ!!」

 

しかしそれを煩わしく思ったか、ラージャンは黄蓋へ向かって飛びかかった。

間一髪避けるが、後ろにいた兵士達はラージャンに恐怖し動けず、そのままラージャンに轢き潰された。

 

「はああああっ!!」

 

着地の隙を突いて程普が己の獲物を振るい斬りかかる。だがそれも黄蓋の矢と同じ結果に終わる。

 

「っ……!?なん、て硬さなの!?」

 

振り向きざまに叩きつけられる拳を躱しながら距離を取る。しかしラージャンは止まらない。今度は周囲で腰を抜かし座り込む黄巾党の兵士達、圧倒的な恐怖に身を強張らせる孫呉の兵士達へ向けてその拳が振り下ろされ、その巨体で飛び掛かる。

断末魔を発する間もなく、兵士達は地面を染める染料へと姿を変えていったのだった。

 

「何なのよ、コイツは……」

「祭、お前でも知らんか」

「儂もあんな化け物は聞いたこともありませぬ。炎蓮様、ここは退くべきです」

「そうしたいのは山々だが……どうやら奴は逃がす気ないみたいだぞ」

 

見れば周囲の兵士達を排除し終えたラージャンの視線は、彼女達へと向けられていた。

 

「散れっ!」

 

孫堅の号令に、三人がその場を飛び退くとさっきまで立っていた場所にラージャンが突っ込んできた。

 

「オラアアアアッ!!」

「セエエエエイッ!!」

 

返す刀で孫堅と程普が斬りかかる。先よりも力を込めたことで程普の刃はなんとかラージャンの皮膚を裂き、孫堅はその無双が如き力でラージャンの肉を斬り裂く。

しかしその程度でラージャンは止まらない。その場で旋回しながら拳を振り回し、それを避けるため孫堅と程普は距離を取る。すると今度は黄蓋が連続で矢を射掛け、飛んでいった矢は全てラージャンの頭部へと殺到する。

軽く角を振るった程度で矢を弾くとジグザグに跳ねながら黄蓋へと襲いかかる。

 

「何のっ!!」

 

飛びかかった隙をついてラージャンの下をくぐって躱す。しかしそのことで油断したのか、その次のラージャンのバックステップは回避しきれず跳ね飛ばされてしまう。

 

「があっ!?」

「「祭っ!?」」

 

幸い直撃は回避したため、運良くそこまでダメージを負わなかったのか黄蓋は何とか起き上がろうとする。

しかし、それに安心したり心配している暇はない。ラージャンが孫堅に向けて突進し、飛びかかると角を振るう。孫堅がそれを躱せば斬り掛かってきた程普を迎撃するように拳を振り回す。

 

「くっ!?コイツっ!?」

「暴れることで隙を無理やり潰してやがるっ!」

 

孫堅の顔が歪む。彼女の言う通りラージャンの動きには隙がある。だが無造作に振るわれた拳が彼女達にとっては必殺の一撃になりかねんのだ。

そしてラージャンはその顔を立ち上がったばかりの黄蓋へと向けると唸り声をあげて後ろ足で立ち上がったと思った次の瞬間!

 

「ゴアアアッ!!」

「なっ!?」

 

雷球を黄蓋へと向けて発射したのだ!

 

「避けろ!!」

「祭っ!!」

 

二人の叫び声が響く。しかしもう間に合わない。雷球は着弾し、雷の爆発を起こす。

これを食らっては生きてはいないだろう……直撃だったならば。

 

「……?」

 

衝撃は感じたが、自分が無事なことに違和感を感じた黄蓋が目を開くと、目の前に誰かが彼女の盾になるように立っていた。

 

「……間に合ったか」

 

そう呟くと彼は盾にしていた大剣を収納しながら、黄蓋へと視線を向ける。

 

「無事か?」

「あ、ああ」

「ならいい」

 

それだけを確認し、彼―――ザイユはラージャンへと向き直る。ラージャンも突如現れたザイユに警戒しているのか、唸り声を上げて観察しているようだ。

ザイユは背負った大剣の柄に手を添えながら駆け出す。ラージャンもそれを迎撃するように拳を振るうと、ザイユは勢いを乗せて大剣を抜刀し斬り掛かる。

ザイユとラージャン、ハンターと金獅子の軌跡が、この三国の地にて交差する。

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