宿に着いた後、ザイユは備え付けの椅子に腰かけ、防具の留め具を外しながら、道中の事を思い出していた。
(見たことのない街並み、そして聞いたことのない国……)
宿に来るまで、張角、張宝、張梁の三人からこの場所について色々と話を聞き、ザイユは一つの結論を出した。ちなみにその三人は、ザイユを宿に連れてきた後、食事へと出かけた。張角はザイユのことが気になったが、本人から促され、二人とともに宿を出た。
(どうやらかなり遠いところまで流されたようだな……)
ザイユの最後の記憶は、雪山の頂上近くの狩り場にて、対峙していたあるモンスターがブレスを放つ直前で途切れている。
そこで気を失い、ブレスによって雪山から川へと落ち、そのまま流されたのだろうと推測した。
それにしてはダメージが少ないことに違和感を覚えたが、あの三人が応急手当てでもしてくれたのだろうと、あまり気には止めなかった。
「よ……っと」
まずは頭の防具を外し、膝の上に置く。首を捻ると、ゴキゴキと音が鳴ったが特に問題はない。
次に腕、胴と、上半身の防具を外していき、その下の筋骨隆々の肉体が露わとなる。
(楽になった……怪我の具合は……)
落ち着いたところで、自身のダメージを確認していく。まずは両腕。血管が浮き出ている逞しい両腕だが、その表面には亀裂のような傷ができており、一部の血管が破裂したのか赤黒く染まっている。傷は既に塞がっているため、動かす分には問題ないが、力は強く入れられない。
続いて胴。肋骨が折れ、内臓が傷ついているのか、回復薬のおかげでマシにはなっているが、呼吸をする度にまだ若干の痛みはある。
(頑丈なディアブロX装備でもこれか……)
ザイユは椅子から立ち上がり、腰、足の防具をも外していき、同じようにダメージを確認する。
脚の方は大したことなく、骨折はしていないみたいだが、両足も腕と同じような傷と赤黒い色合いになっていた。
(いつものことか……とりあえず、道具のチェックを)
「ただい―――きゃあっ!?」
声のした方を見ると、部屋の扉が開けられており、そこには食事から戻った張宝が立っており、その後ろには張角、張梁の姿もある。
「あああ、アンタ!?何て格好してるのよ!?」
「す、すまない……」
よく見ると三人とも顔を赤くしている。確かに今のザイユの格好は防具の下に着けるインナー一丁であり、若い女性に見せる格好ではない。
「さっさと着替えてよね!!」
そう言うと張宝は扉を閉め、ザイユは出来る限り急いで脚と腰の防具を付ける。
「……もういいぞ」
それを聞いた張宝は、扉を少しだけ開けて確認する。大丈夫だと思ったのか、扉を完全に開けて他の二人とともに部屋に入る。
「もう、ホントにびっくりしたじゃない!」
「今の格好もあれだけど……」
「……すまない」
もといた所ではインナーだけですごす者も多かったため、感覚が麻痺していたかもしれないと、ザイユが反省していると、自身をじっと見ている視線に気づいた。
「じ~……」
「……どうした?」
いつの間にか近くに来ていた張角がザイユの顔を覗き込むように見ていた。
「顔が隠れてたから分からなかったけど、ザイユさんって結構カッコいいなー、と思ってー」
「?そうか?」
張角の発言に、ザイユは首をかしげ、張宝と張梁は呆れた顔でため息をついていた。
「……それで、傷の具合はどうなの?」
「ああ。一応塞がってはいる。あとは休めば治るだろう」
「よかったぁ~」
張梁の一応ともいえる心配の言葉に、大事無いと返答する。確かに流血などはしていないが、しかしその見た目は前述の通り痛々しく、張宝なんかはそれを確認してしまったのを後悔したほどだ。
(休めば治るって、どんな体してんのよ……)
「ザイユさんは、これからどうするのー?」
「……さあな。どこか落ち着ける場所で、またハンター稼業でもやるさ」
「ねえ、気になってたんだけど、そのはんたぁ?って何をするのよ」
丁度いいとばかりに張宝は疑問を口にする。ザイユは一瞬首をかしげるも、質問に答える。
「まあ、依頼を受けてモンスターを狩ったり、採集に行ったりと色々だな」
「もんすたぁが何かは分からないけど、つまり便利屋って事ね」
「……まあ、な」
あながち間違いでもないため、否定できずに肯定する。そして、何故ハンターやモンスターのことを知らないのか、といった疑問がザイユの頭に浮かんだ。
(まあ、地域も違えば、呼び方やらなんやら違うだろうしな)
と、一人結論を出して納得した。意外にも細かいことは気にしない性格らしい。
