真・恋姫†夢想~双魔の狩人~   作:D-ケンタ

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嵐が去った後に

ラージャンとクシャルダオラが去り、戦も終焉を迎えたことで一息つけると思ったのも束の間。各陣営は戦場の後始末に追われていた。

 

「ではそのように」

「はっ!」

 

兵士に指示を出し、曹純は天幕の中へと戻る。中には曹操達の他に馴染みのない顔ぶれも複数人確認できる。

 

「ご苦労さま、柳琳」

「いえ……まだ目覚めませんか?」

「……ええ」

 

曹操の労いの言葉に礼をした後、曹純は天幕の隅の方へと視線を向ける。

そこには負傷者用の簡易的な寝台に体を横たえているザイユの姿があった。クシャルダオラが飛び去った後、それまでのダメージや疲労のせいか糸が切れたように気絶して倒れ込み、夏侯淵らによってここまで運ばれてきた。

現在防具は一部を外され、露わになった素顔は目が閉じられたまま、いまだ目覚める様子はない。

その傍には曹仁達に保護された張三姉妹の姿もある。この状況に緊張しつつも、ザイユの看病をしている。

 

「ザイユさん……」

「あんな偉そうなこと言っておいて……さっさと目を覚ましなさいよ」

「……脈もあるし、呼吸も安定しているわ」

「分かった。とは言え、心配だな」

 

夏侯淵がそう言えば、彼の事を知る者全員が同じ気持ちであるような表情を浮かべる。

 

「一体何があったのか、詳しく話してもらってもいいかしら?」

 

そう言った曹操の視線の先。そこには彼女とは違う陣営の人間が座っていた。

 

「詳しくっつっても、正直オレもソイツから色々聞きてぇんだがな」

 

そうぼやきながら彼女、孫堅はあの時に起こったことをかいつまんで話した。

 

「黄巾党との戦闘中に大猿に乱入され、一時的にザイユと共闘したと……」

「ああ。そして最後に現れたアイツ……あれは一体」

「奴はクシャルダオラニャ。ラージャンだけでも手一杯だったから、あのまま去ってくれて運が良かったニャ」

 

顔を顰める彼女達へと説明する声が天幕の中で響く。

 

「ラージャンはザイユから聞いたことあるけど、そのクシャルダオラというのは?」

「風を操る古龍ニャ。全身が鋼鉄の鱗や殻で覆われていて、鋼龍という通称もあるニャ」

 

まるで創作のような話だが、この場にいる全員がクシャルダオラを目撃している。例え豆粒ほどにしか見えないほど距離が空いていても感じられる圧力は、その話を信じさせる程だった。

 

(鋼鉄の鱗……それってもしかして)

「風を操る鋼の龍、クシャルダオラ……またとんでもないのが現れたわね」

「あんなのはオレも初めてだ……というか」

 

そう言って孫堅は隣に座る劉備へと、正しくは彼女が抱えている存在へと視線を向ける。

 

「なんニャ?」

 

向けられる視線に対して疑問を口にするアーちゃんことアシュリー。その存在は正直異質そのものである。

 

「なんで猫が喋ってんだよ」

「確かに……いったいどこで捕まえたのかしら?」

「ボクは猫じゃないニャ!アイルーという種族ニャ!」

 

劉備の腕の中で憤慨するアシュリー。それを宥めながら劉備が質問へと答える。

 

「えっと、アーちゃん達とは義勇軍を旗揚げした頃に出会ったんです」

「ボク達は旦那さんを探してたのニャ。それで見つかるまで劉備さんのところでお手伝いしてたのニャ」

「お手伝いって……というか"達"ってことは、一匹だけじゃないの?」

 

曹操がそう言ったと同時、突然地面が盛り上がりそこから何かが飛び出した。

 

「ニャー!」

「猫が地面から飛び出してきた!?」

 

急に現れた白黒の猫はブルブルと身を振って土を落とすとアシュリーと同じように後ろ足だけで立ち上がる。

 

「アシュリー、旦那さんを見つけたというのは本当かニャ?」

「本当ニャ。そこで寝てるニャ」

 

アシュリーの指す方向を見てザイユを確認すると、一目散に飛びついた。

 

「旦那さん、ようやく見つけたニャ!」

「えっと、その子は?」

「ボクと同じ、旦那さんに雇われてるアイルーニャ」

 

ザイユに飛びついていたアイルーは曹操達の方へと振り返る。

 

「ボクはハンゾー、旦那さんのキッチンアイルーニャ」

「そしてボクはオトモアイルーのアシュリーニャ」

 

自己紹介するアシュリー達この場にいるほとんどの人間が開いた口が塞がらない様子。

唯一曹仁がハンゾーの近くにしゃがみ、頬の部分を突っついている。

 

「な、なるほど。その旦那さんというのが、ザイユのことなのね」

「そうニャ。狩りに出たまま行方不明になった旦那さんを探し続けて数ヶ月、ようやく見つけたのニャ」

「道中大変だったけど、旦那さんのことを思えばどうってことないニャ」

 

目に涙を浮かべながら語る二匹の様子にこの場がしんみりとした空気になる。夏侯惇なんかはつられて泣いているくらいだ。

 