「君たちはどうするんだ?旅芸人と言っていたが、他の街へ行くのか?」
「そうね、明日の朝にはここを発つわ」
「きみたちだけでか?危険じゃないのか?」
「確かに危険だけど、もう隊商に乗せてもらうお金もないからね」
世知辛い世の中であるりそれを聞いたザイユは、彼女達に一つの提案を出した。
「なら、次の街まで俺が護衛をしよう」
「「えっ!」」
「いいのー?」
「ああ。助けてもらった礼もまだだしな」
張角はその提案を素直に喜んだが、他の二人は少し困惑気味だ。
(ど、どうするのよ人和?あんなのについて来られたら、ますます人が来なくなるんじゃ……)
(そうかもしれないわね……でももし賊とかに襲われたら危険だし……)
「よろしくねザイユさんー」
「ああ」
二人の心配をよそに、既に話は終わってしまっている。
その後、流石に同じ部屋で寝るのは憚られたのか、ザイユは部屋の外で眠り、張宝と張梁の二人は姉を説得するのを諦め、早めに床についた。
――――――
「ザイユさん、準備できたー?」
「ああ。大丈夫だ」
翌朝、ザイユは自身の装備を軽く点検してから身につけていき、張角に呼ばれた時には昨日三人と出会ったときと同じように全身を重厚な防具に身を包み、背に大剣を背負っていた。
「相変わらず凄い格好よね、それ」
「化け物に間違われなければいいけど」
「よ~し、それじゃあ、次の街にしゅっぱーつ!」
懸念する妹二人をよそに、張角は高らかに号令をかけ、四人は街を発つ。
◇
道中、ザイユは三人からこの地域について更に詳しく話を聞いた。しかし、聞き慣れない言葉が多く、完全には理解できなかった。
(要約すると、この地域は村や狩り場等は国が管理し、ギルドは存在してないってことか……)
どれだけ遠いところに来てしまったんだ。そう胸の内でため息をつく。
しかも複数ある国は一枚岩ではないらしく、よく旅人や商隊を狙い、山賊等が出没するなど、危険が絶えないらしい。その事にザイユは更にため息をつく。
「あーもう!何でこんな道通らないといけないのよ!?」
「しょうがないじゃない。地図によるとこの森を通るのが近道なんだから」
四人は今、森の中の道とは言えない道を歩いている。ザイユは慣れているからいいものの、慣れていない三人は辛そうだ。
「ねえ~、一回休もー?お姉ちゃん疲れたー」
「もう、天和姉さん我慢して」
バッサリと休憩の要求を切り捨てる張梁。確かに早めに森を抜けなければ危険ではあるが……。
「……む?」
その時、ザイユの第六感が何かを捉えた。視線は茂みの先、そこには何もいないように見える。
「?どうしたの?」
「……下がっていろ」
三人を自身の後ろへと促した、次の瞬間!
「ブルルルルゥゥ」
「「「ひぃっ―――!?」」」
(……ブルファンゴ、か?)
茂みから立派な牙を生やしたイノシシが出てきたのだ。それは目に見えて興奮しており、今にも襲い掛かってきそうだ。
「い、イノシシ……」
「あ、アンタ!早く何とかしなさいよ!!」
「ああ……任せろ」
チャキ。ザイユは大剣の柄を握ると、身体を半身に開く。
「ブモオオオオッ!!」
「「「き、来たぁー!?」」」
雄叫びを上げてイノシシは四人に向かって突進する。張角たちは腰を抜かしたのか座り込み、ザイユはまだ大剣を抜かずにいる。そして、あと僅かで接触する……その瞬間!
「フンッ!」
ズダンッ!!
ザイユは背中から大剣を一気に振り抜き、突進するイノシシ目掛け振り下ろした。あわやイノシシは衝撃によりその身体を地面に沈めるように潰され、中心から圧し斬られて真っ二つとなった。
「……終わったぞ」
「え、もう?」
「ああ……さて」
ザイユは大剣をしまうと、腰から小ぶりの刃物―――剥ぎ取り用ナイフを取り出し、イノシシの死骸に近づくとその身の解体を始めた。
「うぷ……!」
「……天和姉さんは、見ない方がいいわ」
「なになにー?なんで目隠しするのー?」
その様子に二人は吐き気を覚え、唯一張梁に目隠しされた天和だけが無事だった。
その後、疲弊した三人は休息をとることにし、落ち着けるところまで移動した。ザイユは解体した素材と肉を腰の道具入れ―――アイテムポーチに入れ、三人の後ろをついて行く。
卒論も終わって、ようやく落ち着けるようになりました。
ザイユの認識として、違う世界に来たとかではなく、自分の知らない遠い土地に来たという認識です。モンハン世界に並行世界とかそういった考えはないと思いますので、そのほうが自然かなーと。
それでは次回も、よろしくお願いします!