「あなた達のことは分かったわ。ところで、クシャルダオラが現れてからザイユの様子が変わったと聞いてるんだけど、その理由も知ってるのかしら?」

「それは……」

 

曹操の問いかけに言い淀み閉口するアシュリーとハンゾー。

 

「あの様子はただ事ではなかった。いつものザイユ殿からは想像もできん」

「確かに、あの時のアイツが発していた殺気は凄まじかった。それまでと同一人物とは思えんくらいにな」

 

共闘した夏侯淵と孫堅からそのような証言が挙げられる。しかし二匹は困ったように顔を見合わせている。

 

「……以前、ザイユ殿が言っていた。自分達は自然の恵みを頂いて生きている。感謝こそすれ、殺意を持つなぞ以ての外だと」

「ボクも、ザイユさんから教えてもらった。自然とは共存するもの、恵みへの感謝を忘れるなって」

 

更に楽進と陳登が、かつてザイユが語った話を口にする。その話を覚えていたからこそ、楽進はザイユが殺意をむき出しにしたことが信じられない。故にその理由を知りたかった。

悩んでいたアシュリー達だったが、やがて意を決したように口を開いた。

 

「……旦那さんとあのクシャルダオラには、深い因縁があるのニャ」

「因縁?」

「そうニャ。旦那さんがいなくなったのも、あのクシャルダオラが関係しているのニャ」

 

ぽつりぽつりと語る二匹に、この場にいる全員が耳を傾ける。

 

「旦那さんにとって、あのクシャルダオラはどんな手を使っても討伐したい存在なのニャ」

「それは、何故?」

 

ゴクリ、と誰かが生唾を飲む音が聞こえる。

 

「それは……」

「奴が、仇だからだ」

 

理由を話そうとしたアシュリーを遮り、別の声がその続きを話した。

その声がした方向に全員が視線を向けると、ザイユがゆっくりと寝台から体を起こしていた。

 

「ザ、ザイユ殿!?」

「喋りすぎだ。アシュリー、ハンゾー」

「ニャ。ごめんなさいニャ」

 

申し訳なさそうに顔を伏せるアシュリーとハンゾー。曹操は、今のザイユの発言が気になったのか、ザイユへと問いかける。

 

「仇、と言ったわね。それは誰の?」

「……姉だ」

 

一瞬、天幕の中が静寂に包まれる。

 

「奴は、姉さんの仇だ」

 

そう語ったザイユからは、抑えようもない殺気が漏れ出ていた。

それに当てられた者もいたが、ザイユは周りの人達に構うことなく置いてあった防具を装着すると、クーネエムカムを背負い天幕の出口に向かって歩を進める。

 

「どこに行くつもり……まさか」

「クシャルダオラを追う」

 

その発言に驚かなかった者はいない。今の今まで意識がなかったというのに、クシャルダオラを追いに出ると言うのだ。

 

「待つニャ旦那さん!その状態で行くなんて無謀ニャ!」

「そうニャ!一旦傷を治してからでも遅くはないニャ!」

「そうしてる間に奴が姿を消したらどうする!探し続けて十余年、一度は逃したと思った奴が再び現れたんだ!逃がして、たまるか……ぐっ!?」

 

止めようとする二匹を振り払い、更に歩を進めようとしたザイユだが、当然というべきか未だに回復しきってはおらず、その場に膝をついた。

 

「旦那さん!?」

「しっかりするニャ!」

「ザイユ殿っ!」

「無理しないでください!」

 

アシュリー達とちょうど近くにいた夏侯淵と楽進がザイユへと駆け寄る。四人(二人と二匹)がかりでなんとか寝台へと座らせた。

 

「落ち着きなさい。その体では無理よ」

「曹操の言う通りだ。仇討ちと言ってたが、そんな状態では返り討ちにあうのがオチだ。姉のもとに行きたいってんなら別だがな」

 

曹操と孫堅からそう言われ、ザイユは反論できずに閉口し顔を俯かせる。先ほどとは違い、今のザイユからは底しれぬ悲壮感が溢れていた。

そんな彼に向けて、劉備が話しかける。

 

「えっと、ザイユさん。アーちゃん達、いなくなったあなたを探すためにすっごい頑張ってたんです」

「……」

「この子達いつも言ってました。旦那さんはどんな状況でも帰ってきた。必ずどこかで生きてるはずだから、絶対見つけ出すって」

 

劉備の話を聞き、ザイユは二匹を見る。アシュリーもハンゾーも、その目からは彼を心配しているのが伝わってくる。

 

「事情があるのは理解しています。だけど、あなたをずっと探していたこの子達の気持ちも汲んであげてもらえませんか?」

「……」

 

ザイユは再び無言で俯く。その姿からは自身の目的とアシュリー達との間で揺れる葛藤が見て取れる。

 

「……そう言えば、ザイユさんのこと聞いたことなかったね」

 

ふと天和はそう呟くと、俯いているザイユの前にしゃがむと彼の手を握って話しかける。

それにザイユが顔を上げると自然と彼女と目が合う。彼女の表情はとても優しく、彼にとって心地よく、そして眩しいものだった。

 

「ザイユさん。よかったら教えて、あなたの事を」

「天和……」

 

彼女の願いに、ザイユは無言で頷く。そして少し間を置いてから、ポツリポツリと語り始めた。

決して忘れることのない、彼自身の過去を。

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